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Loyal Tomboy  作者: EN
第四話「涙の理由+」
69/245

04-16:○ディップ・メイサ・クロー[15]

第四話:「涙の理由+」

section16「ディップ・メイサ・クロー」


(チャンペル)

「敵戦車隊部隊車列後方で大きな爆発を確認!!かなり大きいです!!」


(カース)

「リスキーマ!!映像急げ!!」


(リスキーマ)

「拡大映像メインモニターに出力します!!」


深緑を着飾った広大な台地上に横たわる、南北に伸びた細いメイサ渓谷内で、激しい戦闘が繰り広げられる最中にあって、突然その巨大な火柱が立ち上ったのは、彼等が雲下に舞い降りてから20分が経過した時だった。


それまで、帝国軍の地対空車両ライパネルの射程範囲外ギリギリの空域を漂い、じっと戦況の成り行きを見守っていた彼等の動きが、にわかかに慌しさをかもし出す。


そして、徐に指揮官席から立ち上がった若い司令官が、戦術モニターの右半分に映し出されたその光景に、食い入るような視線をぶつけると、まるでそこが戦場であるかのような目まぐるしい意思のやり取りが開始されたのだ。


(サルムザーク)

「チャンペル!!リプトンサム部隊に支援砲撃指示を出せ!!指定ポイントはN−X5ライン02から08・・・。いや、04から08まで200mils間隔で計5本だ!!北方はやや東寄りに着弾地点をずらすよう注意を喚起しろ!!リスキーマ!!キリン隊との通信回線は確保できているか!?」


(リスキーマ)

「出来てます!!」


(カース)

「三佐!!前面の部隊メンバーの撤退指示は!?」


(サルムザーク)

「任せる!!デルパーク!!こちらネニファイン司令部だ!!キリン隊は即座に広場へと突入を開始!!友軍の行動を補佐せよ!!所要時間は5分と無いぞ!!急げ!!」


(チャンペル)

「リプトンサム部隊から攻撃支援要請の受領信号をキャッチ!!砲撃開始まで3分と30秒!!弾道ミサイル到着までの所要時間は2分弱です!!」


(デルパーク)

「了解。アリミア。フロル。一気に突入を開始するぞ。」


(カース)

「リスキーマ!!ネニファイン部隊各員に緊急暗号電文を発信!!Gタイプ型原文に300122データを投入!!暗号化コードは作戦名とする!!」


(リスキーマ)

「了解!!」


(チャンペル)

「帝国軍戦車部隊の前進が止まりません!!N−45−09防衛ライン突破されます!!フロア隊が戦車部隊に取り付かれました!!」


(サルムザーク)

「フロア隊の二人は即座に後退!!メディアス!!右翼後方のコスモキャリアに注意しつつ、左翼に火力を集中させろ!!ホァンは出すぎだ!!発信した作戦指示に従い後続のキリン隊と協力して、迅速に目標を達成せよ!!」


(メディアス)

「あいよ!!バーンス!!左右ラインを保って少し後退するよ!!」


(バーンス)

「解っている!!ホァン!!下がれ!!」


(サルムザーク)

「リスキーマ!!帝国軍の後方地対空車両の残存数を直ちに調査しろ!!チャンペルは第二派の支援要請準備を整えつつ、常時戦況の経過を報告!!


(リスキーマ)

「了解!!」


(チャンペル)

「解りました!!」


若い二人の通信オペレーターが、ほぼ同時に元気の良い返事を発した直後、異様なほどの静けさの中へと立ち返った司令室内で、大粒の汗を右手で拭ったサルムが、ゆっくりと指揮官席に腰を下ろした。


そして、疲れきった様子で目の前の机の上に両肘を付いて見せると、目の前で組んだ両手の上から、じっと戦術モニターに視線を宛がい、一つ大きく息を吐き出して見せた。


さてさて・・・。第二派が必要になるだろうか・・・。


彼の口の中にだけで止められたその言葉は、決して好転した事態に油断を感じてしまったからでは無いのだが、それでも、一向に出口の見えなかった闇の中に、強烈な光の一筋が差し込んで見えた事は確かだった。


お互いの意思を乗せてやり取りされた通信内容は、決して相手をあざむく意図で、開放的手段を講じたわけでは無いのだが、それでも彼の抱いた真意を覆い隠すのに一役買う事となり、帝国軍の誰しもが、その後に訪れた悲劇的最後を予兆する事は出来なかったのである。


(サルムザーク)

「もし本当に神様がいるんだとしたら、感謝しないとな。」


(カース)

「三佐・・・。うまく行くと良いですね。」


圧倒的に兵力が不足する彼等ネニファイン部隊にとって、強大な帝国軍戦車部隊を前に講じられる有効的手段など、ほとんど無いのだということを、この若い司令官は初めから解っていた。


彼は理論的に作戦を構築せねばならない立場であり、不確定要素をはらんだ精神的願望論などを用いて、部下達の未来を左右すべき作戦を立案するようなことは決してなかったのだが、この時ばかりは降って沸いたに等しい「突然の転機」を利用せざるを得なかったのだ。


圧倒的な兵力を誇る帝国軍戦車部隊に対して、彼が持つ唯一の抵抗手段は、後方支援部隊リプトンサムの弾道ミサイルによる攻撃のみであり、言ってしまえばそれ以外に、彼等が南進部隊に対抗しうる術がない事を示唆しさしていた。


確かに道幅の狭い渓谷内において、前戦で衝突する総兵力だけを見れば、彼等にも一度や二度の局地的優位性が生じるかもしれない。


しかし、連戦に連戦を重ねて、その全てに勝利したからと言って、彼等が持ちえる武器弾薬には物理的な制限があり、浜辺に打ち寄せる波のように次々と兵力を投入できる帝国軍戦車部隊に対して、彼等の力だけでは絶対に最終的勝利を掴み取る事など出来やしないのだ。


実際に彼が思案した作戦は至って単純明快なものであり、ネニファイン部隊の総力を持って、メイサ渓谷内では広場となるN−45エリアへと戦車部隊を誘き出し、漏斗状にすぼんだ出口付近をふさいだ上で、後方支援部隊リプトンサムからの弾道ミサイルを撃ち込むというものであった。


しかし、この作戦を断行する為には、帝国軍戦車部隊の後方に陣取る、地対空車両ライパネルの存在が、明らかに重大な障害となって立ちはだかっていたために、彼はリプトンサムへの砲撃指示を直ぐには出せなかったのだ。


それは勿論、ライパネルの対空射撃精度の高さから言って、弾道ミサイルを撃墜するなど造作もない事であって、無闇に砲撃支援を出したところで、ほとんど効果が薄いであろう事は、容易に判断が付く事だったからだ。


しかも、彼等ネニファイン部隊が保有する火器類では、遥か後方に位置するライパネルを攻撃することは容易ではない。


そこで彼は、なんとしてもレフトメイサ上に残ったアパッチ隊に連絡を取り付け、崖上からこのライパネルへの攻撃を行わせようと考えたのだが、結果として高濃度フィールド下にあったメイサ上に、安定した通信回線を確保する事も出来ずに、ただ無情にも流れ行く時間と共に、苦境たる立場が悪化するだけだったのだ。


(サルムザーク)

「うまく行くさ。こう言う展開が望めるとは思ってもいなかったが、アパッチ隊のメンバー達も良くやったもんだ。」


(カース)

「取得した映像は後で鑑識に転送しておきます。爆発の規模から見ても相当な兵器だったのでしょう。まさか帝国軍戦車部隊における重要な兵種を巻き込んで爆発するなど、当のパイロットも思ってはいなかったでしょうが、運にも見放されたのでしょうね。それとも三佐が相当に強運をお持ちと言う事なのでしょうか?」


突然に帝国軍戦車部隊を襲った巨大な大爆発が、彼の思考に引っかかった杭を一瞬にして抜き去り、目まぐるしく事態を好転させたのは事実であり、まさにカースが言うように、それは幸運であったと言う以外に称する事の出来ない出来事だった。


カースの余りに「ありきたり」な表現方法に、サルムはプッと勢い良く息を吐き出して笑みを浮かべて見せたのだが、それでも未だ、彼の中では張り詰めた緊張の糸を緩めるような意思は無かった。


しかし、もはや一度大きく傾いた大勢が、再び反対方向へとうねり動くような事態を招く事も無く、幸運と言う言葉に分類されるであろう事実が、再び彼の元へと報じられたのだった。


(リスキーマ)

「帝国軍戦車部隊後方の被害は甚大なようです。現在無傷で残存している地対空車両は1輌のみ。1輌のみです。他の後方支援車両と合わせて、計50輌近くが一気に戦闘不能状態に陥ったようです。」


この時彼は、ようやく自分の意識の中に「勝利」という二文字を固定付ける事が出来たのであった。


遥かな時を経て辿り着いた目的地なれども、一度終焉を迎えて立ち返れば、それはほんの一瞬の出来事でしかなかった様な錯覚を覚えてしまう。


それほどに濃密で、過酷であった時の流れに終わりを見つけて、彼はゆっくりと口を開いた。


(サルムザーク)

「もはや俺達にできる事は全てやった。後は部下達を信じて更なる吉報を待つ事としよう。ファントムはこれより進路を08:30に変更。最大船速で当戦域を離脱する。」


そしてその後、彼は疲れきったようにだらしなく、上半身全てを指揮卓の上に放り投げるのであった。

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