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Loyal Tomboy  作者: EN
第四話「涙の理由+」
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04-15:○ディップ・メイサ・クロー[14]

第四話:「涙の理由+」

section15「ディップ・メイサ・クロー」


一生懸命になって逃げ惑う「振り」を演出する二人に対して、猛然と追走を見せるバスターマンティスのスピードはそれほど速くはない。


それは、周囲に立ち並ぶ木々達の間隔が狭ければ狭いほど、強引にし折らねばならない巨木の数が増えると言うことであり、如何に巨大な体躯を持つバスターマンティスとは言え、目の前にそびえ立つ巨木の全てをし折りながら直進することなど、不可能ではないが全く意味を成さない事でもあった。


しかしそれ以上に、この機体の進行速度を制限するものとは、その機体自体が持つ総質量が一番の原因であり、余りに速度を上げて慣性力を蓄えすぎてしまうと、今度は停止することすらままならない危険な状況に陥ってしまうのだ。


ゆっくりと確実にだが、恐ろしいほどの威圧感を持って接近を試みるバスターマンティスは、いわば巨大な壁が背後から差し迫って来る様でもあり、時折逃亡者に向けて放たれるガトリングガンの雨あられは、まさに空中から大量の爆弾を投下されているような錯覚さえ感じてしまうものだった。


(ルワシー)

「あれ?結構利いたんじゃねぇか?さっきの攻撃よ。」


しかし、森の中に響き渡った轟音の割りに、全く見当違いな方角へと吐き散らされたその弾丸は、いつまで経っても二人の機体を捉える事は無かった。


それは、巨大な木々にさえぎられて、うまく照準する事ができないと言うよりは、全くガトリングガンの照準システムが機能していない様であり、どうやら先ほどセニフが腹の下からぶっ放した大量の鉄甲榴弾が功を奏したのだろう。


どれだけ自機の装甲を厚くしようとも、剥き出しの銃火器だけは、決してその恩恵にあずかることは出来ないものだ。


その事実を悟ったルワシーは、少し安堵の表情を浮かべて溜め息を付いて見せたのだが、次にセニフが発した言葉を耳にすると、いきなり表情を豹変させた。


(セニフ)

「これじゃダメだ・・・。スタンボムの射程にも入る。」


(ルワシー)

「なっ!!・・・なんだとぉ!?ばか野郎!!本当に死にてぇってのかてめぇ!!」


(セニフ)

「確実にデカブツを倒すためだよ。」


(ルワシー)

「確実に倒されちまうのはこっちだろうがよ!!馬鹿な行動はよせ!!おい!!待ちやがれ馬鹿!!」


聴覚を突き抜けて直接脳内にまで響き渡るのではないかと思うほどの怒鳴り声を浴びせかけ、まさにとち狂ったような作戦の変更を示唆するセニフを、必死に止めようと試みるルワシーだが、彼の意思とは相反あいはんするように、並走するトゥマルクの走行スピードが見る見るうちに減速して行く。


直接相手の機体に命中させることで損傷を与える実弾兵器とは違い、スタン系兵器の実質有効範囲は、不確定要素に左右され易い上に捉えずらいものであり、この時ばかりはセニフもルワシーを誘いかけるような言葉は投げかけなかった。


しかし、過酷な戦場において、こんなに小さな少女一人に運命を委ねて、一人安全な場所から高みの見物を決め込むほど、この男の気概は薄く冷たいものではない。


半場怒りにも似た感情を押さえ付けるように、彼は次第に大きな顔を紅潮させると、虚勢を張った大声と共に大言を吐き捨てるのだ。


(ルワシー)

「だぁっはっはっは!!てめぇごとき糞餓鬼に出来て、このルワシー様にできねぇことなんざねぇんだよ馬鹿野郎!!うまくいった時ゃ極上のステーキでもおごって貰うからなセニフ!!」


彼自身うまく行くという確信がある訳でもなく、思いに反して怖気おじけづく気持ちを奮い立たせるための笑い声であり、まさに自身の自暴自棄気味な振る舞いによって、それを覆い隠そうとする意図があったのだろう。


彼は恐る恐るとトゥマルクの走行スピードを緩め始めると、進行方向とは逆方向に先行するセニフの機体を追い始めた。


1機より2機の方が、より効果的に相手の攻撃的意識を逸らす事が出来るのだろうが、それでも相手の攻撃的意識を均等に振り分けることが重要であり、囮の一方が相手の攻撃に萎縮いしゅくして距離を取ってしまうようであれば、最初から二人で囮を務める意味は無い。


ルワシーの心の中には、もはやその恐怖に躊躇ちゅうちょするような迷いの気持ちは無かったのだが、余りに勢いづけて減速してしまったために、背後から追いすがって来たバスターマンティスの初撃は、彼に対して投じられる事となってしまった。


緩やかに左腕をかかげるバスターマンティスの動きに、一瞬、全身を駆け巡るほどの旋律を覚えたルワシーだったが、トゥマルクの進行方向を急激に左手に旋回させると、彼等を繋ぐ射線の間に割って入った1本の巨木が被害を被った。


まさに真横から落雷を受けたかような衝撃を受ける事になった無残な樹木は、焼き焦がされた全身から異臭を含んだ黒煙と大量の水蒸気を発すると、一瞬にして激しい業火の渦へと包まれたのだ。


(セニフ)

「ルワシーの馬鹿っ!!下がりすぎだよっ!!」


(ルワシー)

「わぁってらばぁーろー!!」


その時、後部カメラを映し出すモニターにじっと見入っていたセニフは、余りに迂闊うかつな後退劇を見せたこの大男に対して、罅割ひびわれる程に張り上げた黄色い声で怒鳴りつけた。


彼女もまさかルワシーがそこまで相手に接近して見せるとは思わなかったのだろう。


本来であればこの後、しばらく二人の間には、激しい野次の飛ばしあいが繰り広げられるはずなのだが、この時ばかりは二人にもそんな余裕は微塵も無かったようだ。


間髪を置かずして、ルワシーの軽率な行動を補佐するために、更なる危険を承知で速度を緩めざるを得なかったセニフは、バスターマンティスの二つ目の殺意の刃にさらさされる事となった。


しかし、絶妙のタイミングでデコイを射出したセニフ機は、いとも簡単にこの攻撃をかわしてみせると、更にもう一つ相手の攻撃を誘い出す余裕を見せ付ける。


そして今度は、デコイの助けを借りる事も無く悠々とこれをかわして見せると、意気揚々(いきようよう)とデカブツの目の前で泳ぎまわって見せたのだ。


ちっ・・・!!


そんな舌打ちがバスターマンティスのコクピット内に響き渡っただろうか。


相手の攻撃を全く寄せ付けない装甲と、圧倒的火力を有しながらも、恐れることなく目の前へと姿を現した二匹の小物を見据えて、悠々と攻撃をかわされてしまった方としては、如何様いかようにも気分が優れるはずも無い。強大にして無敵のDQバスターマンティス。


その言葉は対峙したセニフやルワシー以上に、搭乗したパイロット自身が抱いた不遜ふそんな自負なのかもしれない。


直後に二人に襲い掛かった攻撃はもはや精彩さを欠き、乱暴にぶちまけただけの怒気に他ならなかった。


しかし、さすがにそこは強力な火器を有するバスターマンティスと言ったところで、乱発するスタンボムの一発が、回避を試みたルワシーの直ぐ傍らに着弾すると、逃走を続けるトゥマルクの左方向から、雷矢にも似た閃光の一本が彼の元へと襲い掛かったのだ。


この時、一歩間違えば、彼の機体は確実に激しい閃光の中へと取り込まれて、汚らしい黒煙を吹き上げるガラクタに成り下がっていたに違いない。


しかし幸いな事に、火花を散らして朽ち果てたものは、トゥマルクの左手に装備していたグレネードガンだけであり、彼の機体自体には全く被害が及ぶ事は無かった。


(ルワシー)

「セニフ!!もうやばいぜ!!」


(セニフ)

「解ってる!!もう少しだけ!!」


悲痛なまでの叫び声を上げるルワシーだが、彼に対して彼女の無常な返答が返される。


一体、いつまでこんな事をやらせるつもりなんだ?


本当にこんなことを繰り返してデカブツをやれるのか?


このままじゃ、セニフの言う合図を待つ前に、やられてしまうのが落ちだぜ。


今更遅すぎる疑心を抱き始めたルワシーだが、快走を続けるトゥマルクの中にあって、次第に明るみだしたTRPスクリーンの風景が、ようやく彼の脳裏に一つの答えを見せ付ける。


そうか!


この時、バスターマンティスのパイロットは、セニフの作戦にまんまと乗せられていることに全く気がつかなかった。


もはや無様に逃げ惑う事しか出来ない二匹の獲物を前にして、中途半端にこじ当てたスタンボムの余韻を脳裏に反芻はんすうさせ、更なる心の高ぶりを抑えきれないように、猛然と襲い掛かる事しか考えていなかったのだろう。


(セニフ)

「ルワシー!!散開!!」


それまで待ち焦がれた合図をセニフが高らかに発した時、二人は息を合わせて一斉に左右へと別れるように展開する。


そして、激しく大地を削るように急激な旋回を持ってトゥマルクを猛烈に駆り立ると、今度は全力で逃げの体制に入ったのだ。


勿論、バスターマンティスのパイロットにとって、逃げ惑う獲物のが二手に別れて逃げ出す事は予め予測できていた事であり、決して彼自身が慌てるような行動では無かったはずである。


しかし、コクピット内で彼を照らし出す光量が次第に増え始め、それまでスクリーン一杯に映し出されていた巨木の姿がフッと消え去った時、彼はようやく二匹の獲物が意図した真意へと辿り付いたのだった。


しまった!!


目の前にさらされた獲物の姿に意気揚々(いきようよう)と夢中になり、完全に周囲に対する注意力を欠如させていた彼がおびき出された場所。


そこは、薄暗い樹海の終点を示すメイサ崖上の縁であり、メイサ渓谷の対岸となる壁面が、彼等のいる場所からでもはっきりと見て取れるほど、高くそびえ立った場所だった。


膨大な質量を誇るバスターマンティスが旋回するためには、それなりのスペースが必要であり、この時点で既にバスターマンティスが旋回行動を取れるスペースは、セニフの巧みな誘い込み作戦によって奪われてしまっていたのである。


勿論、バスターマンティスがメイサ崖の縁から飛び出したからと言って、Gシステムを搭載したこの機体が、直ぐに谷底へと転落してしまう事はないだろうが、それまで駆り立てた機体の慣性力を完全に打ち消す事が出来なければ、対岸にそびえ立つ壁面への衝突は免れない状況であった。


急激に冷やされ行く闘争心と、顔面の血をすべて失った様な蒼白さを持って、己の迂闊うかつさを怒鳴りつけたパイロットが、即座にGシステムの緊急解除を促した。


ズッズーーーン!!


バスターマンティスの機体は、先ほどハインを撃破したときと同じ要領を持ってして、機体の慣性力を打ち消しにかかった。


そして、ゆっくりとその重さを取り戻した巨大な機体が、両足をを大地に接地させると同時に、猛烈な地響きを伴って荒れ果てた大地を削り取る。


それはまさに、巨大な隕石がゆっくりと大地へとのめり込む様を、スローモーションで眺めているような不思議な映像であった。


この時、ほんの僅かなスペースのみで、バスターマンティスの推進力の全てを打ち消す事に成功したパイロットの行動は、さすがであると賞賛すべきものなのだが、元々重いはずの巨体が、当たり前のような重さを取り戻したとき、不安定な地形であるメイサ崖の縁が、その巨体を支え切れようもなかった。


大地へと突き立てた巨大な両足を発端として大きな亀裂が大地上に駆け巡ると、やがてその重さに耐え切れなくなった足場が、バスターマンティスを地獄の底へと引きずり込むように、一斉に崩落ほうらくを開始したのだ。


(セニフ)

「やったぁ!!」


(ルワシー)

「やったか!?おおおおおぅ!!やったぜ!!」


一瞬にして谷底へと崩れ落ちていくバスターマンティスの姿を、TRPスクリーン越しに眺めていた二人が、思わず喜びの声を張り上げる。


結局、この巨大なDQに対して、何ら有効な手立てを見出す事は出来なかったのだが、無謀とも言えるセニフの綱渡り的作戦を見事に完遂しきった彼等の元には、これ以上無い結果が示されたのだ。


それまで、極度の緊張感の中に浸りつつ、息をつく暇も与えれない程の戦慄を味わい続けた彼等は、ようやく手にした安堵感と達成感に表情をほころばせながら、狭いコクピット内で大きなガッツポーズをして見せたに違いない。


しかしこの後、無残にも谷底へと転がり落ちて行ったデカブツの行く末を確認するために、崩落ほうらくした崖際まで二人が駆け寄った時だった。


ドゴン!!ドゴン!!ドゴン!!


(セニフ)

「な!!?」


(ルワシー)

「なにぃ!!まじか!?」


ようやく長いトンネルの中から抜け出した彼等を待っていたものは、這い出ることも許されない地獄へと続く、新たなトンネルの入り口だったのだろうか。


谷底から猛烈な閃光を伴って撃ち上げられた大量の弾丸が、彼等の周囲で大きな爆発を生じさせると、再び彼等の表情は青ざめたように一変した。


この時、メイサ崖の崩落ほうらくと共に落下を余儀なくされたバスターマンティスは、落下の途中ですぐさまGシステムを再起動すると、巨大な後部バーニヤをフル稼働させることで、その落下速度を打ち消しにかかったのだ。


しかも見事なまでに、一度崩してしまった体制を立て直してみせると、緩やかに落下し行く最中にありながら、崖縁から顔を出した憎き二匹の子鼠に向かって、ガトリングガンを撃ち放つ余裕さえ見せたのだった。


勿論、照準システムに異常をきたしたこの兵器は精度も薄く、二人の機体を捕らえることは出来なかったのだが、それでも強烈な破壊力が未だ健在である事を、高らかに示して見せたのだった。


(ルワシー)

「なんて野郎だ・・・。」


呆れたように溜め息を付いて見せたルワシーの眼下では、バスターマンティスが引き起こした崖崩れによって、多少の混乱を余儀なくされた帝国軍戦車部隊の後方集団の姿があったのだが、大きな被害をこうむった様子も無く、身動きが取れないほど密集した陣形の中に、ささやかながらもこのバスターマンティスが着地出来るスペースを作り出そうとさえしていた。


勿論、このバスターマンティスが再びメイサ崖上によじ登る事は不可能であり、セニフとルワシーがこのデカブツに対して、敗北を喫する事は無くなった訳だが、それでもこの巨体が谷底へと無事に着地を果たしたのなら、新たにその暴力的な脅威にさらさされる事になるのは、渓谷内で必死に帝国軍戦車部隊の南進を食い止めている、他のネニファイン部隊メンバー達に他ならない。


(セニフ)

「ルワシー!!デカブツを倒すチャンスは今しかないよ!!奴の後部テスラポット上部を狙うんだ!!早く!!」


それまで唖然とした表情のまま、緩やかに落ちていくバスターマンティスの姿を、じっと眺めていたルワシーだったが、両手に装備した火器を平行に構えて、ありったけの砲撃を撃ち下ろし始めたセニフの行動に、驚いたように我へと立ち返った。


彼等の見下ろす渓谷内に浮遊したバスターマンティスは、完璧に近いほどの着地体制を整え始めていたのだが、それまで同じヘイト上で戦闘していた時とは、明らかにある一点において状況が異なっていた。


それは、彼等がそれまで見上げなければならなかった状況に対し、現在は見下ろせる状況にあるということだ。


バスターマンティスの背負った巨大な後部テスラポットが唯一の弱点となリ得る事は、先立って命を落としてしまったハインが示唆した推測だったのだが、この巨大な機体を見下ろせる状況になって初めて、彼等はそのテスラポット上部に、無数の吸気口が存在している事に気がついたのだ。


特に大きな機体の動力をつかさどる部分なだけに、ちょっとしたダメージでも、深刻な被害を及ぼす可能性は非常に高く、セニフの言葉を即座に理解するに至ったルワシーもまた、ARS-RType44の弾装を一番強力な特殊炸薬弾に換装すると、この弱点部分と思わしき部位に激しく撃ち付けるのだ。


しかし、超重装甲をまとうバスターマンティスの機体は、さすがと言うべき防御力を誇り、見るからに大きなダメージを負った様子など微塵も感じさせなかった。


しかもそればかりか、射撃角度ギリギリまで捻じ込んだ左手を高々と崖上の方に構えて見せると、バスターマンティスはスタンボムを断続的にぶちまけて反撃に転じたのだ。


(セニフ)

「やっ!!・・・・・・。」


(ルワシー)

「セニフ!!」


すると、眩い閃光を放って天へと舞い上げられた電気的衝撃波の一つが、セニフの機体の直ぐ脇で炸裂し、通信機に甲高い叫び声が響き渡った直後に、彼女の機体から一瞬にして大量の黒煙が吹き上った。


それまで巧みにDQを操り、バスターマンティスの攻撃をかわしてきたセニフだったが、完全に足を止めた状態でそれを持続出来ようはずも無く、ついに彼女はその強力な攻撃の前に、膝を屈する事となってしまったのである。


ほんの数秒前まで真っ白だったはずの新型DQトゥマルクの姿が、ボロボロの中古品にも劣る黒ずんだスクラップへと成り下がってしまうと、ブスブスと汚い黒煙を吐き出しながら、ゆっくりと直立不動のまま後方へと倒れ込んだ。


(ルワシー)

「てんめぇ!!死に底無いのデカブツの癖に!!とっとと地獄へ落ちやがれ糞野郎が!!」


コクピット内をも揺るがすほどの大声を吐き出して、思いっきり右手でサーチモニターを殴りつけたルワシーは、黒ずんだセニフ機から視線を断ち切ると、鬼の形相にも似た表情で相手を睨み付けて猛り狂ったようにトリガーを引きまくった。


落ちろ!!落ちろ!!落ちろ!!落ちやがれぇぇぇ!!


この時、彼の殺意を含んだ激しい怒りの刃がバスターマンティスの機体目掛けて浴びせかけられたのだが、その意思に反して、彼の構えたASR-RType44から放たれた弾丸は、たったの3発だけだった。


持てる力を振り絞り、ガチガチとトリガーを引きまくるのだが、それ以降の弾丸は一切発射される事は無かった。


そう。何のことは無い。弾切れである。


(ルワシー)

「かぁぁぁぁっ!!ふざけやがって弾切れだと!?」


直前に見せた自身の怒りの炎に、更に油を注いだような心境で、彼は狭いコクピット中を暴れまわったのだが、ここで彼がどれだけ怒りを撒き散らそうとも、それによって事態が好転する事などありえるはずもなく、それはただのエネルギーの浪費でしかなかった。


あれほどの猛攻にさらされて、攻撃する暇などほとんど与えられなかったにも関わらず、アサルトライフルの弾丸を全てを撃ち尽くしてしまうなどと、彼の優れた能力を示しているのか、それとも重大な欠点を示しているのか。


どう贔屓目ひいきめに見ても、決して前者ではない事ははっきりと言えるだろうが、この時、この愚かなる肥満男の振る舞いを神が哀れんだのだろうか。


次の瞬間、メイサ渓谷一帯に響き渡るほどの轟音を奏で出したのだった。


ドッゴーーーン!!


猛烈に吹き荒れる爆風が、メイサ渓谷上に群生した木々達の身を、引き散らんばかりに暴れ狂う中、突如として大量の黒煙を吹き上げ始めたのは、バスターマンティスの後部テスラポットである。


この時もはや、何ら次なる手を打つ事が出来なくなったアパッチ隊であるが、彼等の狙い所が正しかった事を証明する二度目の爆発が再び沸き起こると、彼等の勝利は確実のものとなったのだ。


後部テスラポット吸気口の中で踊り狂う業火の渦が、止まる事を知らぬ活火山のように黒煙を吹きさらす中、突然、すがる手綱を手放されたかのように、バスターマンティスが落下速度を速めて行く。


もはや自慢の重装甲も、強力な火器も、この機体特有のGシステムすらも、自らの滑り落ち行く運命を変えることは出来ず、無残にも巨大な火の玉と化した鉄の塊は、自然の成り行きに従って、深い谷底へと突き落とされる結末を迎えるのだ。


この時、谷底に屯した大量の戦車部隊は、密集した狭い渓谷内にあって、己の身を守るためのスペースを十分に確保することが出来なかった。


そして、その悲劇的状況巻き込まれてしまった兵士達は、猛烈な大爆発を持って最後を迎えたバスターマンティスの後を追うように、望まぬ殉死じゅんしを強要されたのであった。


しくもそこは、帝国軍南進部隊の後方に位置する、地対空車両「ライパネル」が配備されていた付近での出来事であった。

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