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Loyal Tomboy  作者: EN
第四話「涙の理由+」
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04-14:○ディップ・メイサ・クロー[13]

第四話:「涙の理由+」

section14「ディップ・メイサ・クロー」


幻想的な異空間の中を快走しながら、セニフが一つ、少し盛り上がった大地を踏み台として軽い空中飛行から着地姿勢を取ると共に、背の低い緑色が密集した塊の中へと己の身を突入させる。


新芽から育ったまだ若い幼木をバキバキとし折りながらも、そのままの勢いを保ち、少し開けた場所へと躍り出たセニフは、必死に同僚の危機的状況に駆けつけようとしていた。


しかし、彼女がようやくその巨大なDQの後姿を視界に捉えた時、90度もの旋回作業を終えた巨大ガトリングガンの照準が、ブスブスと焦げ臭い黒煙を放つトゥマルクへと据え付けられた後であった。


(セニフ)

「ハッ・・・ハイン!」


セニフが思わず息を呑んだ後、吐き出した叫び声と同時に、巨大ガトリングガンの砲塔先端部から、眩い閃光が絶え間なく発せられた。


外界の激しいコントラスト変化に順応しようと、目まぐるしく調整を繰り返すTRPスクリーンに一瞬視界を奪われながらも、耳をつんざくように響き渡る砲撃音が、彼女の意識のど真ん中を貫き、恐怖にも似た「死」を印象付けるだけの、悪寒が彼女の背筋を駆け巡った。


(セニフ)

「うぅっ!!」


言葉にもならないようなうめき声を小さく発したセニフの目の前で、素早く調整処理を終えたスクリーン上に再び映し出されたものは、虚しくも四散し行くトゥマルクの姿だった。


出会って間もない僚友であるハインの死が、彼女の心の中に大きな風穴をじ開けるまでには至らないが、それでも何故にこうも心の奥底がズキズキと痛むのだろうか。


大きな閃光の塊に吸い込まれていくように消し飛ぶ機体の行く末に視線を据えながらも、この時、彼女の恐怖心は一瞬奪われた視力と共に、激しく沸き起こる闘争心へと変化を見せた。


視線に据えたものをすべて燃やし尽くしてしまうほどの業火を宿した瞳で凝視するセニフは、目の前にそびえ立つ巨大なDQの後姿に狙いを定めると、強くフットペダルを踏みしだいてトゥマルクに更なる加速を要求する。


一方、ハインへの止めの一撃を放ったバスターマンティスが、後方から無防備にも突進を見せるセニフ機に気づかないはずも無く、新たなる敵の出現に反応を見せるまでに、さほど時間を必要としなかった。


左方向に目一杯機体をよじっていた為に、逆旋回を余儀なくされた緑色の巨漢だが、即座に巨大なガトリングガンを振り回して、迫り来る1機のトゥマルク目掛けて照準を宛がうと、再びけたたましい砲撃音を周囲にぶちまける。


しかし、このエリアに到着するまで、ほぼトゥマルクの最高速度を引き出していたセニフ機の方が一瞬早く、巨大ガトリングガンの死角であるバスターマンティスの懐に潜り込んだ。


そして、巨大な両足の間をすり抜ける様に走り去る間、左手に装備したASR-RType44を頭上目掛けて構えると、有無を言わさず大量の鉄甲榴弾を浴びせかけた。


ガンガンガンガンガンガン!!


生半可な攻撃でこの重装甲を撃ち破ることなど出来ようはずも無く、極至近で炸裂する弾丸の余波を気にして手加減などしている余裕は無い。


セニフは外側の装甲よりも薄く張られているであろう腹の下部分に、弾装丸々1個分の弾丸をすべて叩き入れて見せたのだが、バスターマンティスの動きを完全に食い止めることは叶わず、ただ目標を見失った巨大ガトリングガンの砲撃が、あられもない方向へとぶちまけられたに過ぎなかった。


(ルワシー)

「なんじゃこりゃ!!ハイン!!なにが起きてる!?」


その無差別ともいえる巨大ガトリングガンの砲火にさらされたルワシーが、周囲で散発する大きな爆発に身を屈める様にして耐え忍ぶ中、必死に状況を確認しようと通信マイクに向けて大声で怒鳴りつける。


ようやく命からがらバスターマンティスの追い討ちを逃れた彼としては、再び彼に襲い掛かった砲火の雨あられに、舌打ちをして見せるぐらいしか余裕が無かったのだが、突然雑音を交えながら浴びせかけられた少女の言葉に、ギョッとしたような表情を浮かべて身構えるのだった。


(セニフ)

「引っ込めルワシー!!そこにいてはダメだ!!」


(ルワシー)

「なっ!?てっめぇ!!」


バスターマンティスの腹の下へと潜り込んで攻撃を試みたセニフは、そのままの勢いで一気に離脱しまおうと目論んでいたのだが、すかさずセニフの行動を見て取ったバスターマンティスのパイロットは、足元から躍り出たトゥマルクの姿に素早く照準を合わせる。


勿論、セニフの進入方向へと回頭していた、巨大ガトリングガンが即座に使用可能となるわけでもなく、セニフの逃走方向にもっとも近かった右手が宛がわれた。


恐らくは弾数的制限からであろう今まで使用されることの無かったその火器は、寧ろ彼等アパッチ隊のような小物を相手に使用するものではないのであろう。


物凄い轟音と共に吐き出されたその弾頭は、大きく旋回行動を見せたセニフ機を直接捉えることは無かったが、バスターマンティスの正面にそびえ立つ巨木の幹へとぶち当たると、恐ろしいほどの熱量を撒き散らし、遥か頭上に群生する森の枝葉を突き抜けるほどの火柱を舞い上げたのだった。


(ルワシー)

「ぬぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」


(セニフ)

「きゃぁぁぁぁぁぁぁっ!!」


かなりの速度を持って着弾地点から離脱する事が出来ていたセニフはまだしも、それまで爆心地付近に身を潜めていたルワシーまでもが、この強烈な攻撃を耐え凌ぐことが出来たのは幸運とも言うべきなのだろう。


もはや人目をはばかることも無く、断末魔だんまつまにも似た叫び声を発してしまった二人は、物理的に自分自身の発した声自体の存在によって、未だこの世に命を取り留めていることを確認することが出来た。


勿論、直前にセニフが大声で注意を促していなければ、ルワシーは今頃、激しい業火の最中で、死んだ事にも気付かないまま、取り残された精神世界でのみの断末魔を永久に繰り返していたのかもしれない。


(セニフ)

「バカルワシー!!何でこっちにくるんだよ!!」


(ルワシー)

「てめぇ俺があそこにいるの知ってたな!?俺ごと道連れにするつもりだったのかよ!!」


(セニフ)

「う、う、うるさい!!仕方ないじゃないか!!でっかい腹抱えてあんな所で一休みしている方が悪いんだよ!!」


(ルワシー)

「この糞チビが!!小さすぎて踏み潰されなかっただけのくせに、偉そうなことぬかすんじゃねぇ!!」


余りの破壊力を有した兵器をまざまざと見せ付けられた二人は、もはや一目散にその場から並走して逃げ去る事しか出来なかったのだが、ようやくお互いの機体同士を近づけたことにより回復した通信機能上で、真っ先にやり取りしたことは、相手を誹謗中傷ひぼうちゅうしょうする言葉の投げ合いであった。


しかし、ある程度お互いに怒気を交えた口論を経て、二人の間にその愚行を問いただす存在が欠けていることに気がついたルワシーは、突然、静かな口調でセニフに問いかけた。


(ルワシー)

「セニフ。ハインはどうした。」


(セニフ)

「・・・。」


セニフは一瞬返答を躊躇ためらった。


自分が目の当たりにした事実をそのまま相手に伝えればいいだけなのに、何故か彼女の思いは言葉となって発せられなかったのだ。


彼女の心の中には、まだどこかハインが死んだと確信するほどの実感が無かった。


彼女が目撃した四散し行くトゥマルクの機体は、間違いなく彼女達の隊長であるハインハートルが搭乗する機体であったことは確かだ。


しかし彼女自身、彼の死を直接見たわけではない。


もしかしたら、爆発の寸前に脱出したかもしれないし、爆発に巻き込まれたとしても、運良くコクピットだけ無事だったかも知れない。


どれだけ確定的な要素がそろおうとも、彼女自身の心の淵では、それを認めてしまうことに対する、恐怖感があったのかも知れない。


(ルワシー)

「もしかして、やられちまったっつうのか!?」


再度問いかけられた彼の言葉に、セニフは「うん」とうなずくく仕草をして見せただけだった。


それは決してルワシーに届くはずも無い仕草であったが、うつむいたままキッと鋭い視線でサーチレーダを凝視した彼女は、ゆっくりと動き出したデカブツの反応に対し、静かに呟いて見せた。


(セニフ)

「デカブツ倒すよ。ルワシー。」


(ルワシー)

「あぁ??なに!?なんて言った!?」


いぶかしげな表情でそう返したルワシーは、この危機的状況下において、そんな言葉を投げかけられるなどとは思ってもいなかったようで、冗談にしても笑えない彼女の言葉尻に、いきり立つ様な濁声を被せて聞き返した。


手持ちの火器では撃破する事も出来ない上に、援軍となるエアビヘイブが到着する気配もない。


たった二人だけがメイサ崖上に取り残されたまま、あの無敵とも言える巨大なDQを撃破しよう等と、軽々しく口にしても、実際に実現できるような事ではないのだ。


しかし、そんな彼の言葉に反応を見せる事もなく、どこか曇りない視線を宙に彷徨さまよわせる彼女の瞳には、ハインが身を持って示してくれた幾つかの事実から、一つの希望の光を見出していたのだろうか。


彼女はさらに強い口調をもって、ルワシーに言葉を連ねるのだ。


(セニフ)

「ルワシー。速度を落とせ。デカブツに追いつかせるんだ。私が合図するまで相手射程圏内で並走するよ。」


(ルワシー)

「射程圏内で並走だぁ!?てめぇ!二人そろって丸焼けにでもなるってんか!?」


ルワシーが驚いた表情でセニフに食って掛かったのも無理はない。


あれだけの高威力を見せ付けられたバスターマンティスに対して、事もあろうか相手の目の前を並んで走ろうと言うのだ。


これほどに愚かで命知らずな作戦が他にあるのだろうか。


まさに空いた口が塞がらないというのはこの事であり、彼はしばらくの間、呆れた表情のまま沈黙することになるのだが、不思議と落ち着き払った態度を見せるセニフの方へとチラリ視線を移すと、小さく溜め息をついて見せた。


(セニフ)

「ブタの丸焼けと一緒に食卓に並ぶ趣味なんてないよ。」


(ルワシー)

「俺だっててめぇみてぇな餓鬼のお守りで死にたかねぇがな、こちとらいつかてめぇをぶっ飛ばすのが楽しみで生きてんだ。誰とも解んねぇ緑蟲君にくれてやるほど、俺も気前がいい方じゃねぇぜ。」


お決まりの売り文句に対して買い文句を投げつけたルワシーだが、この時点で、彼としても良い作戦が思い浮かぶこともなく、もっともらしい言い訳を並べて、彼女の無謀な提案に乗ることを了承した。


しかし彼の発した「てめぇをぶっ飛ばす」と言う言葉の中には、半分以上本気の意思が込められていたのではないだろうか。


彼はネニファイン部隊を新設する為に実施された研修の中で、セニフと同じチームに構成されていたのだが、そう言った意味では、彼女のDQ操舵ぶりをじっくりと観察する機会に、一番恵まれていた人物とも言える。


その中では勿論、DQを用いた模擬戦が行われる事になるのだが、この小さな少女は、そのDQ同士の戦闘において一度も敗北することがなかったのである。


彼自身も、この少女と直接戦闘を繰り広げる機会が5回程あり、結果を認めたくはないものの、あっけなく5連敗をきっすると言う有様だった。


全く無駄のない完璧な動きを見せたかと思えば、馬鹿でも仕出かさないような隙を見せる。


しかし、その隙自体が罠であったりもし、彼が何を仕掛けようともすべて良い様にあしらわれ、何も出来ないままに苦渋を舐めさせられたのだ。


信じられない事だが、いや、信じたくない事だが、この「ドチビ」が有している戦闘センスは、異常とも言えるレベルにある。


如何に口先では乱暴に扱おうとも、彼の心の中で彼女自身のそう言った部分に関して、少なからず認めないわけにはいかなかったのだ。


(セニフ)

「ルワシー。デカブツが来たよ。死なないでねルワシー。」


(ルワシー)

「うるさいんだよ!!こん餓鬼ゃが!!隊長気取りで偉そうに・・・。」


そして再びかくのごとく口撃を放とうとしたルワシーは、何かしらの違和感を感じてその言葉を飲み込んでしまった。


ん??・・・こいつ今なんて言った??


普段から二人の間でやり取りされる会話とは打って変り、可愛らしい声色で静かに語りかけられたセニフの言葉が、ルワシーの脳裏で繰り返し反芻はんすうされるたびに、全身に蕁麻疹じんましんが出来てしまったのではないかと錯覚するほどの、かゆみを覚えてしまうのだ。


それほどに、彼にとっては想像だにしなかったセニフの言葉だった。


しかし、そんな彼女の言葉に違和感を感じている暇もなく、彼等の後方から緩やかに速度を上げて追いついてきたバスターマンティスが、若干ロングレンジ気味の巨大ガトリングガンを持ってして、再び彼等に襲い掛かってきた。


そう。彼にとって今一番重要なこととは、セニフと幼稚な言葉遊びをすることではなく、この巨大なDQを如何にして打ち倒すかと言うことだ。


彼は直ぐ脇を並走するセニフの方を気にしながらも、やがて後方から次第に距離を縮め来るデカブツに対して、意識を集中し始めた。


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