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Loyal Tomboy  作者: EN
第四話「涙の理由+」
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04-13:○ディップ・メイサ・クロー[12]

第四話:「涙の理由+」

section13「ディップ・メイサ・クロー」


ディップ・メイサの崖上の様相は、その余りに巨大な体躯が作り出す空洞たる森の中と、大きく広げられた枝葉から差し込む弱い木漏れ日が織り成し、一種異様な幻想的風景を作り出している。


大きな凹凸にさいなまれる事も無く、比較的なだらかな地形が広がるメイサ崖上は、今や四方八方を物理的鉄格子で囲まれた闘技場コロシアムの様でもある。


TRPスクリーンに映し出された静かな森の風景に感銘を受けることも無く、綺麗にさえずる小鳥達の鳴き声に耳を澄ますことも無い。


せっかちな程に先を急ぐ現代人にあって、忘れかけた緩やかな時の流れと言うものを感じさせてくれる、豊かな精神的安定剤をちりばめた世界がそこにはあったのだが、厳しい表情のまま、しきりに周囲を伺う素振りを見せていた彼女には、そんなものに意識を囚われている余裕は無かったのだ。


「・・・イン。・・・ぎに周った・・・・・・くただ・・・ザザザ・・・。」


(セニフ)

「ルワシー!!ルワシー!!デカブツがそっちに行ってるぞ!!」


それまで、それなりに意思の疎通が可能だった通信システムが、汚らしい雑音とノイズを交えてお互いの耳を刺すような濁音だくおんを奏でる。


透過性と指向性に優れた同システムが、ここまで著しく機能の低下を余儀なくされる地域は非常に珍しいが、素粒子拡散を旨とする妨害フィールドを、あらかじめ人為的に張り巡らせていたことを考慮すれば、それは決して興味をそそられる様な現象でもなかった。


ドゴン!!ドゴン!!ドゴン!!


お互いの意思の疎通を目的とした人知の結晶を持ってしても、容易に望んだ結果が得られない世界に居ながらにして、何故こうも望まぬ不利的状況を示す不快な音だけは、しっかりと耳元まで届けられるのだろうか。


大気を伝って彼女の元へと届けられたその音は、もはや聴覚のみならず、体全体の感覚をも揺るがす程の波動となって、それを感じる者の恐怖心を煽り立てる。


着込んだパイロットスーツの内側にこもった蒸気が、冷たい汗の雫となって背筋を伝い、彼女は妙な悪寒を感じずにはいられなかった。


そして暗い森の奥深く、彼女から見て右前方方向の密集した木々の隙間に、さらに眩い閃光が2、3ほとばったかと思うと、その後を追走するように、決まって耳障りな爆発音が森の中を木霊して周るのだ。


(ルワシー)

「くっそ!!」


彼等の目の前に立ちはだかった巨大なDQの攻撃力は、まさに一撃必殺ともいえる高威力を有しており、密集していることの危険性を悟ったアパッチ隊のメンバー達は、お互いの通信手段を投じる結果となろうとも、散開行動を取らざるを得なかった。


そしてその中でも一際大胆な行動を取っていたルワシーが、「デカブツ」の攻撃的意思を一手に引き受ける羽目になってしまったのも、言ってみれば自業自得と言うことなのだが、この「デカブツ」のパイロットは、どこか根に持つタイプなのだろうか。


自身のDQに対して初激を放った一機のトゥマルクに対して、執拗なほどの追撃意思を発しているようにも見えた。


この「デカブツ」は大貴族ストラントーゼ配下のDQ開発研究施設で試作された機体であり、未だ固定の型番すらない完全な特注品である。


通称「バスターマンティス」と呼ばれるこの機体は、量産することは不可能であると言われるほど、製造にかかる費用は莫大なものであり、帝国内においてもこの機体以外に同様の機種は存在しない。


(セニフ)

「ルワシー!!もう少し引っ張ってよ!!この根性なし!!」


(ルワシー)

「なんだとぉ!!てめぇがもう少し早く旋回しときゃ問題なかったろがよ!!ちょろちょろ動き回ることしか能のねぇドチビに、とやかく言われる筋合いなんかねぇぜ!!」


ありえないほど巨大な体躯に、彼女達の銃火器程度では全くびくともしない重装甲。


持ちえる火器はそれほどに多くは無いが、腹の下に抱えたガトリングガンの威力は、まさにその一発一発が戦車砲に匹敵するほどの威力が備わっている。


しかも、ぶら下げられた両腕の一本が、超強力なスタン系兵器であることが判明すると、彼女達の行動は大幅な制限を余儀なくされてしまう。


低レベルとしか言いようの無い口論を繰り広げる二人には、もはや呆れて溜め息を付くことしかできないのだが、それでもこれほどの巨大兵器を前に、全く手も足も出ない状況で追い回される身ともなれば、沸き起こる苛立ちを周囲に撒き散らしたくもなるのは当然だろう。


しかし、そんな悲観的状況がアパッチ隊メンバー達を支配していた頃、「デカブツ」の行動をつぶさに観察していたハインが、一人自分の口の中でのみ発した言葉を噛み締めるかのように、只管状況を打開するための一筋の光明を見出そうとしていた。


(ハインハートル)

「あれだけの巨体にあの重装甲・・・。いくらGシステムを搭載しているとは言え、案外見掛け倒しかもしれんな・・・。」


先ほどからアパッチ隊のメンバー達を追い回し続けているバスターマンティスだが、素早く旋回を見せるトゥマルクの動きには着いていけないようで、その巨大な自身の機体を持て余している感は否めない。


時間をさかのぼり、このデカブツの行動軌跡を辿ってみれば、それは一目瞭然の円運動であり、攻撃に際しても一撃離脱がほとんどである。


勿論、超硬質な装甲自体の重みを打ち消すGシステムは、彼等にとって驚異以外の何者でもないのだが、それでも実際に物質自体の持つ質量が変化する訳でもなく、一度付いてしまった慣性力を打ち消すためには、それなりに巨大な加速度を生み出すことが必要となるのだ。


このバスターマンティスが背負う超巨大なテスラポットは、その加速度を生み出すための物であろうが、それでも接近戦において素早い旋回を保証するものではないであろうし、急発進急停止すら容易なはずではなかった。となれば・・・。



人が何かに恐怖心を抱くとき、その要因の多くは自分の想像を超えた何かに対する、漠然とした負の感情にかきたてられる事から始まる。


しかし、逆に注意深くそれを観察し、冷静にそれを分析してみれば、大概の事象は自分の認識する常識の枠から大きく逸脱していることは滅多に無いものである。



ハインはこのデカブツが移動する周回軌道上に先回りするようにトゥマルクを走らせると、密集した木々達に遮られて未だ目視することの出来ない巨大な敵の姿を思い浮かべて、確信にも似た自信を抱き始めていた。


このまま突き進めばデカブツが旋回する前に、奴の後ろを取ることが出来る。


幾ら装甲が厚いからと言って、剥き出しの動力部に関しては完全に外殻を張り巡らせる事など不可能な事だ。


(ハインハートル)

「見つけたぞデカブツ!!」


抱いた希望を現実世界で叶える為の第一歩として、彼はいち早くバスターマンティスの後姿をその視界に捉えることに成功した。


TRPスクリーン上に映し出されたその緑色の機体は、機体上部を高くそびえた木々の枝葉に隠されているという、呆れんばかりの大きさを再認識させられるものだったが、彼は即座に装備したASR-RType44の弾丸を鉄甲榴弾に換装すると、鋭い視線で捉えたデカブツの背後を全力で疾走する。


無様にも簡単に背後を取られることとなってしまったバスターマンティスは、未だ追走するルワシー機へと猪突猛進中といった様子で、全く背後から接近するハインの機体に対応を見せる素振りも無かった。


いや、対応する術が無いんだ。


ハインは心の中でそう呟くと共に、さらに搭乗するトゥマルクの機体を増速させる為にフットペダルを強く踏み込む。


もはや彼の脳裏には、そのくわだてがうまくいかなかった時のことなど、少しも描かれていないのだろう。


その巨大な建造物がようやく彼の射程圏内へと捉えられようとした時、突然目の前にさらされた事実に関して、彼は驚きの声を発してしまうのである。


ズッズーーーーーン!!


バスターマンティスの機体が不意に沈み込む様に落下を始めると、その巨大な2本の両足がゆっくりと大地へと舞い降りる。


機体本隊が両足を吊り下げるような体系から、逆に両足が機体を支えるような体系へ。


猛烈な地鳴りを周囲に響かせながら、両足をめり込ませるように大地を削り取っていくバスターマンティスは、急激にその進行速度を緩めていった。


(ハインハートル)

「なんだと!?まさか!?」


この時点で、彼は完全に敵の能力分析を誤っていたのだ。


信じれら無いほどに巨大な機体に、全く攻撃を寄せ付けないほどの重装甲。


勿論、Gシステムの有効無効の切り替えが自在に出来る事など、一般人ですら知っている事実である。


しかし、このバスターマンティスがGシステムを搭載する理由には、絶対に「自重を支えるだけの機体機構が備わっていない」からなのだと、彼は勘違いしていたのだ。


元々、そう言った重さによる機構的難点を克服するために期待されたシステムなのだから、彼の思考は一般的に正しい推測によって導き出されたものであったとも言えるのだが、過酷な戦場においては、時に一般的思考自体が、逆に己の身を窮地に追い込む要因となってしまうことも、少なからずあるのだ。


DQの開発技術力に関して、セルブ・クロアート・スロベーヌ帝国よりもトゥアム共和国の方が数年優位的立場を保ちえるだろうと思われていたのだが、現在彼の目の前にそびえ立つ巨大なDQ「バスターマンティス」は、その展望的人々の思い込みを一掃させるに十分な存在であった。


やがて、大地から生え延びる巨大な2本の両足を軸として、上体をねじる様に向き直ったバスターマンティスの左腕が、ゆっくりとハインの搭乗するトゥマルクに差し伸べられると、異様な砲撃音と共に眩い閃光が彼の視界全てを支配した。


バシュッ!!


この時、即座に回避行動へと転じていたハインは、ありったけの力を込めてフットペダルを踏み込むのだが、もはやそれは無意味な抵抗だったのかもしれない。


バスターマンティスの左腕から放たれた電気的衝撃波は、彼の投じたデコイに引き付けられながらも、その膨大なエネルギーの伝達先として、彼自身の機体を取り逃がすことは無かったのである。


そして、トゥマルクの後部テスラポット付近へと取り付いたその雷光が、一瞬の内にして機体全身へと駆け巡った刹那せつな、真っ白な新型機を黒煙が包み込んだ。


(ハインハートル)

「くそっ!!デカブツの癖に・・・!!」


DQコクピットの周囲を満たしている衝撃緩衝材液体ダンパーが、完全な絶縁効果をもたらしてくれるため、DQパイロットがスタン系兵器の直撃によって、即死してしまうようなことは無い。


しかしこの時、真っ暗闇に閉ざされてしまったコクピットの中で、吐き捨てた一言が彼の最後の言葉となってしまった。

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