01-04:○ルーキー[2]
第一話:「ルーキー」
section04「ルーキー」
(ジェイ)
「マース!!速く雑魚どもを片付けろ!!次の奴がくるぞ!!」
チーム「ウエッジバスター」の一人が叫ぶ。
それまでpoint99において、戦闘を繰り広げていた2チームの内、優位に立っている方で、これからゆっくり敵を殲滅しようかと言うところでセニフ達にチャチャを入れられたため、少々苛立っているようである。
(サックス)
「マース。ファフィアの連中が逃げてくぜ。」
(マース)
「まあ、狩ってもゴミのようなPointにしかならん奴だ。ほっとけ。新人の実力を見るにはちょうどいい。」
そう言うとマースは、しばしの傍観を決め込んだ様子で、ぼろぼろの廃墟と化した商店街の一角、細い小路地へと、操舵するDQの身を隠し始めた。
一方、何やら苛立ちを隠し切れない様子のサックスは、撃破寸前まで追いやった相手チームのことをあきらめきれない様子で、執拗に1ブロック区画内をうろうろとしていたのだが、ふと、一人ではどうする事も出来ない事に気が付いた彼は、不貞腐れたような表情で口を尖らせつつも、結局、マースに従い、狭い横道へと入っていった。
このチーム「ウエッジバスター」はスナイパー1機、ミドルレンジDQ2機の編成で、近接戦は得意としないチームだ。
戦術は、つねに2機のDQが相手との距離を保ちながら戦闘し、隙をみてスナイパーが砲撃すると言うものである。
マースとサックスの搭乗するDQは「ホールスネーク―J5」で、前面に分厚い装甲を持つ「鈍重なDQ」である。
そのあまりの装甲のため両足が前後せず、歩くときは蟹股で歩くことになる。
武器は腹部に取り付けられた「SreGG-20mmナッチャー」のみで、近接戦の不利を玉数で補っている。
ここまできて言うこともなかろうが、「前面防御」は、ほぼ無敵である。
狭い地形を利用して、両翼からの攻撃を封じ込めた上で、前面衝突を余儀なくするこの小路地内にて、このホールスネークに勝てる相手はそう居ないだろう。
そう思いながら、ニヤニヤと薄ら笑いを浮かべ、ゆったりと迎撃の態勢を整えていたマースが、半場、鼻息混りでサーチレーダーを覗き込んだ時だった。
(サックス)
「マース!!ファフィアはどうした!?」
(マース)
「何処行きやがった!?わからねぇ・・・。気がついたら反応がなかったぞ!!」
それまで、余裕の表情さえ浮かべていた、格上たる2人の男が揃って、血相を変えたように周囲辺りの索敵を開始する。
先ほどまでくっきりと映し出されていたチームファフィアの2つの機体反応が、彼らのサーチレーダー上から、綺麗さっぱりと消えうせてしまっていたのだ。
フィールドを展開し、サーチレーダー上の隠蔽したとしても、物凄い速度で突っ込んでくるパングラードと鉢合わせになるはずの航路上で、一体、どうやって隠れたというのだ・・・。
チームファフィアの2機が、初心者の溜まり場から逃げ出しはじめてから、ほんの少しの間だった。マースが商店街へと移動するのに2分、FTPフィールド展開1分、戦闘モードへと移行するのに1分、サーチャー起動レンジ投入まで1分、たった5分の間である。
マースはレンジングスコープを装着しながら、必死に周囲の事態の整理に勤めるのだが、混乱した頭に蔓延る経験と言う名の雑念が、物事の真意にたどり着くことを阻害していた。
(マース)
「あんな短時間で2機のDQを消せるはずがない。しかし、現にファフィアの反応が無くなっている。サーチャーの故障か、そうでなければ化け物なのか。」
実際のところ、チームファフィアの2機を始末したのはTomboyである。
繁華街を前に、道幅が広々と3車線になる郊外で2チームは遭遇したのだった。
勿論、ファフィアの2人が、完全に無防備なままに突進してくる、大馬鹿な1機のDQに気が付かなかった訳ではない。
それなりの警戒心を持って、このパングラードの様子を見守っていたのだが、彼ら2人の意識には、まさかこのまま単独で突っ込んでくるはずがない。
・・・という思いがあった。
彼等の経験上、2対1のDQ戦闘で少数方が勝利する確率はかなり低い上に、まして、無防備での猪突などもってのほかだ。
客観論から言ってもそう判断するのが常識人であろう。
しかし、これは前にも述べたが、「Tomboy」に常識は存在しない。
言ってしまえば凡人たるファフィアのパイロット達には、このような非常時の対策、行動力は全くといっていいほど無いのであろう。
双方遭遇まで20秒を切った所で初めて、ようやく戦闘モードへと移行し始めた2人は、すでにこの時点で、殺気ムンムンのセニフにすでに敗北しているといえる。
新しいタイプのDQをかなり無駄に使いまわし、メーカーの標準値をはるかに下回る時間で戦闘移行をおこなったファフィアは、簡単にセニフに先制攻撃を許してしまう。
パングラードの両手に備え付けられた20mm機関砲の連射音が響くと同時に、まず1機のDQの武装した片腕がぶっ飛び、速くも戦闘不能なガラクタを1つ形成する。
そして次に、セニフはパングラードを横滑りさせながら「ドリフト」状態にもっていき、すれ違いざまにもう1機をいただこうと目論んだ。
結構欲張りな奴だ。
パングラードの前面にマズルフラッシュが激しく点滅し、飛び散る薬莢が点々とパングラードの軌跡を模っていく。
次の瞬間、セニフに狙われた哀れな金属人形からは、眩いばかりの火柱が上がり、周囲に無残な肉片をぶち飛ばすこととなる。
さらにそれと同時に、体制を立て直しはじめた片腕DQも、アリミアの「ASR-LType44」の前に、あっけなく朽ち果てるのだった。
(アリミア)
「へたくそなパイロットね。」
少しばかり残念そうに、アリミアが呟く。
このようなアタック戦法は、チームTomboyの十八番であり、専らセニフが突撃して相手陣内をかきまわし、錯乱した敵をアリミアが狙い撃つ。
そして最後に残ったご馳走を、最年長者であるジャネットが戴くという戦法であり、熟練したパイロットでもなければ、この連続攻撃を凌ぐことは、そう容易ではない。
今回は、ジャネットが敵スナイパーを狙って単独行動に出ているため、3連続攻撃とはならなかったものの、たったの2連続攻撃で退場に追いやられてしまうようなチーム相手には、言うまでも無く、そこまでは不必要であった。