03-06:○作れば壊れる自然の原理[1]
第三話:「作れば壊れる自然の原理」
section06「作れば壊れる自然の原理」
大きな重たい鉄の扉を開くと、そこは真っ暗な闇の中。
じっとりと湿った何も無い空間を飾る壁際のインテリアは、あくまで外見的美しさを保つためのものであり、その本質となる自分自身は、常にその闇の真ん中に位置している。
天井から差し込む光の筋さえ、通さないその真っ黒な球体は、全く外からの呼びかけに応じることも無く、見えない事で安定しているに過ぎない「不安定な物」。
それは、誰しもが持つ表層たる自分とは表裏一体となる影の部分であり、自らの行動に裏なす自分を大量に抱え込んだ重たい重力。
思えば思うほどに中心に。願えば願うほどに中心に。
自分自身の心を基点として、負なる感情を押さえつけるためのみに生まれた悲しき心の病なのだ。
必死になって取り繕い、上辺だけの美しさを求めて着飾った眩いばかりの装飾品は、所詮、すべては脆いガラス細工に過ぎない。
外界から照らす光には反射して、決して簡単に覗くことの出来ないよう、細工が施されてはいるが、一度闇が襲えば簡単に透かして見ることの出来る人の内なる弱み。
それでいながら。それが解っていながら。
人は必死にそのガラス細工を作り上げていくのだ。
誰にも悟られないように。誰にも知られることの無いようにと。
人は必死にそのガラス細工を身に纏うのだ。
いつしか。必ず崩れ去ってしまうことを予感しながら。
今ここに。
外界から完全に隔離された狭い四角い空間の中で、漆黒の球体が4つ蠢いていた。
その中央には質素なテーブルが一つ置いてあり、その四隅に椅子が並べられている。
そして、テーブルの上には、埃を被ったコップが6つほど放置されていて、硬く閉ざされた鋼鉄の壁の傍には、小さな段ボール箱が幾つも積み重ねられていた。
それは何か倉庫に使用していた部屋なのだろうか。
静かに澄んだ空気の中に、頭上から齎された淡い光に映し出された塵が、フワフワと目の前を横切っては消えていく。
そんな陰湿な現実世界に、4人の男女が規則正しく、並べられた椅子の上に座っていた。
一人は何やら難しそうな表情を浮かべ、テーブルの上に右肘を突いたまま、じっと何かを考え込んでいる金髪の少年が一人。
彼はどうやら、右足の太腿を負傷しているようだが、特にそれを痛がる様子も無い。
彼は元々、集まった4人の内の一人の少女と共に、とある女性を探していただけなのだが、その女性の提案によりもう一人を加えて、たまたま見つけたこの小部屋に集まることになったのだ。
彼の目の前には、三人の女性が座っていた。
左手に座っている女性が、彼の探していた女性であり、長く伸びた紅い髪の毛を邪魔にならない程度に首元で結び、負傷した右腕を包帯で肩から吊り下げて、じっと正面の女性を見つめているようだった。
その彼女の正面に座る女性は、抹茶色の癖毛が特徴的な背の高い女性で、椅子の上で両足を抱えたまま、顔を埋めるようにしてしきりに泣いている。
かなり辛いことがあったのだろうか、決して彼女が泣き止む様子はない。
そして、そんな居心地の悪い雰囲気の中、彼の正面で項垂れたまま、じっと身動きをしない赤毛の少女が一人。
長く垂らしたその髪の毛で顔を隠し、必死に自分の世界へと閉じこもろうと努力する彼女。
お互いが心の内に秘める漆黒の球体は、其々(それぞれ)が持つその重みによって引かれ、次第に近づけば近づくほどに色濃く交じり合う。
他の誰かに助けてもらうことで、自分の体が軽くなるというのに。
他の誰かに触れることで、自分の思いが軽くなるというのに。
着飾ったガラスの鎧にガラスの盾を翳して、決して誰も寄り付かないように身構えているのだった。