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Loyal Tomboy  作者: EN
第三話「作れば壊れる自然の原理」
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03-05:○辿りし道の色

陸軍養成学校を陸軍士官学校に変更しました。

第三話:「作れば壊れる神前の原理」

section05「辿りし道の色」


鋼鉄の壁に四方を囲まれた小さな部屋の中に軽いノック音が響き渡る。


部屋の両側には小さなベッドが上下に2つづつ設置されており、外を覗く為の小さな小窓すら無い。


部屋の中を照らす電灯も、一つしか取り付けられておらず、被ったほこりさえぎられたその光は、どこか弱々しくちらついていた。


そんな陰気臭い感じの漂う密閉された部屋は、セロコヤーン陸軍基地へと向かう、重爆撃機ガーゴイル2の仮眠部屋だ。


金属をった様な嫌な音を発して鍵が開けられると、小さな扉を開いて、若い三人の男女が狭い部屋へと入室してきた。


(サルムザーク)

「ゼフォン特佐。サルムザーク予備佐官以下2名入室いたします。」


(ゼフォン)

「何か用かね。」


扉の前に立って、部屋の主に対して敬礼をして見せた3人の内、一番中央に立つ小柄な少年。


黄緑色の細い髪の毛に、少し華奢な体つき、そして深緑の瞳がとても奥深げな好少年で、名前を「サルムザーク・ハイフィリツ」という。


胸からぶら下げられた軍章は、未だ「尉官」クラスの物だったが、彼はこのたび、最年少18歳での「陸軍三佐」の官位を受けることが決まっていた。


(サルムザーク)

「いえ。御挨拶を兼ねて、少し様子を伺いに参りました。」


(ゼフォン)

「むぅ。将来有望な陸軍最年少佐官の来る様な場所ではないと思うがね。」


そう言って、ギロリと威風いふう漂う目つきでこの若者を睨み付けた高年男性が、ツルツルに剃り上げられたスキンヘッドを擦りながら、ゆっくりとベットから上体を起こす。


彼の名は「ゼフォン・ウィリアムズ」。


トゥアム共和国陸軍内では、かなりの権限を持つ大物司令官であり、ブラックポイント駐留軍の総司令官として、トゥアム共和国北方一帯を長年守り通してきた功労者でもある。


何故、彼のような偉大な人物が、このような監獄にも等しい小部屋に、押し込まれているのかというと、それは、つい数時間前に発生したブラックポイントでの事件が関係していた。


事件を引き起こしたセルブ・クロアート・スロベーヌ帝国が、トゥアム共和国へ宛てた通知文書の中に、帝国の反逆者たるロイロマール家に加担する共謀者として、彼の名前が記載されていたからなのだ。


つまり今の彼は、BP事件を引き起こした重要な容疑者として、共和国政府の事情聴取を受けるために、囚われの身となっていたのだ。


(ゼフォン)

「わしはもうすでに防衛司令官でもなんでもない。後任にはサクラギ一佐が繰上げで就任する事になったそうだ。君は新設部隊を任されるようだが、本当に若い衆3人で本当に大丈夫なのかね。」


(シューマリアン)

「御言葉ですが、心配事ならばご自分の事を、優先してされた方がよろしいかと思いますが。」


ゼフォンが静かに若者達3人を見上げ、老婆心ろうばしんながらの思いを連ねていると、サルムの左脇に立っていた大男が口を挟んだ。


彼の名は「シューマリアン・ベルナール」。


大男といっても縦に大きいのではなく、横に大きく太った男で、よく肥えた大きなお腹に、若いながらも薄っすらと禿げ上がった頭が特徴的な男性だ。


見た目ただのオッサンにしか見えない彼だが、驚くべきことに彼はまだ30歳になったばかりである。


普段から温厚で、何事にも動じないゆったりとした性格の彼は、軍階級「技術三尉」で、一般的に部隊兵器の整備と管理を担う人物である。


(カース)

「事件発生時には一体何をしてらっしゃったのかしら?パーク見学?それとも御昼寝?平和ボケなされて、良い様に蹂躪じゅうりんされたと伺ってますが。」


(ゼフォン)

「有事に対する軍の対応に関しては特に問題は無かったはずだ。わしは彼等の対応に不備があったとは思っておらん。わし自身の対応には、多少問題が有った様だがな。」


全く自身の行動を弁解するでもなく静かに語ったゼフォンを、なにやら厳しい目つきで睨み付ける女性が一人。


サルムの右脇に立つこの女性の名前は「カース・イン・ロック」。


軍階級「陸軍作戦軍曹」である彼女の任務は、主に部隊の作戦立案となるのだが、それ以外にも部下の育成や管理、部隊運営に関するプランの作成や管理、更には部隊の作戦指揮まで行う権限を有する、非常に難しい役割を担うことになる。


彼女は新しい部隊の設立メンバーとして召集されるまでは、陸軍仕官学校の教官として猛威を振るった「鬼教官」でもある。


しかし、兵士達から恐れられた鬼教官の身なりは実に不思議で、分厚く塗られた派手な口紅に、耳元ではピアスがキラキラと光っている。


そして何より、黒髪の間から覗く白いバンダナが特徴的で、どこからどう見ても鬼教官たる威風いふうは感じず、27歳の彼女はとても女性的な格好をしていた。


まさにそんな両極端な二人をたずさえる、これまた不思議な最年少佐官。


こんな3人が一つの部隊を任されると聞いた人は、一体どんな思いを抱くだろうか。


(サルムザーク)

「カース。シューマリアン。特佐と二人で話がしたい。少し席を外してくれるか?」


サルムがゆっくりと手をかざし、そう二人に部屋を出るよう指示をすると、カースは、なにやらに落ちないような不満げな表情で、サルムに方に視線を向けた。


彼女としては、これからサルムを補佐する立場の人間として、様々な情報に精通しておかねばならず、このように自分の上官たる人物から、どれだけ重要な会話なのだとしても、疎外されたことに不満を抱いたのだろう。


しかし、言われるがままに部屋の扉を開いたシューマリアンの姿に、小さくふくれっ面をしてみせると、仕方無さそうに彼の後に続いて部屋を後にした。


そしてやがて、狭い小部屋に若い男と高年男二人だけを残して、ガチャリと小さな扉が閉められた。


(ゼフォン)

「むぅ。あの二人で本当に大丈夫なのかね。」


(サルムザーク)

「能力的には全く問題ありません。」


部屋の外へと姿を消した二人の気配を耳で追いながら、しばしの時を置いて部屋に残された二人が会話を始めた。


なにやら元々お互いを知っているような話し振りではあるが、これから新設する部隊において、腹心として重宝したいはずの二人を退席させてまで、したかった話とは一体何なのであろうか。


それまで仕切りに辺りを警戒する素振りを見せたままゼフォンだが、ゆっくりとうなずくサルムに促されると再び口を開いた。


(ゼフォン)

「今回の事件を発端に、帝国内部で今後大きな動きがあると見るのが妥当だろう。恐らくは共和国側もそれに気が付いているはずだ。このわしの身柄を即座に拘束した手際の良さといい、元々そういう運命にあったのだろうな。」


(サルムザーク)

「これまで特佐がどれだけ共和国の為に尽力じんりょくしてこられたか。共和国政府にはそれが解る人物が居ないということなのでしょうか。」


(ゼフォン)

「もはやわしの様な老いぼれに出来ることなど、有りはしないのだよ。これがわしの最後の仕事なのだ。」


(サルムザーク)

「まさか特佐・・・。ご自身で・・・。」


突然、驚きの表情を浮かべたサルムの顔を覗き込みながら、ゼフォンは小さく笑って見せると、再び小さく喉をうならせて小首をかしげた。


(ゼフォン)

「むぅ。わしぐらいの上役になると、色々と小面倒なこともせねばならぬ。幾ら綺麗事を並べて民衆の支持を集めようと、振るう力が純白の力だけでは、守れるものも守れないのが世の常。様々な色を必要な時に必要なだけ織り交ぜて、思う理想を目指して描き出すのだ。君にもきっと、解る時が来る。もっとも、意に沿った色を生み出すのは、非常に難しいものでな。時に全く違った異物を生み出してしまうこともあるのだ。勿論、それらはなるべく、わしが一緒に洗い流してやろうと思っとるがな。」


そう自分の思いを連ね出すゼフォンは、まるで自分に最後の時が訪れた様な口ぶりでサルムに語り続ける。


それまで彼が抱き続け、理想という真っ白なキャンパスに描き出した、自分という生き様を。そしてこれからを担う若人に対して。


激しい動乱期を生き延びてきたであろう高年の男性は、今や落ちぶれたように狭い小部屋のベッドに座り込んで、ツルツルのスキンヘッドを擦る事しか出来ないのだが、サルムは決して礼を失することの無い態度のまま、この高年男性の姿をじっと見つめていた。


(ゼフォン)

「君の・・・。・・・いや。よそう。もはや君は私の部下でも何でも無い。ましてや君が「それ」に縛り付けられる必要もない。今や君はもう立派な士官の一人だ。君自身が抱く信念に向かって、自由に日々精進するが良い。」


(サルムザーク)

「いえ。私などまだまだ単なる若輩者。特佐のお力添えが無ければ、とてもここまでは・・・。」


(ゼフォン)

「なに。謙遜けんそんするな。わしにしてやれたことなどほんの些細ささいなことだ。それに・・・。君には悪いことをしたな。もう少し私に力があれば、何とかしてやれたのだろうがな。」


(サルムザーク)

「もはやそれは、時間の問題だったのでしょう。特佐がなされてきた事には、本当に感謝しております。」


そして二人の間にしばし沈黙の時が訪れると、身じろぎもせずに一言も言葉を発さないまま、見合う視線に意思を乗せて語り合う。


お互いにまだ、色々と語り合いたいことは有ったのだろうが、それでもこの高年男性は、今や国家反逆者として身柄を拘束される身だ。


どうやらサルムは、この人物を相当に慕っているようであったが、これ以上無為に長々と会話を続ける事も出来ないのだ。


(ゼフォン)

「むぅ。では、そろそろ君も行くが良い。これ以上、このわしに関わりあうと、ろくな事は無いぞ。」


(サルムザーク)

「解りました。それでは特佐。お体にお気をつけて。」


そう言うとサルムは、この高年男性に向けて、一つ敬礼をして見せた後、更に深々と頭を下げて見せた。


そして、ゆっくりと振り返り、扉の取っ手に手をかけようとした時、ゼフォンが別れの言葉の変わりに、一つだけ忠告を発した。


(ゼフォン)

「むぅ。今度、君の上役となるグラフティ一佐は相当の切れ者だ。彼は強行派の人間で有能な人物なのだが、切れ過ぎるのが玉にきずでな。相応の覚悟で望んだ方が良いだろう。」


(サルムザーク)

「ご忠告ありがとうございます。心しておきましょう。」


サルムはそう言って、ゼフォンに小さな笑みを返すと、ゆっくりと小部屋の中から身を乗り出して扉を閉める。


そして、その扉の鍵をかけた時、彼の表情は次第に強張ったものへと変貌していた。


細い通路に響き渡る甲高い飛行音を身体に受けながら、彼はまっすぐに伸びた通路を一人歩み始めるのだった。

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