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Loyal Tomboy  作者: EN
第三話「作れば壊れる自然の原理」
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03-04:○知らないということを知ること[2]

第三話:「作れば壊れる自然の原理」

section04「知らないということを知ること」


「過去、人種、身分、性別を一切問わず、且つ、一方的な干渉、詮索を禁ず」


お互いに幸せを求めて作り上げた制約に縛られ、それでも今までは、その小さな檻の中で満足げな表情で楽しく過ごせて来れた。


しかしそれは、本当にお互いが望んだ事なのだろうか。


知られたく無い。だから知りたくも無い。


それでは全くの赤の他人も同然。


お互いに知り合うからこそ、真に心の底から安心して楽しめるのであって、知らない事を突き通すことは、どこか心に不安を抱えたまま、後ろめたい気持ちにさいなまれ続けなければならないと言う事だ。


本当に知らないということは、本当に幸せなこと。


知らないという事実を突きつけられて初めて、人はその知らないという事に対しての不安を抱くもの。


その知らないという事実を知ってしまった以上、その心の闇へと引きずり込もうとする、不安という魔の手から逃れるすべは無い。


その真の事実が照らす光によって、その闇をかき消してしまう以外には・・・。


シルは突然、思い立ったようにセニフの方に向き直ると、じっと彼女の表情を伺うように視線を送る。


しかしセニフは、この彼の視線に気づいてはいたのだろうが、何故かそれに気づかないフリを通し、ずっとうつむいているだけだった。


(シルジーク)

「セニフ・・・。お前さ・・・。」


(セニフ)

「いや。お願いだから。聞かないで・・・。シルが何聞きたいかって。そんなの・・・。解ってるよ・・・。」


シルの方に視線を向けるでもなく、ずっとどこかを見据えたままのセニフは、即座にシルの言葉に拒絶反応を見せた。


そんなセニフの態度に、大きく一つ溜め息を付いて見せたシルだが、彼女からそういう返事が返されるであろう事は、もうすでに解っていたことだ。


セルブ・クロアート・スロベーヌ帝国出身で現在16歳。


細く長い赤い髪の毛に、元気がよく人懐っこい性格の小柄な少女。


DQの操作に優れ、動体視力、運動神経は抜群だが、判断力、精神力に乏しい少女。


シルが彼女について知っている事とは、たったこれぐらいなものだ。


(シルジーク)

「俺はさ。今までそれで良かったのかなって。ずっと思ってたんだ。今が楽しけりゃそれで良いだろって・・・。」


(セニフ)

「私は今まで通りで良いよ。」


と、不貞腐ふてくされたような表情で返事をしたセニフが、ギロリとシルを睨み付ける。


どうやら彼女は一歩も引く気は無いようだ。


彼女がそこまでひた隠しにするものとは、一体何なのであろうか。


セニフを狙って襲い掛かってきたあの集団は完全に戦闘集団だった。


あの女が言っていた通り、奴等が帝国の人間だとするならば、一体、何を目的としてセニフを連れ去ろうとしたのか。


そして、あのユァンラオとか言う男の目的は何なのか。


再び、セニフを狙って動き出すのだろうか。


恐らく彼が抱くその謎を解く鍵を握るのは、この少女であることは間違いない。


あの住宅街での戦闘からずっと、シルの脳裏に渦巻いて離れないこの疑念は、時を追う毎にどんどん膨れ上がり、彼の心で大きな不安を掻き立てるのだった。


あれだけ大きな事件に発展したのだ。それは無理も無いことであろう。


(シルジーク)

「なぁ。セニフ。落ち着いて・・・。」


(セニフ)

「やめて。お願いだから・・・。」


それまで優しい口調で話しかけようとしたシルだったが、頭ごなしにすべての会話を遮断するセニフの態度に、少々苛ついた様子で荒らげた声を彼女にぶつけてやった。


(シルジーク)

「セニフ。お前さ。あんな事があっても俺に黙ってろって言うのか?俺はそんなに信用無い人間なのか?まさかあんな事が起きるなんて思っても見なかったけどさ。少しぐらい教えてくれても良いんじゃないのか?」


シルの言葉に反応してかしないでか、セニフはゆっくりと抱えた両膝の間に顔を埋めてうずくまる。


(シルジーク)

「なあ・・・。恐らくあの男もこのガーゴイルに乗っているんだろうし、ひょっとしたらまた、襲って来るかもしれないぜ。そんな時、何も知らないんじゃ、俺にはどうする事も出来ないじゃないか。」


少しだけ。ほんの少しだけ。また襲われるかも知れないというシルの言葉に、ピクリと反応を見せたセニフだったが、決して彼女から良い返事が得られることは無い。


そして、ゆっくりとセニフの肩に手をかけたシルが、再び優しく彼女に語り掛けようとした時、その手を振りほどこうと身をよじった彼女は、不機嫌そうにシルを睨んでポツリと吐き捨てた。


(セニフ)

「・・・いいよ。放っておいて・・・。シルなんかにどうする事も出来ないよ・・・。もう、ほっといてよ!!」


このセニフの態度に、今度はシルが半分キレかけた。


せっかく人が心配して言ってるというのに、何たる言い草・・・。


この女・・・!!ほんと・・・!!


(シルジーク)

「この我儘女!!自分勝手!!放って置けるわけ無いだろうが!!単細胞が!!」


(セニフ)

「何だよ!!シルには関係ないんだからほっときゃ良いじゃん!!このお節介!!怒りんぼ!!」


(シルジーク)

「人の気も知らないで!!せっかく心配してやってんのに!!このチビ娘!!能天気!!洗濯板!!」


(セニフ)

「んなっ!?そこまで言う!?この無神経!!気分屋!!ひねくれ者!!」


突然、声を大きく張り上げて、口論を始めた二人だが、よくもまあ、こんな周囲に人がごった返す狭い空間の中で、完全に低レベルともいえる子供の罵り合いが出来たものだ。


二人の罵り合いは、この後もしばらく続くことになるのだが、周囲の人々からの冷やかで好奇な視線に晒されていることに気がつくと、その恥ずかしさに耐えられなくなり、二人揃ってスゴスゴと身体を小さく丸めて黙り込んでしまった。


シルは、何もこんな幼稚な言い合いをしたいがために、セニフに突っかかったわけではない。


そして、セニフもまた、そんなシルの思いが解らない訳でもないのだが、決して二人の思いが交錯する事もなく、ひたすらに無駄な時間が流れていくだけだった。


頭を抱え込んで項垂うなだれるシルは、大きく溜め息をつくと、疲れたような口調のまま呟いた。


(シルジーク)

「どうすんだよ。・・・これからさ。」


(セニフ)

「そんなこと・・・わかんない。・・・・・・わかんないよ・・・。」


彼女自身、本当にどうしていいのか解らないのだろう。


先ほどの勢いとは打って変って弱々しく、うつろな表情のセニフが再びうずくまる。


彼女が何かに脅えていることは確かだが、一体、何に脅えているのかは解らない。


それでも、セニフにもし何かあった場合、どうにかして守ってやりたい気持ちは当然ある。


しかし、当の本人がこれほどまでに協力を拒むとなると、それも中々に難しい。一体、どうすれば・・・。


(シルジーク)

「なあ、セニフ。アリミアを探しにいかないか?」


(セニフ)

「・・・。」


悩んだシルが唯一頼れる人物。それはもう、アリミアをおいて他には居ないだろう。


彼女はセニフとも仲は良いし、それに、どこか頼りがいもある。


もはや自分の力だけでは、このセニフの心の扉をこじ開けることは、不可能だとシルは悟ったのだ。


セニフはこのシルの提案に対して、またもや沈黙を持って拒否したのだが、今度こそはとばかりに、痛む右足を酷使して無理やり立ち上がった。


(シルジーク)

「痛っ・・・。」


(セニフ)

「ちょっと・・・。無茶しないでよ。その足で。」


そして、心配そうな表情でシルを見上げたセニフに向けて手を差し伸べると、躊躇ちゅうちょする彼女の手をつかみ取って、強引に引き起こした。


(シルジーク)

「ほら。セニフ。行こう。ちょっと肩を貸してくれ。」


(セニフ)

「あぁ・・・ちょっ・・・。・・・うん。」


何かを思いつめたような表情のままのセニフだったが、有無を言わさず肩へと手を廻したシルが促すと、彼女は仕方無さそうにそう答えた。


彼女は正直、アリミアに会いたくはなかった。しかし、本当は怪我をしたアリミアを心配し、すぐにでも会いに行きたい気持ちが強かった。


それでも彼女と会うことを拒もうとするのは、彼女の怪我の原因が、自分にあるのだと解っているためであり、これまで何度となく自分のことを気遣い、色々と問いかけてきてくれたアリミアが、今回の事件で黙っているはずが無いと感じていたからだ。


それでも、一生、アリミアと会わずに過ごすこともできないだろうし、いつかは会って「やり過ごさなければならない」のだろう。


セニフは気が進まないながらも、シルと一緒にアリミアを探し始めた。

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