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Loyal Tomboy  作者: EN
第二話「Royal Tomboy」
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02-19:○映し出された終焉

第二話:「Royal Tomboy」

section19「映し出された終焉」


暗い夜空に輝く紅1つ。もう周りには誰もいない。


風の吹く音さえも・・・。光り輝く太陽さえも・・・。


「うっぅ・・・。」


何かを見ていたつもり。何かを聞いていたつもり。何かを感じていたつもり。


それまで多岐に渡って示された道標も、今はもう1つしか示さない。


すべての可能性は闇へと飲み込まれ、儚くも消え去ってしまった。


「痛っ!!。何・・・?右の頬が・・・。」


暗い夜空に輝く紅1つ。何かを求められていたつもり。何かを話していたつもり。何かを与えていたつもり。


それでも、そこには結局、自分一人しか居なかった。


何気なく辿る道筋に、孤独さを隠し切れないまま、表層の暖かさに触れて、ただいやされていたいだけだった。


「何か?何が起きたの??。何か変・・・??」


ズキズキと痛みの走る右の頬をさすりながら、ひしゃげたラプセルのコクピットハッチの隙間から差し込む、ほんの少しの木漏れ日に目を細める。


真っ暗な一人ぼっちの世界へともたらされた一寸の光は、包み込むような優しさを携えた綿毛の様でもあり、また、自分を映し出す程に研ぎ澄まされたナイフの様でもある。


抱いた真っ黒な影へと突き刺さり、偽りの自分をもろくも簡単に消滅させるほどの純粋さ。


眩しい・・・。


未だ光に慣れない視力の代わりに、手探りで周囲の状況を確認する。


(ジャネット)

「そうだ・・・。ラプセルの稼動確認中に・・・。」


ようやく自分に起きた出来事を思い出したジャネットは、すぐさまラプセルのメインスイッチを探し始める。


普段から使い慣れたコクピット内部の構造は、たとえ何も見えない状況でも、ある程度どこに何があるのかは解るものだ。


確か、システムカードは刺しっぱなしだったはずよね・・・。えーと・・・。あ、あった。


彼女は簡単に見つかったメインスイッチの電源キャップを開くと、人差し指でそのボタンを少し長押しにする。


すると、周囲にパチパチッという軽快な電気音が広がった後、目の前のTRPスクリーンに明かりが灯り始める。


そして、静かな駆動音にあわせて、ディスプレイ右下から、システムメッセージが流れ出した。


(ジャネット)

「スクリーンは大丈夫みたいね。」


随時表示されるシステム情報には、DQ駆動システム上に深刻な障害が発生したことが示されていたが、どうやらスクリーン系には、さほど大きなダメージは無いようだ。


ジャネットは、すぐさまTRPスクリーンを、外部カメラにリンクするようコマンドを打ち込むと、次第にスクリーン一面にじわり外の世界が浮かび上がってきた。


この時ジャネットは、眩いばかりに光が差し込む明るい風景を、脳裏に思い描いていたのだが、何故か彼女の目に飛び込んできた風景とは、今までとほぼ変わらぬ薄暗い映像であった。


(ジャネット)

「何・・・?これ?」


彼女の目の前に映し出された風景。


それは、サフォークの作業ミスによって、あべこべな表示のままだったのだが、大量の鉄骨や配管がスクリーン一面を覆っていたのだ。


ラプセルが身動き取れないわけだ・・・。


恐らくは爆風によって破壊されたハンガーの外壁が崩れ去り、ラプセルの機体を完全に埋め尽くすほど山積したのだろうと予想できるが、この状態では自力で脱出することなど不可能である。


ジャネットは憂鬱ゆううつな表情のまま、深々とシートに腰を据えると、大きく溜め息を付いてしまった。


誰かが助けに来てくれるまで、どのぐらいかかるのかしら。


まさかこのまま誰も助けに来ないなんて事は・・・。無いわよね・・・。


それにしても、そこまですごい爆発だったのかしら。


こんなに残骸に埋め尽くされてしまうなんて。


ラプセルの中に居たから助かったようなもの。


もし、外にでも居ようものなら・・・。


(ジャネット)

「!?」


ジャネットがふと、あべこべに表示されている、TRPスクリーンパネルの一つに何かを見つけた。


赤い・・・?ペンキ・・・?いえ・・・。これは血・・・?人の血なの・・・??


彼女が見据える視線の先には、折り重なる瓦礫の上を伝う真っ赤な鮮血があった。


ジャネットの視線が、彼女の意に反して、その源流となる元へと血の流れを辿って行く。


そして、たどり着いたその先の映像に、思わず目を丸くしたジャネットは、ハッとした様子で両手を口に当て、しばらく呼吸が出来なくなってしまった。


折り重なる鉄骨の奥から這い出した人の腕。そしてその隙間から流れ出す大量の血。


明らかにそこで、誰かが下敷きになっている様だった。


全く動くことも無いその手から、視線を外すことが出来ない。


このシャツの袖・・・。このシャツの色・・・。・・・・・・見た事がある。


そう言えば、マリオはどうしたのだろう。サフォークは?


爆撃の寸前、どこかに走って行く所までは見たけど・・・。大丈夫だったんだろうか。


まあ、あの子の事だから。きっと大丈夫よね。


きっとそのうち、私の事も助けにきてくれるわ。


(ジャネット)

「・・・・・・・・・嫌・・・。そん・・・・・・な・・・。」


いつもそう。マリオは人見知りが激しいけど、私なんかより、ずっとしっかりしていて、賢いし、要領は良いし。


私なんかより、ずっと優しくて、たくましいし、頼り甲斐があるし。


マリオは私の大切な弟。私はマリオをずっと見守ってあげたい。


大人にあこがれて、背伸びしているマリオが可愛くて。キスしたくなるほど可愛くて・・・。


馬鹿って言われたっていいんだ。私はマリオが大好きなんだもの。


(ジャネット)

「や・・・。ウソ・・・。ウソよ!!」


脳裏を駆け巡る思考とは別の場所で、非情にも疑念が確信に変わる。


絶対に信じない!!


絶対に信じない!!


絶対に信じない!!


でも・・・涙が止まらない。・・・震えが止まらない。



サフォークの馬鹿・・・。一体、何映しているのよ。全然違う物映してさ・・・。


後でとっちめてやるんだから・・・。


馬鹿・・・。


馬鹿・・・。


(ジャネット)

「いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあっ!!」


暗く、狭い部屋に木霊した、思い届かぬ悲しき叫び。


人の道は必ず一つに収束する。死という末路へ向かって。


そして、真っ黒で見えない鋭い刃で、残された者の心の奥底をえぐり、決して消えることの無い傷を刻むのだ。

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