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Loyal Tomboy  作者: EN
第二話「Royal Tomboy」
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02-17:○開戦の雫[6]

第二話:「Royal Tomboy」

section17「開戦の雫」


それまで周囲に響き渡っていた激しい戦闘音が鳴り止み、小鳥のさえずりさえ聞こえてきそうなほど、シーンと静まり返った廃都市の中で、キョロキョロと辺りを見渡す少女が一人。


視線の先には目指す工場がもうすでに見えてはいたのだが、どうやら先ほどこの地域で繰り広げられていた戦闘において、一番近い大通りが廃ビルの瓦礫で埋まってしまい、別の道を選択している最中だったようようだ。


しかし、元々捨て置かれた廃都市部な上に、過去にDQA大会の戦闘エリアにもなったこのエリアには、そんな都合の良い裏道が残されてる訳もなく、しばし、彼女はこの近辺を走り回っていたようだ。


そんな彼女が、とある小道を通り抜けて、少し大きめの通りに飛び出した時だった。


決してそれが、何かの気配を発しているような雰囲気はなかったが、漆黒に彩られた大きな物体に気づいた少女は、少し不思議そうな表情で左手の方に向き直る。


DQ・・・?漆黒のDQ・・・。これって・・・。


彼女が飛び出した小路地のすぐ左手に立ち尽くしたままの大型のDQ。


それは、昨日少女が戦闘を繰り広げた漆黒のDQ「リベーダー2」だった。


未だ市場にも出回っていない最新型のDQが、そんなに数多くブラックポイントにあるはずもない。


まさか・・・。カーネルのDQ・・・?


少女はしばらくの間、呆然ぼうぜんと立ち尽くしたまま、その漆黒のDQを見上げていたのだが、やがて、真っ黒な上半身の前面装甲がゆっくりと持ち上がり始めると、一人の男が彼女の前に姿を現した。


その男とは、真っ黒なオールバックに無精髭を携えた大男「ユァンラオ・ジャンワン」。


完全に開ききったリベーダー2のコクピットハッチに身を乗り出して、遥かなる高みから少女を見下ろしたその眼光は、冷たいナイフの様に少女の身体に突き刺さり、その行動のすべてを縛り付ける。


激しい怒りと憎しみを抱いて。激しい恐怖と不安を抱いて。


必死になって少女が追いかけていたはずの男。


その男がまさに、少女の前に自ら姿を現したのだ。


しばし、唖然あぜんとした表情でその男を見つめていた少女だったが、


次第に彼を睨め付けるその眼光に鋭さが増し、ようやく物凄い威圧感さえ放つ男の視線に、戦いを挑むのだった。


(ユァンラオ)

「ふっふっふ。何か言いたそうな目だな。」


(セニフ)

「お前・・・・・・。これから一体・・・。何をしようとしているの?」


(ユァンラオ)

「うん?」


(セニフ)

「一体、何をしでかすつもりなのかって聞いてるんだよ!!」


(ユァンラオ)

「さぁな。相手も帰ったことだ。ハンガーに戻ってゆっくりとタバコでも・・・。」


(セニフ)

「そんなことを聞いてるんじゃない!!」


セニフの激しい怒気が、立ちはだかる男に向かって襲い掛かる。


しかし、まるで微風そよかぜでも吹いたかのような涼しげな態度のユァンラオは、ニヤニヤと不気味な笑みを浮かべるばかり。


決してセニフの問いにまともに答える様子など全く無いようだ。


(セニフ)

「なんで・・・。なんで私を付け狙うんだよ!お前・・・。お前が一体、私の何を知っているって言うの!?」


(ユァンラオ)

「さて・・・。知らないから知りたいんじゃないのか。それとも貴様が教えてくれると言うのか?」


(セニフ)

「ふ・・・!!ふざけんな!!」


(ユァンラオ)

「ふっふっふ・・・。まあ、貴様などに教えてもらわなくとも、真実は必ず明らかになる。楽しみだな。」


見下ろすその表情に浮かべた、悪魔のように恐ろしい微笑が、セニフの背筋を凍りつかせる。


何を言っても無駄なことは解っていた。


解っていながらにして、それをただ見過ごす訳にはいかなかった。


しかし、一体、それを阻止するために、自分は何をすれば良いのか。


どうすれば良いのか。それが彼女には解らなかったのだ。


(セニフ)

「もう放って置いてよ!!私のこと・・・。お願いだからもう放って置いて!!」


(ユァンラオ)

「なぁに。取るに足らん奴ならそのまま捨て置くさ。それとも何か?貴様自身が、自分を取るに足らない人間だとでも言いたいのか?」


(セニフ)

「・・・そ。・・・そうさ。私みたいな小娘の事調べて・・・。一体何が楽しいんだよ!!私の事調べたって、何もないよ!!絶対にやめて!!お願い!!」


(ユァンラオ)

「あっはっはっはっはっは!!貴様は面白いことを言うな。それだけ必死になるということは、それだけ自分が隠したい、何かがあると言うことか?ふっふっふっふ。」


(セニフ)

「っち!ちが・・・。そんな訳ないじゃん!私は!・・・。・・・・・・・・・。私はただ・・・。」


(ユァンラオ)

「ただ・・・。何だ?」


(セニフ)

「・・・・・・。ただ・・・。」


次第に言葉を弱めていくセニフに、ユァンラオが問いかける。


いや、問いかけるというよりも、誘導的尋問のような感じであろうか。


ユァンラオは不気味な笑みを浮かべ、一つ一つセニフの発した言葉に対して、重たくて頑丈な錠前を、ゆっくりと、いたぶる様にぶら下げていく。


自らの身を守るために発した言葉すら、自らの身を滅ぼしかねない爆弾となりえる状況で、一体、彼女に何が出来るのだろうか。


泣き叫び、許しを請うて、この男の目の前にひれ伏せば良いと言うのだろうか。


(セニフ)

「・・・何が望みなの・・・?」


力なくうなだれる彼女が、うつむいたまま、再びユァンラオに言葉を発する。


このとき、もはや彼女の表情からは、攻撃的意思が消え去ろうとしていた。


(ユァンラオ)

「無駄だ。俺の望みとは、恐らくは貴様が一番知られたくない事実を暴くこと。たとえ貴様が逃げたとしても、地の果てまで追い詰める自身はある。まあ、貴様が俺の奴隷になると言うのなら許してやっても良い。数年も経てば高く売れそうだしな。ふっふっふ。」


(セニフ)

「な・・・!?だ・・・誰がお前なんかに!!」


(ユァンラオ)

「あっはっはっはっは!良いぞ。その目だ。その気概だ。」


突然に高らかに笑い出したユァンラオを睨み付けるセニフは、ギュッと拳を握り締め、再び激しい敵意を彼にぶつけ始める。


(ユァンラオ)

「ふっふっふ。貴様のその勇気に免じて、良いことを教えてやろう。今ブラックポイントを攻撃している輩は、さっき貴様等を襲った集団とはまた別者だ。奴等の狙いは貴様ではなく、恐らくはストラントーゼ家の手の者だな。」


(セニフ)

「お前ら本気で・・・!お前らの目的は何なんだよ!!それも依頼人の指示なの!?まさか・・・。お前らの依頼人って・・・。」


(ユァンラオ)

「ん?何だ?なんか知っていそうだな。言ってみろ。」


(セニフ)

「・・・くっ・・・。」


そう言って興味津々な冷たい視線を送るユァンラオに、思わず問いかけたくなる言葉を胸に秘めながらも、彼女は決してその扉を開くことは出来なかった。


勿論それは、自分の首を絞めかねない爆弾である可能性を秘めているのだから。


(ユァンラオ)

「まあいい。とりあえず俺の仕事はここまでだ。後はゆっくりくつろいで待つとするか。」


再び黙り込んでしまったセニフを前に、最後に大きくニヤけた表情を浮かべたユァンラオは、ゆっくりとリベーダー2のコクピットの中へと姿を消していく。


(セニフ)

「ま・・・待て!!待ってよ!!」


決して実らない会話を繰り返すことになるであろう事を解っていながらも、セニフは必死に彼を呼び止めるのだが、そんな彼女の静止を完全に無視するかのように、リベーダー2のコクピットハッチが閉じられていく。


そして、巨大な人型兵器を前にどうする事も出来ないセニフを他所に、メインエンジンを始動し始めたリベーダー2のバーニヤが赤々と点滅を始めた。


やがて、ゆっくりと横滑りを始めたリベーダー2は、セニフが佇む位置から少し離れると、一気に吹き上がらせたバーニヤ音を周囲にぶちまけながら、その場を立ち去って行った。


しばし吹き荒れた生暖かい風に晒されながら。


見上げた空の向こうに、彼女は一体何を思ったのだろうか。


激しく彼女の心を包み込んでいく恐怖心と不安感。


出来ることなら、今すぐにも逃げ出したい気持ちで一杯だったであろう。


しかし彼女は、ぐっと唇を噛み締めてこれを堪えると、再び目の前の第二工場へ向けて走り出した。

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