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Loyal Tomboy  作者: EN
第二話「Royal Tomboy」
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02-13:○開戦の雫[2]

第二話:「Royal Tomboy」

section13「開戦の雫」


トゥアム共和国の廃都市ブラックポイント西方に位置するジャングル地帯には、トゥアム共和国軍の陸軍基地が存在する。


ここはセルブ・クロアート・スロベーヌ帝国との国境にあたる、3000メートル級山脈のふもとに位置し、トゥアム共和国防衛基地の中で、もっとも最前線の軍用基地でもある。


帝国暦373年に帝国との間に結ばれたソヴェール和約により、現在、セルブ・クロアート・スロベーヌ帝国と休戦状態にある同国ではあるが、過去の経験から決して帝国への冷態を解いていないのが実態だ。


(ジジ)

「ジルヴァ。モニター感度を上げろ。まだ来るぞ。」


(ジルヴァ)

「わかってる。何度もほざくな。」


黒砂を大量にふくんだジャングル地帯は、サーチレーダー機能を著しく低下させるため、周辺地域の詳しい情報を取得するためには、DQ等の巡回索敵で補わなければならない。


しかし、同地域に群生する木々達には、あまり背丈が大きく無いものが多数存在し、搭乗したDQからの視界はすこぶる悪い。


地形的整理された道沿いであれば索敵車両を巡回させることが出来るのだが、このような凹凸の激しい不整地においては、やはりDQの機動性に頼らざるを得ないのだ。


今現在この地域には、DQ2機編成3部隊が巡回中であり、各々北西地域、南西地域、南東地域を警戒警備に当たっていた。


その中で、不運にも北西地域を巡回警備中だった兵士達が、なにやら切迫した事態へと陥ってた。


(ジルヴァ)

「来たよ!!おらぼさっとすんな!!」


雨季の真っ只中だと言うのにすっきり晴れ渡った紺碧の空。


密林の隙間から見えるその青い空のど真ん中に、3本の白い線が描かれて行く。


TRPスクリーン越しに、その白線の先端を照準システムに照らし合わせた二人は、狙いを定めて一斉に中距離仕様ASRアサルトライフル「ASR-RType44」を放った。


そして、昼間の明るさをかき消す程にかれたマズルフラッシュの中から、上空へと舞い上げられた弾丸が白線の先端を捉えると、まるで打ち上げ花火が炸裂したように、2つの大きな花が大空に咲いた。


(ジジ)

「1つ残した!!」


パイロットの一人がサーチレーダー上で、この白線の行方を追いながら叫んだ。


撃ちもらした1本の白線が向かう場所。


それは廃都市ブラックポイントのDQA大会開催地である。


ジャングル地帯の真っ只中のため、彼等二人には都市部の詳しい状況を、把握することはできない。


しかし、追って都市部の方角から響き渡って来た大きな轟音により、最悪の事態を予感せずにはいられない。


(ジルヴァ)

「管制!!まだ敵の所在はつかめないのか!?このままだと廃都市が完全にガラクタになってしまうぞ!!」


女であるにもかかわらず、男勝りの強い口調で通信機に怒鳴り込む彼女。


彼女の名前は「ジルヴァ・ディロン」。年齢は25歳。


小柄な体格と可愛い容姿から、しばしば20歳前後に見間違われがちだが、その外見とは裏腹に、彼女の言動はとても汚く性格も荒い。


一回りも年上の上官である「ジジ・トレース」に対しても、タメ口というよりは完全に命令口調であり、軍の中ではある種、問題児的な扱いをされることが多い。


彼女が搭乗するDQは、かなり古い型の機体ではあるが、トゥアム共和国軍内では至るところで目にすることができる良機「NMDIA-ヒセギア」だ。


マイルバッハ社製のこの機体は、そのほとんどの作りが一昔前のものであり、スマートな人型とは決してお世辞なりにも言えないのだが、駆動システム、制御システム、機体機構と、総合的バランスに優れ、いまだに陸軍DQパイロット養成所の新人演習時に使用されるなど、DQ操舵のイロハを覚えるには最適な機種の1つである。


しかし、DQ産業界において、その勢力を拡大し始めた「マムナレス社」の影響により、マイルバッハ社は一般市場から追いやられるまでに至り、今ではDQ本体はおろか、交換部品、オプション火器に至るまで、すべてが入手不可能な状態になってしまった。


軍での運用については、マイルバッハ社より商標権が譲渡されたため、部品の生産から機体の改良まで、軍の開発部において可能なのだが、悲しくも一般市場では、もうお目にかかることの無い機体となってしまったのだ。


(管制官)

「こちら管制塔。所属不明機の識別確認出来ました。帝国製ポッド反応を示すDQが5機。機種は不明。中型機が2つ。大型機が3つ。内1機は南西巡回部隊と交戦中。他4機は機影をロスト。有線索敵網に依然反応はありません。」


(ジジ)

「上空から飛来するミサイルは、我々の持つ兵器では対処しきれない。固定対空砲の用意を要請する。急いでくれ。」


(管制官)

「カール対空砲塔の使用にはゼフォン特佐の許可が要ります。私達の権限では指示できません。」


この管制官の言葉に、汚らしくジルヴァが舌打ちをかました。


(ジルヴァ)

「当の本人はパークで高見の見物ってか?本当にふざけた野郎だな。」


(ジジ)

「ジルヴァ。言葉を選べ。我々は軍人なんだぞ。」


彼女に対して言葉を選べとは言ったものの、ジジ自身、同じような思いを抱いていたのだろう。


彼は自分の部下を怒鳴りつけるでもなく、静かに軍人たる本分を語るに止めた。


(管制官)

「その代わり、ニュートラルエリアに待機中の、非常勤パイロットに出撃を要請しています。対空火器装備の上、ポイント到着まで・・・ザッザザ。・・・持してく・・・。ザザッ。」


・・・と。突然、悪化した通信状況に、管制官の声が途絶えてしまった。


なんだ?


ジルヴァは直感的に何か嫌な予感がした。


(ジジ)

「非常勤パイロットといっても、パークで戦争ごっこして遊んでいるやつらだろう?ジルヴァ。奴らをあてにするなよ。」


ジジはこの通信状況の変化を、まったく気にする素振りは無い。


このような通信障害は、この地域においてはさほど珍しいものではないからだ。


しかし不思議と、何か不気味な影の気配を感じていたジルヴァが、しきりにサーチレーダで周囲の状況を確認していた時だった。


ピキィィィィィィィィィィィィィィィィィ!!


けたたましい音と共に、耳障りな高周波があたり一面に鳴り響いた。


(ジジ)

「な・・・なんだ!!何の音だ!!」


ジジがその不気味な影の存在に気づいた時にはもう遅かった。


頭の裏まで響き渡ってきそうな高周波に続き、大きく大地を揺るがす振動が彼の身体を襲う。


そして次の瞬間、彼が搭乗するヒセギアの背後から、巨大な鉄の塊が飛び掛ってきた。


(ジルヴァ)

「ジジ!!」


ガッシャーーン!!


ジルヴァの叫びも虚しく、その巨大な鉄の塊が繰り出したハンマーのような右腕が、ジジが振り返るよりも先に、ヒセギアの頭部に振り下ろされる。


かなりの重量を持ち合わせていると見られる、その大型DQの攻撃力は、ヒセギアの頭部を押し潰すに止まらず、DQのセンターラインである腰から膝に至るまで、各部位にて鈍い金属音と共に激しい火花が飛び散った。


そして、まったくバランスを取ることが出来なくなったヒセギアは、再度襲い掛かった大型DQの振り回した左腕によって吹き飛ばされると、地面に倒れこむよりも先に、大きな爆発を伴って四散してしまった。


(ジルヴァ)

「こ・・・こいつ!!」


破壊されたヒセギアから立ち上った大量の黒煙の向こうに、チラチラと見え隠れするその大型のDQは、背丈的にヒセギアとほとんど大きさが変わらない程度に見える。


しかし、通常の格闘戦において、あそこまでヒセギアを吹き飛ばしたとなると、それがかなりの機体総重量を有しているのであろうう。


そして、ゆったりとした風に流されるように、なびいた黒煙の向こうから、次第にその姿がはっきりとジルヴァの目に映し出された。


真っ黒に彩られたその大型DQは4本足歩行タイプのようで、後ろ足より前腕の方がかなり大きく作られており、外見的にはまるで「巨大なゴリラ」のようにも見える。


両腕先端部にマニピュレーターは無く、おそらくはジジを葬り去ったであろう、極太な円筒形の両腕を携えていた。


帝国製のDQについては、あまり量産型という機種が存在せず、その多くが所属貴族固有の特殊なDQに分類される。


これは帝国内において、未だ戦争における主力兵器として、DQが役割を担うまでに至っていないと言う理由もあるが、もう一つ、帝国ならではの特色が挙げられる。


高級兵器DQの開発は、帝国貴族達にとって、自家の誇りと力を周囲に知らしめる「象徴」として用いられることが多い。


そのため、自らの財力を持って持って、自家特有の優れたDQを開発し、他家への力の差を見せ付ける。


近年、そういった風習が帝国貴族達の間に根付いていたのだ。


そのため、DQA大会のようなの戦いは、形は違えど帝国国内でも非常に人気が高く、そういった場所で活躍するDQパイロットは、貴族、平民、貧民問わず、誰しもが尊敬する偉大な人物としてあがめられる。


帝国貧民階層者にとっては、最も手っ取り早い「成り上がりの場」となるのだ。


(アレナルティカ)

「あっははは!!フェザン。面白いわよ。雑魚よ雑魚。NMDIAなんてただの玩具じゃないの・・・って。・・・あら?」


通信機の操作を間違えたのか、それとも故意なのかは解らないが、おそらくは仲間との会話をしていたであろう女性の声が、突然、外部スピーカーを通して森林地帯周囲に響き渡る。


そして、その女性の発言に対して、小さく舌打ちをして見せたジルヴァもまた、外部スピーカーを通して言葉を発した。


(ジルヴァ)

「黒いDQに告ぐ!!ここはトゥアム共和国の有地となっている。貴方の所属国と目的を述べよ。さもなくば即刻発砲する。武装を解いて投降せよ!!」


ちっ・・・。女か・・・。


両者が共にそう思ったに違いない。


(フェザン)

「アレナルティカ。任務を忘れるな。まずは情報の正否の確認だ。開戦の口火を共和国に切らせるつもりは無いぞ。」


(アレナルティカ)

「はいはい。解ってますよ。」


仲間からの通信に、少し溜め息交じりでそう返した女性は、前述通り、貧民階層からの成り上がり兵士の一人だ。


細く長い金髪をポニーテールに結わえた彼女の瞳は、時折、不気味に赤い光が点滅しているのだが、これは、彼女の瞳が直接光っているわけではなく、バンダナの様に頭に巻きつけている装置から送られた光で、直接網膜に情報を表示すると言うものだ。


彼女は瞳に随時映し出される情報をチェックしつつ、突如として鋭い眼つきで目の前のヒセギアを睨め付けると、再び外部スピーカーを通してこう告げた。


(アレナルティカ)

「我々は帝国ストラントーゼ軍第403部隊所属の兵士だ。今回の我々の任務は、諸外国と共謀し、帝都ルーアンの平和と秩序を脅かす、ロイロマール家兵士達の排除だ。この付近へと落ち延びた兵士達の引渡しを要求する。」


共謀する??落ち延びた兵士??


トゥアム共和国軍内でも下層に当たる一般兵のジルヴァには、到底答えることの出来ない要求なのだが、そんなことは、黒いDQのパイロットにも解っていたことだった。


(ジルヴァ)

「そのような理由があるならば、まずは正式に交渉の場を設けてから訪れるべきではないのか!?このような無差別な攻撃は、決して許される行為ではないぞ!!」


解っていないな・・・。


ポニーテールの女性は小さく溜め息をつき、不気味な笑みを一つ浮かべて両目を閉じると、外部スピーカーのスイッチをOFFにした。


彼女には勿論、ジルヴァとの交渉を続けるつもりも、戦闘を停止するつもりもまったく無い。


(ジルヴァ)

「止まれ!!動くな!!」


黒いDQの両肩から吐き出される湯気の様な熱風が、一瞬の静寂の後に勢い良く噴出され始める。


そして、低い体勢を保ったまま、突如としてヒセギアに向けて突進を開始した。


最近ではホバー移動が主流となったDQではあるが、両手両足を4本使用する黒いDQの移動方法は、完全にゴリラの移動方法に酷似している。


見れば見るからに滑稽な移動方法だが、瞬発力はホバー移動に勝り、巡航速度は二足歩行に勝ると、まさに格闘専用DQには打って付けの移動方法だ。


ジルヴァは即座に、構えたASRの照準を黒いDQに宛がうと、躊躇ちゅちょ無くそのトリガーを引いた。


ASR-RType44はさほど攻撃力のある兵器では無いにしろ、それでも近距離で被弾を許せば、ただでは済まないほどの威力は有している。


しかし、何故だろう。


激しい銃撃音に合わせて発射された大量の弾丸は、確実にこの黒いDQに命中しているはずなのだが、この黒いDQの突進が止まることは無い。


(ジルヴァ)

「こ・・・この雌ゴリラが!!」


(アレナルティカ)

「私達の本当の目的はロイロマール家と結託する諸外国の抹殺。残党達引渡しによる真実の解明なんてどうでも良い。私達が欲しいのは、残党達が死を持って残してくれる開戦の口実よ。」


まったくジルヴァの攻撃が利かないのは、何も彼女の腕が悪いからではない。


もはや、中古品となった量産機ヒセギア程度では、特注品たる黒いDQに太刀打ちできる術は無いのである。


話し合っても無駄。攻撃しても無駄。逃げ回っても無駄。


これ以上彼女に、一体どうしろというのだろうか。


攻撃の意思さえ失い、ただ黒いDQの前に佇むその姿は、もはや「打ち込み人形」のようでもあった。


容赦なく振り下ろされるハンマーのような右腕が、ヒセギアの腰部分にぶち当たると、まるで達磨落としのように、いとも簡単にヒセギアの下半身がぶっ飛ばされた。


そして、支えを失った上半身が大地へと落下すると、激しい衝撃を伴って、大量の土煙を舞い上げた。


(アレナルティカ)

「あっはははは。Dead-Kongに銃は利かないよ。近距離で砲を使用するなら話は別だけどね。まあ、貴方はメッセンジャーとして生かしといてあげる。運が良かったわね。」


まったく効果的な抵抗することも出来ずに、大地へと這いつくばることとなってしまったヒセギアのコクピット内で、ジルヴァはただ、訪れる死を待つだけだった。


しかし、彼女の最後を演出するべき止めの一撃は、彼女が救助隊に助け出されるまで、訪れることは無かった。

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