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Loyal Tomboy  作者: EN
第二話「Royal Tomboy」
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02-10:○大海を知らぬ猿達[5]

第二話「Royal Tomboy」

section10「大海を知らぬ猿達」


ドッゴーーーン!


住宅街の直ぐ裏手、新緑の森林地帯から鳴り響いたその爆発は、かなり大きな衝撃を生み出した。


割れてもろくなった部屋の窓ガラスは崩れ落ち、戸棚に入れてあった安物の食器が、ガチャガチャと暴れ狂う。


(ドルト)

「なんだ!?」


(レドルー)

「チッキチャンとリンダの方だ!!見つかったか!!」


負傷者の手当てをしていた肥満体質の男が、玄関先から外の様子を伺いつつ叫んだ。


部屋の割れた窓ガラスの向こう側、彼等の仲間たる男女二人が、待機している地点の程近くからは、のうのうと真っ黒な煙が立ち昇っており、何が原因なのかは定かではないが、何らかの爆発があった事は確かなようだ。


こうなると、彼等としては秘密裏に遂行して来た潜入作戦だけに、駆けつけた共和国の保安隊と遭遇してしまう事は、絶対に避けなければならない。


しかも、爆心地付近で待機している2人の仲間については、その生死如何にかかわらず、「絶対に回収」しなければならないのだ。


彼等が装備する銃火器については、さほど共和国内でも珍しい物でもないのだが、身に着けた装備品や服装、持ち歩く小物などは、しかる機関に調査されれば、ある程度犯人が特定できてしまうからである。


(ドルト)

「ちっ!!ローザン、レドルー!!この娘を連行しろ!!残りの奴等は殺してもかまわん。ラウルは即座に自力で脱出!急げ!」


黒のノッポは、明らかにあわてた様子で表情を強張らせると、二人の部下に最終手段たる非常な行動を指示した。


彼は何よりも任務を重んじる厳格な性格で、任務達成のためならどんな犠牲をもいとわない。


勿論、今回の作戦も同様、どんな障害が目の前に立ちはだかろうとも、必ず任務を成功させるつもりでいるのだ。


彼等のリーダーたる黒のノッポの指示により、下駄箱の上から飛び降りた金髪の女性が、マシンガンを構えると、鋭い視線で睨むアリミアに向かって銃を構えた。


(ローザン)

「可愛そうだけど。気に入らないのよね、その反抗的な目。」


(セニフ)

「ちょ・・・ちょっと!!まって!!私が目当てなんでしょ!!やめてよ!!」


すかさず2人の間に割り込んで立ちふさがるセニフだが、冷酷な命令を下した黒のノッポがそれを許さない。


彼は、真っ黒な顔に光る大きな目を、さらに大きく見開きながら、セニフの左腕をつかみ上げると、強引に自分の元に引き寄せて、身動きできないように抱え込んだ。


(セニフ)

「やめて!!ちょっ・・・!」


何か・・・。何かいい手は無いのか・・・。


いつまでもこのままじゃ、セニフもアリミアも助けることが出来ない。


ここは失敗しようとも、俺が・・・。


それまで、じっと床の上に伏せたまま、周囲の状況を伺っていたシルだが、いくら思案したところで、何か良き解決策が生まれる訳でもなく、もはや彼には、この軍人達に玉砕覚悟で特攻するしか手立ては無い。


そう思って、全身の力を思いっきり奮い立たせようとした時だった。


ざわめき出した兵士達の気配にも、顔色一つ変えなかったユァンラオが、黒のノッポの背後までゆっくり歩み寄ると、彼の肩に軽くポンと左手を乗せる。


そして、徐に振り返った黒のノッポの腹部めがけて、強烈な拳を思いっきりめり込ませた。


(ドルト)

「ぐぁぁ!!」


よろよろと足元から崩れ落ちるようにうめき声を上げる黒のノッポ。


しかし、今度は彼の身体を支えるように抱きかかえると、ユァンラオは即座に彼の腰にぶらげてあった短銃を抜き取り、更に短銃のハンマーで彼の側頭部を殴りつけた。


(レドルー)

「なっ・・・!!貴様っ・・・!」


このユァンラオの突然の暴挙に、一瞬驚いた表情を見せた肥満の男は、床に置き放ったマシンガンを即座に手に取ろうとするのだが、すでに彼を照準に捕らえていたユアンラオによって、悲しくも顔面へと弾丸を叩き込まれることになる。


と、そのついでとばかりにユァンラオは、隣に寝そべった負傷者に対しても、容赦なく短銃のトリガーを引いて見せた。


(ローザン)

「てめえ!!情報提供者だからって甘く見ていれば!!」


背後で撃ち鳴らされた軽い銃撃音に反応した金髪の女性が、先ほどまで噛んでいたチューインガムを吐き捨て、鬼の形相でユァンラオの後姿にマシンガンの照準を合わせる。


しかし、トリガーを引こうとした彼女の視界をさえぎった物とは、突然に現れた「カモシカ」のようにしなやかな脚。


直後、彼女は、驚くまもなく顔面をけりつけられ、綺麗な金髪をなびかせながら、テーブルごと吹き飛ばされてしまった。


勿論、そのカモシカのような綺麗な脚の持ち主とは、ニコニコと笑みを絶やさないカルティナであり、床に這いつくばって苦しむ可愛そうな女性に対して、更にその頭部を思いっきり蹴りつけた。


なんなんだこいつ等・・・。


仲間じゃなかったのか??


その場にいた誰しもが疑問を抱いたであろう二人の行動。


一体、彼等は何者なのであろうか。


まったく悪びれる様子も無く、気持ち高ぶらせることも無く、淡々と謎の集団を処理してしまったユァンラオとカルティナ。


シルも、セニフも。そして、アリミアでさえも、この彼等の行動に対して、一言も発することが出来ないまま、呆然と見つめることしか出来なかったのである。


(カルティナ)

「ユァンラオ。少し女性に甘いんじゃなくて?いつか後ろから刺されても知らないわよ。」


(ユァンラオ)

「ふん。」


やがて、まったくピクリとも動かなくなった金髪の女性を踏みつけたカルティナが、ユァンラオに面白く無さそうな表情をぶつけるのだが、そんな彼女の言葉に、少しも興味を抱かない彼は、床にうずくまったままの情け無い大男を、冷笑と共に見下ろした。


(ドルト)

「ユァンラオォ・・・!!貴様!裏・・・切りやが・・・ったなぁ!!」


未だ殴られた衝撃で、うまく呼吸が出来ないのであろうか。


必死の形相で絞り出すその声は、どこか途切れ途切れだ。


先ほどまでこの部屋の支配者だったはずの男が、無常にも、突然現れた二人の男女によって、まっ逆さまに地獄の淵へと叩き落されるなど、一体、誰が予想しえただろうか。


ゴソゴソと腰の辺りで何かを探している黒のノッポを睨みつけながら、ユァンラオはゆっくりとその探し物を彼に差し出してやった。


勿論、彼を本当の地獄の淵へと叩き落すために。


(ユァンラオ)

「ふん。裏切り?面白い冗談だな。味方でない者からの裏切りなどありえんだろ。」


パン!


再び部屋の中に木霊した軽い発砲音の後に、頭部を撃ち抜かれた黒のノッポが、力なくセニフの足元へと倒れこんだ。


ドクドクと血を噴出するその死体を見つめながら、逃げ出したい気持ちとは裏腹に、恐怖でまったく身体が動かない。


(セニフ)

「ひっ・・・・・・・・・!ぅ・・・・・・。・・・。」


なんとも情け無く叫び声を上げることすら出来ない彼女は、覚束おぼつかない足取りで後ずさりを始めたのだが、それも叶わず、やがて、膝から折れるようにして尻餅を付いてしまった。


(ユァンラオ)

「ふ、小物は小物らしくだな。」


ユァンラオはそう吐き捨てると、黒のノッポから奪い取った短銃を放り投げ、剃りきっていない武将髭を再びさすり出した。

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