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Loyal Tomboy  作者: EN
第二話「Royal Tomboy」
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02-08:○大海を知らぬ猿達[3]

第二話「Royal Tomboy」

section08「大海を知らぬ猿達」


それは、ほんの数秒間のできごとだった。


一体、何が起きたのかまったく理解できない。


突き飛ばされたセニフとシルは抱き合い、床に伏せている事しかできなかった。


辺りの慌しさから一転、静けさを取り戻した部屋の中を、セニフは恐る恐る顔を上げて見渡してみる。


それまで、狭いなりにも殺風景で小奇麗だった室内は、安物の壁掛けや、壁の破片、ソファーから飛び散った羽毛等が、床一面に散らばっており、割れた窓から差し込んだ太陽の光に、立ち込めたきな臭い硝煙が、白い筋を伴って不思議なオーロラを形成していた。


そして、何やら目の前に差し込む太陽の光に反射して、不気味に紅光リる異様な液体に、セニフは気が付いた。


それは、ぽたぽたと一滴一滴、滴り落ちては床にへばり付き、マッシュルームが重なり合うように大きな森を形成していく。


そして、その異様な液体の落下量が、一気に加速した。


(セニフ)

「アリミア!!」


穴だらけの壁に紅いレールがかすれて走り、そして、そのレールの下にうずくるアリミア。


抑えた右肩から右腕を伝って、真っ赤な鮮血がするすると滴り落ちている。


セニフは咄嗟とっさにアリミアの元へと走り寄ると、彼女の右肩の状態を仕切りに心配した。


(アリミア)

「だ・・・大丈夫よセニフ。っつ・・・。」


(セニフ)

「・・・っでも。こんな・・・。」


アリミアは心配するセニフを他所に、じっと招かざる客人達を睨み付けたまま、決して攻撃的な意思を崩そうとはしない。


相手を突き刺すような視線はいつも通りなのだが、何か彼女に触れると、触れたその手が切り落とされてしまいかねない、そんな危険な雰囲気すらかもし出していた。


(ドルト)

「ふん。いい目だな。死角から狙ったラウルを、一撃でしとめるとは、たいした奴だ。」


大きくそびえ立って見えるほどに大柄な黒人は、散らかった室内をきょろきょろと注意深く観察していたのだが、やがて彼女達に反撃の手段が無いことを確認すると、両手に構えたマシンガンの銃口を、壁際にうずくまるアリミアから引き剥がした。


そして、奥の部屋から顔を出した太った男に、ハンドサインで負傷者の手当てを命じ、ゆっくりとスリングを廻して銃を肩に背負い込んだ。


一体何の目的で部屋へと押し入ってきたのかは定かではないが、現時点で確認できる軍人は4人。


アリミアに撃たれて玄関先に倒れこんだ男が1。


そいつの手当てを始めたデブが1。


玄関先から外の状況を伺う金髪の女が1。


そして、アリミアを見下ろす黒のノッポが1。


こいつがリーダーか・・・?


シルはうつ伏せたまま、じっと気配を消しながら周囲の状況を確認していた。


そして、作業服のポケットにゆっくりと手を入れると、忍ばせていた飛び出しナイフを握り締める。


黒人の注意がアリミアに向いている今がチャンスか?


奴を人質に取れれば他の奴もいうことを聞くかもしれない。


そんな安易な思いを描きつつ、黒人に襲い掛かる機会を伺っていた時だった。


パシュパシュパシュパシュ!


(シルジーク)

「おあっ!あぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」


(セニフ)

「シル!」


突然、複数の光が玄関先で光り輝いた瞬間、シルが寝そべる床の近くに大量の弾丸が浴びせかけられる。


勿論、これは不穏な気配を見せるシルを牽制するための威嚇ではあったが、面白半分に弾丸をばら撒く金髪の女性は、少々頭がイカレているのだろうか。


(ローザン)

「よかったわねぇ。当たらなくて。あまり変な気起こすと、そこの女みたいに間違って当たっちゃうかもよ。ほら、小娘ももう動かないの。撃たれたら痛いの。解るわよねぇ。」


マシンガンを片手に下駄箱の上に腰掛け、チューインガムを膨らませる金髪の女は、今度はシルの元へと駆け寄ろうとしていたセニフを、まだ硝煙の残る銃口で制する。


そして、おびえるセニフに向かって、にんまり薄ら笑いを浮かべた。


なんとも嫌な女である。


シルはうつぶせの体制のまま、安否を気遣うセニフの方に、片手をぶんぶん左右に振って無事を知らせるのだが、同時にこれは、セニフにもう動くなというシグナルでもあった。


相手はどうやら本物の軍人。


か弱い一般市民に彼らに対抗すべく手段などあるはずも無く、彼としても、白旗を上げる以外に無かったのだ。


(セニフ)

「一体なんなんだよお前等!!いきなり押し入って来やがって!!」


セニフは激しい怒りを込めて、大声で彼らに噛み付いて見せるのだが、震えた声色から、心に焼き付けられた恐怖心をぬぐうことが出来ない様子で、傍目はためから見ても、あからさまにおびえている感じが伺えた。


突然、彼女達を襲った不気味な謎の集団を前に、脅えるなという方が無理な事は解っている。


それでもなお、セニフは勇気を振り絞るように、目の前に仁王立ちする黒のノッポを睨み付けるように威嚇して見せた。


しかし、セニフの態度など少しも気にする様子もなく、軍服のポケットからタバコを取り出した黒のノッポは、高級そうなジッポで火をつけると、深々と煙を吸い込む。


そして、薄く漂う硝煙の幕に、再度新しいタバコの煙を練りこみながら、黒のノッポは1枚の紙切れを取り出した。


(ドルト)

「セニフと言うのはお前か?」


漆黒の顔に光る二つの丸い目が、ぎょろりと一点セニフを凝視する。


(セニフ)

「そ・・・そうだよ。なんで私の事・・・。」


そして、黒のノッポは取り出した紙の内容をまじまじと眺めた後、吸い込んだタバコの煙と一緒に、今回の真の目的を吐き出すのである。


(ドルト)

「ある御仁からの依頼で、貴様の身柄を拘束するよう指示された。我々と一緒に来てもらおうか。セニフ・ソンロ。」


(セニフ)

「そ・・・。そん・・・。」


黒のノッポの放ったその言葉に、思うように言葉が続かないのは、彼女が不安と恐怖に押し潰されそうになっているからだろうか。


なんで??なんで私??なんで軍人が私に??


ある御仁て??一緒に??どこに??


それまで普通に暮らしていた1人の少女を拉致するために、恐ろしい軍人の集団が襲いかかってくるなど、胡散臭いドラマや映画でもやらないような、ありきたりのシーンを前に、セニフは完全に頭が錯乱していた。


目の前に晒された銃は本物。


まったく抵抗する余地は無い。


それに、反撃したアリミアは負傷してしまっている上、シルも危険な目に合わせてしまっている。


セニフの表情からは次第に血の気が引いて行き、顔面蒼白状態で小刻みに震えているのが解る。


うつむいて、挙動不審にどこかを見つめながら、ただただオロオロするばかりのセニフは、やはりどこかおかしい。


彼女には、彼らに対して「何故か」という理由を問いただしたくとも、問いただすことは出来ない。


何故ならば、セニフには「襲われる心当たり」が無い訳ではないからだ。


(ドルト)

「貴様には拒否する権利は無いことを理解しろ。」


(ローザン)

「私って優しいから、好意で右腕だけにしてあげたのよ。次はないのよ。お嬢さん。」


黒のノッポの言葉にも反応を見せず、うつむいたままのセニフに、チラリと視線を移したアリミアが、痛む右肩を抑えながら次なる彼らの言葉を待っていた。


出血の量からいっても、傷はそんなに深くない。


この程度の傷であれば、自分一人で何とか逃げ切る自身が彼女にはあった。


しかしそれは、彼らの狙いが「自分一人」であることが前提の話であり、事もあろうか、目的がセニフの方とは、アリミアも想像していなかったようだ。


何故?狙いはセニフ?私じゃないの?


アリミアにも「襲われる心当たり」が無いわけではなかった。

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