02-05:○何も見えない丘の上にて
第二話:「Royal Tomboy」
section05「何も見えない丘の上にて」
大型自家用飛行機が離着陸可能な大きな空港、完全に舗装しなおされたハイウエイ、高級なホテル群。
廃都市ブラックポイントには不似合いなほど整備された土地。
第3ニュートラルエリア「サムトーテル」は、高級官僚、将軍、他大陸外交官を招待するために作られた都市である。
無論、一般来場者は決して立ち入ることのできないエリアとなっており、そのメイン通りは人気がなく寂しい限りだ。
しかし、DQA大会を見学する場所としては絶好の高台に位置しており、森林、市街戦をのぞけば、すべの戦場が見渡せるため、数多くの著名人たちが訪れる場所となっている。
数あるビル群の中でも絶景を誇るのが、ホテル「シュチュアート・メアリー」。
絶景もさることながら、当ホテルでは室内の設備、サービスを重視し、且つDQA観戦も思いのままという贅沢さ。
(ラックス)
「これが昨日実戦で使用されたデータです。サフォークから回ってきました。」
(ティーラー)
「ご苦労。確かに受け取った。後残り2日間はこちらのデータでお願いする。君のチームは午後からだろう。間に合うのかね。」
(ラックス)
「そりゃ大丈夫ですよ。出撃はできるだけ遅らせるよう伝達しときましたから。」
ホテルシュチュアート・メアリーの最上階の一室にその男2人はいた。
黒いサングラスをかけ、頭はオールバックで、身なりからして決して高級な人物とは思えない方がチームTomboyのオーナー「ラックス・ムーズ」である。
そして、藍色の高級スーツに身を包み、お供を従えた偉そうな人物。
これが「ティーラー・テル」である。
彼は今回のDQA参加機種のほぼ半数を製造しているという、大企業「マムナレス社」のエリートで、今回のブラックポイント大会の会社総責任者となっている。
背丈が低く、少し頭が大きいこの若造は、釣眼で陰険な感じがあり、どうも胡散臭い匂いがする。
トゥアム共和国の中でも1、2を争う大企業のマムナレス社がDQ産業に身を乗り出したのが20年前。
それまではただの自動車製造工場でしかなかったマムナレス社が、ここまで経営力をつけてきた背景には、トゥアム陸軍内部との、何らかの密約が内々で交わされているのではないかという噂がある。
今現在のトゥアム共和国陸軍所属DQに限って言えば、トゥアム共和国陸軍開発研究員とマムナレス社のDQ技術研究員との共同開発で発案、製造された物がほとんどであり、この成り上がり者たるマムナレス社の成功を、芳しく思う人達は非常に少ない。
そのため、そういった噂だけが暴走しているだけなのかもしれないが、かといってその噂を否定できる要素もない。
(ティーラー)
「ふん。約束の物だ。」
そう言うとティーラーは内ポケットからカードを取りだし、ラックスのカードリーダーにスロットインさせる。
そして、ピーと言う音と共に、送金確認のメッセージがディスプレイに表示された。
(ラックス)
「あ、こりゃぁどうも。」
その金額は、にやつきを抑えられないラックスの表情から推測するに、かなりの額に及ぶと思われる。
経営不振にあえぐ小会社でありながら、3機ものDQを保持し、ましてやなんの目的もなくDQAに参加出来る訳。
中流企業以上、または上流階級個人ぐらいしか手にできないという、DQチームオーナーの肩書きが、今彼の手の中にあるという事実は、こう言った理由からかも知れない。
(ティーラー)
「それから例の件だが、実験用のパイロットとしてあの3人を使用したいと博士の方から話があった。」
(ラックス)
「え?本当ですか?」
ティーラーはそう言うと席を立ち、ボディガードであろう、ごついお供にスーツの上着を着せてもらう。
彼等が出会ってから現在まで15分程。用が済めばすぐに次の仕事がまっている忙しい身だ。
そう言わんばかりのティーラーの行動だった。
ラックスはというと、突如として投げかけられた「触れられたくない問題」に、傍目から見ても一目瞭然の「動揺」を見せた。
しかし、ティーラーは彼の動揺を完全に無視し、冷ややかな目つきで話を続ける。
(ティーラー)
「まだ未定だがな。しかし、たとえ機械と言えどデータにより、個人のクセが大きく左右する時代だ。私もこの意見に賛成派だ。彼女等の経歴についても問題は無いのだろうな。」
(ラックス)
「それはまぁ・・・。しかし本人達が・・・。」
(ティーラー)
「忘れるな。契約書はもう交わしている。契約期間内の責任と権限は、すべて君が握っているのだ。そしてこのプロジェクトに関して君に発言権、決定権はない。解るかね?」
そう言われるとラックスには返す言葉がない。
彼が今の生活を続けられるのは、ティーラーの遂行するとあるプロジェクトの一員として自分も参加しているからだ。
ティーラーは俯いたラックスの肩をポンと叩き、通用口へと足を向けた。
(ティーラー)
「それじゃ、失礼するよオーナー。」
ラックスは俯いたまま返事を返さない。
大海に逆らうことなく、ただ漂うだけの自分が嫌な訳ではないが、それでもこういうときは決まって、無念さの思いに打ちのめされる。
自分の無力さと、さらにそういった自分に腹が立たない自分が腹立たしい。
(ラックス)
「単なる御飾りか。」
流されつづけ、私は一体何処まで流されるのだろう。
死ぬまで流されつづけるのだろうか。
それでもいいかもしれない。
急流に巻きこまれて、誰も知らない深遠に向かうよりは・・・。