11-18:○赤のエリアに蔓延る脅威[10]
第十一話:「混流の源泉」
section18「赤のエリアに蔓延る脅威」
丘陵上に迸った眩い閃光と共に吐き上がる大きな爆発音に加え、装軌車輛が忙しく移動し動く走行音と、けたたましき砲撃音が断続的に鳴り響く中、ドスドスドスドスと聞きなれない不気味な地鳴り音が交じり入り、再びドガシャン!!と言う耳障りな重鈍い金属音が周囲に木霊し飛ぶ。
そして、間髪を入れずに立て続けに鳴り上がった大きな金属音に続き、再び巨大な爆発音が山岳密林地帯一帯に響き渡ると、低い高度に溜まり漂う厚雲の下面部に、おどろおどろしき炎の赤光が不気味に揺らめき映し出された。
パレ・ロワイヤル基地防衛守備隊所属、第154戦車中隊を指揮する中隊長「メルベイユ・ソラー陸等三尉」は、荒ぶる挙動で勢い良く後退移動する搭乗車輛「TJ-349システーナ」中戦車の車内モニターから、迫り来る黒いDQ機の姿を見て驚愕した。
(ハビーフ)
「撃て!!撃てぇ!!」
(ヨナフ)
「二号車!!旋回して振り切れ!!」
ドッガシャン!!
他の部隊よりやや北寄りに陣取っていた「コン・ユンミン陸等曹長」率いる第3小隊を瞬く間に処理し、壊滅せしめた黒いDQ機は、背丈的にはトゥマルクとほぼ変わらぬ大きさであるものの、比較的細身で、体躯に合わせた黒い流線的な装甲版を全身に纏った、まるで中世の甲冑騎士の様な風貌をしており、次なる標的へと寸時に狙いを定め変え、迎撃態勢に移行した第1小隊の方に、猛然と襲い掛かり行くその動きは異常に素早かった。
驚くべきは、通常のDQ機とは異なり、ホバー機構を使用するのではなく、しっかりと両足で台地を蹴り飛ばして走り進む異様?なスタイル、それも、通常の人間が極々自然に見せる「走る」と言う動きに非常に近しい滑らかな所作そのもので、台地を踏み拉く度に撒き散らされる土砂の量にかなりの違いはあれど、車内モニターを通して見るその映像は、まさに、カメラに向かって直走り来る人間の姿そのものの様に見えた。
(セニフ)
「フロアツー!援護に入ります!」
(メルベイユ)
「頼む!テリー!次の砲撃と同時に煙幕セットを展開!」
(テリー)
「了解!」
(メルベイユ)
「ヨナフ!右でも左でも好きな方を選べ!お前の判断に任せる!」
(ヨナフ)
「・・・了解!しっかり掴まっててください!」
全速力で後退移動する指揮車輛「TJ-349システーナ」中戦車が、猛烈なスピードで駆け走り来る黒いDQ機に対して、主砲である「D115mmオードナンス砲」の砲口を括り付け遣った次の瞬間、砲手担当である「テリー・マーシー陸等伍長」は、躊躇なく戦車主砲の発射トリガーを引いた。
と同時に、一瞬にして視覚を遮る濃密な煙幕弾と大量の索敵妨害フィールドをフル展開しつつ、自らの所在位置を欺瞞するダミーイリュージョンを複数個ばら撒き散らすと、そのタイミングに合わせて、操縦手である「ヨナフ・シントローム陸等伍長」が車体を後方右側へと急旋回させ遣る。
ドッズン!!
(メルベイユ)
「うおあっ!!」
(ヨナフ)
「あぐっ!!」
(セニフ)
「あっ!」
(ハビーフ)
「隊長!!」
接敵と同時に滑らかな所作で右腕を大きく振り被り上げた黒いDQは、駆け走り寄り行くそのままの勢いを保ったまま、真っ白な煙幕の中へと掻き消え行った中型戦車の砲塔上部ハッチ付近目掛けて、右手の拳を思いっきり振り下ろした。
・・・のだが、両者の視界が完全に途絶え切れた瞬間に、首尾良く緊急回避行動を取り行ったシスティーナ中戦車の動きに全く反応できず、凄まじい威力で繰り出された黒いDQ機の右手拳振り下ろし攻撃は、寸での所でその場から逃げ去り行ったシスティーナ中戦車の車体を僅かに掠めただけで、何ら益なき台地上をド派手に叩き付け遣る事になる。
ただ、余りに急な旋回行動を無理矢理に披露し見せたシスティーナ中戦車は、極至近距離でぶちかまされた強烈なしくじりパンチの衝撃派に手酷く煽り付けられ、巻き上げられた大量の土砂と共にあられもない方向へと無様に跳ね飛び行くと、最終的に、凹凸の激しい巨大な岩々がのさばり並んだ丘斜面の上へと乗り上げ、車体が斜めに傾いた無様な体勢のまま完全に座礁してしまった。
幸いな事に、この直後、黒いDQ機の攻撃意識は、激しい反撃弾を繰り出し浴びせ掛け始めた第2戦車小隊の方へと直ぐに移り変わり行った為、指揮車輛に搭乗する彼等メンバー達が、止めとなる手酷い強力な格闘攻撃を追加で受け食らわされる事は無かったのだが、岩石塗れの丘斜面へと突っ込み行った際に、両側のキャタピラが全て吹き飛んでしまい、主兵装である「D115mmオードナンス砲」も斜面部に深く突き刺さり、砲塔を旋回させる事すらままならなくなってしまった彼等には、それ以降、何一つやれる事は無かった。
(バルベス)
「正規軍ではないな・・・。もしかしてコイツが?・・・赤のエリアから出て来たのか?」
搭乗機である「RYE-X3ヴィスター・アルマリン」のコクピット内で、後部テスラポットのエネルギー充填作業が完了するまで、全く不本意なる待機状態を強いられていたバルベスは、眩い閃光と重鈍い金属音、けたたましき爆発音を断続的に吐き放つ丘陵上の奥向こうに意識を傾けながら、サーチモニター上で忙しく動き回る赤色光点と緑色光点の様子を注意深く伺い見ていた。
彼から見て、丘陵上部に突如現れた謎の黒いDQ機は、識別装置を介して味方機である事を示す緑色の光点で表示し出されており、先までの戦いにおいて危機的な状況に瀕していた彼等ゼノ隊メンバー達からすれば、まさに絶妙のタイミングで現れた救世主と言える存在であったが、ヘルメットゴーグルの向こう側に覗くバルベスの表情には、全く喜び浮つく様な雰囲気は微塵も感じられなかった。
それは、全く持って情けない戦い振りを披露し見せた挙句、何処の馬の骨とも解らぬ輩に助けられると言う、非常に屈辱的な状況に陥り嵌ってしまった自身に対して、強い憤りを感じ得ていたからに他ならないが、それ以上に彼は、この黒いDQ機に対して、決して小さくない懐疑的な思いを抱き上げてしまったのだ。
(バルベス)
「クレオラーラ。この隙に目標機との距離を詰めろ。」
(クレオラーラ)
「解りました。」
(バルベス)
「ガエタンは疎林地帯から回って西側の退路を遮断。丘上からは俺が回る。」
(ガエタン)
「了解。」
彼等の目的は、作戦任務開始直前に指定された対象機を拿捕し、その中身たるDQパイロットを拉致連行する事にあり、パレ・ロワイヤル基地奪還を目指す帝国軍正規部隊とは、全く異なる任務を請け負い行動している。
言うまでもなくそれは、彼等が帝国軍正規部隊を司る指揮系統から完全に逸脱した特別な兵科部隊、ストラントーゼ家直属の隠密部隊「エイリアンホース部隊」に所属しており、独自に作戦行動を取り行う事が許されていたからなのだが、彼は、この戦場内において、帝国軍正規部隊に属さない、エイリアンホース部隊とも関係のない、全く別の特別な友軍部隊がもう一つ存在する事を知っていた。
それは、今回のパレ・ロワイヤル基地奪還作戦が開始される前に、「不要であるならなるべく立ち入らない事」と言う不可解な警告文と共に、赤と黄色でエリア範囲を描き記したパレ・ロワイヤル基地周辺部の地図データを送り付けて来た謎の集団・・・、恐らくは、戦場において何かしらの実験を執り行おうと画策している技術研究部関連の特殊部隊なのだろうと、彼は予想していたのだが、実際に何を目的として行動しているのかまでは知らされていなかった為、彼は、完全に指揮系統の異なる部隊チームに所属しているであろうこの黒いDQ機が、自分達の指示に従ってくれるのかどうかを懸念していたのだ。
その為彼は、端からこの黒いDQ機の事を余り信用しない方針で、二人の部下達に新たなる指示を送り下すと、搭乗機であるヴィスター・アルマリンをゆっくりと動かし出しつつ、丘上の戦車部隊が全滅し切りそうな頃合いを見計らって、帝国軍全体で使用される共用通信回線を徐に開きつないだ。
(バルベス)
「所属不明のDQ機パイロットに告ぐ。我々はオーギュスト様直々の命により派遣されたストラントーゼ家直属の部隊兵士である。南方側に残る共和国軍のDQ機には手を出すな。我々の目標機である。繰り返す。南方側に残る共和国軍のDQ機には手を出すな。」
帝国国内において最大最強の権力を持ち有するオーギュスト・レブ・ストラントーゼ公爵の名前を出し、その直接の意向により行動しているのだと言う事実を知らしめれば、大概の者は皆一様にして即座に下風へと回り収まる素振りを見せ、相手方の心情の如何を問わず、それなりに協力的な態度を引き出す事が出来る訳だが、この時、バルベスが発した忠告に対する返答は全く無かった。
そして、約10秒程の間をおいて、再度全く同じ文言を繰り返し通信システム内へと捻じ込み入れたバルベスは、それでも尚、全く返答を返してよこそうとしない黒いDQ機の態度に対して、徐に小さな舌打ちをかまし出して見せると、丘陵上へと登らせ上げ終えた搭乗機を南方側に居る黒いDQ機の方へとビタリと向け付け遣り、今度は強めの口調を持って脅迫めいた警告文言を通信システム内へと捻じ込み入れた。
(バルベス)
「我々の作戦行動に支障が出ると判断した場合、強制的に排除する事も辞さない。目標機への接近は我々への敵対行動と見做す。速やかに当該戦域から・・・。」
・・・が、戦車部隊の最後の一輌に止めを刺し入れ終えた事を告げ知らせる、ドッゴーーーン!と言う大きな爆発音に続き鳴り響いたのは、ドスドスドス!なる重々しい連続した地響き、バルベスから浴びせ掛けられた脅し文句に対して、意に介する素振りを微塵も見せずに、南方側へと向けて勢い良く駆け走り出した黒いDQ機の足音だった。
バルベスは一瞬、完全に無視だと!?と、驚きの色合いを混じり入れた激しい怒りの念を渦巻かせ上げ、強く眉を顰め歪めたが、普段からほぼほぼ同じような事を仕出かし散らしている自分達の事を暗に顧みて、直ぐに話が通じる様な相手ではない事を悟り取ると、即座に搭乗機の急加速機構を全開で起動した。
目的は恐らく・・・と言うよりもほぼ間違いなく、自分達が目標機と定めるトゥアム共和国軍のDQ機に対して攻撃を仕掛ける事・・・。
(バルベス)
「クレオラーラ!ガトリングの使用を許可する!多少手荒でも構わん!目標機の動きを止めろ!」
(クレオラーラ)
「解りました!」
(バルベス)
「黒い奴は俺が始末する!ガエタンは援護!」
(ガエタン)
「了解!」
丘陵上から南方側へと駆け走り出した黒いDQ機の移動スピードは、異様に早いとは言っても、ホバー機構を全く使用しない両の足を使用した二足走行の様で、速度的にも中型DQ機が通常のホバー移動で叩き出す最高速度に僅かに勝る程度であるに過ぎず、爆発的な加速力を生み出す急加速機構を有した「ヴィスター・アルマリン」の能力を持ってすれば、目標機への接敵を許す前に追い付く事は十分に可能であるようだった。
しかも、一見して遠距離火器の類は一切装備してない様子で、機格的にも大型の重装甲機であるヴィスター系DQと比べて、確実に一回り以上小さい部類に属する華奢な体躯をしており、如何に高い格闘戦能力を有していたとしても、近接戦闘においてバルベスが乗り駆るヴィスター・アルマリンが、一方的に圧倒される様な展開は中々に想像し難い。
この時既に、自身が発した警告を無視して南下を開始したこの黒いDQ機を、完全なる敵機として見做し付けていたバルベスは、自分達の目標機であるトゥマルクへの攻撃を阻止する、思い止まらせるなどと言った悠長な事は考えておらず、端からこの黒いDQ機を完全に破壊、撃滅せしむる事だけを考えていた。
この黒いDQ機の登場によって、直近の脅威であったトゥアム共和国軍の戦車中隊が一掃され切った好的状況に翻り変わった訳だが、僚機であるヴィスター・ローゼスの2機が損傷を受け負わされている状態に加え、これまで同様、目標機に対しては煩わしき手加減攻撃を継続しなければならない。
そして何より、一番の問題は、目標機であるトゥマルクに搭乗するDQパイロットが只者ではない、中々に優れたDQ操舵技術を有した傑者的人物であった事で、彼は、この黒いDQ機と無意味なじゃれつきを繰り広げている隙に、体良く目標機に逃げ出されてしまうのではないかと危惧していたのだ。
その為、強力なブースト移動で早々に丘陵上の南端部へと辿り着き、なだらかな下り斜面を勢い良く駆け下り行く黒いDQ機の背中を視界に見捉えた後も、その更に向こう側の疎林地帯で僚機が目標機に対して接敵した事を示す、眩い閃光断線の荒々しき飛び散らかり様を見ても、彼の表情から厳つめの渋面が緩み消え去る事はなかった。
(クレオラーラ)
「駄目よ!そっちには行かせない!戻ってきなさい!」
ガンガンガンガンガン!
(セニフ)
「・・・っく!・・・危ない危ない。やっぱ持ってた・・・。」
戦車部隊は既に壊滅した・・・にもかかわらず、尚も丘陵上へと駆け上がり登ろうとするセニフ機に対し、突如として荒々しき攻勢へと転じ回った南方側のヴィスター・ローゼスが、機体腹部脇に装備し付けた二丁のガトリングガン「LGG-703Fix」を撃ち放つ。
・・・も、予めそう言った類の攻撃を仕掛けてくる可能性を、常に頭の片隅に据え置きていたセニフは、何とか寸での所でこの攻撃をスルリといなしかわし、たまたま近場に広がっていた濃密な樹木群の中に横たわる巨石の裏側へと素早く搭乗機を滑り込ませ入れた。
そして、眼前のサーチモニターへとチラリと視線を宛がい、丘陵上から味方機の反応光が完全に掻き消え去っている事を改めて確認し取ると、大きく眉を顰め歪めながら下唇を軽くキュッと噛みしめ、自らの周囲で蠢く赤色の敵対光点の動向へと意識を向け付けた。
この時、実際にセニフが真っ先に気に掛けたのは、友軍である戦車中隊を一瞬の内に片付け葬り去った謎の黒いDQ機の動向であるのだが、セニフが搭乗するトゥマルク機に搭載されたサーチシステムには、その所在を示し表す反応光が全く表示されず、恐らくは、・・・と言うより確実に、ステルス加工を施された特別機であろう事が推測し取れただけで、暗視モニター越しに目視で索敵を執り行おうにも、三方向から各々迫り来る大型DQ機が、セニフにその暇を少しも与えてくれようとはしなかった。
先程まで戦車部隊が陣取っていた丘陵上を南方側へと抜け、疎林地帯へと繋がるなだらかな下り斜面を駆け下り始めた赤色の大型DQ機は、特に目立った損傷を受け負わされている風でもなく、持ち前の急加速機構をフルに使用して、猛烈な勢いでセニフ機の方へと迫り来ている。
東方側より遅れて当該戦闘区域へと追い付いて来た緑色の大型DQ機は、何かしら移動機構に損傷を負った雰囲気を漂わせているが、定期的に使用される急加速機構は未だに健在な様子で、遠距離攻撃武器を携帯しているであろう事を考慮すれば、簡単にあしらい散らせる様な相手ではなかった。
そして、南方側より迫る緑色の大型DQ機は、セニフ機に対して最も距離を詰め寄せ来ている相手であり、装備し持ったガトリングガンの威力も相当なもの、巨石の裏影へと逃げ込み行ったセニフ機に対して撃ち放たれ続けた弾丸の一部は、巨石の縁部分をいとも簡単に粉々に撃ち砕く程の高火力な代物だった。
・・・とは言え、この緑色の大型DQ機は、先の戦闘で戦車部隊からの砲撃をモロに受け食らい、左手側に装備し持った菱形の大盾を左前腕部ごと吹き飛ばされてしまうと言う、大損害を被り受けており、まともに急加速機構を使用できない状況に陥っているであろう事を鑑みれば、直近の目標をこの損傷機に見据え置き、何かしらの活路を見出す必要があった。
それも、出来るだけ早急にだ。
セニフはまず、搭乗機の後ろ腰付近に装備し付けていたダミーイリュージョンをトゥマルクの右手で器用に外し取ると、巨石の西側縁部分まで機体をゆっくりと移動させ、南方側から迫り来る緑色の大型DQ機が程良い場所位置まで到達するのを少しだけ待った。
そして、サーチモニター越しに大型DQ機の動きを観察して取りつつ、予め見計らったタイミングに合わせて、トゥマルクの後部メインバーニヤを大きく吹き上がらせると、FTPフィールドを機体周囲にフル展開させながら、ダミーイリュージョンを西方側の色濃い茂みの中へと投げ放った。
(クレオラーラ)
「!?」
巨石裏でFTPフィールドを使用し、瞬間的な隠蔽行動を取ったトゥマルク機から西方側へと投げ放たれたダミーイリュージョンは、確かに、クレオラーラが搭乗するヴィスター・ローゼス機のサーチモニター上に、巨石の裏側から西方側へと向かって飛び出し行く獲物機の機体反応を描き出した。
クレオラーラも一瞬、追い詰められた獲物が一か八かの真正面突撃を敢行して来たのかと思い、刹那的速さでガトリングガン「LGG-703Fix」の照準を調整、即座に発射トリガーを引き抜こうと右手の人差し指に力を込め入れたのだが、巨石の裏側で輝き上がったトゥマルクのバーニヤ光が、サーチモニター上に映し出される相手機体反応光の動きと全くリンクしていない事に気付き、直ぐにそれがダミーイリュージョンを使用した欺瞞行為である事を見抜いた。
そして、獲物機が移動時に放ち散らす眩いバーニヤ光が、巨石の裏側からほとんど這い出る事なく、程なくして直ぐに小さく萎み掻き消え行った様を見取り、初速だけ付けて歩行移動・・・逆側!?と言う全く無音なる呟きを脳裏へと渦巻き上げると、手早い操作で搭乗機を巨石の東側縁方向へと向け付け直した。
次の瞬間・・・。
ドン!
ドガッン!!
(クレオラーラ)
「きゃぅっ!!」
クレオラーラが意識を離し外した巨石の西側縁部分、その周辺部に生い茂っていた濃密な樹木の奥影から、唐突に眩い閃光が迸り散り、ほとんど間髪を置かずしてヴィスター・ローゼスの機体左側面部を襲った強烈な衝撃によって、荒々しく五体を揺さぶられ付けたクレオラーラが、可愛らしい驚声をコクピット内に木霊し飛ばした。
クレオラーラ自身、直ぐにはそうだと気付かなかったが、セニフがトゥマルクのバーニヤを短く吹かし上げて初速を付け、歩行移動で向かい行ったのは巨石の東側ではなく、最初にダミーイリュージョンを放り投げた西側・・・、セニフはなんと、視界を遮る以外には何の防御力も持ち得ない樹木群の裏影へと、隠蔽状態の搭乗機を移動させ、ヴィスター・アルマリンが機体の左側側面部をセニフの側に曝け出すタイミングを狙っていたのだ。
戦車部隊の砲撃によって、菱形の大盾と極太い左前腕部を失っていたヴィスター・ローゼスの左脇腹部分は、完全にガラ空きの状態で、樹木の裏影からセニフが放った120mmミドルレンジキャノン砲の正確な射撃を防ぎやる手だてはなかった。
結果、左腰付近に着弾した砲弾の強烈な爆風によって、左脇腹部に装備し付けていたガトリングガンが吹き飛ばされ、大きく体勢を崩したヴィスター・ローゼスの機体が、情けなき千鳥足を無制動に奏で出しながら、2歩、3歩と、近場の樹木達を薙ぎ倒し歩く。
ただ、その分厚い装甲版を完全にぶち壊し破るまでには至らず、ヴィスター・ローゼスのコクピット内で明滅する小煩きアラート群も、比較的軽傷を示唆するものばかりであったが、端から1発で容易に撃破出来るとは考えていなかったセニフの次なる行動は頗る素早かった。
右手に装備し持った菱形の大盾を3つ目の足に見立てて大地上へと突き立て、荒ぶるヴィスター・ローゼスの機体挙動を、無理矢理に捻じ伏せ制し切ったクレオラーラが、サーチモニターへと一瞬だけ宛がい付けた己の視線を、真正面部のTRPスクリーン上に振り向け遣った時、既に目標機であるトゥマルクは、濃密な樹木群の裏影から飛び出し、ヴィスター・ローゼス機の眼前を右手側方向へとすり抜け行こうとしていた。
クレオラーラは即座に、無事に残った右腰側のガトリングガンを使用して足止めを図ろうと試みた。
・・・のだが、杖代わりに大地へと突き立てた菱形の大盾が邪魔して瞬間的な射撃が敵わず、直ぐに大盾を持った右手を手早く後ろへ引き戻しながら機体を右旋回させ、逃げ去ろうとするトゥマルク機目掛けてガトリングガン「LGG-703Fix」の照準を合わせようとした。
・・・のだが、鈍重なヴィスター・ローゼス機を右側に急旋回させる為の左手側の大盾を失った状態では、徐々にスピードに乗り始めたトゥマルクの右方向への移動量に中々追い付く事が出来ず、ようやくトゥマルクの機影を捉え得られるかと言う段に至る頃には、次なる遮蔽物の裏影へと逃げ込まれそうな場所位置にまで到達されてしまっていた。
しかも、絶対に逃がさない!!・・・と、激しくいきり立った攻撃意識を満載にして、力強く撃ち放ち始めたガトリングガンの弾丸は、彼女が見据えるガンレティクルの左右周辺部を、巧みな操作技術作で小気味良くいなし動くトゥマルクの機体本体を上手く捉えきる事が出来ず、程なくして再び大岩の裏影へと逃げ込み入った獲物機に対して、ほんの2、3発程度のかすり当たりを与える事しか出来なかった。
(セニフ)
「抜けた!」
(クレオラーラ)
「・・・っく!」
クレオラーラの側から見て、トゥマルクが逃げ込んだ大岩の裏手側の奥向こうには、起伏の激しい岩石地帯へと続く緩やかな下り斜面が広がっており、大岩の死角を利用して一気に岩石地帯方面へと加速を始めた獲物機の反応を見取るや否や、彼女は直ぐに力強くフットペダルを踏み締め、ヴィスター・ローゼスの後部メインバーニヤを全力全開に吹き上がらせた。
・・・と、それに加えて、右手側に持った菱形大盾の後辺部に取り付けられたサブバーニヤをも一斉にフル稼働させると、機体が左側へと嫌でも回り向く煩わしき挙動を無理矢理に抑え付けながら、搭乗機に対して出来る限り最大限の加速力を加え、セニフ機の後を追い始めた。
ヴィスター・ローゼスが後部メインバーニヤのみを使用してフルに出せる最高移動速度は、トゥマルクが後部メインバーニヤをフル稼働させた時に出せる最高移動速度と、実際にはそれ程大差はなく、ただ只管に直進する事だけを考えるならば、進行ルート上に存在し得る細かな凹凸や、周囲に群生する植物群の多くを無視し得る分、機格の大きなヴィスター・ローゼスの方が早いと言えるのだが、圧倒的に大きな機体重量を有する同機体は、オーソドックスな中型DQ機トゥマルクに比べて加速性能の面で著しく劣後しており、その欠点を補うべく装備した急加速機構をもってしても、高機動指向であるトゥマルクのフットワークの軽さに比肩するまでには至らない。
つまり、複雑に入り組んだ難地形で構成される岩石地帯での戦闘ともなれば、鈍重な大型DQ機に搭乗する彼らの方が圧倒的に不利な状況に陥る事になってしまう為、彼等は何としても、獲物機が岩石地帯に逃げ込むのを阻止せねばならなかった。
北方丘陵上から続くなだらかな緩斜面を猛烈なスピードで駆け下りつつ、獲物機と僚機との戦いをじっと観察して取っていたバルベスは、南東方向に広がる地形情報を表示するスクリーンウィンドウをチラリと見やり、距離的にまだ若干の余裕はあるが・・・と、多少楽観めいた思考を脳裏に浮かべ上げるも、搭乗機の左手前付近を並走して駆け走る黒いDQ機の後ろ姿へと視線を宛がい付けると、徐に極太い両の眉毛を険しく捻り曲げて、殺気に満ち満ちた恐ろしい強面を形作った。
そして、下り坂で移動スピードが上がり過ぎて機体挙動が不安定になる事を危惧して、50%程に止め抑えていた急加速機構の出力を一気に最大値まで振り上げると、「悪く思うなよ・・・。」など、多少同情めいた思いを小さくつぶやき出しつつ、搭乗機を勢い良く黒いDQ機の背後部へと急接近させ、濃密に燃え滾った攻撃的意識を込め入れた右手側の大盾による強烈なシールドバッシュ攻撃を打ち放った。
・・・が。
ドン!
ブオォン!!
(バルベス)
「!?」
・・・と、バルベスが直前に鳴り響くと予想していた重鈍い金属音とは全く異なる、物恐ろしい大空振り音が周囲に木霊し飛ぶと、シールドバッシュ攻撃が命中した場合のみに生ずる激しい衝撃に身構えていた彼の意識が、思いもよらず階段を踏み外したかの様な気持ちの悪い眩暈に見舞われ、全く無音なる唸り声を脳裏に零し出してしまった。
勿論、彼も、黒いDQ機が左手側、もしくは右手側に緊急回避を取る可能性がある事を予め予測し、そう言った行動を取られた場合にも即座に対応できるよう、しっかと身構え準備していたはずだったのだが、この時、黒いDQ機が彼の目の前で披露し見せた回避方向は、全く予想外の上方向であった。
しかも、シールドバッシュ攻撃を繰り出した勢いで左回転する搭乗機の挙動を手早く宥め抑え付けた後で、TRPスクリーン上部に黒いDQ機の姿を捉え見たバルベスは、その余りに異様な光景・・・、巨大な鉄塊たるDQなる地上兵器が、脚力のみの跳躍では到底達し得ぬ高さを軽々と超え行く様と、まるで空中に浮いているかの様な不気味な跳躍軌跡を描き出す様を目の当たりにし、俄かに酷く曇り掛かった表情を形作って、真っ先に脳裏に思い付いた言葉を吐き出す。
(バルベス)
「あのサイズでCタウ機!?スラスターバーニヤ無しだぞ!?」
バルベスが目の当たりにした黒いDQ機は、確かに空を飛んでいた。
いや、宙に浮いた状態のままスライド移動をしていた。
その異様な移動方法を見る限り、この機体が、重力と言う根源的力の作用を軽減する「Gシステム」なる特殊機構を搭載している事、Gシステムを有効化する為の特別な素材「セラミック・タウ」を数多く使用して作成された機体である事は、バルベスも直ぐに理解して取れたのだが、彼がこの時一番驚いたのは、Gシステムを搭載しているであろう黒いDQ機が、余りに小さかったと言う事だ。
実際に彼は、これまでに幾度か、Gシステムなる特殊機構を搭載したDQ機を見た事があるのだが、その何れもが巨大で鈍重な形様をした要塞型のDQ機で、決まって巨大なテスラポットと、強力なスラスターバーニヤを搭載している、もしくは、極太な大足を何本も並べ揃えて自重を支える蟲型タイプに限られており、これ程までにスマートで小柄な体躯の人型DQ機は見たことが無かったのだ。
Gシステムを稼働させる上で絶対的に必要欠くべからざるセラミック・タウと言う素材は、他の合金、セラミックと比べて非常に保有質量が大きい異質な代物で、移動する際には例外なく多大なエネルギーが必要である上、そもそもGシステムを構成する機能機構自体が大型、且つ、稼働させるだけでも、それなりに大きなエネルギーが必要となる大漢食システムである。
少なくとも、Gシステムの機能機構の小型化には成功したのであろう事は間違いないが、強力なテスラポットもスラスターバーニヤも搭載しない状態で、一体どのようにして、あれだけの機動性、加速性を生み出し実現しているのか、彼には全く解らなかった。
・・・とは言え、この時の彼に、彼是と思案を巡らせ回している余裕など無く、不気味な落下軌跡を描きながら上空を滑空する黒いDQ機が、南東側の岩石地帯方面へと行き向かっている事に気が付くと、即座に搭乗機であるヴィスター・アルマリンを急発進させた。
(バルベス)
「クレオラーラ!上空を優先!撃ち落とせ!」
(クレオラーラ)
「解りました!」
(バルベス)
「ガエタン!全速で向かうぞ!」
(ガエタン)
「了解!」
直後、ドガガガガガガガガッ・・・と、力強く吐き上がり鳴り響き渡った物恐ろしき連続的銃撃音に、思わず目を大きく見開き丸め上げ、ハッとした表情を形作ったセニフが、ほぼほぼ条件反射的に後方部へと視線を流し付けた。
そして、その後すぐに、目の前のサーチモニターへと意識を切り替え戻し、帝国軍DQ機達の現在の場所位置を確認し遣り取ると、後背部を追走し来ていた緑色のDQ機が停機状態にある事、攻撃目標が自分ではない事に気が付き、わずかに小首を傾げ倒す。
更に加え、停機した敵DQ機が、何故か上空へと向かって攻撃を仕掛けている事にも気が付くと、もしかして友軍の戦闘機か戦闘ヘリが来た?・・・のかと思い付き、すぐさまサーチシステムの索敵範囲を広げる作業を執り行ったのだが、彼女の周囲に緑色の光を放つ反応光は一つも見当たらなかった。
何?・・・何か起きてる?・・・と、セニフが怪訝なる表情を浮かべ上げて、右に左にと己が視線を忙しく行き来させた・・・その次の瞬間。
ドズッシャン!!!
(セニフ)
「きゃっ!?」
突然、上空より飛来し降下してきた大きな塊が、南東側の岩石地帯へと全速力で突き進んでいたトゥマルク機の左手側前方ほど近くに墜落し、着地と同時に強烈な激突音と重厚な地響きを吐き放って、周囲にある大量の土砂塵を勢い良く宙へとブチ撒き散らし上げた。
事前に、上空に何かがある・・・のではないかと、彼是と勘ぐり思案を巡らせていたセニフも、まさかこれ程までに強烈な墜落劇が間近で生じ起きようとは考えておらず、余りに予想外の突飛な展開であった事もあり、思わず大きく跳ね付き上がった心臓の鼓動に合わせて、情けなき驚声を漏らし零してしまったのだが、瞬間的に背筋に迸り走った畏怖的悪寒に手酷く苛まれながらも、手早く搭乗機を右手側方向へと急旋回させ行った彼女の対応は割と冷静だった。
だが、巻き上げられた大量の土砂塵を横目に、その外縁部を大きく回り迂回し行こうと、トゥマルクの移動速度を再び最大限まで引き上げ遣ろうとしたその矢先、突然、土砂塵の中から飛び出し襲い掛かり来た大きく黒い「何者か」の出現によって、彼女は再び寒々しき恐怖心を激しく煽り立てられる事になる。
(セニフ)
「く、黒いDQ!?」
それは、セニフにとって、初めて見る機体・・・には違いなかったが、彼女にはそれが、一体何者であるのかが直ぐに分かった。
そして、背丈、体系共に、セニフが搭乗するトゥマルク機とほぼ変わりない機体にも関わらず、その動き、スピード共に、完全に別物たる特異異質な機体である事も、直ぐに見て取って解った。