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Loyal Tomboy  作者: EN
第十一話:「混流の源泉」
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11-17:○赤のエリアに蔓延る脅威[9]

第十一話:「混流の源泉」

section17「赤のエリアに蔓延る脅威」


(ハビーフ)

「対象の味方機、敵DQ部隊の追撃を振り切ることに成功した模様。再び東進を開始しました。」


(メルベイユ)

「ふむ。東側の様子は?」


(ハビーフ)

「定かではありませんが、第五防衛ラインの東端部隊は既に帝国軍部隊と戦闘状態に入っている様です。」


(メルベイユ)

「コンの部隊は北東方面の索敵を強化。」


(コン)

「了解。」


(ヨナフ)

「射程圏内まであと2kmils。」


(メルベイユ)

「よし。早々に終わらせて東方の敵に備えるぞ。第一、第二小隊各車、砲撃用意。」


(ヨナフ)

「入りました。」


(メルベイユ)

「撃て。」



パレ・ロワイヤル基地から北東方向に大きく離れた密林地帯の真っ只中、ポイントE4-60付近の丘陵ラインに小さな横陣を構築し、西方一帯に広がる疎林地帯へと向けて砲口をかざし付けていたトゥアム共和国軍154戦車中隊が、中隊長「メルベイユ・ソラー陸等三尉」の号令に合わせて、一斉に主兵装である「D115mmオードナンス砲」を撃ち放った。


彼等戦車中隊は、元々、カノンズル山東南部の防衛戦線「メセラ」を突破し、パレ・ロワイヤル基地へと迫り来る帝国軍主力部隊を迎撃する為に、新たな防衛線戦を構築しようと当該地域へと集められた部隊のひとつであり、五つ目の防衛線戦の一番西側エリアを担当する任務を請け負っていたのだが、密林地帯「タイロン」近辺に現れた帝国軍DQ部隊の一部が、友軍機を追って当該区域へと流れ迫り来たため、一時的にそれに対応する為の任務に宛がわれる事となっていた。


彼等から見て西方側に広がる疎林地帯に姿を現した友軍機は、ネニファイン部隊所属の「セニフ・ソンロ」が搭乗するトゥマルク機で、それを追走し来た帝国軍DQ部隊は、現段階ではまだ機種不明機扱いになっているが、重装甲を施された大型DQ機「RYE-X3ヴィスター・アルマリン」と「RYE-X2ヴィスター・ローゼス」の2機編成、一方、それを迎え撃つべく丘陵ライン際に横陣を組み敷いていた戦車中隊の編成は、「TJ-349システーナ」中戦車が2輌と、「TJ-330サルフェリーナ」中戦車が4輌で、残る1小隊の3輌は、北東方向から迫り来る帝国軍主力部隊の動向を警戒すべく、少し離れた位置で2時方向に向けて隊列を組んでいた。



(セニフ)

「!」



ドゴン!ドゴン!ガン!ドゴン!ガゴン!ドゴン!



(クレオラーラ)

「うっ・・・!」


(バルベス)

「ち・・・、Mクラス戦車が2小隊、・・・丘陵上か。クレオラーラ。被害は?」


(クレオラーラ)

「・・・問題ありません。ですが・・・。」


(バルベス)

「解っている。ガエタン。機体の出力は最大でどの程度だ?」


(ガエタン)

「通常走行時で80%、ブースト使用時で60%です。」


(バルベス)

「なるべく合流を急いでくれ。」


(ガエタン)

「了解。」



一般的に、遮蔽物の少ない開けたエリア地域での戦闘は、正面被弾面積の大きいDQ機よりも、車高の低い戦車の方が有利であり、完全に停車した状態で待ち構える戦車部隊に対して、真正面から攻撃を仕掛けるのは余り好ましくない、例え、前面装甲を分厚く施し盛り付けた重装甲DQ機であっても突撃時には回避運動を適宜織り交ぜて前進するのがセオリーである。


だが、しかし、逃走する獲物機を追って必死に搭乗機を駆り立て動かし進めていたバルベス、クレオラーラの両名は、伏兵として高台に潜んでいたトゥアム共和国軍戦車中隊に、強烈な主砲の一斉射撃を浴びせ掛けられ、前方に持ち構えた大盾に各々一発づつの被弾を許し受け食らう事態に至ったにも関わらず、その後も、ほぼほぼ真一直線なる単純単調な移動軌跡しか描き出そうとしなかった。


幸い、斜めに構え持った大盾にぶつかり当たった砲弾は、それぞれ右に左にとほのかに角度を変え、体良ていよく弾け飛んで行ってくれた為、二人の搭乗機に被害は全く無かったのだが、程なくして「ドンドンドドンドドン!」と、再び撃ち放たれた戦車中隊の第二斉射攻撃に対しても、二人は全く回避運動を取る素振りを見せず、今度は、先行して走る赤色の大型DQ機「ヴィスター・アルマリン」が大盾に2発の砲弾を受け食らい、その内の1発が眩い閃光とけたたましき轟音とを伴って爆発、ヴィスター・アルマリンの機体を激しく揺さぶり、よろめかせた。


緑色の大型DQ機「ヴィスター・ローゼス」に至っては、残る4発の砲弾全てを大盾にぶつけ当てられ、盾面に対して割と深い角度で直撃した2発の砲弾が、間髪を置かずに一気に連続爆発した事により、大盾を前方にしっかとかざし構えた走行時の体勢を大きく崩される事態に落ち込み、一時的に制御不能な情けない蛇行運転を強いられる羽目になってしまった。


彼等が一直線に搭乗機をひた走らせる事にこだわっているのは、言わずもがな、前方を駆け逃げ行くトゥマルク機が、戦車部隊と合流するのに最短となる直線ルートを辿り進んでいたからであり、トゥマルク機を拿捕だほする事を目的としていた彼等としては、著しく機速が落ち下がる回避運動を無暗に繰り出す事が出来なかったのである。



(クレオラーラ)

「・・・っつ。左腕関節部に異常!このままでは持ちません!」


(バルベス)

「砲撃間隔は8秒前後!次はブーストで右にかわせ!」


(クレオラーラ)

「はい!」



彼等も、このエリア区域にトゥアム共和国軍の伏兵が潜んでいるであろう事は予め解っていた。


開けた疎林地帯を広く見渡せる東側の丘陵高台上に身を潜め、そこから強烈な一斉射撃を浴びせ掛けてくるであろう事も予測していた。


そして、彼等は既に、もはやこの伏兵部隊との交戦は避けられない、最終的には全機殲滅を目した激しい戦闘を繰り広げる事になるであろうと考えており、出来ればその前に、目標であるトゥマルク機の動きを完全に抑え止めくくる何かしらの一撃を加え入れたい、多少強引なれど、伏兵部隊からの攻撃は、前方に持ち構えた大盾で全て上手く弾き防ぎ、トゥマルク機との距離を一気に詰め寄り行きたいと考えていたのだ。


だが、この時、彼等に浴びせ掛けられた伏兵部隊からの一斉射撃は、バルベスが思っていたよりも遥かに高威力、中々に高精度な逸品で、彼等の思いは第二斉射目を受け食らった時点で、早々に頓挫とんざする事になった。



ドドン!ドドドン!ドン!



バルベスとクレオラーラは、戦車部隊から放たれた1回目と2回目の斉射攻撃から、攻撃に使用している戦車砲のおおよその砲弾装填時間を割り出すと、3回目の斉射攻撃が行われる直前のタイミングに合わせて、各々の搭乗機に搭載された急加速機構を使用し、後部メインスラスターバーニヤ、サブバーニヤに加え、両手に構え持った大盾の後辺部に取り付けられた合計10個ものサブバーニヤの全てに、凄まじい威力のジェット噴射光を煌々(こうこう)と灯し入れた。


そして、大型DQ機に相応そうおうしき巨大な後部テスラポットを全開全力でフル稼働させながら、一気に直線的な加速力を増し上げ行く搭乗機に対して、半場強引気味に急激な蛇行運転を無理強いし、大型DQ機とは思えない実に軽妙味の利いた回避運動を奏で出し見せる。



(ヨナフ)

「何!?」


(ハビーフ)

「敵DQ機、急激に加速!」


(メルベイユ)

「だよな。」



ドゴン!ドゴン!ドゴン!ドゴン!ドゴン!ドゴン!



結果、彼等は、東の丘陵高台上から撃ち放たれた合計6発もの戦車砲弾を全て見事に避けかわす事に成功し、あわよくばこの三回目の一斉射撃を持って彼等の搭乗機たる大型DQ機を完全に破壊、撃滅し遣る事を目論んでいた戦車部隊搭乗員達の表情に、驚きと苛立いらだちの混じり合った渋面しぶめんを形作らせた。



(バルベス)

「クレオラーラ!右から回り込んで対象機の退路を塞げ!俺は戦車部隊を片付ける!」


(クレオラーラ)

「解りました!」



ただ、彼等が攻撃を回避する為に使用した急加速機構は、エネルギーの消費量が非常に激しい代物であり、彼等は直後、直ぐに敵戦車部隊の次なる攻撃に備えてエネルギーを温存する為、再び搭乗機の走行モードを通常運転状態へと振り落とし戻さなければならず、その様子を暗視モニター越しに確認して取った戦車部隊の搭乗員達も皆、直ぐにその事に気付いた。


そして、疎林地帯の南方側へと向かって大きく膨らみ流れ走り行き始める緑色の大型DQ機と、北方側に広がる割と濃い目の木々達が群生する緩斜面部へと向けて舵を切った赤色の大型DQ機の動きを見て取ると、戦車部隊を統率する中隊長たる「メルベイユ・ソラー」が、落ち着いた様子を保ったまま各員達に新たなる指示を飛ばし入れた。



(メルベイユ)

「第2小隊は左、第1小隊は右の奴を狙え。砲撃のタイミングは各自の判断に任せる。照準は緩めで良いぞ。コン。7時方向の視界は開いているか?」


(コン)

「7時20分のラインなら。」


(メルベイユ)

「では隠蔽状態のまま砲口だけセットしておけ。フロアツー。フロアツー。」


(セニフ)

「・・・はい。フロアツーです。」


(メルベイユ)

「逃走ルートは南側を大きく回る様にしてくれ。足止めはする。」


(セニフ)

「・・・了解。お願いします。」



二手に分かれて北側へと向かった赤色の大型DQ機、バルベスが搭乗するヴィスター・アルマリンの狙いは、戦車部隊が鎮座する丘陵高台の北西部に広がる緩やかな登り斜面を辿り行って、戦車部隊に近接攻撃を仕掛ける事にあり、態々(わざわざ)北側を大回りする移動ルートを選択したのは、この登り斜面にそれなりの濃度を有した森林地帯が広がっていたからである。


南側へと向かった緑色の大型DQ機、クレオラーラが搭乗するヴィスター・ローゼスの狙いは、勿論、セニフが搭乗するトゥマルク機が戦車部隊との合流を取り止め、単独で戦場を離脱しようとする逃走ルートを遮断する事にあった訳だが、北側から戦車部隊へと突撃するバルベス機への攻撃を、出来る限り自分の方へと引き寄せたい思いも少なからずあった。


窮地へと陥った味方機を救い出すべく任を請け負った部隊なのであれば、少なからず救出対象を支援する事に重きを置く行動に寄り固まってくれるであろうと・・・。


そして実際に、この戦車部隊を統率する中隊長のメルベイユは、逃走し来るセニフ機を支援する為に第1小隊所属の戦車3輌を割り割き、緑色の大型DQ機の行動を抑制する為の支援砲撃を実施する判断を下す。


当然の事ながら、北側へと回った赤色の大型DQ機への対応もしっかりと執り行う必要があり、これに対しては、第2小隊所属の戦車3輌を宛がい、ある程度砲撃のタイミングをばらけさせた不規則な攻撃を敢行する事で、この大型DQ機を撃破撃墜しようと目論んだ。


・・・が、しかし、左右へと分かれた目標機に対して攻撃を分散化した事で、瞬間的に与える総火力値が著しく低下してしまい、1発、2発程度の大盾部へのクリーンヒットを生み出す事には成功したものの、大した損傷を食らわし入れる事も出来ず、赤い大型DQ機には簡単に森林地帯内部への進入を許し、緑の大型DQ機の足止めもそこそこなる成果しか上げ得られない状況に終始する事になってしまった。



この時点で、当該戦闘区域内における戦局の趨勢すうせいは、帝国軍DQ部隊の側に大きく揺らぎ傾き動いてしまったと言える。


お互いに距離を取った場所位置での撃ち合いであるならば、まだ戦車部隊の方に利があると言えた訳だが、近接戦闘における装軌装甲車輛の旋回性能、火器武器の取り回し易さは、DQと言う人型兵器に比べて著しく劣後しており、近接戦闘を得意とする兵種に取りかれそうになった場合の対処方法、戦闘被害を出来る限り最小限に抑える為の戦闘戦術もそれなりに考案されているものの、周囲に適切なスペースが確保出来ている事が前提な上、接近される経路上に遮蔽物が沢山立ち並んでいると言う現状も非常にまずかった。



セオリーからすれば、接近を試みる相手から処理しに掛かるべきところだが、何かあるのか?・・・と、一瞬そう思い上げて、僅かに眉をしかめ歪めたバルベスは、程なくして丘陵上より順次撃ち放たれた次なる3発の戦車砲弾を、遮蔽物となる木々達を利用して軽快にいなしかわし見せると、色濃い森林地帯の内部に見出し取った体良ていよき進行ルートに搭乗機の進路を合わせ向け、右足で力強くフットペダルを踏み拉いた。


そして、再度繰り出し放たれるであろう戦車部隊の攻撃に意識を集中させながら、機格に見合わぬ軽やかな体捌きを披露し見せ、急加速機構を使用して一気に戦車部隊の懐へと飛び込める最適な場所位置まで、急ぎ歩を進め行く。



・・・ところが程なくして、戦車部隊が次に攻撃を仕掛けかましてくるであろう砲撃のタイミングに合わせて、搭乗機の進み行く方向を僅かに戦車部隊の方へと向け付け遣ったバルベスが、その後暫しの間、全く攻撃を受け食らわない、不気味にシンとした静寂のいとまが到来した事に違和感を覚え、思わず「ん。」と軽く喉元を鳴らした。


次は一斉に来るな・・・と、バルベスは即座にそう思い付き、出来るだけ被弾を抑えるよう、搭乗機の両腕部を可能な限り機体本体へとすぼめ寄せ、全面に構えた大盾の角度をきつく傾け身構える・・・。


次の瞬間。



ドン!ドドドドドン!



漆黒色に染まり切った森林地帯内部に眩い閃光が幾つもほとばしり、荒々しき砲撃音が二時ふたときに一斉に鳴り上がった。


それはまさに、バルベスが直前に予想した通りの展開ではあったが、直後彼は、驚愕色に塗れた表情をにわかかに形作り、荒らげた大声を自軍の通信システム内へとじ込み入れてしまう事になってしまった。



ドゴドン!ドドドドン!!



(クレオラーラ)

「きゃぁぁぁっ!!」


(バルベス)

「クレオラーラ!」



丘陵上から一斉に放たれた戦車砲弾は、なだらかな緩斜面添いに群生する森林地帯内部を駆け上がり、

戦車部隊へと接近を試みるバルベス機を狙ったものではなかった。


疎林地帯の南方側を大きく迂回して東進するセニフ機の後を追い、更にその南側を大きく回る動きを見せていた緑色の大型機、クレオラーラが搭乗するヴィスター・ローゼスを狙ったものだった。


先んじて撃ち放たれた1発の戦車砲弾に素早い反応を見せたクレオラーラは、搭乗機に備え付けられた急加速機構を使用し、軽やかにこの攻撃を避けかわして見せた・・・所までは良かったのだが、その後の移動軌跡を完璧に読み切り捉えた戦車部隊から、かなりの精度で撃ち放たれた時間差の偏差攻撃を一斉に浴びせ掛けられ、運良く1発だけは至近を外れ飛んで行ってくれたものの、残りの4発全てを左手側に装備した大盾で受け止める事になってしまった。


しかもこの時、彼女は、南方側を迂回するセニフ機の離脱路を遮る為に、更に大きく南側に回り込もうと動いていた為、搭乗機がほぼほぼ南東方面を向いていた、機体前方部で斜めに構え持った左手側の大盾が、丘陵上に陣取る戦車部隊に対して真横に向き付いた状態にあり、更に急加速機構を使用していた為、搭乗機の両足裏エッジをフルに効かせた旋回行動もほとんど意味をなさなかった。


被弾直前に、彼女は、機体の上体を無理にひねり回して、搭乗機の被害を最小限に抑えようと試みたが、

先程の攻撃で部分的損傷を受け負わされた機体左腕部が、ほぼほぼ同時に着弾した戦車砲弾の爆発に耐え切れず、無残にも肘の部分からベキリと引き千切れてしまい、サブバーニヤをふかしたままの大盾ごと、あられもない方向へと吹き飛び去ってしまう。


結果、右手側に持った大盾の推進力によって、無様な回転運動を強いられる事になったヴィスター・ローゼスは、卓越したDQ操舵技術を有するクレオラーラの賢明なる機体操作によって、程なくして制御状態に戻り落ち着きはしたが、機体速度が著しく落ち下がる羽目になってしまった。



これはまずい・・・!



瞬間的にそう判断したバルベスは、戦車部隊へと近接攻撃を仕掛けるに当たり、木々達が密集して群生するエリアをやや迂回して、戦車部隊の側面に回り込もうと画策していた己の考えを即座に捨て去ると、最短距離で肉薄し得る直線的な突撃ルートへと機体の進路方向を向け遣り、急加速機構を使用して搭乗機であるヴィスター・アルマリンの機速を一気に増し上げた。


大盾がまだ1枚残っているとは言え、見晴らしの良い疎林地帯のど真ん中で、ブーストを使えないヴィスター・ローゼスに、次の攻撃を回避する術はなく、如何に重厚肉厚な装甲版を幾つもまとい被っているのだとしても、6発もの戦車砲弾を一斉に撃ち食らわされれば、ひとたまりもない。


とすれば、戦車部隊が次の砲撃を実施する前に一気に取りく素振りを見せ、自分の方へと攻撃の矛先を向け変えさせる必要がある。


正面からの砲撃であれば、至近であっても何とか防げるはずだ・・・と、そう強く思い上げつつ、バルベスは、フットペダルを踏み込む右足に更なる力みを加え入れ遣ったのだが、この時彼は、一つ失念していた。


それは、つい先程、彼が直感的に感じ得た軽い違和感の事なのだが、戦車部隊の予想外の行動によって友軍機が窮地に陥った事により、彼の脳裏から一時的に消え去ってしまっていたのだ。


彼がその事に気付いたのは、鬱蒼うっそうと木々達が生い茂る森林地帯を突き抜け行き程なくしての事、急加速機構を再びフルブーストすれば一気に戦車部隊へと取りけそうな場所位置まで達し着いた直後の事、徐に左手前方側の視界が開け、その向こう奥の闇の中で眩い閃光が3つまたたほとばしった様を、コクピット内に反射し飛んだ間接光によって察し取った時だった。



ドドドン!!



そして、間髪を入れずして鳴り響いたけたたましき砲撃音を聞いた直後、全く時を置かず左手側から襲い掛かり来た強力な大衝撃に激しく身を煽り揺さぶられ、思わず「ぐっ・・・!!」と言う情けなきうめき声を漏らし零すと、しまった!俺とした事が・・・などと、色濃い悔恨かいこんの念を脳裏にチラつかせながら、一瞬にして奇なる挙動へと陥り嵌った搭乗機の制御を取り戻す為の作業に奔走ほんそうする。


彼はこの時、戦車部隊の隊長であるメルベイユ・ソラーが、直前に張り敷いた即席のチープな罠にはまり落ちた。


先程の砲撃の際、戦車部隊へと近接攻撃を仕掛けようと向かい走り来るバルベス機の存在を完全に無視し、疎林地帯を突き進むクレオラーラ機を優先的に撃破しようと目論み見せたのも、それなり警戒して歩を進め行く様子を匂わせていたバルベスの焦りと動揺を誘い、近視眼的行動に導き行かせる為、隠蔽状態で隠し置いた戦車小隊の存在と、森林地帯の中に体良ていよく開けた射線路の存在を、悟られない様にする為のものだったのだ。


戦車系の車輛兵器は至近での機動力が非常に高いDQ機に接近されたら終わり・・・と言う定説を逆手に取り、そこに何かしらの対抗策を講じ潜ませる事は良くある事で、バルベスもその事は良く良く理解していたつもりだったが、絶体絶命なる危機的状況に瀕した味方機を助ける為にと、戦車部隊の次なる砲撃手番を潰し防ごうと、無理な性急策を選択して取った彼の人情味溢れる優しい性格が、かえって彼の立場を窮地へと追い込む要因になってしまった。



隠蔽状態にあった3輌の中戦車より放たれた戦車砲弾を、左手側に装備し持った大盾のほぼほぼ中心付近に、それも、ほとんど垂直な角度で受け食らう事になってしまったヴィスター・アルマリンは、先程のクレオラーラ機と同様に腕部ごと吹き飛んでしまうと言う最悪の事態には至らなかったものの、強力な爆風にあおられ著しく体勢を崩し、不規則なよろめき様を無様に奏で出しながら、しばしの間、制御不能の暴走状態に陥る事になる。


そして、行く先々で幾重にも重なり並んだ森の木々達を豪快に吹き飛ばし散らし、その後、一際大きな巨木の幹に機体の右半身側を強打して、意図せぬ急旋回行動を強いられてしまうと、機体はそのままの勢いを持って森林地帯を飛び出し、疎林地帯へと続く緩やかな下り斜面上に滑り落ちて行く羽目になってしまった。



(ガエタン)

「バルベス様!!」


(クレオラーラ)

「ガエタン!急いでバルベス様の援護に回って!出来るだけ早く!」


(バルベス)

「構うな!ガエタンはそのまま丘上に突入!クレオラーラは一旦東側の岩場に逃げ込め!」



バルベスが搭乗するヴィスター・アルマリンはかなり大型の機体、追加装甲をふんだんに塗しまとい、強固な大盾を2枚装備し持った文句なしの鈍重機であり、勢い良く下り斜面を滑り落ちて行くこの巨体のスピードを打ち消す為には、両足裏に取り付けられた旋回用エッジだけでは明らかに事足りず、それまで、突撃用にと温存していた急加速機構を使用する以外になかった。


バルベスは一度、機体を疎林地帯方面へと向け付け、地面から受ける不規則な抵抗を可能な限り削ぎ落すと、機体の挙動を完璧に取り戻し得た瞬間に機体小気味良く180度旋回させ、躊躇なく急加速機構をフル稼働させた。


結果、彼の搭乗機であるヴィスター・アルマリンが緩斜面の一番下まで滑り落ち行ってしまう事はなかったが、坂の中腹部を過ぎた辺りまで到達し降りてしまう事態へと至り、エネルギー消費の激しい急加速機構を全開運転させた事で、後部テスラポット内のエネルギー残量がほとんど無いと言う、かなり厳しい状況に追い込まれる事になってしまった。



この時点で、彼に出来た事・・・、それは、丘上に鎮座する戦車部隊の射線俯角ふかく下に潜り入り込んでいる現在の状況を利用して、可能な限り最速でエネルギー充填作業を完了させる事だけだった。


蔽物の少ない疎林地帯のど真ん中で、急加速機構を使用できない状態にされてしまったクレオラーラに対しては、何をしてやる事も出来ない、ただただ次以降繰り出される戦車部隊からの砲撃が、全て体良ていよく外れ逸れてくれる事を祈るだけ・・・、後方よりようやく合流したガエタンが、出来る限り最速で戦車部隊へと取り付き、素晴らしき手際の良さを持って、この脅威を排除し尽くしてくれる事を願うだけ・・・、それ以外には何をどうする事も出来なかった。



(メルベイユ)

「よーし。すこぶる上首尾だ。第二小隊は南側の奴を、第一小隊は坂下に落ちた奴を片付ける。」


(ハビーフ)

「第一小隊各車前進。」


(コン)

「西の奴は?」


(メルベイユ)

「上がってくるようなら任せる。フロアツー。そこからは最短ルートで良い。機体の調子はどうだ?」


(セニフ)

「はい。大丈夫です。ありがとうございます。」


(メルベイユ)

「一応、念の為、離脱は南側の脅威を排除するまで待ってくれ。攻撃には参加しなくていいぞ。」


(セニフ)

「了解。」



局所的ではあるが、当該区域における戦いの趨勢すうせいは、完全にトゥアム共和国軍側に傾き倒れ切っていた。


未だに帝国軍の大型DQ機3機は健在なるものの、その内の2機は既に損傷持ちで本来の能力をフルに発揮できない状態にあり、残る1機も戦いにおいて一時的に蚊帳の外に追いやられると言った、最悪の状況に見舞われ落ちてしまった帝国軍DQ部隊に対し、素晴らしき戦いぶりを披露し見せたトゥアム共和国軍戦車中隊は全くの無傷、救援をうたセニフも、ほとんど機体損傷の無い状態で安全圏内まで離脱する事に成功し、まさに現状、トゥアム共和国軍部隊側が望んだ展開の中で、最高の結果を得られていると言っても過言ではない。


本来であれば、1個中隊程度の戦車部隊など苦にもしない、卓越した戦闘技術を持ち有するエイリアンホース・ゼノ隊のメンバー達であるが、これ程までに悪化した戦局を一撃、二撃の元、直ぐに挽回し返すのは、ほとんど不可能であると言わざるを得ず、どんなに贔屓ひいき目を盛り被せて判断したところで、トゥアム共和国軍側の勝利は揺るぎない展開であると称す以外に無かった。


それまで、必至に逃げ惑う事しかできなかったセニフも、直前まで背後をしつこく追走してきた緑色の大型DQ機が、戦車中隊の一斉砲撃を受け食らって機速が著しく低下し、東方の岩石地帯へと逃げ込み行こうとする様をサーチモニター上で確認して取ると、ようやく安堵したような大きな溜息を一つ付き出しつつ、そう言えば、他の皆はどうなったんだろう・・・、ユァンラオは?何処に行ったんだろう・・などと、余所事にチラチラと意識を傾け付ける様になっていた。



・・・だが、しかし、ほとんど盤石なる大勢を築き上げて、最後の仕上げへと取り掛かる戦車中隊の各隊員達の思惑を余所に、一気に下火へと回り落ち行った戦いの火種が再び勢い良く燃え盛り上がったのは、第二戦車小隊の面々が南方を移動する緑色の大型DQ機に対して、とどめとなる戦車砲撃を加え入れようとした時、第一戦車小隊が俯角ふかく下に落ち隠れた赤色の大型DQ機の姿を、照準に捉え入れようかと言う場所位置にまで到達した、まさにその時だった。



ドガシャン!!



(コン)

「ん。」


(メルベイユ)

「何だ?」



ドゴーーン!!



(セニフ)

「!?」


(コン)

「なっ!?」


(レンドルー)

「隊長!!敵しゅ・・・」



ゴッガシャン!!



(メルベイユ)

「全車散開しながら南方へ後退!!コン!!即座に離脱しろ!!」


(コン)

「こ・・・コイツっ!!」


(ヨナフ)

「黒いDQ・・・!?」


(メルベイユ)

「司令部!!こちら154戦車中隊!!現在黒いDQと交戦中!!至急救援を請う!!



ドガシャン!!



(ハビーフ)

「コン!!」



ドッゴーーーーン!!



そこに現れたのは、それまで、カノンズル山南西部付近で猛威を振るっていた正体不明の黒いDQ機・・・、大きさこそ中型DQ機と大差無い比較的華奢目な成り様をしているが、対敵した全ての部隊が全滅すると言う非常に強力な戦闘能力を有した化け物機だった。


接近されれば終わり・・・なる戦車部隊の隊員達が見せ出した緊急回避行動、敵脅威を排除する為の素早い迎撃行動はすこぶる見事な手並みだったが、通常のDQ機が相手ならまだしも、この得体のしれない不気味な黒いDQ機に対しては、全く何の意味も成し得なかった。


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