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Loyal Tomboy  作者: EN
第十一話:「混流の源泉」
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11-16:○赤のエリアに蔓延る脅威[8]

第十一話:「混流の源泉」

section16「赤のエリアに蔓延る脅威」


パレ・ロワイヤル基地攻略を目した帝国軍部隊の攻撃が開始されてから早6時間が経過しようかと言う真夜中の時頃、防衛側であるトゥアム共和国軍の戦闘状況は、まさに最悪と言うに相応ふさわしき惨憺さんたんたる様相にどっぷりとはまかれ落ち込んでいた。


ナルタリア湖北岸部に設定したゴウヤウ渓谷入り口付近の防衛戦線においては、帝国軍地上部隊前衛部に対する強力な対地爆撃攻撃が成功し、今の所、帝国軍の進軍を阻む事が出来ているが、ナルタリア湖上を一気に渡湖して湖東岸部へと上陸した帝国軍低空戦車部隊に防衛線戦の裏側に抜け出られ、更には、ナルタリア湖湖中から断続的に繰り出される煩わしきミサイル攻撃の脅威も相俟あいまって、防衛線戦ゴウヤウは中々に安定化しない状況が続いている。


カノンズル山南西部の赤岩扇状地付近に設定した防衛線戦ロメオにおいては、パレ・ロワイヤル基地北西部に位置する密林地帯「タイロン」近辺に、突如現れた帝国軍DQ部隊に兵站路を遮断され、損耗した兵力の追加補充を全く行えない状況のまま苦しい戦闘を強いられており、カノンズル山東南部に設定した防衛戦線「メセラ」に至っては、トゥアム共和国空軍の防空網を掻い潜った帝国軍航空部隊による強烈な対地爆撃により戦線が完全に崩壊、帝国軍戦車部隊の突破を許す結果になってしまった。


そして、パレ・ロワイヤル基地北方部、密林地帯「タイロン」近郊における帝国軍DQ部隊との戦闘についてだが、これまた思いっきり遣られ放題と言うに相応ふさわしき悲惨な状況に追い込まれていた。


タイロン北西部よりパレ・ロワイヤル基地へと目掛けて一斉に南下を開始した帝国軍DQ部隊に対し、当該区域に待機していたネニファイン部隊のメンバー達は、前列組と後列組に部隊を分け抵抗を試みた訳だが、西方の密林地帯から突然姿を現したゴリラ型の大型DQの不意打ちを食らわされた後列組は大混乱、後列組の援護を受ける事が出来なくなってしまった前列組もまた、F型を主軸とする帝国軍DQ部隊の猛攻撃を受けて早々と半壊し、無様な後退劇を繰り広げるざまへと陥りはまってしまっていた。


当然、パレ・ロワイヤル基地周辺部の各防衛戦線の全てを一手に管理統括する基地司令部内も、次から次へと生じ起きる欝々(うつうつ)しき難事難問なんじなんもんに、寸暇すんかすら与えられぬ大激務の渦中で、情けなきのたうち回り様を強いられるめとなっていた訳だが、その時その時の状況に応じて、恐らくは最善であろう妙手を着実に打ち重ね続けて行った基地司令部の粘り強い対応もあり、戦局全体の完全崩壊と言う最悪の事態だけは、何とか避け得る状況に踏み止まる事が出来ていた。


そして、帝国軍の攻勢がやや下火に回り弱まるタイミングを見計らって、それまで完全に後回しと放り投げ置かざるを得なかった細かな問題の解決を少しづつ試みて行く・・・。


勿論、戦局全体の状況をつぶさかんがみて、優先順位が高いものから順々に対応していく必要はあるが、それでも、この時垣間見せたパレ・ロワイヤル基地司令部の対応力は素晴らしく手早いものがあり、基地周辺部の主戦場から遠く離れた状況でたった一人、非常に劣的な戦闘を強いられ続けていたセニフの元にも、ようやく光明のある通信指示が届け出される事になる。



セニフは今、パレ・ロワイヤル基地から北東方向に大きく離れた密林地帯の真っ只中で、搭乗するトゥマルクの機体をひたすらに駆り立て走らせていた。


背後より迫り来る3機の帝国軍大型DQ機の動向を警戒して取りながら、ほとんど道なき道とも言える濃密な樹海群の中に、搭乗機が辿り進み得る道筋を素早く見出しつつ、巧みな操作で生い茂る樹木を必死に掻き分け縫い進んでいた。


そこは、セニフが先程まで居た湿原地帯の東側一帯に広がる渓谷底部から崖上棚台へと続く緩やかな登り斜面部に当たり、上空から一見するとなだらかで比較的のっぺりとした空間が広がっているように見受けられるが、地表付近は非常に起伏の激しい凹凸が連なる複雑怪奇な地形を成していた場所だった。


(チャンペル)

「司令部よりフロアツーへ。現在ポイントE4-60付近に東部戦線より後退してきた154戦車中隊が待機中です。待機位置までの最短ルートを送信しますので、一旦この部隊との合流を図ってください。」


(セニフ)

「戦車中隊?・・・何も見えないよ?」


(チャンペル)

「現在、隠蔽行動中です。合流にはE4-59の疎林地帯を通らなければなりませんが、先方は84丘陵ラインに射線陣を構築するとの事ですので、81ライン以東はこの部隊の支援を受けられると思います。」


(セニフ)

「81・・・、か。」


(チャンペル)

「難しい状況なのは解っています。ですが、何とか・・・・・・、頑張って。セニフ。」


(セニフ)

「了解。ありがとう。猫ちゃん。」


セニフが未だに追いすがり来る帝国軍の大型DQ機3機に取り付かれずに済んでいるのは、周囲に群生する樹木達の生い茂り様が思いの外色濃く、例え大型DQ機と言えども、そうそう容易に薙ぎ倒し通れぬ程の立派な大樹が数多く乱立していた為であり、セニフがなるべく長い直線的なルートを辿り進まないように注意して進行路を選択していたからである。


確かに、この大型機が時折使用する急加速機構は物恐ろしい程の強力な加速力を生み出す秀逸品であるが、非常に複雑性の高い隘路あいろ内においては、使用するタイミングや使用時間に大きな制限がかかってしまう為、大型DQ機に搭乗するパイロット達が持つ高いDQ操舵技術を持ってしても、先を逃げ行くセニフ機に追い付く事が出来ない様子だった。


しかも、これまでの戦闘で解った事であるが、この大型DQ機が使用する急加速機構には制限があるようで、大盾後部に取り付けられたサブバーニヤ群をフル活用したブースト移動可能時間は長くても1分程度、その後は必ず、後部テスラポットのFE転換システムによるエネルギー充填作業を優先して行動している様だった。


勿論、だからと言って、セニフがこの後も延々と逃げ続ける事が出来るかと言えば、決してそうではなく、セニフにとって非常に都合の良いと言えるこの濃密な樹海地帯も、パレ・ロワイヤル基地方面へと近付くに連れ、その色濃さが次第に薄れ行く感があり、帝国軍大型DQ機部隊との非常に危険とも言える単独での戦闘を出来る限り回避し得ようと考えるなら、司令部から提示された最短で友軍戦車部隊との合流を図れる東部方面ルートを選択するのが最良であった。


ただ、この友軍戦車部隊と合流するとなると、東側一帯に広がるなだらかな地形の疎林地帯を通る事となり、追走し来る大型DQ機の急加速機構をフル使用した猛突進攻撃を、モロに受け食らってしまう事になる。


その為、セニフは、搭乗するトゥマルク機の進路方向を、直ぐに東部方面へと切り替え向け行かせる事が出来ず、地形データを表示するコンソールモニターへとチラチラと視線を宛がい付けながら、しばしの間、重苦しい渋面を浮かべ上げてしまう事になるのだが、思いもよらず唐突に閃き見出せた素晴らしき逃走ルートに、大きく見開いた両の目をビタリと釘付け止めると、即座に操縦桿を切り倒して搭乗機を東側へと向け遣り、右足でフットペダルを強く踏みしだいた。


(ガエタン)

「あれ?薄い方に行く?」


(クレオラーラ)

「居ると言う事でしょう。」


(バルベス)

「フィールド濃度は29%、伏兵が居るとすればあの丘の裏側だな。樹海エリアを抜け出た所で勝負を仕掛ける。」


(ガエタン)

「了解。」


(クレオラーラ)

「解りました。」


樹海地帯を逃走するセニフ機を追いかける3機の大型DQ機、真っ赤な機体の重装甲機「RYE-X3ヴィスター・アルマリン」と、同系色違いなる緑色のDQ「RYE-X2ヴィスター・ローゼス」のパイロット3人は、突如として奇怪な行動を取り示したセニフ機の動きに、一瞬だけ、いぶかしげな表情を一様に浮かべ上げたのだが、セニフ機が行き向かうその先に、恐らくは共和国軍の伏兵が存在しているのであろう事に直ぐに気が付くと、周囲に漂う妨害フィールドの濃度と東側に形作られる地形的様相から、この伏兵達の潜伏配置場所を的確に予想し上げつつ、各々が搭乗する機体のエネルギー残量率が90%を割り切らない程度に急加速機構を使用し、機速を増し上げた。


そして、酷く曲がりくねった追走路に対して、やや無理矢理と言える荒々しきドリフト走行を立て続けに繰り出し見せ、徐々に前を行くセニフ機との距離差を詰め行くと、行き向かう先に広がる地形データをつぶさに観察して取りながら、最終的にセニフ機へと襲い掛かる攻撃ポイントを見定めにかかる。


・・・が、一つ先に見え来た左右への別れ道を、躊躇ちゅうちょなく右手側方向へと折れ曲がり行ったセニフ機の行動を見て、徐に眉をひそめ歪めながら、機重の軽い機体でそんな低木の群生地を進んだら、機速が落ちるが、いいのか?・・・と、そう思い上げた赤色の大型機、RYE-X3ヴィスター・アルマリンのパイロット「バルベス・ハッシュ」が、自らの搭乗機を勢い良く同じルート、低木が濃密に群生し固まる小狭い谷道へと突入させ、暫しその道を突き進み行った所で軽い舌打ちを奏で出した。


(バルベス)

「ちっ・・・、そういう事か。・・・確かに一つ目は無理そうだが・・・。」


セニフを含めた4機のDQ機が行き向かう先には、巨大な樹木群と険しく切り立った崖岩群によって形作られた大きなS字カーブと、Rの小さいU字カーブが立て続けに連なり横たわっていたのだが、その各々のコーナーの入口手前付近に、非常に急勾配で酷く道幅が狭いが内側を大きくショートカット出来そうな登り路、中型DQ機であるトゥマルク程度であれば、無理をすれば何とか通れる程度の妙的連絡路が存在していた。


一つ目の連絡路は、切り立った岩壁に挟まれた細長い小路地、二つ目と三つ目の連絡路は、コーナー内径部に鬱蒼うっそうと生い茂る密林内部を突っ切る様に流れる小河川上で、何れの連絡路も、大型機であるヴィスター系DQ機では通り抜けられそうにない細狭さを有した難的悪路だった。


つまり、セニフが搭乗するトゥマルク機がこのショートカットルートを辿り、帝国軍のヴィスター系大型DQ機がそのままのルートを辿る事になれば、疎林地帯へと抜け出る頃にはかなりの距離差を付けられてしまう、ヴィスター系大型DQ機の急加速機構を、エネルギーが切れる限界ギリギリのラインまで引き上げてフル稼働させたとしても、最低2回は使用しなければ追い付かない程に引き離されてしまう事になる。


通常であれば、して目ぼしい障害物も見当たらないなだらかな地形の疎林地帯内において、急加速機構を2回使用すれば追い付けるのであれば、別段何ら問題のない状況であると言えるが、獲物たるセニフ機が行き向かうその先には、確実にトゥアム共和国軍の伏兵部隊が存在している事は明らかであり、この時バルベスは、つまり、急加速機構を使用した追撃を1回耐え凌ぐ事が出来れば良い、その後は友軍部隊の支援を受けられる・・・、そんな場所位置にトゥアム共和国軍の伏兵が待機していると言う事なのだな・・・と、そう思った。


そして、一つ目の連絡路へと勢い良く搭乗機を滑り滑り込ませ行ったセニフ機の動きを、サーチモニター上でつぶさに確認して取りつつ、とは言え、連絡路は何れも道幅の狭い獣道、その機体であっても通り抜けるのは容易ではないだろうがな・・・などと、楽観的思考をポツリと脳裏に浮かべ上げ、搭乗機である真っ赤なDQ機「ヴィスター・アルマリン」の機速を徐に増し上げた。


・・・のだが、自分達が大回りとなるS字カーブを、思いっきり強引に攻め曲がる軌道で搭乗機を勢い良く滑らせ行った直後、連絡路の通過に手間取りもたつくセニフ機の機影を期待して、サーチモニター上へとチラリと視線を宛がい遣ったバルベスは、思いもよらず発し出てしまった「は?」なるほうけた驚声をコクピット内に響かせ、眉を強くしかめ歪めた。


この時点で、セニフは既に、一つ目の連絡路を抜け出し切り、二つ目の連絡路への突入を開始していた。


(ガエタン)

「早い!・・・まさかデータに不備が!?」


(クレオラーラ)

「バルベス様!対象機の機速が上がりました!ガヴァーロのグラピアで足止めを!」


(バルベス)

「いや、既に射程外だ。・・・・・・まさか、次もか?」


そして、彼等が最初の大きな左カーブを曲がり終えた頃には、セニフ機は既に二つ目の連絡路を通過し終えていた。


セニフ機の機速が上がったのは、セニフが余分に装備し持っていた「120mmミドルレンジキャノン」の予備の弾倉と、残段数の少なくなったアサルトライフル「ASR-RType45」、ショットガン「FNG-T03」を、小狭い連絡路の中へと突入する前に除装し投げ捨てていた為であり、勿論、バルベスも、逃げ惑う獲物が反撃しても無意味なる諦観の念に達し至れば、自重を軽くする為にそう言った行為に及ぶであろう事は予測していた。


だが、不規則に並べ敷かれた数々の凹凸群や無秩序に生え伸びた乱雑な樹木群によって構成された確かなる苦難の道を、これ程までに極短時間の内に簡単に攻略、抜け出す事の出来る猛者的輩が相手だったとは思ってもいなかった様子で、バルベスはすぐさまTRPスクリーンの左手側に辺りの地形データを大きく展開し出すと、これから自分達が行き向かう進行経路の様子をつぶさに観察して取りながら、状況を打開し得る妙的作戦を模索し始めた。


(ガエタン)

「僕が先行して連絡路をじ開けます!」


(バルベス)

「無理矢理通れなくもないだろうが、俺達の機体では機速が落ち過ぎる。」


(クレオラーラ)

「・・・これはもう、伏兵との戦闘を考慮した方が良さそうですね。侵入と同時に二手に分かれますか?」


(バルベス)

「他に打つ手が何も無ければな。」


(クレオラーラ)

「何か、ありますか?」


(バルベス)

「んー・・・そうだな。・・・ガエタン、損傷を受けたのはスラスターバーニヤだけか?」


(ガエタン)

「はい。機体本体にダメージはありません。」


低木が群生する疎林地帯へと続く道は、彼等が搭乗する大型DQ機では通過が困難である細狭い連絡路を除けば、完全なる一本道。


急加速機構を用いたとしても、最高速度へと達するよりもかなり早い前段階で、急減速を余儀なくされる大きなカーブが、まだ二つも残されていると言う状況下においては、疎林地帯へと抜け出る前に、彼等が獲物であるセニフ機の背後部へと肉薄し得る術はない・・・、少なくとも、常識的に考えられる正攻法を持ってしては、完全に不可能であると言えた。


だが、S字カーブを抜け出た先にある程長い直線路の入り口付近を、全く何の気無しに横目で注視していたバルベスは、U字カーブの入り口と出口のルートとを分け隔てる、天然の隔壁なる巨大な樹木群の一部に、割と背の低い樹木達が固まって群生しているエリアを見つけ出すと、すぐさま僚機の機体損傷具合を再確認した。


そして、もう一度だけTRPスクリーン上に映し出された周囲の地形情報へと視線を宛がい巡らせ回した後で、かなりの博打手だが、やるしかないか・・・なる覚悟を決め込んだ険しい表情の上に鋭い眼光をギラリと光らせ上げると、目の前へと迫った二つ目のカーブをてい良く曲がり行く為の操作を手際良く施し入れながら、二人の部下に対して早口で指示を飛ばし入れ始めた。


(バルベス)

「ガエタン。ブーストを使用してR24-128付近の低斜面上の窪地内に先行し機体を停機、4時方向へと向けて即席の発射台を構築しろ。」


(ガエタン)

「発射台・・・ですか?」


(バルベス)

「窪地の縁際へりぎわに盾を付いて斜めに構えていれば良い。体勢は出来るだけ低く。意図は解るな?」


(ガエタン)

「・・・は、はい。了解です。」


(バルベス)

「クレオラーラ。直前までエネルギーの充填を優先。」


(クレオラーラ)

「解りました。」


バルベスが目を付けたその場所は、確かに他の所と比べて障壁となる樹木達の背丈が低く、また、その群生面積も比較的狭いエリア地形の様だったが、U字カーブの出口ルートへと目掛けて直接射撃を撃ち通せる程に密林濃度が薄かった訳ではなく、この障壁越しに何かできるとしても、グレネード等の投擲兵器を使用し攻撃を試みるぐらいしかないように見受けられた。


当然、その事はセニフも既に理解して取っており、3つ目の連絡路を意気揚々と抜け出た後、彼女は、疎林地帯へと続く最後の直線路を走行する際に、なるべくこのエリア付近から離れたルートを辿る様に心掛けながら、帝国軍DQ部隊の動きを注意深く観察して取っていた。


そして、サーチモニター上に映し出された三つの赤色光点の内の一つが、2つ目の大きなカーブを曲がり終えるなり、このエリア近辺へと向けて機体を急加速させ、到着すると同時にその場に機体を停機させた様を見て、やはり、何かしらの投擲攻撃を敢行してくるのであろうと思った。


・・・が、その直後、先行した1機の動向に意識を奪われていたセニフが、サーチモニター上から後続機である2つの機影反応が消え去っている事に気付き、思わず「え?」なる無音の驚声を脳裏に浮かべ上げながら、眉を強くしかめ歪める。


恐らくは、FTPフィールドを展開して隠蔽行動を取ったからなのだろうが、先行した1機が背の低い天然の障壁越しに投擲攻撃を繰り出して足止めを図り、その隙に残りの2機が大きく開いた差を詰め来る作戦なのであろうと、そう考えていたセニフは、行き進む道筋が1本道なのに後続の2機が姿をくらました理由が全く理解できず、もしかして、3機同時に投擲攻撃を仕掛けて撃破しようと目論んでいるのだろうかと?のかと思い直し、天然の障壁越しに繰り出されるであろう帝国軍DQ部隊の攻撃に対して、更に強い警戒心を振り向き付けた。


ところが、しかし、セニフが帝国軍DQ部隊の投擲攻撃可能な範囲内へと勢い良く機体を飛び込み入れさせても、全く攻撃される気配はなく、背の低い天然の障壁エリア付近を通過する際も、全く音沙汰が無いと言う摩訶不思議な状況が続き、更に相手の投擲攻撃可能範囲を、何の苦も無く無事に抜け出られようかと言う段にまでそのまま至り、思わず「あれ?」と、拍子抜けしたような驚声を漏らし零した。


そして、ようやく諦めてくれた?・・・のかと、不意に込み上げ来たホッとなる思いを、小さな吐息の中に交えて静かに吐き出しつつ、それにしても、何でこんなにしつこく追いかけて来たのだろう・・・と、それまで、漠然と抱き持っていた不穏当な疑念に意識を傾け付けた。


・・・と、次の瞬間。



ドガシャンッ!!



突如として機体の後方部で物凄く重鈍い金属音が鳴り上がり、平静安寧なる世界観の中で落ち着き払いたい気持ちに寄り固まっていた、セニフの心の臓を思いっきり跳ね上げた。



ドガシャンッ!!



一体何事が起ったのかと、慌てた様子でTRPスクリーン上に映し出される暗視映像へと視線を巡らせ、周囲の様相を確認して取ろうとするも、全く何も理解して取れないもどかしき状況に手酷い焦燥感しょうそうかんを塗り付けられ、程なくして追加で鳴り響いたドシャン!ドシャン!と言う2つの大きな地鳴り音を聞き、物恐ろしい悪寒を背筋に感じ得る。


そして、徐に視線を落とし付けたサーチモニターの表示内容、自身が搭乗する機体の真後ろ部に2つの赤色光点が表示されている事実を目の当たりにし、愕然とした表情を浮かべ、荒らげた声色をコクピット内部へと吐き散らした。


(セニフ)

「えっ!?えっ!?何!?どうやって!?」


(バルベス)

「クレオラーラ。先に取りけ。」


(クレオラーラ)

「了解しました。」


帝国軍DQ部隊がこの天然の障壁エリアを通り抜ける方法は2つ、鬱蒼うっそうと生い茂る大量の樹木群を薙ぎ倒し払いながら無理矢理密林内部を押し通るか、障壁を構成する巨大な木々達の頭上を飛び越え抜けるかだが、この時、帝国DQ部隊が取ったのは後者の方法、なだらかな斜面上にある窪地内部に停機させたガエタン機の大盾を斜めに構える事で即席の発射台を作成し、それを踏み台にしてこの障壁を飛び越えて来たのだ。


勿論、如何に他の所よりも背丈が低かったとは言え、この天然の障壁は即席の発射台を作成したぐらいで、簡単にDQが飛び越えられるような高さでは無かったのだが、それを成した2機の大型DQ機のパイロット達は、通常であれば前方に持ち構えて使用する2枚の大盾を上方向へと変えかざし、急加速機構で使用するサブバーニヤをフル稼働させて上昇力を強力に高め上げたのだ。


結果、この障壁を完全に飛び越えるだけの高さを得るまでには至らなかったが、大型DQ機の質量を持ってすれば、簡単に吹き飛ばし散らせる細い枝木しかない上部エリア付近にまで機体を到達させる事に成功し、この非常に難しいタスクをものの見事に熟し終わらせ見せたのだ。


そして、空中で機体を起用に揺さぶり動かしながら進路を左手方向へと調整、疎林地帯へと目掛けて低木路を猛スピードで逃走し行くセニフ機の背後へと機体を軟着陸させると、前方へと戻し置いた菱形の大盾を使用し、再び大きなDQ機体を急激に加速させ行った。



セニフはこの時点で、友軍の攻撃支援が受けられるポイントまで到達する以前に、帝国軍DQ部隊との戦闘を余儀なくされるであろう事を覚悟した。


自らが搭乗するトゥマルクの機速を増し上げる為にと、残段数が少なくなった「ASR-RType45」アサルトライフルと「FNG-T03」サブマシンガンとを既に除装し捨てていた為、彼女が使用できる火器武器は左肩口に装備した120mmミドルレンジキャノン砲のみで、その砲撃すらほぼほぼ効き目が無い大きな盾を装備し持った、爆発的機速を生み出し得る大型のDQ機2機を同時に相手にしなければならない、まさに最悪と言うに相応ふさわしき状況・・・。


一体何をどうすればいいのか・・・と、彼是あれこれ考えを巡らせている余裕も全く無く、セニフは取り敢えず、攻撃を試みて相手を撃破する事を完全に諦め捨て、相手の攻撃をかわしいなしさばく事だけに意識を集中させた。



セニフに対して最初に攻撃を仕掛ける動きを見せたのは緑色のDQ機「RYE-X2ヴィスター・ローゼス」の方で、前方に大きな菱形ひしがたの大盾をかざし構えたままセニフ機へと猛突進、恐らくは先程の戦いでキリルに対して行った至近距離でのシールドバッシュ攻撃を、再び繰り出す腹積もりなのであろう。


それに少し遅れて僚機を追走する赤色のDQ機「RYE-X3ヴィスター・アルマリン」は、最初の攻撃でセニフ機を仕留め損ねた時の為の保険、セニフが完全なる逃げの体勢へと移行し入る前に、止めとなる一撃を食らわし入れられるよう、一当ひとあて後のせんに狙いを定めるフィニッシャー的な存在・・・。


と、すれば、1機目の攻撃をかわす事が絶対条件であるが、2機目の動きを気に掛けながら次なる攻撃に対処し得るように、1機目の攻撃をかわす必要があると言う事である。


勿論、単純にそうである事が解っていたとしても、一体どうすれば良いのか解らない・・・、例えその方法が解っていたとしても、実際にそれを実現できるかどうかは全くの別問題・・・だったのだが、セニフとしてはやる以外に無かった。



セニフはまず、かなりのスピードで追いすがり近付きつつある赤と緑の敵DQ機の動きを、サーチモニター上に映し出された赤色光点へとチラチラと視線を宛がい、適宜確認して取りつつ、TRPスクリーン上に展開し出した周囲の地形情報へと意識の大部分を傾け付け遣ると、疎林地帯へと抜け出る逃走ルート上の最後の出入り口部分に、非常に起伏の激しい凹凸おうとつが密集したエリア部分を見つけ、ほのかに搭乗機の進路方向を左手側へと切り傾けた。


そして、先行して攻撃を仕掛けてくるであろう緑色の大型DQ機が、徐々に距離差を縮め狭めて来る様を伺い見つつ、両機が凹凸エリア内へと突入したタイミングを見計らって、搭乗機をくるりと一回転、180度旋回させ遣ると、巧みな機体操作を持って器用な後退運動を保ち奏でながら、120mmミドルレンジキャノン砲を迫り来る緑色の敵機へと向けて構え付けた。


(クレオラーラ)

「何をしても無駄よ!」


緑色の大型DQ機のパイロットである「クレオラーラ・ロクソト」は、当然、追い詰められた獲物が何の抵抗も無く大人しく捕まってくれるはずがない、恐らくは、最後に何かしらの悪足掻わるあがき的な行動を披露し見せてくるであろう事を予測しており、ヘルメットゴーグル越しに見える幼げな顔貌の上に小さな笑み顔を形作りながらそう叫んだのは、それが、決して上手く行かないであろう事を確信していたからだ。


菱形ひしがたの2枚の大盾を左右斜めに構えた状態であれば、前方からの攻撃は容易に防げる上に、そのままの体勢で体当たり攻撃を仕掛ける事も可能、例え自身の攻撃がかわされたとしても、直ぐに追加で攻撃を敢行し得る2機目が背後に控えている現状においては、先程の戦闘でほふり仕留めた哀れなる同型機と同じ運命を辿る事は必至・・・。


勿論、最終的にセニフ機の鹵獲ろかくを目論んでいた彼女達が、獲物機を完全に撃破撃墜してしまうような激しい攻撃を繰り出し、食らわし入れる事は出来ない訳だが、先程の戦闘において、既に「本番前の予行演習」を済ませ終えていた彼女は、相手が如何なる手段に訴え出ようとも、完全に攻撃をかわしすかされてしまう事などありえないであろうと考えていた。



ところが、ドンッ!!と言う鈍重にぶおもい砲声と共に、セニフ機から撃ち放たれた高威力の徹甲榴弾は、緑色の大型DQ機ヴィスター・ローゼスが持ち構える菱形ひしがたの大盾にぶち当たると予想して身構えていたクレオラーラの思惑に反し、ヴィスター・ローゼスの足元前方、凹凸の激しい大地上へと突き刺さり、ドゴン!!と言う大きな爆音を吐き放って大量の土砂を巻き上げた。


クレオラーラは一瞬、体勢を崩して狙いを外した!?のかとも思ったのだが、その直後、爆発によって形作られた大穴によって、大きく体勢を崩してよろめきぐらつく動きを見せた搭乗機の挙動に、思わず「んっ!」っとむせびむ様な嬌声きょうせいを零し出すと、暗視モードで表示されたTRPスクリーンの一面を埋め尽す大量の土煙の向こう側で、獲物機が素早く右手側方向へとすり抜け行こうとしている様を見て取った。


「こんな程度で、虫が良過ぎない!?」と、語気を荒らげ、そう言い放ったクレオラーラは、すぐさま搭乗機が装備し持つ2枚の菱形ひしがたの大盾を左右に開き、右手側に持つ大盾で強力なシールドバッシュ攻撃を繰り出した。・・・のだが、丁度トゥマルクへと目掛けて攻撃を仕掛けかます段階で、ヴィスター・ローゼスの機体が左手側へと大きく体勢を崩していた事が災いし、ギリギリではあるが、セニフに見事攻撃をすかしかわされてしまう。


そして、シールドバッシュ攻撃を回避した後、直ぐに離脱し離れようとせず、ヴィスター・ローゼス機の背後へと回り込もうと、ドリフト走行を奏でし始めたセニフ機の動きに気が付き、「ちっ!」と汚らしい舌打ちを吐き捨て遣ると、右手側に持つ大盾の後部スラスターバーニヤの出力を全開に吹き上がらせ、搭乗機を180度急旋回させながらの強烈な左回転右盾突きフック攻撃を繰り出した。


ところが、ドリフト走行中に両足を軸に据えた機体回転運動をテンポ良く乗せ被せ入れ、ヴィスター・ローゼスとの間合いを上手く調整し離しへだてて行ったセニフの妙技が光り・・・と言うより、端からそう言った攻撃を誘う為であったのだろう、十分に余裕を持った回避運動を披露し見せたセニフ機の挙措きょそに、思わず驚きの表情を浮かべ上げて凝り固まってしまったクレオラーラは、無様にも、全くかすり当たりもしない大空振り攻撃を完璧にやり切り終えてしまう事になる。



何と・・・と、声には出さなかったが、少し遅れて交戦エリアへと行き向かっていたバルベスもまた、優秀なDQパイロットであるクレオラーラが繰り出した手落ち無き連続攻撃を、流れるような機体さばきでいとも簡単にあしらいかわし見せたセニフ機の動きに、驚きの念を禁じ得なかった。


そして、180度回転攻撃を繰り出した事でバルベスと正対する格好となった緑色の僚友機の左側を、ぐるりと時計回りに旋回しつつ、軽快なドリフト走行を奏で続けるトゥマルク機の動きを見て取り、一体何者?と言う真っ先に思い付いた疑念に対して、ほんの一瞬だけ自らの意識を寄り傾ける・・・も、ヴィスター・ローゼスの背後部へと取り付き隠れ入ろうと急速に機速を緩め落としたトゥマルク機が、バルベスから見て僚友機の向こう側で、僅かに右方向へと行き過ぎはみ出すと言った失態を犯した様を見て、直ぐに意識を振り戻し、搭乗機の進路方向を右手側に大きく膨らませ行かせると、眼前まで迫った獲物機に鋭い視線をギリりと括り付け遣った。



ヴィスター・ローゼスの裏影から僅かにはみ出し行き過ぎてしまったトゥマルクが、慌てた様子で機体をくるりと反転させ、機速の落ちた機体を再びヴィスター・ローゼスの背後部へと戻り隠れようと、必死に後部スラスターバーニヤを吹き上がらせ逆走を試みる中、今度は絶対に外さないとばかりに、三度目のシールドバッシュ攻撃を繰り出す構えを見せたクレオラーラが、右手側に持つ大盾の後部スラスターバーニヤに荒々しき赤光の連星を煌々(こうこう)と灯し光らせ上げる。


バルベスはこの時、ヴィスター・ローゼスとトゥマルク両機の距離と位置関係から、クレオラーラの一撃で勝負は決する・・・、機速の落ちたトゥマルクに逃げ切る術は無いと、直感的にそう思ったが、つい先程、驚く様な機体さばきでクレオラーラの攻撃を回避して見せた相手パイロットの事を警戒し、自身も同じタイミングを持って獲物機に攻撃を仕掛ける事にした。


そして、再び180度回転攻撃を繰り出そうとするヴィスター・ローゼス機の背後部へと向けて、右側に大きく膨らみ回った自らの搭乗機である赤色の機体ヴィスター・アルマリンを猛スピードで突っ込み行かせると、クレオラーラが打ち放つ右盾突きフック攻撃に合わせて、自らも強力な左盾突きフック攻撃をトゥマルクへと目掛けて打ち放った。



・・・ところが、次の瞬間、激しくたかぶり研ぎ澄まされた意識の中でバルベスが垣間見た光景は、摩訶不思議と言える不気味な挙動を奏でて再加速を果たしたトゥマルク機に、自らが放った左盾シールドバッシュ攻撃がすかしかわされてしまう様子だった。


確かにこの時、バルベスは、獲物機の完全撃破と言う事態を避ける為に、目標となるトゥマルクの機体中心部から少し外れた、後部テスラポットの横腹付近に狙いを定め、攻撃を繰り出していたのだが、それでも全くかすり当たりもしない事態に至るとは思ってもみなかった。


更に続き、バルベスの攻撃より約一拍程遅れて打ち放たれたクレオラーラの右盾シールドバッシュ攻撃に至っては、猛烈な加速度を持ってその場から離脱し行くトゥマルク機に追い付く事すら出来ずに、虚しき空切音を派手に鳴らし上げる事となる・・・。


(クレオラーラ)

「うっそぉ!?」


(バルベス)

「なっ!・・・ありえん!」


それはまるで、人知を超えた何かしらの魔法的力を使用したかの様な不可思議な動きで、トゥマルクが元々持ち得る前方向への推進力を遥かに超える、それ専用の特殊改良を施していたとしても、到底実現出来ないであろう爆発的な加速力であり、バルベスもクレオラーラも一様にして同じく、情けない驚きの声色をそろえ上げる以外に無かった。


言うまでもなく、この時、セニフが搭乗するトゥマルク機を突き動かしたのは、神の通力でも霊妙不可思議な力でもなく、現実の世界に存在する確たる物理的な力学によって引き起こされた現象であろう事は、バルベスもクレオラーラも解っていたのだが、セニフがヴィスター・ローゼスの背後部を通り過ぎはみ出し行った後、すぐさま機体を反対方向へと振り向けて逃げ去ろうとする際に、ヴィスター・ローゼスの左盾後辺部に、トゥマルクの左手を引っ掛け、掴まり取り付いていた事までは全く気付かなかった。


180度反時計回りに回転攻撃を繰り出そうとするヴィスター・ローゼス機が左腕に装備し持つ左盾の動きは、機体本体を中心軸に左回りで前側へ突き出ようとする右盾の動きに相反し、反対側で後ろ側へと引き戻される事になる・・・。


つまり、セニフは、その左盾の後辺部にトゥマルクの機体を取り付かせる事で、ヴィスター・ローゼスが繰り出す180度回転攻撃の回転力を利用し、自らが逃走し行く方向への強力な加速力を得ようと画策していた・・・、そして、両機の機体重量差が著しく大きかった事も相俟あいまって、見事、その目論みを完全完璧にやり遂げ切って見せた。


ヴィスター・ローゼス機の背後部へと回りこうとして、誤って行き過ぎはみ出してしまう演出をして見せたのも、クレオラーラに反時計回りの回転攻撃を再び繰り出させるため・・・、背後から迫り来るバルベスに、ヴィスター・ローゼス機の右側を回って攻撃を仕掛けさせる判断を促すためであり、結果としてセニフは、追いすがる敵機二人の攻撃を同時にいなしかわし、一気に戦闘エリアから猛スピードで離脱し逃げ出す事に成功した。



このままでは伏兵と合流されてしまう・・・と、瞬間的にそう思い上げたバルベスは、それまで頑なに使用を避けて来た射撃武器、ヴィスター・アルマリンの機体腹部脇左右に装備した二丁のガトリングガン「LGG-703Fix」を撃ち放つため、即座に両手に持った菱形ひしがたの大盾を左右に大きく開き放ち、右手側に大きくドリフト旋回移動しながら逃げ去ろうとするトゥマルク機へと機体の向きを振り付け遣った。


・・・が、暗視モードでTRPスクリーン上に映し出されるトゥマルク機の機影が、突としてこちら側にくるりと向き変った様を見て取るなり、左右へと開き放った菱形ひしがたの大盾を急いで戻し、搭乗機の眼前でガゴン!と力強く合わせ閉じた。



ドガン!!



直後、バルベスが搭乗するヴィスター・アルマリンの右盾中央部に、ようやく次弾の再装填作業を終えたトゥマルクの120mmミドルレンジキャノン砲の攻撃砲弾がぶち当たり、眩い閃光とけたたましき爆音、濃密な黒煙とを大に吐き散らして、赤色の大型DQ機ヴィスター・アルマリンの巨体を大きく揺るがした。


自身の背後部でパチッパチッと申し訳程度に鳴り響く磁気ベルトの耳障りな作動音に苛立いらだちを覚え、極太の両眉の間に深い溝を形作りつつ表情をしかめ歪めたバルベスは、のうのうと周囲に立ち込める黒煙の向こう側で、軽快に加速し逃げ去り行くトゥマルク機の機影に一瞥いちべつをくれ遣ると、続いて自らが搭乗する機体に残されたエネルギー残量を表示するスクリーン部へと視線を流し当て、チッ!と言う汚らしい舌打ちを小さく鳴らし飛ばした。



(クレオラーラ)

「バルベス様!」


(バルベス)

「大丈夫だ!直ぐに追うぞ!」


(クレオラーラ)

「はい!」


彼等二人は、今回の攻撃で獲物を仕留め捕えるつもりでいた。


グネグネと曲がりくねった低木地帯の連絡路を利用して、体良ていよく距離差を離し行く獲物機に一気に肉薄する為にと、急加速機構を上手く利用して巨木群の頭上を飛び越えると言う非常に燃費の悪い荒業を繰り出し、そのまま流れるようにブースト加速した連続近接攻撃を仕掛けた所までは、確かに良かった。


だが、何一つ抜かりなく繰り出した出色の攻撃の全てを、全くの無被害のまま回避し逃げられるとまでは思っておらず、まさかこの時、自分達が再び急加速機構を使用する必要性に駆られる、しかも、使用する為のエネルギー残量が足りていないと言う、情けない事態に喘ぐ事になろうとは、全く予想もしていなかった。


勿論、これまで、幾度となく困難な作戦任務に立ち向かい、こなし終わらせてきた練達の猛者たる彼等が、こんな程度の不都合が生じ起きたぐらいで、簡単に作戦任務を放棄するはずも無く、彼等はこの後もセニフ機の追走を継続する事になるのだが、急加速機構を再び使用できる段になるまで、しばしの間、エネルギー充填作業を優先して行わなければならない現在の状況をかんがみれば、もはやセニフ機が友軍部隊と合流を果たすのは時間の問題であると言えた。


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