11-07:○適合と違和感の並立[2]
第十一話:「混流の源泉」
section07「適合と違和感の並立」
セニフと容姿が非常に良く似たルーサ・シャル・コニャックと言う小さな女の子が、過去にどう言った経歴を持ち、どう言った経緯で、ここ、パレ・ロワイヤル基地へと流れ着いたのか、何故、十三歳と言う若さでネニファイン部隊のDQパイロット組みに配属されたのか、実は余り良く解っていない。
ネニファイン部隊に所属するDQパイロット、DQ整備士達の多くが、トゥアム共和国内で広く開催されてるDQA大会参加者によって構成されている事は周知の事実であり、それ以外のメンバーについては、元々トゥアム共和国軍のDQパイロットとして辣腕を振るった猛者達や、DQ関連の整備、運用等に色濃く携わってきた熟練者達が大半、何かしら特別な能力や経験を買われて例外的に配属されたケースは、通信オペレーター兼部隊長秘書官兼雑用係であるチャンペル・シィ以外に存在し得ないと言うのが、軍内部における一般的な認識だ。
勿論、軍に登録されている個人情報欄の最後部に、トゥアム共和国東部の地方都市メッサークロイツで開催されたDQA大会に、チーム「ベルンガ」の一員として参加していたと言う旨の前歴が記載されているルーサに関しても、大きな二つの枠組みの内の前者にしっかと混じり入ると言う認識で、何ら違和感は無いはずなのだが、実際に、メッサークロイツで初めて開催されると言われていた共和国内最大級のDQA大会が、数多くの諸問題により参加チームを募集する段階以前に、早々に開催中止へと追い込まれてしまった事実は、DQA大会に携わる関係者であれば、大抵耳にした事がある大きな話題の一つである事に間違いはない。
・・・と言うより、そもそも、「ベルンガ」なるDQAチームが本当に存在するのかどうかと言う点についても非常に疑わしく、それならば何故、同じチームのメンバーがネニファイン部隊へと配属されないのか、「カラムス」「ブラックナイツ」と言った他のDQ部隊に配属された形跡すらないのか、もしか、ルーサ以外のメンバー全員が、軍との契約を即時破棄し得る程の金銭を持ち有していた・・・と考える事も出来なくは無いが、その可能性は至極低いと見るのが妥当だろう。
この事に関して、ネニファイン部隊内部では少なからず疑念を抱く者達による簡易的調査行為が行われたりもしたのだが、さっと見渡して直ぐに解る程度の範囲内にそれらしき情報が都合良く落ち転がっているはずも無く、誰もが皆、それ以上深入りするような段に足を踏み入れる真似はしなかった。
それは、言うまでもなく、極めて非社交的な根暗者であるルーサと言う非常に大人しい少女が、周囲の者達に何かしらの悪害を齎す様な危険な存在には全く見えなかった、別段、放って置いた所で特に何も問題は無いだろうと、皆から一様にそう判断されたからで、彼女の中に秘め隠された強烈な危険性について、つい先程知り得る次第となったシルも、全く同様のクチであったと言えた。
尤も、シルが初めてルーサの存在を見知った時に思い抱いた疑念の内容は、他の者達が真っ先に思い抱いたそれとは少し異なる別の方向へと強く傾倒したもの、帝国皇女なる立場のセニフと何かしらの関係がある人物なのではないか・・・と言う色濃い憂慮的思いであったが、セニフ自身が全く知らない、関係ないと言い切り張った為、他人の空似以上の近しさが特にある訳では無いのだろうと言う結論に心を落ち着けさせてしまっていたのだ。
やはり、もう少し念入りに調査し回って然るべきだったか・・・、例えば、部隊長であるサルムにそれとなく聞いてみるとか、鬼軍曹やプーちゃんに怪しまれない程度に探りを入れてみるとか・・・、薮蛇になった時が一番怖いが・・・、いやいや、それでも・・・などと、今更ながらに彼是と省みてみても、もはや完全に後の祭りでしかない事は、シル自身も良く良く理解していた事であり、まず最優先に考えるべきはこれからをどうするか、事態が悪化する事を防ぐ為に、そうなる予兆を事前に察知できるように、事態の中心にいるであろうルーサの動向と、その周囲で起き得る何かしらの異変事に、しっかと目を尖り光らせておかねばならない・・・と、シルは考えをまとめ整えていた。
例え、終わる見込みの無い大量の軍務に飲まれのたうつ運命から逃れ離れられぬ悲しき身なのだとしても・・・。
シルはその後、次から次へと圧し掛かり来る非常に難儀な作業を、適宜首尾良くこなし終わらせ行きつつも、ルーサに関わる情報を取得し得る為のそれっぽいおしゃべり活動を周囲の者達と繰り広げる事を忘れなかった。
時には、トイレに行って来る、書類や仕事道具を取って来るなどと適当に理由をこじつけて一時的にその場を離れ、自らの足でルーサの行方を探し回るなどの捜索活動も精力的に行った。
だが、しかし、それでも、ルーサの動向は中々に掴めなかった。
一応、ローテーション的には待機休憩中の状態にあるようで、最初の内は、それなりにルーサの目撃証言を各所で適宜集め得る事が出来ていたのだが、基地南東部にある物資貯蔵庫施設付近で目撃されたと言う情報を最後に、その動向を知る手掛かりが完全にぱたりと途絶え止んでしまった。
自室に戻り篭ったのだろうか?などとも思い、ルーサと一番仲が良いとされるフロルに尋ね聞いて見たのだが、逆に「私も探しているんだ。部屋にも居ないし、何処行っちまったんだ?」なる埒無き返答しか帰ってこず、その後、かなり多くの時間を割り割き、かなり広範囲に渡る捜索活動を行うも、一向にルーサの行方を掴み取る事は出来なかった。
幾ら休憩番にあるとは言え、帝国軍の攻撃が再開されれば即時出撃の命令が下る可能性が非常に高い訳だし、少なくとも、軍上層部からの指示を確実に受け得られる範囲内には必ず居るはずである・・・と言う考え方は強ち間違いではなく、基地内における生活の拠点である食堂や休憩娯楽室、兵士たる者達が良く出入りする訓練室や兵器格納庫などを重点的に捜索し廻ったシルの行動も、概ね正しかったと言える。
だが、それは、ルーサが全く普段と変わらぬいつもの体で休憩時間を過ごしていた場合・・・、軍属の兵士たる本分をきちりと守り通し続けていた場合に限っての話であった事は言うまでもない。
居た!・・・本当に居た!・・・間違いない。
とどのつまり、ルーサはこの時点で、おおよそ一般的な思考の元に導き出される生活範囲内には存在しなかった。
様々な突発的要因を彼是と勘ぐり回して、それなりに広げられた予想範囲内にすら、ルーサは存在しなかった。
まさか、こんなにも早く見付ける事が出来るなんて・・・、余り変に動き回りたくない私にとっては好都合。
確かに、シルがルーサの捜索を開始し始めて程なくの間は、ルーサは基地内に居た。
シルが彼方此方で見出した複数の目撃証言からも解る通り、パレ・ロワイヤル基地内をただただブラブラと歩き回っていた。
別段、この時のルーサに他人から身を隠すなどの意図が変にあった訳でもなく、多忙を極めるシルの片手間作業なる簡易的な捜索活動内であっても、ルーサが、普段通りのルーサのままで居た午前中の間に・・・、ルーサが、何の気なしに基地南東部にある物資貯蔵庫施設内へと足を踏み入れるよりも以前に、もう幾たびか繰り返し敢行し遣る事が出来ていれば、早々にルーサの姿を己が目でしっかと捉え得られたであろう。
正直、今の今まで半信半疑だった・・・。けど、見れば見るほど、本当によく似ている・・・。
パレ・ロワイヤル基地南東部にあるこの物資貯蔵庫は、基地に駐留する兵士達の普段の生活を支える日用品や医療品、食料や飲料水と言った、非戦闘系物資のみを保管する非常に平和色の強いエリア区画で、基地全体が戦闘態勢にある逼迫した状況下にあっても、然程喧噪的様相に塗れ飲まれ落ち辛い比較的静かで穏やかな場所であり、最前線で戦う戦闘員兵士達にとっては余り馴染みの無い場所であった事は確かだ。
にもかかわらず、そんな場所に何故ルーサが足を踏み入れたのか・・・、その理由を的確に推し量る事は難しいが、一つだけ、その要因たるや事象を示し挙げられるとするなら、この時の物資貯蔵庫内には、非常に数多くの民間人がごった返すと言う奇異な状況にあった事であろう。
言うまでもなくそれは、パレ・ロワイヤル基地との交易(密輸)を目的として訪れた、基地周辺部に住まう帝国の民間人であり、帝国軍との戦闘が激化した場合などに一時的に基地内に匿う等の臨時的措置を取る事はもはや珍しくもないのだが、物資のやり取りをするトラックヤードとして開放された外接格納庫以外に、それなりに基地の深部分であると言える物資貯蔵庫内に、完全部外者なる民間人を立ち入らせる事は非常に稀な事であると言えた。
勿論、今朝方から長時間に渡り繰り広げられた帝国との激しい戦闘により、基地施設外接区域に被害が及ぶ事態に至ってしまった為、比較的安全であると目せる地下基地の奥深へと民間人を非難させる断を下さざるを得ない状況にあった・・・事は言うまでもないが、結果的に、パレ・ロワイヤル基地内には、敵国であるはずの帝国の民間人が数多く存在すると言う奇的な様相が形作られる事になってしまっていた。
数にして、100人前後は居るであろうか。それなりに皆、不安気な表情を携え上げてはいるものの、別段、変にいきり立って激しく騒ぎ立てたり、泣き喚いたりする者が居る訳でもなく、警護の為と称して監視の意を潜め持った威圧的な兵士達に囲まれた中にあっても、全く気にする様子もなく相も変わらぬ普段的様相で呑気に談笑する者や、長椅子の上に豪気に寝そべって爆睡をかましている者さえいた。
そして、そんな中に、一際大きく見開いた両の目を持って強直に凝り固まり、面持ち一杯に色濃い驚きの様相を滲み出す女性が一人・・・、半開きになった口元を僅かに上下させながら、決して誰にも聞こえぬ無音なる言葉を小さく呟き出していた。
確かに・・・、確かに、ユピーチルが言った通りだ・・・。
彼女の名前は「フェーン・メルヒー」と言った。
外に大きく跳ねだした紺色の癖毛と、ほんのりと優しげな細長の半目が特徴的な人物で、パッと見だけは何処にでも居そうな綺麗系のお姉さま的大人の女性と言った感じであるが、実際の所は、セルブ・クロアート・スロベーヌ帝国ストラントーゼ軍所属ゲイリーゲイツ将軍帰下の士官兵士たる猛者的兵士であり、ここパレ・ロワイヤル基地には、非常にお洒落で美味しいパンを作ると評判の店「ハップパップス」の売り子として身分を偽り訪れていた。
彼女の思惑は勿論、パレ・ロワイヤル基地内に潜入する事でしか成し得ない「特別な目的」を達し果たす事であり、この時点で彼女は既に、トゥアム共和国軍兵士の軍服を奪い身に纏い、基地を防衛する側の人間に擬装し馴染み入ると言う、作戦の初期段階を首尾良く熟し終えた直後の状況にあった。
彼女は、パレ・ロワイヤル基地周辺部の戦況が落ち着き払った頃合いを見計らい、近場の女子トイレ内の個室にこっそりと潜み隠れ入ると、単独で中へと立ち入って来た哀れなる女性兵士に狙いを定めて、死角部から意識をしっかと飛ばし失わせる強烈な一撃を見舞い食らわせ入れ遣り、捕らえた獲物を素早くトイレの個室内へと引き摺り込み入れた。
そして、女性兵士が着用する軍服を手際良く剥ぎ取り自らの身に着込ませ終えると、このままの姿では可哀想だからと、脱ぎ捨てた自分の衣服を代りに掛け被せ上げた後、中から鍵をかけた状態の個室内から這い出し、直ぐに物資貯蔵庫施設へと戻り行った。
それが、ついほんの少し前の出来事・・・、彼女はそこから、作戦の主目標たる「何者か」を求め捜索活動を開始する腹積もりだった。
ところが、彼女が物資貯蔵庫へと足を戻し入れ、周囲へと視線を流し這わせ巡らせ遣ったその直後、何の気なしに目に付いた赤毛の少女の後ろ姿を凝視して、徐に驚きの表情を浮かべ上げる。
見るからに幼げな赤色のポニーテールをゆらゆら揺らしながら歩く可愛らしい女の子、戦場より戻り帰ってまだ間もないのか、それともこれから出撃する為なのかは解らないが、DQパイロット専用の戦闘スーツに身を包んだ小さな女の子、それは、ネニファイン部隊に所属するDQパイロット「ルーサ・シャル・コニャック」と言う少女だった。
彼女はすぐさま、視線のみを右方左方へと忙しく巡らせ流し、辺りの様相を具に窺い見て取ると、物資貯蔵庫内に居る避難民達を警護する兵士達の一番手薄なる場所位置へとゆっくりと歩み行き留まり、しばらくの間、赤毛の少女の動向を見守った。
そして、やがて、全く何をするでもなく物資貯蔵庫を立ち去ろうとする赤毛の少女の後をひたひたと付け歩き行き、見るからに人通りが無いうら寂し気な細通りと、全く人気が無い空疎な区画へと続く連絡路と交差する道辻付近に差し掛かった頃合いを見て、少女の背後部へと一気に歩を急ぎ進め寄せ行かせると、心中に色濃く籠り蔓延った恐る恐るなる思いを無理矢理に抑え捻じ伏せ遣りながら、通常のトーンより僅かに高い優し気な声色を少女に投げかけた。
「あの、すみません。ハンカチを落とされましたよ。」
「?」
彼女が探し求める「何者か」とは、ネニファイン部隊に所属するDQパイロット、未だ幼さの残る小柄で可愛らしい赤毛の少女・・・その人であり、徐に後ろ部を振り返り見て、目の前へと差し出された全く見覚えのないハンカチへと視線を落とし付ける少女の顔貌をマジマジと間近に眺め見ながら、彼女は瞬間的に確信めいた思いを沸き起こした。
この子に間違いない、この御方で間違いない・・・と。
彼女は直後、不思議と怪訝なるかぐわしさを微塵も感じさせぬ少女の無機質な視線を静かに一瞥し受け取ると、なるべく少女の警戒心を刺激しないように注意しながらゆっくりと己の顔面を寄り付かせ行き、非常に小さなかすれ声に切り替えてこう言った。
(セニフ・ソンロさん・・・ですね?)
彼女が探し求める「何者か」とは、「ルーサ・シャル・コニャック」と言う赤毛の少女ではなく、「セニフ・ソンロ」と言う名の赤毛の少女の方だった。
そして、彼女が最終的に望み目指す事の顛末は、この基地からセニフ・ソンロなる赤毛の少女を連れ出し、帝国へと連れ帰る事・・・、出来る事なら話し合いを持って説得して、それが叶わぬなら無理矢理にでも引き連れて帝国へと連れ去る事にあり、彼女の主君である「ゲイリーゲイツ・トロ・ナイト」の目論みを成し叶えてやる事であった。
勿論、彼女は既に、パレ・ロワイヤル基地内に居るセニフ・ソンロなる赤毛の少女が、嘗て、父親殺しの罪により処刑された帝国の皇女である可能性が極めて高い、加えて、その赤毛の少女が今現在、非常に危機的な状況下に置かれている、悪なる謀を企み巡らす「何者か」の食指に晒されているのだと言う話をしっかと聞かされていたし、それが、決して口外罷り成らぬ話である事も重々承知していた。
ゲイリーゲイツが、パレ・ロワイヤル基地から赤毛の少女を連れ出すと言う困難な任務を彼女に託したのは、まず、彼女が、ユピーチル、ベトラッシュ、テヌーテ等と同様、心の底から信頼を置く数少ない身内的仲間の一人であり、そう言った謀を卒なく熟し成すのに十分な能力を持ち有する最適者だったからであるが、一番の理由は、彼女が嘗て、パレ・ロワイヤル基地の防衛守備隊メンバーとして、長らくこの地に配属されていたと言う、非常に都合の良い経歴の持ち主であったからだ。
「・・・誰?」
彼女は既に、パレ・ロワイヤル基地より少女を連れ去る為の体良き逃走経路を知っていた。
今現在の基地の主であるトゥアム共和国軍の誰一人として気付き得ぬ秘密の抜け道が存在する事を・・・、かなり時間は掛かるが、その地下通路の一つが、パレ・ロワイヤル基地周辺部の戦闘区域最外縁部まで伸び続いているのだと言う事を知っていた。
今回の謀を成功させるにあたり、彼女が最も困難であると考えていた問題は、戦中下において前線へと赴く義務を有するDQパイロットなる赤毛の少女を、如何にして労を掛けず短時間に見付け出すかと言う事であり、連れ去る手段は二の次として良い旨を言い渡されている彼女にとって、現状はもはや、下り坂となった道程を一気に掛け走り行ける芳しき状況に至り着いていたと言えた。
ただ悲しいかな、彼女はルーサと言う赤毛の少女の方を先に見付けてしまった。
三年前に処刑されたはずの帝国の皇女である可能性が高いとされる「セニフ・ソンロ」なる赤毛の少女よりも先に、「ルーサ・シャル・コニャック」と言うセニフと良く似た容姿を持つポニーテールの赤毛の少女の方に出会ってしまった。
彼女もまさか、パレ・ロワイヤル基地内に、皇女に良く似た赤毛の少女が二人居るなどとは、露程にも思っていなかったであろう。
ほぼほぼ二人きり、他に然したる注意心を払い気を揉む必要も無しなる安的状況下において、彼女の意識は完全に目の前の少女のみに張り付き向いていた。
(お迎えに上がりました。皇女様)
この時、彼女が直ぐに赤毛の少女を連れ去ろうとしなかったのは、出来る事なら説得してある程度の納得を得てから連れ出してほしいと言う、主君の贅沢な望みを叶えて遣ろうと考えていた為であり、変に回りくどい言い回しなどを用いず、単刀直入に用件を切り出し行ったのは、長々と説得を試みるつもりなど毛頭なかったからである。
彼女は、少女からの返答が少しでも後ろ向きな傾向を匂わせるものであれば、すぐさま少女の口を塞ぎ強引に担ぎ上げて逃走し行く腹積もりで、少女に対して躊躇なくその素性を知る者である事を告げ知らせた。
ところが、不思議な事に、帝国に戻り帰る事を強く拒んだとされる赤毛の少女から返された返答は、思いもよらず良好前向きなかぐわしさを如実に感じさせるものばかりであり、抵抗する素振りを見せれば即座に襲い掛かれるよう意識を傾注して身構えていた彼女の思いとは裏腹に、話は比較的スムーズに推移し行く運びとなった。
「・・・お迎え?」
(決して怪しい者ではございません。私はフェーンと言う名の帝国の人間です。皇女様を帝国へとお連れするよう、主君より申し付けられて参りました。)
「・・・帝国。・・・お迎え。・・・んー。・・・・・・ギュゲルト?」
(えっ!?・・・え、ええ、・・・そうです。皇女様の御身の為、何卒御了承くださいませ。ここは危険です。)
「・・・んー。・・・セニフ。・・・違う。・・・皇女。・・・私。・・・セファニ、ティール、マロワ、ベフォンヌ。」
(・・・し、失礼しました。セファニティール皇女様。)
「・・・んー。・・・フェーン。・・・ギュゲルト、知ってる。・・・味方。・・・?」
(はい。私は皇女様の味方です。どうかご安心ください。私が責任を持って、皇女様を帝国にお連れ致します。)
「・・・お迎え。・・・来た。・・・お迎え。・・・私、行く。・・・行く。」
突然、ギュゲルトと言う名を投げぶつけられた彼女は、不意に、多少焦り狼狽える素振りをほのかに発し出してしまったが、ギュゲルトと言う人物が「こちら側」の人間である事を既にゲイリーから聞かされ知っていた為、敢えてルーサの問いを否定せずに通す構えを取った。
そして、余りにも簡単に「了承」を得取るに至った少女との会話の流れ行き様から、多少なりと不安気な思いに苛まれ憑かれ、しばし凝り固まってしまうも、程なくして直ぐに、「・・・帝国、行く。・・・今?」と言う問いを少女から投げ掛けられ、直ぐに優し気な笑顔を再度作り拵え直して、(出立するにあたり、何か御入り用な物がございますのなら、お待ちする事は出来ます。)と言った。
勿論、彼女にはそれ程長い時間を待っていられる余裕は無いのだが、幸いな事に、この時少女から返されたのは「・・・いらない。」と言う素っ気ない返答のみで、彼女はその後、すぐさま少女を連れて逃走経路なる秘密の抜け道へと向けて足を進め行くのであった。
まさか、自分が当初探していた人物とは全くの別人を連れているとは、露程にも思っていなかった様だった。