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Loyal Tomboy  作者: EN
第十一話:「混流の源泉」
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11-03:○愚直の極み[2]

第十一話:「混流の源泉」

section03「愚直の極み」


ネニファイン部隊真夏の大納涼慰労会なる飲み会が開催される繁華街の酒場「アザリー・ファーブ」の店内は、会が開始されてまだ間もない序章的ステージの門戸もんこ部を未だに脱し得ない状況にありながらも、既に、宴もたけなわなる大盛況振りを見せており、如何に小柄なセニフと言えど、店内を移動するのも一苦労なる濃密な混雑様に塗れ落ち、立ち飲みするしかない状況に喘ぐ者達も数多く居る様子だった。


それもひとえに、普段は決して拝み見る事の出来ない魅惑のバニーガールと化したジルヴァの可愛らしい女形おんながた劇が、非常に蟲惑こわく的でいて、且つ、珍奇、滑稽極まりない完成度を見せ付け、客人達の関心を強く強く寄り付かせ留めていたからであり、本来であれば帰室のに着くべき長居人ながいにん達の腰をも、著しく重たいものにしていた為である。


と、来れば、新規入店者であるセニフ達三人が、ゆっくりと酒をたしなみ飲める場所など、もはや何処にも残されていないと考えるのが妥当だが、会の主催者たるそのうさぎちゃんに促されて向かった先には、ちゃんと彼女達が座り落ち着ける場所が用意されていた。


しかも、恐らくは、名指しで参加を強制されたセニフが、一人で来店する事は無いであろうと言う予測の元、その取り巻きなる連中も一緒にまとまり座れる様にと、悠々(ゆうゆう)六人は座れる一番奥のボックスソファー席が一区画丸々確保されており、更に御丁寧な事に、テーブルの通路側の一番目立つ場所に置かれた予約札には、セニフの名前がでかでかと書き記してあった。


(シーフォ)

「・・・これはまた、物凄い念の入れ様ですね。」


(フロル)

「おい。セニフ。これはちょっと気を付けた方が良いかもしれないぞ。」


(セニフ)

「う・・・、うん。」


(フロル)

「お前は奥に座れ。私が盾になってやる。」


(シーフォ)

「それでは私は反対側を守ります。御安心下さいましね。セニフ様。」


(セニフ)

「あ、ありがと・・・。」


セニフは一瞬、ネニファイン部隊のメンバー達を集めて飲み会を実施すると言うのは、自分をこの会に引きり出す為のていの良い方便だったのではないか?・・・、何かしら自分をおとしめる罠の様な物が仕掛け施されているのではないか?・・・などと勘繰り、徐にテーブルの下やら窓辺に引かれたカーテンの裏やらを簡易的に確認してみる作業を奏で出し遣ったのだが、特にこれと言って怪しげな代物が見付け取れた訳でもなく、取り敢えず、指定されたテーブル席に腰を落ち着けると言う流れに添い従うしかなかった。


そして一度、自身の左手側に座ったフロルと怪訝けげんなる表情を突き合わせ、徐に小首を傾げ合った後で、中々に払拭し得ない鬱々(うつうつ)しき思いを無理矢理に紛らせ散らす様に店内の様相へと視線を投げ巡らし、周囲の状況を眺め見て取る作業に意識を逃げ退かせた。


店内に居たのはざっと見積もって六十人程度の男女・・・、その多くがネニファイン部隊に所属する兵士達である様子だったが、一際目立つ馬鹿騒ぎ様を魅せていたランスロット、ルワシーの他に誰が居たのかをつぶさに確認して取れる精神的余裕が有った訳ではなく、その後はしばしの間、全く一言も喋らないまま無為の時を過ごす事になる。


すると、やがて、セニフ達が居るテーブル席の直ぐ近くの席へと注文の品を運び届けに来た可愛らしいうさぎちゃんが、新規参会者であるセニフ達の注文をついでに受付取ろうと、ゆったりとした女性的所作を保ち奏でながらセニフ達の元へと歩み寄って来た。


(ジルヴァ)

「はーい。お三人方、ようこそいらっしゃいましたー。本日のお代は全て私持ちとなっておりますので、遠慮無くじゃんじゃん注文してくださって構いませんからねー。」


(フロル)

「お・・・、おう。」


(セニフ)

「・・・。」


(ジルヴァ)

「あらあら。どうしたんですか?いつもの元気がありませんねー。私が折角、会場の雰囲気を盛り上げようと必死に頑張っているのに・・・、もしかして、私のこの格好がお気に召さないとかですかー?」


(フロル)

「あ、いや・・・、か、可愛いと思うよ。うん・・・。」


(ジルヴァ)

「そちらのお二方は?」


(シーフォ)

「とても魅力的でいて可愛らしい御姿だと思いますわ。ジルヴァ様。」


(セニフ)

「わ・・・、私も、可愛いと思う・・・。」


(ジルヴァ)

「うっふふふ。お褒め頂きありがとうございます。それでは、ご注文の方を窺います。お決まりの方からどうぞ。」


(フロル)

「じゃあ、私は、プレミアムブラック。」


(シーフォ)

「私はミルクティーをお願いします。」


(セニフ)

「えっと、ヴィーナスロックを一つ。」


(ジルヴァ)

「プレミアムブラック一つ、ミルクティ一つ、ヴィーナスロックをお一つですね。かしこまりました。マスター!プレブラ1、ミルクティ1、ヴィーナスロック1おねがいしまーす!」


間近で見る「有り得ないジルヴァ」の形様なりさまと語らい様は、思った以上に魅力的で可愛らしく、思った以上に女性的で親しみ易い好的雰囲気感を如実にょじつかもし出していた。


彼女が身にまと突飛とっぴ奇抜なファッションも、着こなす素材が元々秀逸だからなのか、それ程大きな違和感は感じ得ず、羞恥的思いを微塵も感じさせないその堂々たる振舞い様も強く相俟あいまって、その場の空気に完全に馴染み合った真の正答で有るようにも錯覚できてしまう程に自然的だった。


だが、その中身たるジルヴァと言う女性が、普段一体どう言った身の振る舞い様を見せる人物なのかを良く知るセニフ、フロルにとっては、それがかえって心の只中に蔓延はびこり渦巻く鬱陶うっとうしきむず痒さの様な感覚を、手酷く増し上げる要因ともなってしまっている様で、何事にも余り動じない性格のフロルでさえ、激しく揺らぎ狼狽うろたえる自らの動揺を隠し切れない様子だった。


そして、全く何を仕出かし起こす風でもなく、彼女達三人の元から颯爽さっそうと離れ去って行くジルヴァの後姿を皆で一様にじっと見送り付け続けながら、再び一番最初に思い上げた疑念の元へと意識の舳先へさきを立ち返らせ向け、一体何をやっているのだろうか・・・、何が目的で、何をしようとしているのだろうか・・・と、渦巻く疑念に歪んだ渋面じゅうめんをしばし無駄に見取り遣り合う・・・。



・・・と、ここで、フロルがふと、通路を挟んで対面側にあるテーブル席の一番奥側に、仲間内であるバーンスが座っている事に気が付き、徐に身を乗り出す様にして燐卓へと左手を伸ばし取り付くと、何やらカードゲームに興じている様子の男達四人組みの会話の中に、無理矢理割り込み捻り入って行った。


(フロル)

「おい。バーンス。バーンス。」


(バーンス)

「ん?・・・何だ?」


(フロル)

「何だあれ?何かあったのか?」


(ヌーノ)

「さて、肝心の五枚目はと・・・。」


(マルコ)

「おお?」


(ペルペスタ)

「ベット」


(マルコ)

「レイズだレイズ。」


(フロル)

「おい。バーンス。」


(バーンス)

「レイズ。・・・ああ、あれな。罰ゲームの変わりだとか何だとか言ってたぞ。」


(フロル)

「罰ゲーム?」


(バーンス)

「ほら。以前にセニフと勝負したって言う・・・、コールだ。」


(フロル)

「セニフと勝負って・・・、あれは引き分けに終わったじゃないか。」


(バーンス)

「それがどうも、奴自身は負けたと思っていたらしくてな。それで律儀にも自ら率先して罰ゲームを敢行する事にしたらしい。尤も、最初は本気で下着姿のまま基地内を一周するつもりだったらしいがな。・・・よし。俺の勝ちだな。」


(セニフ)

「・・・。」


(マルコ)

「あちゃ~。またかよ・・・。」


(ヌーノ)

「くそ~。最近ほんとついてないなぁ・・・。」


(フロル)

「・・・上からの圧力が掛かった?」


(バーンス)

「当然だろ?何せ、馬鹿正直に曹長本人に許可を取りに行ったって話しらしいからな。」


(フロル)

「それで、あの格好って訳か・・・。」


(バーンス)

「実際に許可を取ったのは、暇番を利用して飲み屋の手伝いをするって所までらしいから、後でどうなるかは知らんがな。まあ、奴自身、なるべくリスクを多く取って当初の形に近付けたいって腹積もりなんだろうが・・・、どうだ?セニフ。以外に可愛い奴だろ?」


(セニフ)

「え?・・・えっと・・・。」


(バーンス)

「はははっ。・・・さてと、次行くぞ。次。」


(マルコ)

「ちっ。絶対次は負けねぇ。」


(ペルペスタ)

「俺が親だな。」


多少、おざなり色の強いながら会話風ではあったが、事の次第のある程度を知っていたバーンスの説明により、セニフ達は、何故ジルヴァがあんな恥ずかしい格好をしているのか、何故、飲み屋でウェイトレスとして働いているのかと言うその理由を理解して取る事が出来た。


勿論、何故ジルヴァがセニフとの勝負において自分が負けたと思っているのかについては不明だが、この飲み会の主旨が、セニフをおとしいれる事を目的としたものではない、単に罰ゲームを敢行している自分の姿をしっかりと皆に披露し見せる為のものなのだと言う事が解り、セニフは直後、急激に沸き起こり来た安堵的感情に塗れた気の抜けた表情を形作り上げると、自然と緩み抜けて行った肩の力と共に、大きな溜息を吐き付け出してしまった。


そして、全く誰に責めつつかれた訳でもないのに、自ら率先して自らが発し出した言葉にしっかりと筋を通そうとするジルヴァの生真面目さ、愚直さに思いを至らせ寄せると、不意に、感心めいた思いと同情的な思いとに心を揺さぶり動かされ、ジルヴァに対する悪的感情が徐々に緩み弱まって行く心地を感じた。


(ジルヴァ)

「お待たせしましたー。こちら、プレミアムブラックと、ミルクティと、ヴィーナスロックになりますー。ご注文は以上でよろしかったでしょうか?」


(フロル)

「まあ、取り敢えずは・・・、ってジルヴァ。本当に大丈夫なのか?」


(ジルヴァ)

「何がでしょうか?」


(フロル)

「その格好だよ。ちゃんと許可とって無いんだろ?」


(ジルヴァ)

「ああ、これですか?大丈夫ですよー。これはれっきとしたこの店の制服ですのでー。」


(フロル)

「この店の制服?それが?」


(ジルヴァ)

「嘘ではありませんよ。ちゃんとこの店の倉庫に保管して有った物なのですから。」


(フロル)

「・・・もしかして、それが制服として成り立っていたのは、この基地がまだ帝国の手にあった頃の話じゃないのか?」


(ジルヴァ)

「そうですねー。そうとも言いますねー。」


(フロル)

「そうとしか言わないだろ・・・。それにその言葉遣い。」


(ジルヴァ)

「接客業をするんですから、それに見合った適切な態度が必要かと思いましてー。」


(フロル)

「私は、普段からそうする必要があるんじゃないかと思うけどな・・・。」


(ジルヴァ)

「それは言いっこなしですー。ねぇー。セニフさん。」


(セニフ)

「あ、いや・・・、えっと・・・・・・、あ、あのさ、ジルヴァ。」


(ジルヴァ)

「はい。何でしょうー。」


セニフはこの時、余りに普段とは掛け離れた別人を演じるジルヴァの姿に、何処と無く妙に落ち着かない居心地の悪さを感じ得ると、素晴らしく晴れやかな可愛らしき笑顔を見せ付け来るジルヴァと一瞬だけチラリと視線をかち合わせ遣った後で、自分の方からジルヴァに対して言葉を投げ掛けた。


それは、自分との勝負が原因で、やりたくも無い罰ゲームを無理矢理に敢行する羽目になったジルヴァの事をおもんばかって、彼女の心を多少なりと慰めなだめてやりたい気持ちに駆られ突かれたからなのだが、この時のジルヴァに、そう言った気遣いが必要だったかと言えば、全くそうでは無かった。


(セニフ)

「私・・・、あの勝負、別に自分が勝ったなんて全然思ってないし・・・、その、ジルヴァも本当に強かったし・・・、ジルヴァが罰ゲームやる必要なんて全く無いんじゃないかって、思ってるし・・・。」


所謂いわゆるそれは、完全に余計な一言だと言えた。


直後、ジルヴァは、全く持って相も変らぬ優しげな笑顔を浮かべ上げたまま、テーブルの上に乗り上げる様な格好で静かに左手を付き、フロルの目の前をぐいりと強引に横断し渡り行くと、目には見えない怪しげなオーラを背後にのうのうと揺らめき立ち昇らせながら、セニフの眼前で一際物柔らかな満面の笑顔を形作った。


(ジルヴァ)

「勘違いしないでもらいたいものですわねー。私は別に、嫌々コレをやっている訳ではないのですよー。」


(セニフ)

「え・・・?」


(ジルヴァ)

「寧ろ、胸の高鳴りを抑え切れない程に、ドキドキ、ワクワクしながらやっておりますのよー。何故だか解りますかー?」


(セニフ)

「な、何故・・・?」


(ジルヴァ)

「私はですねー。次の勝負に勝った時、貴女に同じ事をしてもらいたくて、態々(わざわざ)こんな恥ずかしい格好をしているのですよー。」


(セニフ)

「う・・・。」


(ジルヴァ)

「つまり、今の私の姿は、未来の貴女の姿なのですー。もう、楽しみで楽しみで仕方ありませんわー。何でしたら、今からこの衣服を全部脱ぎ去って、カウンターテーブルの上でストリップショーを始めたって、私は一向に構わないのですよー?」


(セニフ)

「い、いや・・・、それはちょっと・・・。」


(ジルヴァ)

「うっふっふ・・・。今の私は、勝者たる貴女の下僕なのですからー。何なりと好きな様にお申し付け・・・うきゃっ!!」


(フロル)

「・・・。」


だが、非常にねちっこい様態でセニフに絡み入るジルヴァの口撃も、程なくして繰り出されたフロルの暴挙・・・、目の前に晒し置かれた大半が作り物なる右乳房を思いっきり鷲掴わしづかみにして揉みしだくと言った、強烈な破廉恥はれんち攻撃によって早々の頓挫とんざを余儀なくされ、徐に右手で無防備な上体を守る仕草を見せ出したジルヴァの攻撃的意識が、一瞬にしてセニフの元から釣り引きがされた。


そして、素っ頓狂とんきょうな表情で「へぇ~っ。思った以上に中身が入っているんだな。」などと言いのたまいつつ、ジルヴァの脇腹や二の腕付近を指先でちょんちょん突き攻め立てると言った、フロルの子供染みた嫌がらせ攻撃が、火照り上がったジルヴァの攻撃的意識を次第次第に弱めえ失わせて行き、最終的に、テーブルの上から完全にご退場となったジルヴァの様相を、先程までの可愛らしいうさぎちゃんの姿に立ち返らせる事に成功した。


この時フロルは、ジルヴァが普段通りの姿まで戻り返って、否応なしに怒鳴りかかってくるのではないかと考えていた様だったが、罰ゲームとして自らに課し与えたその役風を絶対に壊すまいと考えていた様でもあったジルヴァは、多少むっとした雰囲気を垣間見せはしたが、ただただ無意味に「お客様。お触りはおやめくださーい。お触りはおやめくださーい。」などと連呼しながら耐える事しかできなかった様子だった。


(フロル)

「あっはっは。本当に可愛いなーお前。今後もずっとそれで通してくれたら嬉しいんだけど、なあ、セニフ。」


(セニフ)

「う・・・、うん。」


(ジルヴァ)

「・・・と、とにかく、今日の会はセニフさんの為に開催したと言っても過言ではないのですから、お時間が許す限り、思いっきり楽しんで行ってくださいねー。ほらほら、そんな顔してないで、もう無理に絡んだりしませんから、ご安心くださいましー。」


(何処ぞかの酔っ払い)

「おーい。ジルヴァちゃーーん。」


(ジルヴァ)

「はーーい。少々お待ちくださいー。・・・ではまたー、何か御用がありましたら、遠慮なくお呼び付けくださいねー。」


(フロル)

「おう。がんばれよ。変態。」


(ジルヴァ)

「・・・いーーーーーっだ。」


セニフを奥の席へと配し、自分が盾となる形で通路側の席に座ると言うフロルの作戦案は、見事に功を奏した。


元はと言えば、ジルヴァと言う人間の性格を省みずに、無益無用なる発言をし出してしまったセニフが悪い・・・と言わざるを得ない所だが、セニフ自身、そうだと感じ思い、猛省の念に己の意識を埋没させるよりもまず先に、然程手酷く絡みかれる事無く無事に済み終わった事の顛末てんまつに、一先ひとまずはホッと安堵した深い溜息を大きくつき吐き出し、次いで、フロルに対して感謝の意を示す物柔らかな笑顔を送り付け遣った。


そして、次なる仕事場へと向けてそそくさと歩き去り行くジルヴァの後姿をマジマジと見て取りながら、以前ほど強く悪的感情が増し上がり行かない自らの心の反応を感じ取り遣ると、ふと、急に目の前が少し明るくなった様な気がし、徐に下をうつむき向く仕草をほのかに見せ奏で出しながら、再び小さく笑み顔を形作った。


勿論、今回の一件によって、ジルヴァの性格が一変するなどと言う甘い考えを持つ事自体、無意味な事であろうし、より良き方向に改善されるかと言ったら決してそうではないだろうと思えるし、恐らくはまた、何処かのタイミングで勝負を仕掛け挑んで来る事は間違いないであろうし、セニフにとって非常にわずらわしき人物であると言う事実は、今後も全く変わらないだろうと思われる。


だが、口が悪く、人当たりが悪い、非常に疎ましき厄介者であるとは言っても、自分に都合が悪くなると変に誤魔化ごまかすとか、己の保身のみを考えて直ぐに逃げ出すとかする卑怯者的な輩などでは決して無く、自分が発した言葉にはしっかりと責任を持つ、非常に真面目でいて自分の気持ちに真っ直ぐな性格の持ち主なのだと言う事を、決して根っからの悪人でも、陰湿な天邪鬼あまのじゃくでもないのだと言うことを、セニフはようやく解り取り得る事が出来たのだった。



やがて、程なくして訪れた人心地付けるまったりとした空気感の装いに促され、不意に意味無く込み上げ来た笑い声を投げ掛け合ったセニフ達三人は、テーブルの上へと置き放たれたままになっていた各々のグラスを手に取り、お互いにそれを軽く小突き合わせ遣ると、「乾杯。」なる決まり文句を順々に発し出して、グラスをそれぞれの口元へと運び付け行った。


そして、手付け始めとしては適度と言える分量を静かに飲み頂き、口元と喉奥をほんのりと軽く湿らせ上げ遣った後で、酒のさかなとして最適なるジルヴァの話題を皮切りに、他愛無き世間話へと会話を推し進め行き始める。



・・・すると、そんな時だ。


乾杯の音頭を取り合った直後から、何やら仕切りに周囲の様相を気にする素振りを見せていたシーフォが、徐に口を開いて二人にこう言った。


(シーフォ)

「あの・・・。セニフ様。フロル様。・・・何かこう、私達の席だけ空席があると言うのは、やはり少し不自然ではないでしょうか?」


(セニフ)

「うーん・・・、確かに。言われてみればそうだよね。何かちょっと居心地が悪い感じがするかな・・・。」


(フロル)

「シルはどうしたんだ?後から合流してくるとかなのか?」


(セニフ)

「ううん。今日はR2補給基地で泊り込みのお仕事だって。朝まで帰って来ないと思う。」


(フロル)

「そうなのか。ジャネットの奴は確か夜番だって言ってたし、サフォークの馬鹿は未だに行方不明だし・・・、何処かその辺に丁度良い奴が転がってたりしないか?」


(セニフ)

「・・・うーん。どうだろ。誰かいるかな・・・。」


如何に主催者本人が自分達の為に用意してくれた特別席だとは言え、非常に数多くの人達で色濃くごった返した小狭い店内において、必要以上に余分なスペースを無駄に占領し続けるのは、確かに気が引けるし、落ち着かないし、周囲の目線が非常に痛々しく思い感じ得てしまうのも無理の無い話である。


出来る事なら誰かある程度勝手の知った輩・・・、余り面倒臭くなく、気軽に話が出来る気さくな人物を招いて席を埋め、何の気兼ねも無く楽しく遣りたい所であり、セニフはふと、フロルの問い掛けに促される様に席を立ち上がると、人混みの中に紛れるより良き適任者の姿を捜し求めて周囲へと視線を投げ巡らせ回した。


すると、程なくして、身近な場所位置から順々に遠い店の出入り口方面へと切り替え移して行ったセニフの視界内に、一際目立った奇抜な衣装を身にまとった小柄な女性が、カウンターテーブルの一番左側の席に座っている姿が映り入り、セニフは徐に両の眉毛をくいりと軽く持ち上げ遣った。


そして、一も二も無く、それがペギィある事を直ぐに見て察して取ったセニフは、多少の面倒臭さは否み切れないものの、ペギィならまあ別にいっか・・・的な失礼じみた考えに思いを至らせつつ、問題は誰と一緒に飲んでいるのかだけど・・・と、その近辺部にたむろしていた人物達の顔触れをつぶさに確認して見取り始めた。


・・・ところが、ざっと眺め見渡して直ぐに解り取れた事なのだが、ペギィの傍に見慣れた人物の姿は全く見当たらず、割と近場で馬鹿騒ぎを見せていたランスロットとも、ルワシーとも完全に別行動であった様子で、ジルヴァの奇行に対しても全くの無反応・・・、普段の糞やかましさを完全に押し殺し抑え潜ませた状態のまま、どうやら一人で静かにお酒を飲んでいる様子だった。


セニフは一瞬、あれ?と思い、不思議そうな表情を浮かべ上げながら徐に小首をかしげ倒してしまったのだが、セニフが直ぐにペギィの事を誘いに行こうとしなかったのは、何やらやけっぱち気味に手に持つグラスをぐいと持ち上げて中味を一気に飲み干し遣り行く彼女のその姿から、明らかにすこぶる機嫌が悪いのだろう事が如実にょじつに窺い見て取れたからであり、一体何かあったのかを直接聞きに行く事すら出来なかったのは、ペギィがその後、直ぐに座る椅子をくるり回して席を立ち、そそくさと足早に店の外へと出て行ってしまったからである。


勿論、店の外まで彼女の事を追いかけて行く事も出来はしたが、もしかして、ジルヴァと喧嘩でもしたのだろうか・・・、それとも、またランスロットやらルワシーやらにからかわれたとかのだろうか・・・ぐらいにしか思っていなかったセニフは、その後、間も無くして近くを通りかかったジョハダル、フレイアム、サックスからなる三人組の男性達の、やや強引気味な合流劇に意識を持ち行かれてしまった事もあり、そこまでの行動には及び至らなかった。



セニフは知らなかったのだ。


セニフ達が居る奥側の席からは見えない位置にある、壁向こうの四人席の一角に、ジョルジュが座っていた事を・・・。


勿論、彼は一人で飲みに来た訳ではないし、女性と二人きりで居た訳でもないのだが、先程垣間見たペギィの行動と何の関係もなかったかと言えば、そうではなかった。


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