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Loyal Tomboy  作者: EN
第十一話:「混流の源泉」
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11-02:○愚直の極み[1]

第十一話:「混流の源泉」

section02「愚直の極み」


無数に散りばめられた眩い照明の数々が意図的にゆっくりと暗く弱め抑えられ行く中、何処からとも無く進入し居付いた夜行性の蟲達が心地良き泣き声を綺麗に鳴き散らし始めた大きな地下空間内を、セニフは、非常に簡素なるも可愛らしい衣服に身を包んだ清楚可憐な銀髪の少女シーフォと一緒に歩いていた。


本日の就労を午後の五時半頃に遣り終えたシーフォと落ち合ったのが約一時間ほど前、その後はしばらくの間、パレ・ロワイヤル基地内の主要施設を案内して回ると言う約束の元、生活の中心地となる中央区周辺部を重点的に彼方此方あちこち巡り歩いていたのだが、午後の七時近くになって、セニフ達二人は、ようやくここ、旧繁華街「テルワナ通り」へと足を踏み入れた。


巨大な地下空間内に作りこしらえられた小さなこの街は、娯楽の少ない軍事基地内にあって唯一平時下におけるのどやかな賑わい様を感じ得られる憩いの広場で、生活必需品を数多く並べる雑貨店の他にも、お洒落な洋服を売るブティックや書店、レストランやバーなど、それなりの数の店舗が軒を連ねており、本来であれば、施設見学会の最後の締め括りとして、この繁華街を二人で楽しく練り歩いて回りたい所であった。


だが、生憎、本日の昼頃に突然降って沸いた非常にわずらわしき用事ようごとが、この後のセニフの予定を無理矢理に埋め潰してしまっていた状態で、その話を聞くなり、すぐさま同行する事を快諾してくれたシーフォと共に、もう一人の付添い人が居る待ち合わせ場所へと向けて、歩みを進めている所だった。


(シーフォ)

「それにしても、本当に困った御方ですわね。聞いた感じですと、幼少の頃にしつこく絡んで来た悪戯いたずらっ子達とも違う様ですし・・・、何故、セニフ様に対してだけ特別に辛く当たるのでしょうか?」


(セニフ)

「解んないよ、そんなの・・・。私、何も悪い事してないのにさ・・・。」


(シーフォ)

「セニフ様に何もお心当たりが無いと言うのであれば、原因はやはりその方の性格による所が大きいのだと思いますが、でも、恐らく目を付けられる様な何かしらの理由が、セニフ様にあると言う事なのだと思います。」


(セニフ)

「目を付けられる理由?・・・例えば?」


(シーフォ)

「そうですね・・・、例えば、セニフ様が余りに可愛らし過ぎるから、それに嫉妬して嫌がらせをしているとか・・・。」


(セニフ)

「それは無いと思うなぁ。だって私の目から見てもジルヴァは可愛いもん。多分、あんな性格じゃなければな・・・って思っている男性の人は多いと思うよ。」


(シーフォ)

「それ以外にも、セニフ様が際立って目立つ様な部分に対して劣等感を抱いているとか、絶対に負けたくないとか思っている可能性はあります。勿論、セニフ様の人となりを一方的に嫌って嫌がらせをしてやろうとか、弱そうだから気晴らしにいびってやろうとか、単純に考える陰湿な輩である可能性もありますが、もしかしたらその方、物凄い負けず嫌いな性格をしてらっしゃる方なのではないですか?」


(セニフ)

「まあ、見た感じから言っても、そうだろうと思うね。でも、私に負けたくないなんて、そんなの何も・・・・・・あっ!」


(シーフォ)

「何か思い付きました?」


(セニフ)

「・・・えっと、・・・私こないだ、いきなりジルヴァから勝負を挑まれたんだよね・・・。DQに乗って、一対一で戦うタイマン勝負・・・。」


(シーフォ)

「DQに乗って一対一で戦うと言いますと、セニフ様が以前よく参加なされていたDQA大会みたいな感じでしょうか?」


(セニフ)

(シーフォ。)


(シーフォ)

「あ、申し訳ございません。つい・・・・・・。それで、その勝負、セニフ様が御勝ちになられたのですか?」


(セニフ)

「ううん。引き分け。途中で隊長が仲裁に入ってさ。それで試合終了。」


(シーフォ)

「そうでしたか。でも、仲裁が入るまでセニフ様と互角に戦われるなんて、その方も相当な腕をお持ちの方なのですわね。別に、セニフ様が手を抜かれていたと言う訳ではないのですよね?」


(セニフ)

「めちゃくちゃ本気だったよ。ほんと強かった。途中で変なスイッチ入っちゃった感じになるぐらい。」


(シーフォ)

「と言う事はやはり、その方の御目当ては、DQでの戦いにおいてセニフ様に勝つ事なのではないでしょうか?」


(セニフ)

「なのかなぁ・・・。うーん・・・。でも確かに、一番最初に絡まれた時も、バスターマンティスがどうのとか言ってた気がする・・・。」


(シーフォ)

「バスターマンティス?」


(セニフ)

「あ、ううん。こっちの話し。・・・でもさ。私より強いんだって事を証明して、一体どうするんだろ。」


(シーフォ)

「人によっては名声が欲しい、他の人から賞賛されたいとか、色々あるかと思いますが、只単に、誰にも負けたくないと言う思いが強いだけなのではないでしょうか?その方は、セニフ様と同じ女性で、同じくDQパイロットとして最前線の地で戦われるトゥアム共和国の兵士ですが、セニフ様とは異なり正規の軍人であり、しかも年上の方です。こんな子供に負けたくないと思うのは、至極当然の事だと言えますわ。」


(セニフ)

「こんな子供・・・ってのは、ちょっと酷いなぁ・・・。」


(シーフォ)

「うっふふ。申し訳ありません。・・・ですが、私が思いますに、決して悪意が先立ってセニフ様の事をおとしめているのではないのだろうと思います。その内きっと、その方とも仲良くなれる日が来ると思いますよ。」


(セニフ)

「うーん・・・。でもまあ、そうなんだって考える様にすれば、少しは気が楽になるかな・・・。」


やがて、セニフが何故、突然割り込み入った用事を優先しなければならなかったのかと言う事態の推移を一頻ひとしきり説明し付けた後、次いで、セニフが何故、ジルヴァと言う女性に酷く絡まれかれるのかと言った事に、彼是あれこれと思案を巡らせ意見を交わし合いながら、「アザリー・ファーブ」なるお洒落しゃれな酒場まで歩き辿り着いた二人は、店の周囲を囲う背丈の低い木製のフェンスに腰を下ろす、待ち人たる大柄な女性の姿を見付けた。


そして、セニフとシーフォ両名の姿を見つけ取るなり、徐にニコリと愛嬌あいきょうのある笑みを浮かべて軽く右手をかざし付け来るその女性の元へと、足早に掛け走り寄って行った。


その女性は、厚めの唇と浅黒い地肌が特徴的な人当たりの良い人物で、午後の軍務を終えたばかりなのか、深緑色の軍服に黒ブーツと言う仕事着そのままの姿で、待ち合わせ場所へとやって来ていた様子だった。


(セニフ)

「ごめーん。フロル。待った?」


(フロル)

「待ったと言えば待ったが、お前にしては早かった方じゃないのか?私はてっきり、平気で二、三十分ぐらい遅れてくるのかと思ってたよ。」


(セニフ)

「そんな事しないって。・・・あ、この人がシーフォ。こっちが、さっき言ってた同じ部隊の人だよ。」


(フロル)

「よう。」


(シーフォ)

「本日はよろしくお願いしますね。フロル様。」


(セニフ)

「あれ?二人は初めてじゃないの?」


(フロル)

「セニフ。お前はお昼時に、私と何処で出会ったんだ?私は今日、そこで飯を食ったんだぞ。」


(セニフ)

「あ。」


(フロル)

「あ・・・って、まあいいか。セニフの天然に付き合ってたら時間が幾ら合っても足りない。さっさと入ろうぜ。」


(シーフォ)

「そうですわね。」


(セニフ)

「そうですわね・・・って。」


三人の前に建ち佇む「アザリー・ファーブ」なる酒場は、パレ・ロワイヤル基地内でも一、二を争う人気店であるが、店外に設置された電飾の様相は、非常にあでやかな色合いをかもし出す「テルワナ通り」の雰囲気に相反し、異様な程に質素控えめで、人に言われなければそこが酒場である事すら気付かぬ程の静けさをまとい被っている。


だが、人が出入りする度に開け閉めされる扉の向こう側から漏れ零れるきらびやかな光、流れ聞こえ来る人々の賑やかなしゃべらい様は、非常に活気溢れる力強い熱味をむんむんに帯び含んでいる様に見受けられ、宴会開始となる午後七時を程良く回り過ぎただけと言う早い時間であるにも関わらず、店内は既に、相当な盛り上がりに包み込まれている様子だった。



三人はこの時点で、今回の会に誰が出席して、何人ぐらい集まるのかを知らない・・・、主催者が一体何をたくらんでこの会を開く事にしたのかなど、詳しい事を一切聞かされていなかったのだが、既に、ネニファイン部隊に関係なく人が集まっているであろう事は、セニフ達三人が店の前にたむろしている僅かな間に行き来した人の顔触れを見て取れば直ぐに解る事であり、店内にいつもよりやや陽気付いた声色が適度に飛び交っていた事以外は、全く普段と変わりない店の様相そのままであったと言える。


何か良からぬはかりごとくわだているのではないか?・・・何か罠の様なものが仕掛けていたりはしないか?・・・などと、非常に警戒して取っていたセニフにとって、その光景は、少なからず心の中にわだかまった色濃い躊躇ためらい心を緩く弱め消してくれるものであった。


・・・ところが、ここで、いの一番に店の扉に手を掛け、中へと押し入ったフロルが急にその場に足をくくり止め、その直ぐ後に続いて入ったセニフが、「うわっぷ。」なる間の抜けた驚声をほのかに吐き出しながら、フロルの背中へと顔をぶつけ埋め込んだ。


そして、徐に怪訝けげんなる表情を浮かべ上げながら、「な、何?」などと多少きょどりどもった震え声を漏らし零し遣ると、不意に見上げ付けたフロルの表情に濃密な唖然色が滲み出ている様を見て取り、直ぐにその見据えた視線の先へと己の瞳を動かし付ける・・・。


すると、そこには、非常に小柄なるも元気一杯陽気溌剌はつらつな可愛らしい女性ウェイトレスがおり、セニフもまた、フロルと同じ様な驚きの表情をにわかに浮かべ上げて、しばし凝り固まってしまった。



「それでは、ご注文の方を繰り返させていただきます。バルディカにハスキーボンボンとケストリッツァが3つ、以上でよろしかったでしょうか?。かしこまりました。少々お待ち下さい。マスター!バル1、ボンボン1、ケスト3おねがいしまーす!」



それは、セニフもフロルも良く知る、非常に気性の荒い超攻撃的な乱派らっぱ者・・・。



「お客様ー。お触りはお止めくださーい。鼻から血が出て大変な事になりますよー。はーい!少々お待ち下さい!ただいま窺いまーす!」



見てくれだけに限って言えば、非常に可愛らしい清楚可憐なるボーイッシュな美的少女・・・。



「通して下さーい。通してくださーい。可愛い兎ちゃんが通りますよー。気を付けて下さいねー。はーい。お待たせしましたー。」



焦げ茶色の綺麗な短髪を妖美に揺り動かしながら、非常に人当たりの良い明るい女性的仕草と言葉遣いとを披露し見せるその姿は、まさに、触れれば切れる鋭いナイフの様な威圧的態度をひけらかし見せる普段の彼女とは、全く逆なる好的存在だった。


しかも、彼女が着込んだ衣装は、非常に露出度の高い小洒落こじゃれた黒のレオタードに、ほのかにピンクを混ぜ彩った真白のハイソックス・・・、足元には真っ赤なハイヒールと、首元には真っ赤な蝶ネクタイ、手首には袖だけのフリフリ腕輪・・・、極め付けは、尾骨付近に付け添えられた大きな白いボンボンと、頭の上に高々と飾り付け上げられた長く大きな二本の耳・・・。



(フロル)

「ジ・・・、ジ・・・、ジ・・・。」


(セニフ)

「ジルヴァ!?」


(シーフォ)

「・・・様なのですか?あの方が?」


所謂いわゆる、そう・・・、彼女の姿は、まさにバニーガールそのものだった。


おそらくは必死に寄せて上げて盛ってを施し込んだのであろう大きく強調された胸元は別に置くとしても、非常になまめかしい過激なコスチュームを身にまとい、素晴らしく社交的でいて物柔らかな笑顔を見せる彼女の姿は、普段の彼女らしさを全く感じさせない別人たる様相を如実にょじつかもし出し表わしていた。


(ジルヴァ)

「ご新規三名様いらっしゃいましたー!三名様ー!奥の予約席へどうぞー!」


(セニフ)

「・・・。」


(フロル)

「・・・。」


セニフもフロルも、一体何が起きているのか全く解らなかった。・・・いや、一体何をやっているのかが全く解らなかった。


一見して、赤の他人たる何者かが、ジルヴァの真似事をしてふざけている様な感じにも見受けられたが、見れば見る程にジルヴァ本人である事を確信する思いの方が強く脳裏に蔓延はびこり付いて行く感は否め切れず、二人はしばし、全く一言も発し得ない唖然とした表情に凝り固まったまま、酒場のウェイトレスたる役割を一生懸命に担い働くジルヴァの一挙一動に、只々視線を合わせ付ける事しか出来なかった。


そして、やがて、ジルヴァと言う人物に対する予備知識をほとんど持ち合わせていなかったシーフォが、「奥の席にどうぞですって。行きましょう。」と冷静なる言葉を発し出しつつ、自らが進んで奥の方へと歩き始めたのに合わせ、「あ、ああ・・・。」「あ、うん・・・。」などと、おざなりな返答を返す事しか出来なかった二人が、ゆっくりとその後に続いて足を進め始める。


・・・も、二人の意識と視線は、カウンター付近で忙しそうに接客業をこなし勤しむジルヴァの姿から全く離れる事は無かった。


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