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Loyal Tomboy  作者: EN
第十話「微笑みは闇の中で、闇の向こうで」
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10-22:○抗えぬ魔法[4]

第十話:「微笑みは闇の中で、闇の向こうで」

section22「抗えぬ魔法」


踊り場毎に設置された薄暗いフットライトの光を頼りに小汚い昇り階段を必死に駆け上がり、程なくして簡単に迎え入れた一番上なるフロア内部へと勢い良く踊り出る。


目の前には、何やら訳の解らない骨董品やら珍奇品やら、大きな木箱やらダンボールやらがぎゅうぎゅうに詰め込まれた小広いガラクタ置き場があり、そこから左手側方向に伸びる通路の突き当たり部には、避難誘導用の緑光にほんのりと照らし出された小さな鉄の扉があった。


逆に、右手側方向へと伸びる通路の方に視線を遣り向けると、左右に幾つかの扉を構え置いたL字型の通路が更に奥の方へと続いている様だったが、彼女達二人はまず、早々に外界へと抜け出られそうな左手側の通路奥の扉に飛び付いた。


ガチャ。ガチャガチャ。


だが、近付いて見て直ぐにはっきりと解り取れた「長い間使われてません」的な様相をそのままに、鉄の扉は押しても引いても全く動き開く気配が無く、目線位置に取り付けられた網入りの型板ガラスも、そう簡単に破壊し通り抜けられそうな代物では無かった。


勿論、その他に何処か抜け出れそうな場所は無いのか、何か使えそうな物は無いのかなどと、暢気のんきに周囲の様相を眺め見渡している余裕など全く無かった彼女達二人は、直ぐにきびすを返し戻して、反対側の通路へと足早に駆け走り始める事になるのだが、ふと、つい今し方自分達が昇り上がって来た階段の方へと視線を遣り向け、追っ手が無い事を確認して取ろうと足を止めた所で、唐突に行く手側方向から流れ聞こえて来た男達の声色に、激しく全身をビクつかせ上げた。


言うまでも無く、それは、先程大々的に鳴り響き渡った大爆音を聞き付けて急いで駆け集まって来た輩達の声だった。


(ボロー)

「お~い。本当にそっちか~?B地下の方じゃねぇのか~?」


(ヘイネス)

「そんなん解んねぇだろ・・・って、おい!スーン!お前、B地下の方に降りろ!消火器持ってだぞ!」


(スーン)

「おうー?消火器~?」


(ヘイネス)

「ほら!そこの通路脇に赤いのがあるだろ!それだよそれ!急げよ!」


(スーン)

「あ~か~?赤ってどれだ~?一杯あるぞ~?」


(ヘイネス)

「消火器っつったらそれ以外にねぇだろうがよ!このポンコツ野郎が!」


(スーン)

「あ~ん?ポンコツって何だ~?消火器じゃないのかぁ~。」


(ヘイネス)

「てめぇ、この野郎・・・、本気で・・・。」


(ボロー)

「チッチッチッ。違う違う。違うのよね~。ほ~らほ~ら。これだよこ~れ。この硬くて冷たい真っ赤なアイスキャンディ~。」


(スーン)

「おうー?・・・おーっ!アイスキャンディ!いいーっ!いいーっ!」」


(ボロー)

「だろ~?だろ~?いいかぁ~?それをちゃんと持って行くんだぞ~。そして、火を見付けたらそいつを投げ込むんだ。力一杯、思いっきり床に叩きつけてな~。」


(スーン)

「おおう。おおう。」


(ボロー)

「それまではぺろぺろやっちゃっててもいいからな~。ぺろぺろすんの大好きだろ~?」


(スーン)

「でへっ。・・・でへへへへへ。ぺろぺろ。ぺろぺろ。」


(ヘイネス)

「・・・。」


ところが、L字型通路の直ぐ奥脇付近まで一気に迫り来たと感じたわりに、中々こちら側へと姿を現し出さないと言った不思議な状況が運良くしばし続き、彼女達二人は、難無く容易に程近くのガラクタ置き場の中へと身を潜み込み入れる事に成功した。


そして、程なくして足早に駆け走り来た二人の男の姿影しえいを見付け取るなり、更に頭を低く、身を小さく屈め縮ませ、地下室へと続く下り階段にいそいそと突入し行く様をじっと息を殺したまま静かに見送り遣ると、徐々に足音が小さくなって行く音調をしっかと聞き取った後で、徐にその身をすっくと立ち上げ、直ぐにL字型通路の方へと向かって急ぎ歩き出し始めた。


先程流れ聞こえて来た男達の会話の内容から、L字型通路の向こう側にもう一人別の男が居ると言う事はちゃんと解っていたが、全く有無を言わさずと言った感じで勢い良く地下室内へと駆け降りて行った二人の男達と同様、その男もまた、急いで別の地下施設内へと降り下って行ったのであろうと、抜け出るなら今がチャンスだと、彼女達二人はそう考えたのだ。


勿論、彼等三人以外に他に誰も居ない保証など何処にも無かった訳だが、彼女達がL字角へと向けて歩を進め走り行く間、何者かがうごめき動く様な物音など全く発し立たなかったし、通路内をほのかに照らす明かりの揺り動き様も全く平静穏やかなるもので、彼女達の心は次第に「これは行ける」「上手く抜け出れる」と言った希望的観測論に満ち溢れていった。


だが・・・。


(シーフォ)

「きゃっ!」


(スーン)

「おうー?」


(セニフ)

「あっ・・・!」


彼女達二人が勢い良くL字角を曲がり終えた次の瞬間、非常に体躯の良い地味目の大男・・・、鼻に大きな傷絆きずばんガーゼを施しあしらった厳つい顔付きの熊男が、唐突に目の前にぬっと姿を現し出したのを見て、思わず激しくキョドリ上がった可愛らしい声色を順々に吐き漏らし零し出してしまった。


そして、自ら達の身体の挙動に目一杯の急制動を仕掛け入れて足を滑り止めさせ、不思議そうな面持ちでまじまじと見下ろし来る大男の表情に視線を向け上げ付けると、即座に襲い掛かってくる風でもなく、再び手に持った消火器を丁寧に舐め回し始めた男の奇なる行動をじっと眺め見ながら、静かに後退りを開始した。


勿論、ここから後ろに戻っても他に逃げ道は無い、前に進むしかないのだと言う事はしっかりと認識し取れていたが、通路の左右に無造作に積み重ね置かれた無数のガラクタ郡と、この男の大きな身体との隙間は然程広くは無く、何の策も無しに無理矢理に突撃特攻するのは完全に無謀以外の何ものでも無い様に思えてしまったのだ。


ただ、見るからに身体が重遅おもおそそう、頭の回転が悪鈍わるにぶそうな感がするこの男に、何かしらの揺さ振りを体良ていよく仕掛け入れて、相手の虚を突き上手く掻き回し続ければ、何とかなるのではないか・・・、思ったよりも簡単に抜け出る事が出来るのではないか・・・と言う思いが多少なりとあった事も確かで、二人はやがて、不気味に佇み立つ大男の挙動を静かに警戒しながら、周囲に何か無いものかと視線を右往左往し付け回し始めた。


だが、ここで、余りに周囲へと意識を振り撒き散らし遣ってしまったが為に、足元付近にまで大きく突き出たガラクタ片の一部に気が付かず、後退りさせ行く右足のかかと部分を引っ掛け体位を崩しよろめかせてしまったシーフォが、思わず己のはだけた胸元を隠す両手の組みを緩め解いて、その白肌を大々的に零し見せ出してしまう。


すると・・・。


(スーン)

「お!?・・・おおっ!?おーっ!!おーっ!!女だーっ!!女っ!!女っ!!女っ!!」


(セニフ)

「!?」


(シーフォ)

「!?」


次の瞬間、それまで全く二人の事を気にも留めないと言った感じで、一人静かに手に持つ消火器をぺろぺろと舐めていた大男が、唐突に奇声を発し上げ、にわかに色めき立ったその厳つい強面を思いっきりいかがわしく歪みあがらせながら、目の色を怪しく光り輝かせ上げた。


そして、見下ろす視線の先に居る可愛らしいボブカットの少女の直ぐ隣に佇み立つ、もう一人の人物も女である事に不意に気が付くと、それまで大事そうに抱え持っていた消火器を無造作にポイリと投げ捨て、更に激しく鼻息を荒らげ上げた。


(スーン)

「いいーっ!!いいーっ!!すっごくいいーっ!!アイスキャンディより断然可愛い!!可愛いよぉ~!!ぺろぺろされちゃいたいんか!?ぺろぺろされちゃいたいんか!?」


(シーフォ)

「ひっ!!」


(スーン)

「どっちがいいかなぁ~。こちかなぁ~。それともこっちかなぁ~。でへっ!・・・でっへへへへへぇー!うーん。そうだな~。・・・やっぱり、どっちも美味しく頂いちゃうのが一番~~~っ!!」


(セニフ)

「う、うぁぁっ!!」


濃密に猛り狂ったおどろおどろしき欲望をぐわりと前面に押し広げ、猛然と襲い掛かり来る大男の様相は、まさに、極限状態にまで飢え耐えらされたおぞましき猛獣が、ようやく与え付けられた久しぶりの食事に目の色を変え、激しく踊り暴れ狂わんが如き狂騒振りで、彼女達二人は、一も二も無く早々にガン逃げ後退と言う最悪の難道を選択させられる羽目になってしまった。


走り逃げる際、周囲に散在するガラクタ片を時折手に取り、迫り来る大男目掛けて思いっきり投げ付け当て遣るなど、多少の反撃行為を試みてみたものの、物凄い勢いと圧力を持って突進し来る大男の動きが鈍り緩む気配は一切無く、彼女達二人が、先程昇り上がり来た地下室への階段入り口付近まで到達するのに、ほとんど時間を要さなかった。


これはまずい・・・と、不意にそう感じたセニフは、ここは一か八かでも大男の足元に飛び込んで撹乱するしかない・・・と、そう強く思い直し被せ、すかさず自身の右手側を必死に並走するシーフォの方へと視線を向け投げた。


だが、次の瞬間、息を合わせた様にこちら側へと顔を動かし向けたシーフォが、一度後方へと視線を流し付け遣った後で、唐突にセニフの右手首を掴み取り、先程自分達が身を隠していたガラクタ置き場の方へと向かって、強引に突入し行く素振りを見せ出した。


セニフは一瞬、え?何故に?とそう思ったが、完全無謀なる突撃特攻策以外に、何らより良き手立てを見出し切れなかった彼女としては、ただただ黙ってシーフォの意向に従い、ガラクタ置き場の細通路内へと飛び込み入って行く他なかった。


そして、小柄な彼女達でさえすれ違い通るのがやっとなる細通路のどん詰まり部分へと早々に行き着いた後に、細狭い通路入り口にへばりつく様にして「でへへぇ~~~。」などとのたまいながら、こちら側を覗き込む仕草を見せた大男の不快極まりない歪んだ笑み顔を見遣る・・・。


確かに、この狭さであれば大男もそう簡単には押し入って来れないだろうし、それなりに時間を稼ぐ事は容易に出来るかもしれない・・・が、時間を稼がれて一番困るのは寧ろ彼女達自身の方のはずで、こんな小狭い袋小路の中で篭城を決め込んだ所で何ら意味の無い・・・、地下室よりやがて這い上がって来る他の男共連中に取り囲まれ、完全に万事休すなる最悪の結末を迎え入れるのがオチだ。


勿論、そんな程度の事ぐらいシーフォも解っているはずだけど・・・と、不意にそう思い上げたセニフは、心の中では彼女の事をしっかと信じてあげ遣りつつも、中々に払拭し得ない色濃い己の不安感に強く焚き付けられ、徐に自身の背後部に居る彼女の方へと不安げな眼差しをじとりと送り付けてしまった。


だが、やはりと言ってはなんだが、彼女はちゃんと策を講じ持っていた様で、何処と無く余所余所しき態度で直ぐに視線をキョドらせ誤魔化ごまかし散らしたセニフの思いに気が付くや否や、徐に自分が前に出ますと素早くセニフと体を入れ替え、ほんのりと柔らかな笑み顔を小さく作りこしらえ見せながら小声でこう言った。


どうやら彼女は、先程この場所に身を隠し潜め入れた際に、既にそれを見つけていたらしい。


(シーフォ)

(セシル様。私が合図したら右後ろの机の下から抜けてください。)


(セニフ)

「え?」


(シーフォ)

(見ては駄目です。相手に気付かれてしまいます。私達はあくまで追い詰められたフリをしなければなりません。)


(セニフ)

「う、うん。」


一瞬チラリと見遣っただけでは薄暗くて良く解らなかったが、確かに無造作に積み上げられたガラクタ荷物郡の一番下に机の様な置き台があり、その足元付近は、全く何も置き入れられていないがらんどうなる小さな空間が形作られている様子だった。


シーフォが見せる落ち着いた態度風から察して取るに、恐らくは、ガラクタ郡の中をそのまま突き抜け通って階段の正面部へと這い出られるのであろうが、どう考えても大男が通り抜けられる広さは無い様だし、上手く利用し使えば、大男を体良ていよき遣る事が出来そうであった。


ただ、この抜け道を使って階段前へと這い出たとしても、再びL字型通路方面へと向かい行く為には、もう一度細通路の入り口付近を通らなければならず、やがて程なくして無理矢理細通路内へと割り込み入り始めた大男が、容易には戻り帰れない妙的位置に達し来るまで待つ必要が絶対的にあった訳で、セニフはふと、自分より後に逃げ出す事になるシーフォの事を考えて、出来る限り素早く抜け道の中へと滑り込み入ろうと、徐に自らの体位を低く落とし構え遣り、凄まじい怪力を持ってグリグリグイグイと強引に盲進し来る大男の気色悪い悪顔を逐一眺め取りながら、シーフォから出される合図をじっと待った。


(スーン)

「ほぶぶ~~~。ぶふふ~~~。もう直ぐー。もう直ぐだよぉー。もう直ぐだからねぇー。もう直ぐだから、おいら頑張っちゃう。物凄く頑張っちゃう。頑張って、頑張って、・・・ぺろぺろ。ぺろぺろ。ぶふふ~~~。」


そして、大男がようやく細通路の一番狭い中腹付近を抜け出ようかと言う絶妙のタイミングを見計らって、唐突に発し上げられたシーフォの「セシル様!行って下さい!」なる可愛らしい声色を聞き取り、素早く自らの身体を抜け道の中へと頭から突っ込み入らせると、目の前にはっきりと見て取れた出口なる薄明かりを目指して、必死に匍匐ほふく前進を繰り出し遣った。


抜け道の中は当然の如く埃っぽく、湿っぽく、かび臭く、行く手を阻む鬱陶うっとうしき蜘蛛の巣やら小物的ガラクタ郡やらに事欠かぬ難的狭道であったが、大人が歩く足で四歩、五歩程度の長さしかなかった上に、邪魔な荷物が全く動かせないとか、狭すぎて通れないと言う事もなく、思ったよりも簡単に階段前の通路へと踊り抜け出る事が出来た。


・・・ところが、セニフが徐にその身を翻し回し、後から抜け出て来るシーフォの為にと抜け道の中に手を差し伸べ入れようとしたその時、彼女の姿が未だ抜け道へと分け入って間も無く的な所で止まってしまっている様を見付けて、思わず「えっ!?」と驚きの声色を発し上げてしまう。


そして、悲壮感満載なる面持ちで「私に構わず行ってください!」と言い放ったシーフォの妙なうごめき様を見取りながら、破れた衣服の一部が何処かに引っ掛って入るんだ!という事に気が付き、俄かにはやり焦った荒々しき声色で「シーフォ!」と叫び呼んだ。


その直後・・・。


(スーン)

「んーばぁーーーっ!でっへへぇ~。こんな所に引っ掛ってた~。」


(シーフォ)

「きゃぁっ!!嫌っ!!来ないでっ!!」


(スーン)

「おおう。おおう。動くと危ない。動くと危ない。良い子だから、良い子だから~。ほ~らほらほら捕まえたぞ~~~。」


(シーフォ)

「あっ!!離して!!ああっ!!」


本来であれば時間的に容易に逃げ撒けるはずだった大男の無駄にキモ可愛らしい濁声が抜け道内に重々しく響き渡り、必死に暴れ抗うシーフォの激しい抵抗も虚しく、大男に捕らえ掴まれてしまった事を告げ知らせる悲しき彼女の悲鳴が続き飛んだ。


セニフは一瞬、シーフォを助けに行かなくちゃと、即座に元来た抜け道の中に戻り入る体勢へと移行し遣る素振りを見せ出したが、こんな細狭い通路の中で大男と引っ張り合いをしても勝てるはずがないと言う事に直ぐに気付き、徐に身体をもたげ上げると、危険だけど、反対側からもう一度入って大男を直接ぶっ叩くとかするしかないと、そう思い被せ、細通路の入り口へと向かって急いで歩を進め出そうとした。


だが、その時、セニフはふと、抜け道を形成するテーブルの上に高く積み乗せ上げられた大量のガラクタ箱が、その下で激しく暴れ回る二人の動きに逐一突き動かされて、グラグラと不安定に揺れ動いている様を見て取る。


そして、瞬間的に沸き起こり来た「これだ!」なる思いに色濃く触発しあおられて、もう一度抜け道の中をチラリと覗き込み遣ると、シーフォがまだ抜け道内で必死に耐え忍んでいる姿を見取り、即座に上体を起こし上げて、力一杯そのガラクタ箱を向こう側へと押し込み遣った。


すると、思ったよりも簡単にゆらりと傾き倒れて行った大きなガラクタ箱の一団が、反対側の細通路内に居る大男の頭上目掛けて容赦なく大量に降り注ぎ、ドサドサドゴンなる非常に重々しき落下衝突音と共に、大男の「ぐっげぇ~~~っ!!」なる間抜けな断末魔が派手に吐き上がった。


(セニフ)

「シーフォ!大丈夫!?」


(シーフォ)

「は・・・はい!・・・ぅっ!・・・く!離して!離し・・・あっ!」


(スーン)

「うぎゅぅ~~~。ぐぎゅ~~~。重い~~~。だ~じ~げ~で~。ぺろぺろするから。ぺろぺろするから~~~・・・。」


大男に対するガラクタ箱倒壊アタックは非常に効果覿面てきめんで、彼女達二人にとっては、まさに、何一つ文句の付けようのない好的結果が生みもたらされたと言えた。


降り注ぐ大量のガラクタ片に完全に圧し潰され尽くすまで、シーフォの左足首に掴みかかったその手を全く離そうとしなかったのは流石?であるが、大男が唯一フリーで動かす事の出来たその左腕を持って、何とか事態の解決を試みようと足掻あがき始めるまで、シーフォの左足を無造作に離し放るまで、それほど時間は掛からなかった。


しかも、先程大男とやりかわした激しい攻防戦の最中に、ガラクタ片の一部に引っ掛っていた衣服が運良く外れ取れてくれていた様子で、そうだと解り取るや否や即座に抜け道内を這いずり進み始めたシーフォが、出口付近で待つセニフの左手に掴みかかるまでも、然程時間は掛からなかった。


これにより二人は、ようやく当初の目的である脱出の徒へと戻り帰る事ができ、再びL字型通路方面へと向かって歩を急ぎ進め出し始める事になる・・・。


だが、彼女達二人がホッと一息を付き休める安寧の一時に舌鼓したつづみを打ち付けられたのも、地下室へと続く階段前を通り過ぎ去り行こうとしたその瞬間まで・・・、そこから見下ろせる一つ目の階段踊り場付近に、数人の男達がゾロゾロと姿を現し出した様を見つけ取るまでだった。


(ボロー)

「あっ!!居た!!本当に居やがった!!」


(セニフ)

「!?」


(シーフォ)

「!?」


(山賊A)

「逃げたぞ!!追え!!追え!!」


(山賊B)

「絶対に外に逃がすな!!」


直後、二人は全速力で駆け走り出した。


脇目も振らず一心不乱に足を動かして、その場から素早く逃げ走り出した。


恐らくは外界へと続く出口があるであろうL字型通路の奥方面へと向かって・・・、そのL字角を素早く左手に曲がり終えると、今度は目の前に長く開け伸びた直線通路をそのどん詰まり部分へと向かって・・・、道中にあった幾つかの曲がり角、幾つかの乗降階段を完全に無視しつつ、周囲に散在するガラクタ郡をできるだけ派手にはたき散らしき遣りながら、彼女達は必死に、遮二無二、只管にひた駆け走り行った。


そして、直線通路の終端部へと行き着く程手前付近で、窓ガラス越しにガレージとおぼしきだだっ広い空間があるのを見て取り、その直ぐ近くにあった開け放たれたままの大きな鉄の引戸内へと素早く滑り込み入ると、完全に閉じ切った状態の巨大な鉄製のシャッター扉とは別に、その直ぐ右隣に小さな出入り口が設けられているのを見付け、急いでそれに飛び付き行った。


この時点で、背後より荒々しき叫び声を次々に吐き上げながら猛然と迫り来ていた男達もまた、次々とガレージ内に押し入って来る次第となったが、幸いな事に、彼女達が祈るようにして回したドアノブは、何の引っ掛りもなく簡単に最後まで回りきってくれ、彼女達はようやく、外界へとその身を飛び出させる事に成功した。



外の世界は完全なる真っ暗闇の世界だった。


建物内から漏れ零れる僅かな光に照らし出された小狭い範囲内だけはしっかと確認して取る事ができたが、そこが何処なのか、今何時なのかも全く解らなかった。


唯一解ったのは、そこが大自然のど真ん中にぽつねんと存在する孤島の様な場所なのであろう事と、何処に逃げれば良いの全く解らぬ最中にあっても、自分達は行くしかない、逃げるしかないのだと言う事だけだった。



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