10-20:○抗えぬ魔法[2]
第十話:「微笑みは闇の中で、闇の向こうで」
section20「抗えぬ魔法」
悲鳴などと言う非日常的な声色を聞いただけで、直ぐにそうだと判断し得た訳ではないし、絶対にそうだと強い確信を抱き持てた訳でもないのだが、この時、セニフの身体は完全に硬直してしまった。
薄暗い部屋の中に木霊し響き渡った女性の叫び声を聞いたその瞬間から、「もしかして」と「まさか」なる感嘆符付きの思いが色濃く脳裏に蔓延り憑いてしまったその瞬間から、セニフの心は完全に自らの身体を操ると言う仕事を忘れ去ってしまった。
それだけ衝撃的だったのだ。
彼是と様々に思案を巡らし考察し始めるよりも早く、非常に鮮明なる色合いでとある一人の人物の容姿が、自分の脳裏へと浮かび描き出されてしまった事が・・・。
(カルティナ)
「さぁて、ここで貴女に一つ質問です。いい?耳の穴をかっぽじって良~く聞きなさい。」
(セニフ)
「ちょっと待っ・・・!」
(カルティナ)
「駄目よ。貴女は私の質問に答える事しか出来ないの。逆らう事も、時間を稼ぐ事も絶対に許さない。私はこう見えて凄く短気よ。貴女の態度が少しでも私の鼻に付いたら、直ぐにでも悍ましい夜のパーティを始めちゃうんだから。気を付けなさい。これが最後の忠告よ。どちらかと言えば、ここに居る他の連中は皆、そうなる事の方を強く期待しているんだからね。」
(セニフ)
「くっ・・・。」
カルティナはそう言いながら、後ろ腰へと回し入れた右手で小さな短銃を取り出して見せると、セニフに対してこれ見よがしに色濃く見せ付け放った後で静かにスライドを引き、セニフへと向けてゆっくりと銃口を括り付けた。
カルティナが放った魔法の力に完全に囚われ憑かれてしまったセニフにとって、これ以上の直接的な脅しなど全くの不必要であると言えたが、相手の恐怖心を強く強く煽り立て遣る為のスパイス的要素なのだと言う事は、カルティナの陶酔し上せた表情を見れば直ぐに解る事だった。
そして、やがて、左手で軽く紫色の髪の毛を妖美に掻き揚げて見せたカルティナが、本題となる質問の内容を一方的にセニフにぶつけ示し出して行く・・・。
(カルティナ)
「では質問。」
(セニフ)
「・・・。」
(カルティナ)
「・・・貴女の父親が殺されたと言う日の前の晩。貴女は密かに誰かと会っていたわよね?二人っきりで。」
(セニフ)
「!!?」
(カルティナ)
「そう。そこは酷く古錆びれた白い教会の中。誰もいない、誰にも見つからない、貴女達だけの秘密の隠れ家。」
(セニフ)
「・・・。」
(カルティナ)
「貴女達二人は良くそこで会っていたらしいわね。夜な夜な家を抜け出して会いに行く事もあったとか・・・。」
(セニフ)
「・・・・・・。」
(カルティナ)
「誰なの?教えてちょうだい。その相手の名前を、私に。」
(セニフ)
「・・・!!」
一括り目の質問文を投げかけられた直後、セニフは思わず身体をビクリと跳ね上げさせ、徐に表情を大きく顰め歪ませると、やっぱりそうなんだ・・・と、脳裏に短くそう呟き上げ、悪漢共に囚われている女性の正体が、自らの脳裏に浮かび上がった人物その人で間違いない事を悟り取った。
二括り目、三括り目の質問文は、一括り目の質問文の内容から簡単に連想し得る程度の代物でしかなかったが、セニフの心に強烈な焦燥感を生み出し付けるに十分な威力を有していた様で、セニフとしてはもはや、唯一簡単に動かし回せた両の瞳を挙動不審にキョロキョロとバタつかせながら、ゆっくりと下を俯いて見せる他なかった。
そして、カルティナから最後に投げ掛けられた悪辣えげつない質問の内容を聞き取るや、非常に色濃い悲壮的顔色を如実に浮かび上がらせながら僅かに顔を傾け上げ、その態勢のまま、静かにカルティナの姿を見遣る・・・。
セニフは勿論、その「答えとなる人物」が誰なのかと言う事を知っていた。
その「答えとなる人物」が、古錆びれた白い教会の中で、一体「誰」と会っていたのかと言う事も含めて・・・。
セニフにとって、それはまさに、吊るされると解っていながらにして、自ら処刑台の階段を登り上がらざるを得ない状況と同じ・・・、右に曲がる事も、左にも曲がる事も、後ろに戻る事も決して許されぬ過酷な茨の一本道を、裸足で渡り歩けと無理矢理に強要されているのと同じ事だった。
何故ならば、「セニフの脳裏に浮かび上がった人物」=「答えとなる人物」その人でもあったからで、その「答えとなる人物」の名前を口に出してしまった瞬間、自らの素性を自らの手で完全にばらしてしまう事になると言う事も、しっかりと解り取れていたからである。
恐らくカルティナは知っている・・・と言うより、ほぼ間違いなく知っている。
その「答えとなる人物」が、一体「誰」と会っていたのかと言う事を・・・。
セニフは考えた。無い知恵を必死に振り絞り、何か良い策は無いのか、何処かに逃げ道はないのかと、一生懸命になって思考を凝らし巡らせ回した。
幾ら考えを巡らせた所で、そうそう簡単により良き手だてが見つかるはずがないと解っていながらも・・・。
しかし、やはりと言うべきか、この時のセニフには、そんな些細な最後の悪あがきをする僅かな暇さえ与えられなかったのだ。
(カルティナ)
「ほらほら。時間を稼ぐ事も絶対に許さないって言ったでしょ?聞こえなかったの?それに、変に嘘を付いたり、誤魔化したりするのも駄目よ。その時は、貴女の大切な人が、貴女の目の前で酷い目に合う事になる・・・。」
カルティナはそう言うと、徐に左手をゆっくりと翳し上げ、隣の部屋へと向けて目線で何かしらの合図を出し送った。
そして、程なくして漏れ零れ聞こえて来た男達の薄ら笑い声に合わせ、ベロリと唇を厭らしげに舐めずる仕草を奏で出し遣ると、不意にセニフの方へと視線を戻し、一拍程の間を置いた後で、指をパチリと綺麗に弾き鳴らして見せた。
すると次の瞬間、「ビリビリビリ」と言う、何かしら衣服の様な物が強引に引き裂かる嫌な音が、二度、三度と連続して部屋の中に響き渡った。
「きゃぁぁぁぁぁっ!!嫌っ!!やめ・・・!!うっ!!・・・うーっ!!うーっ!!・・・。」
(セニフ)
「ぅ・・・っ!!」
(カルティナ)
「貴女はね。正解を口にする事しか出来ないの。それも今すぐに。私の耳に聞こえる様に、はっきりと。さあ!答えなさい!!貴女はその白い教会の中で、一体誰と会っていたの!!?」
次第次第に力強く、怒気を込める様にして言い放たれたカルティナの言葉に、セニフは全く何ら抗う術を持たなかった。
カルティナが言う様に、セニフはもはや、正解を口にする事以外に何も出来なかった。
額から滲み滴り落ちる大量の冷や汗を拭う事も出来ず、酷く狼狽え彷徨う己の視線を上手く御する事も出来ず、挙句の果てに、立っている自分の身体を支える事さえ出来なくなり、やがて、セニフは、床の上に両手を付いて、その場にへたり込んでしまった。
そして・・・。
(セニフ)
「・・・シ、シー・・・。」
(カルティナ)
「はい?」
(セニフ)
「シーフォ・・・。」
(カルティナ)
「え?何?なんて言っているのか全然聞こえません。もう一度はっきりと言いなさい。それとも何?また彼女の悲鳴を聞きた・・・。」
(セニフ)
「シーフォ!!・・・シーフォだよ!!シーフォ!!ドリュ・ル・シーフォ!!私の友人!!かけがえのない私の親友!!」
その直後、セニフの心が完全に折れてしまった事を示す痛々しき叫び声が部屋中に木霊し飛んだ。
思いっきり泣き入りそうな表情を如実に携え上げながら、両の手の指でギリギリと強く床の上を引っ掻く様な仕草を見せ示し出しながら、セニフは、せめてもの抵抗とばかりに激しく声を荒らげ、自ら白旗を上げた。
それは、周囲に屯し居た他の男達にとっては非常に?なる不可思議な遣り取り・・・、事前に事の次第を全く告げ知らされていなかった彼らにとっては、一体何がどうなったのか全く理解に苦しむ、陳腐な猿芝居の様に見えてしまっていたかもしれないが、小さな舞台の張り出し部分で主演女優を気取り踊っていた妖艶なる女性、カルティナの表情は、まさに最高潮なるフィナーレ部を完全完璧に演じ切ったと言う非常に色濃い満足感で溢れ返っている様だった。
カルティナは笑った。クスクスと鼻元で小さな笑いを数度漏らし零し、矢庭にせせり上がって来た笑い声を抑えきれないと言った様相でニヤリと口元を大きく歪め上げ、最後には、天を仰ぐ様に大きくふんぞり返って激しく肩を弾ませながら、勝利の高ら笑いを強力に激しく奏で散らし放った。
(カルティナ)
「あっははははははははははっ!良いね!良いわよ!貴女正解っ!大正解っ!やっぱりそうだったのね!あっはっはっはっはっはっ---」
(セニフ)
「ねぇ!お願いっ!お願いだからこれ以上シーフォに酷い事をしないで!」
(カルティナ)
(中々に止まらぬ高ら笑い)
(セニフ)
「ねぇ!聞いているの!?言った!言ったよ!言う通りに言ったんだから!」
(カルティナ)
(まだまだ止まらぬ高ら笑い)
(セニフ)
「もういいでしょ!?これで私が何者かはっきりしたでしょ!?もう十分じゃない!これ以上関係無い人を巻き込まないで!」
(カルティナ)
(業とらしく腹を抱え笑い始める)
(セニフ)
「ねぇ!お願いだからもうやめて!もう許して!お願いだから・・・、もう許してよ・・・!」
明らかに嫌がらせなる嘘笑いを続け奏で出すカルティナに対して、セニフはもう、必死に赦しを乞う事しか出来なかった。
馬鹿にされている、見下されている、それは解っていたが、何もかもかなぐり捨てて必死に懇願し続ける事しか出来なかった。
そう。完全完璧なる主従の下側へと落し込め入れられてしまった今のセニフにとっては、それ以外に何もできる事が無かったのだ。
当然、上に立つ側の者が、都合良くそれを聞き入れてくれるかどうかは、完全に気分次第と言う事になるのだが、この時、一頻り笑い終えた後で一際優しげな笑み顔を浮かべ上げたカルティナは、左手でそっと隣の部屋に向けて小さく合図を送り遣ると、床の上にへたり込むセニフの姿にチラリと視線を宛がい付け、徐に眉毛をくいりと持ち上げた。
(カルティナ)
「うっふっふっ・・・。そうよね。どんな犬でも餌ぐらい欲しいものよね。良いわ。正解した御褒美に、彼女に会わせてあげる。」
そして、徐に不思議そうな顔色を浮かべ出し顔を上げたセニフと視線をビタリと交し合った後で、取って付けた様な恣意的笑顔を無駄にひけらかし見せ遣ると、不意に素っ気なく出入り口扉方面へと身体を振り向け直し、ゆっくりと二歩、三歩、静かに後退りして見せた。
すると・・・。
「きゃっ!!」
ドサッ!!
約一拍程の間を置いて、唐突に奏で吐き上げられた可愛らしき女性の声色と共に、隣の部屋から非常にうら若き可憐なる少女が乱暴に投げ込み入れられた。
少女は勢い余ってヨナヨナと汚らしい床の上へと崩れ倒れ、無残にも引き裂かれた衣服の隙間から、自らの白肌を思いっきり曝け零し出してしまうと言う情けない状況陥り嵌る事になるが、己の身の体裁を素早く整えまとめ上げる作業に没頭し付こうとしたその矢先、部屋の奥隅でぽつねんと一人佇み座る赤毛の少女の存在に気が付き、彼女は徐に自らの手の動きを差し止めた。
そして、俄かに驚き上がったその表情を、しばしわなわなと言った感じで強く凝り固まらせ、瞬間的に潤み上がった大きな瞳を頻繁にパチクリさせながら、恐る恐る赤毛の少女の方へと静かに擦り寄り始めた。
(シーフォ)
「セ・・・、セシル様?・・・・・・まさか、本当にセシル様!?」
(セニフ)
「シーフォ!!」
直後、セニフは勢い良くその場から立ち上がり、シーフォの元へと駆け走った。
勿論、シーフォの方も全く同じタイミングでその場から立ち上がり、セニフの元へと駆け寄って行った。
最後に二人が直接顔を合わせて会ったのは四年程前・・・、その時に比べれば、お互いに身長も伸び、見た目もそこそこ変わったと言えるはずであるが、セニフもシーフォも、お互いの姿を一目見た瞬間に直ぐにそうだと解り取れ、声を発し出し合ったその瞬間に、絶対にそうだと完全に確信し切り合った。
お洒落な薄墨色のボブカットヘアを激しく振り乱しながら、将又、細く長い赤い髪の毛を綺麗に靡かせ散らしながら、部屋の中央部付近で躊躇なくひっしと抱き付き合った二人は、しばしの間、お互いの右肩口に自分の顔を強く埋め入れ合い、確かに感じ得る相手の身体を静かに愛で回し合った。
(シーフォ)
「も、申し訳ありません!・・・私、わ・・・、私・・・、セシル様に掛けられた濡れ衣を、晴らす為にって・・・、そう言われて・・・・・・、それで・・・、それで・・・・・・、本当に申し訳ありません!セシル様!」
(セニフ)
「ううん。私の方こそ・・・、こんな事に巻き込んじゃって・・・、こんな目に合わせちゃって・・・、本当にごめん。・・・ごめんなさい。」
(シーフォ)
「でも・・・、本当に・・・、本当に良かった・・・。セシル様・・・。生きてらっしゃって・・・。本当に・・・。」
(セニフ)
「シーフォ・・・。」
「ドリュ・ル・シーフォ」なる非常に愛くるしいボブカットの少女は、セニフが嘗て、帝国の皇女として振る舞い生きていた頃に、とてもとても仲の良かった友人の一人で、セニフにとっては、唯一無二とも言える、本当に何でも気兼ね無く話し合えるかけがえのない大親友だった。
年齢はセニフよりも一つ年上で、性格的には、何時でも何処でも明るく優しいおしとやかなお姉さんと言った感じの女性・・・、セニフ自身、何事があっても優しく包み込む様に言い諭してくれる彼女の温和な人となりを、非常に良く気に入り慕っており、あたかも自分の本当のお姉さんであるかの様に感じ思ってしまう事も、一度や二度ではなかった。
セニフが、「セニフ・ソンロ」なる普通の女の子として生きて行くと心に決めたその時から、もう二度と会えないのだ、会いたくても絶対に会う事は出来ないのだと、完全に諦め切っていた事もあり、セニフの心の只中に溢れ返った歓喜の跳ね付き様は、本当に尋常じゃない躍動感を伴い激しく暴れ狂っていた。
だが、この時、目元から零れ落ちそうになる熱き涙を必死に堪え押さえながら、比較的平静な様を装い保ち、シーフォの衣服の乱れを直す素振りを静かに繰り出し遣っていたセニフは、その喜びがほんの一時しか続かぬ「ぬか喜び」的なものでしかない事を、ちゃんと解っていた。
恐らくは、蹴落とした時の落差をより大きく感じ見せんが為の一時的な疑似餌でしかない・・・、奈落の底へと叩き落され行く者の悲壮的な顔色をより強く、より色濃く歪め壊さんが為の業とらしき演出でしかないのだと言う事を、ちゃんと察し取れていた。
セニフは、このカルティナと言う女の事を余り良く知らなかったが、そう言う女であろうと予想する自身の思いに、少しも疑いを持たなかった。
(カルティナ)
「うっふっふ・・・。良いわねぇ。うら若き乙女達の心温まる熱き友情。見ているだけでほんと、意味もなく目頭が熱くなってきちゃうわぁ。」
やがて、もうそろそろ良いでしょ?的な感じで発せられたカルティナの心薄い世迷言を聞き取ったセニフは、自分の身体に纏わり付いたシーフォの身体を僅かに引き剥がし遣ると、徐に顔を上げたシーフォと軽く視線を交し合い、直ぐにカルティナの方へと自らの意識を振り戻し向けた。
そして、柔和的なるも刺々しい、美麗的なるも忌々(いまいま)しい妖女の微笑みを、潤んだ両の瞳でじとりと見取り遣りながら、これから自分達に降りかかるであろう新たなる凶事の色合いと度合いを探りに掛かり始める・・・。
(セニフ)
「あんた・・・、一体、これからどうするつもりなの?」
(カルティナ)
「・・・んん?何が?」
(セニフ)
「私達をこれからどうするつもりなのかって聞いてるの!」
(カルティナ)
「さぁ。」
(セニフ)
「・・・さぁ?・・・・・・さぁって何だよ!」
(カルティナ)
「さぁはさぁよ。私にも解らないの。」
(セニフ)
「解らないって事無いじゃん!何ふざけた事・・・!」
(カルティナ)
「貴女の今後の処遇に関してはって意味よ。私はね。さっきの回答で、貴女を好きにする権利を失ってしまったの。」
(セニフ)
「?」
(カルティナ)
「以前言わなかったかしら?私はとある依頼人の意向で動いているんだって。勿論、理由はそれだけじゃないけど・・・、今後の貴女をどうするかって話は、全部その依頼人が決めてくれる事になっている・・・。知ってた?今のやり取りはね。全部リアルタイムでその依頼人の耳に届くシステムになっているの。どう言う事か解るでしょ?うっふっふ・・・。」
(セニフ)
「い、依頼人・・・。」
(カルティナ)
「貴女はそれまで囚われの身よ。可哀想だけど、大人しくしていなさいね。」
(セニフ)
「そ・・・!」
(カルティナ)
「で、もう一人の少女の方なんだけど・・・・・・・・・、聞きたい?」
セニフは一瞬、非常に艶かしき声色で、素っ気無くそう発し出されたカルティナの問い掛けに、背筋の芯がゾゾリと凍り付く思いがした。
決して何かを期待していた訳ではないし、そう簡単に事態が好転化してくれるとも思っていなかったが、それでも尚、セニフはこの時、己の心奥底に唐突に沸き起こり来た戦々恐々たる思いを少しも禁じ得なかった。
シーフォの肩先へと宛がった両手の指に無意識の内に力を込め入れたのは、情けなくも怯え震え始めた自分の身体を御し得ようと欲した為・・・、シーフォの身体を徐に自分の方へと引き寄せたのは、彼女の身体も小刻みに震えていたからだ。
(カルティナ)
「私としてはね。本当は逃がしてあげたいと思っているのよ。今回の件に関しても、非常に重要な役所をちゃんと熟してくれた訳だし・・・。でもね、この子達がどうしてもって言うから・・・、私も彼等に御褒美をあげる事にしたの。」
(セニフ)
「!?」
(シーフォ)
「!?」
カルティナが示したシーフォの今後の処遇・・・、その後に与えられる新たなる役所は、それ程詳しい説明を施し入れない非常に簡素で婉曲的なものだったが、間違いなくそう言った「類」の扱いを受けるのであろう事を如実に思わせる、冷酷非道、残酷残忍なものだった。
先程の会話の中で、自らの素性を晒し明かし出したセニフ本人は、この猥りがましい最悪の宴を免除される流れの様だったが、だからと言って、彼女の心がホッとなる気持ちに塗れ包まれた訳では決してなかった。
(セニフ)
「そ、そんな!シーフォはもう関係ないでしょ!?解放してあげてよ!」
(カルティナ)
「勿論、解放してあげるわよ。この子達が彼女との遊びに飽きたらね。」
(セニフ)
「・・・!」
(カルティナ)
「ほらほら。そんな顔してないで、貴女はさっさとこっちにいらっしゃい。ここに居たら、かえって彼女の迷惑になるでしょ?それとも何?貴女も一緒に見物したいって言うの?それならそれで構わないけど・・・。」
(セニフ)
「お願いだからやめて!何でも言う事聞くから!貴女の言う通りにするから!お願いっ!」
(カルティナ)
「結構よ。もう、そう言うの必要無いから。」
(セニフ)
「ぇ・・・。」
(カルティナ)
「さぁ、貴方達、私の用事は済んだわ。後はお好きな様に、ど・う・ぞ。」
(シーフォ)
「ひっ・・・。」
やがて、カルティナが発し出した素っ気無い合図と共に、汚らしい淫的冷笑をほのかに漏らし零し出した数人の男達が、与えられた獲物へと向けてゆっくりと歩を進め出した。
セニフとシーフォは、お互いの身体に抱き付く両の手の力をぎゅいりと強め、静かに後退りをし始めたが、それ以上は何をどうする事も出来なかった。
只々、険しく泣き入りそうな表情を色濃く携え上げながら、激しく怯え震え続ける事しか出来なかった。
・・・だが、そんな時だ。
ふと、部屋の出入り口付近でじっと腕組みをしたまま佇み立っていた一人の男・・・、事の一部始終を静かに横目で窺い見ていた一人の男が、小さな呟きをポツリと発し出した。
(サフォーク)
「臭ぇ・・・、臭ぇよな、やっぱ・・・。下衆臭い掃き溜めの臭いにそっくり・・・。ほんと、最悪の臭いだぜ・・・。」
・・・と。