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Loyal Tomboy  作者: EN
第十話「微笑みは闇の中で、闇の向こうで」
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10-18:○流され者が描いた軌跡[4]

第十話:「微笑みは闇の中で、闇の向こうで」

section18「流され者が描いた軌跡」



俺がカセロの奴と離れてから早四年・・・。


その頃、奴はもう既に、組織の中でかなり地位にまで上り詰めていた。


俺がDQチームなんて御飯事おままごと集団を作ってうだうだ遊んでいる間に、奴は三段とばし四段とばしって、途轍とてつもない猛スピードで出世階段を駆け上って行ってたんだ。


まあ、当時奴が配属されていたメッサークロイツって街は、国内最後の大抗争地域って、反ベーラニ派の組織連中が数多く屯し残っていたフロンティア的な場所だったから、他の部署の奴等よりも、かなり功績を上げ易かったって事は事実なんだが、それでも、その頃の奴の成り上がり振りって言ったら本当にハンパ無かった。


どれぐらいハンパ無かったかって言うと、奴はたったの二年で、配属先であるメッサークロイツ支部の支部長にまで上り詰めちまった。


そして、その後の一年間で、ベーラニの東部方面攻略部隊の全てを取り仕切る、総司令官的な役職を勤め上げるようにまでなっていた。


言っちまえば、奴はものの三年やそこらで、俺の上司であるティーラーの野郎と、ほぼ同格レベルの権力を手に入れちまってたって事だ。


俺もよ。確かに以前から、奴ならばそのぐらいの事はやってのけるんじゃねぇかって、そう思ってはいたんだが、まさかそんなにも早く、ド派手なサクセスストーリーを決めちまいやがるとは全く思っていなくてよ。


最初、ティーラーの野郎からその話を聞かされた時、何かの冗談だろうって勝手に思い込んじまって、奴の前で思いっきり大笑いをブッかましちまったぜ。


ところがな。俺が一頻ひとしきり笑い終えた後で見た奴の顔は全く笑っていなくてよ。


俺はそこで初めて、それが本当のマジ話なんだって、ようやく気が付いた。


そして、一見して平然とした様子の奴の目の奥に、何かこう、酷く淀みかかった不穏当な影みたいなものが映り込んでいるのを見付けて、ああ、コイツは恐らく、急激にポッと出て来たカセロの野郎の事を、非常にうとましく思っている輩なんだろうって、俺はそう思った。


映画やドラマなんかじゃ良く有る話だろ?


だが、実際に奴が問題視していたのは、カセロの野郎が急激に台頭して来たって事に対してじゃなくて、奴が如何にして成り上がって行ったかって、そのやり方についてだった。


・・・俺なんかは、どっちかって言うと、寧ろそっちの話しの方に激しく驚いちまったんだが、どうもカセロの野郎は、自分が出世する為に、かなり汚い手を幾つも使ってたって話だった。


それも、仲間内の人間を騙くらかして失脚に追い込んだり、手っ取り早く上位者を暗殺して、その権力をかすめ取っちまったり、密かに敵対勢力と結託して、邪魔な身内勢力を一掃させちまったりとか、非常に悪辣あくらつ極まりない卑怯な手段を、幾つもな。


勿論、あからさまに直ぐにそれと解る様な証拠を残すってヘマを仕出かしたりはしてなかった様だから、実際の所はどうだったのか、真偽の程は全く定かじゃなかったみたいだが、それでも、カセロの異常なまでの成り上がり振りに、強い疑念を抱いていた組織の幹部連中は皆、奴の仕業に間違いないって確信めいた見解で一致している様子だった。


ほんと、俺みたいに昔から奴の事を知っていますって人間からすれば、にわかには信じ難い話だったぜ。


確かに、俺もカセロも、それまで決して、人から褒められるような生き方をしてきた訳じゃねぇし、盗む、騙す、殺すって、悪い事も一杯仕出かしてきた訳だが、仲間を裏切るとか、貶めるとか、そんな卑劣な行為に平気で手を染める様な人間じゃなかった。


少なくともカセロは、絶対にそんな事をする様な奴じゃないと、俺は思っていた。



結局、その時俺は、ティーラーの野郎から、カセロの奴を懲らしめる何か良い手を考えろ・・・、期限は一週間だって、非常に難儀なんぎ極まりない宿題を出される羽目になっちまったんだが、俺はそれよりもまず、ちゃんと事実を確認する方が先だろうって考えて、メッサークロイツ支部に居るカセロの奴に直接連絡を取る事にしたんだ。


まあ、相手先がちゃんと取り次いでさえくれれば、電話一本で済むって簡単な話だったんだが、メッサークロイツ支部に居る奴の取り巻き連中は、何故か「不在です。不在です。」って、馬鹿みたいに門前払い的な扱いを連打しやがってよ。中々奴の事を捕まえられずにいたんだ。


そして、そうこうしている間に、宿題の提出期限が徐々に迫って来た。


その間、俺は全く宿題の事について何も考えなかった。


いや、考えない様にしていたって方が正しいかな。


実際、俺は、カセロの奴に否定して欲しかったんだよ。


そんな事実は無い。俺は絶対に無実だってな。


奴を陥れる為の方策なんて考えたくも無かったし、奴さえちゃんと否定してくれれば、ティーラーの野郎を裏切って、カセロの側に就く事もやぶさかではないとさえ考えてた。


何せあいつは、俺と長い間苦楽を共にしてきた、かけがえの無い仲間の一人だったんだからな。


俺もどっちかって言えば、そうなる事の方を暗に期待していた。



だが、宿題の提出期限を翌日に控えた前の日の晩、俺は思いもよらぬ人物の訪問を唐突に受け、そこで、事の真相をはっきりと聞かされることになる。


俺の元を訪ねてきたのは、一年ほど前にカセロの奴に引き抜かれて、メッサークロイツ支部の一員になってたって、ナララの奴だった。


最初の内はほんと、偶々近くに用事があって寄ってみただけだって、軽い感じのノリだったんだが、立ち話もなんだからって応接間に連れて行って、二人きりの状況になった途端、急に泣き出しちまってよ。


俺の身体にがっちりとすがり付きながら、一生懸命にこう頼み込んで来たんだ。


カセロを止めて。もう私じゃ止められない。ってな感じでな。


どうやら、ティーラーの野郎が言ってた事は本当の様だった。


ナララの話し振りじゃ、カセロの奴は決して悪くない、カセロは寧ろ被害者なんだって言い分の方が強かったが、やる事なす事全部が全部、全く褒められたもんじゃない・・・って言うか、明らかに騙し上等、不意打ち上等って卑劣な行為ばかりで、組織に対する反逆行為と見做みなされても仕方のないものばかりだった。


奴は云わば、自らが出世する為なら何でもやるって醜悪なクズ野郎・・・、富と権力に目が眩んで全く周りが見えなくなっちまった、哀れなる拝金はいきん主義者って奴に、完全に成り下がってたんだよ。


何故奴が、そんな風になっちまったのかは解らねぇんだけどな。


ほんともう、昔のよしみって良的感情を最大限フルフルに総動員しても、簡単には擁護できないって酷いレベルの話しだった。


ナララの奴もよ。何とかしてカセロの暴走を食い止めようって、必死こいて説得しまくってたらしいんだが、効果が有ったのも最初の内だけって、その内、全く聞く耳を持たなくなっちまったらしい。


挙句の果てに、なんだかんだと上手い事言いながら、ナララの奴を巧みにだまくらかして、悪行事に無理矢理加担させる様になっちまったって話だったし、これはもう、話し合いや何やらで簡単に解決できる問題じゃないなって、俺はそう思った。


ティーラーの野郎が言う様に、これは少し痛い目を見させた方が良いんじゃないかって思った。


まあ、痛い目を見させるって言っても、ぶっ潰してしまおうとか、ぶっ殺してしまおうとか、そんな物騒な事を考えてた訳じゃ無くて、奴の目に余る行動を極力控えさせる為の何か・・・、弱味を握るとか、決定的な証拠みたいなものを掴むとかして、軽く脅しを掛けてやろうかなんて思ってたんだ。


オラオラ~~~。あんまし調子ぶっこいてっと、簡単に足元すくわれっぞ~~~・・・的な感じでな。


やっぱよ。どんなに糞ひでぇ大悪党に成り下がっちまったっつっても、カセロは俺達の仲間な訳だし、出来れば早い所目を覚ましてもらって、元のカセロに戻って欲しかったんだよ。


俺も、ナララも。



で、取り敢えず俺は、余りティーラーの野郎に首を突っ込んで欲しくないって考えから、「俺に任せてください」なんて、物凄い自信有り気に大見え切って見せて、一週間の猶予を貰ったんだ。


ティーラーの野郎も、どっちかって言えば事態を穏便に済ませたいって感じだったし、表立って大々的な内部抗争をおっぱじめるなんて事態は、絶対に避けるべきだって考えてた様だったしな。


意外とすんなり俺の意向を受け入れてくれたよ。


そして俺は、ナララと二人で、カセロの野郎をギャフンと言わせる作戦・・・、これ以上奴が悪さを仕出かさない様に、強制的に抑止する脅しネタってのをゲットする為の作戦を、密かに展開し始める事になる。


脅しネタとして一番最適なのは、カセロの野郎が悪事を働くその現場を直に押さえて、写真なり映像なりに残しちまうって事なんだが、組織の幹部連中が束になって調査しても完全には暴き切れないってカセロの悪行を、どうやって事前に掴むかって事が一番の難問だった。


ナララの奴も、カセロの野郎から事の全てを漏れなく全部聞かされてたって訳じゃなかった様だし、メッサークロイツ支部の中でも、極々限られた人間しかその事実を知らされてなかったみたいだからな。


勿論、ナララを使って、カセロの野郎から色々と情報を聞き出す・・・って手も、全く無くは無いんだが、その時点でナララは既に、カセロに対して相反する意思を強く示していたって事もあって、ナララの方から率先してその話題に触れたがる様な形を、あからさまに取る事が出来なかったんだよ。


折角ナララって、素晴らしく都合の良いツテ様さんが居ながら、俺達が丸々四日間もの間、全く何もできませんって不毛な時を過ごしちまったのもその為さ。


だがよ。俺達があーでもない、こーでもないって、彼是あれこれと頭を悩ませ続けていた五日目の朝、それまで完全に停滞していたもどかしき状況が、一気に急加速し始める事になる・・・。


何があったのかって、端的に言やぁ、カセロの野郎がおん自ら、次に執り行う悪事の予定を暴露しちまうって大失態をやらかしてくれたって話さ。


まあ、正確に言えば、ナララに対して新たな仕事の依頼をし付けようって、ナララの携帯にカセロが電話を掛けてきたってだけの話なんだが、その仕事の内容ってのがまさに、奴が陰でこそこそ仕出かしているっつう、黒い仕事の話しそのものだったって訳だ。


奴もまさか、ナララの奴が半場造反って、手酷いお仕置作戦を展開しようとしているなんて、微塵も考えていなかったんだろうな。


何処で誰と何時に落ち合って何をするって、事細かな情報を洗いざらい全部ナララに話しちまったみたいだったよ。


ほんと、何一つ良い手が思い浮かびませんって、グダグダとのた打ち回っていた俺達にとっては、まさに渡りに船って奴だった。


カセロの野郎が次に仕出かそうって悪行の内容は、当時奴が良く利用していた「アンカサ」って別のマフィア組織と結託して、とある幹部の一人を謀殺しちまおうって、これまた非常に黒々しい危険なお仕事だったんだが、ナララは電話越しに、全く普段通りってカセロの野郎に強く反発する姿勢をしばし見せ出しながらも、最後には仕方なしって、自分が折れる格好を上手く作り出して、体良ていよく会話をまとめ終わらせた。


そして、その作戦を決行する前に、一度アンカサの連中と秘密の事前会合を開くらしいって、カセロの野郎から聞き出した情報を元に、俺達二人は直ぐに行動を開始したんだ。


その会合内で遣り取りされる事の一部始終を、密かに記録し収める為にな。



会合が行われる場所は、メッサークロイツの街外れにある空き倉庫群の一角。


開催時間は次の日の夜23:00。


そこから先は簡単だったよ。


何せ、作戦に参加する為にって、カセロの元へと帰り戻ったナララの奴から、詳細な情報が逐一流れて来るんだからな。


会合場所に指定された空き倉庫の見取り図とか、その周辺に配された人員の稼動状況とか、それに加えて、どのルートを使用して侵入すれば良いとか、何処に隠れていれば良いとか、離脱するタイミングは何時が良いとか、ほんと、俺が欲しいと思った情報は、大概教えてくれたよ。


おかげで俺は、何の問題も無く会合場所へと侵入する事が出来た。


そして、ここなら安全って、倉庫二階の室内ベランダ付近にある大きな荷物の裏陰に身を潜め、奴等が到着するのをじっと待っていたんだ。


後はただ、やがてそこで執り行われる会合の様子を、影からこっそり隠し撮りして持ち帰るだけだった。



だがよ。だが・・・、暫くして、ナララを引き連れてやって来たカセロ一味と、少しばかり遅れて到着したアンカサの連中が、儀礼的な挨拶もそこそこに、早速本題に入ろうって、事前に用意されていた円卓テーブルの席に腰を落ち着けさせた辺りで、突然けたたましい銃撃音が周囲に鳴り響いたんだ。


音の大小から判断して恐らくは倉庫の直ぐ外・・・、その時はまだ、一体何が起きたのか全く解らなかったが、何かしらの緊急事態が勃発したって事だけは間違いなかった。


俺は一瞬、どちらかの陣営側が相手方を陥れようって、罠を仕掛けたとかじゃねぇか?なんて思っちまったんだが、カセロ達一味も、アンカサの連中も、皆一様にして泡を食った様な慌てふためき様を見せていたし、どうもそうじゃねぇみたいだって事は直ぐに解った。・・・と同時に、俺は直感的にこう思う。


これは何かやばい。直ぐに逃げた方が良いってな。


だが、やっぱり・・・って言ったらなんだが、逃げ出す暇なんて全くありゃしなくてよ。


倉庫の中へと唐突に雪崩れ入って来た大勢の男達に、凶悪無慈悲なマシンガン攻撃をド派手にブッかまされて、俺は全く身動き一つ出来ないって悲しい状況に落ちはまっちまう事になるんだ。


そりゃもう、何処も彼処かしこも完全に手当たり次第って感じで、その凄まじさと言ったら、建物自体が倒壊しちまうんじゃねぇかって思う程の恐ろしい破壊力だった。


ほんと、久しぶりに生きた心地がしなかったよ。


俺は元々、身を隠すには持って来いって、比較的安全な場所に陣取っていたから、全く無傷のままその難をやり過ごす事が出来たんだが・・・、一階に居た連中が無傷で居られる可能性は限りゼロに近かった。


生きている可能性も限り無くゼロに近かった。


俺もよ。なるべくそう言った悪い方向に考えを巡らせない様にって務めてはいたんだが、そう考えざるを得ない状況だったって、半場諦めの認識が心の何処かにあったんだろうな。


程無くして銃声が鳴り止んだ後も、襲撃者共が一斉に倉庫外へと駆け出して行く足音を聞いた後も、しばらくの間、一階の様子を覗き見る事が出来なかった。


もしかしたらそこに、ナララとカセロの死体があるんじゃねぇかって、そう思っちまってよ。


だが、そんな時ふと、倉庫外へと退去して行った襲撃者共が、時折派手にマシンガンをぶっ放し付けながら、「居たぞこっちだ!」とか、「逃がすな!追え!」とか大声で叫んでいる声が聞こえて、俺はもしやと思った。


そして、恐る恐る一階の様子を覗き込んでみた。


すると、どうだ。


完全に血の池って見るも無残な虐殺現場に転がっていた死体の中に、ナララとカセロの姿が全く混じり入ってなかったんだよ。


勿論、俺が居る位置から見て単に死角になっているだけって可能性も十分にあったが、誰も居なくなった倉庫内をくまなく捜索し回してみても、二人の姿は全く見当たらなかったし、その時点で俺は、ナララもカセロもまだ生きている、上手く逃げ出す事が出来たんだって思った。


そして、未だ先程の襲撃者共に追い回されているであろう二人の事を助ける為に、二人の行方を追う事にしたんだ。


カセロの野郎は兎も角、ナララの奴は絶対に助けてやりたいって思っていたしな。


二人と合流するのは、然程難しい話じゃないって考えていたよ。


何せ俺は、ナララの奴と直接連絡を取れる手段をちゃんと持っていた訳だしな。


問題なのはまさにそこから・・・、如何にして襲撃者共の追撃を振り切るか、その後は一体どのように振る舞うべきかって事しか頭に無かった。



だが、俺はその後、丸々一日半もの時間をかけて二人の行方を追ったんだが、全くその消息を掴み取る事は出来なかった。


ナララの携帯に電話してみても全く繋がる様子は無かったし、襲撃者共の足取りも、夜明けと共に完全に掻き消えちまう羽目になっちまったし、もう、俺は何をどうする事も出来なくなっちまった。


メッサークロイツ支部の連中に連絡を取ってみても、相変わらず門前払いって態度を少しも変えようとしなかったしな。


ほんと、途方に暮れちまったよ。


で、俺は、仕方無しってんで、一度、ティーラーの野郎の元へと帰り戻る事を決意する。


何故にって、奴ならば何かそれらしい情報を掴んでいるんじゃねぇかって、そう考えたからだよ。


そして、あわよくば、二人の事を助ける為の手助けをして欲しいって、そう望んでいた。


勿論、何の見返りも無く奴の手を簡単に借りられるなんて、都合の良い話があるとは思ってねぇ。


俺は、奴からどんな要求を出されようとも、それを全て飲んでやる腹積もりで居た。


ナララを助ける事が出来るならば、どんなあくどい事でも、どんな卑劣な事でもやってやろうって、そう心の中で固く決意してた。



・・・ところがだ。何一つ仕事をこなし終えられずに、おめおめと逃げ帰って来ただけ俺に対し、ティーラーの野郎がこう言ったんだ。


普段は全く見られない様な満面の笑みを不気味に浮かべながら、非常に満足げに「良くやったな。」・・・ってよ。


俺は一瞬、は?ってなった。


そして、その直後に奴が放った「俺もまさか、ここまで上手く行くとは思っていなかったが・・・。」って台詞を聞いて、全身の血の気がサーッと引き下がる思いに酷くさいなまれ、加えて、止めの一撃とばかりに素っ気なく吐き放たれた「奴は死んだよ。」って言葉を聞いて、完全に言葉を失ってしまった。



解るか?・・・俺達はな。最初から泳がされていたんだよ。ティーラーの野郎にな。


奴は最初から事を穏便に済ませるつもりなんて無かった。


端からカセロの野郎をブッ殺す為に動いていた・・・、その為の確たる理由、決定的な証拠って奴を体良ていよく掴み取る為に、カセロの嘗ての仲間って、俺達二人の事を上手く利用してたって事なのさ。


奴が俺に、事の全てを全部委ね任せるって、簡単に了承して見せたのも、ナララの奴が俺の所に来てるって、既に感付いていたかららしいし、奴がカセロの件について矢鱈やたらとと消極的な態度を示していたのも、今ならまだ間に合うぞって雰囲気を強く匂わせて、俺達のやる気を促す意図があったかららしい。


そして奴は、カセロの悪行に関する調査を始めた俺達に密かに尾行を付けて、その現場を押さえる瞬間をじっと待っていた・・・、証拠を掴んだ時点で一気に事を起こそうって腹積もりで、用意周到に準備してたって話だったのさ。


奴がどの時点でカセロの事を黒だと判断したのかは解らねぇが、恐らくは、敵対勢力であるアンカサの連中と怪しげな密会を開いているって時点で、アウトだったんだろうなって思う。


でなけりゃ、あのタイミングでの突入はありえないしな。


当然、カセロの野郎に上手く逃げ出された時の対応もしっかりと取っていた様で、結局カセロは、一時間半程度しか逃げ回る事が出来なかったらしい。


そして、敢え無く御用となったその現場で、即座に処刑された。


敵対勢力であるアンカサの連中と密会を開いている最中、何かしらの理由で話がこじれ、小競り合いが生じ、激しい銃撃戦を繰り広げた挙句に死亡・・・って、尤もらしい嘘の顛末てんまつを上手く書き込み足されてな。



・・・とどのつまり俺は、ティーラーの野郎の策略にまんまと乗せられて、嘗ての仲間であるカセロの野郎をブッ殺すって作戦に、知らず知らずの内に加担させられちまってたって話なのさ。


勿論、そんなつもりじゃなかった・・・って言えば、そりゃまあ、確かにそうには違いねぇんだがよ。


俺が、カセロの野郎をぶっ殺すって作戦の実行トリガーを引いちまったって事は、紛れもない事実なんだし、今更ていの良い御託を並べて、自分を正当化しようなんて少しも思っちゃいねぇ。


カセロの野郎に関して言えば、完全に自業自得、遅かれ早かれ自滅する運命にあったんだろうしな。


ただな・・・、ただ・・・、ナララの奴に関してだけは、本当に何とかしてやりたかった。


この身と引き換えにしても良いから、本当に助けてやりたかった。


・・・いや、別に死んだって訳じゃねぇんだ。


何処かへと連れ去られちまったんだよ。ナララの奴は。


カセロの野郎と一緒に捕まっちまった、その直後にな。


その後は全くの音信不通・・・、今何処で何をしているのか皆目見当も付かねぇ。


・・・じゃあ何故、ナララの奴がまだ生きているって言えるのか・・・って言やぁ、そりゃ、ティーラーの野郎自身がそう言っているからってだけの話しなんだ。


実際には、もう既に、死んじまっているのかも知れねぇ・・・。


だがよ・・・。俺は今も尚、その時ティーラーの野郎が言った「あの女は殺さない。」って言葉を信じている。


そして、「お前の俺に対する貢献度が、俺の中で100点満点に到達したら、あの女を自由にしてやる。」って、その奴の曖昧あいまいな言葉を信じて、今の今まで生き続けている。


勿論、何をどうしたら何点だって、しっかりとした基準があった訳じゃねぇし、単にこの俺を都合良くこき使い回す為の適当な方便だったって可能性も、十分考えられる話なんだが・・・、それでも俺は、ほんの少しても可能性があるならば、ナララの為に何かをしてやりたい。ナララの助けになりたい。自由の身にしてやりたいって、そう思っているんだ。



解るか?


今の俺は、ナララの為なら何でもやるって、全盲チックな暴走野郎になっちまったんだ。


二年もの間、一緒に楽しく過ごした大の仲間だって、簡単に裏切っちまう様なクズ野郎にな。


それだけ好きだったんだ。ナララの事が。本当に大好きだった。



・・・ま、そう言う事だからよ。恨むなら幾らでも恨んでくれ。


俺もその覚悟は十分して来たつもりだし、許してくれなんて都合の良い事をいうつもりもねぇ。


ただな、ただ・・・、本当にすまないと思っている。


セニフ。本当にすまねぇな・・・。




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