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Loyal Tomboy  作者: EN
第十話「微笑みは闇の中で、闇の向こうで」
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10-16:○流され者が描いた軌跡[2]

第十話:「微笑みは闇の中で、闇の向こうで」

section16「流され者が描いた軌跡」


すると、そんな時だ。


突然、俺達の目の前に、思いもよらぬ奇特きとくな救世主様って奴等が現れ出たんだ。


それは、恐らくナララ目当てで集まって来たんだろう連中の仲間達が、二、三人揃って鼻息を荒くしながら部屋の中へと押し入って来た数分後の話しでな。


突然、黒スーツに身を包んだ男達が6人、勢い良く部屋に乗り込んできて、手に持つサブマシンガンを容赦無くドカドカとぶっ放し始めたんだよ。


もう、何処も彼処かしこも関係なく手当たり次第に撃ちまくれって感じだった。


ほんと、怖ぇえのなんのって、俺はその時、完全に死んだと思ったね。


黒スーツの男達の姿を見た瞬間、新手のマフィア連中なんだろうって事は直ぐに解ったし、マフィア同士による殺し合いなんて出来事は、その街じゃ別に珍しいものでも無かったしな。


俺は、何かしらの抗争に巻き込まれちまったんだって、そう思った。


だが、糞喧しいマシンガンの銃声がようやく鳴り止んだ後で、俺は自分が全く撃たれていないって事に気が付いた。


そして、恐る恐るって感じで静かに頭を持ち上げて、周囲の様子をマジマジと観察してみたんだが、黒スーツの男達は、俺が生きているって事が解っても、何故か俺の事を殺そうとはしなかった。


それどころか、パスコルミーアの連中が完全に全滅し切ったって事と、ナララがまだ生きているって事を一頻ひとしきり簡単に確認し終えると、何事も無かったかの様に、さっさとその部屋から引き揚げて行っちまいやがったんだよ。


もうね。何が何の事やら、さっぱり・・・って感じだった。


パスコルミーアの連中に酷く痛め付けられて、意識が朦朧もうろうとしてたってのもあるが・・・、何故、黒スーツの男達が、俺とナララだけを生かして置いたのか、幾ら考えてもその理由が全く解らなかった。


通常、殺しても問題ない様な奴は、どさくさに紛れて一緒に処分しちまうってのが、奴等の常套じょうとう手段だからな。


俺達を殺さない理由が絶対に何かしらあるはずだった。



それが解ったのは、俺が意識を失う直前の事・・・、いつの間にか、床の上にぶっ倒れちまったって、自分で気が付いた直後の事だったかな。


唐突に「ナララ!」って大きな叫び声が聞こえたんだ。


そして、俺達の目の前に奴が姿を現した。


奴って?へっへ・・・。奴って言ったら奴しか居ねぇだろ?


カセロだよ。カセロ。


カセロの奴が、俺達の事を助けに来てくれたんだ。


黒スーツの男達を引き連れてよ。


勿論、奴がどうやって黒スーツの連中を引き連れて来たのかは解らなかったが、そんな事はもうどうでも良い事だった。


何はともあれ俺は助かった。ナララの奴も助かった。


本来ならばここで、感動の御対面ーーーって事で、男同士の熱き友情の抱擁ほうようを硬く交わしてお互いに涙を流し合う所だろ?


だがな。次第次第に掻き消えて行く意識の末端部で俺が最後に見た光景は、奴が一目散にナララの方へと駆け寄って行く素っ気ない姿だった。


で、俺は、「あれ?俺は?・・・・・・・・・」ってな感じで、情けない表情を浮かべ上げながら、無情にもそのまま電池切れになっちまう訳よ。


次に気が付いた時は、病院のベッドの上だった。


どうだ?笑える話だろ?


・・・まあ、当の本人達にとっては、笑いたくても笑えない話だったって事は間違いないんだが、その時は本当に大変だった。



だが、本当の本当に大変だったのは、まさにそこからの話しさ。


その時助かった俺やカセロ、ナララや他の皆・・・、最終的に生き残ったのは全部で7人だったと思うが、俺達は全員、そこから先、この世の暗部に広がる真の闇の世界って所で、生きて行く事を余儀なくされちまうんだ。


マフィアっつう、糞蟲共が大量に群成す醜悪な掃き溜め中でな。


何故かって言えば、そりゃぁ、全部カセロの奴が悪い・・・・・・・なんて、まあ、そう安易に責める事は出来ねぇな。


何せ、俺達は命を助けてもらった身な訳だし・・・、断る自由なんてものは俺達には無かった。


これは、後から聞かされた話なんだが、どうやらカセロの奴は、俺達とはぐれちまった後、直ぐにとあるマフィア組織のアジトに一人で乗り込んで行って、自分達の事を助けてくれるよう必死に交渉していたらしいんだ。


もう既に、自分達の手だけではどうしようも無いって事を悟ったらしくてな。


そして、助けてくれたら全員仲間に加わりますって条件で、何とかそいつらを説得し、俺達の救出作戦を展開し始めたって話だった。


勿論、俺達みたいな単なる糞餓鬼共に、大した価値があったのかと言えば全くそうじゃなかったんだが、俺達の事を助けてくれたその黒スーツの連中は、他のマフィア達と少しばかり事情が異なっていてな。


俺達の救出作戦に、かなり本気になって取り組んでくれたんだ。


って言うのも、そいつ等は元々「ベーラニ」って言う、トゥアム共和国の首都圏一帯を取り仕切っていた巨大マフィアの構成員で、当時、海路を使った武器や麻薬の密輸入ルートを手に入れたいって腹積もりで、ムルア半島の中心地であるムルア都市に、殴り込みを仕掛けてきてた侵略者的マフィア集団だったんだ。


だが、中央マフィアの進出を酷く嫌った北方マフィア共の激しい抵抗に遭っちまって、中々事を上手く進める事が出来ないでいたんだよ。


尤も、奴等が端から本気を出して全力で挑み掛かれば、簡単に制圧出来ちまう程度の話しでしかなかったんだが、その頃はまだ、サルフマルティアを拠点とする「サウス・フラーテル」って南方マフィアと全面抗争の真っ最中で、北部制圧に全勢力を注ぎ入れる事が出来なかったらしい。


それに、幾ら首都圏一帯を取り仕切る巨大マフィアだって言ったって、勝手が違う他所様の土地において、何の情報も無いままに、いつも通りのやりたい放題を仕出かし散らせるかと言ったらそうじゃないし、奴等はムルアでかなりの苦戦を強いられていたって話だ。


マフィア同士の抗争っつったって、やっぱり一番重要なのは、最新且つ正確な情報だからな。


攻めるにしろ守るにしろ、戦う相手の戦力だったり、その配置状況だったり、それを支援する奴等の裏情報だったり、そう言った情報を、戦う前に一通り揃えておく必要があったんだよ。


その時の奴等に不足していたのは、まさにそう言った戦う為に必要不可欠な情報って奴だったのさ。


勿論、奴等も決して情報収集をおろそかにしてたって訳じゃねぇ。


寧ろ、やり過ぎだってなぐらいに、情報収集活動に精力を注いでいた。


だが、北方マフィア共に完全に牛耳られたムルアって街には、そう言った情報を提供してくれる体良ていよき協力者って奴が、誰一人として居なかったんだよ。


この俺達を除いて他にはな。



俺達は実際、ムルアって街で生きて行く為の様々な情報に精通していた。


それも、北方マフィア共に勝るとも劣らないありとあらゆる裏情報って奴にだ。


俺達がパスコルミーアなんてチンケなマフィア連中に追い立てられて簡単に壊滅しちまったのも、単に奴等に対抗し得る物理的な手段を全く持っていなかったからってだけの話しで、情報戦で奴等に負けているつもりなんて全く無かった。


まあ、超好戦的なチンピラ集団の幹部の車の趣味までは抑える事が出来ていなかった訳だが、奴等のアジトが何処にあって、普段はどんな事をしているのかとか、どんな奴等と仲が良くて、どんな奴等と仲が悪いのかとか、俺達はみんな知っていたし、ベーラニって言う御下り初見さん連中から見れば、それはまさに、喉から手が出る程欲しいと望んでいたお宝的情報だった事は間違いない。


奴等がカセロの要求を聞き入れて俺達の救出に乗り出した理由・・・、それは単に、俺達が持つムルア都市の裏情報って奴が欲しかっただけなのさ。


まあ、お互いの利害関係がお互いに完全一致したって事なんだが・・・、利害関係なんて御大層な代物が成立したのも、本当に最初の内だけ、俺達しか知らない実利のある情報を、俺達が全部吐き出しちまうまでの話しでしかなかった。


そこから先はもう、ほんと最低だった。


俺達は皆、組織に所属する最下層の下っ端連中よりも更に下、単なる使いっ走り・・・って言うよりも、ほとんど鉄砲玉に近い酷い扱いを受ける様になっちまったんだ。


俺もナララも、まだ身体の傷が完全に癒えていねぇってのに、無理矢理最前線に引っ張り出されてよ。


情報がねぇなら集めて来い!何でも良いから集めて来い!って、単独で敵の本拠地に直接乗り込まされた事も有ったし、銃弾が飛び交う真っ只中を、陽動の為にって突っ込まされた事なんかもあった。


それも一度や二度じゃねぇ。北方マフィア共との戦いがおっぱじまる度にだ。


もうね。ほんと生きた心地がしなかったよ。


出来る事なら直ぐにでも逃げ出したいって気持ちで一杯だった。


だが、一度組織の一員として名を連ねちまった以上、逃げ出す事は決して許されないし、命令に背く事も決して許されない。


それがマフィアって極悪人共が巣食い蔓延はびこる裏社会のルール・・・、その世界に足を踏み入れた者達が絶対に守るべき鉄の掟って奴だからな。


俺達はもう、組織の為に死ぬまで働く従順な奴隷人形として生きて行く以外に無かった。


夢も希望も無く、糞面白くも無い最低な明日って奴をただ迎え入れる為だけに、今日と言う過酷な一日を生き抜いて行く他なかった。



だがな。そんな時だ。


ある日の晩、カセロの奴が俺達を集めてこう言ったんだ。


俺達はもう、後ろに戻る事も、横道にれる事も出来ない。だが、それでも前に進む事は出来る。


どうせ逃げられないって解っているなら、逃げずに真っ向勝負、この組織の中で成り上がって行く事を考えようぜ・・・ってな。


確かに、日々与えられる仕事をしっかりとこなし、実績を上げ続けさえすれば、上の連中も俺達の事を認めざるを得なくなるだろうし、使い捨て同然って酷い扱いをされずに済む様になるかもしれねぇ。


待遇もそれなりに良くなるだろうし、ひょっとしたら、大勢の部下達を顎でこき使いながら、毎日ド派手な豪遊三昧に興じるって夢を叶えられるかもしれねぇ。


勿論、言う程そんなに簡単な事じゃねぇって皆も解ってはいたが、それでも、奴の一言で皆の心持ちが多少なりと前向きになった事は確かだった。


柄にも無く、皆で円陣を組んで、絶対に生き延びるぞ!って、こっぱずかしい雄叫びを派手に上げ合っちまうぐらいにな。



だが結局、俺達は、北方マフィア共との戦いで、四人の仲間を失う事になっちまった。


最終的に残ったのは、俺とカセロ、ナララの三人だけだった。


しかも、あんなに必死こいて頑張ったってのに、組織内での格付けも大して上がらず、ようやく下っ端連中と肩を並べる事が出来たって程度。


そりゃ、全く上がらなかったって事に比べれば、多少はマシだと言えるがよ。


毎日毎日、昇進の事だけを考えて頑張って来た俺としては、もう、泣く以外になかったね。


泣いて何が変わるって訳でもなかったがな。


だが、生き残るって言う必要最低限の結果だけはしっかりと勝ち得る事が出来た。


北方マフィア共との戦いに終止符が打たれるその時まで、俺はしっかりとこの世に生を取り止めておく事が出来た。


勿論、大した戦闘能力も無いこの俺が最後まで生き残れたっつうのも、運の要素が非常にデカかったからだと思うし、実際、何をやっても上手く行くって、不思議な状況が長く続いてくれたからだ。


その時は、本当に運が良かったなって、今でもそう思うよ。



その後、俺達三人は、著しく巨大化した組織の大改編って荒波に飲まれて、各々遠く離れた別々の部署へと配属される事になった。


カセロは東方メッサークロイツの最前線部隊に、ナララは南方サルフマルティアの新支部に、俺はリトバリエジの第二支部に配属される事が決まり、そこで新たなスタートを切る事になった。


別れ際はそれなりに辛かったぜ。


こんな俺みたいな薄情者でもやっぱりよ。


ナララの奴なんか、カセロの目の前だっつうのに、ずっと俺に引っ付いたまま大泣きかましてたし、カセロの奴も、いつもと違って思いっきり感傷的な雰囲気に浸り入って、俺との別れを惜しんでくれていたし、俺も思わず熱くなった目頭から鼻水を垂れ流しそうになる程だった。


本当は、二人きりで別れを惜しみ合いたいはずなのによ。


長い間苦楽を共にした仲間だからって、俺みたいな男に変に気ぃ使いやがって・・・。


ほんと、カセロもナララも本当に良い奴等だったんだ。


生まれも育ちも、俺より悪いって最低な環境にありながら、変にひねくれたり、悪ぶってたりしなかったし、いつも前向きで明るく、元気で楽しい気持ちの良い奴等だったんだ。


仲間に対する思いやりも人一倍強かったしな。


・・・ナララなんて、俺が不甲斐ないばっかりに、あんな目に遭わされたってのに、俺の事を責めるどころか、逆に励ましの言葉なんか掛けてくれたりしてよ。


カセロの奴も、お前が居てくれたからナララが助かったんだ・・・なんて言ってくれたりして・・・、正直、悪党にしておくには勿体ない奴等だなって、俺なんかは思っていた。


出来れば俺も、二人とは別れたくなかった。


だが、組織の上層部連中が決めた方針を覆し遣る程の力が、その時の俺達にあったかと言えばそうじゃないし、俺達は取り敢えず、組織の方針に従って各々の配属先へと向かう以外に無かった。


また再び、生きて三人で会える事を切に願い合いながらな。


そして最後は、皆で笑って別れたよ。


ナララの奴には、お別れのキスまでしてもらった。


勿論、それが単なる儀礼的な挨拶事でしかないって事は俺も解っていたが、それでも不思議とやる気みたいなもんが俄然とみなぎって来たし、絶対に生き延びて、また二人と再会するんだって強い思いを抱けるようになった。


その時見た見たナララの笑顔は、今でも忘れる事ができねぇよ。


カセロの奴の半場引きった笑み顔を含めてな。


はははっ。



その後、俺は、二人と別れたその足で、その日の内にリトバリエジ都市に入り、第二支部があると言う郊外の巨大な工業地帯へと向かった。


そして、工業地帯の一画に設けられたリトバリエジの第二支部施設・・・っつっても、見た目は単なる工場だったが、そこで新たなボスとなる人物と面会する事になる。


そいつは、見るからに胡散臭うさんくさい陰気そうな釣り目の小男で、何をするにも高圧的な態度がやけに鼻に付く嫌な野郎だったんだが、27歳って若さながらも、組織内の一部門を完全に牛耳ぎゅうじるバリバリのエリート幹部って奴だった。


そいつの名前は「ティーラー・テル」と言った。


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