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Loyal Tomboy  作者: EN
第十話「微笑みは闇の中で、闇の向こうで」
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10-15:○流され者が描いた軌跡[1]

第十話:「微笑みは闇の中で、闇の向こうで」

section15「流され者が描いた軌跡」


「ふっ・・・。ふっふっふっ・・・。随分と久しぶりじゃないか。どうだ?よろしくやっていたか?」


「ええ・・・、まぁ・・・。それなりに・・・って所ですかね。」


「そうか・・・。俺が糞溜めの中を必死こいて駆けずり廻っていた時に、お前は何処どこぞでのんびりと楽しくやってたって訳だ。随分と良い身分になったものだな。」


「・・・いえ、別に、のんびり楽しくって訳でも無いんですがね・・・。」


「ふん。まあ良い・・・。まずは仕事の話しをする方が先だ。」


「仕事・・・ですか?」


「そうだ。・・・お前まさか、簡単にフェイドアウト出来るなんて、都合の良い事を考えていたんじゃないだろうな。」


「いえ、そんな事は・・・。」


「裏切り者には死を。それが我々組織の仕来しきたりだ。それはお前も良く解っている事だろう?」


「解っています。」


「お前は俺の忠実な部下だ。何処に行っても、どんな状況になってもだ。それを忘れるなよ。」


「・・・それで、俺は一体何をすれば良いんで?」


「お前が今居る部隊の中に、セニフ・ソンロと言う小娘が居るな。パークチームでお前の同僚だった、あの小娘だ。」


「・・・はい。」


「そいつを拉致して俺の所まで連れて来い。」


「・・・・拉致?・・・ですか?」


「そうだ。逃走する為の手はずはこちらで整える。」


「ちょ、ちょっと待ってください。俺一人でですか?そいつは幾らなんでも・・・。」


「お前一人では無い。他に協力者が居るとの事だ。じきにそいつから何かしらのコンタクトがあるだろう。今後はそいつの指示に従え。」


「ですが、何故セニフを・・・。」


「お前には関係ない。お前は只、俺の指示に従えばいいだけだ。余計な事は考えるな。」


「・・・。」


「それに・・・、今回の件が上手く行ったら、あの女の事を考えてやっても良い。」


「本当ですか?」


「ああ。本当だ。そして・・・。」



・・・ああーーー、・・・まあ、やっぱりって感じだが、全ては自業自得・・・、悪さしたら悪さした分だけ、しっかりときついお灸を据えられるって事なのね。


一度汚れちまった足は、幾ら洗ったって簡単には綺麗にならない。


そう言う汚れだって、最初から解っていたからな。


はなから洗う気なんかさらさら無かった。


生きる為に必死だった・・・って言うのも、別にあながち全くの嘘って訳じゃないし・・・、言い訳すれば、俺には何もなかったんだ。


・・・そう、自分自身を貫く、強い信念みたいなものもな。


だから流された。


流されて、流されて、今の自分へと至った。


まさに自業自得。それが俺って言う人間そのもの。俺自身が描き出した俺って言う人間の人生そのもの。


誰も恨むべき者は居ない。誰も憎むべき者は居ない。


恨むなら自分を恨め。憎むなら自分を憎め。


・・・そうだな。俺って言う人間の人生に幕が下りたら、そうする事にするよ。



俺もな。こう見えて、昔は普通の暮らしをしていたのさ。


極々一般的な普通の暮らし。


ムルア半島の海岸沿いにある小さな街で、俺と、父親と、母親との三人で、慎ましく生活していたんだ。


父親が経営する小さな町工場と、それに隣接して建てられた小さな家・・・、決して裕福とは言えなかったが、それなりに幸せだったと言える毎日を過ごしていた。


だが、父親が余りにも仕事に没頭し過ぎたのが原因で、父親より8歳も年下だった母親が、若い男を連れて何処いずこかへと蒸発・・・、父親もその内、それまでの真面目さが嘘だったかの様に全く働かなくなっちまってな。


最後には、酒とギャンブルに溺れて、馬鹿みたいに多額の借金を作りこしらえた挙句、さっさと一人であの世へと旅立ってっちまいやがった。


まだ12歳になったばかりのこの俺を一人残してな。


しかも、父親が借りていた金が、地元でも悪名高いマフィア絡みだって事が周囲に知れると、親戚連中の態度もあからさまに冷たくなって、誰も俺の事を助けようなんて思う奴等は居なくなった。


皆素知らぬ顔を決め込んで、一目散に逃げ散って行った。


まあ、当然の事と言えば当然の事なんだが、結局俺は、一人でその街から逃げ出す事になっちまった。


そして、何の当ても無いまま、各地を転々とする他なかった。


食う物、着る物のたぐいは、道中のあちら此方で盗んでしのいだ。


泊まる場所も、行く先々で様々、民家の軒下のきしたや、古びた教会の中、無人化された工場の中に忍び込んで一夜を過ごした事もあったっけな。


今にして思えば、自分でも、かなり要領良くやっていた方だと思う。


もしかしたら俺、そう言った方向に才能があったのかもしれない。


只の一度も捕まる事は無かったし、見つかる事すらほとんど無かった。


勿論、間違った才能である事に間違いはなかったが、その時の俺には必要なものだった。



その後、俺は、ムルア半島で一番大きな街「ムルア」に流れ着いた。


そりゃ、ランベルクやリトバリエジと比べたら、余り大した事は無い規模なんだが、それなりに大都市と言える近代的な建物群と、古めかしい建物群が入り乱れた、非常に味わいのある良い街だった。


街の北西部分には、先の大戦で破壊された廃墟地帯が幾つも残されたままだったし、びれて風化した無人の工場区画や、手入れもされずに放置された高層住宅街なんかもあって、何処の馬の骨とも解らない流れ者が隠れ住まうには、かなり適した環境が整っている街だった。


ただ、トゥアム共和国の北方部地方ってのは、今でも数多くのマフィア達が幅を利かせる危険地帯だからな。


父親の借金の事もあったし、俺は当初、適当に食う物を漁り盗ったら、直ぐに街を離れようって考えてた。


出来ればもっと南の方にある街・・・、ランベルクかリトバリエジに行って、本物の大都市って奴を一目見てみたいなんて思っていたんだ。


別に行って何をするって訳でも無かったがな。



だが、そんな時、俺は、ある一人の男と出会った。


・・・うーん、出会ってしまったと言うべきか。


その時はまだ、お互いに少年と呼べる年齢でしかなかったんだが、そいつは見るからに生気に満ち溢れた餓鬼大将的な感じの男で、くせの強い黒髪に浅黒い肌と、掘りの深い顔立ちが特徴的な奴だった。


名前は「カセロ」。年齢は俺よりも3つ年上。当時、子供達だけで作られた「リストブラート」って言う、小さな窃盗集団のリーダーを務めていた男だった。


俺が奴と初めて出会ったのは、繁華街の裏路地を一人でぶらぶら歩いていた時・・・、取り敢えず盗るもんを盗って、食うもんを食って、満足しながら街中を練り歩いていた時だったかな。


奴が突然、俺の目の前にバババッと立ちはだかって、俺の顔を覗き込むなり、いきなりこう言って来たんだよ。


「中々の手際だったぞ。俺達の仲間になれ。」ってな。


そんで俺は、直ぐに「ハイハイ」って言って、奴の仲間になっちまう訳よ。


・・・って、まあ、そんな訳ねぇよな。


実際には思いっきりガン逃げをかましてやったぜ。


奴はその時、何か大声で喚き散らしていた様子だったが、完全に無視してやった。


当然だろ?その時はまだ、奴が窃盗集団を率いてるなんて知らなかった訳だし、もしかしたら、俺の事を捕まえに来たって奴だったのかもしれないし、見るからにマフィアって感じでも無かったが、俺が盗みを働いている事をチクッて小銭を得ようなんて考えで、近付いて来たって可能性も十分にあったし、その時は取り敢えず、安全策を取る事にしたんだ。


一目見て奴の事を、凄く面倒臭そうな奴だなって思っちまったのも事実だしな。


出来れば余り、関わり合いたくなかった。


だが奴は、次の日も俺の前に姿を現した。そして次の日も。その次の日も・・・。


その度に俺は、自慢の逃げ足をふんだんにふるい披露して、奴の事を体良ていよくまき切ってやるんだが、その時点で俺はもう、奴が俺の事を陥れようとか、変な事を考えているんじゃないって事に気が付いていた。


もしかして、本当に俺の事を仲間にしたいなんて思っているのか?って、そう考える様になって来た。


尤も、奴が直接この俺を捕まえる事が出来るまでは、奴の話しを聞いてやるつもりなんか無かったがね。


これはな。男の男たるが所以ゆえんの簡単には曲げられない意地って奴さ。


解らん?解らんだろうなぁ。



だが、俺が奴と初めて出会って、一週間ぐらい経ったある日の事だ。


俺は簡単に捕まった。


それまで繰り広げてきた奴との壮絶な追い駆けっこが、馬鹿みたいに思えるほど簡単にな。


何でだと思う?


それがな、あいつ、汚ぇんだよ。


俺の弱味を見事に突いてきやがったんだよ。


弱味?弱味って言ったら一つしかねぇだろうがよ。


へっへっへ。女だよ。女。


その日奴は、女を引き連れて俺の所に来たんだ。


それも、完全に我を忘れちまうほどの絶世の美人をな。


これにはしもの俺も参っちまったぜ。


その時、一体カセロの奴に何を言われたのか余り良く覚えてねぇんだが、俺は結局、その日の内に奴等のアジトに行って、そのまま奴等の仲間になっちまった。


勿論、カセロが連れてたその女・・・、「ナララ」って言う、俺よりも2つ年上のお姉さんに、完全に惚れちまったってのもある。


・・・そいつは結局、カセロの女だったってオチで、下手に手を出すなんて真似は出来なかった訳だが、何処からどう見てみようと馬鹿みたいに可愛いし、エロいし、優しいしってんで、俺は完全にゾッコン状態だった。


ナララに直接「仲間になってくれ」と言われた時、俺はどうやっても「いいえ」って答えを返す事が出来なかったね。


だが、それ以上に大きかったって言えるのが、アジトに居た他の連中の雰囲気がかなり良かったって事だな。


俺と同じ様な境遇の奴等がほとんどだったにも関わらず、皆前向きで明るい感じの奴等ばっかりだったし、皆自由に楽しくやっている様だった。


本当に居心地が良いって言える快適な場所だったんだ。


俺は当初、嫌になったら直ぐに抜ければ良いやなんて適当に考えてたんだが、気が付けば3年・・・、思いのほか長く、奴等と行動を共にする羽目になっちまった。



だがまあ、奴等との暮らしは本当に楽しかったぜ。


ムルアって言う一つの街を舞台に、子供達の窃盗集団が大暴れ。まさにやりたい放題。


地元の警察連中も完全にお手上げ状態って感じだったよ。


街の北西部には、無法地帯とも言える暗黒の廃墟街があったし、都市部の地下にも複雑怪奇な地下通路網が幾重いくえにも張り巡らされていて、逃げ込む場所にも、逃げるルートにも一切困る様な事は無かったしな。


ほんと、犯罪者の為に用意された街なんじゃないかって思うほどだったぜ。


俺達が日頃良く盗むのは、ほとんどが食い物や衣料品と言った日常的に良く使う品物ばかりで、偶に家具や家電、車やバイクなんかも盗んだりもしたが、余り大金に絡む様な大物には手を付けなかった。


何故かって言えば、そう言った金目の物に手を出すとなると、マフィア達の縄張りに足を突っ込んじまう可能性が高くなっちまうからだ。


俺達はな。取り敢えず、当面を無難に暮らして行けるだけの品物が有れば、それで良かったのさ。


別に欲をかく必要なんてなかった。


俺達の様な小者集団が、そう言った稼業を長らく生業なりわいに出来たのも、余り大それた行為に及ばなかったって事が、一つの要因だった事は間違いない。



だが、チームの規模が次第次第に大きくなり、俺達の年齢が徐々に上がって行くに従って、だんだんと野心めいた発言をする輩がチラホラと出て来た。


それまで禁止されていた武器や麻薬の取引を始めようだとか、銀行や宝石店に強盗に入ろうだとか、要人を誘拐して多額の身代金を要求しようだとか、分不相応な危険な仕事に興味を持つ連中が出て来るようになった。


勿論、カセロやナララも、その内の一人には違いなかったが、カセロはああ見えて、結構物事を慎重に推し進めるタイプの人間でな。


そこで安易にチームの方針を変えようとはしなかった。


今はまだ力を蓄える段階だと、大人達に負けない力を手に入れるその時まで、まだ待つべきだと言ってな。


急ぎはやる皆の気持ちを抑える側に回ってたんだ。


カセロはな。かなり自意識過剰で大口を無駄に叩き散らす奴だったが、頭のキレも良かったし、腕っぷしも強かったし、何より、皆を統率する力ってのに相当長けていたんだ。


カリスマ性ってのかな。皆の心を引き付ける何かを持っていたんだよ。


コイツに付いて行けば間違いないって、そう思わせる様な・・・。


窃盗集団の頭目風情に収まっている様な奴じゃなかった。


だから皆も、奴の指示に素直に従った。


その内、俺達もマフィア集団の一派として名をせ、ゆくゆくは自分達の手で大人達の世界を牛耳り取るんだって言う、奴の力強い大演説に自分達の夢を重ね見ながらな。


俺も確かに、こいつならやるんじゃないかって、そう思っていたよ。



だが、その後、「リストブラート」って窃盗集団が、マフィアの一員として名を連ねる事は無かった。


唐突に生じ起きたとある事件が切欠で、俺達のチームは一気に壊滅する事になっちまったんだ。


事の発端は、俺達の仲間の一人が車を盗んだ事から始まったんだが、どうもその車ってのが、「パスコルミーア」って地方マフィアの幹部が愛用してた、ビンテージ物の希少車だったらしくてな。


まさか盗んだ奴も、こんなオンボロ車がマフィアの幹部の車だなんて、露ほどにも思わなかったんだろうぜ。


盗んで散々乗り回した挙句、最後には足が付かない様にって、その日の内に海の中に沈めちまったらしい。


ほんと、傍迷惑な事をしてくれたもんだよ。


そいつは、次の日の朝、繁華街裏の細路地の小隅で焼死体で発見された。


前日、ドライブを一緒に楽しんだって言う女と共にな。


そして、その日の午後、俺達の仲間がもう二人殺され、更にその夜、もう三人が殺された。


その時はまだ、俺もカセロも、事の真相を全く知らされてなかったから、一体何が起きているのか良く解っていなかったんだが、俺達が完全にマフィアの怒りを買っちまったんだって気付くよりも早く、奴等が俺達のアジトに襲撃を仕掛けて来やがった。


そりゃもう、ほんと酷かったぜ。


「パスコルミーア」ってマフィアは、ムルアの中ではそれ程大きくない地方マフィアの一つだったんだが、やはり本職ともなると物が格段に違ったね。


刃物って言や青龍刀。銃って言やマシンガン。その他にも、ロケット弾や手投げ弾なんかも持ってやがったかな。


全く手も足も出なかったよ。


俺達はもう、逃げる以外に無かった。


予め用意しておいた幾つかの逃げ道を巧みに利用しながら、必死こいて街中の至る所を逃げ回る事しか出来なかった。


逃げ遅れた連中は皆殺されたよ。


その場を上手く逃げ切った者達も、大半が奴等に殺されちまった。


俺はカセロとナララと、他に付いて来たもう三人の男達と一緒に逃げたんだが、何とか港付近まで辿り着いたって辺りで、再び奴等の襲撃を受けちまってな。


付いて来た仲間の三人がやられちまった挙句、カセロの奴ともはぐれちまう事になってしまった。


当然、カセロの奴を探している余裕なんて全く無くて、俺は必死にナララの手を引きながら逃げ回る事しか出来なかったんだ。


岸壁沿いに立ち並んでいた廃倉庫群から、地下下水道の中へと降りて、街の中心部方面に抜ける道筋を只管に駆け走りながらな。


その後、俺達は、繁華街裏の細路地にい出て、その近くにあった空きビルの一室に身を隠した。


そして、ほとぼりが冷めるまで、しばらくの間、そこでじっとしている事にした。


奴等もまさか、自分達のテリトリーである繁華街内部に逃げ込んで来るとは思ってなかったんだろうぜ。


追手が追い付いて来る気配は全く無かったし、周囲の様子も至って普段通りだった。



だがな。当面の危機を取り敢えず脱したって、ほっと一息を付いたのも束の間、俺はもう全く気が気じゃなかったね。


何でかって?そんな事、聞くまでもねぇ話だろ?


誰も居ない空きビルの一室内に、若い男女が二人きりだぜ?


しかも相手は、前々から好意を寄せていた飛び切りの美女・・・とくりゃ、ムラムラしない方がおかしいってもんだ。


その時俺は、何度も何度も、ナララの事を襲ってやろうって、やましい心に突き立てられてたよ。


ナララの胸や尻や唇なんかに視線を流し付ける度に、どうやっても抑えきれない激しい衝動に駆り立てられそうになっちまったよ。


そして、ついに俺は、ナララの身体に思いっきりガバッと・・・・・・・・・、行かなかった。


その時の俺は、ナララに全く手を出さなかったんだよ。


意外か?俺みたいな手癖の悪いスケベ野郎がって?


そりゃな、他愛の無い悪戯いたずら程度なら幾らでも出来るってもんよ。


だがな。ナララはずっと泣いていたんだ。


俺の傍らでずっと、カセロの事が心配だってな。


ナララは本気でカセロの事を好きだったんだ。


カセロが死んだら私も死ぬってぐらい、奴の事を愛していた。


それは俺も知っていた。


俺には出来なかったね。


そんな女性の心をあからさまに踏みにじる様な行為なんてもんはよ。


ましてや自分が惚れた女だぜ?


俺としてはもう、慰めたり、励ましたりしてやる事以外に何もできなかったな。



その後はしばらくの間、何事も無く平穏無事に時が流れ過ぎて行った。


俺もナララも特にする事が無くて、交代で周囲の見張りをする以外には、適当に寝たり、一緒に見張りをしながら話をしたりしていた。


だが、俺達がそこに居付く様になってから三日目の朝。


一度外に出てみようって話しになって、俺達は近くの繁華街へと向かった。


空きビルの正面入り口を使うと、奴等に見つかる可能性があるからってんで、その時も地下下水道を使って移動した。


別に、そこを引き払って新しい根城を探そうとか言うんじゃない。


理由は簡単。単純に腹が減ったからだ。


俺達が居た空きビルの一室は、水は出るんだが食い物は出ねぇ。


当たり前っちゃ当たり前の話なんだが、俺達は食べる物を得る為に、街へと繰り出さざるを得なくなったんだ。


それに、当面の暮らしをしっかりとまかない通せる生活用品を幾つか揃えておく必要もあったしな。


で、俺達は二人揃って、一際人通りが多い商店街の中にそれらしく紛れ込んで、首尾良く盗みを働いて行くわけよ。


いつも通り、慌てず慎重に、素早く大胆にってな。


そして、お互いにある程度必要なものを一通り盗り揃え終えた後で、人混みの中をさりげなく歩きながら合流を果たし、そこから裏通りへと回って、元来た地下下水道へと素早く降り戻る。


やった!・・・と、その時は思ったぜ。


俺もナララも、極度の緊張状態から解放されたって反動で、変に込み上げてくる笑いが止まらなかった。


勢いでお互いに思いっ切り抱き付き合って喜んじまったぐらいだ。



しかしよ。・・・まあ、その喜びも、そう長くは続かなかったんだ。


云わば、ぬか喜びって奴だな。


その後は急転直下・・・、最悪の事態ってのが俺達を待っていたよ。


俺達が意気揚々(いきようよう)と元居た空きビルの一室に辿り着いたその直後、ものの五分と経たない内に、唐突に部屋の扉がぶち破られた。


そして、間髪を置かず部屋の中へと雪崩なだれ込んで来た4、5人の男達に取り囲まれ、銃口を突き付けられた。


その部屋はビルの5階にあったし、逃げる場所なんて何処にも無かった。


俺達はな。繁華街を歩いている時に既に奴等に見つかっていたんだ。


そして、密かにその後を付けられてた。


見付けられたその時に俺達が殺されなかったのは、周りに沢山人が居たからとか、そんな理由じゃない。


恐らく、他の仲間が一緒に隠れ潜んでいる可能性って奴を疑って、一網打尽にしてやろうと考えたんだろうな。


完全に甘かったよ。本気で徹底した奴等の監視網を舐め過ぎていた。



その後、俺は、奴等にボコボコにされた。


ほんと、あれでよく死ななかったなって、今でもそう思う程に、こっ酷くやられたよ。


だが、もっと酷かったのナララの方だった。


俺が殺されずにしばし放置されたのも、奴等の意識が完全にナララの方に行っちまったからなんだろうしな。


・・・・・っと、そこから先は、御想像にお任せするぜ。


俺の口からはとてもじゃないが言えねぇ。


強いて言うなら、殺された方がマシだったって、そう思えるほどの悪夢ってのは、ああ言う事を指して言うんだろうなって、そう思ったって事ぐらいだな。


ほんと、酷かった。


俺には何をどうする事も出来なかった・・・。



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