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Loyal Tomboy  作者: EN
第十話「微笑みは闇の中で、闇の向こうで」
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10-13:○イントリーグ・シュトゥルム[4]

第十話:「微笑みは闇の中で、闇の向こうで」

section13「イントリーグ・シュトゥルム」


パレ・ロワイヤル基地内に鳴り響いた不可解な警報音から、約一時間程が経過しようかと言う時頃・・・、非常に混沌とした慌ただしき状況は一向に変わり終わる気配を見せず、事態の流れは、逆に悪化の一途を辿り行く傾向に凝り固まったままだった。


基地の西側正面極至近部でユァンラオが発見したと言う、二つの敵影は未だにその消息が掴み取れず、南西側より突如として姿を現した6機のDQの内、5機が未だ健在・・・、対処に当たったグラント隊のメンバーが全滅すると言う悪事に見舞われかれ、しかも、最悪な事に、機能修復の為に一時的な停止を余儀なくされた有線索敵網の穴所である、南方側の渓谷地帯内部に体良ていよく逃げ込まれてしまう始末・・・。


対帝国軍用にと北西側向きに作りこしらえたパレ・ロワイヤル基地の防御陣は、その内側へと紛れ込んだ小鼠共のおかげで、かなり混沌とした慌ただしき状況に陥りはまってしまっていた。


勿論、だからと言って、この小煩こうるさい小鼠共を狩り取る為に、基地の全勢力を傾き注ぎ入れる事など出来るはずも無く、パレ・ロワイヤル基地の防衛司令官たるサルムザーク陸等二佐は、いつ何時なんどき何処いずこから敵が現れ出ても良い様な、柔軟性に飛んだ防御陣を構築し上げつつ、手持ちのDQ部隊を逐一投入し出して、この小鼠共を追い立て遣ろうと画策し遣り始める訳だが、「北方側の山岳地帯で新たなる敵影見ゆ」なる凶報が司令部に届けられたのは、そんな矢先だった。


(チャンペル)

「第五、第七戦車部隊はそのままの配置で西方側の守備を堅持!第十一、十二戦車部隊はポイント55-58付近の高台に移動!援護位置に付いてください!」


(サルムザーク)

「アパッチ隊、キャリオン隊は直ちに南方側の渓谷地帯に突入しろ!フロア隊はロスト機2機の捜索任務を続行!レアル隊は南方側の援護だ!」


(ニレル)

「各車下がれ!一旦下がれ!角度を取りながら緊急後退!」


(マーゾ)

「ぬおっ!やばいやばい!これはやばい!」


(ジレン)

「司令部!北方側の敵DQにやばいのが一機居る!至急増援を回してくれ!」


(サルムザーク)

「プリメイロ隊、リエーフ隊は北方側に回れ!大至急だ!リスキーマ!北方側の敵DQの機種は判明したか!?」


(リスキーマ)

「ポッド反応からして大型機が一機いる様ですが、詳細は不明!間もなく映像解析が・・・あっ!」


(カース)

「どうした!?」


(リスキーマ)

「ヒセギアとホールスネークです!他の二機はトゥアム共和国のDQです!」


(サルムザーク)

「ヒセギアとホールスネーク!?」


(カース)

「友軍機か!?」


(リスキーマ)

「いえ!違います!我が軍の識別コードを発してません!」


パレ・ロワイヤル基地の北方部の警備を担当していた部隊は、「ニレル・カンポス」陸等三佐自らが率いる第一戦車小隊、トゥアム共和国軍主力重戦車である「TV-46ジェライア」が三輌と、途中から増援に駆け付けた「ジレン・ヘーベネテス」率いるDQ部隊「デゼルト小隊」、「TMDQ-09トゥマルク」が二機、「MKK-05アカイナン」が一機と言う編成で、数こそ少ないが、三機程度の敵DQ機に簡単に圧し押される様な軽い戦力では無かった。


特に、第一戦車小隊の重戦車ジェライアは、正面装甲の分厚さに欠けてはトゥアム共和国軍随一を誇る車両で、何れの戦場においても真っ先に盾役たる役割を与え付けられて最前線へと送られる、非常に堅牢堅固な鈍重戦車である。


守る側にとって非常に有利な地形を利用して構え待てば、まさに鬼に金棒、迎え撃つ事に関しては完全に敵無したる無類の活躍を期待出来るはずだった。


(ジョイル)

「くっそ!反撃する隙が全くねぇ!何なんだあのガトリングガンは!」


(ジレン)

「弾薬ポットからの連続供給タイプだ!換装にかかる時間はほぼ無いと考えた方が良い!」


(マーゾ)

「マジかよ!あの腰にぶら下がっているデカボックスが全部弾丸だって言うのか!?」


(ニレル)

「何をしているデゼルト隊!四の五の言ってないで、さっさと後退しろ!お前等の機体では簡単に蜂の巣にされるぞ!」


(ジョイル)

「ちっ!」


(ニレル)

「二番車!三番車!2ライン後方の岩場まで一気に下がるぞ!急げ!」


(ジレン)

「ジョイル!マーゾ!反撃するのは後続が到着してからだ!俺達も引く!」


だが、しかし、この時北方側に現れた三機の敵DQの内、大型機と称され分類される個体よりも遥かに大きななりをしていた一機が、非常に強力な化け物ガトリングガンを装備していた為、防衛側の二部隊が敷き強いた強固な防御陣は、対敵から五分と持たずして、いとも簡単に崩壊してしまう事になった。


恐ろしい程の連射力、恐ろしい程の貫通力を有した巨大なガトリングガンの攻撃力は、非常に分厚いジェライアの正面装甲を持ってしても、敵対方向に対して上手く傾斜を付けて構えても、完全には防ぎ切れなかった様子で、各車共に、装甲を貫通した弾丸の激しい跳弾行為により、照準システムや索敵システム、砲弾自動装填システムなどに手酷いダメージを受け負わされる事態となり、何一つ抵抗らしき抵抗を奏で出し得ぬまま、ガン逃げと言う情けなき後退劇を演じ遣る羽目になる・・・。


幸いな事に、人的な被害は一切無く、駆動系機能にも全く被害が出なかった事から、後退行動に関しては何らとどこおりなく執り行う事ができ、少し南方側に下がり経た場所にある岩場地帯に逃げ込む事に成功したのだが、敵前に顔を曝け出した瞬間に、大量の弾丸を浴びせ掛けられると言う鬱々しき状況が好転する訳でも無く、彼等はやがて、援軍の到着を待つ事以外に何もできなくなってしまった。


それだけ、彼等の前に現れ出た大型機が所有するガトリングガンの攻撃力は凄まじかった。


常識の範囲内で考えられる月並みな凡庸兵器とは、明らかに一線を画す超秀逸品だった。


当然、それを装備し構え持つ大型機DQも、一般的な大型機DQとは全く異なる特殊型DQ機だった。


(リスキーマ)

「二佐!北側に現れた大型機の機種が特定できました!ロスアニア製のトールマン・パニスです!」


(カース)

「トールマン・パニス?・・・新型機か?」


(リスキーマ)

「いえ、3年程前に開発が中止された試作実験機の様です。性能的には・・・、ええと・・・、大型の武器を装備できる以外には、特にこれと言って目立つものはありません。」


(カース)

「ロスアニアの試作実験機・・・。何故その様なものがここに・・・。」


(サルムザーク)

「昔、何かの噂で聞いた事がある・・・。トールマン・パニスか。ふーむ・・・。」


「DQX202-14トールマン・パニス」。


ムーンスローブ大陸西方の軍事強国と称されるロスアニア国において、圧倒的な火力を誇る移動要塞的なDQ兵器を制作しようと開発が始まったX2プロジェクトの2作目で、強力巨大な火器武器を装備できる大きさとパワーとを兼ね揃えている大型の特殊DQ機だ。


だが、二足歩行と言う大型機にとって非常に困難な機能機構にこだわり続けた為に、それに見合った装甲を施し付ける事が出来ず、遠方からの狙撃、上空からの爆撃に非常にもろい・・・、戦果を上げ切る前に撃破されてしまう可能性が非常に高かった事から、制作コストに見合うだけの成果を期待できないとして、開発途中で廃番となった欠陥機でもあった。


勿論、そう言った欠点部分を端から考慮せずとも良い妙地などに鎮座し、自らが持てる強力な火力を強引にひけらかして、相手の攻撃の先を制し続け遣る事さえ出来れば、それなりに使い所のある機体であったと言えるが、それならば最初から固定式の野戦砲台を設置した方が早い、費用も安く済むと言う、全くの正論を覆し遣る好的材料が他にあった訳でも無く、やがてその存在は、何ら益無きタダのまと・・・、「どうぞおいしく食してください」と言う意味を込めた「パニス」なるラストネームをくくり付けられて、ガラクタ倉庫の中に置き捨て遣られる事になったのだった。


その後、ロスアニア国内で勃発した大規模内戦の最中に、何者かがこの機体を強奪、何処かへと持ち去った為に、今の今まで行方不明と言う扱いになっていた訳だが、どのような経路を辿り経て入手したにせよ、この様な愚物品を最前線の地へと送り出し遣る様な輩が、帝国の正規軍であるはずが無かった。


ちなみに、この「トールマン・パニス」なる大型DQが装備するガトリングガンは、帝国製の「HGG-X2」と言う特殊大型機用に開発された強力な新型武器で、言うまでも無く、彼等の雇い主たるカルティナから授け与えられたものだった。


(サルムザーク)

「リバルザイナの一般市販機が混ざっているって言う時点で、何かがおかしいとは思っていたんだ。まさかこんな奴等に攻め入られる事になろうとはな。」


(カース)

「何か心当たりでも?」


(サルムザーク)

「魔境の森に住まう闇の住人って奴さ。山賊だよ。」


(カース)

「山賊!?・・・彼等がですか!?」


(サルムザーク)

「ああ。間違いない。反帝国を志す非合法な武装集団なら、この基地を攻めたりしないだろうしな。帝国の正規軍でもない、反帝国組織でもない第三者的武装集団となれば、奴等をおいて他には考えられない。チャンペル。基地西方側の索敵を更に厳と成せ。南方側に逃げ込んだ敵機は多少放置しても構わん。」


(チャンペル)

「了解。」


(カース)

「・・・しかし、相手が只の山賊であると言うのなら、そこまで警戒する必要は・・・。」


(サルムザーク)

「逆だ。相手が只の山賊だからこそ、その後方に居る何かに注意する必要があるのさ。考えてもみろ。単なる山賊風情がこの基地を単独で攻め落とせると思うのか?」


(カース)

「いいえ・・・。」


(サルムザーク)

「奴等は己の私利私欲の為にしか動かない連中だ。単独でこの基地を攻める理由なんてない。奴等の後ろには必ずそれなりの対価を支払う何者かが居る。この基地を攻める事で何かしらの利を得られる何者かが絶対にな。」


(カース)

「この基地を攻める事で利を得られる者と言えば・・・、帝国軍・・・。」


(サルムザーク)

「そう言う事だ。」


この時、サルムが導き出した結論は半分当たっていた。


この地へと攻め入って来た謎の武装集団の正体が単なる山賊軍であると言う事、そして、その背後に何者かが隠れ潜んでいるであろう所までは当たっていた。


だが、その山賊軍を陰で操る黒幕たる存在が帝国軍であると言う予想だけは外れていた。


勿論、現時点において、帝国軍がこの地から完全に撤退していると言う事実を、防衛側陣営が全く知らないのであるから、それもまた致し方ない話であると言えるが、実際に今回の騒動事を引き起こした張本人たるカルティナやユァンラオも、まさかそこまで小難しく戦局を考察し掛かってくれるとは思っていなかった様で、事態はその後、彼等が目論んでいた以上の素晴らしき展開へと、次第に雪崩れ込み入って行く事になるのだ。


南方側の渓谷地帯に逃げ込んだ敵DQ部隊と、北方側から攻撃を仕掛けて来た敵DQ部隊の行動を、西側から攻め入ってくる帝国軍本隊の為の陽動作戦であると判断したサルムは、直ぐさまパレ・ロワイヤル基地周辺部に強固な防御陣を構築し遣るよう指示を飛ばし、続いて、南方側の渓谷地帯に出張っていたデモアキート部隊を西方の山岳地帯に派遣、何処いずこかに潜み隠れる帝国軍本隊の索敵任務に当たらせた。


だが当然、端から居るはずもない帝国軍本隊の捜索作業は一向にして進まず、素晴らしき手際の良さで颯爽さっそうと敷き広げた見事なる防御陣も、全く次なる一手を打ち放ち遣れぬ鬱々(うつうつ)しき状況にどっぷりと捕われかれたまま、完全不毛なる無為の時を無駄に過ごし遣る羽目になってしまう・・・。


それはまさに、攻撃側の首謀者たる人物達が望み目論んだ悪的展開そのもの以上であったと言え、南方側の渓谷地帯に逃げ込んだ山賊野党軍DQ部隊も、防衛側が手を抜いた分、いとも簡単に敵の追撃を振り切り遣る事に成功した様で、北方側の山岳地帯で繰り広げられていた激しい銃撃戦も、防御一辺倒たる体勢に凝り固まった防衛側の消極策により、只の一度も危機的な状況を迎え入れる事無くやり過ごせている様子だった。


当然、西側方向へと完全に寄り付いた防衛側陣営の意識が、そう簡単に真反対側である東側へと振り向き直れるはずも無く、この時点で、基地の東側密林内部において密かに遂行し遣られている「何か」の存在を、正確に把握して取っている者は誰一人として居なかった。



(エディ)

「ふぅ。ようやく人心地がついたな。シャオヤン。追手の様子はどうだ?」


(シャオヤン)

「特に追い付いて来る気配はねぇな。正面の密林地帯もクリアだ。」


(サンドラ)

「戦闘ヘリ部隊も居なくなっちゃったみたいだし、何かあったのかしらね。」


(リュアス)

「さあな。だが余り余計な事に変な期待を掛けない方が良い。さっきみたいな事はもうないと思っておけ。」


(リック)

「でもよ。これって、もしかして、エブラおやじの方に攻撃が集中しちまってるって事なんじゃねぇか?大丈夫か?あのおやじ。」


(リュアス)

「もしそうなら、真っ先にHELP色の連絡弾が打ち上がるはずだ。心配する事は無い。」


(サンドラ)

「連絡弾を打ち上げるよりも前に、もう死んでたりして。」


(エディ)

「新種のゴキブリ野郎が叩いた位で簡単に死ぬかよ。心配するだけ丸損って奴だぜ。」


(シャオヤン)

「そりゃま、確かに。」


(リュアス)

「作戦開始からもう随分と時間が経っている。これ以上はもう、再突入する必要は無いだろう。」


(エディ)

「作戦終了の合図が出るまで、ここで待機しているのか?」


(リュアス)

「ああ。いつでも逃げられる様に準備はしておけよ。周囲の警戒も怠るな。」


南方側の渓谷地帯に逃げ込んだ山賊野党軍の五人は、なるべく相手の注意をらしかわす様に心がけながら散開行動を取りつつ、渓谷内部を派手に逃げ回り散らかしていたが、追手の動きが妙に緩み鈍くなったと見るや、FTPフィールドフル展開モードで防衛側DQ部隊の追撃を一気に振り切り、全員が体良ていよく集まり揃える妙的ポイントへと急行、その近場にあった高台付近で再集結を果たした。


そして、非常に慎重な面持ちで周囲の様相を警戒して見て取りながら、パレ・ロワイヤル基地防衛部隊の動きを彼是あれこれと考察して回し遣り、自分達が完全に危機たる状況から脱し得ている事を悟り取ると、直ぐに当該戦闘地域から離脱する準備を整え出し始めた。


この時点で、彼等の戦いはほぼほぼ終わりを見ていた様子だった。


後は、予め設定されたナルタリア湖南岸ルートを辿って、魔境の森奥深くへと逃走を計り繰り出すだけだった。



一方、パレ・ロワイヤル基地の北方側に投入された山賊野党軍DQ部隊の様子はと言うと、山間に広がる岩石地帯に上手く陣取り遣った防衛守備隊との睨み合いの状態が続き、何ら益無き散発的な銃撃戦を延々と繰り広げていた。


だが、やはり、こちら側の三人も、そろそろ終わりが近いと言う事をしっかと察し取っており、余り無理に攻め入る様な真似は仕出かさず、時折攻撃する素振りを見せ示す防衛側部隊の動きを、適宜首尾しゅび良く叩き引き戻らせる事だけを考えている様だった。


(エブラ)

「むっふっふっふ。慎重も度を過ぎると相手を利する事にしかならない。どうです?皆さん。良いお勉強になりましたでしょう?」


(モイーズ)

「って言うより、これで本当に俺達が利されているのかどうかが解らねぇ。何か物凄くほっとかれてる感がしねぇか?」


(クルストン)

「敵の動きも酷く緩慢だしな。」


(エブラ)

「別に構いませんでしょう?私達は単に、敵の目の前に姿を曝して、相手の注意を引き付けろとしか言われてませんからねぇ。」


(モイーズ)

「だがよ。作戦終了の合図が中々出ないのも、敵が基地周辺部に屯し過ぎているからって事なんじゃねぇのか?」


(クルストン)

「もう既に拉致に失敗していたりして。」


(エブラ)

「拉致が成功しようとしまいと、私達には関係ありませんよ。私達はただ、私達に与えられた仕事をしっかりとこなすだけです。ですが、このまま黙って作戦終了の合図を待っているだけと言うのも、何か妙に味気ありませんね。」


(モイーズ)

「どうすんだ?もう一度突っ掛けて敵を岩場から誘き出すとかするのか?」


(エブラ)

「いえいえ。違いますよ。逃げる準備をしておこうと言うだけです。小娘の拉致に失敗していた場合、作戦終了の合図なんかないかもしれませんからねぇ。貴方達二人は、もう攻撃に加わる必要はありません。何時でも逃げられる様に下がっていなさい。」


(クルストン)

「足が遅い機体で殿しんがりを務めるのは無理があるんじゃないか?寧ろおやじの方が先に逃げるべきじゃ・・・。」


(エブラ)

「貴方達の火力では敵の追撃を防げませんよ。大丈夫です。守る側の人間は逃げる相手を無理に追ったりはしません。むっふっふっふ。」


北方側の山岳地帯に現れた三機のDQの内、一番大きななりをした木偶でく人形「トールマン・パニス」に搭乗していた「エブラ・ジーマン」と言う男は、適度に長い黒髪をポマードでオールバックに固めた非常に濃い顔の中年男性で、綺麗に生え揃えた口髭と、非常に長い揉み上げが特徴的な・・・、お洒落と言うよりも、苛立いらだたしきしつこさの方が先に立つダンディなオジサマだった。


パイロットスーツを着るでもなく、えりをキリリと立て尖らせた真っ黒なシャツを羽織り、真っ黒なスキニーパンツに真っ黒なロングブーツを合わせたその姿は、まるで新種のゴキブリの様だと仲間内から揶揄やゆされ、いじり倒される事が多かった。


だが、仲間内の中で彼の序列が底辺部に位置していたかと言えばそうでは無く、過去に帝国軍の兵士として過酷な戦場を幾つも渡り歩いてきた経験を持つ事から、戦いの何たるかを知らぬ初心者的メンバー達の教育係を一手に任されており、彼自身が持ち有する戦闘能力は決して高いとは言えなかったものの、周囲からの人望もそれなりに厚い、組織のNo3、No4的な存在であった。


当然、戦場における攻め時、逃げ時を判断する能力は、山賊野党軍内でもかなり高い方であったと言え、この時点で彼は、もう既に自分達の方から攻撃を仕掛ける段階ではないと、しっかと認識して取っていた様子だった。


そして、作戦終了の合図が無かった場合でも、あと10分程したら退却しましょうか・・・などと、自らの考えをそう巡り至らせ着かせると、右手の指先で自慢の口髭をスリスリと軽くなぞり擦りながら、メインモニター上に映し出された地形データへと視線を落とし、逃走する為のルートの確認作業をし始める。


・・・すると、そんな時だ。



ピヨーッコココッ。ピヨーッコココッ。ピヨーッコココっ。



彼等が所持する各々の通信システムが奇怪な音を大に立てて3回程鳴った。


(モイーズ)

「来たっ!来たぞ!作戦終了の合図だ!」


(エブラ)

「おやおや。これまたグッドなタイミングですね~。」


(クルストン)

「何だよこの音は。もっとマシな通知サウンドは無かったのか?誰だコレ設定したの。」


(エブラ)

「嫌ですねぇ~。私ですよ。私。」


それは、通信システムに通常設定されているシグナル音とは明らかに違う、絶対に聞き間違う事が無い様にと配慮し追加設定された後付けの通知音・・・、パレ・ロワイヤル基地周辺部へと潜入した陽動部隊に対して、作戦終了の報を告げ知らせる特別製の専用効果音だった。


ただ、この時彼等に送り付けられた情報は、作戦が終了したと言う事のみで、実際に彼等一味が暗に目していた小娘拉致作戦が成功したのかどうかまでは、全く解らない状況だったのだが、単なる陽動部隊の一員でしかない彼等にとって、それは本当にどうでも良い事だった。


(エブラ)

「モイーズ。クルストン。私が一度敵の前面に砲火を集中させますから、その隙に一気に後退しなさい。良いですか?無用な援護など必要有りませんよ?」


(クルストン)

「解ってるってよおやじ。盗るもん盗ったらさっさと逃げる。それが俺達の流儀だろ。」


(モイーズ)

「帰ったらよ!皆でパーッとやろうぜ!街の女共を大量に買い付けてさ!飲みまくりの、食いまくりの、やりまくりだぜ!ひゃっはー!」



その後、彼等は即座に撤退を開始した。


巨大なDQトールマン・パニス機を殿しんがり部に置き据えて、強力なガトリングガン攻撃をここぞとばかりにド派手にぶちばら撒き散らしながら、意気揚々とその場から立ち去って行った。


それまで彼等と対峙していた防衛側部隊からの反撃も全く無く、追撃して来る気配さえ全く無い様子だった。


言うまでも無く、それは、パレ・ロワイヤル基地の防衛司令官たるサルムザーク陸等二佐が、非常に消極的な防御策を用い、西方側から攻め入って来るであろう帝国軍本隊を迎え撃とうとしていた為で、この時彼等は、想定した逃走ルートを難なくそのまま辿り経る事に成功し、戦線からの完全離脱を果たし得る事になった。


当然それは、南方側の渓谷地帯に雪崩なだれ込み入ったリュアス達部隊にも同じ事が言え、彼等もまた、撤退に際して苦労する様な事態には全く見舞われかれなかった様だった。



パレ・ロワイヤル基地周辺部で勃発したこの小さな騒動は、確かに、何の面白味も無い小規模な撃ち合いが幾つか繰り広げられただけの非常に瑣末さまつな戦いであったと言え、基地を守るトゥアム共和国軍側にも大した被害は出なかった。


だが、元々端からそれで良しと目論んでこの地へと攻め入って来た山賊野党軍からすれば、たった一人の犠牲のみでそれを完遂し終えた事は、まさに完勝、大勝利を収め得たと言っても過言では無い素晴らしき結末であったに違いなかった。



そう。彼等はこの戦いにおいて勝利したのだ。



そして、彼等を裏で操る不逞ふていな輩達も、また・・・・・・。



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