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Loyal Tomboy  作者: EN
第十話「微笑みは闇の中で、闇の向こうで」
206/245

10-12:○イントリーグ・シュトゥルム[3]

第十話:「微笑みは闇の中で、闇の向こうで」

section12「イントリーグ・シュトゥルム」


渓谷内ルートとナルタリア湖北岸ルートの二つを辿り、パレ・ロワイヤル基地の極直近部へと進攻し入って来た山賊野党軍は、当該地域における戦闘行為を極力控え避ける方向で考えを巡らせ回していた訳だが、以下の二つの理由により、それを断念せざるを得ない状況へと追い込まれていた。


一つは、目の前に現れ出た三機のDQ・・・、パレ・ロワイヤル基地防衛軍グラント隊のメンバー達が、自分達の進攻路の出口付近を完全に塞ぎ止める格好で鎮座し守っていた為で、もう一つは、この場へと至り着くまでの間に、一瞬だけ索敵しとらえ得た防衛守備隊側の二つの戦車部隊が、今頃自分達の後方部を遮断する動きを見せ始めているのではないか?・・・と強く懸念して取っていた為である。


実際には、パレ・ロワイヤル基地の防衛司令官であるサルムザーク陸等二佐が、更なる敵部隊の発現、急襲に備えて、前衛部の戦車部隊を動かさないよう指示を出していた為、彼等の後背部を脅かす様な部隊は何処にも存在し得なかった訳だが、彼等自身、自分達の背後に何かしら別の強力な増援部隊が控え潜んでいるのではないか・・・などと、相手方に深く勘繰り取られているとは全く考えていなかった。


その為彼等は、この時点で、前に進むにしても後ろに戻るにしても、絶対に戦闘を回避し得ない状況に陥ってしまったと思い込んでいた様子だった。


(シャオヤン)

「ちっ。ハンの馬鹿野郎が・・・。何もしない内にっちまいやがって・・・。」


(サンドラ)

「ねぇ!どうすんのこっから!どうすんのよ!?グズグズしていると、さっきの戦車部隊が後ろから来ちゃうわよ!ねぇねぇ!ねぇってば!」


(リック)

「うるせぇんだよてめぇは!ピーピーワーワー馬鹿みたいに騒いでんじゃねぇ!」


(エディ)

「正面の敵は、トゥマルクにアカイナン、それと・・・ブラウラーの3機か・・・。」


(リュアス)

「シャオヤン。そっちから見て他に敵影は無いか?」


(シャオヤン)

「直ぐ近くに何かが居るって感じでもねぇが・・・、そこから先は解らねぇ。」


(リック)

「どうするんだ兄貴。一旦引き返して戦車部隊の鼻面でもぶっ叩くか?」


(リュアス)

「いや。最終的な逃走ルートまでの道のりを考えると、今の内に目の前の丘を突破して、向こう側の渓谷地帯に紛れ込んだ方が良い。勿論、そう簡単に抜かせてくれる相手ではなさそうだがな。」


(エディ)

「ここはもう、数に物を言わせて全員で特攻をしかけるしかないだろ。時間をかければかけた分だけ不利になる展開だ。一気に行こうぜ。一気によ。」


(リュアス)

「それはそうだが・・・、うーむ。」


言うまでも無く、彼等は、これまでに幾度と無く、DQを用いた戦闘行為を遣りこなし経て来た経験を持ち、DQを操作する技術に関しては、一般人が持つそれよりも遥かに高い良質なものだったと言える。


山賊野党軍の頭たるリュアスや、ナルタリア湖北岸ルート小隊を取り仕切っていたエディなどに至っては、過去に、帝国国内で開催された一般者向けのDQA大会で、かなり良い所まで進み上がった輝かしき経歴を持ち、どちらかと言えば、強者足り得る者達の側にしっかと分類され入る猛者的パイロットであった。


だが、山賊野党たる彼等が日々狙い襲い食らう獲物達の多くは、その大抵が完全なる弱者共達・・・、全く抵抗する術を持たぬ者や、その能力、備えが不十分である者達ばかりで、真に強き力を持つ手練れ連中を相手に、戦闘をした経験が圧倒的に不足していた感が絶対的に否めず、それに立ち向かう強い意気込みや激しい闘争心に著しく事欠く・・・、困難な状況に対する免疫能力がほとんど無い、精神的にももろい、完全に尻込みしてしまうと言った傾向が非常に強かった。


DQA大会でそれなりに体良ていよく揉まれ鍛えられて来た感のあるリュアスとエディに関しても、複数人同時参加型のチーム戦を十分にこなし遣り経て来た訳では無く、多対多なる複雑性の高い混沌とした戦闘状況において、自らの能力を如何なく発揮し出せる絶対の自信までは無かった。


リュアスがこの時、数的有利さに物を言わせて一気に攻撃を仕掛けようと言うエディの提案に対し、歯切れの悪い返答を返すに止め、しばし黙り込んでしまったのも、攻撃を仕掛ける段階で怖気おじけ付き、前に出る事を躊躇ためらう輩が出て来るのではないかと勘繰った為であり、もしそうなった場合、自分一人の力だけで状況を打開するのは非常に難しいと考えたからだ。


言うなればリュアスは、エディ以外の者達の戦闘能力に、余り過度な期待を寄せ掛けていなかった。


真に強者なる者と対峙した彼等に、人並み以上の働きが出来るとは思っていなかった。


だが、だからと言ってこのまま何もせず、手をこまねき続けるのは愚策中の愚策・・・、前か後ろかにしか進み行けない窮屈な一本道内の両端部を完全に塞ぎ閉ざされ、どうにもならない万事休すなる状態に陥りはまってしまう可能性が非常に高い。


出来れば今の内に、体良ていよく逃げ回り散らせる南方側の渓谷地帯に雪崩なだれ込んでおきたい所であった。



リュアスはやがて、ここが最初の勝負所だな・・・と、周囲の様相を一通り静かに眺め見て渡し取りながら、覚悟を決めた様子で軽い溜息を一つ付き遣ると、直ぐに他の四人に全員攻撃を仕掛ける指示を出し飛ばした。


そして、思ったよりもそこそこやる気有り気な仲間達の返答を順々に聞き取りつつ、サーチモニター上に映し出された三つの敵色DQ機反応光へとギリリと視線をくくり付け遣ると、己の心の只中に鋭い攻撃的意識の業火ごうかを激しく燃やし宿し入れながら、左右両手に装備した攻撃武器「HV192-T64」と「KGM-35グレネードガン」を徐に構え上げた。



(チャコ)

「お。来る気か?」


(デフロット)

「・・・にしちゃあ、随分と弱気な隊列だな。どうする?カウンターを仕掛けて一気に片付けるか?」


(ヴィーゴ)

「確かに、こいつらは早めに叩いておいた方が良さそうだ。・・・が、数的不利な状況で無理する所じゃない。少し待とう。」


(チャコ)

「もう一人ぐらい居てくれれば、速攻で仕留めてやる所なんだがね。」


一方、それを迎え撃つ側のグラント隊のメンバー達はと言うと、非常に高い戦闘技術力を持ち有する攻撃的なDQパイロットが三人揃っていながらも、明らかに防御一辺倒たる慎重な態度に固執し付いたまま動こうとしなかった。


勿論、目の前の敵を一気に殲滅し尽せるチャンスさえあれば、即座に攻勢に転じ入ろうと考えていたようだったが、彼等の後方に回り構えようとしていた戦車部隊の配置が、未だ未完了な状態であった事と、敵部隊の後方部に更なる増援部隊が潜み控えている可能性を憂慮し、警戒し取っていた事から、取り敢えず、何かしらの好機的事象が振り齎されるその時まで、現状を維持しようと考えたのだった。


だが、実際に彼等が真に守備的な思考にとらわれかれたのは、ほんの一時ばかりで、程なくして直ぐに近場に現れ出た意図せぬ来訪者からの思わぬ申し出に、多少怪訝けげんなる雰囲気を滲み出しつつも、次第に色めき立つ様相を窺い見せ始めた。


(ユァンラオ)

「人手が足りていないなら手を貸してやっても良いが、どうする?」


(デフロット)

「ユァンラオか?第五戦車部隊の護衛に回るとか言ってなかったか?」


(ユァンラオ)

「北側の渓谷内に潜り込んだ敵が戦車部隊の後ろにい出る為には、西側の高台裏を大回りするしかない。道中は全て悪路だ。となれば、奴らが再び姿を現すまでには、まだ少し時間的猶予がある。尤も、絶対的に安全と言える時間は五分程度だろうがな。」


(ヴィーゴ)

「お前にしては珍しいな。他人様に手を貸してやろうだなんて。一体どう言う風の吹き回しだ?」


(ユァンラオ)

「いや、何。こいつ等の動きが妙に気になったんでな。」


(チャコ)

「で?俺達三人の手には負えなそうだからって、助太刀に参上したって訳ですかい。俺達も随分と低く見られたもんだ。」


(ヴィーゴ)

「まあ、そう言うな。BP大会の第一カーネル様が、直々に手助けしてくれるって言うんだ。御好意は有り難く素直に頂戴しておく事にしよう。俺が南側の敵を食い止める。その間、お前達三人で西側の敵を排除しろ。」


(デフロット)

「了解。一気にやっちまおうぜ。」


(チャコ)

「やり方はどうする?」


(ユァンラオ)

「敵のスキルが如何程いかほどのものか解らんが、取り敢えず、俺が先行して奴等の意識を掻き乱してやろう。後の処理はお前達に任せる。」


(チャコ)

「ほっほーう。いわく付きのカーネル様が、自ら進んで危険な役回りを引き受けてくださると。これはまた、偉く高く付きそうな話しだな。」


(デフロット)

「一機に付きウィスキー一杯。三機で三杯。・・・ってな所で手を打ってくれるとありがたいんだが。」


(ユァンラオ)

「別に構わん。それよりも、相手の動きには十分注意しろ。セオリー無視な奴等は何をして来るか解らんぞ。」


(チャコ)

「へいへい。御忠告ありがとうございます。」


(デフロット)

「ヴィーゴ。そっちは準備は良いか?」


(ヴィーゴ)

「ああ。いつでも良いぞ。」


そして、大して面白くも無い遣り取りを幾許いくばくか繰り広げながら、徐に西方側へと向けてリベーダー2の機体を行き向かせたユァンラオの後に続き、グラント隊に所属するチャコとデフロットが順々に機体を動かし出して、坂下の敵集団に攻撃する体勢をそそくさと整え上げ始める。


ユァンラオはここで、少しばかり後ろを振り返り、リベーダー2の背後部に付き並んだブラウラーと、その直ぐ後ろに陣取ったアカイナンの機影を順番にチラリと見遣り取りつつ、唐突に込み上げ噴き出上がった鼻息と共に、ニンマリと怪しげな笑みを浮かべ上げた。


・・・と、加えて、あご周りに疎らに生え揃った無精髭ぶしょうひげをシュリシュリと静かに撫で回しながら、仲間の窮地たる状況を端から見捨てかかる悪的性癖の持ち主であれば、助かる事が出来るかもしれんな・・・などと、全く持って善からぬ思案を脳裏に渦巻かせ上げ、徐にリベーダー2の左腕を軽く後方に振りかざし上げて合図を送り付け遣ると、すかさずフットペダルの上に乗せ上げた右足に強く力を込め入れた。



(サンドラ)

「来た!来たわよ!」


(リック)

「こいつ!一機で来るつもりか!?」


(リュアス)

「ちっ!先手を取られた!リック!サンドラ!援護しろ!」


ユァンラオの目的は当然、目の前に居る3機の敵DQを倒す事ではない。


目の前に居る3機の敵DQを上手く守りつつ、後方から付き従う2機の味方DQ機を排除、殲滅する事に有る。


勿論、直接自らの手で味方機を撃破すると言う馬鹿な真似を大々的に披露し見せる事など出来やしないし、あからさまに見て直ぐにそれと解る背信行為を繰り返し遣り見せ出す訳にも行かず、何かしら上手く煙に巻き遣る方法・・・、有耶無耶うやむやの内に事を済まし遣る体良ていよき方法を用いなければならなかったのだが、この時のユァンラオには、既にそれを成し果たす為の妙的案があった様だった。


彼が自ら率先して単独で敵陣に特攻する意思を示したのも・・・、何事が生じ起きても全く不思議ではない混沌とした状況を作り出す為のものだった。


やがてユァンラオは、後続の二人を大きく引き離す勢いを持って、ほのかに左カーブ掛かった下り坂斜面を勢い良く滑り降り行くと、一番向こう奥側から顔を覗かせて無謀なる反撃弾を撃ち繰り出してきた、ロスアニア製のDQ「HseefBヘンシーブ」とリバルザイナ製DQの「CRX15デザイオS」に対し、「お前等は大人しく引っ込んでいろ」的なかぐわしさを強く匂わせた牽制弾を数発、彼等の前に叩き込み入れた。


そして、徐に岩陰から飛び出して来た帝国製DQの「RYR-95ヴァン・ピオール」の方に直ぐに意識を立ち帰らせ戻すと、相手から撃ち放たれた弾丸を適度に貰い食らうよう緩慢な動きを奏で出しながら、機を見て一気にヴァン・ピオールの懐部へと飛び込み入り、右手に持った「ASR-RType45」の銃身を持って、相手機の左手攻撃武器「KGM-35グレネードガン」の動きを封じこみ遣った上で、何も持たないリベーダー2の左手を持って、「HV192-T64」を装備した相手機の右手部分にガシリと掴みかかる。


(リュアス)

「なっ!?・・・くっそ!!」


(リック)

「兄貴!!」


(サンドラ)

「まずいまずい!お兄ちゃん!!」


そして、危機たる状況に陥ったリュアスを支援する為にと、再び攻勢に打って出ようとする小賢しい二機の敵に対し、不自由なる右手を巧みに動かし出して、「ASR-RType45を」による牽制攻撃を適宜首尾良く食らわせ入れ、これを制し遣ると、徐にリベーダー2の機体を小気味良くグリグリとね繰り回しながら、取り付いたヴァン・ピオールの機体諸共岩陰の裏へと押し込み入り、非常に逼迫ひっぱくした様相を無理矢理に演出し出して見せた。


(ユァンラオ)

「ぬっ・・・!こいつ等かなり使う!・・・やばいぞこれは。」


(デフロット)

「ユァンラオ!」


(チャコ)

「今行く!もう少し耐えろ!」


ユァンラオに取ってそれは、確かに非常に難しい戦いだった。


勿論、対峙した山賊野党軍の技量が思った以上に高かったからとか、事態の推移が思う様に上手く進み遣らなかったからとか、そう言う訳では全く無い。


彼はこの時、意図せずも自然に沸き起こってくる高笑いを食い止めるのに、非常に四苦八苦していたのだ。


ユァンラオは途中、「くっ・・・!」とか「ちっ・・・!」などと言う、明らかに苦慮している様を通信システム内に逐一流し入れ、後方から猛追し来る二人の仲間の危機感を更に色濃くあおり立てる事に成功していたものの、鼻の穴から小さく漏れ零れ出す断続的な笑い息を食い止める事が出来ない様子だった。


そして、程なくして極至近部へと到達し着いたチャコ機の方へとチラリと意識を宛がい付け、良い心掛けだ青年。褒美に苦しまずに死ねる様にしてやろう・・・などと、全く無音なる別れの言葉を心の中で吐き放ち遣ると、リベーダー2の左手で掴んだ相手機の攻撃武器「HV192-T64」を巧みに操り動かし、後方部の岩陰の向こうから勢い良く飛び出して来たブラウラー機のコクピット部目掛けて、銃口の先をギギリとかざし付けさせた。


・・・と、同時に、「HV192-T64」のトリガーに掛かったヴァン・ピオールの右手人差し指の上に、リベーダー2の左手薬指を強引に捻じ込み入れ、即座にそのトリガーを引き絞らせる。



ガンガンガンガンガン!


(リュアス)

「何っ!?」


(チャコ)

「何だと!?」


ドッゴーーーン!!



直後、完全に不意打ちとなる極至近からのカウンター攻撃を、真面に浴びせ食らわされたブラウラーが、搭乗者たるチャコの命を唐突に掻き消すけたたましい大爆音と共に激しく爆発四散し、徐に不気味な冷笑を携え上げて口元を大きく緩め歪めたユァンラオの小脇を勢い良く転げ落ちて行った。


そして、程良く情けない声色を持って「チャコ!」と強く叫び上げたデフロットの後に付き従い、自らも「糞っ!」などと言う焦燥感しょうそうかんたっぷりの短言を続け足し入れる。


勿論、この時の彼の脳裏に真っ先に浮かび上がったのは、それとは全く異なる別物の言葉・・・、「まずは一機・・・」と言う悪魔的な思考から滲み出した満足げな思いで、哀れなる鉄屑と化し行った味方機に対する惜別せきべつの念やら哀悼あいとうの念などは全く無かった。


その意識は既に、次なる獲物の動きへと完全に移り進んでいる様子だった。


デフロットが搭乗するアカイナンは、チャコが搭乗していたブラウラーとは違い、正面装甲が非常に厚く、面と向かい合っての銃撃戦に滅法強い重装型のDQで、一撃二撃程度の適当撃ちで一気に撃滅粉砕する事は、そう簡単な事ではない。


少なくとも、弱点となる部位部分をしっかりと正確に狙い撃ちする必要があり、山賊野党軍の三下パイロット達にそれが可能かと言えば、恐らくはそうではない確率の方が高いと言わざるを得なかった。


・・・となれば、次なる攻撃は、ユァンラオ自身が自らの手で敢行し遣る必要が出てくる・・・訳だが、幸いな事に、今現在この周辺周域に存在しているのは、ユァンラオの他に、山賊野党軍の三人のパイロットと、デフロットの合計五人しか居ない・・・、チャコが死んだ事で、ユァンラオが山賊野党軍にくみしている事実を絶対的に知られたくない人間が、デフロットただ一人と言う非常に良好な状況になっていた。


それはつまり、一瞬の内にデフロットを死に至らしめる事が出来れば、ユァンラオが何をしようとも、それを直接つぶさに観察して見て取る者は居ないと言う事である。


サーチモニターを食い入る様に見つめ続け、事の成り行きの全てを観察して取ったとしても、混戦状態で繰り広げられる刹那的戦闘の中から、その事実を暴き出すのは不可能な事であると言えるだろう。


勿論、だからと言って、ユァンラオ自身が装備して持つ「ASR-RType45」を、そのまま使用する事は出来ない。


何故ならば、トゥアム共和国軍が支給した弾丸によって攻撃されたと言う証拠が、その場にそのまま残る事になるのだから・・・。


万全には万全を期す必要があった。


そこでユァンラオは、自らが取りくヴァン・ピオールの機体に、リベーダー2の機体をゴツリとわざと強くぶつけ当てさせ、その搭乗者たるリュァスに対して何かしらの合図を一方的に送り付けると、全く攻撃する素振りを見せ示し出さない様にしながら、相手機を拘束する力を徐に緩め弱めた。


そして一瞬、何だ?と懐疑的な思考にまとわり付かれ、油断し入ったリュアスの隙を突いて、素早く相手が持つ銃「HV192-T64」を奪い取り去る。


(リュアス)

「あっ!」


(ユァンラオ)

「駄目だ!来るなデフロット!」


次の瞬間、ユァンラオは、後方の岩陰より飛び出して来るであろうデフロットに対し、突撃を中止するよう強く勧告する言葉を徐に放ち出し、直ぐさまヴァン・ピオールの元からバックで離れ逃れる動きを奏で出した。


それはもはや、勢い的に言って、絶対に突撃を差し止める事の出来ない、ギリギリのラインを越え過ぎた後の発言で、デフロット的には、このまま突撃を敢行するしかないと言う思いに、そのまましがみ付く他無かった。


・・・と言うより、デフロットは、それまで敵機と激しい鍔迫つばぜり合いを繰り広げていたリベーター2が、相手機との距離を取り始めたこの瞬間をチャンスと見取った様で、同士討ちの危険性がほぼ無くなった単純明快なる戦いを目前に、彼の意識は、完全に敵機のみへと差し向け付けられていた様だった。


結果・・・。



ガンガンガン!


(デフロット)

「?」


ドッゴーーーン!!



岩陰より躍り出るなりTRPスクリーンの真正面部にとらえ見たヴァン・ピオールの機体へと向けて、右手に持った「ASR-RType45」と右肩に装備した「120mmミドルレンジキャノン」、それに加えて、左手に装備した「GMM30-グレネードガン」の銃口をほぼ同時に括り付け遣ったデフロットは、己の右手側方向にゆっくりと離れ去って行くリベーダー2の不穏な揺り動きに全く気が付かなかった。


自分の機体が弾丸を浴びせ掛けられている・・・、アカイナンの後部テスラポット右側面部に直撃弾を受け食らっているのだと気付いた時には、もう既に彼の肉体はこの世から掻き消え行く寸での所だった。


最終的に彼は、一体何処から、一体誰から攻撃されたのか全く解らぬまま、別世界への旅立ちを余儀なくされてしまった。


(ヴィーゴ)

「デフロット!」


(ユァンラオ)

「ちっ!まさかこれ程の輩達とは・・・!ヴィーゴ!一度崖上まで引く!」


(ヴィーゴ)

「解った!こちらの敵を押し込み次第、そちらの援護に回る!」


その後、ユァンラオは、自らが最初から装備し持っていた「ASR-RType45」と、相手から奪った「HV192-T64」を全くあらぬ方向へとかざし付けると、意味無く何度も何度もトリガーを引き放って、激しい銃撃戦を繰り広げている様子を偽装し作り出しつつ、直ぐさま坂上へと後退し行く素振りを奏で出した。


そして、一頻ひとしきり弾丸を周囲にぶちばら撒き散らし付けた後で、「HV192-T64」をその場にポイと無造作に放り投げ捨て遣ると、呆気に取られたまま茫然と佇み尽している山賊野党軍に対し、リベーダー2の左腕で「来い来い。上がって来い」と言う手招きを施し出して見せた。



(リック)

「兄貴!もしかしてあいつ・・・!」


(リュアス)

「ああ。間違いない。あの女が言っていたスパイってのは、どうやらあいつの様だな。」


(サンドラ)

「これって、私達に付いて来いって事だよね?どうするの?」


(リュアス)

「付いて行く以外に無いだろう。他に行く道が無いんだからな。」


やがて、リュアス率いる山賊野党軍の三人は、ずるずると坂上に後退し行く黒いDQ機の後に続き、しばし歩を進め行かせ、ユァンラオが「HV192-T64」を捨て放った場所まで到達すると、それを回収し取る為に一度そこで足を止め、周囲の様子を窺い見る素振りを見せ示し出した。


・・・が、ふと、前方を行き進む先導役たる黒いDQの仕草が、「急げ!全速力で追って来い!」的な荒々しきものに変わっている事に気が付き、慌てて後部テスラポットの出力を最大限まで引き上げ、各々が搭乗する機体を激しく駆り立て遣り始める。



やれやれ・・・。馬鹿共の御守りも大変だな・・・。



ユァンラオは直後、非常に呆れ疲れ果てた溜息を大きく付き放ち出し、徐にサーチモニター上へと視線を降り落とすと、南方側で繰り広げられているもう一方の戦いの状況をチラリと窺い見た。


そして、次はお前だ。ヴィーゴ。・・・と脳裏にポツリと呟き上げて、坂下から勢い良く駆けあがってくる三つの赤色光点へと意識を立ち帰らせると、最後の獲物を体良ていよく狩り取る為の上手い算段を付け始めた。


(ユァンラオ)

「ヴィーゴ!こっちの敵が上がって来た!どうやらここを一気に突破するつもりらしい!そちらの状況はどうだ!?」


(ヴィーゴ)

「大丈夫だ!行ける!こっちの敵は崖下に引っ込んだ!」


(ユァンラオ)

「俺が敵の注意を引き付ける!お前は完全隠蔽モードに切り替えて敵の右側面部を急襲しろ!」


(ヴィーゴ)

「解った!上手くやれよ!」



上手くやれよ?・・・ふっふっふ。


言われなくてもそのつもりだ。


・・・と、この時、ユァンラオは思わず頭の中でそう切り返し付け遣り、坂上の真頂点部へと差し掛かるや否や、リュアス達山賊野党軍の眼前へと目掛けて「ASR-RType45」の弾丸をガガガガガッと激しく発射し出して見せた。


当然、それは、敵を撃墜する為でも、敵の注意を引き付ける為でもない、単なる欺瞞ぎまん行為に過ぎなかった訳だが、この時、ユァンラオの事を完全に味方であると確信し切っていたリュアス達も皆、恐らくはそうなのであろう事をしっかりと理解して取っていた様子で、ユァンラオに対して適度に応戦し返す構えを見せ示し出して来た。


勿論、山賊野党軍三人の進行速度が緩め抑えられる様な気配は一切なかった。


結果、物凄い勢いで敵陣へと突っ込んで来る猛者パイロット三人と、それを必死に食い止めようと試みるユァンラオと言う構図が、非常に上手くそこに再現し出される事になり、急いでユァンラオの支援へと走り向かうヴィーゴの危機感を強く強くあおり立て、その視野を狭く狭くすぼくくり押さえ付けるのに一役買ってくれた様だった。


(ヴィーゴ)

「ユァンラオ!まだ持つか!?」


(ユァンラオ)

「何とかな・・・!だが、これ以上は・・・!」


次の瞬間、ユァンラオは、自らが引き連れ回す山賊野党軍の右側面部に、ヴィーゴが搭乗するトゥマルクの機影をTRPスクリーン越しに見付け取った。


そして、サーチモニター上に彼の機影が全く映し出されていない・・・、FTPフィールドをフル展開状態にした完全隠蔽モードである事を確認し遣ると、逃げ惑う事しか出来ない哀れな子羊たる様相をしっかりとまとい被ったまま、せめてもの反撃とばかりに、再度「ASR-RType45」の銃口を激しく瞬かせ上げた。


・・・が、素早い所作を持って即座に攻撃体勢へと移行し進んだヴィーゴ機の動きを見て取るなり、一時的に発砲を差し止め、徐にその銃口の先を左方向側にチョイチョイと動かし付けて見せる。


言うまでも無くそれは、右側から攻撃が来るぞと言う、山賊野党軍に対する合図であった。


(ヴィーゴ)

「・・・なっ!?」


ヴィーゴはこの時、山賊野党軍の意識は完全にユァンラオの側に向き付いていると思っていた。


FTPフィールドをフル展開状態にしたまま、敵隊列の右側面部へと密かに回り込み入った自分の動きが、そう簡単に相手方の意識にとらえられるはずが無いと思っていた。


それだけ、山賊野党軍の動きは前方向に直線的で、眼前に居るユァンラオ機を攻撃する事以外に、何も頭に無いと言った様相を如実にょじつかもし出している様に見えた。


事実、山賊野党軍の三人は、ユァンラオから合図が送られるその時まで、ヴィーゴの存在を全く察知し取れておらず、ヴィーゴの考えは何一つ間違っていなかった訳だが、彼にとって非常に不運だったのは、ユァンラオと言う男がそこに居たと言う事だけだった。



ガンガンガンガンガン!


ドッゴーーーン!



その直後、彼は何事も一切出来得ぬままに呆気無くった。


ユァンラオの合図により、即座に右手方向へと搭乗機を旋回し向けた山賊野党軍の三人から、一斉に銃口を突き付けられ、まさに蜂の巣にし遣られたと言う表現がぴったりの惨劇を、無理矢理に与え付けらる羽目になってしまった。



(ユァンラオ)

「ちっ・・・!駄目だ!司令部!グラント隊が全滅した!一度後方に居る戦車部隊と合流する!」


(チャンペル)

「解りました!もう直ぐそちらに増援部隊が到着します!それまで何とか頑張ってください!」



ふっふっふ・・・。



(ベルガー)

「こちらフロアワン!北方渓谷内に敵影確認できず!恐らく西側に抜け出たものと推測される!」


(リスキーマ)

「キリン隊、エミーゴ隊の各隊員は直ちに出撃!第二、第三支援車輛部隊の支援に回ってください!」



ふっはっはっはっは・・・。



(ジレン)

「司令部!こちらデゼルト隊!北方の山岳地帯で新たな敵影を発見!数は三機!」


(ジョイル)

「何だこいつは!?」


(サルムザーク)

「リスキーマ!第四格納庫で待機中のメンバー達を・・・・・・プツッ。」



やがてユァンラオは、沸々と込み上げ来る笑い声を次第に食い止め切れなくなり、通信システムの全回線を徐にパチリと切り捨て遣った。


そして、これから一体俺達はどうすれば良いんだ?的な様相で、その場に立ち尽くし止まっていた山賊野党軍の三人に対し、リベーダー2の左腕を巧みに動かし出して、お前等は直ぐに南方側の渓谷地帯に突入しろ的なジェスチャーを奏で見せ示し出すと、即座に自身が搭乗するリベーダー2の機体をガン逃げモードへと切り替え進み入らせた。


(ユァンラオ)

「あっはっはっはっはっはっはっはっは!」


ユァンラオが目論む不埒なはかりごとの真の目的はまだ達成し切ってはいない。


だが、この時、リベーダー2の小狭いコクピット内部に激しく反響する彼の笑い声は、一向に差し止まる気配を垣間見せなかった。


勿論、それは、先程まで繰り広げていた綱渡り的な戦いが、非常に楽しかったからに他ならないが、理由はもう一つ、余りにも情けない役回りを演じ遣る羽目になった、自分自身に対しての嘲笑ちょうしょう的な思いが可笑しさの原因になっている様だった。


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