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Loyal Tomboy  作者: EN
第十話「微笑みは闇の中で、闇の向こうで」
202/245

10-08:○錯綜する意思と視線[7]

第十話:「微笑みは闇の中で、闇の向こうで」

section08「錯綜する意思と視線」


セニフはその後、チーム戦で全く使用していなかった「120mmミドルレンジキャノンTypeS」の新モーション確認作業を一通りこなし終え遣ると、程なくして直ぐに演習場の横脇に隣接する第四格納庫へと戻り帰った。


そして、入れ違い様で出撃し行くメディアス機に対して、トゥマルクの右手をかざし上げて軽い挨拶を施し入れ遣り、指示された三番デッキ上へと機体を静かに寄り付かせ乗せ上げた。


つい先程執り行われたセニフとジルヴァの一騎打ち・・・、負けたら下着姿で基地内を一週すると言う、恐ろしい罰ゲームが設定された戦いが激しく繰り広げられていた最中には、この第四格納庫内も、一種異様なる狂気的熱気に包み込まれていたのだが、あれから多少時間が経っていたせいもあってか、今では至って平常通りと言える、いつも通りのせわしさ、騒々しさの中に完全に包み込まれ治められている様子だった。


トゥマルクのコクピット内部からTRPスクリーン越しに見渡せる格納庫内の様相を、一通り眺め回して見取っていたセニフは、徐に目の前へとスライドして来た移動式の作業台の上に居た、三人の男性作業員の姿に視線を移し変えると、軽い初期点検作業を施し終えて、直ぐに「いいぞ」的なジェスチャーを繰り出し遣った筋肉ムキムキ(何故か半裸)の髭男の指示に従い、コクピットハッチを開け放った。


(ロイド)

「よーし。後方各部異常なし。クールダウン作業を開始しろ。」


(シルキー)

「洗浄車こっち。ジェイ。こっちこっち。」


(トムシア)

「次。GAS97のタイプBを一番。120を三番に換装。四番にGGS10だ。作業急げよー。」


(アークチャン)

「お疲れさま。セニフさん。後は僕達の方でやります。」


(セニフ)

「うん。ありがとう。」


(アマーウ)

「いや~。凄かったぜ~。セニフ。あのジルヴァを相手に一歩も引かず、真っ向勝負して返り討ちにしちまうんだからよ。俺、見ていて鳥肌が立っちまったぜ。」


(セニフ)

「え?いや・・・、何とか引き分けに持ち込めたって程度なんだけど・・・。」


(ジニアス)

「いやいや。俺の見立てでは、あれはセニフの勝ちだな。恐らくは、ジルヴァ本人もそう思っていると思うぞ。何せ、帰って来た時のあいつ、物凄く悔しそうな顔してたからな。」


(セニフ)

「そ・・・、そうなんだ・・・。」


(アマーウ)

「お前等二人の内、どちらかの恥ずかしい姿を拝む事が出来なかったって所だけは残念だけど、それでもまあ、十分に満足できる内容だったよ。」


(アークチャン)

「そうですよね。本当に良いものを見させてもらったって感じです。」


(ジニアス)

「確かにな。」


(セニフ)

「あ・・・、ははは・・・。それはよかった・・・。」


セニフを出迎えてくれた三人の作業員達は、全く普段通りと言って差支えない手際の良さで、テキパキと後始末的整備作業にいそしみ入り、こなし遣り始めたが、やはりと言うべきか、先の戦いにおける主役の一人であるセニフを前に、その話題にさわらずにはいられないと言った様子だった。


セニフとしても、羨望味せんぼうみかかった眼差しを浮かべ上げながら、手放し状態で次々と賛辞を送り付けてくる三人の褒め持てはやし攻撃に、全く悪い気はしなかったのだが、ジルヴァのその後の様子を聞かされた途端、心の中の雲行きが多少怪しくなった感じがした。


そして、これは少し、やり過ぎてしまったかな・・・、などと言う、唐突に沸き起こり上がった色濃い憂慮心によって表情を堅渋く歪め遣ると、でも、仕方がないよね・・・と言う、完全に開き直った考えを持って、無理矢理にそれを捻じ伏せ、これ以上、何も起きませんように・・・と、心の中で静かに念じながら、軽快に作業台の階段を降り下って行った。


だがしかし、そんな彼女を待っていたのは、がっちりと腕組みをした状態で、右手の人差し指をせわしく動かし、非常に苛立いらだった様子を見せていた金髪の少年だった。


どうやら彼は、セニフが演習に参加している間、所用で何処かに出掛け払っていた様子で、事の次第の一部始終をついさっき今し方聞かされた様な感じだった。


(シルジーク)

「聞いたぞセニフ。おまえ、負けたら下着姿で基地内を一週するつもりだったんだってな。」


(セニフ)

「あ、いや・・・、それは・・・。えーと・・・。」


(シルジーク)

「勝つかも負けるかも解らない勝負事に、そんな大それたものを賭けるなんて、馬鹿か、阿呆か、将又はたまた生粋のド変態野郎か・・・。お嬢さんの頭の中は空っぽなんですかー?何も入ってないんですかー?負けた時の事を少しも考えられない、正真正銘のお馬鹿さんなんですかー?それとも、もしかして、露出願望有り有りのド変態娘さんなんでしょうかー?」


(セニフ)

「う・・・。なんか怖い・・・。その言い方・・・。」


(シルジーク)

「阿呆!怖いのはこっちだ!全く何考えてんだよ!負けたらどうするつもりだったんだ!少しぐらい腕に自信があるからって、思い上がるのも大概にしろよ!この馬鹿!」


(セニフ)

「わ・・・、私から挑んでった訳じゃないよ。いつの間にかそう言う話になっちゃったの。」


(シルジーク)

「黙らっしゃい!」


(セニフ)

「う・・・。」


(シルジーク)

「大体な!演習だからって、適当に遊び倒そうなんて腑抜ふぬけた気持ちを持ってるから、そんな訳の解んない勝負に巻き込まれるんだよ!ここはDQA会場なんかじゃないんだぞ!戦場だ!戦場!演習にしたって、下手すりゃ怪我する事だってあるし、命を落としてしまう事だってある危険な場所なんだ!もっと真面目にやれ!真面目に!」


(セニフ)

「・・・だって、・・・隊長が・・・。」


(シルジーク)

「だっても糞も無い!問答無用!反省しなさい!反省!」


勿論、これまでの話しの流れを全て総じ上げて評価し得れば、彼女の側にある非はかなり少ない部類に納まり入るものだったかもしれない。


言ってしまえば、彼女は完全に被害者たる立場側にあった訳で、少なからず情状酌量の余地があると判断しても良かった。


だが、最終的にセニフがその勝負を受けて立つ意向を見せ示さなければ、元々そんな危険を犯す事も無かった訳で、シルが抱き持つ怒りの根源も、まさにその点にあったと言えた。


セニフとしては、何とかシルの怒りをなだめ抑えようと、体良ていよき言い訳をね繰り回してみようと画策し遣ったのだが、全くそれが解り取れていなかった訳でもなく、やがて、「う・・・。ごめんなさい・・・。」と言う、しょぼくれた短言を吐き零して、静かに頭を項垂うなだれ下げる事しか出来なかった。


(ランスロット)

「おーおー。可哀想なセニフちゃん。DQに乗ればガラの悪いお姉さんに絡まれ、DQから降りれば金髪のイケメン君に怒られ。針のむしろとは、まさにこの事ですなぁ。」


(サックス)

「出る杭は打たれるって事だ。」


(ソドム)

「出過ぎた杭はもっと打たれる。悲しき異端児の性って事だね。少しは手加減してあげなさいよ~。」


そして、徐に小脇をテクテクと通り過ぎ行く三人の男達が、次々と冷やかしの言葉を投げ掛け来る様を横目でチラリと見て取り遣り、お腹の前で組み握った両手を、しばしモジモジと揉み動かし重ねた後で、再びシルの方へと静かに上目視線を投げ付ける。


すると、シルは、あからさまに見て直ぐにそれと解る大きな溜息を一つ吐き零し、一度周囲の様相をぐるり一通り眺め見渡す素振りを見せ出しつつ、不意にセニフの耳元へと顔を近付け寄らせた。


(シルジーク)

(お前は狙われる側の人間なんだから、余り目立つ様な事をするな。)


(セニフ)

(うん・・・。)


(シルジーク)

(変に注目されれば、された分だけ余計な危険が増える事になる。いいか。そこの所をしっかりと頭の中に叩き込んでおいてくれよ。只でさえ、今のお前は、周囲に結構名が知れ渡ってしまっているんだから。)


(セニフ)

(うん・・・。解っている・・・。)


己の素性を絶対に隠し通したい、他人に悟り取られ無い様にしなければならないセニフの立場からすれば、自分と言う人間の存在を、余り多くの者に認知されない方が絶対的に得策であると言える。


真に心から信頼出来る仲間となり得る人物達を、端から完全に排し退けて、たった二人だけで過酷な逃避行生活を続けるのは中々に困難な道のりであるが、セニフの正体を周囲にばらすと言う事が、如何に危険な事であるのか彼女達二人は良く知っており、今後も一切セニフの素性を明かさずに押し通して行く方向で、二人の意識は完全に一致していた。


勿論、二人に事実を全く明かすつもりが無かったとしても、何かの拍子でばれてしまう、気付かれてしまうケースは絶対に無いとは言い切れず、実際、一昨日訪れたスーリンなる小街において、偶然出会った一人の青年に、セニフは自らの素性を見事に見抜かれ掴まれてしまう羽目になった。


幸いな事に、この青年は、端からセニフの事を利用しようとか、陥れようとか、悪的陰謀事を画策し遣る様な輩では無く、セニフの事を第一に考えた控え目な行動に終始してくれた為、セニフは何事も無く無事に普段通りの生活へと舞い戻り返る事が出来たのだが、油断大敵なる警告言が、単なるあおり文句では無いのだと言う事を、しっかりと理解し得取るには十分な出来事だった。



ちなみにセニフは、未だにユピーチルとの間で遣り取りされた会話の内容を、シルに話してはいない。


話す機会はそれなりにあったと言えるが、中々その話題を切り出し入れる事が出来ないでいた。


それは何故か?と問われれば、セニフは、シルがその話を聞いた途端、これまでの方針と大きく異なる方向へと思案を巡らせ始めてしまうのではないか・・・、今居るこの場所よりも安全なのではないかと思いだし、最終的に、帝国に行こう的な考え方に寄り付いてしまうのではないか・・・と、そう勘繰っていた為だ。


セニフにとって、帝国に帰る事・・・、帝国に帰って誰かのお世話になる・・・、かくまってもらうと言う事は、自分が帝国の皇女に戻り帰らなければならない事と、完全に一致する事になる。


セニフとしては、なるべくなら・・・と言うよりは絶対に、そう言った方向へと話がじれ進まない様にしておきたかった。



セニフは、それだけ嫌だったのだ。


帝国の皇女たる立場に戻り帰ると言う事が・・・。


帝国貴族達の悪しき陰謀事が色濃く渦巻く、漆黒の伏魔殿ふくまでんたる帝国国内に帰ると言う事が・・・。


勿論、彼女の脳裏に刻み込まれた過去の記憶の全てが、悲しく辛い重々しき思い出によって完全に塗り潰され尽くされていたかと言えばそうでは無く、少なからず、楽しかった、心地良かったと言える良的思い出が、数多く存在していた事も事実だが、だからと言って、彼女の意識が、帝国に帰りたいとか、皇女に戻りたいとか、そう言った思いに駆られかれる様な事は一切無かった。


(シルジーク)

(それとな。第二通路の入口付近に立ってる若い男。)


(セニフ)

「え?何?」


(シルジーク)

(ほら。帽子を被って、壁際に立っている整備作業員風の男が居るだろ?)


(セニフ)

「うん。」


(シルジーク)

(あれがギャロップの変わりに来た新しい見張り役。お前、ちゃんと顔を覚えておけよ。)


(セニフ)

「ああ、そうなんだ。・・・・・・ふーん。なんかちょっと良い男だね。」


(シルジーク)

「・・・良い男だったら、どうだって言うんだよ。」


(セニフ)

「良い男だから顔を覚え易くって良いな~・・・って話よ。」


(シルジーク)

「何言ってんだよ。ブ男の方が断然覚え易いに決まってるだろ?」


(セニフ)

「それは男の論理でしょ?良い男の方が全然覚え易いです。シルだって、綺麗な女の人と、そうじゃない女の人が居たら、直ぐに綺麗な女の人の方に視線が行っちゃうでしょ?それと同じだよ。」


(シルジーク)

「へいへい。そうですかー。」


(セニフ)

「何カリカリしてんのさ?もしかして、また焼きもち焼いてるの?」


(シルジーク)

「・・・さっきの怒りがまだ抜けきってないんだよ。このっ。」


(セニフ)

「ああーん。止めて止めて。頭をぐしゃぐしゃにしないで。ヘアピンが飛んじゃうって言ってるじゃない。・・・もう。」


(シルジーク)

「ふん。参ったかこの小娘が。」


言うなれば、セニフは、こう言った他愛無きお馬鹿な遣り取りが、普通に許される普通の世界に居たい・・・、貧しくとも心安らぐ平穏なる毎日・・・、極々一般的な普通の生活を送りたい・・・、何処にでも居る普通の女の子として、静かに穏やかに暮らして行きたい・・・、と、そう思っていたのだ。


嘗ての自分・・・、帝国の皇女だった頃の自分の姿に、もはや何の未練も無かった。


セニフはふと、思いっきり意地悪気な表情で、唐突に頭をわしゃわしゃと掻き乱して来たシルの嫌がらせ攻撃に、あからさまに怪訝けげんなる渋堅いブーたれ顔をぐいりと突き返してやったが、心の只中に形作られた暗なる思いの顔色は、何処か非常に物柔らかな笑み顔を浮かべ上げていた。


そして、乱された赤い髪の毛を両手で丁寧に整え直しながら、素っ気なく歩き出したシルの後ろに付き、ゆっくりと足を進め出したセニフは、不意に込み上げて来たこそばゆい思いを、「でへっ。」と言う奇妙な笑い声の上に乗せて吐き出し、自らの口元をニンマリと歪め上げた。



セニフは嬉しかったのだ。


自分の過去の素性を知り得ながらも、自分を単なる馬鹿娘・・・、普通の女の子として扱ってくれるシルのその態度が・・・。


ここは、セニフがセニフたる自分で居て良い場所だった。


皇女たる自分で居なくとも良い場所だった。


勿論、それなりに嫌な事もあるし、物凄く大変な事も色々とあるが、セニフにとっては非常に過ごし易い、非常に居心地が良いと感じ得る場所だった。


後は、本当に、アノ男がこの場所から居なくなれば良いだけ・・・。




ビーッ。ビーッ。ビーッ。ビーッ。ビーッ。



・・・と、そんな時、思いがけずも唐突に鳴り出したけたたましきサイレン音が、ことのほか平和裏な色合いに染まり上がっていた第四格納庫内に、力強く唸り響き渡った。


(セニフ)

「警報?」


(シルジーク)

「何だ?何かあったのか?」


(ロイド)

「おおい!次の出撃少し待て!状況を確認してからだ!トムシア!」


(トムシア)

「今確認する!」


(ペギィ)

「もしかして敵襲?」


(サックス)

「・・・の可能性が大だな。」


(デルパーク)

「敵襲なら、何かしらの現状報告があっても良さそうなものだが・・・、それも特に無しか?」


(ランスロット)

「地震が来ますとか、ゲリラ豪雨が来ますとか、そんな予報的な感じのものだったりして。」


(ソドム)

「それじゃ俺も一つ災害予報を・・・。ガルダと化した漆黒の白鳥姉ちゃん再来。天をも焦がす地獄の業火ごうかを持って、糞蝿男を意味無く焼き殺す。」


(フロル)

「それはまた見事な災害予報だ。多分当たると思うぞ。」


(シルキー)

「こら!あんた達!ぼさっとしてないでさっさと搭乗準備をしなさい!また曹長に怒られるわよ!」


(ソドム)

「へいへい。」


(ランスロット)

「へーい。」


それは、最前線基地であるこのパレ・ロワイヤル基地においては、特に珍しくも無い極々ありふれた緊急警報音・・・、この基地の周辺部、もしくは基地内部に、何かしらの異常事態が発生した事を告げ知らせるものであり、これまでの経緯から推測して察し掛かれば、恐らくは、この地に展開した帝国軍部隊に何か動きがあった・・・と見捉えるが一番妥当な線であった。


・・・と来れば、直ぐにでも演習を切り終え上げて、帝国軍を迎え撃つ為の準備作業へと転じ勤しみ入らねばならない・・・はずであったのだが、警報音が鳴り響くなり、早々に行動を開始した真面目な部隊員、作業員達の思いとは全く裏腹に、程なくしてスピーカーから続け流し出された作戦司令室からの追加説明文はこうだ。


「・・・え、えー。・・・只今の警報は誤報。・・・誤報です。今現在の所、パレ・ロワイヤル基地周辺部に異常は確認されていません。システムも正常に作動していますし・・・、各方面を巡回中の哨戒部隊からも・・・、あ・・・、ええと、これより警報が鳴った経緯について詳細な調査を行います。その間、離任向きの交代ローテーションを一時凍結。当直に当たる隊員の方々は第二種戦闘配備体勢、準当直に当たる隊員の方々は第三種戦闘配備体勢で待機する事とします。繰り返します・・・。」


直後、非常にシンとした只中に流れ漂っていた通信オペレーターの可愛らしい声色が、唐突に沸き起こった群衆達の鬱気うつげな溜息によって掻き消され、急激な角度で昇り張り詰めて行った周囲の緊張度も、完全無音なる大崩壊音を奏で出しながら、一気に緩みしぼ落ちてしまう事になった。


昨今、パレ・ロワイヤル基地周辺部に展開した帝国軍部隊の動向が、著しく鈍化していたと言う事もあり、他の者達も皆、それ程深刻な事態が降って沸いた訳では無かろうと思っていたのだが、まさか事もあろうか、誤報などと言う間抜けな知らせを被せ入れられるとまでは思っていなかったのである。


皆が落胆するのも無理のない話であると言えた。


勿論、実際に警報が鳴り響いた直の原因が何であるのか、しっかりと特定し遣るまでは、全く気が抜けない悶々(もんもん)とした状況が続く事になるが、やはりと言うべきか、一度大きく緩みたるんでしまった緊張の糸が、元の力強い張力を取り戻し遣るまでには至らない様子だった。


(サックス)

「誤報・・・。誤報ねぇ・・・。でもまた、なんで戦闘配備体勢になるんだ?誤報ならもう良いじゃねぇか。」


(ランスロット)

「索敵センサーに一瞬だけ検知されたって線を疑ってたりするんじゃないの?」


(デルパーク)

「発生元が索敵センサーなら最初から誤報なんて言わないだろ。事実を確認する方が先さ。」


(フロル)

「・・・って事は、この警報は全くの別物か・・・。」


(ソドム)

「そして待機は念の為~。」


(デルパーク)

「これは結構時間がかかるかもしれないな。」


(ペギィ)

「あ~っ!もう信じらんない!私もう直ぐ上がりの時間なのに~!早い所誰か何とかしてよ~!ほらセニフ!あんたもぼさっとしてないで、司令室行って発破かけて来るとかしない!」


(セニフ)

「え?・・・そ、それはちょっと・・・。」


(シルジーク)

「お前、本当に何でも有りだな・・・。」


(サックス)

「どうせシステムの故障とか、そんな程度のもんなんだろ?もう面倒臭いから帰って寝ちまおうぜ。」


(ランスロット)

「確かに、営倉の中なら静かに眠れそうだよね。止めないから行ってらっしゃーい。」


パレ・ロワイヤル基地内における当直番の主任務は、基地周辺部の警戒任務、防衛任務、もしくは、それに準ずる出撃準備作業、出撃前待機任務となっている為、完全なる演習用として使用されているこの第四格納庫内には、当直番にあたる人間は一人も存在していない。


皆、準当直か、非番状態に当たる隊員達のみだ。


第三種戦闘配備体勢は、即座に出撃出来る臨戦体勢を整え取る必要は無く、その前段階の戦闘待機状態と言う位置付けであるが、準当直番の通常軍務と一つだけ異なる点は、第二種戦闘体勢に直ぐにでも移行できる体良ていよき場所に待機していなければならないと言う事にあり、今後、警報レベルが引き上がる様な事態が生じ起きた場合、彼等はこの第四格納庫にあるDQを、実戦用向けにセッティングし直して出撃する事になる。


その為、この時点で、ネニファイン部隊がそれまで執り行っていた演習も即時中止、演習場へと出払っていたDQ達も、続々と第四格納庫へと帰り戻り来ている様だった。


セニフもシルも、今現在は準当直番・・・、ペギィと同じく、もう直ぐ非番状態に繰り下がる状況にあったが、離任ローテーションを凍結した上で、第三種戦闘配備体勢を取るようにと言う、作戦司令室からの指示により、しばしこの第四格納庫内で無為の時を過ごし遣らねばならない状態に落ちはまり入る事になってしまった。


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