表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Loyal Tomboy  作者: EN
第十話「微笑みは闇の中で、闇の向こうで」
201/245

10-07:○錯綜する意思と視線[6]

第十話:「微笑みは闇の中で、闇の向こうで」

section07「錯綜する意思と視線」


(デルパーク)

「さてさて。どうなる事やらだな。」


(ランスロット)

「どっちにしても、絶対に負けられない戦いになっちゃったからねー。」


(ペギィ)

「どっちが負けても皆の晒し者か。うっふふ・・・。ワクワク。ワクワク。」


(フロル)

「本当に楽しそうだな。お前・・・。」


(サックス)

「セニフに1万だ。誰か乗れや。」


(ルワシー)

「俺が乗っといてやるぜ。性悪しょうわる姉ちゃんに1万。」


(アイグリー)

「賭けの規模がみみっちいよ。あんた達。」


演習会場中央部を南西方面に向かって激走し行くセニフとジルヴァは、程無くして迎えた一つ目の岩山を綺麗に左右に別れ離れると、全く速力を落とし緩める気配を見せないまま、直ぐに撃ち合いを敢行し出す体勢を築き始めた。


それはまさに、両者の戦闘スタイルをそのままに示し現した、激しい突貫攻撃の繰り出し合いを匂わせる展開で、相手の様子を窺い見ようとか、慎重に事を運び遣ろうとか言う、後ろ向きなを完全に排し退け置いた、恐ろしく攻撃的で力強いかぐわしさを如実に(にょじつ)感じ匂わせるものだった。


二人が乗り操る機体には、それなりの性能差が存在していた事は事実で、何を仕出かし遣るにも、ジルヴァの方が有利であった感は否めないが、昨日今日、初めて搭乗した新機体で戦いに挑まねばならないジルヴァに対し、セニフの方は、普段から乗り慣れているトゥマルクを使用して戦いに臨み入れた事もあり、一概にどちらが有利、不利などと言い切れるものでも無かった。


状況的には、お互いが共に有する勝利の可能性は、ほとんど五分五分に近い数値であったと言えた。



やがて、進行方向に向かって、岩山の左手山側に進んだセニフが、ジェフター3よりもやや先に岩山を抜け出る動きを見せ出し、左手に装備した「GAS97A」をしっかと構え持ちながら、トゥマルクの機体を右側へと倒し傾けた。


一方のジルヴァも、右手に装備した「GAS97A」を両手持ち状態でしっかりと持ち構えながら、撃ち合い開始となるポイントへと向けてジェフター3を全速力で行き向かわせ、セニフの動きに続き合わせるかの様に、機体を左側へと倒し傾けた。


そして、その直後、搭乗する機体に急激な旋回行動を施し強い入れた両者が、岩陰の向こう側から唐突に現れ出た相手機をTRPスクリーンの真正面部に捕らえ合い、条件反射的に反応した攻撃的意識を持って、素早く、正確に「GAS97A」のトリガーを引き放った。



ガンガンガン!


ガンガンガン!



そして、両者が両者共に綺麗に機体の胴体部分に弾丸を三発づつ食らわし入れ合い、下り斜面へと突入したセニフが右旋回しながら外回りでジルヴァの右手側を、昇り斜面へと突入したジルヴァが、左旋回から右旋回へと機体を振り回し、内回りでセニフの右手側を、一気にすれ違い抜け去り行く・・・。(senif[3/3])(gilva[3/3])



ガツン!



・・・と、次の瞬間、ジルヴァがすれ違い様に、ジェフター3の足先をトゥマルクの右外かかと付近に引っかけた。


(セニフ)

「なっ!?」


(ジルヴァ)

「お上品にやろうなんて、ぬるい事考えてんじゃねぇぞ!」


これにより、不意にバランスを崩し壊されてしまったセニフのトゥマルクは、しばしの間、全く予期せぬ不穏な挙動の波に酷く見舞われかれる事となり、南方側へと伸びるなだらかな下り斜面を猛スピードで駆け下り行きながら、必死に転倒を避け得る為の操舵作業に全神経をくくり縛られてしまう。


当然、それを目論み狙い付けていたジルヴァが、上り坂を利用した素早い減速ターンを執り行うと、無様な回転運動を余儀なくされてヨタ付くセニフ機へと向けて攻撃を敢行し、二発二中たる上々の結果を獲得し得る事に成功する。


だがしかし、最速最短での機体体勢復帰作業を終わらせ済ませたセニフ機から、思いもよらぬ反撃弾を一つ撃ち食らわされる羽目となり、何とか二つ目の弾丸を回避し得る事に成功したものの、更なる追加攻撃を仕掛け入れるタイミングを完全に逸し逃してしまう事になった。



ちっ・・・。


その後、凄まじい回避運動を大々的に披露して見せ出しながら、一段低い場所にある岩石地帯へと駆け入って行ったトゥマルクの機影を見遣ったジルヴァは、乾いた舌打ちを一つ奏で出すと、直ぐさまジェフター3の速力を最大限へと引き上げて、セニフ機の後を追った。(senif[4/5])(gilva[5/5])



セニフとジルヴァが次に侵入し入って行った岩石地帯は、それ程規模が大きいものでは無く、五、六個程の大きな岩山が不規則に連なって出来た不整地疎林エリアで、中央部に鎮座する長い岩石群を隔てて東西部に一本づつ、高速移動が可能な妙的みょうてき経路が伸び横たわっていた。


そして、その中央岩石群の所々に生え立つ、非常に煩わしき背丈の林木群の裏陰に、両通路を体良ていよく繋ぎ覗ける狭い切れ目が幾つか存在しており、セニフもジルヴァも、直ぐにその隙間から相手機に攻撃を仕掛け入れてやろうと画策し出した様だった。


勿論、どちらの進行経路も共に、高速移動しながらの正確な射撃が非常に困難な悪的難コースで、攻撃を繰り入れ遣る為の隙間も、広いと言う程に広かった訳では無い・・・が、徐に相手機との進行速度を合わせ付けながら、自らの機体を岩場付近へと寄り近付けて行った二人の意識は、完全に撃ち合いを敢行する方向で一致している様子だった。


攻撃を繰り出し入れる隙間の数は全部で三つ。


北方から南方に掛けて坂を下り行く度に、その幅が狭くなっている様だった。



ガン!!ガン!



一つ目の隙間の横脇を猛スピードで駆け抜け行く間、二人は一発づつの弾丸を発射し、見事一発づつを相手機に命中させる事に成功した。



ガン!!ガン!



次に迎え入れた二つ目の隙間では、その直前にあった程良い起伏に機体を持ち上げられて、小ジャンプ状態へと陥ったジルヴァが射撃を外した。


だが、そのせいもあってか、セニフが撃ち放った弾丸も、悲しき風切音だけを残して、ジルヴァ機の左腕脇下を通過して行った。



ガン!ガン!



そして最後に迎えた三つ目の隙間・・・、非常に幅が狭く、鬱蒼うっそうと生い茂る木々達の枝葉群により、完全に視界が遮られた最難関部において、ジルヴァが撃ち放った弾丸が木の幹にぶち当たり、あられもない方向へ跳弾を余儀なくされてしまったのに対し、セニフが撃ち放った弾丸が、ジェフター3の右肩付近に鮮やかなピンク色の華を綺麗に咲き開かせた。(senif[6/8])(gilva[6/8])


(セニフ)

「よしっ!」


(ジルヴァ)

「くっ・・・。」


この時点で、両者が撃ち放った弾丸の数は8、命中させた数が6と、完全なるイーブン状態に戻り返る事になったが、最終局面を迎え入れたこの期に及んでも尚、彼女達の意識が慎重的考えに寄り付きすがろうとする気配は無かった。


15分と言う制限時間をフルに活用してじっくり行こうとか、しばし訪れたホッとなる一時に、張り詰めた緊張感を少し解き休めようなどとか、全く考えていない様子だった。


彼女達の意識は、既に、中央岩石群を抜け出た後の展開に、完全に注力し切っている様だった。


二人が行き向かう岩石地帯の終端部には、飛び島の様に離れ佇む小振りな岩山が、他より少し小高い丘陵きゅうりょうの上にある以外には何もなく、その間に横たわるのは、周囲を程良く眺め見通せるなだらかな平斜面地帯だけであり、どうやらそこが、彼女達にとっての最終決戦の地になりそうであった。



ここでセニフはふと、岩石群を挟んで左手側を並走するジェフター3の動きを、サーチモニター上でチラリと確認し遣ると、続いて、終端部に行くに連れて、次第に山幅が広くなり行く岩石群の形様を見て取り、徐にフットペダルを踏みしだく右足に更なる力を込め入れた。


己の身を隠し得る遮蔽物が全く無いと言う状況下において、被弾を回避し得る為の最良の方策は、相手機に対して出来るだけ横方向に動きを取る事、出来るだけ早く移動する事、加えて言えば、その移動速度に適度な緩急を設け入れる事である。


勿論、それ以前に、自分の側に残された二発の弾丸を、無駄に撃ち外してしまっては元も子も無い話しなのだが、確実に勝利を獲得し得る為には、相手機の攻撃をかわす、もしくは外させる事が、必要欠くべからざる要素であった事も事実で、セニフはこの時、終始攻撃的に仕掛けてくるジルヴァの様子をかんがみて、なるべく自機の足を止めない様にした方が良いと、そう判断したのだった。


恐らくはジルヴァも、自分と同様の考えを持って、真っ向勝負を仕掛けて来るであろうと思っていた。



やがて、加速性と巡航速度で勝るトゥマルクの方が先に岩石群の終端部分を迎え入れ、勢い良く平斜面部に機体を飛び出させ行かせると、程なくして姿を現すであろうジェフター3の方へと機体を僅かに傾けて、出会い頭を狙い撃つ体勢を構築し出したまま、しばし走り進んだ。



・・・と、次の瞬間、照準越しにセニフが見据える岩石群の終端部・・・、ジルヴァが搭乗するジェフター3が這い出して来るであろう予測地点に、濃密な土煙がのうのうと立ち昇り上がった。


セニフは不意に、足を止めた!?とそう思い付き、まさか!?なる驚顔きょうがんを色濃く浮かびがらせて、「えっ?」と言う間抜けな短言を漏らし零してしまったのだが、直ぐに、そう言う事なら、高台にある岩山の裏から坂を下って、大回りに急降下攻撃を仕掛けてやる!と、新たなる対抗策を脳裏に強く渦巻かせ上げ、トゥマルクの機体を真正面部へと向き直らせた。


・・・が、しかし、セニフの意識が一瞬、高台方面へと移り変わったそのやや直後、トゥマルクの機体が高台へと目掛けて駆け上がるよりもやや以前、まさにそのタイミングを狙い見計らっていましたと言わんばかりの様相で、舞い上げられた土煙の向こう側から勢い良くジェフター3の機体が飛び出してきた。


そして、眼前にトゥマルクの機体の左後背部を見捉えたジルヴァが、「GAS97A」の銃口をギリリとくくり突き立て遣って、色濃い歓喜の声色を大に吐き上げる。


(ジルヴァ)

「最高のタイミングだ!」


(セニフ)

「なっ!?」


ジルヴァは機体を停止などさせていなかった。


停止させたと、セニフにそう思わせるように仕向けていただけだった。


ジルヴァは単に、平斜面部へと躍り出る出口付近で、機体に急激なS字旋回行動を施し入れただけだったのだ。


なるべく自機のスピードを殺し緩めない様に気を付けながら、一回目の左旋回行動で濃密な土煙を噴き上げ撒き散らし遣り、二回目の右旋回行動でその土煙を迂回する様に平斜面部へと突入を図る・・・。


全ては、セニフの虚を付く為の、ジルヴァの作戦だった。



それはまさに、セニフにとって、如何ともし難き最恐最悪の状況だった。


幾らセニフが、瞬間的反応速度に著しく優れているとは言え、ものには限度と言うものがあり、この時のセニフは、ジルヴァから撃ち放たれた弾丸に対して、全く何一つ成す術を持ち得なかった。


弾丸はトゥマルクの左腕上腕部に綺麗にぶち当たる事になった。(senif[6/8])(gilva[7/9])


勿論、DQ戦闘における卓越した技術を持ち有するセニフが、この後も黙って二撃目を貰い受け食らってやるはずも無く、セニフは直ぐさま、機体に巧みな荷重移動を施し入れてクルリと小気味良く左反転させ、最短最速、且つ高精度なる反撃弾をジルヴァ機へと目掛けて撃ちかまし入れた。



・・・が、しかし、その直後に見せたジルヴァの反応が、まさに神憑かみがかり的と言える代物だった。


恐らくは本人も、実際にそうしようと考えて実現し得たものでは無く、著しく高揚こうようし切った心と身体が勝手に反応したとしか言い様のない・・・、もう一度やれと言われても、そうそう容易には再現し得ないであろう程の美技、完璧な回避行動だった。


直進し行く機体の挙動方向はそのままに、滑る様に機体を左斜め45度へと傾け、徐にジェフター3の左腕の脇下を軽く開け放つ・・・。


セニフが放った弾丸は、まさにその部分を一直線に通過していった。(senif[6/9])(gilva[7/9])



勝った!・・・・・・その瞬間、ジルヴァはそう思った。


そう思う他ない完全優位なる状況が自らの手の内に転がり込んで来た・・・、いや、自らの力を持ってして相手方からもぎ取ったのだと、私は勝ち取ったのだと、そう思った。


そして、唐突に自分の方へと進み向かって来るセニフ機に対し、焦らず、はやらず・・・、しかし迅速に、正確にと、右手に構え持った「GAS97A」の銃口を括り付け、トリガーを引き放った。



ガン!ガン!



・・・ところが、非常にけたたましき銃声を周囲へと鳴らせ響かせ、お互いに最後の一発づつを撃ち遣り合った後で、驚愕たる二文字で表情を強張らせ、思わず息をのんでしまったのはジルヴァの方だった。



彼女が差し向けた銃口は確かにトゥマルクの機体を捉え得ていた。


トゥマルクの機体挙動から、絶対に狙いを外す事は無いと確信していた。


だが、セニフ機が一瞬、何とも奇妙不気味なる左回転運動を奏で上げ出した次の瞬間、ジルヴァの側から見て左手方向に急激な横スライド移動を始め出し、ジルヴァが放った弾丸をギリギリの所でかわしてしまったのだ。


そして、ジルヴァの側へと右側面部を向け付け遣ったそのタイミングに合わせて、トゥマルクの右腕脇下から覗かせ出した「GAS97A」を持って、正確見事なるカウンター攻撃を仕掛け入れてきた。


勿論、この時のジルヴァに、その反撃弾を避ける事は出来なかった。


反応する事すらできなかった。(senif[7/10])(gilva[7/10])




これで試合は延長戦に突入・・・、先に相手機に弾丸を命中させた方が勝ちとなる、一本先取制の戦いにルールが挿げ変わる事になるが、最後のカウンター攻撃を繰り出し遣ったトゥマルクの体勢は、完全に次の追加攻撃を敢行し得る様な体良ていよき体勢に無く、セニフは直ぐに、高台の岩山を目指して逃げの構えを見せ示し出した。


これに対し、ほぼ条件反射的に反応を示したジルヴァが、トゥマルクへと目掛けて大量の弾丸をぶちばら撒き付け散らしたのだが、これまた見事な回避運動を見せひけらかし出したトゥマルクの動きに良い様に翻弄され、只の一発も弾丸を命中させる事は出来なかった。


直後、ジルヴァは、「まぐれだ!まぐれに決まっている!」と、自分自身に強く言い聞かせる様にして、大きな怒声を無理矢理に発し上げると、岩山の向こう側へと姿を消して行ったセニフ機の後を追い、自らが搭乗するジェフター3の機体を激しく駆り立て出した。


そして、自らの心の内底に沸き立ち蔓延はびこった色濃い狼狽ろうばい心を、問答無用で思考の外側へと外し退け遣り、試合はまだ終わっていない!勝つのは私だ!絶対に私が勝つ!と、恐ろしい程に猛り狂い燃やし上げた濃密な闘争心を前面に推し出して、サーチモニター上に浮かび上がるセニフ機の動きへと意識を注力させた。



だが、この後の戦いも激しい高速戦闘戦になるであろうと予測していたジルヴァの思いとは裏腹に、高台の向こう側へと姿を消し行ったはずのセニフ機は、未だに、その身を隠すべき遮蔽物の裏陰に駆け込み入ろうとする様子も無く、只々、見晴らしの良いなだらかな窪地地帯のど真ん中を、ゆっくりと西進し行っているだけだった。


それは、ジルヴァが高台の斜面部を勢い良く駆け上がる素振りを見せ出しても、最頂部にある岩山の裏陰にジェフター3の機体を潜り込ませ入れようとしても、全く変わる気配が無かった。


もしかして、機体の故障か?と、ジルヴァは瞬間的にそう思い付き、ならばここで一気に勝負をつけてやる!と、徐に激しくいきり立った攻撃的意識の全てをトゥマルクへと振り向けて、ジェフター3の機体を岩陰から振り出し遣ろうとした。



・・・が次の瞬間、ジルヴァは唐突にハッとなる表情を色濃く浮かべ上げて、ジェフター3の動きをくくり止めた。


不意に、物凄く不穏な何かしらの気配を如実にょじつに感じ得て取り、先程よりも二歩程奥側に下がる勢いで、ジェフター3の機体を思いっきり引っ込み戻らせた。


そして、こう思った。


これは罠だ・・・と。


相手は恐らく、こちらが攻撃を仕掛けて来るのを待っている・・・、岩陰の裏から機体を覗かせ出すのを、虎視眈々(こしたんたん)と待っている・・・、敢えて自らの機体を囮として晒し出す事で、こちらの攻勢をわざと誘い出そうとしている・・・と、彼女はこの時、そう思った。


勿論、だからと言って、完全無防備なるトゥマルクの側面を急襲しない手は何処にも無い訳だが、ジルヴァはしばし、トゥマルクの様子をつぶさに観察して見て取る事にした。



サーチシステムで捉え得たトゥマルクの体勢は完全に西向き・・・、トゥマルクの後部テスラポットから発せられるメインバーニヤの噴射方向から推測しても、それは絶対に間違いない。


とすれば、トゥマルクがこちら側に攻撃を仕掛ける為には、少なくとも右手側45度以上の旋回行動が必要になる事は明白で、こちらが機体を振り出した瞬間に狙撃される可能性は、それ程高くはないと言える。


セニフが先程披露して見せた、右腕の隙間から銃口だけを覗かせて、狙い撃ちして来る・・・可能性も無くは無いのだが、岩山のどちら側からでも機体を振り出せるこちら側の動きに瞬時に合わせて、正確な曲芸撃ちを完遂し得るのは不可能に近い事だ。



直後、ジルヴァは、にわかに勢い良く湧き立ち上がった闘争心を前進にどばばと激しく巡りみなぎらせると、徐に操縦桿をギュッと思いっきり強く握り締めて、右足でフットペダルを蹴り込む素振りを見せ出した。


・・・が、しかし、彼女の意思に完全に反して、重々しき何ものかに取りかれ魅入られてしまった彼女の五体は、全く動く気配を見せなかった。


何度も何度も心の中で、攻撃を繰り出し遣るのだと激しく叫び付け、尻込みする自分の身体を鞭打つ様に鼓舞こぶして掛かるものの、荒々しく息を巻く心の熱気とは裏腹に、体中から噴き出し滴る汗の温度は、何故かその何れもが、非常に冷たく気持ちの悪いものばかりであった。


それは、トゥマルクの足が止まり、完全なる棒立ち状態になっても変わらなかった。




やがて、全く何もしない状態のまま、一分が過ぎた・・・。



二分が過ぎた・・・。



三分が過ぎた・・・。



そして、四分が過ぎ去ろうかと言う時頃に差し掛かったその時。



(サルムザーク)

「よーし。良いだろ。お前等。もう終わりにしろ。」


と言う、サルムの言葉によって、唐突に試合終了の鐘が鳴らし上げられた。


ジルヴァは一瞬、「何っ!?」と言う強い怒気色に染まった可愛らしい声色を吐き上げて、直ぐにメインモニターへと視線を振り付け、試合の残り時間を確認し遣った。


(ジルヴァ)

「何言ってやがんだ!まだ五分近く残ってるじゃねぇか!まだ勝負はついてねぇ!」


(サルムザーク)

「良いから終わりだ。勝負は引き分け。そう言う事にしといてくれ。シューマリアン。」


(シューマリアン)

「はい。」


(ジルヴァ)

「コラ!てめぇ!システムを落とすんじゃねぇ!やめろ馬鹿!・・・あっ!糞っ!ふざけんなよ!」


(サルムザーク)

「まあ、そういきり立つなって。俺も、お前達二人のどちらかを、皆の晒し者にするなんて事、したくないんだからさ。お前達二人は十分良く戦ったよ。本当に良い試合だった。」


(ジルヴァ)

「なら、罰ゲーム無しでラスト一発勝負・・・!」


(サルムザーク)

「ジルヴァ。お前の気持ちが全く解らない訳でもないがな。これ以上やると、俺の後ろに居る怖いお姉さんが、大爆発してしまいそうな雰囲気なんだ。解ってくれ。」


(ジルヴァ)

「くっ・・・!ぐぐぐ・・・。」


勿論、サルムは、これ以上遣り合っても時間の無駄だとか、何の進展もなさそうだからとか、勝負の結果は目に見えているからとか、は言わなかった。


あくまで、ジルヴァの自尊心を傷つけない様に配慮しながら、ジルヴァの心をたしなめ落ち着かせる事に注力した。



(ルワシー)

「何だぁ?もう終わりかぁ?つまんねぇの。」


(サックス)

「やけに尻窄しりすぼみ的な終わり方だったな。」


(ランスロット)

「前半あれだけ派手派手だったんだから、それでいいんじゃないの?足して二で割ったって、ちゃんとおつりが返って来ると思うよ。」


(デルパーク)

「確かに、物凄い戦いだったな。」


(フロル)

「あれ?セニフ。何やってんだ?おーい。」


(セニフ)

「ん?・・・あれ?回線・・・。終わったの?」


(フロル)

「終わったの?・・・って、お前・・・。」


(シューマリアン)

「よし。お前達。通常の演習状態に戻すぞ。帰還組は直ぐに格納庫に入ってくれ。」


(アイグリー)

「あーい。」


(ペギィ)

「ねぇねぇ。罰ゲームは?罰ゲームはどうなるの?」


(ルワシー)

「何だてめぇ。まだそんな事言ってやがんのか?そんなに罰ゲームが好きなら、てめぇが裸になりゃいいだろうがよ。」


(ペギィ)

「何で私が罰ゲームしなきゃならないのよ。あんたがしなさいよ。あんたが。」


(一同)

「それだけは勘弁。」



やがて、周囲の雰囲気は一様にして通常通りと言える運営状態に戻り始め出す事になるが、演習場東端部の岩陰付近に、じっと佇み立つジェフター3のコクピット内に居たジルヴァは、未だに先の戦いの只中から意識を取り抜き出す事が出来ないでいた。


全く持って情けない、不甲斐ない、不快極まりない、怒り、悔やみ、虚しさと言った、著しくやるせない思いに痛々しくもさいなまれかれながら、只々下を俯うつむき、下唇を強く噛みしめる事しか出来なかった。



何故自分は勝てなかったのか・・・。


何故あそこで攻撃する事を躊躇ためらったのか・・・。


様々な思いが激しく錯綜する彼女の頭の中は、まさにぐちゃぐちゃ・・・、全く整理付く様子は無かった。



だが、そんな中で、たった一つだけ、彼女が導き出した答えがある。


それは、「私は負けた・・・。」と言う事だった。



直後、彼女は思いっきり、目の前にあったメインモニターの画面を、右手拳で強くぶち叩き遣った。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ