10-04:○錯綜する意思と視線[3]
第十話:「微笑みは闇の中で、闇の向こうで」
section04「錯綜する意思と視線」
演習システムのチーム戦D。
それは、同機数で揃えたDQチーム同士による近中距離砲撃戦で、敵の機体に弾丸を命中させればポイントが加算されると言う、極めて単純明快なるルールの元に執り行われる演習演目の一つだ。
加算されるポイントは、攻撃に用いた武器の種類や、命中させた箇所によってその大小が異なり、最も効率良くポイントを稼ぐ方法は、攻撃力の強い武器を持って相手の弱点となる部位を攻撃する事、もしくは、連射性の高い武器を持って大量の弾丸を相手に浴びせ掛けてやる事である。
ただし、被弾した側に課せられるペナルティは何一つ無く、敵に弾丸を命中させたからと言って、相手を撃破状態に追い込む事も、損傷状態に追い遣る事も出来ないのが、この演習演目最大の特徴であると言えた。
つまりは、敵味方共に完全に無敵の状態で撃ち合いをすると言う事と同義で、攻撃したは良いが、それ以上の反撃弾を撃ち食らわされ、トータルポイントでマイナス・・・と言う事も十分にあり得る話しなのである。
その為、なるべく相手方からの反撃弾を受け食らわされないよう、十分に気を付けながら攻撃を仕掛ける事が必要不可欠で、如何にして相手の意識を奪い逸らすか、如何にして不意打ちを敢行し得るかが、この演目を上手く熟し遣る為の最大の主要点であると言えた。
勿論、今回のチーム戦は、あくまで演習システムのテストを目的としたものであって、運営する側からしてみれば、どちらのチームが勝とうと、誰が活躍しようと、全く関係の無い話だったが、実際に参加する六人のパイロット達は皆、やる気満々と言った感じで、試合が開始される時刻を待っていた。
(セニフ)
「チーム戦か。何か凄く久しぶりな感じがする。」
(ペギィ)
「あれ?セニフ。ランベルク基地での交流戦・・・って、・・・そっか、セニフは参加してないのか。」
(セニフ)
「うん。」
(ペギィ)
「何かさ。こう言うのって、やっぱり良くない?DQA大会みたいでさ。」
(セニフ)
「そうだね。何か、お祭りに参加しているって気分だもんね。」
(ペギィ)
「そうそう。そんな感じ。そんな感じ。あーもう。私何か、意味も無く胸がドキドキしてきちゃったよ。」
(セニフ)
「あっははは。」
(ジルヴァ)
「おいおいお前等。テストだからって、馬鹿みたいに気の抜けた会話してんじゃねぇぞ。負けて良い勝負なんか何処にも無いんだからな。端っから本気出して行けよ。」
(ペギィ)
「誰も本気出さないなんて言ってないでしょ?やる事はちゃんとやってあげるわよ。ねー。セニフー。」
(セニフ)
「あ・・・、うん、まぁ・・・。」
(ジルヴァ)
「いいか。デルパークとフロルは、どちらも共に中距離射撃戦を得意とするアウトレンジ型のパイロットだ。無駄な撃ち合いは極力避ける様にして、出来るだけ相手との距離を詰めて攻撃する事だけを考えろ。良いな。」
(ペギィ)
「ねぇねぇ。何であんたが勝手に仕切ってんの。」
(ジルヴァ)
「正規兵が私しか居ないんだから当然の事だろうが。つまらねぇ事気にしてんじゃねぇよ。ペギィはバックアップ。私が正面切って突撃する。」
(ペギィ)
「えー?そんなんでいいの?ほんとに大丈夫?ボロ負けしちゃったりしない?」
(ジルヴァ)
「何だとコラ。」
(セニフ)
「えっと、・・・私は?」
(ジルヴァ)
「お前は私と一緒に突撃。・・・っつうか、お前はそれしか能がねぇだろうがよ。」
(セニフ)
「う、・・・うん。」
(ペギィ)
「セニフ。気にする事ないわよ。この人、ちょっと頭おかしいんだから。」
(セニフ)
「え?」
(ジルヴァ)
「聞こえてるっつうの!」
演習場の南西側に陣取った赤色チームを率いるのは、トゥアム共和国軍の正規軍人である「ジルヴァ・ディロン」・・・、非常に可愛らしい端正な顔立ちをした小柄な体躯の茶髪の女性で、一見して非常に大人しそうな柔和的様相をほんのりと醸し出しているが、ネニファイン部隊内でも群を抜く素行の悪さ、言動のキツさがまさに珠に傷と言える、頗る激しい気性の持ち主たる人物だ。
ただ、やるべき事はしっかりと熟しやる真面目な側面も有る上、DQを操作する技術に関しても、文句なしと言える非凡なる才を併せ持っており、部隊上層部からの信頼もそれなりに厚く、周囲からの扱いも、それ程強く煙たがられていると言う感じでは無かった。
そして、彼女と同じ赤色チーム側で狙撃手たる役割を担い任されたのが「ペギィ・サイモン」・・・、これまた非常に可愛らしい容姿をした長い水色の巻き毛が特徴的な小柄な女性で、ジルヴァとはまた異なる毛色の煩わしさを有し持った明朗快活な輩・・・、時に、鬱陶しさの方が先に立つ馴れ馴れしき人懐っこさを持った人物だ。
彼女は未だ、本戦闘において敵機を撃破した実績はないが、中遠距離での射撃技術には定評があり、何事においても卒なく熟しやる器用さと柔軟さに富んだ、万能型と言えるDQパイロットだった。
・・・と、もう一人、ジルヴァと共に突撃役を演じ遣る羽目になったのが「セニフ・ソンロ」・・・、非常に元気で明るい性格の天真爛漫なる小柄な赤毛の少女で、比較的誰とでも直ぐに仲良くなれる親しみ易げな性格の人物であり、前者たる二人の破天荒振りには聊か劣るが、感情の起伏に著しく富み飛んだ可愛らしいお転婆娘だ。
だが、その見た目の幼さ、愛くるしさとは裏腹に、DQを操舵する技術に関しては非常に卓越したものを持ち有し、戦場に出れば、まさに百戦錬磨の鬼神が如き働きを軽々しく披露して見せる、凄腕のDQパイロットだった。
(ランスロット)
「・・・とは言え、仮にも相手は清楚可憐なるお嬢様方達。無粋野蛮なる暴力行為を無下に打ちひけらかして、強引に足元にひれつかせるなんて真似だけは、絶対にしたくない。出来る事なら、寧静安住の客座敷などにて、ゆっくりと茶などを嗜み飲みながら、事態を平和裏に解決する為の話し合いに、煌びやかなる御華を盛大に乱れ咲かせたいものです。」
(デルパーク)
「そう言いながらも、試合が始まるとガンガン撃ちまくる奴って居るよな。」
(フロル)
「そうそう。温厚な保父さんの後ろ影に潜む、怖ーいお姉さんのおどろおどろしい無言の圧力に捲し立てられてさ。どうせお前もそのクチなんだろ?」
(ランスロット)
「いやいやいや。この私目が撃ち放つ弾は、相手の事を強く強く想い焦がれる愛の言霊・・・、愛するが故に激しく滾り飛ぶ熱き胸懐の念。相手の心に響くまで、相手の意識と視線がこちら側へと振り向くまでと、必死になって自らの想いの丈を撃ち放つ様は、まさに、その、如何ともし難き男の性たるに抗えぬが所以を、如実に示し現したものなのです。」
(フロル)
「はいはい。」
(デルパーク)
「では、お前のその熱意に大いに期待するとして、俺とフロルは、相手を上手く誘き出す事に専念する事にするか。ペギィは兎も角、ジルヴァとセニフは完全なる突貫タイプだ。遮蔽物の裏陰に引き篭もって、のんびりと撃ち合いなんて戦い方は、絶対にしてこないだろうからな。」
(フロル)
「当たり方は?マンツーマンか?」
(デルパーク)
「一応はな。ただ、お互いがお互いにサポートし合える状況を常に保つ事。これは必須だ。」
(ランスロット)
「ちびっ子三人組みに、良い様にあしらわれたって、皆の笑い者にならない様にしないとねー。」
(フロル)
「ルール的には、確かに私等の方が有利には違いないんだけどさ。どちらかと言えば、私達の方が挑戦者だぞ。」
(ランスロット)
「ありゃ?そうなの?」
(デルパーク)
「まあ、生粋のボケ役が己の性をしっかりと押し殺してくれれば、そうそう悪い展開にはならないだろう。取り敢えずは、相手の勢いを上手くいなしかわす事に専念する。」
(フロル)
「了解。」
(ランスロット)
「へーい。」
演習場の北東側に陣取った青色チームを率いるのは、トゥアム共和国軍の正規軍人である「デルパーク・シャンク」・・・、灰色味かかった大まかなスパイキーヘアーと、真横一文字に細く延びる鋭い眼光が特徴的な男性で、下唇の右端に付け飾られた金色のピアスリングや、両の耳朶に光る青碧色の大きなピアスの攻撃的威容が、一見して、中々に扱い辛いならず者的印象を与え付けてしまうが、性格的には非常に温厚で、何事にも物怖じしないどっしりとした大人の雰囲気を携え持った人物だ。
戦場においては、最前線で戦う味方を補佐する二列目的立ち位置を好む傾向にあるが、押すべき時には自ら率先して押し掛かる荒々しき闘争心と、それを成すべき十分なDQ操舵能力を兼ね揃え、人を従える統率力も判断力にも長け富んだ、非常に優秀な士官兵士であった。
そして、彼と同じチーム側で彼と共に射撃牽制手たる役割を請け負うのが「フロル・クローチェ」・・・、浅黒い肌に映える杏色の細髪と少し厚めの唇が特徴的な長身女性で、その見た目の威圧的風貌、豪胆野坊主なる振る舞い様とは全く正反対に、非常に人当たりの良い柔和的な明るさと大らかさを有し持った心穏やかなる人物だ。
戦闘における彼女の立ち位置はそのほとんどが二列目以降、中距離射撃戦を旨とした戦い方が主軸で、決して近接戦闘を得意としていた訳では無かったが、攻撃的アタッカーたる部類にしっかりと分け入る、確かな技術を有し持っていた。
・・・と、加えてもう一人、青色チーム側で狙撃手たる役割を担うのが「ランスロット・アバンテ」・・・、金髪グリグリの天然パーマに、若干垂れ気味の二重眼が特徴的な男性で、誰にでも愛想の良い気さくな性格と、如何なる苦境にも簡単にはへこたれない、強い忍耐力とを併せ持った非常に明るく前向きな人物だが、女性に対する手癖が非常に悪く、男女問わずしてその評判は頗る悪い、自他共に認めるウザい系のチャラけた三枚目男だった。
ただ、己の馬鹿っぷりを包み隠さず大にひけらかし歩く彼が、何一つ熟し成せない単なる愚鈍者、無能阿呆なる劣等者であったかと言えばそうでは無く、与え付けられた軍務については、何事であっても卒無く熟す有用な能力を、しっかりと持ち得ていた様で、近接戦を得意とした戦闘スタイルにも関わらず、スナイパータイプのDQに乗せられていたのもその為だ。(勿論、ネニファイン部隊内に完全なるスナイパータイプの人間が少なかった・・・と言う事もある)
(リスキーマ)
「演習開始まで、残り10秒。」
(シューマリアン)
「各員共に準備は良いか?」
(ランスロット)
「いいよー。始めちゃってー。」
(フロル)
「全然良くない。お前のそれ、全回線垂れ流しモードだぞ。」
(ランスロット)
「ありゃま。そいつは残念。・・・プチッ。」
(ジルヴァ)
「セニフ。開始と同時に左右に散るぞ。お前は左側面からフロル機を急襲しろ。」
(セニフ)
「了解。」
(ペギィ)
「それじゃ、私は二人の援護っと。」
(デルパーク)
「フロル。一度前進する素振りだけを見せてすかさず退くぞ。相手が一気に出てきたらクロスで反撃。上手く行けば先制点だ。」
(フロル)
「了解。」
(ランスロット)
「目の前に餌をチラつかせて、お互いの獲物をお互いに横取りし合う。確かに良い作戦だとは思うけど、もっと簡単に先制点を取る方法があるよ。」
(デルパーク)
「ほーう。」
(シューマリアン)
「それでは演習開始。」
やがて、程なくして、本日の演習を取り仕切るシューマリアン技術二尉の号令によって、各員が搭乗するDQ機のメインモニター部に、試合開始のグリーンシグナルが灯し示されると、各員共に、一斉に搭乗するDQ機の動力部に煌々(こうこう)とした赤い熱源を滾らせ入れた。
そして、自らが達が目論み描く最良の展開へと意識の視線をしっかと馳せ飛ばしながら、急激に燃え上がった熱き闘争心を持って右足でフットペダルを強く踏み押し込み、勢い良くDQ機を駆り立て進め始める・・・。
バシャン!!
(ジルヴァ)
「なっ!?」
・・・と、次の瞬間、赤チーム側から見て右翼側へと搭乗機を進め遣り始めたジルヴァのコクピット内に、唐突に軽い衝撃音が響き渡った。
それは、ジルヴァが赤チーム側に設定された陣営地を躍り出て間もなくの事、搭乗する新型機「ジェフター3」の進行速度が、最高値へと振り上がるより以前の出来事だった。
ジルヴァが瞬間的にメインモニターへと視線を差し向けると、そこには、「後部テスラポット被弾:-20」と言う文字がはっきりと映し出されていた。
これは、一番北寄りの最果ての妙地に陣取っていた「タルカナス」の攻撃・・・、凄まじい弾速と素晴らしい射撃精度を誇る主砲「CCA35砲」の一撃であった。
(ランスロット)
「油断対敵。むっふーん。」
(フロル)
「きったね・・・。」
(デルパーク)
「あーあ。後でブン殴られても知らないぞ。」
(ランスロット)
「大丈夫大丈夫。別に反則したって訳じゃないんだしさ。心が海の様に広く深いジルヴァちゃんなら、きっと解ってくれるよ。」
ジルヴァは直後、「ちっ!!」と言う汚らしい舌打ちを大にして吐き捨て遣り、怒りに任せて思いっきりフットペダルの板を強く蹴り込むと、派手なピンク色を塗り付けられてしまった瑠璃紺色の新型機を、北方側に程良くせり上がった丘陵の裏陰へと滑り込ませた。
次いで、すぐさまサーチモニターへと視線を降り落とし、デルパーク機、フロル機が、不用心にものそのそと南下して来る様子を見て取り、一度、左翼側を突っ走り行くセニフ機の動きを確認し遣った後で、直ぐに自らも強引に突撃する素振りを見せ出した。
勿論、彼女もただ闇雲に突貫行動を繰り出し遣った訳では無く、先程初弾を放った青チーム側の狙撃機が未だ弾丸のリロード中である事、移動しながらの射撃戦で、まだお互いに有効弾を撃ち合える距離にない事を、しっかと脳裏に浮かべ上げていた。
だが、ジルヴァの眼前に向かい構えるデルパーク機は、反撃しようと思えば反撃出来る体制に有りながらも、ジルヴァ機との間に聳え立つ小さな岩陰の向こう側から一向に機体を晒し出そうとはせず、不意に、進行速度を緩め落としてその場に停止すると、ジルヴァの特攻を完全に無視する構えで、新武器であるグレネード付きアサルトライフル「GAS97」の銃口を西方側へと唸り鳴らせた。
次の瞬間、ジルヴァは、上等だ!この隙に一気に取り付いてやる!・・・と、急激に熱し遣られた攻撃的意識に任せて、フットペダルを更に強く踏み込む素振りに転じ入った。・・・のだが、直ぐに、いや、これは・・・と、左翼側方向から感じ得る不穏な気配を察し取ると、唐突に大荒な回避運動を搭乗機に強い入れ始めた。
すると、やはり、直線的に寄り固まった彼女の意識を真横から急襲すべく撃ち放たれた三発の弾丸が、絶妙のタイミングを持って次々と彼女の機体へと襲い掛かった。
パヒュン!パヒュン!パヒュン!
(フロル)
「ちっ!避けられた!」
(ジルヴァ)
「甘いんだよ!」
(デルパーク)
「こっちもダメだ。一度引くぞ。」
青チーム陣営側にしてみれば、出会い頭のこの一撃で、上手くポイントを稼ぎ上げておきたい所だったが、初撃を放ったデルパークの攻撃は、素晴らしき反応速度を持ってトゥマルクを急旋回させたセニフにかわされ、間髪を置かずして撃ち放ったフロルの攻撃も、事前にそれを察して回避行動に出た、ジルヴァに体良くかわされてしまった。
しかも、一撃離脱を目して直ぐに退避行動へと移り進んだものの、赤チーム側の狙撃手であるペギィの攻撃を交互に浴びせ掛けられる羽目となり、多少後退に手間取ったフロル機が、GRM-89スナイパーライフルにより放たれた弾丸を、右腕部に受け食らわされる事になる。(Red[+10*1][10])(Blue[-][20])
(ペギィ)
「よっし!当たった!どうよ私の腕っ。」
(フロル)
「ちっ。虫が良すぎたか。」
(デルパーク)
「多少はな。まあいい。」
ただ、完全なる突貫タイプであるセニフ、ジルヴァの進撃速度を、早い段階で鈍らせ落とす事に成功した事、当初の目論み通り、直ぐに後退してある程度の距離を保ち残したまま一つ目の射撃戦を遣り終えた事は、まずまずの成果であったと言え、彼等は、赤チーム側の前衛二人を遮蔽物の陰裏に追い遣った状態のまま、自チーム側の狙撃役であるタルカナスの弾丸リロード完了時間を迎える事になる。
セニフもジルヴァも、特に中距離位置での射撃戦を不得意としていた訳では無いが、機体静止時における照準スピード、射撃精度と言う意味で、青チーム側の射撃手二人と対等に渡り合える程では無く、この状況は依然として、青チーム側に有利な体勢であると言えた。
・・・と来れば、赤チーム側が取るべき作戦は突撃の二文字以外に無かった。
要は、如何様にしてその突撃を成すかと言う事である。
(ジルヴァ)
「セニフ。私が囮になる。お前が突撃しろ。ペギィはバックアップ。相手が乗り出すタイミングを狙え。」
(セニフ)
「了解。」
(ペギィ)
「あいよっと。」
そこでジルヴァは、自らが囮となる事で、相手方チームの注意を自分へと引き付け、セニフの突撃行動を補佐しようと考えた。
勿論、猪突猛進なる突貫攻撃を繰り出すに当たり、セニフの方が自分よりも適任・・・、優れていたと考えていた訳では無いし、セニフ特有の風変わりな戦闘スタイルに、何かを期待していた訳でも無い。
彼女は単に、中距離射撃戦のでの立ち振る舞いに関しては、自分の方がセニフよりも上であろうと考えていただけだった。
やがて、北方側にF2B1V型陣形で構える青チーム側の配置状況と地形状態を軽く確認し遣ったジルヴァが、自らが隠れる小さな岩陰の裏から小気味良く機体を振り出し、入り戻し返してはそれを繰り返し、僅かに見えるデルパーク機の機影目掛けて、適宜首尾良くGAS97のトリガーを引き放っていく・・・。
(デルパーク)
「ほーう。珍しく慎重だな。」
(ランスロット)
「罠でしょ?罠罠。」
(フロル)
「そうかも知れないけどさ。自分達が臨んだ展開を、みすみす見過ごす手は無いだろ?」
(デルパーク)
「まさにその通り。フロル。なるべく機体を晒し出さない様に注意しながら、反撃弾を撃ち返して行くぞ。ランスロット。じゃじゃ馬の動きから目を離すなよ。」
それに対する青チーム側の対応は明白だった。
事態はその後、ジルヴァが思い描いた通りの展開をそのままになぞり辿る事になる。
・・・も、両陣営の間に横たわる小さな丘陵の向こう側に身を潜めるセニフの存在に、非常に色濃い警戒心を注ぎ込んで注意を払っていた青チーム側は、中々に赤チーム側が望む様な隙を作り生じさせなかった。
その為、ジルヴァはしばし、青チーム側が最も得意とする嫌な距離位置で、射撃手タイプである猛者パイロット二人を相手に、意味無き撃ち合いを五分間に渡り繰り広げ続ける羽目となり、結果、ジルヴァが三発、デルパークが一発、相手方からの弾丸を受け食らわされる事となった。(Red[+5*1][15])(Blue[+5*3][30])
だが、勿論セニフも、その戦況を只々黙って無意味に眺め流していた訳では無く、彼女は、相手側から見て完全に死角と成り得る次なる妙地への最短経路をしっかと見定め付けながら、そこに飛び出す絶妙のタイミングを取り図っていた。
そして、ジルヴァが被弾覚悟で思い切って岩陰の裏から機体を振り出し、引きそびれたデルパーク機と一発づつ、お互いの肩口に弾丸を撃ち込み合った直後・・・、そのジルヴァ機を狙って、徐に機体を遮蔽物の陰から振り出したフロル機が、それを制する為に放ったペギィの牽制弾を上手く避け遣った次の瞬間、思いっきりフットペダルを深く踏み拉いて、自らが搭乗するトゥマルクを急発進させた。
それは、青チーム側の前衛二人が、ほぼ同時に遮蔽物の裏陰へと隠れ入った、まさにこれ以上ない絶妙の飛び出しタイミングだった。(Red[+5*1][20])(Blue[+5*1][35])
(ペギィ)
「浅かった!?」
(フロル)
「ちっ!狙われてたか。」
(デルパーク)
「フロル!セニフが行ったぞ!」
(ランスロット)
「おおーっ。待ってました。任せて頂戴なっ!」
確かに、セニフが次に目指す死角地帯までの距離は程長く、青チーム側から程良く視線、射線の通る危険な道筋であると言えたが、セニフにしてみれば、北方高台部にどっしりと構える狙撃手、ランスロットの存在にだけ気を付ければ良い事になる。
勿論、タルカナスの主砲「CCA35砲」の弾速はかなり早いが、それでもセニフは、上手くいなしかわして見せるだけの自信・・・、かわせないまでも、高失点部位に被弾させないだけの自信が、おぼろげながらもあった。
やがて、ほんの一秒二秒たる僅かな時の移ろいを流し経遣りて、西方側を直進し行くセニフ機の機影を、ガンレティクルの中央部へとしっかと捉え入れたランスロットが、業とらしく舌なめずりする仕草を奏で出した後で、躊躇なく右手の人差し指に力を込め入れて主砲の発射トリガーを引き・・・・・・・・・、放とうとしたが、彼は引かなかった。
彼はこの時、何故か完璧に近いと言える程の発射タイミングを見送った。
直後、セニフの機体が唐突に大振り派手目な回避運動を繰り出し遣った。
トゥマルクの機体を無理矢理に一回転させながら奇妙不気味な踊りを奏で出し、北側に一機体分ずらした進行ルート上に機体を乗せ上げると、再び坂丘を猛スピードで駆け上がって行く。
(ランスロット)
「うっお。・・・すっげ。」
(セニフ)
「撃ってこない!?」
セニフは一瞬、何故にと思ったが、先程の回避行動に要した時間、減衰した直進スピードを上手く取り戻す事が出来ず、直ぐに攻撃体勢を整えたデルパーク、フロルの容赦無いガトリング攻撃を浴びせ掛けられる事となり、そんな事に考えを巡らせている余裕は無かった。
ただ必死に目の前の死角位置へと意識の目標を定め付けて、只管に機体を爆走させる事以外に何もできなかった。・・・訳だが、この時ばかりは本当に運が良く、弾丸を一発も被弾する事無くやり過ごす事に成功した。
だが、次の瞬間、青チーム側の意識が完全にセニフ方面へと寄り固まったと見て、徐に搭乗機であるジェフター3を急発進させたジルヴァが、デルパーク機の程近くに存在する小さな岩陰の裏へと目掛けて猛突進を開始し・・・。
バシャン!
(ジルヴァ)
「なにっ!?」
・・・と、思いもよらず正確に狙い打たれた強烈な弾丸によって、搭乗機であるジェフター3のコクピットハッチ真正面部を撃ち抜かれてしまった。
それは、ジルヴァが遮蔽物の陰から身を乗り出して、急激に機体の進行スピードを振り上げたその矢先だった。
ランスロットは、赤チーム側の作戦を読んでいた。
勿論、セニフ機に弾丸を命中させる事が出来ればそれで良いと考えていた事は事実だが、それが無理だと判断するや否や、彼は即座に狙いをジルヴァ機に振り替えていたのだった。
普段から何事にもやる気を見せず、のらりくらりと適当に毎日を送っている様にも窺える彼だが、この時彼が垣間見せた戦闘技術は、確実に凡庸なる者が容易に成し得る業では無いと言えた。
それだけ彼の射撃精度は高かった。狙いを付け替える作業に一切の滞りが無かった。(Red[-][20])(Blue[+20*1][55])
その後、非常に強い怒気色を塗し込んだ渋面をギリリと携え上げたジルヴァが、荒々しき様相でフットペダルの板を更に強く蹴り込み、機体を素早く岩陰の裏へと滑り込ませた。
そして、ようやく獲得し得た好機的状況に、内なる意識の目をしっかりと翳し付けると、周囲の様相を備に観察して見て取り回し始める。
ジルヴァはここで、一度だけ目の前のメインモニターに視線を落として、両チームの総ポイント数を確認し遣った。
(ランスロット)
「うーん。セニフちゃんが放つ負のオーラは本当に半端ないな。全然当てれる気がしないよ。」
(フロル)
「情けない事言ってんじゃないって。お前が稼がないで一体誰が稼ぐって言うんだよ。」
(ランスロット)
「あれ?もしかしてこの俺に期待している?」
(フロル)
「端からそう言う作戦だろ。全く・・・。」
(デルパーク)
「いや。ここまで来たらもう先程の作戦は無しだ。前半戦のリードを守り切る事だけに注力する。フロル。奴等二人と技比べをしようなんて思うなよ。」
(フロル)
「解っているよ。物陰に隠れたまま、撃たれた分をきっちりと撃ち返してやればいいんだろ?」
(デルパーク)
「そう言う事だ。ランスロット。お前は撃たれない様に頭を下げて隠れておけ。」
(ランスロット)
「ペギィちゃんはどうするの?」
(デルパーク)
「狙えるなら狙っとけ。だが、ヘマをやらかして被弾するなんて馬鹿な真似だけは勘弁してくれ。前衛の二人は動きながらでも当てて来るぞ。」
(ランスロット)
「へいへーい。ほんじゃまぁ、のんびりと高みの見物と行きましょうかね。」
赤チーム側の前衛二人が、青チーム側の前衛二人の程近くまで接近したこの状況は、それまでの試合の流れが一気に変わり返る一つの大きな分岐点であったと言え、近接戦闘を得意とする突貫タイプのパイロット二人を要する赤チーム側にとっては、まさに、ここからが本当の正念場、勝負所であると言えた。
後は、自分達が持つ近接戦闘におけるDQ操舵能力をフルに活用して、青チーム側の獲得ポイント数を上回るだけの戦果を勝ち取るだけだ。
(ジルヴァ)
「セニフ。ここからだぞ。」
(セニフ)
「うん。解ってる。」
(ジルヴァ)
「ペギィ。私とセニフが奴等二人をあぶり出す。しっかり狙ってけよ。」
(ペギィ)
「了解っ。」
赤チーム側がこれまでに獲得したポイント数は20。青チーム側は55。
数字的には、ダブルスコア以上の差を付けられる事態と相成ったが、一撃で最大20ポイントもの数値を稼ぎ出せるこの演習戦のルールを考えれば、直ぐにでも逆転出来るポイント差であった事は間違いない。
最初から、多少の失点は覚悟の上と、端から中距離射撃戦を捨てかかって、この状況を作り出す事だけを目指してきた赤チーム側にとって、ここからの展開は、容易に実現して然るべき大逆転劇であるはずだった。
・・・しかし、そんな事は青チーム側も百も承知していた事だった。
荒々しく機体を駆り立て、激しく攻勢に転じてくる赤チーム側の攻撃機二機に対する、青チーム側の対応は完全に徹底していた。
それは、デルパーク対ジルヴァ、フロル対セニフと言う、完全なる一対一しか成り立ち得ない絶妙の死角場にじっと篭り入り、赤チーム側が攻撃を仕掛けて来るタイミングをじっと待つと言うもので、相手が機体を乗り出して攻撃を仕掛けてきた時に、必ず同数以上の弾丸を撃ち返してやると言う、単純明快なる待ち伏せ作戦だった。
確かに、近接戦闘において非常に卓越した技術を持ち有していたジルヴァとセニフだが、如何に相手機よりも早く攻撃弾を命中させたからと言って、如何に反撃不能となる部位位置に攻撃弾を正確に命中させたからと言って、相手を撃破状態に出来ないこのルールにおいては、その直後に浴びせ掛けられる反撃弾を上手く避け遣る術が無い。
武器を持つ腕部だけ遮蔽物の陰から振り出して適当撃ちを敢行する・・・と言う手も無くは無いのだが、待ち伏せした相手に正確に腕部だけ撃ち抜かれると言う、情けない始末を二、三度繰り返し遣る羽目になり、事態は一様に完全なる手詰まりと言った重苦しき様相に凝り固まって行った。(Red[+5*9][65])(Blue[+5*8][95])