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Loyal Tomboy  作者: EN
第十話「微笑みは闇の中で、闇の向こうで」
196/245

10-02:○錯綜する意思と視線[1]

赤チーム、青チームのポジションを変えました。

第十話:「微笑みは闇の中で、闇の向こうで」

section02「錯綜する意思と視線」


パレ・ロワイヤル基地内に有る作戦司令室は、予備を含めて全部で三つ存在しているが、トゥアム共和国軍が同基地を保有する様になってからは、メインである中央作戦司令室しか使用されていない。


と言うのも、予備として設けられた二つの作戦司令室は、パレ・ロワイヤル基地周辺各所に配された基地防衛機能を管制する事を主として設けられた施設で、メインとして使用するには余りに規模が小さかったからと言うのが、その理由の一つである。


勿論、中央作戦司令室に万が一の事態が生じ起こった場合に備えて、予備の作戦司令室を用いて、基地内の全てを統括管理する事は出来るのだが、やはり使い勝手の悪さの方が著しく先に立つ様で、無理して何かに利用しようなどと言う風潮には、中々に流れ動いて行かない様子だった。


先日、パレ・ロワイヤル基地の南東部に設けられた、特設演習場に関する管制機能を何処に設置するか?・・・と言う議論が基地内部で持ち上がったのだが、中央作戦司令室内の施設機能を用いて全て事足りる事が判明すると、やはり、予備の作戦司令室を使用すると言う話は、簡単に頓挫とんざする方向へと落ち着き遣られる事となってしまった。



<Nyifine Exercise Order>


No.1 Team Red South Position

 a Johadal-moze(Jeftrer3)

 b Munia-roy(twmalc)

 c Aigulle-corton(twmalc)


No.2 Team Blue North Position

 a Rancerot-avante(talcnus-X)

 b Insar-poljuo (akynan-e)

 c Sacks-seroian(akynan)



(シューマリアン)

「ふーむ。大した機体だ。加速性能と巡航速度以外は、軒並のきなみトゥマルクのほぼ二割増しか。標準装備の索敵センサーも非常に良い物を積んでいる。」


(リスキーマ)

「チームレッド。ジョハダル機がアウトします。」


(ムニア)

「了解。私ももう直ぐアウトします。」


(アイグリー)

「あーい。」


(シューマリアン)

「ジョハダル。新型機の調子はどうだ?良好か?」


(ジョハダル)

「ああ。思っていた以上に良い機体だ。芋撃ちでも突貫でも、どちらでも行けそうだぜ。ただ、腕周りが重い分、片手撃ちだと多少振り回される感があるな。」


(シューマリアン)

「そうか。ご苦労。機体は十番デッキに付けてくれ。」


(ジョハダル)

「了解。」


(ジルヴァ)

「おい!いつまで待たせんだ!まだ出られないのか!?」


(ジョルジュ)

「待ってください!今・・・・・・あ、OKです!ジルヴァ機出れます!」


(ジルヴァ)

「ちっ!全く・・・。」


(サックス)

「おい!アイグリー!その位置じゃこっから狙えねぇだろ!もう少し左にズレろ!」


(アイグリー)

「あーい。」


(ランスロット)

「ちょっとちょっと。そしたら俺の狙撃ライン上から外れちゃうじゃないの。そのままで良いよ青年君。そのままでー。」


(アイグリー)

「あーい。」


(サックス)

「おいっ!てめぇの機体ならムニア機を狙えるだろ!てめぇはそっち狙っとけ!そっち!」


(ランスロット)

「女性に銃口を向けるなんて事、僕ちゃんには絶対真似出来なーい。女性に対して向けて良いのは、心ときめく可憐なる恋慕れんぼと、相手の事を強く欲する熱い視線だけー。」


(ムニア)

「・・・私、上がります。」


(リスキーマ)

「チームレッド。ムニア機がアウトします。」


(ポリュオ)

「単に射的がしたいだけなら、岩でも撃っとけばいいと思う。」



Team Red → Johadal-moze(Jeftrer3) OUT

Team Red → Munia-roy(twmalc) OUT



中央作戦司令室の片隅を使用して作りこしらえられた演習管理システムは、稼動テスト実施中のDQの各種データを、つぶさに取得する事を主たる目的としているが、演習場に隣接する整備工場の状況管理や、演習場周辺地域のフィールド濃度を管理調節する機能、演習演目を管理運営する為のシミュレーション機能なども、しっかりと付け備わっており、非常に実戦形式に近い演習を執り行う事が出来る様になっている。


言うなれば、この演習場を用いて簡易的なDQA大会を開催する事も可能だと言う事で、一対一の対戦形式から、複数チームが入り乱れての乱戦形式まで、何にでも幅広く対応できる良的代物である事は間違いなかった。


ただ、唯一の欠点として、「狭い」・・・と言う事だけは、如何ともし難い状況にあった。



(ジルヴァ)

「ジルヴァ機。出るぞ。」


(リスキーマ)

「ジルヴァ機。チームレッドに入ってください。チームレッド。ジルヴァ機がインします。」


(ランスロット)

「おおうー。ジルヴァちゃ~ん。絢爛華麗けんらんかれいなる魅惑の舞踏会場へようこそ~。さぁ。これから私目わたくしめと一緒に、情愛のルンバを踊りましょう。」


(ジルヴァ)

「心配すんな。てめぇには一人でも出来る死没のワルツを、しっかりと踊らせてやる。」


(ランスロット)

「またまたぁ~。本当はこの俺と同じチームになりたかった癖に~。」


(ジルヴァ)

「んな訳あるかボケッ。てめぇはすっこんでろ。」


(ランスロット)

「しょうがないなぁ~。恥ずかしがり屋さんなんだからもう~。ジルヴァちゃんは~。仕方ない。俺が今からそっちのチームに行ってあげるよ。リスキーマちゃーん。シグナルチェンジよろしく~。」


(ジルヴァ)

「てめぇはくんな!殺されてぇのか!?」


(ランスロット)

「大丈夫大丈夫。殺されない様に行く自信あるから。」


(ジルヴァ)

「何だとてめぇ。良い度胸じゃねぇか。来やがれこの糞脳足くそのうたりん野郎が。あっと言う間に蜂の巣にしてやっからよ。」


(シューマリアン)

「ジルヴァ。通信システムのテストはもうそのぐらいにしておけ。後がつっかえてるんだからな。解っていると思うが、テスト項目の消化は上から順番に実施してくれ。」


(ジルヴァ)

「ちっ・・・。解ってるよ。」


(ポリュオ)

「さてと。おいらも終わり。引き上げます。」


(リスキーマ)

「チームブルー。ポリュオ機がアウトします。」



Team Red ← Gilva-dilon(Jeftrer3) IN

Team Blue → Insar-poljuo (akynan-e) OUT



言うまでも無く、この演習場は、ネニファイン部隊の専用に作り設けられた言う訳では無く、同基地に駐留する戦車部隊や歩兵部隊、低飛行航空隊も使用する予定となっている。


今後、各隊の演習演目に合わせた特別な設備や機能も逐一追加建設設置されて行く予定で、ゆくゆくは全部隊合同での大規模演習をまかなえる規模まで拡張する案などが取り沙汰され始めていた。


ただ、最前線基地であるパレ・ロワイヤル基地に駐留する部隊兵士達の本分は、あくまでこの基地を防衛する為の警戒任務、防衛任務に勤しむ事であって、周囲に展開する帝国軍の動向を完全に度外視してまで演習を強行する事など出来るはずもない。


当初は、余り効果的に使用できないのではないか?と言う懸念の方が強かった。


だが、実際に蓋を開けてみれば、朝から夕方まで完全にフルで使用し切れると言う、素晴らしき平穏さに良く良く恵まれる事となり、ネニファイン部隊の使用日に当たる今日も、朝から大盛況と言うに相応ふさわしき状況に見舞われかれていた。


勿論、何の気兼ねも無く演習場を使用できる状況にあったとしても、演習場に同時投入できるDQの数には限りがあり、五対五のチーム戦を執り行うのがやっとと言うのが現状で、結果、演習を目して来訪したDQパイロット達の多くは、自分の使用順が回ってくるまでの間、隣接施設であるシミュレーションルームでDQ稼動データを作成したり、DQ整備工場で搭乗機のチェックをしたり、控室でモニターを眺めながらボケッと過ごしたりして、持て余した長い時間を無理矢理に潰し待つ羽目となっていた。



云わば、パレ・ロワイヤル基地は、今日も平和だった。


言ってしまえば、完全に暇な状態だった。


昨日の晩から続く、帝国軍機の未検知状態時間記録は、今も尚最長記録を更新中だった。



(ソドム)

「欲しい時には全く無いのに、欲しくない時に限って腐る程有るもの。これまた良く有る話だが、こんなに解り易い例ってのも中々ないもんだよね。あー暇だ暇だ暇だ。暇だ~よ~。」


(メディアス)

「無いから欲しくなる。有るからいらなくなるって、単にそれだけの話だと思うけどね。」


(フロル)

「要は考え方が贅沢なのさ。」


(ソドム)

「人は皆、己の欲求を満たす為に生きている。欲しい物を、欲しい時に、欲しい量だけ手に入れたいと望んで。」


(フレイアム)

「そしてふと、現実を顧みてこう思う。無理だと。」


(メディアス)

「おや?フレイアム。あんた哨戒任務チームじゃなかったのかい?」


(フレイアム)

「今終わって帰って来た所さ。」


(ソドム)

御愁傷様ごしゅうしょうさまです。今からじゃもう、申請しても間に合いませんよ。」


(フレイアム)

「別に演習がしたくて来た訳じゃない。休みの前に、一度新型機を見ておこうと思ってな。今誰が乗ってる?」


(メディアス)

「ジルヴァだよ。」


(ジニアス)

「おーい。フロル。機体の準備が出来たぞ。二番デッキのアカイナンに搭乗してくれ。」


(フロル)

「了解。それじゃお先にー。」


(ソドム)

「あーいいなぁー。俺はまだまだ。これで後八人待ち~。」


(メディアス)

「自室に戻って仮眠でもして来れば?勿論、起こしになんか行ってやらないけどさ。」


(ソドム)

「ほほーう。この俺を寝かし付けておいて、こっそり順番を繰り上がろうって腹ですかい?」


(メディアス)

「何言ってんだい。私はあんたより前だよ。」


(ソドム)

「知ってました。」



演習に使用する機体の数は、新型機となる「MM013ジェフター3」四機を含めて全部で十三機。ネニファイン部隊が保有する全DQ機数の約20%に当たる兵力を用いての実機訓練である。(元々あった機体の内、機体損傷の激しい六機は部品取り用として除番。ネニファイン部隊が保有するDQ総機数は六十機で変わらず)


本来であれば、演習場を常に五対五のフルフル状態で使用する為に、もう少し多くの機体を投入して臨み掛かりたい所であったが、今現在使用している第四格納庫以外に、演習用に使える近場の整備工場が他に無く、新たに建設予定の簡易型整備工場も、まだ建設工事に着手し掛かり始めたばかりと言う事もあって、直ぐ直ぐに改善できる見通しは全く立っていなかった。


DQと言う兵器は、稼働させれば必ず何処いずこかしらに損耗をきたし起こしてしまう精密機械の塊であり、常にそれをきちんと修理回復する為の整備体制を万全に整え揃えておく必要があった訳で、如何に訓練とは言え、その点を全く考慮せずに演習を行い通す事など出来るはずも無かった。


何故ならば、ここは、いつ何時、何事が生じ起きるやも解らぬ、最前線の地たる場所なのだから・・・。



整備工場の中央部に横たわる大通りを挟んで、左右の壁際に無作為に並んでいた五機のDQは、出撃予定順に綺麗に並び置かれていると言う訳では無かったが、その周囲に屯す整備作業員達の様子から察するに、次に出撃する機体は新型機であるジェフター3、その後にトゥマルク、アカイナンと続く様であった。


搭乗するパイロットは、既にジェフター3のコクピット内に乗り込んで出撃指示を待っていたデルパークと、アカイナン機の周辺部に屯していたルワシーとペギィの模様で、先程控室から呼び出されたばかりのフロルは、更にその後と言う事の様だった。



(アマーウ)

「よーし!整備作業員は撤収。デルパーク機が出るぞ!」


(シルキー)

「その前にジョハダル機が入るわよ!道を空けて!ほらそこ!何やってんの!」


(ロイド)

「おおい!トゥマルクを一旦作業ラインから外せ!一度ばらさないと駄目だ!」


(ペギィ)

「ちょ・・・ちょっと!あんた!何してんのよ!」


(ルワシー)

「ああん?何って、トゥマルクが駄目なら、これで出るしかねぇじゃねぇかよ。」


(ペギィ)

「あんたみたいなのが狙撃仕様で出でどうすんのよ!一回飛ばされなさいよ!」


(ルワシー)

「こちとら朝からずっと首を長くして待ってんだ。誰が好き好んで飛ばされてやるかってんだよ。てめぇが飛ばされてやれば良いだろ?てめぇがよ。」


(ペギィ)

「そんなの私だって同じよ!ほら!退きなさいって!大体、あんたみたいな肥満デブが、私仕様にセッティングしてもらったDQに乗れる訳ないでしょ!?」


(ルワシー)

「おーい!ジョルジュ!このお子様シート外してくれねぇか!?一分で出来んだろ!?」


(ペギィ)

「ちょ・・・!馬鹿!あんた何頼んでんのよ!勝手に・・・!」


(ジョルジュ)

「あれ?誰か私の事呼んだ?」


(ペギィ)

「あ、う、ううん。・・・何でもない。何でも無いのよ。気にしないで。あっははは・・・。」


(ジョルジュ)

「???」


(ルワシー)

「・・・まあいいや。こんなもん、力づくで外れんだろ。」


(ペギィ)

「ちょ・・・、ちょっと待って!お願い。お願いだから待ってルワシー。お願いだから私に乗させて。ねっ?一生のお願い。一生のお願いだからーーー・・・ゴニョゴニョ。)


(ルワシー)

「なーんだぁ?急に。気持ち悪ぃなぁてめぇ。」


(トムシア)

「おーい!ルワシー!エルヴィスの機体が空くってよ!司令部も適当にパイロットを見繕みつくろえって言ってるし、どうする!?新型機だぞ!」


(ルワシー)

「何っ!?新型機!?」


(シルジーク)

「何だ?どうかしたのか?」


(アークチャン)

「なんかですね。その・・・ギックリ腰ですって。」


(シルジーク)

「ギックリ腰ぃ??」


(ルワシー)

「よーし!!その話乗ったぁ!!この俺様に任せろ!!」


(トムシア)

「但し、機体の設定はエルヴィス仕様のままだからな!順番もセニフの後だ!」


(ルワシー)

「構わん構わん!げっへっへ。新型機だぜ新型機。」


(ペギィ)

「あらそ~ぅ。良かったわね~。」


(ジョルジュ)

「ペギィ。最終チェックが完了したよ。コクピットに入って。」


(ペギィ)

「あ、はいっ!今すぐ入ります!今すぐ!」


(シルジーク)

「セニフはどうした?」


(アークチャン)

「まだシミュレーションルームに居るんじゃないですかね。さっき一度、新武器のモーション撮りが終わったって出てきましたけど、ロッコさんに呼ばれて、また戻ったみたいですから。」


(シルジーク)

「ふーん。」


(アークチャン)

「呼んできましょうか?」


(シルジーク)

「ああ、いい。まだ設定処理が終わってないんだ。俺が後で呼びに行って来るよ。それよりもサフォークは何処行った?」


(アークチャン)

「なんか急用が出来たって何処か行きましたけど、まだ戻ってませんか?」


(シルジーク)

「あいつ・・・。またサボってやがるのか・・・。」



Team Blue ← Delpark-shank(Jeftrer3) IN



整備工場の内部を右往左往と忙しく行き交う整備作業員達の様相は、控室で只々持て余した余暇を只々潰し過ごすパイロット達とは違い、実戦さながらの慌ただしさの中に完全に飲まれかれている様だった。


勿論、ネニファイン部隊が発足した当初に比べれば、整備作業員達の数自体が大分増えた事もあり、以前よりはかなり楽になって来てはいたのだが、新型機やら新武器やらが現場に投入され遣る度に、彼等の多忙さは否応なく跳ね上がるのだった。


今回ネニファイン部隊に新たに支給された兵器は、DQ機本体である「MM013ジェフター3」の他に、グレネード付きアサルトライフル「GAS97」のA型とB型、120ミドルレンジキャノンのTypeS型、GGS10ガトリングガン軽量型と言った武器兵器も多数含まれている。


と、来れば、それを使用する為の新モーションデータを作成する根拠地であるシミュレーションルームも、数多くのパイロット達でごった返していたはずであるが、物理的な設定作業を全く必要としない性質上、各員共にかなりスムーズに作業が完了し経終えた様子で、シミュレーションルームの混雑振りは、もう既に完全に鎮火し切っていたと言えた。


今ではもう、暇を持て余したパイロット達の数少ない遊び道具の一つになっていた。



(ジレン)

「・・・ん?・・・・・・んん??・・・おおっ。」


(ハサン)

「おい。今のどうやったんだ?バグじゃないよな。」


(ジョイル)

「解らねぇ。あんな回し方したら、普通コケるぞ。」


(バルバロック)

「うむ。まさに異様と言う他ない素晴らしき美技妙技。だが同時に、非常に危険極まりない綱渡り的博打わざであるとも言える。」


(ウガンヌ)

「うー・・・。駄目だ。気持ち悪くなってきた。」


(ロッコ)

「大丈夫ですか?」


(ハサン)

「確かにこれはシミュレーター酔いするな。」


(ジレン)

「そんなに大した操作を施している様には見えなかったんだが・・・。」


(ロッコ)

「あ、終わったみたいですね。時間は・・・3分と20秒か。早いな~。」


(バルバロック)

「早いだけなら誰にでも出来る。・・・が。」


(ハサン)

「ああ。何故こいつが皆から暴れ馬って呼ばれるのか、その理由が何となく解った様な気がするよ。」



第四格納庫内に有るシミュレーションルームには、シミュレーション用のボール型コクピットが5機設置してあり、現時点では、その内の2機しか稼動していない状況であったが、その中の一つ、ボール型コクピットの背後部に数人のギャラリーを背負っていた場所に、セニフは座っていた。


新しい武器のモーションデータを作り終えた後、セニフは直ぐにシルの所に行こうと考えていた訳だが、以前から熱心にその操縦法を拝見させてくれと言って来ていたロッコの強い要望もあり、シミュレーションルームでその腕を披露する次第へと至った。


セニフがやったシミュレーションの種目は、非常にゲーム的な要素が強い仮想戦闘シミュレーションで、ランダムに出現する五機の敵DQを全て倒せばミッションクリアとなる、非常にシンプルなものだった。



(ロッコ)

「お疲れ様。セニフ。はいこれ。僕のおごり。」


(セニフ)

「ありがとう。・・・で?どうだった?」


(ロッコ)

「凄かったよ。うん。想像していた以上にね。」


(ジョイル)

「ギャラリーを背負って戦うって気分はどうだ?気持ちよかったか?」


(セニフ)

「え?・・・えっと、少し緊張した。」


(ハサン)

「はっはっは。それにしては随分と伸び伸びとやっている様に見えたんだがな。」


(ジレン)

「そうそう。特に三機目、四機目と連続して撃破して見せた時なんか、こいつ、吐きそうになってたからな。」


(ウガンヌ)

「うるさいな。ほっとけ。」


(ハサン)

「で?不整地でスピードを殺さず回転しながらスラーロムをするにはどうしたらいいんだ?」


(ジョイル)

「更にそこからスムーズに直角旋回、スライド移動もしてたぜ。」


(ジレン)

「敵の攻撃を上手くかわしながら、だからな。カウンターで敵を撃破した技術も見事なものだった。」


(バルバロック)

「うむ。うむ。」


(セニフ)

「え?え?え?」


(ハサン)

「何か特別な事をしているのか?気を付けている点とか。何かあるだろ?」



セニフのDQ操舵技術がずば抜けて高いと言う事は、ネニファイン部隊内でも良く良く噂になっていた話だった。


だが、絶対的に一人乗り用のDQ機に乗る事の方が多かった彼達にとって、実際にセニフが操縦している姿を直接垣間見れる機会があったかと言えばそうでは無く、セニフと比較的付き合いの長いシルやジャネット、サフォークに至っても、セニフが本気になって操縦している姿を直接目の当たりにした事が無かった。


言うなれば彼等は、ネニファイン部隊内で初めて、彼女の技術を直接垣間見た人物達・・・、彼女の凄さを直接肌身で感じ取る事が出来た人物達だった。


勿論、その一部始終の全てをつぶさに観察して取る機会に恵まれたからと言え、その全てを直ぐに理解し、自分のものに出来るかと言えば、そうとは限らない。


この時、セニフの後ろでその様子を覗き見ていた六人の男性も、何が何だか良く解らない・・・と言う以上の感想を、抱き持つ事が出来なかった様子だった。


尤も、自分自身が何をどうしているのか、当の本人も良く解っていないと言う現状を鑑みれば、それも無理のない話だったのかもしれない・・・。



(セニフ)

「えーっとー。・・・うーん。気を付けてる点・・・って言えば、敵の挙動・・・・・・ぐらいかな。雰囲気って言うか・・・、流れって言うか・・・。」


(ハサン)

「DQ操作する上では何かないのか?」


(セニフ)

「操縦する上で?・・・うーん。どうだろ。・・・こう来たらこう、こう来たらこう・・・。あれ?こうかな?・・・違うかな。こうだっけ?こうかな?」


(ジレン)

「・・・駄目だこりゃ。」


(バルバロック)

「著しく何かに秀でた者は、著しく何かが劣後れつごしている。得てして良く有る話だ。」


(ロッコ)

「あはっ。」


(ジョイル)

「今度ビデオにでも撮って、スローで見て見るか?」


(ジレン)

「いや、やめとこうぜ。良いもんが見れたってだけで、満足しておいた方が良さそうだ。」


(ウガンヌ)

「確かにな。一夕一朝で出来るもんじゃないぜ。戦場でやったら、かえって死期が早まりそうだ。」



人には分相応、不相応なるものがある・・・と言う事を彼等は良く知っていた。


自分に合わないものを態々(わざわざ)取り入れて、無駄にヘマをやらかす事は無い、失態を演じる必要は無いと、彼等はしっかりと理解して取る事が出来ていた。


戦場でヘマをやらかす事は、失態を演じる事は、即自分の死、仲間の死に直結する事になる。


彼等はそれが解らない程、馬鹿では無かったと言う事だ。



(セニフ)

「えっと・・・、あの・・・、ごめん。私、何か皆の役に立たなかったみたいだね・・・。」


(ロッコ)

「あ、いや、そんな事は無いよ。十分に参考になったよ。」


(ウガンヌ)

「そうかぁ?」


(ハサン)

「まあ、余り参考にならなかった事は確かだが、それはお前が謝る様な事ではないさ。それだけお前が凄いって事だ。」


(ジレン)

「そう言う事。そう言う事。」


(ジョイル)

「ありがとうな。セニフ。」


(セニフ)

「あ、うん。」


(ジレン)

「それじゃまぁ、俺達はぼちぼち哨戒任務にでも行ってきますか。」


(ウガンヌ)

「良いもん見れたからって、変に色気出して崖から転げ落ちるなよ。」


(ジレン)

「阿呆っ。ルワシーの馬鹿野郎と一緒にすんな。」


(ハサン)

「さて。俺達も行くか。そろそろ寝ないとな。」


(バルバロック)

「了解。」



やがて、些細ながらも非常に物珍しい催し物を十分に楽しんだ男達が、主催者であるセニフとロッコに軽い別れの挨拶を順々に繰り出し遣りながら、いそいそとその場を立ち去って行くと、辺りは急激に閑散たるひんやりとした空気感に包まれ飲まれ始めた。


そして、シミュレーションボールの中で、自分の作業に没頭する一人の男性パイロットを除けば、完全にロッコと二人きりと言う状況になった。


・・・と、ここで、非常にゆったりとした様相で近くのベンチに腰を下ろしたロッコの姿を、チラリと見遣り取ったセニフが、不意に込み上げてきたバツの悪い思いを紛らわせる様にして、先程手渡された缶コーヒーに口を付けた。


セニフは勿論、ロッコの事が嫌いだった訳では無いし、会話をしていて面白くないとも、楽しくないとも思っていた訳では無い・・・のだが、セニフはこの時、今度ゆっくりお話ししようと言っていたロッコの言葉を思いだして、唐突に心を身構えさせてしまったのだ。


絶対に隠し通しておきたい秘密の過去を持つセニフにとって、過去の自分と会った事があると言うロッコの存在は、非常に危険極まりない存在以外の何ものでもなかった。


出来る事なら、全く会話をせずに済まし通したい、顔を合わせずに済ませたいと思っていた事は確かだった。


ただ、ロッコの方はと言えば、相変わらずセニフに対して非常に友好的だった。



(ロッコ)

「はー。何か圧倒されちゃったな。やっぱり凄いや。セニフは。」


(セニフ)

「え?・・・いや、それ程でも・・・。」


(ロッコ)

「ううん。ほんと凄いよ。さっきウガンヌが言ってた通り。一夕一朝で出来る様な芸当じゃないよ。DQに乗せれば向かう所敵無しの最強戦士か。格好良いよね。」


(セニフ)

「そんな・・・。私なんか・・・。」


(ロッコ)

「そして、DQを降りれば可愛らしい元気な女の子。」


(セニフ)

「えっ?」


(ロッコ)

「セニフってさ。ほんと、色んな所にギャップがあるよね。それも、かなり良い意味での印象的なギャップがさ。」


(セニフ)

「そ・・・、そうかなぁ・・・。」


(ロッコ)

「うん。可愛いよ。」


(セニフ)

「あ・・・・・・いや、・・・えっと、・・・へへ、なんか照れるな・・・。」


(ロッコ)

「あっはははは。」


(セニフ)

「はは・・・。」


(ロッコ)

「そうだ。セニフ。そう言えば一昨日、スーリンに行ってきたって言ってたよね。どうだった?良い所だった?」


(セニフ)

「うん。凄く良い所だったよ。綺麗だし、穏やかだし。」


(ロッコ)

「そっか。・・・じゃあさ。今度僕と一緒に遊びに行かない?セニフの休みに合わせるからさ。」


(セニフ)

「え?私?・・・うーん。」


(ロッコ)

「勿論、二人きりとかじゃなくていいよ。皆と一緒にさ。」


(セニフ)

「う、うーーん。」


(ロッコ)

「僕と一緒じゃ、嫌?」


(セニフ)

「あ、違うの違うの。そう言う事じゃないの。・・・えっと、その・・・、私・・・、私はもう、あの街には行かないと思うから・・・。」


(ロッコ)

「え?何で?良い所だったんでしょ?何か理由があるの?」


(セニフ)

「あ、いや、そう言う・・・理由なんか、別にある訳じゃないけどさ・・・。」


(ロッコ)

「じゃあ行こうよ。ご飯とか僕がおごってあげるから。」


(セニフ)

「う、うーーーん・・・。」



セニフは困った。非常に困った。


当初予想していた様な込み入った話にはならなかったが、セニフにとってそれは、非常に有難迷惑的な提案以外の何ものでもなかったのだ。


セニフがスーリンの街で悪漢共に襲われたと言う事は、シルとギャロップ以外には誰も知らない秘密の出来事であり、当然、セニフとしても、それを行きたくない理由として上げ述べる事は出来なかった。


勿論、その程度の言い訳ぐらい、事前に考えておいて然るべき所なのだが、セニフは、シルやジャネット以外の者から、一緒に遊びに行こうなどと誘いを受けるとは思っていなかった。


考えが甘かったと言えば完全に甘かったと言わざるを得ない。


だが・・・。



(シルジーク)

「あれっ?他の皆は?」


などと、素っ頓狂とんきょうな短言を吐き放って、唐突に姿を現し出したシルのおかげを持って、セニフは何とか話しを誤魔化し終わらわる事に成功した。


それはまさに、セニフにとって幸運な事だと言えた。


ロッコにも余り懐疑的な思いを抱かせずに済んだ様子だった。



(ロッコ)

「ああ、ジレンとジョイルは哨戒任務に行きましたよ。ハサン達は皆、自室に戻ったんじゃないでしょうかね。寝るって言ってましたから。」


(シルジーク)

「ふーん。」


(セニフ)

「お迎えご苦労さん。シル。今日も朝からせいが出ますな。」


(シルジーク)

「何言ってんだよ。」


(セニフ)

「それじゃロッコ。私、演習に行って来るから。」


(ロッコ)

「うん。気を付けてね。また今度、時間が空いた時でいいから、セニフの操縦をまた見せてね。」


(セニフ)

「うん。行こう。シル。」


(シルジーク)

「あ、いや、まだちょっと準備が・・・」


(セニフ)

「ほらほら急いで。後ろの人に迷惑が掛かっちゃうでしょ。」



その後、セニフは余り急いでない風のシルを強引に引き連れて、直ぐにシミュレーションルームを後にした。


不思議と何故か怪訝そうな表情を浮かべていたシルに対しては、「あれ~?もしかしてやきもち焼いてる?」などと言って、他愛無き悪戯いたずら言葉を浴びせ掛け、全く普段通りと言える心地良きを会話を無駄に繰り広げて楽しんだ。


セニフ自身、はっきりとそうだと自覚していた訳では無いが、シルとの間に生じていた目には見えない硬い壁が、大分薄くなっている様な、柔らかくなっている様な気がした。



(ジョルジュ)

「ペギィ機いいよー!出してー!」


(ジニアス)

「フロル!右肩のガトリングガンの接続が終わったぞ!テストして見てくれ!」


(フロル)

「解ったー!ルーサ。ちょっと待ってな。」


(シルキー)

「ああ、それは七番デッキ。そっちのミドレンは六番デッキ。実弾は予備庫。」


(アマーウ)

「ムニア機固定完了!ポットを切り離せ!」


(アークチャン)

「シルさーーん!そろそろ設定処理が終わりそうですよ!」


(シルジーク)

「今行くー!」


(ジョハダル)

「今から出撃か?」


(セニフ)

「うん。」


(ロイド)

「シルキー!ポリュオ機が一番に入るぞ!」


(シルキー)

「準備良いよー!回してー!」



全く休む事無く垂れ流される多種多様な煩雑音はんざつおんに塗れながら、整備工場内の壁際通路を歩いていたセニフとシルは、程なくして、セニフが搭乗予定であるトゥマルクが駐機してある、七番ハンバーデッキ付近に到着する事になるのだが、二人はそこで、明らかにネニファイン部隊の者ではない一人の男性から軽い挨拶をかわし入れられた。


二人は勿論、この男性が如何なる人物であるのかを既に知っており、なるべく周囲にそうだと気取られぬ様に注意しつつ、小さな会釈を返し遣ると、全く素知らぬ風を装い被りながら、近くにある階段を昇り始めた。


彼は、二人にとって、非常に頼もしい味方だった。仲間だった。


セニフの事を遠目から見守り、常にその身の安全を図り通そうとしてくれる屈強な守り人・・・、ギャロップと言う名前の諜報部に所属する名うての工作員たる人物だった。


但し、本日彼が付き添ってくれるのは午前中の間だけで、午後からは代わりの者がその責務を受け負う事になっており、先程の挨拶は、そろそろ交代の時間である事を知らせるサインであったようだ。



セニフはここで、もう一度だけ彼の方を振り返り、小さな笑みを投げかけてやった。


すると、ギャロップの方も小さな笑み顔を形作り、それに答えてくれた。



彼は、実際にセニフが如何なる秘密を隠し持っているのかと言う事をまだ知らない。


知りたいと思ってはいるだろうが、それを根掘り葉掘り聞いて来る様な無粋な真似は一切してこなかった。


彼が今後もずっと、セニフ達の味方でいてくれる保証は何処にもない。


セニフの秘密を知った途端、直ぐに敵たる陣営側に鞍替えってしまう可能性だってある。



だが、セニフとしては、彼の事を信じたかった。


絶対に敵に回したくないと、そう思っていた。


彼の類稀たぐいまれなる戦闘能力が怖かったと言う訳では無い。


アリミアの事を好きだと言ってくれた彼の事を、敵にしたくなかったと言う事なのだ。



やがて、セニフにしか解らない程度に小さく左手を振りかざし遣ったギャロップが、ゆっくりとその場を立ち去り行く・・・。


その後ろ姿をじっと見遣り付けていたセニフは、ふと、不意に込み上げてきた色濃い安心感と共に、静かに柔らかな笑み顔をそっと形作り、全く意図せぬままに周囲の様相へと視線を滑らせ流した。



・・・と、ここでセニフは、対面側に有る二番ハンガーデッキの傍らに、一人ぽつねんと佇む赤毛の少女の姿を見付け、徐に小首を傾げ倒した。


何故なのかは解らないが、彼女の視線はじっとこちら側に据え付いたままで、その後も全く離れる様子が無かった。


それは、セニフが小さく右手を振りかざして見せても変わらず、大きく振りかざして見せても全く変わらなかった。


勿論、フロル以外には誰にも懐かないと言われる奇特な少女である彼女が、今更非礼不躾ぶしつけな態度をひけらかそうとも、大した驚きを感じ得る訳では無いのだが、ただ、確かに、彼女の視線は、じっとセニフの方へと寄り付けられている様子だった。


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