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Loyal Tomboy  作者: EN
第一話「ルーキー」
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01-18:○漆黒の水面下[3]

第一話:「ルーキー」

section18「漆黒の水面下」


古い型の時計が2回、重いガラスを叩く音を奏で出し、午前2時になったことを告げる。


日付も変わり、夜更けと共に人の姿も疎らとなり始めるこの時間帯、酒場「カルティナ」には、妖しげな客人達が集結していた。


部屋の隅に座る、みすぼらしい姿の老人は、最上級と言われるワインをボトルでラッパ飲みし、頭から黒いフードをかぶった正体不明の人物は右手に水晶のような珠を2つ握り締め、カチャカチャと回している。


そして、接客のための店員達に、若くて美しい女性達が増え始めると、その客人達の妖しげな視線が色めき立つのだ。


センターモールのディスプレイに、淫妖で官能的な映像が流れ始め、店内の照明も薄暗い穂のかなピンク色に染まる。


そして今日も、悲しくも人知れず、姿を消してしまう女性店員が居るのであろう。


(メイルマン)

「おいおい、やめてくれよ安っぽい店はよ。」


(ランスロット)

「へっへっへ。ここには美人が多いんだぜ、おおマジ!!なあ、ユァンラオ。」


そんな夜も更け始めたた時間帯ではあったが、新しい客人がきたようだ。


重たい木製の扉を開き、店内へと姿を現した3人のパイロットは、昼間にエリア55にてチームTomboyと戦闘を繰り広げた、チームBlack'sのアタッカーメンバーである。


3人とも日付が変わるまで戦場にいたようで、ニュートラルエリアに着くなり、店に足を運んだのだろうか、未だにパイロットスーツのままだ。


彼らがこの店に来た目的は、単なる仕事終わりの飲み会のようで、平常時と変わらぬ姿のまま店に現れたことからも、決して人買いを目的としたものではないと思われる。


(アガサ)

「あら、ユァンラオ、久しぶりじゃない。」


扉の前に突っ立ったままの男達の中に、見慣れた厳つい大男の姿を確認した女性店員の一人が、彼らの元へと歩み寄る。


真っ先にユァンラオに挨拶したこの女性は、カルテイナ開店当初からいる数少ない店員の一人で、名を「アガサ・プリース」という。


長いしなやかな黒髪に、細く横に伸びる目元、豊満な胸にスラッとした抜群のスタイル。


並大抵の男ならば、必ずといっていいほど振り向いてしまう程の美女である。


お調子者で女好きのランスロットなどは、彼女がユァンラオと会話している最中、ずっと両手で金髪天然パーマを整える振りをしながら、彼女の全身を舐め回すように見とれていた。


アガサとユァンラオの話し振りから察するに、彼はこの店の結構な常連のようで、奥からチラリと姿を見せた店主サルスでさえ、彼に向かって深々と一礼をするのだった。


(アガサ)

「ま。立ち話もなんだから、とりあえず座ったら?奥の席空いてるから。そっちに座って。ほら、お兄さん達も。私がお付き合いしてもいいかしら?」


そう言うとアガサは、ゆっくりとユァンラオの後ろ腰へと手を回し、彼等を奥の席へと誘おうとする。


しかし、この誘いに敏感に嬉しそうな反応を見せたランスロットを他所に、しきりに店内を見渡すユァンラオが冷たく彼女に言い放った。


(ユァンラオ)

「別にいい。それより、カルティナはいるか?」


(アガサ)

「はぁ・・・。なぁに?またカルティナなの?彼女なら今、奥にいるわ。後で呼んであげる。」


(ユァンラオ)

「酒を持って来い。いつものやつでいい。あとタバコだ。」


腰にまわした手を無造作に振りほどく彼の仕草に、彼女は小さく溜め息をついて、残念そうな表情を見せた後、少し投げやりな感じで、空いているテーブルの方を指差して見せる。


そして、何事もなかったかのように、そそくさと店の奥へと引っ込んでしまった。


何もそこまでしなくていいのに・・・。


と、どんな女性に対しても優しく接する、「自称プレイボーイ」のランスロットの目から見れば、彼の振る舞いは、問答無用で「鬼」である。


ギラギラと光る黒髪オールバックに、耳にぶら下げたドデカイリング。


剃ってるのか剃っていないのか解らないような無精髭に、伸びきったモミアゲ。


女性は何故、自分よりもこんなムサイ男の方に好んで近づくのか、まったく彼は理解できなかったが、さっさと一人で奥のテーブルへと、歩み始めたユァンラオの後姿に、小さな舌打ちをぶつけると、渋い表情のまま彼の後に続いて歩き出した。


彼らのために用意されたテーブルは、店の一番奥の方に位置し、照明もあまり届かない薄暗い場所だった。


隣接するテーブルとも敷居がなく、周囲が完全に見渡せるオープンスペースである。


静かにゆっくりと酒を飲みたかったメイルマンとしては、この店の状況が面白くないのか、眉間にしわを寄せたままブーたれ状態だ。


陰気くさい店内に、見てくれだけの能無しメス豚飼いならして、ここは豚小屋かってんだよまったく・・・。


客も変人だらけだし、うるせぇのもいる。


キャーキャー騒ぐなつうんだよ。


と、不満そうにテーブルに向かう途中、通路の脇に座っていた、うるさい3人組みの女をにらめつけた。


(メイルマン)

「こ・・・こいつら・・・。」


メイルマンは一瞬目を疑った。


昼間に受けた、あの屈辱が脳裏をよぎる。


メイルマンが目にした3人とは、先刻からこの店にいついてしまった、チームTomboyの女性陣3人である。


セニフとジャネットはもう完全にできあがっており、ほぼ彼女達の周囲だけが、異様にもパーティ状態となっている。


そして例のごとくアリミアは、黙々と読書にふけっており、狭い円形のテーブルの上には、ワイン、ウィスキーのボトルが、5、6本ほど転がっているのが見て取れた。


一瞬、足が止まったメイルマンは、3人を睨み付けたまま思うのである。


こんなバカっぽいガキ共にやられたのか俺は・・・。


(ランスロット)

「おら、座るぜメイルマン。」


ニュートラルエリアでのチーム間のイザコザは即失格である。


特に主催者お抱えのチームとしては、他のチームを抑えて優勝しなければならない義務があり、つまらない揉め事で失格することなど出来ないのである。


ランスロットの促しに、渋りながらも席に着いたメイルマンだったが、未だ気持ちが収まらない様子で、右足をカタカタと揺らし始めた。


(ランスロット)

「おいおい。落ち着きなって。仕事終わりぐらいゆったりとしようぜ。」


(メイルマン)

「うるせぇな。ほっとけタコが。」


(ランスロット)

「なんだ。ひょっとして、昼間やられちまったことでも思い出したのか?まあ、女子供にやられてりゃ世話ねぇわな。」


(メイルマン)

「黙れ!やられちゃいねぇだろうがよ!てめぇ!それ以上口開いたら、二度と無駄口が叩けないようにしてやるぜ!」


(ランスロット)

「おお。怖え怖え。いきなり新入りに殺されちゃうよ僕ちゃん。可愛そうな僕ちゃん。おお。神よ。この素晴らしき聖者たる僕ちゃんを助けておくれ。」


そういって席を立ち、両手を握り締めて天を仰いで見せるランスロットに、メイルマンは、呆れた表情のまま突っかかるのを止めた。


もはや、こんな訳のわからない輩とは、口論するだけ時間の無駄である。


彼は激しく、無駄な労力を消費してしまったことを後悔した。


(メイルマン)

「おいユァンラオ。何でこんな奴がこのチームにいんだよ。こんな糞蝿置いといたら、まずいだろ。」


(ランスロット)

「タコの次は蝿かよ。格下げだねぇ。」


溜め息混じりに問いかけるメイルマンだが、ユァンラオはまったく彼らに反応を見せなかった。


そればかりか、手に持つ最後の1本となったタバコに火をつけると、思いっきりドギツイ煙を吸い込み、馬鹿な2人に無関心を装ったまま、煙を周囲に撒き散らした。


ちっ・・・。


不貞腐れたように舌打ちをしたメイルマンを他所に、ユァンラオは一人、まったく別の世界に居るかのような、穂のかな笑みを浮かべてみせる。


そして、徐に店内のとある場所に視線を移すと、睨みつけるように一点を凝視し始めた。


彼の視線が向かう先。


そこには、チームTomboyの女性達の姿があった。


(カルティナ)

「久しぶりね。ユァンラオ。貴方からもらったラブレター。とっても面白かったわ。」


突然、ユァンラオの背後に女性が現れ、彼に声をかける。


彼女が、店の奥からアガサに呼び出された「カルティナ・エニオアスカ」である。


彼女もアガサと同じく、カルティナ開店当初からいる数少ない店員の一人で、その美貌はかなりのものである。


彼女はこの店の看板娘であり、店の名前「カルティナ」も彼女の名から付けられたものだ。


その攻撃的で剥き出しの巨葡萄と、スラッと縦に伸びた真っ白い太腿は、数多くの男達を虜にしてきたであろう魅惑の果実。


カルティナはトレー台に乗せてきたグラスを、そっと一人づつテーブルの上に置くと、ゆっくりと順番にブランデーを注ぎいれていく。


そんな彼女の姿に、ランスロットが当たり前のように厭らしい視線を送るのは解るが、そっけないメイルマンでさえ、彼女の姿にはしばし見惚れ入ってしまったようだ。


しかし、誰しもが自分のものにしたいと切望するほどの彼女もまた、3人分のブランデーを注ぎ終わると、ユァンラオの側に擦り寄り、彼の肩へと手を回した。


そして、彼を誘惑するかのように、豊満な胸を肩の辺りに押し付け、人形のような顔を耳元まで近づけると、甘い息を吹きかける。


(ユァンラオ)

「奴か、DNA鑑定するまで話はフラットだな。」


そんな彼女の行為に、まったく少しも関心を抱かないような素振りで彼が言った。


(カルティナ)

「そうね、でも貴方の手紙と彼女のタイミング。期待は大きいんじゃなくて?」


彼女は甘い口調で彼に囁き続けながら、胸の間に挟めておいた未開封のタバコを取りだし、彼の前にそっと置く。


そのタバコの上には、何やら紅い髪の毛のようなものが、2、3本乗せられていた。


(ランスロット)

「ねえ、お姉ちゃん綺麗ーだね。ユァンラオなんかやめて俺にしない?俺って、いい男だぜ。」


(カルティナ)

「あら、初めましてこの店は初めて?」


本当は3度目の来店なのだが、ランスロットは嬉しそうに彼女の質問を肯定して見せた。


こんな客商売をしていながら、3回も店に来た人物の顔を覚えていないのか・・・。


と、しぼみ失われ行く思いがあったのかもしれないが、彼はそれを責め立てるような無粋なことはしないようだ。


(ユァンラオ)

「また来る。」


ユァンラオは手元に置かれたタバコを握り締めると、グラスに注がれたブランデーを一気飲みし、席を立ちあがった。


すでに彼の用事は済んだようだ。


(メイルマン)

「なんだよ。もう帰るのかよ。」


(ユァンラオ)

「お前等は勝手に飲んでいろ。明日は昼からだ。遅れるなよ。」


不思議そうな表情を見せるメイルマンに向かってそう言うと、ユァンラオはまとわり付くカルティナを振りほどき一枚の紙切れを手渡した。


その紙には、なにやら暗号のような数字の羅列がびっしり書き込んであったが、彼女の方が、すぐに何の紙であるか了解した様だ。


(カルティナ)

「確認がとれたらすぐまわすけど、判定Noなら暇でしょ?今夜は空けとくわ。」


(ユァンラオ)

「ああ。」


このユァンラオの返答に、カルティナの表情が一瞬ぱあっと明るくなり、今まで妖しい光りを放ち続けた彼女の瞳が、少女のように澄み渡り始める。


まるで恋する乙女のような喜びようだ。


(ランスロット)

「なあ、あんな奴のどこがいいんだ?」


(カルティナ)

「暗いところ。」


ふと、誰しも思うだろう疑問を投げかけたランスロットに、さらっとした言葉を返すカルティナ。


そして彼女は決まってこういうのである。


(カルティナ)

「貴方みたいなの、どこにでもいるもの。」


ユァンラオは後ろを振り返ることもなく店を後にする。


その落ち着いた風貌からは予想できないほどの気持ちの高ぶりが、今の彼にはあった。


目線はじっと遠くを見つめ、不適に笑みを浮かべたユァンラオは、薄暗い路地の帰路に着くのであった。

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