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Loyal Tomboy  作者: EN
第八話「懐かしき新転地」
172/245

08-25:○ジェニー・デルフス杯[1]

第八話:「懐かしき新転地」

section25「ジェニー・デルフス杯」



「只今の試合。勝者。アプサラス・ロッソ。勝者。アプサラス・ロッソ。時間。2分7秒。」



それは確かに圧勝と呼べる戦いだった。


試合開始と共に、馬鹿みたいに弾丸を撃ちばら撒いてくる敵機の先制攻撃を、軽くいなす様に右後方へと後退、体良ていよく弾丸を回避して見せながら、A1遮蔽物の裏蔭へと逃げ込むと、私は、粗暴の極みとも言える中央突破を敢行し始めた無能なる脳筋野郎に対し、軽い牽制弾をチクリチクリと効果的に突き刺して行く・・・。


対峙する金色の人型DQ「フォルテン・ケンペス」・・・の特殊改良型であろうその機体は、確かにかなりの強固さを誇る装甲板を幾つも身にまとっていたが、訳も無く左腕部を大きく揺り動かしていたので、私はまず、その左腕から吹き飛ばしてやる事にし、自らが搭乗するDQ機体を、遮蔽物の反対側から勢い良く飛び出させた。


直後、呆れる程鈍い反応速度を持って、必死に旋回行動を奏で出そうとしていた相手機の姿を見て、少なからず躊躇ためらいの感情を湧き立たせてしまう事になるのだが、私は、見物客達に派手な戦いを無意味に披露して見せるつもりも無かった為、直ぐに前述した通りの目論みを実現すべく、手持ち武器の弾丸発射トリガーを引いた。



ガンガンガン!


バチバチ!ガキン!


・・・ドスン!



大地へと降り落ちた相手機の左腕は、「黄金団子」とも揶揄やゆされし、「オットトネス家」自慢のDQシリーズのイメージをそのままに、相当重たそうな雰囲気を如実にょじつにひけらかしながら、大きな地鳴りを吐き上げた。


・・・と、同時に、試合会場内に沸き起こった大きなどよめきが、激しい攻撃的意識側へと寄り傾いた私の脳裏の片隅へとまとわり付く・・・。


私は、この程度で歓声を上げるな・・・などと言う、苛立いらだたしさを強く込め入れた舌打ちを一つ吐き出し、次なる遮蔽物の裏蔭へと向けて、勢い良くフットペダルを踏みしだくと、次第に反撃の構えへと転じうごめき出していた、相手機の挙動を横目でチラリと窺い見て取った。


そして、そのままの勢いを持って遮蔽物の裏側を一気に駆け抜ける・・・様相を強烈に印象付けながら、相手機からは完全に死角となる場所位置で急速停止、急速反転、急速発進を奏で出し、元来た道筋を戻り進む様な形で、一気に中央広場へと躍り出た。


するとやはり、完全に逆を付かれた格好で、右側面部を曝け出していた敵機の姿がそこにはあり、不意に溜息を吐き付ける事さえ面倒臭くなってしまった私は、即座にトドメとなる攻撃を繰り出してやった。


結果、ほとんど無防備とも言える情けなき態勢のまま、私の撃ち放った弾丸の全てを受け食らう事となった相手機は、反撃らしい反撃へと転じる様子さえ垣間見せる事が出来ずに、大量に吐き散らされた色濃い黒煙の中で朽ち果てる事になる。



二分・・・二分も要してしまったのか・・・。この程度の相手に・・・。



・・・とは、勝ち名乗りを受けた後で、思わず脳裏をかすめ過ってしまった私の所感である。


観客から浴びせ掛けられた盛大なる拍手喝采はくしゅかっさいも、何処か形式ばった心無い祝福の様に聞こえてしまい、私は、全く持ってつまらぬ相手と戦わされる羽目になったものだと、残念がる以上に、強い憤りを感じ得てしまう事となった。



メヌシア地方マータリアルム・コロッセオで開催されたジェニー・デルフス杯の一回戦。


私は、「オットトネス・ジーダ」なるコードネームを称す者を打ち倒した。



・・・正直に言えば、もっとマシな腕を持つパイロットが相手だと思っていた。


前回大会の第二回戦で相見えた金色の同型DQ機との戦い・・・、「オットトネス・ジーダ」なるコードネームを称す者との戦いにおいては、かなりの苦戦を強いられた事を、今でも覚えている。


・・・が、しかし、どうやら今回は中身が違ったようだ。



「もう少し観客達を喜ばせる様な、派手な戦い方は出来なかったのか?今大会のオープニングを飾る大事な一戦だったって言うのに、お前も案外芸の無い奴だな。」


試合を終え、所属する各チーム別専用に預け与えられていた特設ガレージへと帰り戻った私は、搭乗する鉄紺てつこん色のDQを降りるなり、黒髪の垂れ目男から小憎らしい呆れ顔を浴びせ掛けられる事となった。


彼の名前は「ベトラッシュ・レブ・デューター」。年齢は十七歳。


私と同じ「アプサラス家」のDQチームに所属するチームメイトの一人で、今回の大会には「アプサラス・ベルデ」なるコードネームを使用して参加している凄腕のDQパイロットだ。


つまりは、完全なる個人戦のみで構成される今大会において、私の優勝を阻む得る最右翼・・・、最大最強の障壁と成り得る存在と言う訳で、私は直ぐに「余計なお世話だ!」などと言う、敵愾心てきがいしん剥き出しの返答を突き返してやると、非常に色濃い闘争心を強く込め入れた鋭い視線を持って睨めつけてやった。


・・・が、しかし、割と飄々(ひょうひょう)とした感もある彼は、そんな私の強硬的姿勢に何ら物怖じする風でもなく、至って普段通りの大人びた笑みを薄っすらと浮かべ上げながら、口やかましき小言を幾つも並び立ててくるのだ・・・。



「この大会は、実力のある貴族達がお互いに持ち寄った御自慢のDQを、周囲に見せびらかすお披露目会でもあるんだからな。ある程度、相手の面目を保つ様な戦い方を心がけないと、主催者の顔に泥を塗る事になってしまうぞ。」


「ふん。いちいちそんな事まで気に掛けていられるか。実力も無い癖にしゃしゃり出て来る様な奴らが悪いのだ。大体何だ?先程の相手は。あれで一端のDQ乗りなどと、よくもまあ恥ずかしげも無く言えたものだ。君もそう思うだろ?」


「実力も無いような無能な輩に高価なDQをポンと貸し与えるほど、奴等もそう気前良くはないと思うがな。恐らくは、それなりのパイロットがちゃんと搭乗していたと思うぞ。・・・ただ、相手のパイロットが、フォルテン・ケンぺスの強固な防御力を、過信しすぎていた感は多少あった様だがな。」


「多少?」


「まあ、そう言うなよ。まさか相手パイロットも、あそこまで効果的に弾丸を撃ち据えられるとは、思ってもみなかった事だろうしさ。常に揺り動く装甲板の僅かなる隙間を狙って、的確に弾丸を撃ち込むなんて荒業は、そんじょそこらに転がっている様な、二流以下のパイロット達には絶対に真似できない芸当だぞ。つまりは、お前の技量がずば抜けて高かったと言う事だ。」


「ほーう。君の口からお世辞が聞けるとは思ってもみなかったな。」


「まあ、褒めるに値するのは、DQパイロットとしてのお前の技量までで、エンターティナーとしてのお前の振る舞いは、人並み以下と評す以外に無い所だがな。観客を魅了する様な戦い方を披露して見せるのも、俺達に課せられた義務の一つだと思うぞ。」


「・・・と言うからには、君は見せ付けてくれるのだろうな。見る者達を真に魅了する華々しきエンターテイメントとやらを。」


「ふっ。では、存分にお見せして差し上げるとしましょうか。勿論、お前の戦意を喪失させない程度にな。」



・・・やがて、大そうな大風呂敷を盛大に投げ開いて、私の元から颯爽さっそうと立ち去って行った彼は、午後の部の二番手試合、一回戦の第六試合に姿を現し出すと、まさに有言実行なる、見るもあでやかな白熱した激戦をド派手に繰り広げて見せ、更にその上で、ほぼ無傷に近い形での完全勝利と言う成果を、しっかと収め得て見せた。


彼の対戦相手である「ノ・グリヨン」なるパイロットは、見るからに素人臭いたどたどしさに塗れ沈んでいた様にも感じ受けられたが、一見してわざとらしくなく、次第に相手の攻勢を誘い呼び込む様な仕草を、適度に混ぜ入れて行ったべトラの思惑が見事功を奏し、試合は一時、観客が総立ちになる程の壮絶な撃ち合いを奏で出すレベルまでに昇り至った。


勝者へと浴びせかけられた盛大なる拍手や、にわかに色めき立った観客達の湧き立ち様も、私が出場した第一試合とは明らかに異なる、晴れ晴れしき雰囲気を如実にかもし現していた様であり、私はこの時、非常に悔しい思いにさいなまれてしまった。


そして、威風堂々たる形様でゆったりと退場し行く、鉄紺てつこん色の僚友機をじっと睨み付けながら、こう思ったのである。


「そんな戦い方で、この私に勝てると思うなよ。」・・・と。


それは、云わば単なる負け惜しみだった。




その後、私は取り敢えず大会期間中の仮宿であるホテル「クリスタル・メルキュール」へと戻り、お目付け役であるテヌーテと再会、べトラを交えて、三人で夕食を取る事にした。


大会初日となる本日のスケジュールは、一回戦の八試合のみを執り行って終了となり、残りの試合は全て、明日の二日目に執り行われる事になっていた。



<ジェニー・デルフス杯>二日目のスケジュール


~~~午前の部~~~


二回戦:第一試合(A1)

アプサラス・ロッソ vs エレーネミンツ・ハフス


二回戦:第二試合(A2)

アルマイール・ハフス vs マギサ・トゥエルノ


二回戦:第三試合(B1)

シャフツ・ロイ vs アプサラス・ベルデ


二回戦:第四試合(B2)

エレーネミンツ・スタラ vs バトストフ・スタラ


~~~午後の部~~~


準決勝:第一試合(C1)(二本先取制)

(A1)の勝者 vs (A2)の勝者


準決勝:第二試合(C2)(二本先取制)

(B1)の勝者 vs (B2)の勝者


決勝(二本先取制)

(C1)の勝者 vs (C2)の勝者




「・・・取り敢えず一通りの試合に目を通しては見たが、気に掛ける程のパイロットはほとんどいなかったな。それなりの技術を有していると言える者も、我々の他に二、三人が居た程度だ。」


「まあ、まだ一回戦を終えただけだからな。手の内を明かさず適当に遊び倒した者もいるだろう。」


「君の様にか?」


「俺は必死だったさ。何せ、不肖ふしょうなる僚友の為に、戦い方の何たるかを教え説かねばならない身だったんでね。」


「ふん。つまらぬ相手にレベルを合わせて戦うすべなど、戦場においては何の役にも立たぬ。私にとっては無用の長物なる代物だ。身に付ける必要性を微塵も感じ得ないな。」


「確かに、戦場においては不必要と言える瑣末さまつな代物には違いないだろうさ。だが、こう言った種の大会を盛り上げる為には、絶対的に必要欠くべからざる重要な要素の一つでもある。猛烈に殺気立った闘志を吐き放って、一瞬の内に相手をくびり倒してやるのも良いが、偶にはもう少し、観客達の目を楽しませてやる様な遊び心を取り入れて、余裕ある戦い方をして見せてもいいんじゃないか?」


「私は観客達を楽しませる為にここに来たのではない。新たなる強者達と相見あいまみえる為にここに来たのだ。全身全霊を傾ける事でしか獲得し得ぬ勝利と言う二文字を目指し、戦う事の出来る場を強く望んでな。・・・それが何だ。このザマは。決勝戦に辿り着くまで、何一つ楽しめそうにない消化試合をこなすだけではないか。全く持ってつまらぬ大会だ。」


「・・・そう言って、簡単に足元をすくわれる様な間抜けな輩達が、世の中には沢山いる。お前も十分に気を付ける事だ。明日の決勝戦は、俺とお前とで執り行う予定になっているんだからな。」


「当然だ。君の方こそ、無用な余所事よそごとに意識を奪われて、敗北を喫する様なヘマをやらかすなよ。明日はゲイリー様がお見えになられるんだからな。」


「ふっ。解っているよ。」


ホテル「クリスタル・メルキュール」の最上階にある豪華なレストラン内で、窓際に据え付けられた円卓テーブルを囲んでいた我々三人は、次から次へと運び込まれてくる贅沢な料理を、遮二無二しゃにむにむさぼり食しながら、本日執り行われた各試合の感想戦や、明日の試合に関する展望戦などを忌憚きたんなく執り行った。


お互いがお互いに決勝戦へと進み至る事を信じて疑わない者同士、時折、激しい論争へと発展しそうな勢いに駆り立てられるものの、毎度毎度、絶妙のタイミングで穏やかな横槍を入れて来るテヌーテの妙技が光った事も有り、その場の会話は比較的平和裏に流れ進む事となった。



「それはそうと、今日の昼過ぎぐらいに整備員の一人から聞かされた話なんだが、今回の大会にギュゲルト様がお見えになられているって、本当か?」


「ギュゲルト様?親衛隊の・・・、あのギュゲルト様か?」


「ああ。俺もまさかとは思って、他の者にも色々と聞き込みしてみたんだが、二人、三人と、数こそ少ないが、同じ事を言う様な輩達がチラホラと現れ出てきてな。勿論、真意の程は未だ定かではないが、お忍びで来られている可能性は十分にある。」


「何かの間違いじゃないのか?こんな大会にギュゲルト様がお見えになられるはずが無かろう。第一、お忍びで来られる理由がない。」


「それはそうだが、そんなデマ話を態々(わざわざ)垂れ流す理由も見当たらないだろ?もしかしたら・・・、優勝者には特典として、ギュゲルト様と一戦交える権利を与えられるとか、そんなサプライズ的要素が隠されているかもしれんぞ。」


「まさか。他人の空似を見間違っただけだろう。人違いだ。人違い。」


・・・と、言いつつも、私は不思議と高鳴る胸の鼓動を押さえ付ける事が出来なかった。


皇帝専属自兵部隊「フランクナイツ」に所属する「ギュゲルト・ジェルバート」将軍と言えば、兵士として最強、指揮官として最高たるや名声を欲しいままにする帝国軍随一の猛将で、剣術、格闘術、射撃術と言った、戦士としての基本的戦闘能力の高さは当然の事、戦車やDQと言った機動兵器を取扱う技術に関してもずば抜けて高い能力を有しており、時に、オートジャイロや戦闘機をも操ると言われる超万能型の戦士である。


特に、DQを操る技術に関しては、帝国軍内でも決して右に出る者は居ないとされ、対峙する者達を完全に圧倒し、見る者達を完璧に魅了するその戦い振りは、まさに鬼神と称すに相応ふさわしき神々(こうごう)しさに満ち溢れていると称される程のものだった。


流石に指揮官たるや地位に納まり入る様になってからは、そう言った事から迂遠になっている様子だが、私達の様なDQ乗りにとってギュゲルト様の存在は、云わば伝説的英雄、憧れ的存在以外の何者でもなかった。



もし本当ならば・・・と、不意にそう思い付いてしまった私は、翌日の試合に向けてのやる気が、俄然がぜんみなぎってくる感を覚え、無意識の内に握り締めた右手拳に、強く強く力を込め入れていた。



その後、明日の朝一番の試合に出場する事になっていた私は、直ぐに二人と別れ、自分の部屋へと舞い戻った。


そして、就寝前の準備作業を一通り全て終わらせた上で、窓の外に広がる美しいメヌシアの街の夜景をしばし眺めながら思いを巡らす。



明日の決勝戦は、必ず私が勝つ。


べトラには悪いが、今回も私が勝つ。


お互いに手の内を知り尽くした者同士の戦いとなるが、下手な小細工をろうする必要など無い。


正々堂々、真正面からぶつかり合い、雌雄を決するだけだ。


勿論、べトラも同じように考えている事だろう・・・。



見ていろよべトラ。


勢いのみで勝ってきたこれまでの私とは違うぞ。


そして・・・。



やがて、程なくして、私はベッドの中へと潜り入り、静かに両目を瞑って翌日の朝を迎え待つ事にした。


・・・が、しかし、その夜は、中々寝付けそうに無い雰囲気が、私の心の奥底の真たる部分にしっかと纏わりき、悩ましき高揚感をいつまでもぐずぐずとあおり立てて来るのだった。



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