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Loyal Tomboy  作者: EN
第八話「懐かしき新転地」
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08-23:○秘密の抜け道

第八話:「懐かしき新転地」

section23「秘密の抜け道」



これは、パレ・ロワイヤル基地内の通常一般回線を使用して遣り取りされた通話内容を記録したものである。


勿論、軍機密情報の漏洩ろうえいと言う事態を防ぐ為に、その通話内容については全て記録、監視される事となっており、使用するに際しては、事前に情報部に申請書を提出しなければならない。


その上、通話時間も10分以内と言う制限が設けられ、申請したからと言って、必ずしも使用許可が下りるとは限らない代物である。


パレ・ロワイヤル基地における申請書の受け付けは、ネニファイン部隊の通信オペレーター兼秘書官である「チャンペル・シィ」が担当し、通話内容の記録、監視については、別の専門機関が執り行う決まりとなってた。



EC397年7月3日午後6時頃から午後7時頃までの通話記録より一部抜粋。




<回線一番・・・非常に良く有りがちな例>


「はい。ハーツです。」


「ああ。お母さん?私。私。」


「ジョルジュ・・・。ジョルジュかい?」


「うん。そう。久しぶり。」


「まあまあ。本当に久しぶり・・・。久しぶりだねぇ・・・。お前、元気でやっているのかい?」


「うん。元気でやっているよ。そっちは変わりない?」


「こっちはもう全然・・・、私もお父さんも変わりないよ。」


「そう。良かった。お父さんは?」


「お父さんはまだ会社から帰ってきていないけど・・・、ジョルジュ。それよりお前、もう少しマメに連絡をくれるとかできないのかい?戦争が始まったって聞かされてから、私もお父さんも、お前の事、凄く心配していたんだよ。軍の方に連絡を取っても、軍機密に触れる事だからの一点張りで、生きているって事以外に、何も教えてくれないんだから・・・。そりゃぁ私だって、軍人さんって立場上、仕方がない事だとは思っているんだけど・・・。」


「ごめんなさい。お母さん。今度からは定期的に連絡を入れる事にするよ。」


「本当にそうしておくれ。私もお父さんも、お前の事を、いつもいつも気に掛けているんだからね。」


「うん。ありがとう。必ずそうするよ。」


「ところでお前、今何処に居るんだい?発信元が不明って出ているんだけど・・・。」


「ああ・・・ごめんなさい。お母さん。それは言えない事になっているんだ。それと、あんまり長話も出来ない事になっているから・・・。本当はゆっくりお話ししたい所なんだけどね。」


「そうかい。・・仕方がないねぇ・・・。ああ、そう言えばお前、何か必要な物とかは無いのかい?何ならこっちから送ってあげるよ。」


「ううん。大丈夫だよ。ありがとう。」


「そうかい・・・。」


「それじゃぁ。お母さん。今日は声が聞けて嬉しかったよ。お父さんにもよろしく言っといて。また連絡する。」


「はいはい。お前も身体に気を付けて、元気でね。何か必要なものがあったら、直ぐに連絡をよこすんだよ。」


「うん。解った。・・・それじゃあ。」




<回線二番・・・これまた非常に良く有りがちな例・・・の亜種>


「もしもし。」


「もしもし。トロントさんのお宅でしょうか?」


「はい。そうですが。どちら様でしょう。」


「私は、お宅の大事な娘さんをお預かりしている者です。」


「・・・。」


「ふっふっふ・・・。よろしいですか?奥さん。これから私の言う事を良く聞いて、落ち着いて行動してください。」


「・・・。・・・はい。」


「まず最初に、お宅の娘さんの価値に見合うだけのお金を用意してください。そして、これから指定する口座にそれを振り込んでください。そうすれば、娘さんを無事に返してあげますよ。メモの御用意はよろしいですか?」


「・・・。ええと・・・。メモですね・・・。メモ・・・。あら?何処にやったかしら・・・。」


「・・・。もしかして、電話機の右上にある引き出しの中に入っていたりしませんか?」


「引き出し・・・引き出し・・・。・・・ええ、ありました。」


「それでは、これから口座番号を言いますので、お間違いになられない様に、しっかりとメモを取ってください。」


「はい。どうぞ。」


「・・・。ああ・・・ええと、その前に、娘さんの無事を確認したくはありませんか?」


「いいえー。」


「娘さんの声なんかを聞きたかったりしませんか?」


「いいえー。」


「・・・本当の事を言うと、私の方が確認したいのですが・・・。」


「いいえー。駄目でーす。」


「そんな事を言わずに・・・。せめて声だけでも・・・。」


「ふふふっ・・・。よろしいですか?旦那さん。これから私の言う事を良く聞いて、落ち着いて行動してください。」


「・・・。・・・はい。」


「まず最初に、私達がしばらくの間、つつがなく生活できるだけのお金を用意してください。そしてそれを、いつもの口座に振り込んでください。そうすれば、娘さんの声を聞かせてあげてもいいですよ。よろしいですか?」


「・・・解りました・・・。」


「うっふふふ。素直でよろしい。」


(・・・コレットー!こちらにいらっしゃーい!パパからお電話よー!)


(はーい!)


「ねぇ。グレイ。あなた元気にしてた?風邪なんかひいてない?」


「ああ。大丈夫だよ。君も元気だったかい?」


「ええ・・・。私は大丈夫。でも・・・コレットが・・・。」


「コレットがどうかしたのかい?」


「ううん。病気とかそう言うのじゃないの。ただ・・・私の見ていない所で、時々一人で泣いていたりするのよ。私、可哀想で・・・。」


「そうか・・・。」


(パーパ!パーパ!)


「お願いグレイ。励ましてあげて。」


「解った。愛しているよ。ジェニファー。」


「私もよ。グレイ。」


(・・・はーい。コレット。パパですよー。)


(あぁー。)


「・・・もしもし?パーパ?」


「うん。パパだよ。コレットー。元気だったかい?」


「うん!元気元気ーーー!コレット、いつも元気いっぱいだよ!」


「そっかー。それは良かったねー。」


「ねぇねぇ。パーパも元気ー?」


「うん。パパも元気元気ー。・・・でもねー。コレットに会えないのが残念で、毎日毎日とても寂しいんだー。」


「パーパも寂しいの?」


「そうさー。パパも寂しいんだよ。」


「そっかー・・・。パーパも寂しいんだー・・・。」


「いいかいコレット。パパは寂しいけど頑張る。次にコレットと会える日まで頑張る。だからコレットも頑張るんだよ。寂しいだろうけど、ママと一緒に頑張るんだよ。」


「・・・。」


「コレットは頑張り屋さんでしょ?コレットになら出来る。パパはそう信じてる。」


「・・・うん。」


「コレットが頑張ってくれたら、今度ご褒美に遊園地に連れてってあげる。お土産も沢山買っていってあげるよ。」


「ええっ!?本当!?うわーい!!やったぁ!!遊園地!!遊園地!」


「だから約束だよ。コレット。ママと一緒に頑張るって。」


「うん!解った!コレット頑張る!」


「それからね、コレット・・・。」


~~~以降、時間切れまで続く・・・。




<回線三番・・・決して少ないとは言えない例>


「はい。もしもし。」


「ああ、アイカ。俺だよ。ステイニー。」


「ああ。ステイニー。どうしたの?」


「いや、少しお前の声が聞きたくなってな。電話してみたんだ。」


「そう。」


「どうだ?そっちは。変わりないか?」


「ええ。別に変わりないわよ。」


「そうか。それは良かった・・・。こっちも特にこれと言って変わりない。」


「そう。良かったわね。」


「・・・。ああ、そうだ。そう言えば来週の火曜日、お前の誕生日だろ?俺、その日に合わせて休暇を取ろうかと思っているんだけど、お前の都合を聞いておきたくてな。どうだ?何処かで落ち合う事は出来ないか?」


「・・・ああ、ごめんなさい。ステイニー。その日は親戚のおばさんのお葬式の日になっちゃって・・・。」


「・・・戦争の被害にでも遭ったのか?」


「ううん。事故で・・・。」


「そうか・・・。・・・。じゃあ、その後でもいいだが、何処か都合の付く日は無いか?」


「うーん・・・。先の事は、まだなんとも・・・。」


「少し会うだけでも良いんだ。何とか時間を作ってくれないか?」


「・・・。・・・ああ、ステイニー。悪いけど・・・。もう電話してこないで・・・。」


「えっ?アイカ?」


「・・・私、もう、貴方の事、忘れるわ。」


「おい!アイカ!一体どうしたって・・・!」


「それじゃ、さよなら。・・・プツッ。プーッ。プーッ。プーッ。」


「・・・。・・・ああ。なんてこった・・・。」



・・・と、この様に、軍事基地内から発せられる一般回線の通話内容は、時に、痛々しき悲壮感に塗れた人間模様をリアルに描き入れながらも、そのほとんどが、比較的穏やかで、より平和的温厚さに塗れ富んだ遣り取りであると言えた。


もっとも、その通話内容が完全に記録され、監視までされているという状況下にあって、馬鹿正直に悪事を働く者など皆無に等しかった事も事実だが、それでも他の軍事基地においては、様々な暗号や隠語などを駆使して、秘密の会話を成立させようと試みる不届き者共が、後を絶たないと言う状況であった。


勿論、そう言った輩達の多くは、後日になって必ず捕らえられると言う、悲しき結末へと転がり落ちる事となるのだが、極々稀に、監視員達の目を完全にあざむいたままに、堂々と怪しげな会話を遣り取りする輩もいたのだ。



これは、巧妙な細工を施して作りこしらえられた秘密の抜け道を利用して、人知れず遣り取りされた通話内容である。


言うまでも無く、それは基地内の監視システムに記録される様なものではなかった。




<回線??・・・特殊な手段を用いた例>


「あら?随分と遅かったのね。貴方にしては、結構梃子摺てこずった方なんじゃなくて?」


「ふっ・・・。新しい根城に住み付く様になってから、何かと他にやる事が多くてな。」


軽挙妄動けいきょもうどう、大胆不敵。それが貴方の代名詞だって言うのに、珍しく慎重なのね。中継基地の全てに仕掛けを施し入れるなんて、貴方らしくも無いわ。」


遠慮近憂えんりょきんゆうを心得るからこそ、軽挙妄動けいきょもうどうなる振る舞いが許される。用心堅固ようじんけんごなればこそ、大胆不敵でもいられる。如何に獰猛な猛獣であっても、爪を研ぎ澄ませる時間は必要だ。」


「解っているわ。貴方が執拗しつように爪を研ぎ澄ませる時は、出来るだけ獲物をもてあそんでやろうって考えている時なのよね。そんなにあの娘の事が気に入ったのかしら?」


「いや。奴自身にしたる興味はない。奴の周囲で踊り出す輩達の狂騒に興味があるだけだ。それも、飛び切り巨大な力を持った権力者達の馬鹿騒ぎにな。」


「うっふふ・・・。ほーんと、悪趣味な奴・・・。絶望的なまでに惚れ直しちゃうわ・・・。」


「それで?依頼人の素性については何かつかめたのか?」


「うーん。そうね・・・。もう少し私の心をもてあそぶ様な、言葉の遣り取りをしてくれたら教えてあ・げ・る。こう見えても私、結構意地汚い雌犬なんですから。もっとちゃんと餌を与えてくれなきゃ駄目よ。」


「ふっ。お前が俺を満足させるだけの踊りを披露して見せるって言うなら考えてやってもいい。」


「・・・ほんと、意地悪な男・・・。まあ、いいわ。そんな貴方だからこそ、私の心がときめく訳だし。今回もツケって言う事で許してあげる。じゃあ、まず最初に、貴方の興味心をくすぐる依頼人の情報からね。私も初めて会った時は少し驚いちゃったけど、相手はまだ二十歳にも満たない生意気な若僧だったわ。名前は「レジェス・ウィルナー」。年齢は19歳。出身地、家族構成などは一切不明。つい最近まで、セレーヌ地方のウィルダラネス家に厄介になってたって経歴があるみたいだけど、特にこれと言って不審な点は見当たらないし、軍での経歴も、社交界でのお披露目も無し。」


「今現在の所属は?」


「表向きにはストラ派って事になっているみたい。見た所、結構それなりの力を持っている風でもあったわ。」


「ふーむ。・・・やはり、もう少し泳がせて見ない事には、何も解らんか。」


「それでね。実際に彼と会って、一つだけ解った事があるんだけど、どうやら彼、まだあの娘の事を、本物の皇女だとは思っていないみたい。」


「ほーう。・・・すると奴は、皇女が本物か偽物かも解らぬ状況で、五大貴族にその情報を流したと言う事か。」


「そう言う事になるわね。・・・恐らく彼は知っていたのよ。不確かな情報であっても、貴族達が目の色を変えて慌てふためくであろう、事の成り行きをね。」


「ふっふっふ。面白い。中々に興味深い輩だ。」


「取り敢えず今後、彼の指示に従って動いてみるつもりでいるんだけど、別に構わないでしょ?貴方も、彼が泳ぐ沼の底が一体どうなっているか、興味がある所でしょうし。それに、実はもう、彼の指示で動き始めちゃっているの。後付けになるけど、ご主人様の了承をいただけるかしら?」


「今何処に居る?」


「今貴方が居る所から、そう遠くない場所。スーリンって言う小さな街よ。」


「奴の要求は?」


「これまた意外や意外。前回と余り変わり映えしない、後ろ向きな内容・・・と言ったところね。ただ今回は、とてもあざとい趣向を凝らした、面白い手段を用いる事になりそうだから、私としては、凄くやってみたいと思っているの。どうかしら?」


「・・・いいだろう。俺も奴がその後、どう言った動きを見せるのか、非常に興味がある所だしな。」


「うっふふふ・・・。流石は私のご主人様。貴方ならきっとそう言うと思ったわ。」


「依頼人の素性に関しては引き続き調査を続行しろ。それと、ウィルダラネス家の詳細についてもだ。」


「そして加えて、あの娘に関する調査も続けろって言うんでしょ?全く・・・。人使いが荒いんだから、貴方って人は・・・。」


「ふっ・・・。お前が優しく扱われて喜ぶ様なタマなら、そうしてやってもいいんだがな。」


「嘘ばっかり・・・。貴方は、そんな女をいびり倒して楽しむのが趣味なんでしょ?ほんと、酷い性格していると思うわ。」


「そして、お前は、そんな男にいびり倒されて楽しむのが趣味って訳か。何とも救い難いさがだな。」


「うっふっふ・・・。お互いにね・・・。・・・っと、そうそう。そう言えば、今回、ひょんな事から、面白い駒を手に入れたの。興味ある?」


「どんな輩やも知れぬ人物を相手に、興味心を抱くほど俺は暇じゃない。もっとも、それなりに使い道がある駒って言うなら話は別だがな。」


「使い道があるかどうかは、まだ解らないけど、中々に興味深い経歴の持ち主よ。今はちょっと精神的に病み疲れているみたいだけど、もう少し落ち着いたら、優しく尋問でもしてみようかなんて思っているわ。もしかしたら、大変な拾い物かも。」


「ほーう。お前がそこまで言うのなら、多少は期待が持てそうだな。一体どう言う人物だ?」


「うっふっふ・・・。それはね・・・。」



異様なまでの禍々(まがまが)しさを装い被りながら、幾度となく遣り取りされたその通信内容は、その後も、しばらくの間続けられる事となった。


そして、それは、決して誰の目に触れる事無く、決して誰の耳に聞き捉えられる事無く、平穏無事なる終着点へと辿り着き、真っ黒い闇夜の中へと静かに掻き消えて行くのであった。

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