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Loyal Tomboy  作者: EN
第一話「ルーキー」
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01-16:○漆黒の水面下[1]

第一話:「ルーキー」

section16「漆黒の水面下」


夜更けと共に、次第に街の明かりが乏しくなり、一時の静けさが街を覆い始める。


もうすでに日も変わり、ニュートラルエリア「アルファ」のメインストリートは、街影から伸びる漆黒の水溜りに呑まれかけていた。


この時間ともなると、街を徘徊する人々の様相は一変し、見るからに怪しげな人達の姿が目立つようになってくる。


表立って一般人に危害を加えるような事はないのだが、DQA大会期間中のみ賑わいを見せるこの都市には、大会規約事項以外は、ほとんど法律のない無法地帯なのだ。


勿論、形式的に警察が周囲をパトロールすることで、同地域での治安の維持に努めているため、毎年、ほとんど大きな問題は発生していない。


しかし、それは表立って事件が表面化していないだけであって、実際は、強盗、強姦、殺人などに加え、軽犯罪まで含めると、毎晩のように問題が発生しているのが現状だ。


では何故、それほど多くの事件がおきていながらにして、表立って大きな問題にならないのかというと、その事件当事者のほとんどが軍関係者であり、黒幕とも言える犯罪者グループのリーダーを含め、警察内部とも、実は裏で繋がりがあるらしいのだ。


ここ廃都市ブラックポイントは、DQA大会開催期間以外は、トゥアム共和国陸軍軍部のみを置く、特別指定区域となっているために、詳しい捜査を実施することも許されず、今までに、闇から闇へと葬り去られてしまった人の数は、軽く三桁を超えるであろう。



そんな危険な街の横道に、一つぽつんと光りが灯っていた。


その店は、知る人ぞ知るブラックポイントの穴場であり、酒代、食事代がかなり安く、その上、店員の女性は揃って美人という、曰く付きの飲み屋である。


無論ブラックポイントの穴場というぐらいだ。ただの飲み屋ではない。


常連客のほとんどが、上流階級出身者や政府関係者で、彼らの目的とは、楽しく酒を飲むことでもなく、誰かと楽しく語らうでもなく、周囲にそれとは知られないように行われる「人身売買」である。


この店「カルティナ」の店主「レアル・サルス・バティ」は、主に美人系、可愛い系の少女達を各地でかき集め、毎年DQA大会開催時期に合わせて、人にそれとは悟られないように店を開く。


そして、売買対象となる女性達を、その店の女性店員という形で常連客にお披露目するのだ。


この女性達には「自分が売られている」という意識は無く、単に同地域の繁忙期に合わせて、出稼ぎに来ているだけである。


しかし、店主と常連客の間で、売買成立のサインのやり取りがなされると、その女性は人知れず、急用により帰郷することになるのだ。


(セニフ)

「あははははっ!!いいじゃん。いいじゃん。もっと飲んでよオーナー!!」


(ジャネット)

「ねえオーナー?今日は遅くまでいいんでしょ?もっと飲もうよぉ〜。」


そんな危険極まりない店の中に、ある種不似合いな黄色い声を、撒き散らす女性達がいた。


薄暗く、おしゃれな雰囲気をかもし出す店内には、巨大なディスプレイがあり、各チームが繰り広げた昼間の戦闘ダイジェストが、静かに放送されている。


時間的にまだ一般客を多く抱えたこの「カルティナ」に、いつもの怪しげな気配は「なり」を潜めてはいたが、安らかな音楽の流れる心地よい空間をぶち壊す彼女達の騒ぎ声に、その一般客達ですら、どこか殺気立っているようにも見える。


チームTomboyの女性パイロット3人組みは、単に昼間の戦闘の慰労会で、この店を訪れただけであり、彼女達に混じって、珍しくも中年男性が一人、メンバーとして加わっていた。


(ラックス)

「あはは。いいね、いいね。仕事終わりに美女に囲まれて飲むビール。最高だねぇ。」


その男、見てくれはみすぼらしく、ちょっと変なただのおっさんにしか見えないのだが、彼こそがチームTomboyのオーナー「ラックス・ムーズ」であり、スポンサー会社「LNR社」の社長である。


チームオーナーたるもの、自分のチームのことを熟知していてもよさそうなものなのだが、彼はDQAチームオーナーとしては珍しく、ほとんどチームTomboyの事に関して興味を抱かない。


今日のこの飲み会も、単なる仕事終わりに飲む酒と大差なく、彼は未だに今日、チームTomboyがどのような戦い方をし、どういう結果となったのかをまったく知らなかった。


興味が無いからなのだと言えば、まったくその通りなのだろう。


彼の目的は自社DQ製品のデモンストレーションでもなければ、自社のイメージアップ宣伝でもない。


では何故、このようなDQA大会に参加しているのかと言えば、それは誰にも解らない謎なのである。


しかしそんなラックスにも、たった一つだけ気にかけていることがあった。


それは、チームTomboyのDQ機体状態についてだ。


セニフ達から見れば、彼は自分達の雇い主であって、その状態が「どんな状態であれ」報告しなければならない義務がある。


おそらく何も言わないまでも、彼が彼女達の元を訪れたのも、そのDQ機体状態を報告してもらうためなのだろう。


彼女達にとっては気が重いはずだ。今日の結果では・・・。



どう話を切り出すにしても、報告すべき結果は同じ。


ならば、できるだけ予想される被害を最小限に・・・。


セニフが何やら右手の中指で鼻の頭をなでなでしている。


「作戦決行」の合図だ。


ジャネットはそれを見て、人差し指と親指で丸を作り、右目にあてがった。


「OK」の合図だ。


彼女達の「作戦」は、とにかくラックスに酒を大量に飲ませ、思考能力が低下したところで、アリミアが巧みな話術で論破すると言うものである。


あまりに稚拙で単純な作戦ではあるが、陥った結果を取り繕うこともできない彼女達にとって、もう、アリミアの口撃に頼る他ないのだ。


しかし、そんな作戦を目論む彼女達の思いとは裏腹に、ラックスは酒をあまり大量には飲まない。


飲むといえば他社重役との接待時に飲む程度であり、普段から口にする酒の量は、ほろ酔い加減にも満たない程度である。


そこで彼女達は、強引な手法で彼に酒を進める手法を取った。


(ジャネット)

「ねぇ、もっと飲んでよ、オーナー。私。もっと強いオーナーが見たいなぁ。ねぇ〜飲んでみせてぇ。」


猫なで声のジャネットが妖しくラックスに擦り寄ると、その豊満な胸をラックスの腕に密着させつつ、彼の耳元で囁きを入れる。


どうやら色香でラックスを魅了し、酒をガンガン飲ませようという魂胆らしい。


(ラックス)

「あはははっは。オーケーオーケー。どんどん飲んじゃうよ。」


さすがに未婚の中年男性には、かなり利く攻撃だ。


ジャネットの誘惑を断る事もできないラックスは、年甲斐も無く顔を赤らめ、言われるがまま酒をあおるしかないようだ。


セニフも同様にラックスに擦り寄るのだが、擦り付ける「豊満な胸」など彼女には存在しない。


彼女は自分の胸をまじまじと眺めると、唇をツンと尖がらせ、一瞬泣きそうに眉間にしわを寄せた。


しかし、そんなセニフに気がついたジャネットが目線で合図を送ると、セニフはまた満面の笑みを浮かべ、ラックスに酒を注ぎ始めるのである。


彼女にも十分可愛さと言う魅力が備わっているのだが、この年頃の少女は、どうしても他の美しいものに引かれ、羨むのもである。



セニフはラックスの顔色をじっと観察し、アリミアに合図を送るタイミングを見計らっていた。


顔が大分赤くなってきたね。


こういうタイプのオジンは、昔、酒で失敗した経験があって、飲まなくなった奴が多いのよねぇ。


たとえ、昔、大酒飲みだったとしてもかなりブランク有るでしょ?


常に飲んでる私にかなうと思う?


早いところ、潰れてしまえ。えへっへっへ。



とても16歳とは思えない思考だ。



作戦は滞りなく、万事順調に進行している。


次第に、かなり赤らんで来たラックスの表情が、その酔いと眠気で弛み始めたころ、最後の止めを刺すタイミングを見計らっていたセニフが、チラリとアリミアの方に視線を向けた。


彼女は黙々と読書にふけっている。


読書は彼女の唯一の趣味なのだ。


彼女の右手には、ブランデーかと思われる酒がロックで注がれている。


・・・。


・・・!?


(セニフ)

「あぁあああっ!?飲んでるゥ!!!!」


(ジャネット)

「えぇぇ!?」


(ラックス)

「へっ??」


大きな声を張り上げたセニフの目の前で、並々と注がれたそのブランデーを、一気に飲み干して見せたアリミアは、手に持つグラスを強くテーブルに叩きつけると、鋭い視線をセニフに突き刺して言った。


(アリミア)

「なによ。文句あんの?飲んだら悪いの?ピーピーワーワー読書の邪魔だ。死にたいのか小娘が。引っ込みな。」


セニフの背筋に悪寒が走る。


それほどドスが利いていて、恐怖心を煽る一言だった。


アリミアは普段、温厚で優しく、見た目からは想像できないほど他人のことを思いやる人物だ。


チームのまとめ役でもあり、その行動は周りの人からも評価され、それは尊敬に値する。


しかし、彼女の唯一の弱点と言えば「酒をあおると人が変わる」と言うことである。


酔っ払ったアリミアは「凶悪」という言葉以外では表現できず、自己中心的、暴力的、短気と、すべての面で普段のそれと白黒する。


こうなると、屈強な男共でさえアリミアに手出しすることはできない。



アリミアの酒乱振りをあらわす良い例がある。


セニフ達が出会ってまだ間もない頃、チームの8人(当時はチームメンバー8人だった)で、酒場に飲みに行ったことがある。


そのときボックステーブルの隣に座っていた男共5人が、またかなりの酒乱で有名な軍人だった。


女性が飲みに来るような小奇麗な飲み屋でなかったため、彼女達はかなりその場から浮いた存在だったらしい。


言うまでも無く、その男達が彼女達に絡んできたのだが、今思えば可愛そうな奴等だ。


ジャネットは語る。


その男達ってのが凄くいやらしくて、胸とか太腿とか触ってくるのよ。


そして男の一人がアリミアの右肩に手をかけた瞬間、アリミアの左飛膝が相手の顔面に炸裂したの。


その後は覚えていない。


気がついたら男6人が倒れていたわ。


6人って?


喧嘩を止めに入ったシルが、アリミアにやられたみたい。


怖かったぁ。


これがアリミアの酒乱伝説の始まりである。

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