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Loyal Tomboy  作者: EN
第八話「懐かしき新転地」
165/245

08-18:○スティーブ・マウンテン・ダイビング[12]

第八話:「懐かしき新転地」

section18「スティーブ・マウンテン・ダイビング」


青々とした綺麗な深緑色に包み込まれた険しい山岳地帯内部において、突発的に降って湧いたけたたましき砲声のかぶせ合いは、やや日が頂点位置より傾き始めた時頃ときごろになっても尚、未だに鳴り止む気配を匂わせなかった。


周囲に立ち広がる巨大な木々達と、複雑に入り組んだ山の地形とを、開放的な野外ステージに見立て、情熱的で荒々しき大演奏会を繰り広げていた戦士達は、色取り取りの銃声や砲声、爆音や怒声と言った音色を、必死に掻き鳴らし奏で上げながら、終幕の曲章をあでやかにいろどり始めていた。


中でも一際目立つ風貌をたずえた八本足の巨大DQ「ヴィン・ツィー・ハゲン」が、主役位置たるステージのど真ん中へと居座り、威風堂々おごそかな撃音げきおんを絶え間なく吐き散らし、再三再四に渡り迫り滑空してくる戦闘装甲ヘリのローター音を掻き消す。


そして、目の前に広がる樹陰じゅいん内部を鬱陶うっとうしくも蠢動しゅんどうする深緑色の人型兵器へと、凶悪なる重砲の刃先をかざし、くくり付けると、迫力満点の豪咆ごうほうを派手に鳴り響かせて、きらびびやかな光華こうかを大々的に花開かせるのだ。



ズゴーーーーーン!!!



(セニフ)

「うっ!・・・・・・・・・っと。・・・危ない危ない。ちょっと正面に入り過ぎた・・・。」


(バネル)

「フロアツー!もう少し南側にポジションを寄せろ!その斜面よりも下側に奴を突き落としたい!」


(セニフ)

「りょ・・・了解。」


(マルコ)

「こちらグリフィンワン!ツインアローの残弾数は後二発!」


(バネル)

「攻撃する素振りだけでも良い!出来る限り奴の対空機関砲を引き付けてくれ!三番隊はこのまま前進!相手機へと取り付く素振りを見せ付けるぞ!」


しかしこの時、完全に脇役たる存在へと成り下がってしまった小物達は、華々しき高座の上で豪壮ごうそうなる旋律せんりつを奏で上げる、おぞましき無頼漢ぶらいかん恣意しい的立ち振る舞いに、む無くくみする立場を甘受し得ながらも、その場の主導権を再びかすめ奪う為の小賢しき反抗活動に余念がなかった。


上空を飛行旋回中のデモアキート部隊は、最後の一機にまで撃ち減らされる結果と相成あいなってしまったが、抜群の飛行センスを有するマルコ・シトレーゼ陸等三尉によって、躍動的飛行軌跡を描き出し続ける戦闘装甲ヘリ「フライアシュート」は、ツィー・ハゲンの対空機関砲攻撃を一手に引き受けながらも、全く撃ち落とされる様子はなかった。


そして、密林地帯内部に潜み入り、執拗にツィーハゲン正面部の主砲射程圏内を、小気味良く這い回っていた人型兵器「トゥマルク」もまた、時折浴びせ掛けられる強力なナルセスキャノン砲の攻撃を適宜かわし凌ぎ切りながら、相手パイロットの攻撃的意識を激しく駆り立てる挑発行動を繰り返していた。


勿論、たった一機の戦闘装甲ヘリと、たった一機のDQ程度の少数戦力を持って、簡単に翻弄し得る相手では無かった事だけは確かで、この時、彼等が属するトゥアム共和国軍陣営側が、一方的激敗たる無様な事態を回避する事が出来たのも、戦局の途中から最前線に割って入った、第七機械化歩兵部隊の存在が非常に大きかったと言えよう。


戦闘エリア極北を迂回する様な形で最前線へと侵入した歩兵部隊は、視認し辛い地形地質を利用しながらツィー・ハゲン機へと近付くと、色濃い茂みの中に隠れ潜んだ状態のまま、散発的な一斉砲撃を数度に渡り敢行した。


言うまでも無くそれは、巨大な砂色のモンスターを撃滅し得る火力に、到底及びも付かぬ淡白な攻撃でしかなく、相手機体の側面部へと完全なる不意打ちを浴びせ掛けたにも関わらず、剥き出しの火器一門すら破壊する事が出来なかった。


しかし、一見して無謀とも思える彼等の突貫攻撃も、兵士達一人一人の配置間隔を大きく空け取る事で、非常に対処し辛い、わずらわしき状況をそこに敷き強いる事に成功し、徐々にではあるが、完全なる独り舞台となっていたツィー・ハゲンの独奏会に、あざとい不協和音を交え入れ、露骨に妨害し始めたのだった。


(ガラハン)

「おら!ボケッとすんな!歩兵部隊に取り付かれちまうだろが!ちゃっちゃと動け!ちゃっちゃと!」


(ボンジョイ)

「ちゃっちゃちゃっちゃと言われても~~~、身体が重くて動きませぬ~~~。・・・って、もしかしてGシステムってのは、ジジ臭いシステムって事の略なんか?」


(ガラハン)

「アホな事言ってんじゃねぇよ!このボケ老人が!さっさとGシステムを発動して退避行動に移りやがれ!」


(ボンジョイ)

「ああ~、これなぁ~、変に足が空回って気持ち悪いんだよなぁ~。出来る事なら使いたくはねぇんだが・・・ま、しょうがねぇって事か~。」


勿論、 圧倒的なパワーを押しひけらかしながら、戦場を謳歌おうかするツィー・ハゲンから見れば、一つや二つ程度の歩兵部隊など、吹けば飛ぶ様な些細なる戦闘集団に他ならなかったが、接近戦に弱い・・・と言う、如何ともし難い弱点部を突かしむる兵種である以上、決して油断してかかる訳にはいかなかった。


ましてやここは、見晴らしの良い砂漠地帯でも、平原地帯でもなく、真に色濃い複雑性を有した山岳部の密林地帯であり、隠蔽いんぺい行動に徹し切った矮小わいしょうなる歩兵部隊のうごめきを、つぶさに観察し続ける事はそうそう容易な事ではなかった。


しかも相手は、対人用榴散弾地雷を立て続けに浴びせ掛けても尚、全く怯む事無く反撃に転じてくる手練れ揃いの兵士達である。


足元付近を護衛すべく配された「R型」のカリッツォ一機が、完全に役立たずと言った様相で後方に控え座し続ける限り、ツィー・ハゲンには、逃げの一手と言う情けない方策しか取り様が無かった。


ツィー・ハゲンの砲手担当として同機体に搭乗していたガラハンは、北側に広がる色濃い茂み地帯の中に、40mm機関砲二門による一斉射撃を加え入れた後、これは装甲擲弾兵そうこうてきだんへいだな・・・と言う、よりかんばしくない思考を頭の中に浮かび上がらせ、にわかにその厳つい表情を硬く強張らせた。


そして、自分達部隊の指揮官たる小憎らしき若僧、ユピーチルから、戦闘に参加する事を禁じられていた後背の友軍機に対して、強い苛立ちを込め入れた汚らしき舌打ちを一つ奏で出すと、これはもう、最終的手段を持って威嚇してやる以外に無いな・・・と思い至ってしまった。


(ボンジョイ)

「ほぉれ~!この俺様の華麗なる三段跳びってもんを披露してやるぜぇ~!しっかり掴まってなぁ~よ~!相棒!」


(ガラハン)

「三段もいらん!!退避は崖際付近までだ!!それよりも直ぐに機首を北方側に振り向けろ!!着地と同時にナルセスキャノン砲をぶっ放してやる!!」


(ボンジョイ)

「何っ!?何と!?この俺様の楽しみをも奪い取ろうってのか君は!?・・・う~ぬ!!何たる横暴!!何たる無慈悲!!鬼か悪魔かこの暴君!!頼む~。頼むから~。老い先短いこの老人の楽しみを、奪わんどいてくれぇ~。」


(ガラハン)

「ええいうるさいっ!!つべこべ文句を言うな!!元々は俺の担当分だろうが!!てめぇは機体を操作する事だけに全神経を注力してりゃいい!!」


(ボンジョイ)

「う~~~!うぬ~~~!ぬぬぬぬ~~~!!この業突張ごうつくばりめが~~~!!」


直後、バルーン型をした機体本体を大きく左手側方向へとずり寄せ、二重関節式の巨足八本を最大限にまで曲げ折りながら、体勢を低く構え伏せたツィー・ハゲンが、唐突に張り上げられたボンジョイの奇声と共に、巨大な八足を勢い良く伸び上がらせた。


すると、タイミング良く発動したGシステムの恩恵を持って、斜め上方向へと差し向けられた精強なる慣性力を有り有りと被り得た同機体が、全く不気味なる挙動を色濃く吐き散らしながら、ゆっくりと静かにその巨体を宙へと浮き上がらせていく・・・。


(セニフ)

「なっ・・・!?」


(バネル)

「飛んだ!?・・・だと!?」


それはまるで、出来の悪い三流アニメーション映画を、スローモーションで見せ付けられているかの様な、不快なる違和感を強く強く感じ得る映像で、見る者達全てに気持ちの悪さを印象付けるよりもまず、不気味さ、物恐ろしさと言った、不意に後退あとずさりしたくなる馬鹿げた威容をまざまざと浴びせ掛けるものだった。


巨大な八足を持って大地を這いずり回る移動要塞と言う、従来通りのイメージを完全に排し、深緑色一辺倒に染まり上がった樹海内部を、スルスルと不自然に横切り行く砂色の異物は、言うなれば、目には見えない巨大な翼を羽ばたかせ飛翔した、禍々(まがまが)しき魔物・・・とも言うべき圧倒的存在であり、相手機体が鈍足なる事を唯一の頼みの綱として、真っ向から相見あいまみえる覚悟を奮い立たせてきた彼等にとって、一瞬にして心の真柱まばしらくじき折られる、衝撃的事実以外の何ものでも無かった。


無様にも重々しき驚愕色へと塗り固まった表情を並べ連ね、色濃い焦燥感しょうそうかんが混じり入った声色を、荒々しく張り上げてしまった戦士達の様相は、確かに今だ掻き消えぬ闘争心の炎を前面へと推し出す、力強さが込め入れられてはいたが、勇気と言う薪屑まきくずを幾ら大量にくべ入れようとも、心の内底に蔓延はびこった薄ら寒い雰囲気を完全には払拭する事は出来なかった。


(マルコ)

「何だこの移動スピードは!?地上部隊!!何が起きている!?地上部隊!!」


(セニフ)

「!?・・・これは!?・・・まずいよ!!逃げてっ!!」


(バネル)

「散開だ!!散開しろ!!敵の砲撃が来る!!急げ!!」


その直後、非常にたちの悪い不穏当な気配を如実に吐き付けながら、徐々に徐々にと降下し行く様相へと移り進んでいった砂色のモンスターが、巨大な砲塔を備え付けた機体本体上部をギリギリと回転させ始めると、相対する陣営側が有する通信システム内の空気は、にわかに逼迫ひっぱくした緊張感の只中へと一気に塗れ堕ちた。


勿論、おどろおどろしき圧倒感を漂わせながら、ゆっくりと揺り動かされた巨砲の向くその矛先は、北方側に広がる茂みの中で、小賢しき蠢動しゅんどうを繰り広げていた歩兵部隊に他ならなかった。


(ガラハン)

「よぉし!!ボンジョイ!!主砲の主導権をこっちに回せ!!目に物を見せ付けてやる!!」


(ボンジョイ)

「嫌だと言ったら殺される~。巨砲は既に回ってる~。勝手にせいやこん泥棒~。憐れ老爺ろうやは無一文~。」



・・・が、しかし、いきり立った様子で再度攻勢へと転じ入ったガラハンの思いとは裏腹に、がっつく様に覗き込んだナルセスキャノン砲の照準システムは、いつまでたっても狙いを定めたエリア地点へと、正確に据え付く様子を垣間見せ無かった。


その都度その都度、細かな微調整を施し入れ、砲撃目標地点との距離誤差を修正するも、妙な違和感を感じ得る緩やかな横スライド移動に苛まれ続ける・・・と言った不思議な現象は、一向に収まる気配を匂わせなかった。


なんだ?・・・と、一瞬、ガラハンは思った。


すると次の瞬間、巨大な八本足を持って力強く大地を踏み締めたツィー・ハゲン機が、着地すると同時に、全く予想だにしなかった無様なる千鳥足をふんだんに盛り重ね始め、従来通りの重さを取り戻した機体上部を上手く支え上げる事も出来ずに、大きくよろけふためく事になる・・・。


(ガラハン)

「なっ!?」


(ボンジョイ)

「およっ・・・?おおっ・・・!?」


しかも、唐突に振りもたらされた荒々しき激震によって、たいを激しく揺さ振り付けられてしまったガラハンが、何とか自らの体勢を保ち凌ごうと、必死に力を込め入れた右手の人差し指を持って、思わずナルセスキャノン砲の発射トリガーを引き放ってしまう事となり、情けなくも天を仰ぐ様な状態で制止を迎えた巨大な砲塔から、何ら意味無きド派手な空砲が高々と撃ち上げられてしまった。


結果、わずらわしき歩兵部隊へと浴びせ掛けるはずだった強力な主砲弾頭は、彼等の頭上に覆い被さった濃密な緑雲を鋭く突き抜け、遥か上空、大空の彼方で虚しくも儚く散り飛ぶ運命を迎え入れる事となる。



ズゴーーーーーン!!!



(マルコ)

「!?」


(バネル)

「ああ!?」


(セニフ)

「・・・??」


(ガラハン)

「だあああああーーーっ!!くっそ!!何やってやがんだこの糞ジジイ!!機体の操作に注力してろって、言ったばかりだろうが!!」


(ボンジョイ)

「うっひぇ~~~。こりゃまたとんだ災難苦難・・・って、まさかまさかの大ハプニング~~~って奴か?案ずるよりも産むが易し・・・な~んて言ったのは何処のどいつだ~~~!!この大馬鹿野郎が~~~!!」


(ガラハン)

「うっさいボケ!!そんな事誰も言ってねぇだろ!!」


自重を軽減する為の特殊機構、Gシステムを解除する事で、本来あるべき自由落下モードへと移り進んだツィー・ハゲンは、確かに緩やかな下降線を滑らかに引き連ねながら、ゆっくりと大地へと舞い降りて行った。


「飛行する」「着地する」と言ったオートモーションデータを一切搭載せぬ身でありながらも、それなりに体良ていよく着地できるだけの物静かさ、物柔らかさを十分に保持したまま、崖際高台付近の岩石地帯へと足を踏み入れる予定だった。


しかしこの時、完全に宙に浮かび飛んだ状態で、強引に機体の上半身部分を旋回させると言う、全く持って軽率なる暴挙を繰り出してしまった彼等二人の愚行が、それらの思惑全てをぶち壊す、わずらわしき機体挙動を生み出す原因となってしまった。


当然の事と言えば当然の事であるが、何ら機体を支えるもの無き完全フリーな状態において、機体の上半身部分を旋回させると言う事は、機体の下半身部分を逆側方向に旋回させる事と同意となる。


勿論、駆動部分より分け隔てられた二つの物体の内、機体総重量、回転半径共に、下半身部分の方が比率が大きかった事は確かだが、それでも、完全に無視し得る程の差を有していたかと言えばそうではなかった。


言うまでも無く、空中でゆっくりと逆旋回を始めた下半身部分の回転エネルギーは、上半身部分が有したそれよりも、遥かに強力な回転力を持ち得て、彼等を激しく悩ませる結果となり、ナルセスキャノン砲の照準システムを、中々に固定し得ない摩訶不思議な現象と、着地に際する異常な機体挙動を生み出す、色濃い要因となってしまったのだ。


そしてこの時、更に最悪な事に、連鎖的出現を非常に好みたしなむ負たる暗雲の中に、完全に取り込まれてしまった彼等二人は、その後も情け容赦なく吐き被される悲劇的ストーリーの最底辺部を、無理矢理に歩み進まねばならない過酷な立場へと陥る羽目となる・・・。


(ガラハン)

「おら!!さっさと体勢を立て直せ!!いつまでも馬鹿みたいに騒いで・・・って何だ!?おい!?」


(ボンジョイ)

「あら?・・・あらら?・・・うっぉ!!」


その直後、強引に機体の体勢を立て直そうと、南側へと放じられた二重関節式の巨足に全体重を掛け入れたツィー・ハゲンが、またしても予期せぬ奇妙な揺らめきの中へと落ち沈み、搭乗者二人の無様なる驚声を交互に誘い出した。


・・・と同時に、大量の岩山が瓦解する激音が密林地帯内部へと響き渡り、見るからにぎこちないタコ踊りと言った様相を、如実にょじつかもし出した同機体が、その巨体を徐々にゆっくりと谷底側に傾けのめり込ませて行く。


巨大な砂色のモンスターが定着した崖際付近の高台は、言うなれば、同機体が有する全重量を持ち支えるだけの強度を持たぬ、非常に不安定な地形位置上に築き上げられた見せかけの大地に過ぎず、巨足を突き立てられた場所位置を始点として、四方八方へと亀裂を直走ひたはしらせたその高台は、彼等が思うよりも簡単に瓦解、ツィー・ハゲンの巨体を巻き込んで、一気に崩落し行く次第となった。


(ボンジョイ)

「踏んだり蹴ったりとは、まさにこの事だぁぁぁ~~~!!」


(ガラハン)

「叫ぶな馬鹿!!喚くな阿呆!!こんな程度で・・・っく!!」



・・・しかし、巨大なツィー・ハゲン機を飲み込んだその断崖は、それ程大きな落差を有していた訳でも無く、それ程急な勾配を形作っていた訳でもなく、強固なる八本足を巧みに広げながら、岩肌にかじりつく様に滑り落ちて行った同機体は、横転する、転がり落ちると言う最悪の事態を回避し得る事に成功した。


勿論、機体の落下スピードを出来るだけ軽減させようと、咄嗟とっさの判断でGシステムを起動したボンジョイの緊急的措置が、非常に色濃い効能を生みもたらした結果である事は言うまでも無く、また、異常姿勢を強いられたままに機体のバランスを保ち得る彼の操舵技術も、見事なものと言えば見事なものであった。


結果、大量の土砂、大量の岩塊を激しく撒き散らしながら、谷底へと着底したツィー・ハゲンは、特にしたる損傷を請け負わされた様子も見せずに、再びその巨大な機影をゆっくりともたげ上げるに至る。


(ボンジョイ)

「・・・へっへっへ。どうだい相棒。この俺様の演出ってぇのも中々見事なもんだろう。」


(ガラハン)

「嘘こけ!!間抜けすぎるにも程があるぞ!!このボケ老人が!!こんな面倒臭ぇルートにはまり落ちやがって!!」


(ボンジョイ)

「別に良いじゃねぇかよ~~~。どうせちょい行った先に、合流路があるんだからよぉ~。歩兵部隊をまくってのも成功した訳だし~。後は小煩こうるさい鼠一匹と、オートジャイロを片付けて、輸送機付近に取り付けば良いだけの話だ~~~。急がば回れって、昔から良く言うだろ?」


(ガラハン)

「ちっ!てめぇはほんと、お気楽な野郎だな・・・。」


やがて、呆れた様子で大きな溜息を吐き出して見せたガラハンは、全く持って能天気な言動に終始するボンジョイとの会話を早々に打ち切り、直ぐにTRPスクリーン上に映し出された地形データと索敵情報に視線を差し向けた。


そして、ツィー・ハゲン機のサーチシステムに捉え得られた敵影情報に、一通り目を通し確認した上で、中型輸送機墜落地点へと至る道筋をゆっくりとなぞり見据える。


彼等が降り落ちた崖下付近は、巨大な木々達の群れに覆い囲われた密林地帯・・・と言う、鬱陶うっとうしき状態をそのままに、非常に見通しの悪い地形地質が連ね続いている様であったが、小賢こざかしき歩兵部隊の蠢動しゅんどうを許す、色濃い茂み地帯の様なものは一切存在し得ず、それなりに行軍し易い道筋が開け示されている様子だった。


これは確かに、棚台をそのまま進むよりはいいかもしれないな・・・と、ガラハンは思い、後方に控える友軍機の反応光に視線をくくり付けると、まあ、このぐらいなら付いて来れるだろうと、素っ気なくそう思い被せ、最後に南方側に広がる廃墟地帯の様相を窺い見た。



輸送機墜落地点の北方棚台よりほぼ真南に位置するこの廃墟地帯は、今回の戦闘において、両軍が最初に砲火を交えた第一回戦会場であり、今現在の所は、窪地くぼち地帯での戦闘を終えた両軍のDQ部隊が、不毛なる睨み合いを続ける場所となっている。


兵力的には帝国軍側のDQが二機のみであるのに対し、トゥアム共和国軍側のDQは四機と、倍の兵力を持って防御に徹する構えを匂わせており、帝国軍側もまた、あからさまに攻めあぐねている様子をかもし出していた。


しかしそれは、両軍が共に見据えた思惑がお互いに一致した為に生じた、一時的な膠着こうちゃく状態であった事は言うまでも無く、今後、どちらの陣営側が思い通りの筋書きを持って、新たなる展開へと移り進めるかは、未だ揺らぎ止まらぬ不安定な天秤上に掛けられたままであった。



帝国軍側の思惑としては、北方より行軍し得し大型特殊DQヴィン・ツィー・ハゲンが、輸送機墜落地点付近に到達するまでの間、トゥアム共和国軍側のDQ部隊を、出来るだけ南方側へと釘付けておきたいと言うものであり、ただでさえ足が遅いこの大蛸おおだこ機に、なるべく無用な負荷を掛け与えないよう配慮したものだった。


勿論、このツィー・ハゲン機の後方に控え付いて回る新兵テヌーテを、可能な限り戦闘に巻き込みたくないと言う、指揮官ユピーチルの私的思いがあった事も確かだが、実際には彼自身、ツィー・ハゲン機の搭乗者二人の能力を、それ程高くは評価していなかった・・・と言うのが、大きな理由の一つでもあった。


(ユピーチル)

「どうした?ボンジョイ少尉。何事かあったか?」


(ボンジョイ)

「へっへっへ。別に大した事じゃありませんて。単に小煩こうるさい蟻んちょ共に絡まれただけでっせ。」


(ガラハン)

「ご心配いただかなくとも、あんた等の望み通り、ちゃんと輸送機墜落地点まで辿り着いてやりますよ。大尉殿。余り変に気をつかってもらわなくても結構です。」


(ユピーチル)

「ふん。こちら側から見て取る限り、中々に苦労している様にも見受けられたんだが、それは私の思い違いと言う事で良いのだな。」


(ボンジョイ)

「まあ、まあ、そう言う事で~~~。」


(ユピーチル)

「共和国軍の歩兵部隊の動向には、今後も細心の注意を払う様にしろ。決して油断して足元をすくわれる事の無いようにな。」


(ボンジョイ)

「へっへ。了解。」


(ガラハン)

「はいはい。」



一方、トゥアム共和国軍側の思惑は、フレッチャー陸等二佐が考案した、ツィー・ハゲン機を罠に陥れる作戦を主体として、相手方のDQ部隊をなるべく南方側へと釘付けておく事を目すると言う、帝国軍陣営側と同じ様な作戦方針を採用し行動していた。


それは、張り巡らせた罠の存在をなるべく相手方に見破られぬよう、隠匿いんとくしておきたい考えがあったからで、捕獲対象となるツィー・ハゲン機には、なるべく単独での行動を強い続けたいと言う思いがあったからだ。


そして、更に付け加えて言うならば、ツィー・ハゲン機のパイロットに、気分良く罠位置まで歩み進んでもらう為には、もっともらしい無様さをひけらかしながら、上手く逃げ惑って見せなくてはならず、そう言った演技に現実味を帯びさせる為にも、少数部隊で対峙する事を選択した訳だ。


(フレッチャー)

「バネル一尉。現状はどうなっている。上手く行ったか?」


(バネル)

「ええ、まあ。上手く行った・・・と言うよりも、多少、結果オーライ的な感は否めませんがね。取り敢えず今の所は、作戦通りと言っても差支えないでしょうな。」


(フレッチャー)

「よし。グリフィンワンは今後、ツィー・ハゲンのミサイル攻撃に備え、ポイント09-08エリアの上空付近に待機。」


(マルコ)

「了解。」


(フレッチャー)

「フロアツーは、継続してツィー・ハゲンの誘導作業だ。主砲弾頭の標準搭載数は、基本的に二十四発らしいが、相手はほぼ間違いなく特殊改造機である可能性が高い。弾切れを当てにするなよ。」


(セニフ)

「了解。」


(フレッチャー)

「第一、第二空挺隊は、直ちに輸送機の積み荷回収作業に取り掛かれ。後続部隊には回収用VTOL機を強行突入させるよう通達。第四空挺隊は・・・。」


やがて、束の間の静寂さに包み込まれた密林地帯内部において、両軍共に今現在の状況を確認し合う内容の通信波が交錯し、一通りの遣り取りを奏で終えると、徐々に徐々に次なる展開へと移り進む様相を色濃く漂わせ始める・・・。



セニフは直後、未だ会話を途切れさせぬ通信機スピーカーから完全に意識を切り離すと、サーチモニター上に映し出された友軍機の反応光、南方側廃墟地帯の東側辺付近で、元気そうな姿を見せる四つの緑色光点を静かに見遣った。


そして、不意に両目を瞑り、二、三、大きく深呼吸を施し入れて見せると、力強く握り締めた操縦桿をギリリと切り倒しながら、搭乗する緑色の機体をその場から急発進させ、崖下へと降りる迂回路を目指した。


この時、彼女は既に、ネニファイン部隊のメンバー達五人全員が無事である事を知っていたが、それもまた、薄氷の上に成り立つ一時的な安寧あんねいでしかない事を理解しており、最終的に仲間達全員の無事を確定させる為には、ツィー・ハゲンの行動を阻止する、罠にめ落とす事が、絶対的条件である事も解っていた。


彼女が歩み進むべく敷き引かれた道筋は、未だ過酷な難道と言った様相に敷かれ置かれたままの様であったが、もう少し・・・もう少しだ・・・と、小さく呟き出しながら、しっかと前を見据えた彼女の心の中には、全く躊躇ためらう気持ちなど存在し得なかった。


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