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Loyal Tomboy  作者: EN
第八話「懐かしき新転地」
161/245

08-14:○スティーブ・マウンテン・ダイビング[8]@

※挿入絵は過去に描いた古い絵を使用しています。小説内容と若干細部が異なります。

第八話:「懐かしき新転地」

section14「スティーブ・マウンテン・ダイビング」


古都市マリンガ・ピューロ東部に位置する廃墟地帯を西側に抜け出た地域一帯は、全体的に見れば窪地くぼちと言う地形構造になっているが、北側に広がる切り立った渓谷群へと続く、大自然の水路が幾つも存在する場所であり、決して水捌みずはけの悪い土地ではなかった。


南方側にそびえ立つ大きな山々より発した水の流れは、その窪地くぼち地帯へと分け入って程なくして、最初に突き当たった大きな岩壁によって二つに分断され、その後、何度も何度も細かな分岐を繰り返しながら、北側の渓谷群へと向けて次第にその足を速めて行く。


ぐるり周囲を見渡せば、明らかに大量の水が流れ経た形跡が、数多く残されている場所でもあり、天候の良し悪しによって、かなり異なる景観を形作る土地柄の様であった。


しかし、ここ数日の間、だる様な暑さを伴う、盛夏せいからしき晴天に恵まれたと言う事もあり、その窪地くぼち地帯に流れ込む水の量自体は決して多くは無く、人の足でも難なく渡河とか出来る程度のものしか残されていなかった。


言うまでも無くそれは、巨大人型兵器DQに搭乗する者達から見れば、移動するのに何ら障壁と成り得ない些細な細流せせらぎ群でしかなく、必要以上に細かく気を配らなければならない程のものでもなかった。


とは言え、この窪地くぼち地帯の最下層鍋底部分は、長い年月を経て形作られた水の流跡りゅうせきによって、大小様々な凹凸を有する複雑怪奇な地形が形作られており、周囲に立ち並ぶ巨大な木々達の姿も相俟あいまって、視界はすこぶる悪いと言うに相応ふさわしき状況であった。


(ジャネット)

「鍋底西端部を北上中の敵機は、どうやらカリッツォの様だわ。見た所、原種に近いオーソドックスタイプみたいだけど、何か策でもあるのかしら。」


(ルワシー)

「味方機を援護するって動きでもねぇみてぇだしな。もしかして強引に北側を迂回して、輸送機に取り付こうって腹積もりなんか?」


(バーンス)

「カリッツォ一機で、それを成し遂げる事に意味があるとするならな。この状況下で帝国軍に・・・。ん?・・・待てよ。帝国軍が既に積み荷の回収を諦めた・・・と考えれば、確かにそれも有り得る話か。」


(ルワシー)

「ああん?そりゃ、どう言うこってい。」


(ペギィ)

「馬鹿ね。相手は私達と同じ、輸送機の積み荷を狙っている訳でしょ?積み荷の回収が困難な場合、私達は一体どうしろって言われて来たの?」


(ルワシー)

「・・・・・・おおう。」


(ペギィ)

「おおう。じゃないわよ。全くこのブタ・・・。」


バーンスはふと、唐突に姿を現した三機目の帝国軍機にじっと視線をくくり付け、その様相をつぶさに窺い見ながら、全く無意識の内に、戦闘体制へと移行する準備作業を推し進めていた。


そして、遥か北東部の平原地帯において、着々と降下作業を執り行う、第七機械化歩兵部隊の様子をサーチモニター上で一度確認し、輸送機墜落地点付近に布陣する二つの緑色光点へと視線を流す。


(バーンス)

「セニフ。ロッコ。北上する敵機の動向に注意しろ。玉砕覚悟で輸送機の積み荷を破壊するつもりかもしれん。」


(セニフ)

「了解。」


(ロッコ)

「了解。」


(ジャネット)

「バーンス。私、もう少し西側にポジションをずらしてみようか?もしかしたら、マリンガ・ピューロ方面に何か潜んでいるかもしれないし。」


(バーンス)

「いや。・・・それこそが帝国軍の狙いと言う事も十分に考えられる。ここは余り部隊の隊列を散開させない方が・・・。」


(ペギィ)

「待って!南側の二機に何か動きがあるわ!」


・・・と、不意に投げかけられた可愛らしい声色によって会話を寸断されたバーンスが、サーチモニター南端部分へと視線を振り向けると、にわかに揺り動いた二つの赤光しゃっこうが、全く不気味なる挙動を垣間見せながら、徐々に東方側へと移動を開始し始める。


そして、ほとんど崖上とも称せる険しい急斜面上に一時機体を据え付けると、恐らくはFTPフィールドを張り巡らせたのであろう様相を持って、静かにサーチモニター上から姿を掻き消して行った。


北側へと移動するカリッツォ一機と、南側で不穏当な動きを見せ始めたカリッツォ二機とが、一体如何なる思惑を持って、そう言った行為に及んだのかは全く定かではないが、これは何かあるな・・・と、不意にそう感じて取ったバーンスは、直ぐにサーチシステムの感度調節ダイヤルをグルグルと回し、戦闘エリア周辺周域全体へと意識を張り巡らせた。


西側の一機が囮なのか・・・。それとも南側の二機が囮なのか・・・。


あるいはその双方が共に囮と言う事も考えられるが・・・。



(テオン)

「・・・ミサイル!!ミサイルだ!!ポイント08-04付近から、突然、三発のミサイル弾頭が発射された!!進路方向0530から毎秒-2!!速度560!!着弾予測地点は・・・ポイント12-06付近!!」


すると次の瞬間、彼等ネニファイン部隊の四人が陣取る窪地くぼち地帯より更に北側、険しい断崖絶壁によって形作られた渓谷群の中から、突然、三発の中型ミサイルが発射され、第一発見者となったデモアキート部隊の「テオン・マドル」が、四人の耳朶じだを激しく打ち付ける怒声を放った。


(バーンス)

「ちっ。一番厄介な組み合わせだな・・・。」


(ペギィ)

「ちょっ・・・!!何よ08-04って!!直ぐそこじゃないの!!今まで誰も見つけられなかったなんて信じらんない!!」


(ジャネット)

「文句を言う暇があったら、さっさと回避行動!着弾まで後10秒も無いわよ!」


彼等の居る窪地くぼち地帯より北側に存在するクリフ地帯は、確かに何者かが隠れ潜むのに打って付けとなる、地形地質に恵まれた地域であった事は言うまでも無く、当該戦闘エリアの索敵任務を請け負っていたデモアキート部隊も、これまで特に注意を払って監視を続けてきた場所であった。


それは、戦局がかなりトゥアム共和国軍側へと傾きつつあった状況下においても、全く抜かり無く繰り返し執り行われてきた行為で、今まさに、ミサイル発射地点の上空付近を飛行旋回であったテオンにとっても、それは全く予想外の展開と言う他なかった。


勿論、この北側クリフ地帯の索敵を担当していたデモアキート部隊の隊員、強襲索敵型装甲ヘリ「デ・オウル」を持って、北方へと延びる数々の渓谷群を、一つ一つ入念にチェックしていたテオン自身に、何かしらの手落ち部分があったと言う訳ではない。


言うなれば、単にこのデ・オウルに搭載されていたサーチシステムが、帝国軍の隠蔽いんぺい機を捉え得る事が出来なかっただけなのだ。


そう。それは、相手方のサーチシステムを、完全にあざむく機能機構をふんだんにまぶし入れたステルス機・・・。


機体表面部に特殊加工を施し、動力部より吐き出される微量な粒子をも完全に遮断する、最新の機構システムを搭載した特殊機体だったのだ。


(マルコ)

「テオン!!敵脅威の位置座標は何処だ!?情報がリンクしていないぞ!!ロストしたのか!?」


(テオン)

「いえ!・・・私の真下付近に潜伏しているはずです!ですが・・・これは・・・。」


新型のステルス機か?・・・と、不意にそう思い付いたマルコは、搭乗する戦闘装甲ヘリ「フライアシュート」を徐に急上昇させると、西方の碧空へきくうの中に描き出された三本の白煙へと視線を差し向けた。


南方側へと向かって緩やかに白糸を伸ばして行く三つのミサイル弾頭は、それ程早いと言う印象を感じ得ない代物であったが、それでも、かなりの破壊力を有しているであろう禍々(まがまが)しき雰囲気を兼ね揃え、ほぼ一直線となる移動軌跡を描き出しながら、指定された目標地点へと疾走し行く様だった。


そして、程なくして到達した窪地くぼち地帯上空の僅か手前付近で、唐突に眩い閃光を放ったミサイル弾頭が、次々と細かな無数の光の雷矢を吐き散らして、深緑色に染まった大地上へと無秩序に降り注ぐ・・・。


(ルワシー)

「ぬぁにっ!?」


(バーンス)

「全機離脱!!緊急離脱!!」


(ペギィ)

「ちょ・・・!!これ、やばいって!!」



ドドドドドーーン!!



凹凸の激しい窪地くぼち地帯内部を、必死に駆り立てたDQトゥマルクと共に疾走し、何とかミサイル弾頭の着弾予測地点から退避しようと試みていた四人だが、炸裂点よりばら撒かれた無数の爆撃弾の魔の手から、完全に逃れ得るのは不可能な事であると言えた。


直後、周囲に広がる深緑色の全てを掻き消すが如く、連鎖的に花開いた煌びやかな閃光が、猛烈な爆音と共におどろおどろしき地鳴りを容赦なく呼び覚まし、巨大な自然の造形物達を否応なくあおり立てる激しい暴風を吹き荒れさせながら、魔境の森内部の全てを真っ赤な炎色へと書き換える。


(マルコ)

「バーンス!!無事か!?応答しろ!!」


(フレッチャー)

「ネニファイン部隊バーンス二尉!!応答せよ!!前線で何が起きている!!現在の状況を知らせろ!!」


(テオン)

「こちらデモアキート部隊グリフィンスリー!!北側クリフ地帯に潜伏中の敵脅威を視認した!!これは・・・かなりの大物・・・ツィー・ハゲン!!カフカス砂漠の大蛸おおだこ野郎だ!!」


(ロッコ)

「ツィ・・・ツィー・ハゲン!?」


(セニフ)

「ジャネット!!返事をしてよ!!ジャネット!!」


(フレッチャー)

「強襲歩兵部隊は、降下フェーズ終了後、直ちに散開!!帝国軍の長距離攻撃を警戒しつつ、各班毎に輸送機墜落地点への進攻準備作業を推し進めよ!!歩兵部隊護衛任務に当たるデモアキート部隊二機は、北方クリフ地帯に潜む隠蔽いんぺい機の排除に当たれ!!」


(マルコ)

「了解!!行くぞべスパー!!」


(べスパー)

「了解!!」


(セニフ)

「バーンス!!ペギィ!!ルワシー!!」


急激に熱を帯びたけたたましき怒声が通信システム内を激しく飛び交う中、セニフは一生懸命になって仲間達の名前を呼び続けながら、あれやこれやとサーチシステムの感度調整作業、モード切り替え作業に意識を埋没させた。


そして、目の前のサーチモニター上へと食い入る様にして視線を釘付け、強烈な爆撃残痕の渦中へと飲まれ沈んだ四人の反応光を、必死になって探し求める・・・。


まさか・・・。そんな・・・。そんなはずないよね・・・と、意図せずも滾々(こんこん)と沸き起こる強い不安感を、心の内なるてのひら遮二無二しゃにむに握り潰しながら・・・。


見せかけばかりの楽観的思考を、嘲笑あざわらうかの様に流れ落ちる沈黙のうつろいに、ゾクゾクと背筋を冷え込ませながら・・・。




(バーンス)

「・・・ちら、ネニファイ・・・ザザッ・・・・・・ザッ。」


(セニフ)

「あっ・・・。」


しかし、そんな時、耳元でざわめく不快な濁音群の中に、聞き覚えのある声色が流れ来たのを聞き取ったセニフは、不意に突飛なか細い裏声を上げた。


(ジャネット)

「・・・ザザザ・・・丈夫よセニ・・・ザザッ・・・他の・・・。」


(ペギィ)

「・・・に!!何よこれ!!テスラポッ・・・ザザ・・・。」


(ルワシー)

「ザズザズッ・・・だっつんだよ!!まった・・・ザーザー。」


そして、一人、また一人と聞こえ来る仲間達の元気そうな声色に、五月雨式さみだれしきに大きな安堵感を感じ得つつ、ふと、何故にこんなにも通信状況が悪いのだろう・・・と、不思議そうな面持ちで西の方へと視線を投げかける。


恐ろしいほど広範囲に渡って、強烈な爆発を生じさせたそのミサイル攻撃は、確かにそこにあるもの全てを吹き飛ばす、悪魔的破壊力を有していたと言えるが、窪地くぼち地帯の内部に横たわっていた数多くの水流痕すいりゅうこんが、簡易的な塹壕ざんごうの役割を果たした様で、彼等は辛うじてこの世に命を繋ぎ止める事を許された様だ。


勿論、彼等の周囲に立ち並ぶ巨大な木々達も、彼等を守る防護壁としての機能を、十二分に発揮してくれたと言えよう。


しかし、その直後、セニフが徐に彼等達の生還を祝おうと口を開けかけたその矢先、全く持って容赦の無い無慈悲なる続報が、再度彼女の心臓を強く殴り付けるのだ。


(テオン)

「再びツィー・ハゲンよりミサイル弾頭3!!進路方向0530!!」


(セニフ)

「えっ?」


(マルコ)

「ちっ!!テオン!!撃ち落とせないのか!?」


(テオン)

「無理です!!もう追いつけません!!」


北方クリフ地帯を囲い覆う深緑の絨毯じゅうたん下から、勢い良く飛び出した三発のミサイル弾頭は、その上空を飛行旋回中の戦闘ヘリ、デ・オウルの直ぐ脇をかすめる様に宙へと飛び上がると、つい先ほど引かれ置かれた白い噴煙の中を綺麗になぞり経ながら、物凄い勢いで南下を開始した。


勿論、言うまでも無く、その行く先は、ネニファイン部隊の面々が陣取る窪地くぼち地帯東端部・・・。


先程敢行された第一撃目のミサイル攻撃によって、一瞬にして禍々(まがまが)しき赤黒色せきこくしょくに染め上げられてしまった、最悪の危地たる混沌とした煉獄れんごくの樹海だった。


(セニフ)

「皆、逃げてっ!!」


セニフは咄嗟とっさに、込み上げた思いをそのままに言葉へと転換し、不意にビクついた身体の挙動を抑えきれぬ様にして、コクピットシート席から僅かに身を乗り出した。


・・・が、しかし、最前線の地より遠く離れた場所に居た彼女には、それ以上、何をどうする事も出来なかった。


ただただ、サーチモニター上に映し出された三つの赤い光点が、目標地点へと向けて、じわりじわりと歩を進め行く様を、じっと眺めている事しか出来なかった。


やがて、深緑のベールに包み込まれた魔境の森周辺部一帯に、微かな軽い三つの暴発音が鳴り響いた直後、再び凄まじき殺傷能力を備えた無数の炸裂弾が大地へと降り落ち、その悪魔的咆哮ほうこうを高らかに奏で上げる・・・。



ドドドドドーーン!!



(セニフ)

「うあぁ・・・。」


挿絵(By みてみん)


一瞬にして弾け飛んだ眩き緋色ひいろが、周囲にあるもの全てにじりじりと色濃く焼き付く中、力強い重低音を持って大気の層と大地の層とを激しく震わせた荒々しき轟音が、それを見る者達全てにてつく様な恐怖心を深々と植え付ける。


それはもはや、回りくどい形容を持って言い表す必要の無い圧倒感を、如実に示し現すおぞましき光景で、セニフはこの時、不意にほとばしった鋭い背筋の悪寒に激しく突き上げられ、情けなくも言葉にならない貧相な溜息を吐き出して凝り固まってしまった。


(べスパー)

「くっそう!!何だってこんな所に・・・!!」


(フレッチャー)

「第三、第四空挺部隊は、直ちにE型装備に武装を変更し、十分以内に突入準備を完了させよ!第一、第二空挺部隊は、当初の予定通り、C型装備のまま輸送機墜落地点へと進攻を開始!」


(マルコ)

「テオン!!その大蛸おおだこ野郎にマーカー弾を撃ち込めるか!?」


(テオン)

「待ってください!!もう一度北方側よりアタックしてみます!!今・・・ザズッ。ザーザーザーザーザー。」


そして、彼女の耳元で慌ただしく錯綜していた音声の中に、突如として混じり入ったしいわずらわしき雑音が、強引に発信者の発言を遮る不快な余韻を引き放つと、また一つ、彼等の元に悲劇的続報をもたらす大きな爆発音が鳴り響く。



ドッゴーーーン!!



(べスパー)

「ああっ!!」


(マルコ)

「テオン!!・・・くっ!!」


それは、唐突に舞い上げられたツィー・ハゲンの強力な対空砲火によって、無残にも引き裂かれてしまったデ・オウルの悲しき断末魔・・・。


もろく儚き僅かなる希望へとすがり付き、必死に叫び声を奏で上げた仲間達の思いを、一瞬にして絶望へと塗り替える、仰々(ぎょうぎょう)しき暗黒の訃音ふいんだった。


マルコは不意に、目の前で爆発四散し行く味方機の残骸から視線を切り捨てると、零れる溜息を喉元で必死に食い止めながら表情をしかめ、小さく哀悼あいとうの意を示し出した。


そして、切り立った断崖に囲まれた谷底の奥深く、鬱蒼うっそうと生い茂る深緑色の樹海内部に、激しく燃え盛る敵意の刃を鋭く突き刺すと、搭乗する戦闘装甲ヘリの機体を急旋回させ、先行するべスパー機の後を追う様にして、その飛行軌跡をなぞり始めた。


(マルコ)

「こちらデモアキート部隊グリフィンワン。たった今グリフィンスリーが撃墜された。パイロットの脱出は確認できず・・・。」


もはやこの時、彼等がそれまで維持して来た戦局の優位性は、完全に下火へと回り経る勢いに飲み込まれ、一転して危機たる混迷の非常事態へと滑り落ちてしまったと言える。


勿論、数の上では、未だにトゥアム共和国軍側が有利な立場にあったと言えるが、北方クリフ地帯の辺に突然姿を現した、この「SNDf-GN01Jヴィン・ツィー・ハゲン」なる機体は、非常に高い対空対地攻撃力と防御力を兼ね揃えた強力な大型特殊DQ機であり、少数戦力のみで簡単に攻略し得る相手などではなかったのだ。


本来であれば、大軍を持って対抗すべき強固なる移動要塞・・・と、言うに相応ふさわしき凶悪な地上兵器で、如何なる戦場においても、相手方の兵士達にすこぶる毛嫌いされて来た機体の一つである。


唯一この地上兵器に弱点があるとすれば、その機体本体を支える、合計八本もの巨大な脚部周辺部に取り付かれると、何ら成す術がないと言う事だけだろうが、その足元付近に僅かなりとも護衛を配す事によって、無類の強さを発揮する破壊神へと化し得る為、何ら有効的な対抗手段を見いだせぬ、始末の悪さだけが特に際立って見えるのだ。


言うまでも無く、窪地くぼち地帯の西端部を北方へと突き進む一機のカリッツォは、このツィー・ハゲンの弱点部を補うよう差し向けられた護衛機に他ならず、変に小賢こざかしきはかりごとろうしていた訳でも、自暴自棄なる特攻を仕掛けようと試みていた訳でもなかった。


(べスパー)

「こちらグリフィンツー!!大蛸おおだこ野郎の機体を視認!!現在ポイント09-04から10-05付近の断崖をじ登っている!!」


(フレッチャー)

「断崖をじ登っているだと!?ツィー・ハゲンがか!?」


(べスパー)

「間違いありません!!奴はこのまま崖上へと這い上がるつもりのようです!!」


これはただの支援砲撃機じゃないな・・・と、不意にそう思ったマルコは、北側へと大きく回り込む迂回路をゆっくりと辿り飛行旋回しながら、遠目に見下ろせる深い谷間へと視線を這わせた。


そして、陰鬱いんうつな黒々しさに包み込まれる渓谷の袋小路付近に、不気味な砂色を浮かび上がらせる八本足の大蛸おおだこ機の姿を見付け、凝視する。


(マルコ)

「何だあの機体は・・・!?」


切り立った断崖にへばり付く様に八足を広げるその機体は、重厚なる巨躯きょくに似合わぬ身軽さを持って、確かに不安定な崖道を、徐々に徐々にとじ登り行く様子だった。


それはまるで、たこと言うより蜘蛛に近い気持ちの悪い怪奇的挙動を繰り出しながら、ゆっくりと狩場へと歩み進む砂色の巨大モンスター・・・。


Gシステム搭載型か!?・・・と、直ぐにそう思い付いてしまう程に、非現実的な動きを垣間見せる異形の戦闘殺戮マシーンだった。


(フレッチャー)

「後続の回収部隊に緊急連絡!!作戦エリア09シーケンスより西側の区域には、絶対に立ち入るな!!作戦終了後のランデブーポイントもデルタツーへと移行する!!積荷回収ポイントへの突入タイミングについては、私の合図を待て!!」


(マルコ)

「べスパー!!上空から丸見えの今がチャンスだ!!これ以上奴をじ登らせるな!!」


(べスパー)

「了解!!」


(フレッチャー)

「前線の戦況はどうなっている!?ネニファイン部隊は!?」


セニフはこの時、慌ただしく乱れ飛ぶ友軍兵士達の会話を完全に聞き流しながら、必死の形相でサーチモニター上へと視線をくくり付けていた。


声にならない弱弱しき言霊ことだまを持って、一生懸命に仲間達の名前を呼び上げながら、強力な爆撃弾を幾つも投下された爆心地エリア一帯を、食い入る様に眺め回していた。


つい先ほど垣間見せた取り乱し様とは打って変わり、外面だけでも平静さを装う事が出来たのは、あれだけの破壊力を有した攻撃とは言え、一度はやり過ごす事に成功している・・・と言う事実があったからである。


勿論、だからと言って、彼等四人が絶対に無事であると言う保証は何処にもなかったのだが、それでも多少なりと、彼女の心に巣食い蔓延はびこった絶望と言う名の暗がりを、ほのかに照らす希望の薄明かりと成り得た事は確かだった。


そしてやがて、彼女はその眼前に瞬く緑色の光点を二つ見付ける事になる。



(セニフ)

「・・・いたっ!!」


(ロッコ)

「いました!!爆心地付近に味方機の反応2・・・いえ、3を確認!!現在、低速で東側に移動中!!廃墟地帯に向かって後退している模様!!」


サーチモニター上へと不意に浮かび上がった緑色の光点は、確かに彼等ネニファイン部隊所属のDQトゥマルクの反応光である事に間違いはなく、咄嗟とっさに大きな甲高い声色を発して一報を奏で上げたセニフは、その後、付け加えるべき状況報告を完全にロッコに譲り任せると、にわかかに込み上げた安堵の溜息を吐き零した。


・・・が、彼女は直ぐに四機目の反応光を探し求め、サーチモニター上へと据え付けた視線を、再び小刻みにうねらせ始める・・・。


先に見付けた三人が誰で、未だに見付からぬ一人が誰であるかなど、全く考えたくも無いと言った様相で、己が望む楽観的展開だけをじっと見据えながら、彼女は、四人が四人共に無事である事を、盲目的に信じて疑わないよう務めていた。


しかし、そんな彼女の思いとは裏腹に、不思議と満足の行く結果を示し出せずにいたサーチシステムが、ようやく見つけ出した三機の味方機の機影をもロストし、不意に掻き消してしまう。


そして、あれ?・・・もしかして・・・フィールド防壁・・・?かと、彼女がそう思い付いた次の瞬間、彼女は突如として姿を現した赤色の光点を二つ、その直ぐ南側付近に見つけ出してしまう事になる。


(セニフ)

「やばい!!南側のカリッツォが来てる!!」


(ロッコ)

「ええっ!?」


それは、北方より発せられた強力なミサイル攻撃に先んじて、南側の山間部崖上付近で姿を掻き消した二機のカリッツォ・・・。


この機を逃すまいと、驚くべき猛スピードを持って山の急斜面を下り経て来た、戦慄の捕食者達であった。


(セニフ)

「まずい・・・!!まずいよ!!ロッコ!!急いで皆を助けに行かなくちゃ!!」


(ロッコ)

「で・・・でも、助けに行くって言ったって・・・。今の状況じゃ・・・。」


(セニフ)

「大丈夫。南側のカリッツォが来たとなれば、あんなド派手な攻撃は繰り出せない。カリッツォの攻撃を上手くしのぎながら後退して、ミサイルの射程範囲外へと逃げ出す事が出来れば・・・。行こう!!ロッコ!!」


セニフは、咄嗟とっさに思い付いた目論見を早口でそう力説して見せると、背筋の付近に忌々(いまいま)しくも蔓延はびこった痛々しき電気的悪寒を、強引に振り解くかの様に操縦桿を強く握り締めた。


そして、不意に臨戦態勢と言う力強き気概の炎を全身にまとい被せ、新たなる戦地へと向けて研ぎ澄ました鋭い視線の刃をキリリと振りかざす。


・・・が、しかし、悲しくも彼女には、そう言った主導的立場で命令を下す権利など与えられていなかった。


(フレッチャー)

「待て!フロアツー!勝手な行動は許さん!私がいつ、お前達二人の護衛任務を解除した!お前は指揮官たる私の命令を無視するつもりなのか!?」


(セニフ)

「でも!!それじゃ、ネニファイン部隊の皆が・・・!!まさかこのまま見殺しにするつもりなの!?私、そんなの・・・!!」


(フレッチャー)

「まあ聞け!そう早合点するな!私は何もお前の考えの全てを否定して言っている訳ではない。ただ、その命令を与えてやるから少し待てと言っているんだ。但し、前衛部隊の救出任務に当たるのは、お前達二人の内のどちらか一人だ。もう一人には、北方クリフ地帯へと出張ってもらう。」


(セニフ)

「えっ?」


(ロッコ)

「北方クリフ地帯って・・・。まさか・・・。」


(フレッチャー)

「いいか。良く聞け。この状況下で、まず最優先に考えるべき事は、北方クリフ地帯に姿を現したツィー・ハゲンをどう処理するかだ。我々は、この機体の進攻を食い止める事が出来ない限り、何度でも同じ状況へと陥る事になる。危機に瀕した仲間達を真っ先に救い出したいと言う、お前の気持ちも解らなくはないが、だからと言って、ツィー・ハゲンへの対処をおこたる様な真似はできん。」


(セニフ)

「・・・・・・・・・。」


(フレッチャー)

「今の所、デモアキート部隊がツィー・ハゲンの排除に努めているが、相手は高い対空攻撃力、防御力を有した砂漠の移動要塞だ。何の遮蔽物も無い上空からの攻撃には限界があると見るのが妥当だろう。と、すれば、数多くの遮蔽物を利用して地上から接近できる兵器、お前達ネニファイン部隊のDQを投入する以外に、何ら有効的な対抗手段は無いと言う事になる。解るな。」


(セニフ)

「・・・・・・はい。」


(ロッコ)

「はい。」


(フレッチャー)

「本来であれば、お前達二人を、まとめて北方へと投じる案を採用したい所なのだが、だからと言って、窮地に陥った前衛部隊の連中を、このまま見殺しにする事もできん。奴等の戦力は、今回の作戦を成功させる上で、非常に重要な鍵となり得る存在だからな。出来る限りは助け出したい。対ツィー・ハゲンに関しては、私に少し考えがある。北方へと出張るのは一機でいい。もう一機は、前衛部隊を救出する事だけに全神経を集中させろ。いいか、敵部隊を殲滅しようなんて、変な色気は出すなよ。」


(セニフ)

「・・・了解。」


(ロッコ)

「了解。」


セニフはこの時、心の奥底にわだかまった色濃い焦燥感しょうそうかんに、激しく意識を揺さ振り付けられながらも、ぐうの音も出ない程に的確な指示を下すフレッチャーの言葉に、全く一言も反論する事が出来なかった。


勿論、彼女は既に解っていたのだ。


窮地たる立場に陥った仲間達を直ぐにでも助けに行きたい・・・と言う思いに、強く駆り立てられるその反面で、それがそうそう容易な事ではないと言う事を・・・。


にも関わらず、彼女がそう言った場当たり的な行為へと暴走しかけたのは、目の前でもがき苦しむ仲間達の事を放って置く事が出来なかったと言う、言ってしまえば、至極真っ当な人間的心の揺らめきに突き動かされたからに他ならない。


しかし、戦場においては、戦局全体を見通した上で、真に重要なるポイント部分を見極める洞察力と、決して私意的思考に流されない客観的判断力と行動力とが、より重要視されると言う事も、彼女は重々理解していた。


ただ、彼女には、それを選び出すだけの勇気が無かっただけの事だ。


苦境に喘ぐ仲間達を見捨て、戦局全体の為に行動を起こす自分と言う人間を・・・。


(フレッチャー)

「北方へと出張る方には、かなりの負担を強いる事になるが、しばらくの間、ツィー・ハゲンの足を止めてもらえればそれでいい。後は私の方で何とかする。どちらがどちらに出向くかは、お前達自身で決めろ。」


彼女の中で、仲間達の元へと真っ先に駆け付けたいと言う思いは未だに強かった。


まずは目の前で起きている表層的事象の解決から臨み、取り敢えずの満足感を得たいと言う気持ちの方が強かった。


(ロッコ)

「セニフ。ここは僕が・・・。」


(セニフ)

「私が行く。」


しかし、彼女は、上官からの命令と有らば致し方ないとばかりに、自らの心情を色濃く上書いて見せると、最終的には自分から、そのいばらの道たる難道へと足を踏み入れる決意を下した。

勿論、彼女自身、どちらがより重きを置くべきものなのか、どちらがより困難なものなのか、解っている様子だった。


(セニフ)

「私がクリフ地帯に行くよ。ロッコ。皆の事をお願い。」


(ロッコ)

「セニフ・・・。」


(フレッチャー)

「よし。では、フロアツーがツィー・ハゲンの迎撃任務。フロアスリーが前衛部隊の救出任務だ。急げよ。時間をかければかけた分だけ不利になる展開だ。」


(セニフ)

「了解。」


(ロッコ)

「・・・了解。」


そして、混沌とした戦況下の中にしるし置かれた、単純明快なる一本道へと視線を差し向け、徐に一つ大きく息を吸い込んでみせたセニフは、遠くの方から鳴り響いてくるけたたましき爆発音の中に意識を浸し入れながら、再び操縦桿を強く両手で握り締めた。


(ロッコ)

「・・・セニフ。絶対に生きて帰って来るんだよ。基地に戻ったら、また一緒に楽しくお話ししたいからさ。約束だよ。」


(セニフ)

「うん。大丈夫。心配しないでロッコ。こう見えても私、DQの操縦には自信があるんだから。」


自信はあれども確信は無い。


恐怖心が全く無いと言えばそれは嘘になる。


されど、しっかと歩み経る道筋を見据えた彼女に、何ら迷いはなかった。


直後、セニフは、右足で力強くフットペダルを踏み拉き、トゥマルクの後部メインバーニヤ部を赤々と光り上がらせると、一路、北方クリフ地帯へと向けて、勢い良く機体を急発進させた。


(セニフ)

「行こう!ロッコ!」


(ロッコ)

「うん!」


突然にこの地へと姿を現した強大なる乱入者の手によって、にわかに掻き乱されてしまった戦局の流水は、今やどちらの陣営側に傾き流れ落ちるか解らぬ、混沌とした大渦を描き出して、双方の間でうねり狂っている様にも見受けられた。


不釣り合いなる戦力を、戦局と言う天秤の両の側に必死に積み上げ、その流れを我先にと奪い合う過酷な戦い・・・、魔境の森へと舞い降りたクリューネワルトと言う玉女を巡る壮絶な争いは、その後、奇妙な不協和音を奏で上げる戦慄の二重奏を持って、力強く掻き鳴らされる曲章へと突入し行く次第となった。

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