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Loyal Tomboy  作者: EN
第一話「ルーキー」
16/245

01-15:○台風一過[2]

第一話:「ルーキー」

section15「台風一過」


エリア55に隣接するニュートラルエリア「アルファ」。


夕暮れ時とあって各戦場とを繋ぐ、コネクトロードはかなり混み合っている。


ここアルファは、激戦区の中に位置する、唯一のニュートラルエリアというだけあって、DQA大会参加チームの関係者以外にも、商人、軍人、警察、マスコミ、観光客、武器屋、盗賊、娼婦など、ありとあらゆる人間達が集結する、活気に満ちた街並みが形成されていた。


その街の光は、廃都市ブックポイントに年1回だけ訪れる、DQA大会期間中に限ってのみ灯された、儚い光であるが、それだけに、久しぶりの賑わいを歓迎するかのように、次第に姿を現し始めた星々達も、天高くから廃都市を煌びやかに装飾しているかのようだった。


(マリオ)

「こう見てると、なんか綺麗だなぁ。」


つい先ほどまで、死闘を繰り広げてきた猛者達とは思えないほど行儀良く、コネクトロード一直線に整列した彼らは、綺麗な光の帯を形成していた。


アルファは、少し周囲より小高い丘の上にあり、エリア南部のDQ整備用第三工場3階から、そんな景色を見下ろしていたマリオが、なにやらロマンチックに目を煌かせながら呟いた。


日が完全に落ちた後の、穂のかな残り陽が辺りを火照る中、一直線に続く光の帯を包み込むように広げられた星屑のカーテン。


疲れ果てた体にさえ、じんわりと浸透する癒しの空間がとても心地よい。


マリオは、涼やかに吹き抜ける風に身をさらし、ふと、お姉ちゃんにも見せたいなと思った。


(シル)

「マリオ!!ラプセル降ろすぞ!!クレーン操縦頼む!!」


(マリオ)

「はぁい!!」


工場の最下層に、トレーラーを乗りつけたことを知らせるシルの呼びかけに対し、大きな声で返事を返したマリオが、勢い良く3階から1階まで続く階段を駆け下りる。


途中、見下ろした工場内に停車したトレーラーの上で、仰向けに寝そべるラプセルの姿を確認したマリオは、そのあまりの状態の酷さに驚いた。


原型はとどめているが、外装は完全に焦げ付いており、ジャネットを救出するために、無理やりこじ開けたと思われるハッチは、もうすでに前面装甲としては使い物にならないようだ。


そしてさらに、テスラポット接続部は完全にただれ落ち、あわよくばコクピット内部をも、灼熱の炎で包んでしまわんばかりの、火力であったことを物語ってた。


(マリオ)

「ねえシル、お姉ちゃんは大丈夫だったの?」


お留守番的な感じで、別行動を取っていたマリオが、姉のことを心配してか、少し弱々しい声色でシルに声をかける。


(シル)

「ああ。逆にぶっ飛ばしてやりたくなるぐらいに元気さ。今頃、3人で飲みにでも行ってるんじゃないか?全く、のんきなものだ・・・。」


ラプセルが大破したという速報は、マリオの耳にも届いてはいたが、まさかここまで酷い状況だとは思っていなかったのだ。


しかし、全くジャネット事を気にする様子も無く、トレーラーの運転席から身を乗り出したシルが、半ば呆れた様子で両手をかざしたのを見て、マリオはようやく安心することができた。


(マリオ)

「シル?これどうするの?システムは大丈夫って言っても、完全に腰がいっちゃってるね。テスラポットも全交換っぽいかな。明日丸々費やしたしとしても、復旧は僕達だけでは無理だよ。」


一般人であれば、単に外見の被害状況のみに、まず目が行きそうなものなのだが、マリオはまず、DQ機構主要部の腰部分についてのダメージに着目した。


どんな損傷であっても、本体センターライン以外の損傷であれば、パーツ交換等、比較的簡単な整備作業で修理が可能となるのだが、このDQ機構主要部だけは、各DQ製造メーカーによって、設計思想が異なるということもあり、熟練したDQ専門整備士の腕をもってしても、修理が困難な場所なのである。


少し状態を確認しただけで、適確にラプセルの被害状況を分析してみせたマリオは、かつての人見知りの激しい泣き虫マリオではない。


彼は、まだ幼い13歳の少年ではあるが、最近では、たまに発するこうした大人びた発言が、周囲を驚かせることがある。


(シル)

「うん・・・まあ、その点は大丈夫だ。サフォークの知り合いで、コプリー社製品に詳しい奴が、ブラックポイントに居るって言ってたからな。奴はこういう時にしか役に立たないんだから、しっかり「腕の立つ助っ人」を連れてきてほしいもんだ。かなり前に出たはずだけど、まだ帰ってきていないのか?」


頼もしく成長を見せるマリオの姿に、シルがなにやら嬉しそうな表情で言った。


まったく・・・。こんな幼いマリオでさえ、頼もしく成長を見せているというのに、あの体たらく馬鹿はいったい、どこで何をしてほっつき歩いているのか・・・。


と、シルがチラリとマリオの方に視線を向けると、その頼もしい次世代の担い手は、何故かポケットに両手を突っ込んだままの体制で、きょとんとしていた。


そして徐に、工場ガレージ奥の方を指差して、なにやら困ったような表情で、シルを促すのである。


(マリオ)

「いつでも役に立たないみたいだね・・・。」


シルがマリオが指差す方角に向き直ると、確かにそこに、サフォークの姿を見つけることができた。


・・・が、しかし、頼みの綱といえる助っ人整備士を連れて来ることはおろか、今の自分達のチームが、いったいどういう状況に置かれているのか、まったく理解していないかのように、女性の尻ばかりを追いかけている彼の姿があった。


一人の女性に声をかけては逃げられ、そしてまた、すぐ側を通りかかった女性に乗り換えて話しかけるという、下手な鉄砲数打ちゃ当たる的な発想によるナンパ。


しかも、何らかの成功を収める気配は微塵もなく、怪しげな男の語らいに、すべての女性は、ことごとくダッシュで逃げ失せるという有様。


その光景はなんとも滑稽こっけいで情けなく、チームメイトのシルとしては、恥ずかしすぎて、彼を公の場で怒鳴りつける気さえ沸き起こらなかった。


(サフォーク)

「なあ、今夜は徹夜になりそうなんだよ。どう?彼女。一緒にハンガーで珈琲でも飲みながらDQメンテでも手伝わない?俺って優秀でさぁ。解らないことがあったらなんでも聞いて。手取り足取り教えてあげるからさ。さらに君が望むなら、真夜中のライフでも手取り足取り・・・。あっ・・・。」


そして、さらに一つ黒星を増やした彼は、天を仰ぐような素振りで失望の念を表し、更なるターゲットを求めて彷徨い歩くのだ。


下品でいてセンスがなく、そして彼の真意は全く相手に伝わらないが、確実に相手に「怪しい」と印象付ける行動を繰り返す彼には、一体、羞恥心という言葉が存在するのであろうか。

遠目から彼を見つめる冷たい視線の多くには、冷ややかな笑いが含まれていた。


(シル)

「笑えない・・・。」


シルにとって、その光景がどんなに滑稽でおかしくても笑えない。


サフォークはチームTomboyの一員であって他人ではない。


彼がかく恥は、自分の恥と同じなのだ。


(マリオ)

「ひょっとしてサフォークは、笑いを取りたくてしているんじゃないの?だとしたら笑ってあげるべきだよシル。あんなに必死で女性にアタックしてさ・・・。努力だけは認めてあげなくちゃ。」


本気で言っているのか、それとも子供だと思っていたマリオが、高度なギャグを覚えたのかは解らないが、どちらであってもシルには関係なかった。


直後、シルは腹を抱えて大声で笑ってしまった。

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