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Loyal Tomboy  作者: EN
第八話「懐かしき新転地」
158/245

08-11:○スティーブ・マウンテン・ダイビング[5]

第八話:「懐かしき新転地」

section11「スティーブ・マウンテン・ダイビング」


・・・がしかし、次の瞬間、ユピーチルは、不意に三半規管を襲った、ぬめぬめとした気持ちの悪い感覚に、意識を激しく揺さぶり付けられ、カリッツォの右手に持ったHV192-T64が、全くビクともしない現実に突き当たると、徐にハッとした表情を浮かべて大きく両目を見開いた。


と同時に、恐ろしい程に研ぎ澄まされた鋭い感覚の中で、ゆっくりと機体中心軸を傾けて行くトゥマルクの映像を見遣り、中々思う程に遠退いて行かない相手機体の不気味な挙動に気が付く・・・。



何だ?・・・この不思議な感覚は・・・。



直後、ユピーチルは、一人虚しく倒れ行くはずのトゥマルクの姿に、自らの機体が強引に引き寄せられる様を見て取り、瞬間的に差し止められた意識の中で、走馬灯そうまとうの様にほとばしった、忌々(いまいま)しき過去の記憶を蘇らせる事になる。


そして彼は、相手機体を吹き飛ばす為にと突き出したカリッツォの右肩三枚羽外翼部が、トゥマルクの右手によって掴み取られている事に気が付いた。



こいつ・・・!!?



(セニフ)

「くぉぉーぬぉぉぉぉっ!!」


強烈な体当たり攻撃を浴びせ掛けられた体勢にあって尚、必死に差し伸ばした右手を持って、相手機体へと取り付く事に成功していたセニフは、倒れ行く機体のバランスをギリギリのラインで保ち、何とか持ち堪えて見せると、素早くトゥマルクの右足を相手機の足元へと滑り込ませ、カリッツォの機体を強引に引き倒しにかかった。


無理矢理な力作業を押し付けられたトゥマルクの右手マニピュレーター部から、悲鳴にも似た眩い閃光がバチバチと吐き散られる中、引き千切れても構わんとばかりに、機体を強引にひねり込ませたトゥマルクが、自ら差し込んだ右足を軸に、見事な体落としと言った投げ技を披露する・・・。


それはまさに、巨大化した人間同士が織り成す、見事なる格闘技戦と言うに相応ふさしき情景で、流れる様に繰り出されたトゥマルクの鮮やかな体捌たいさばきは、もはや無骨な巨大ロボットを操作していると言う風を感じさせない、美しき柔軟性を如実にょじつ顕現けんげんしている様でもあった。



しかしこの時、ユピーチルは、何故かそれらの全てを予期していたかの様な反応速度を持って、差し込まれたトゥマルクの右足をあでやかにスルリと抜けかわすと、直ぐさま両者を繋ぎ止めるトゥマルクの右手部分を、強引にカリッツォの左腕で薙ぎ払い、粉砕した。


そして、自分の側へと背面を晒す事になったトゥマルクが、次に一体如何なる手段を講じて攻勢に及ぶのか、直感的にそうだと感じ得た未来予想図を持って凝視、見定めると、彼は直ぐに、カリッツォの両肩から生え伸びる合計六枚の羽根を機体前面部で重ね合わせ、機体を僅かに後方へと仰け反らせた。


勿論、彼のいる操縦席内から、足元の様子をつぶさに観察し得る手段があった訳ではない。


更に言うなれば、目の前でうごめく相手機体の挙動から、相手が必ずそう言った行為に及ぶであろうと、絶対的確信を抱いていた訳でもない。


しかしこの時、彼が瞬間的に繰り出したこれらの対応は、全て大当たりと言うに相応ふさわしき結果を生み出す事になるのだ。



その直後、煌々(こうこう)と光り輝く、灼熱の赤光しゃっこうを焚き灯したトゥマルクのメインバーニヤが、カリッツォの前面部で重ね合わされた六枚羽根へと、強烈な排熱噴射攻撃を浴びせかけ、重々しき小豆色の巨大な機体を吹き飛ばしにかかった。


そして同時に、周囲に降り積もった大量の粉塵を巻き上げ、自らも相手との距離を取る様に機体を急発進させると、間髪を置かぬ間に機体を半回転させ、不意に持ち上げたASR-RType45の銃口をカリッツォにくくり付ける。



(セニフ)

「あっ・・・!」


しかし、完全に守りの体勢へと移行したカリッツォは、強固な防護盾と化した両翼六枚羽根の向こう側にじっと身を隠した状態のまま、少しも攻勢へと転じる気配を匂わせず、ただ反対方向へとかざしたサブバーニヤの推進力のみを用いて、ゆっくりと機体を後退させ行くだけだった。


あれだけの勢いを持って攻撃的やいばを振り回してきた小豆色の機体が、これ程までに突然に慎重な態度を匂わせて、敵前逃亡たる様相に固執するなど、セニフにとっても全く予想すらしていなかった展開だが、この時の彼女には、何故に・・・と思考を巡らせる暇すらも与えられなかった。


(ベトラッシュ)

「ユピーチル!!」


(セニフ)

「くっ・・・!!」


次の瞬間、唐突に吐き付けた野太い声色と共に、自らが駆る小豆色の機体を勢い良く裏路地内から飛び出させたベトラッシュが、小煩こうるさき小鼠の姿をその視界内に捉え得ると、濃密に集約した殺意の切っ先を突き付けた。


勿論、狙いを定めた深緑色の小鼠との間に、何ら目ぼしき障害物の一つも存在していなかった事から、お互いに無謀なる弾丸の浴びせかけ合いになるであろう事は覚悟の上だった。


彼は、カリッツォの左肩側三枚羽根を大きく開く様に前面部で展開すると、その隙間から巧みに相手機へと狙いを定め、HV192-T64による猛攻撃を加え入れて行く。


カリッツォの両肩部に取り付けられた巨大な可変型の六枚羽根は、自らの機体を素早く旋回移動させる為のサブバーニヤ格納庫とも言うべき代物だが、その外壁部はかなり強固な装甲に覆われており、自らの機体を守る盾としても、十分に利用価値のある異形の防護服でもある。


一方、トゥマルクの両肩に装備したDZ31型シールドは、単なる機体側面防御型の装甲板でしかなく、自らの意思を持って揺り動かせる機構機能を全く有していなかった。


その為、セニフは、壮絶な撃ち合いをゴリ押ししてくるベトラッシュの攻撃に、何ら打つ手なしと言った様相で、完全に逃げの態勢へと一転せざるを得なくなった。


(ベトラッシュ)

「遊びまわるのもこれまでだ!!」


ベトラッシュは、不意に逃走する気配を匂わせた深緑色の機体に対し、くくり付けたHV192-T64のトリガーを半場引きっぱなしの状態で、全く無慈悲なる炸薬弾の雨霰あめあられを浴びせ掛けた。


激しく光るマズルフラッシュを大量に焚き灯し、凶悪なる光矢と化した弾丸を容赦なくばら撒くその姿からは、確実に相手機を撃破するまで・・・と言う力強い攻撃的意志が、ごうごうと吐き散らされている様でもあり、時折反撃へと転じるトゥマルクの牽制弾に、何ら臆する素振りを垣間見せなかった。



・・・が、しかし、当たり所さえ良ければ一撃を持って、相手機を撃滅し得るはずの、強力な炸薬弾を弾倉丸々一本分撃ち切って尚、彼は小鼠を仕留め切る事が出来なかった。


意気揚々(いきようよう)と逃げ回る小鼠に、最後の断末魔だんまつまを吐き出させるには至らなかった。


それは、カリッツォの前面部へとかざした大きな三枚羽が逆に仇となり、中々自由に正確な射線上へと弾丸を送り込む事が出来なかった・・・と言うのが、大きな原因の一つでもあるが、目の前で小気味良い旋回回避運動を展開するトゥマルクの動きも、それは見事なものと言えば見事なものだった。


セニフがこの時垣間見せた機体旋回運動は、形式通りのウェーブ蛇行運転に加え、両足を軸とした機体回転運動を巧みに乗せ被せると言うもので、相手機に対する相対的横軸の移動量を無作為に変化させ、非常に掴み所の無い動きを奏で出す事で、ベトラッシュの狙い所を上手くすり抜けて行ったのだ。


これは、DQA時代から旋回性能に難のあるFTPシリーズDQを、愛用機として搭乗してきた、セニフの十八番とも言うべき移動方法であった。



ちっ・・・!!



ベトラッシュは直後、心の内底で軽い舌打ちを吐き鳴らし、撃ち切った空の弾倉を素早く降り落としたHV192-T64の銃身に、予備の弾倉を力強くじ込むと、にわかに苛立いらだった様相を色濃く浮かび上がらせて、殺気立った鋭い眼光を青光りする丸眼鏡の中に光らせた。


そして、不意に逃走する移動速度を引き上げ、再び北側の廃屋群へと滑り込もうと画策するトゥマルクの挙動に気が付き、それまで堅持してきた左肩三枚羽の防護盾を完全に振り解いて、思いっきり全速力で小鼠の後を追った。


(ベトラッシュ)

「そう簡単に逃げ切れると思うな!!この小鼠風情が!!」


(ユピーチル)

「やめろべトラ!!追うな!!」


この時、唐突に制止を促したユピーチルの声色に反し、猛り狂った怒りの矛先をなだすかす事が出来なかったベトラッシュは、完全に盲目なる狂戦士と化した様相を持って、狙い定めた獲物へと爆走していた。


勿論、ユピーチルの言葉が完全に彼の耳に届いていなかった訳ではなかったが、たった一機のDQを相手に、好き放題蹂躙じゅうりんされた挙句、最終的に取り逃がしてしまうと言った大失態を、彼の矜持きょうじたる思いが、そう簡単に甘受し得るはずもないと言う事でもあった。


直後、北側に広がる廃屋群の中へと素早く姿を掻き消して行った小鼠の姿を追い求め、攻撃的意識100%たる威風を轟轟と吐き散らしながら、激しく駆り立てた小豆色の機体を、その裏路地内へと滑り込ませる・・・。



・・・と、次の瞬間、不意に裏路地内を映し出したTRPスクリーンの全てが、奇妙な青白さを有した眩い閃光の只中に埋もれ、狂った様に鳴り響いた複数のワーニング音が、彼の耳朶じだを激しく打ち付けた。


それはまるで、待ち侘びた獲物に見境なくむさぼり付く、幽機的亡者達の不気味な狂い踊り・・・と言った様相のおどろおどろしき炎の塊で、爆発的連鎖速度を持って裏路地内奥側から、一気にベトラッシュの機体へと襲い掛かってきたのだ。


言うまでも無くそれは、逃走するセニフがそこに引き残した最強最悪の置き土産であり、トゥマルクの右腕に装着されたバーナーランチャーから吐き出した、非常に発火性の高い粒子の塊群であった。


彼女はこの時、ともすれば追いすがる相手機を、一瞬のうちに撃破してしまおうと目論んでいた訳だ。


(ベトラッシュ)

「ちぃっ!!」


しかし、瞬間的反応速度を持ってカリッツォの両足で大地を削り取り、機体を強引に急旋回させたベトラッシュは、道路脇に立ち並ぶ廃屋群の壁面部に、幾度も機体を擦り付ける事になったが、何とか小豆色の機体を僅かに焦がす程度で、その危機たる状況を回避する事に成功する。


そして、巧みな操作技術を持って、直ぐに機体の挙動を首尾良く制御制止させると、サーチモニター上に映し出された小鼠の動きへと視線を据え付けながら、彼は軽い溜息を吐き出してしまった。


恐らくは彼自身、先立って浴びせかけられたユピーチルの言葉が無ければ、何の疑いも無しに裏路地内へと突入していたであろう事を、既に理解していたのだろう。



北側の廃屋群へと再び身を投じた小鼠の動きは、明らかに北方出口付近を目指して逃走を続けている様子で、直ぐに新たなる攻撃を繰り出して来る気配は微塵も感じられなかったが、東側から迫り来る残りの二機と合流されたら、更にまずい展開になるかも知れないな・・・と、ベトラッシュはにわかに表情を固く強張らせ、東側の密林地帯へと視線を流した。



一方、忌々(いまいま)しき小鼠を仕留め損ねて以降、不思議と黙り込んでしまったユピーチルは、北方へと逃げ去る小鼠の姿をじっと凝視したまま、全く身動き一つ取れない状況へと陥っていた。


いや、実際には、脳裏に蘇った過去の記憶を必死に洗い直しながら、突き付けられた衝撃的事実と激しい格闘戦を繰り広げている真っ最中であった・・・と、言うべきか・・・。


(ユピーチル)

「こいつ・・・。まさか・・・。まさか・・・。そんなはずは・・・。」



何年か前・・・。五年・・・。いや、もっと前か・・・?


あれは確か、メヌシアで開催されたジェニー・デルフス杯のセミファイナル・・・。


0-2で敗北を喫した、あの忌々(いまいま)しき一戦・・・。


この私に、人生で唯一の黒星を擦り付けた・・・。あの・・・。



そして、不意にヘルメットのバイザー部分を静かに開け放ち、何処か挙動不審にきょろきょろと周囲に視線を這わした彼は、TRPスクリーンに映し出された廃墟地帯の風景、頭上に広がる深緑の世界を経由して、再びサーチモニター上へと意識を舞戻す。


(ベトラッシュ)

「すまない。ユピーチル。もう少し早く到着する事が出来れば、奴を取り逃がさずに済んだんだろうが、思った以上に難道続きでな・・・。多少、時間を食い過ぎてしまった。・・・それにしても、物凄いパイロットだ。DQの機体挙動に対する扱いが絶妙に上手い。あれは新型機に乗っているからどうのとか、そんな次元の話じゃないぞ。俺もまさか、共和国軍の中にこんな奴がいるとは思っていなかったが、これだけの腕を持ったパイロットだ。世間に広く名の通った輩かもしれん・・・。あんな突拍子も無い動きを平気で奏で出すレア者が、この世にそうそう二人といるはずが無いからな。」



そう・・・。全くその通り。正しくベトラの言う通りだ・・・。


これ程までに卓越した操舵技術を有するパイロットが、その辺にゴロゴロと転がっているはずも無い。


それは、今までこの私が身を持って対戦して来た、数多くのパイロット達と比較しても、明らかに著しく群を抜いた操舵技術である事が解る。


飛来する弾丸を回避した時の瞬間的反応速度と巧みな機体操作・・・。


接近戦における全く無駄の無い機体取り回しと恐るべき機体挙動制御・・・。


これらはもはや、驚愕と言うより感嘆に値すべき代物だ。


そう・・・。この世に二人といない、傑出したDQ操舵技術を持つ者・・・。



(ベトラッシュ)

「離脱した小鼠は、どうやらそのまま友軍機と合流するつもりらしいな。オートジャイロの攻撃も再開されそうな雰囲気だし、どうする?」


DQの機体挙動と言うものは、機体各部を稼働させる行動ファンクションと、それを元に生成されるオートモーションによって奏で出されるDQ機体の揺り動きで、物理的機体機構と論理的データを複製、完全一致させる事が出来れば、全く同じ動きを奏で出す事も不可能な事ではない。


しかし、そのオートモーションとオートモーションを繋ぐパイロット達の意思、その反応速度や組み合わせ方は、DQを操るパイロット達によってまちまち、千差万別、人それぞれで、必ず何かしらの差異が生まれ出るものだ。


如何に双子なる兄弟姉妹が並んで操作しようとも、コンピューター制御に全てを委ねた鏡面返しなる振る舞いには、遠く及ばぬ別物にしか成り得ぬだろう。


その事は勿論、ユピーチルも解っていた事だった。


つまり・・・。とどのつまり・・・。と、言う事は・・・。



(ベトラッシュ)

「どうしたんだ?ユピーチル。急に大人しくなってしまって。」


(ユピーチル)

「あ・・・。ああ・・・。別に・・・。何でもない・・・。何でもない・・・。」


(ベトラッシュ)

「・・・。なんだなんだ?その情けない返事は。お前らしくも無い。その様子だと、窮鼠きゅうそ猫を噛む・・・って言うより、猫狩りを真の生業なりわいとする、獰猛な頼豪鼠らいごうねずみに睨み付けられて、毒気を抜かれてしまったって感じだな。普段からお高く止まって威圧的振る舞いに終始するユピーチル様は、一体何処に行ってしまわれたのかな?」


(ユピーチル)

「なっ!!何を言うかべトラ!!この私がこの程度の相手に臆するなど、あるはずが無かろう!!大体君の方こそ、普段から冷静沈着で何事にも物怖じしないなどと、大層な大人っぷりを大言しているそうだが、先刻見せた君の近視眼的猪突行為は、何として説明付けるつもりなのだ!」


(ベトラッシュ)

「ふっ。大人を怒らせると怖いんだって。そう言う事さ。」


(ユピーチル)

「良く言う!・・・私は君のそう言った大人びた態度が嫌いだ!」


(ベトラッシュ)

「お前が言う嫌いと言う言葉の中には、時折、好きと言う意味合いも込められているからな。都合良く受け取っておく事にするよ。」


(ユピーチル)

「う・・・、ううぬ・・・。全く持って、君って奴は・・・。」


やがて、先程の喧騒さがまるで嘘だったかの様に、シンと沈んだ静けさをまとい直した廃墟地帯の只中で、全く普段通りの毒舌どくぜつを吐き付け合った二人が、何処か落ち着かない心の隙間同士を上手く埋め合い、補完し合うと、お互いに不思議と込み上げる笑い声を堪えきれないと言った様相を、如実にかもし出しながら、静かに東側の密林地帯奥深くへと視線を流した。


その後、ユピーチルは、大きく一つ深呼吸をゆっくりと奏で出し、胸の内底に渦巻いた強い疑念を更に奥深く、奥深くへと埋没させ掻き消すと、にわかに厳しい表情を浮かび上がらせて、周囲の状況を把握する事に意識を注力し始める。


(ベトラッシュ)

「北手に回った共和国軍の遊撃部隊三機は、今だクリューネワルトへと取り付く気配が無いな。もしかして、俺達を一気に包囲殲滅する方向で、思案を巡らせているって事か?」


(ユピーチル)

「恐らくその可能性が高い。このままだと、ツィー・ハゲンの到着を待たずして完全に孤立、退路を断たれたままなぶり殺しにされるのがオチだな。」


(ベトラッシュ)

「ツィー・ハゲンが到着するまで、まだ少し時間的余裕があるな・・・。どうだ?ユピーチル。奴らともう一戦交える気力はあるか?どうせお前も、フラストレーションが溜まりまくっているんだろ?」


(ユピーチル)

「いや・・・。ここは一度、エリア90ラインまで後退した方がよさそうだ。北側の共和国軍敵部隊に退路を遮断されると、後々面倒な事になる。」


(ベトラッシュ)

「ほーう。それはそれは、全く持ってお前らしからぬ弱腰な作戦だな。珍しいじゃないか。」


(ユピーチル)

「ふん。要は最終的に我々が勝者たる立場にあれば、それで良いと言う事だ。勿論、先程の生意気なパイロットに対しては、それ相応の倍返しを食らわしてやるつもりでいるがな。」


ユピーチルは、あからさまに強い口調を持ってそう言い放つと、軽く眉間にしわを寄せながら、TRPスクリーン右手側隅に映し出される、カリッツォの機体被害状況へと視線を宛がった。


そして、完全に使い物にならなくなってしまった左手の状態をつぶさに見遣り、邪魔になると言う程度のものでもないか・・・と、そう簡単に結論付けると、直ぐにカリッツォの右側三枚羽の裏側にHV192-T64をくくり付け、右手の操作処理だけで弾丸の換装作業を執り行った。


(ユピーチル)

「第一回戦目は引き分けだ!次こそは我々が勝つ!」


(ベトラッシュ)

「ふっ。そうだな。非才の身ながら、俺も微力を尽くすとしようか。」


思いもよらぬ苦戦を強いられた先の戦闘を静かに省みながら、虚勢とも取れる強い意志を発して見せたユピーチルは、カリッツォの右手を軽く振りかざして、ベトラッシュ機に合図を送ると、もう一度だけ東側の緑地地帯へと軽く視線を流し、僅かに両目を細めた。


彼の脳裏には、今だ色濃く焼き込まれた驚愕の事実と、唐突に沸き起こった忌々しき過去の記憶とが、ブスブスとくすぶる様に濃密な黒い煙を立ち上らせていたが、いつまでも非現実的妄想の中に囚われて、現実的思考をないがしろにする事など出来ない・・・と、強く思い直す様に力いっぱいフットペダルを踏み拉くと、小豆色の機体を激しく震わせ、一気にその場から離脱する経路を爆走し始めた。




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