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Loyal Tomboy  作者: EN
第八話「懐かしき新転地」
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08-09:○スティーブ・マウンテン・ダイビング[3]

第八話:「懐かしき新転地」

section09「スティーブ・マウンテン・ダイビング」


巨大な人型機動兵器DQの頭上を、遥かに超える大きな木々達の群れと、もはや見る影もない程に崩壊した都市群の屍達に囲まれた中で、キラキラと差し込む微かな木漏れ日に照らし出された小豆色の機体が、濃緑色で染め上げられた密林地帯の内部に唯一の異色を付け添える。


燦々(さんさん)たる力強い輝きを放つ太陽の光を、真上へと迎え入れんばかりの時頃を迎えた周囲の様相は、目がくらむほど眩いとまでは言い切れないにしろ、悶々(もんもん)とした閉塞感を払拭するには、十分な光量に満ち溢れていた。


非常に濃密でいて、且つ複雑性に富んだ枝葉群のまとわり付きは、確かに何者をも通し入れぬ防護壁的重厚さを感じ得るものだが、ありとあらゆる方角から差し込む無作為な太陽の光を、全て遮断する事など出来るはずも無く、所々ぽっかりと青空を覗かせる大きなホールからは、見るもきらびやかな光のカーテンが降り注いでいた。


全身にわかに鳥肌が泡立つ様な感覚に見舞われる過酷な最前線を目の前にして、これ程までに心地良く優美な情景に、心を打ち付けられるとは思ってもみなかったが、ユピーチルは、じわじわと猛り狂う闘争心を宿す赤い瞳を持って、新たなる展開を奏で出し始めたた相手方の動きを見遣ると、その表情の上に、ほのかな薄ら笑みを浮かび上がらせた。


(ユピーチル)

「北方棚台を迂回して回る敵影が3。南方側のなだらかな斜面を目指し降りる敵影が2。そして、斜面とも呼べぬ断崖を一気に駆け下りて来る敵影が1。もしかして、先行して我々と一戦交えようと言うのか?よほど腕に自信がある様だな。」


(ベトラッシュ)

「それより先に、北西側から共和国軍のオートジャイロが突っ込んで来るぞ。見た所、かなり高い旋回能力を有した機体の様だ。巡航スピードはそれ程でもないがな。」


古風な赤レンガ張りで形作られた脆々(もろもろ)しき壁面、無数のつる系植物達に取り付かれた建物の外壁の陰へと身を屈め、じっと隠れ潜んでいた小豆色の機体が、不意に不気味な駆動音を周囲に響き渡らせながら、その巨大な体躯をゆっくりと持ち上げた。


そして、嘗ては強固な石畳によって敷き詰められた小粋な裏通りへと歩を進め、完全に荒廃した街並みを映し出すスクリーン上に、今だ見えぬ敵の姿を見据える。


ユピーチルは、マリンガ・ピューロ第一城塞壁を抜け出た後で、突如として現れ出た飛び島の様な廃墟地帯の中に、己が最も得意とする乱戦的戦闘構図をイメージし、形作ると、トゥアム共和国軍の陸戦部隊を、このエリア地域に誘い込む方向で思案を巡らせていた。


勿論そこに、変に手の込んだ罠の様なものを仕組んでいた訳ではない。


(ユピーチル)

「北方へと迂回した敵部隊は、しばらく放置する事にしよう。小煩こうるいオートジャイロに関しても、ツィー・ハゲンが到着するまでは完全に無視だ。どうせ我々の手持ち武器だけでは対抗し得ないのだからな。」


(ベトラッシュ)

「確かにこの状況なら、上空から直接照準される事も無いだろうが、自動追尾型のミサイル攻撃には気を付けろよ。ユピーチル。ECM兵器、持って来てないんだろ?」


(ユピーチル)

「ふん。そんなもの、どうとでもなるわ。」


(ベトラッシュ)

「ふふっ・・・。まあな。」


彼は、自分達部隊の三倍プラスα(アルファ)の敵兵力と対峙したこの状況下にあっても、自分達が簡単に敗北と言う二文字に塗れる事は無いだろうと、安直な考えを抱いていた。


言うなればそれは、時として己の運命を左右する重要な分岐点を、見誤らせがちな色眼鏡と言うべきもので、過信にも似た思い込みに等しい愚直な考え方であったかもしれない。


しかし、自らが持つ高い戦闘能力に確固たる自信を抱いていた彼の自尊心の中には、旗色の悪さに臆すると言う言葉は存在し得ず、この様な状況下にあって尚、彼の瞳の奥底には、力強い闘争心の炎がメラメラと燃え盛っている様だった。


勿論、両軍が持てるその総火力を一斉に撃ち合えば、数的劣性を強いられる自分達陣営側が圧倒的に不利である事ぐらい、彼自身も既に解っていた事であり、出来るだけ見通しの悪い入り組んだ地形地域を利用して、敵部隊を散開分散化させる必要があった訳だが・・・。


(ユピーチル)

「さーて。思慮深き共和国軍兵士達の行動に敬意を表して、我々も遺漏いろうなきお持て成しをして差し上げるとしようか。」


(ベトラッシュ)

「それも格別に情熱的なサルサのステップを踏んでか?」


(ユピーチル)

「相手にそれだけの素養があればな。」


ユピーチルはそう言って、再びサーチモニター上へと鋭い視線をくくり付けると、三手方向へと別れた共和国軍部隊の動向をつぶさに見守りながら、程なくして掻き消されるであろう、周囲の森閑しんかんたる様相の中へと意識を溶け込ませた。


そして、相も変わらず物凄いスピードで接近してくる真っ赤な光点へと視線を移し、その移動軌跡から導き出される対敵予測地点を脳裏に描き出すと、静かなる呼吸をゆっくりと奏で出しながら、じっと真に折り良き攻撃の時宜じぎを待った。



今現在、彼等二人が隠れ潜むこの飛び島の様な廃墟地帯は、彼等が搭乗するDQカリッツォの機体より、僅かに高い程度の建物部分しか残っておらず、それ程強烈な閉塞感に包み込まれていた訳ではない。


所々完全に朽ち果てた区画エリアを通し見れば、向こう側の森の木々達の姿が見える程で、カリッツォの機動性、移動力を最低限保証しつつ、敵部隊の攻撃力を適度に削ぎ落すには、まさに打って付けの景観が広がっていると言えた。


勿論、彼等がこの廃墟地帯を戦場に定めた時点で、中型輸送機へと取り付く優先権を相手方に引き渡してしまった事は事実であり、北方へと迂回した共和国軍別働隊の行動に、何ら関与できぬ立場に陥ってしまったのだが、墜落した中型輸送機の積み荷が、一体如何なるものであるのか、事前にある程度の情報を得ていた彼等にとって見れば、それは当面どうでもいい事であった。


彼等もまた、対峙した敵軍の目論見が、この中型輸送機の積み荷を、回収する事にあるのだと言う事を察していた。


(べトラッシュ)

「ユピーチル!来たぞ!」


やがて、シンと静まり返ったコクピット内部において、じわじわと高揚する胸の高鳴りを押さえ付けていたユピーチルは、ほのかに緊迫感を交えたベトラッシュの野太い声色を捉え聞き取ると、にわかに泡立つ内肌の感触に突き上げられる様にして顔を上げた。


直後、TRPスクリーン左上隅付近へと注意を促すシグナル表示と、耳障りなワーニング音が、続けざまに彼の視覚聴覚を強襲し、慌ただしき遭遇戦の幕が切って落とされた事を告げ示す。


(ユピーチル)

「よし!行くぞ!」


ユピーチルは、北西方向から勢い良く突っ込んでくる二つの光点、トゥアム共和国軍の戦闘ヘリ部隊が、まさに対地攻撃を仕掛けんとする、その直前のタイミングに合わせて、右足で強くフットペダルを踏みしだき、搭乗する小豆色の機体を震わせた。


そして、完全不可視なる緑の雲海上で撒き散らされた攻撃的やいば、合計八本もの対地攻撃用ミサイルの移動軌跡を脳裏になぞり描き出しながら、細く入り組んだ廃墟地帯の裏道内を疾走して行く。


真っ赤に燃え盛る灼熱の鬼火を背中へと背負い込み、猛烈な爆音と爆風を周囲に吐き散らし突き進むその姿は、まさに細い裏路地を線路に見立てた暴走列車と言わんばかりの迫力で、その小狭き窮屈な道筋に対し、何ら臆する素振りを垣間見せなかった。


無論、その程度の不都合に臆して、足を緩める様な事があれば、背後から迫り来る高性能な殺人兵器に、直ぐに取りかれてしまうであろう事は明白な事だが・・・。



ユピーチルは一瞬、自分とは相反する方向へと散開した、ベトラッシュ機の様子を窺う様な仕草でサーチモニター上へと視線を落とすと、FTPフィールドを展開する為の準備作業を施した。


そして、コクピット内部に木霊するワーニング音が、より一層けたたましき共鳴を奏で出す中、ようやく廃墟地帯の裏路地を抜けだした彼は、突き当たった幹線道路に滑り込む様にして、カリッツォの機体を急旋回させると、カリッツォの両腰部分に装備されたデコイを三つ程投下する。・・・と、それと同時に、自機周囲にFTPフィールドを展開させながら、幹線道路中央部に生え伸びていた二本の巨大な木々達の間をすり抜けた。


その直後、濛々(もうもう)たる濃緑色の雲海を突き抜け、魔境の森内部へと舞い降りた白色の攻撃的やじりが、次々と付け狙う獲物へと目がけて全く容赦のない体当たり攻撃を敢行する。


この時、ユピーチル機へと狙いを定めて降り注いだ自動追尾型ミサイルは、全部で四つだった。



ドガン!!ドガン!!ドガン!!



一つ目、二つ目に降り落ちた自動追尾型ミサイルは、虚しくも周囲に建ち残る建物群を吹き飛ばして終わりを見た。


三つ目に降り落ちた自動追尾型ミサイルは、直ぐ目と鼻の先まで迫った獲物を捕らえ得ようとした瞬間、目の前へと立ちはだかった巨木の太い幹によってそれを阻まれた。


そして、何ら目ぼしき遮蔽物に阻害される事なく、降り落ちた四つ目の自動追尾型ミサイルが、逃走するユピーチル機の直ぐ後背にまで肉薄し、細長い円筒形本体の後部噴射口から伸びる綺麗な白い糸雲を、強引にくくり付けにかかる。



ドガン!!



猛烈な熱量を伴って吐き散らされた轟音と暴風が、静穏なる時を刻んでいた廃墟地帯の建物群を荒々しく揺るがし、魔境の森内部に立ち込めた穏やかな空気の層を激しく震わせた。


ガラガラと地響きを奏でて瓦解する建物群が、周囲に鬱積うっせきした大量の粉塵を豪快に巻き上げ、根元部分を大きくえぐり取られてしまった巨大な喬木きょうぼくが、天空と大地とを遮蔽しゃへいする分厚い緑雲内部を大きく掻き乱しながらゆっくりとその巨体を斜めに寄り倒して行く。




(セニフ)

「!?・・・やったの!?」


サーチモニター上に表示される敵対シグナルに対して、まさに手応え有りと言った破壊的映像を映し出す、TRPスクリーンをつぶさに見遣りながら、セニフは僅かに懐疑的色調を含み入れた声色を発した。


険しい断崖を形成する岩肌の坂道を猛然と駆け下り、南西側に広がる小さな廃墟地帯を目指していた彼女は、そのエリア部分端辺たんぺんへと辿り着こうかと言う矢先で、その光景を目の当たりにした。


彼女は直ぐに、サーチレーダーの感度調節ダイヤルをグルグルと回し、のうのうと立ち上る黒煙と粉塵、頭上から降り落ちる大量の枝葉群によって、錯乱状態へと陥った爆心地付近の索敵行動を実施する。


・・・が、しかし、サーチモニター上から掻き消えたその敵機シグナルは、彼女が有するサーチシステムに再検知される様子はなかった。


廃墟地帯内部をジグザグに突き進んでいた帝国軍機と、上空から舞い落ちたツインアローの移動軌跡、そして、その交錯地点で発生した強烈な爆発とをかんがみれば、確かに撃破したものと、そう結論付けるのも無理ない事だ。


しかし、セニフが一瞬、残るもう一機、廃墟地帯を一直線に南下して、ツインアローの魔の手から脱したベトラッシュ機へと意識を移し替えた時、進行方向左手側に立ち並ぶ廃屋の隙間で、何かがキラリと光った事に気が付いた。


それは、恐らく頭上に垣間見える穴の一部から差し込んだ太陽の光が、何ものかに反射して生み出された、小豆色の綺麗な燐光りんこうだった。



!!?



(ユピーチル)

「まずは一機だ!!」


崩れかけた建物の向こう側、細い裏路地を通して見えるその向こう側に、煌々(こうこう)と眩く光るフレア光を捉え見たユピーチルは、にわかに恍惚こうこつの笑みを浮かべながら、そう言葉を発した。


そして、物凄い勢いで西進してくる緑色の機体の移動軌跡に狙いを合わせ、カリッツォの右手に構え持った中距離仕様型アサルトライフル「HV192-T64」のトリガーを引く。



ガンガンガン!!



彼はつい先程降り落ちた四つ目の自動追尾型ミサイルの餌食にはなっていなかった。


直撃すれば即死、それを僅かに逃れても瀕死は固い、悪魔の様な殺人兵器にその背後直近にまで追いすがられながらも、彼は自分の機体に全くと言って良いほど、損傷の呈色ていしょくを残さず、その危機たる状況を回避する事に成功していたのだ。


・・・と言うより、彼にとってみれば、その状況は危機ですらなかった。


狙ってましたとばかりに四つ目のデコイを放り投げ、素早く機体を廃墟地帯東側の建物群へと滑り込ませる事で、難なく最後のミサイル攻撃を回避した彼は、まさにこの時、この瞬間を演出するが為に、相手に撃破されたように見せる演技をしていただけなのだ。


直後、ユピーチルは、怪しく歪めた笑みを口元に浮かび上がらせながら、思いっきり右足でフットペダルを強く踏み込んだ。



・・・が、しかし・・・。


ほのかに水気分を帯びた地質帯へと突入したトゥマルクが、不意に機体上部を左手側に傾けたかと思うと、同方向へとずり動かした両足を持って巧みに機体のバランスを支え持ち上げ、細かなスライド移動を奏で出して見せる。


そして、ほんの僅かな刹那せつな的瞬間の中で、もう二度ほど同様のステップを踏んで見せたトゥマルクは、ものの見事に迫り来る三発の弾丸を、軽くいなす様な形で回避してしまった。




(ユピーチル)

「・・・・・・・・・な!・・・何!?」


一瞬、ワンテンポ遅れて驚きの声を発してしまったユピーチルは、一体何をされたのか良く解らないと言った様相でにわかかに表情を歪め、駆り立てたカリッツォをその場に急停止させた。


自らの射撃能力に絶対的自身を有していた彼にとって、こうも簡単に、まるで何事も無かったかの様に簡単に、致命的一撃と成り得るはずの会心の不意打ちをかわされるなど、全く予想すらしていなかった出来事だった。


勿論、彼自身、神憑かみがかり的反射神経を持って、その先制攻撃を回避されてしまう可能性は十分にあると考えていた。


偶発的な事象が折り重なり、相手に全く損傷を与えられない可能性も十分にあると考えていた。


だがしかし、進行方向の右手側、もしくは左手側へと機体を急旋回させるでもなく、機体を急停止させるでもなく、ほぼ一直線と言っても差支えない軌跡を描き出したまま、機体の移動速度を全く緩めないままに、その攻撃をかわされるとまでは思っていなかった。


その後彼は、細かな水飛沫みずしぶきを吹き上げながら西進する、この深緑色のDQにしばし意識を囚われてしまうと、声にならない驚きの言葉を、幾度も脳裏に反芻はんすうさせてしまった。


(ベトラッシュ)

「ユピーチル!!何をしている!!」


するとその直後、不意に事切れたかの様に時を止めてしまったユピーチルに、慌てた様子で通信システムに大きな怒鳴り声を浴びせかけたベトラシュが、南方より東側に廃墟地帯を迂回した経路上を驀進ばくしんしながら、とらえ見た緑色のDQにHV192-T64の銃口を突き付けた。



そして、全く間髪を置かずして銃火器の発射トリガーを強く引き放つと、多少精度を度外視した炸薬弾数発を、猛然と疾走するセニフ機へと浴びせかける。


勿論、ガンレティクル内へと収め入れた相手DQの移動速度が異様に速いと言う事、相手DQとの距離が、まだかなり離れていると言う事は彼も解っていた。


この時、彼の放った弾丸の意図する所は、少しでも相手の動きを牽制し、その足を止めさせる事にあった。



・・・が、しかし・・・。


ベトラッシュ機が構えたHV192-T64の銃口から放たれる、見るもあでやかな鋭い光矢の破断線の一塊が、爆走するトゥマルクとの交錯予測地点へと正確に突き進む中、再び深緑色の機体が軽やかなステップをあでやかに踏み始める。


そして、不意に機体後部メインバーニヤの全稼働を停止させたトゥマルクが、左手側へと放り投げた両足を持って大地を大きく削り込み、機体をクルリと180度回転させた瞬間、一度だけ後部バーニヤを大きく吹き上がらせた。


(ベトラッシュ)

「オーリーターンだと!?」


大地上に滞留する大量の麗水れいすい群を盛大に巻き上げつつ、機体を反転、進行方向に対する逆噴射を加え入れたトゥマルクは、迫り来る炸薬弾の一団を嘲笑あざわらうかの様にやり過ごすと、そのままの回転力を持って直ぐに正面へと向き直り、再び赤々としたフレア光を背中にき灯した。


それはまるで、荒々しくも優美でいて可憐なる踊り子の舞い・・・と言うに相応ふさしき様相で、ベトラッシュは、先ほど奏で上げられたユピーチルの驚声きょうせい同様、思いもよらぬ甲高い声色を通信システム内に流し入れてしまった。


トゥマルクが一気に駆け抜けようとしたその大地上は、一見して何ら変哲の無いなだらかな平面を形作っている様にも見受けられるが、実際には、周囲に広がる大量の水分と雑草群によって覆い隠された、細かに起伏の激しい凹凸おうとつを有した難道である。


全速力で一気に駆け抜けるだけならまだしも、まさかこれ程までの大技を持って攻撃を回避されるなど、思いもよらぬ出来事以外の何ものでもなかった。


その後、全く無駄の無い流れる様な動きを持って回避行動を完結させたトゥマルクは、立て続けに浴びせかけられた不意打ちの影響を微塵も感じさせず、再びトップスピードへと達しようかと言う勢いを垣間見せる。



(ベトラッシュ)

「ちっ!!」


ベトラッシュは、意図せずも驚愕きょうがくと言う二文字によって凝り固まってしまった意識を、吐き捨てた舌打ちの上に乗せて、強引に脳裏から振り解くと、直ぐに構えたHV192-T64の銃口を深緑色の機体へと差し向けた・・・のだが、その後は、凄まじい勢いで西進を続けるトゥマルクに対して、正確に照準をくくり付ける事が出来なかった。


そして、廃墟地帯東側のほとり付近で停止したままとなっていたユピーチル機を一気に追い越し、付け狙う深緑色の機体へと執拗しつように弾丸を撃ち放ち続けるのだが、虚しく空を切るだけと言う惨憺さんたんたる結果にのみ終始する次第となり、最終的には、TRPスクリーン左手側から現れた廃墟地帯北側の建物群に、その射線を遮られてしまう事となってしまった。


ベトラッシュは直ぐさまサーチモニターへと視線を落とし、東方より迫り来る二つの新たなる敵影の動向をチラリと窺い見ると、まず何より優先すべきは、廃墟地帯北側へと潜り込んだ小鼠を撃墜する事だと、カリッツォの両肩から生え伸びる合計六枚の巨大な鋼鉄の羽を大きく羽ばたかせた。


そして、強く踏み拉いたフットペダルの作用を持って、ごうごうとうなり狂う真っ赤な業火を後部バーニヤ部へと宿し入れる。


自らが持てる戦闘能力を十分に発揮し得る場所であると、そう確信してこの廃墟地帯を戦場に設定した彼等だが、この時彼等は、真っ先に対峙する事となった、たった一機のDQを相手に、中々に主導権を掴み取れない不愉快な状況を強いられる羽目となってしまった。


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