07-12:○光を無くした影達の集い[3]
第七話:「光を無くした影達の集い」
section12「光を無くした影達の集い」
私はね。元々「ジャネット・クライス」って言う名前だったの。
「ホスノー」って言う名前は、母が再婚してから付いた名前なんだ。
つまりね。私とマリオは、父親が違うの。
私達二人が、リバルザイナから来たって事は、セニフも知っている事だと思うけど、実は私、こう見えて、結構いいとこの一人娘だったんだ。
母は「メルタリア」で代々続く大資産家の跡取り娘で、父はリバルザイナでも有数の大企業の社長だった。
セニフは「クライス」って言う名前、何処かで聞いた事無いかしら?
リバルザイナでDQなんかも作ってる、結構大きな会社なんだけどね。
父が、その会社の社長だったの。
私は、生まれた時から何不自由無い、人も羨む様な裕福な生活を送っていたんだ。
リバルザイナ南西部「ギド砂漠」の辺にある「ヴォルドォ」って街でね。
ヴォルドォは、そんなに大きな街じゃないんだけど、街周辺部の砂漠地帯には、大きな工場が幾つも立ち並んでいて、すごく近代的な街・・・、そうね、リトバリエジ都市の工業地帯みたいな感じって言ったら、解りやすいのかな。
「不滅の楽園」って呼ばれている「メルタリア島」も、すぐ目と鼻の先にあったし、私が小さい頃は、結構リゾート地としても有名な場所だったのよ。
工業都市って言う割りには、すごく綺麗な街だった事を覚えているわ。
私の家は、そんな綺麗な街並みを一望できる、少し小高い丘の上にあって、大きな建物が幾つも連なって出来た、まるでお城の様な、真っ白いお屋敷だった。
家の使用人なんか、何人いるのか数え切れないほど居たし、専属のコックや家庭教師以外にも、医師や弁護士まで居て、ほとんど家の外に出なくても、普通に生活できたぐらいね。
欲しい物も、言えば何だって手に入ったし、自分では何もしなくても、全部使用人達がやってくれる、そんな贅沢な暮らしだった。
でもね。そんな暮らしも、見た目ほど幸せじゃなかったんだ。
確かに私は、大勢の使用人達に囲まれて、何不自由無い暮らしを送っていたけど、誰も親身になって私の相手をしてくれる人は居なかったし、私が通っていたエレメンタリースクールの先生達も、何処かみんな、変に余所余所しかった。
私は周囲の大人達から、他の子達とはちょっと違う特別な存在なんだって、そう思われてたみたいで、まるで腫れ物に触る様な扱いを受けていたんだ。
クラスの中でも、私はやっぱり変に浮いた存在で、誰も私に話しかけてくれる子は居なかったし、友達と呼べるような友達も全く出来なかった。
勿論、家に帰れば母が私の相手をしてくれたけど、父は仕事が忙しいからと言って、ほとんど家に帰ってこなかったし、母はいつもいつも、何処か暗く寂しげな表情を浮かべていた。
私はその頃、仕事が忙しいなら仕方がないかって、幼いながらにそう自分に言い聞かせて、ずっとずっと我慢してたんだけど、実際は仕事だなんて、全然嘘っぱちだった。
私の父は、世間でも有名な好色的人間。
毎晩のように違う女の人を引き連れて、遊びまわっていたんだって。
私がその事を知ったのは、かなり後になってからの話なんだけど、ある時、使用人の一人が、こっそりと私に教えてくれたの。
ほんともう、最低の父親だった。
少しも家族を省みない、仕事と女の事しか頭に無い男なんて、ほんと最っ低・・・。
私は父の事が大っ嫌いだったわ。
母は毎晩、私を寝かし付けた後で、一人寂しくベッドの中ですすり泣いているの。
ほんと毎日のようにね。・・・とても可哀想だった。
私さ、そんな母の事を見ていられなくって、何も知らない振りして、無闇に抱きついたり、明るく無邪気に振舞ったりして、少しでも母の事を元気付けてあげようとしてたんだけど、やっぱり母の顔から暗い影が消える事は無かった。
あの頃の私にとって、母は唯一心の許せる存在。
母は私にとても優しかったし、・・・ううん、私だけじゃなくって、他の使用人達にも優しくって、誰からも慕われる、心優しい人だったの。
子供の私が見ても、綺麗だなって見とれてしまうぐらいの美人だったしね。
父が何故、そんな母の事をほっぽり出して、他の女の人と遊びまわっているのか、ほんと私は不思議で不思議でしょうがなかった。
男って、よく解らない生き物よね。
本当に大切なものが何かなんて関係ない、目先の事しか考えていない馬鹿な生き物。
母を悲しませるぐらいなら、いっその事、居ない方がいいのにって、そう思ってた。
でもね、正直言うと、私はそんな父でも、帰って来て欲しいって思ってたんだ。
勿論、父の事は許せなかったし、憎んでさえいたけど、私が幾ら頑張った所で、母は元気になってくれないんだって事が解っていたしね。
それに私は、やっぱり家族三人で暮らしたい・・・、何処かに遊びに行ったり、楽しく食事したり、普通の家族みたいになりたいって思ってた。
でもね、やっぱり、そんな日は訪れなかったの。
偶に父が帰ってきても、母といがみ合うばかりで、二人が顔を会わせれば必ず激しい口論になる。
二人の関係が良くなる気配なんて、全く無かったわ。
それは私が間に割って入っても同じ事だった。
父と母はね。元々愛し合って結婚した仲じゃなかったの。
二人が結婚したのも、単に私って言う子供が出来たからって、ただそれだけの話。
母は私が生まれる際、結婚に反対する親の制止を振り切って、歴史ある名家の跡取り娘と言う身分を投げ捨てて、父の元に嫁いで来たらしいけど、本当は私の事を厄介者だと思ってたんだわ。
母がある時、父と喧嘩している最中にこう言ったの。
あの娘が生まれたから仕方なく・・・ってね。
もうね、涙も出ないぐらいショックだった。
いつもなら、きりの良い所で二人の喧嘩を止めに入るんだけど、その時ばかりは、頭が真っ白になってしまって、何も考えられなかった。
私は父だけじゃなく、母にも望まれずに生まれて来た子供なんだって、そう考えると、悲しさよりも虚しさって言うか、・・・凄く寂しい気持ちになってしまった。
そして、その日の晩、母は終に家を出る決意をした。
私にとっては唐突な話だったけど、母にとっては、もう我慢の限界だったんでしょうね。
母は家を出る時、私にこう言ったわ。あなたはどうするの?・・・って。
私は直ぐに、母が出て行くなら私も付いて行くって、そう返事を返そうとしたんだけど、母の顔はあからさまに付いて来て欲しくないって顔をしてた。
ほんと、口には出さなかったけど、そう言われているような気がしたわ。
でも私には、母の居ない生活なんて考えられなかったし、あんな父の元に一人残るのは嫌だったし・・・、母は私の事、本当は嫌いなのかも知れないけど、一生懸命良い娘にしてれば、その内母も私の事を好きになってくれるだろうって思って、私は母に着いて行く事に決めたの。
私は母の事が大好きだったしね。
他に選択肢なんて無かった。
私が母と一緒に家を出たのは、確か私が八歳の時。
大した荷物も持たず、誰にも見送られず、いつもなら車で通るはずの大きな庭を抜けて、真っ暗な夜道に出た時は、本当に不安で不安でしょうがなかった。
これから何処に行くの?って母に尋ねても、ずっと泣いたままで、何も答えてくれなかったしね。
母は元居た自分の家から、既に勘当された身だし、何処に行く当ても無ければ、帰れる場所も無い、本当に頼れる人も居ない、そんな心細い旅立ちだった。
その日は、もう時間的に遅いって事もあって、取り敢えず街のホテルに一泊する事にしたんだけど、母は少しでも早く父の元から遠ざかりたいって思ってたみたいで、私達は次の日の朝早くに、ヴォルドォの街を離れる事にしたの。
まだ夜が明ける前から始発を待って、何処行きかも解らない、古びた長距離列車に飛び乗ってね。
その後、丸二日かけてようやく辿り着いた先は、「アブキーラ」、「ケープリア」に程近い、「シャロン・ロン・シャオロン」って言う小さな街。
そこは「アエル川」って大きな川を挟む渓谷沿いに作られた街で、近代的な雰囲気なんて全く無い、昔ながらの建物が多く建ち並んだ、凄く静かで綺麗な街並みだった。
緑が多かったし、空気もひんやりとしていたし、今まで住んでいたヴォルドォとは、根本的に匂いが違うなって思った。
母と私は、その街で新しい生活をスタートさせる事になるの。
街外れにある集合住宅に、小さな部屋を借りてね。
勿論、右も左も解らない、全く見知らぬ他所の土地で、母とたった二人で生活を始める事に、全く不安が無かった訳じゃないわ。
やっぱり最初の方はうまく行かなかった。
母も私も、自分一人では何にも出来ないお嬢様。
料理はおろか、掃除や洗濯も満足に出来なかったし、お風呂のお湯を沸かす事だって出来なかったの。
その部屋で暮らし始めた最初の日は、近くの店で買ったパンとお惣菜を食べて、水のシャワーを浴びたっけ。
今じゃ笑える話だけど、その時は結構必死だったのよ。
その内、一週間が経ち、二週間が経ち、三週間も経つ頃には、ようやく母も私もその生活に慣れ始めたんだけど、母は新しく働き始めた仕事場で、相当苦労していたみたいだったし、私も新しく通い始めたエレメンタリースクールに中々馴染めなかった。
私ね。やっぱりそう言う環境で育って来たから・・・って言うのもあって、凄く我儘な子だったし、凄く自分勝手だったし、周りの子達からは酷く煙たがられてたの。
周りの子達に自分を合わせようなんて、少しも考えなかった。
当たり前って言えば当たり前だけど、新しい友達なんて一人も出来なかったわ。
母も仕事場から帰ってくると、毎日毎日溜息を付くばかりで、その内直ぐに仕事も辞めさせられて、ずっと一人で頭を抱えて込んでいた。
母はその後も、色々な仕事にチャレンジしていったけど、どれも長続きしなかったわ。
何不自由無い優雅な暮らししか知らなかった私達にとって、外の世界で普通に生活する事が、こんなにも大変な事だなんて思ってもいなかったし、世間知らずのお嬢様が二人揃った所で、その辺で遊んでいる小さな子供にすら勝てないんだなって、そう思えるほど、私達には生活力が無かった。
でもね。そんなある時、私達は一人の男性と出会うの。
家の近くにあるスーパーの精肉店で働いていた、とても明るくて感じの良い人。
・・・そう。当たり。その人がマリオの父親よ。
そして、私の新しいお父さんになる人。
名前は「コイリア・ホスノー」って言って、母よりも九歳年下のおじさん・・・、ううん、その時はまだ、おじさんと呼ぶには、若すぎる年齢だったかな。
私はずっと、コイリアおじさんって呼んでたんだけどね。
そのコイリアおじさんが、いつまで経っても満足に買い物もできない母の事を見かねて、色々と手助けしてあげてたんだって。
私が初めておじさんと会ったのは、夕飯を作ってくれるからって、母がおじさんを家に連れて来た時かな。
買い物に行くって出かけたのに、突然知らない男の人を連れて来るんですもの。
私ほんと、びっくりしちゃって、最初はおじさんとまともに会話する事も出来なかった。
でもね、おじさんは本当に優しい人だったし、明るくて気立てが良い人だったし、何より、母の事を好きだって言ってくれてたし、私がおじさんと打ち解けるのに、そんなに時間はかからなかったんだ。
母もおじさんの事を好きなんだなって事は、最初連れて来た時に直ぐに解ったしね。
私はもう、この人が私の新しいお父さんになるんだなって、そう思ったわ。
私とおじさんは、親子って呼べるほど歳が離れていた訳じゃなくて、どちらかって言うと、優しいお兄さんが出来たみたいな感じだったんだけど、おじさんの事をお兄さんって呼ぶと、本当のお父さんになった時、ちょっと困るじゃない?
・・・かと言って、いきなりお父さんって呼ぶ訳にもいかないし、だから私、コイリアおじさんって呼ぶ事にしたんだ。
何か変な感じでしょ。
その後、母はおじさんと同じスーパーで一緒に働く事になって、ようやく私達も人並みの生活を送れるようになったんだけど、毎日の食卓におじさんが加わるようになったのは、その頃からかな。
仕事が休みの日なんかは、三人で何処かに遊びに行ったりもしたし、私達三人は、本当の家族みたいに過ごしていたんだ。
エレメンタリースクールでの私は、相変わらずだったけど、おじさんと出会ってからの毎日は、私にとって本当に楽しい毎日の連続だった。
でもね。そんな楽しい日々も、ずっと長くは続かなかったんだ。
私達がおじさんと出会って、一年ぐらいが経った頃、・・・その頃はもう、おじさんは私の家で一緒に暮らしてたんだけど、・・・母がね、新しい命を宿したの。
・・・そう。私の弟、マリオをね。
その時は、母もおじさんも、ほんと大喜びしてたわ。
勿論、私も一緒になって喜んであげた。
母とおじさんは、ずっと籍を入れないまま、私の家で同棲を続けていたんだけど、マリオが生まれる二ヶ月前に、ようやく街の小さな教会で結婚式を挙げた。
おじさんの親戚が、二十人ぐらい出席しただけのこじんまりとした小さな挙式だった。
私ね、綺麗な純白のウェディングドレスに身を包んで、幸せそうに笑っている母の顔を見て、凄く凄く嬉しい気持ちになった反面、何故か凄く不安な気持ちにもなったの。
二人の結婚を境に、私の名前にも「ホスノー」って言う文字が付いたんだけど、なんて言うか、・・・二人の間に割って入っちゃ駄目なんだって、躊躇する気持ちの方が強くなって、酷く居心地が悪いような感じがしたんだ。
私の名前に、「クライス」って言う文字が残されたままだったしね。
本当は私、「ジャネット・ホスノー」って言う名前で良かったんだ。
でも母は、何故か私の名前に「クライス」と言う文字を残した。
それが何でかって、母に尋ねてはみたけど、結局その理由を教えてくれなかったわ。
勿論私は、何となくその理由に気付いてはいたけどね。・・・それを口にするのが怖かった。
それまでの楽しい生活が、一瞬にしてなくなっちゃうんじゃないかって思って、その事に全く気付かない振りをして、普段通りの自分を演じようとしてた。
でもね、やっぱり・・・。
マリオが生まれてからは、母もおじさんもマリオに付きっ切り。
そりゃあ、生まれたての赤ん坊は、誰が見たって可愛いでしょうし、色々と手間がかかるってのも解っているけど、その頃から私は、母の態度が妙に素っ気無くなったのを感じた。
同じ家に暮らしていながら、私の事を一人だけ蚊帳の外に置くような態度って言うか、酷く突き放した目で私の事を見るようになったの。
・・・あからさまに私の事、煙たがっているような感じだった。
確かに考えてみれば、私は愛してもいない男との間に出来てしまった子供だし、本当に愛し合う仲で授かった子供の方を優先して、大切にしたいって思う気持ちも解らなくは無いわ。
でもね、私だって、まだ子供だったんだ。
母に優しく微笑んで欲しかったんだ。
母に優しく抱きかかえてもらいたかったんだ。
それなのに・・・母は厄介者を振り払うように、要らない物を放り出すように、冷たい視線を突き付けて、私を軽くあしらう様になった。
私には友達も居ない、母しか居ないんだって、解ってた癖にさ・・・。
ほんと辛かった・・・。
私は母をマリオに盗られたと思った。
自分一人では何も出来ない癖に、ただ泣き喚くだけで、母の全てを手に入れる事が出来るマリオが憎かった。
私は何とかして母を振り向かせようって、泣きながら抱きついたり、甘えて見せたりしたんだけど、それでもやっぱり駄目だった。
その内私は、意味も無く駄々を捏ねたり、悪戯なんかもする様になって、母の事を酷く困らせるようになったわ。
優しく微笑んでくれなくても良い、どんな形でも、母が私の方を向いてくれればそれで良いって、そう思ったんだ。
私が悪さをすればするほど、母の態度があからさまに冷たくなって行くのが解ったけど、いつまでも物分りの言い出来た娘を演じ続けたって、優しい母は帰って来ないんだって思ってたしね。
でも結局、母が私の事を本気で叱る事は無かった。
いつもいつも呆れた顔して、無言のまま大きな溜息を付くの。
ほんと、私の事なんか少しも眼中に無いって感じだった。
母が私に「クライス」って名前を残した理由、・・・勿論これは、私の想像でしかなくって、本当に母がそう思っていたのかどうか、今となっては解らない話なんだけど、ひょっとしたら母は、私に元居た家に戻って欲しかったんじゃないかって、・・・そう思ってたの。
そうじゃなきゃ、私の名前に「クライス」なんて残すはずが無いし、・・・信じたくないけど、それ以外に考えられなかった。
母はおじさんと一緒に、新しい生活をスタートさせて、マリオって言う大きな幸せを手にして、とても嬉しそうだったけど、裏ではもう、私って言う厄介者をどう処理するか、考えていたのかも知れないわね・・・。
でも私は、その後もずっと母の元に居座り続けた。
母の口からはっきりと「出て行け」って言われるまでは、望みを捨てないでおこうって思ったの。
勿論、だからと言って、母の態度が直ぐに変わるとは思ってなかったんだけどね。
私が母の元に残ろうって思ったのは、おじさんが居たからってのが一番の理由かな。
おじさんは、母と喧嘩ばかりする私の事を、優しく宥めてくれたり、私が一人で寂しそうにしていると、一生懸命励ましてくれたりしたんだ。
本当に優しい人でね。私は本当におじさんの事が大好きだった。
でもね、ある時私は、おじさんの本音を聞いてしまう事になるの。
あれは確か、私がジュニアハイスクールに通うようになった頃かな。
夜、私が寝静まったと思って、おじさんが母と二人で話し込んでいるのを、私、隣の部屋から聞き耳を立てていたんだ。
そんな日に限って、中々寝付けなかったりしね。
そしたらおじさん、母との会話の中で、はっきりとこう言ったの。
あの娘をどうするんだ・・・って。
私、まさかおじさんの口からそんな言葉が出てくるとは思ってなかった。
あんなに優しかったおじさんが、いつもいつも私の味方をしてくれていたおじさんが、実は私の事、母と同じように、厄介者だって思ってたなんて、・・・信じられなかった。
悲しくて悲しくて、涙も出なかった。
私は本当に誰からも愛されない、本当に誰からも必要とされない、そこに居るだけで周囲に害を与える厄介者なんだって、ゴミ同然の存在なんだって、そう思った。
その時私ね・・・なんて言うか、・・・ほんとおかしくなっちゃって、酷く自暴自棄になって、大声で怒鳴り散らしたり、意味も無く物に八つ当たりするようになったの。
そして、ジュニアハイスクールも頻繁にサボるようになったし、家出してみたり、物を盗んだりするようになった。
挙句の果てには、警察に捕まったりもしてね・・・。
ほんと、今考えても呆れるぐらい馬鹿な事してたわ。
・・・うっふふ。そうよね。信じられないでしょうね。
でもね。これは本当の話。
私は元々そう言う人間だったの。
・・・ううん。でも本当はもっと酷い人間。
・・・最低の人間なんだ。
その後、私は案の定、何処に行っても誰にも相手にされない、人から疎まれる存在に成り下がってしまったんだけど、自分の馬鹿な行為を省みて反省する所か、更にエスカレートした酷い行為に手を染めるようになるの。
セニフなんかは、やっぱり聞いたら驚くかしら。
・・・私ね、母やおじさんが見ていない所で、・・・マリオの事を虐めるようになったんだ。
ほんと、執拗に、・・・可哀想なぐらいに・・・虐めまくった。
汚い言葉を浴びせ掛けたり、嫌がらせをするぐらいならまだマシな方で、叩いたり、髪の毛を引っ張ったり、蹴ったり、殴ったり、投げ飛ばしたり、マリオの身体に痣が出来ても構わないって感じで、本気で虐めてた。
・・・うん。・・・だけど、これは事実なの・・・。
その頃の私は、自分の幸せをマリオに奪われたと思ってたし、やり場の無い怒りや寂しさ、やるせなさを、自分より立場の弱い、まだ幼いマリオにぶつける事で、気分を紛らわせようとしていたの。
それに、私がマリオを虐めていれば、母も私の事を見過ごす事ができなくなるって、そう思ってたから・・・。
ほんと、最低の人間よね・・・。軽蔑するわよね・・・。
私は貴女が思っているほど、実際に出来た人間じゃないの。
欲しい物が手に入らないと、直ぐに癇癪を起こして、物に当たる我儘で卑しい人間なの。
欲しい物を手に入れるためなら、他人を傷つける事も厭わない、人として最低のクズなの。
・・・もう、ほんと最低の人間!・・・最低っ!!
ほんと、自分で自分の事が嫌になるわ・・・。
こんな人間、早く死んでしまえば良いのにって・・・、いつもいつもそう思って・・・。
そうよ。あの時だって、私が死ぬべきだった。
マリオじゃなくて、私の方が死ぬべきだったのよ。
なのに何で・・・、何で・・・、マリオなの・・・。
ううっ・・・うっ・・・。