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Loyal Tomboy  作者: EN
第七話「光を無くした影達の集い」
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07-10:○光を無くした影達の集い[1]

第七話:「光を無くした影達の集い」

section10「光を無くした影達の集い」


心地良いしっとりとした音楽の流れる薄暗い部屋の中で、ぽつぽつと無造作に置き放たれた蝋燭ろうそくの灯りが、木製の古びた長いカウンターテーブルを優しく照らし出している。


時折頬をでる様に過ぎ去る柔らかな空気も、何処と無くサラサラと肌触りが良く、幻想的でいてミステリアスな印象を受けるナイトクイーンの香りも、そう悪くは無い。


大きく吹き抜けた天井部で回るシーリングファンも、それほど真新しい様相をそなえておらず、吹き抜けの二階部分に当たる飲食ホールも、全て木製でこしらえられた古色蒼然とした造りとなっている。


薄暗がりに包まれた部屋の向こう側に並ぶ、こじんまりとした丸テーブルも非常に質素な物で、床一面に張り巡らされたムラのある石畳と、不規則に積み上げられた石レンガ造りの壁面が、まるで時代を逆行したかのような古めかしさを、より一層浮き立たせている様にも感じられた。


ここは、トゥアム共和国ランベルク基地地下三階に位置する、基地内で唯一の飲酒店「ドリーミネス」であり、日々の軍務に疲れた兵士達の心と身体を癒す為に、様々な工夫が施された、言うなれば趣味の施設だ。


周囲をぐるり見渡せば、不思議な背格好をした大きな観葉植物達が幾つも目に付き、部屋の片隅で唯一きらびやかなスポットライトを浴びるグランドピアノが、一段高いステージの上で一際高雅こうがな異彩を放っている。


壁際に置かれた本棚には、いつの物とも知れぬ古雑誌が軒を連ね、更に意味不明に置き放たれた子供向けの玩具や縫い包み、用途不明な置物の数々などが、所狭しと並べられていた。


多少ごちゃごちゃとした雑多な感じは否めないものの、こう言ったある種の「良い味」を滲ませる店の雰囲気は、逆に居心地の良ささえ感じてしまう魅力があった事も確かで、ジャネットは、妙に落ち着ついた心の淵から、一つ軽い溜息を吐き零して見せると、手元に置かれていたブランデーグラスを静かに持ち上げ、口元へと運んだ。


(ジャネット)

「ふぅ・・・。」


そして、不意に店の入り口付近へと視線を流し、隅に置かれたビリヤード台でゲームを楽しむ三人の男性達へと視線を宛がうと、特に何を思うでもなく直ぐに視線を切捨て、今度は逆に、店の置くの方で何やら楽しげに談笑している、二人の男女の方へと一瞥いちべつをくれた。


ここドリーミネスは、日々不規則な勤務体制を強いられる兵士達の為に、二十四時間三百六十五日休まず扉を開き続ける不眠の店であり、繁忙期ともなれば、席に座る事すらままならぬ賑わいを見せる人気店なのだが、やはりと言うべきか、時刻してまだ夕刻16:00前と言う早い時間帯にあっては、閑散たる寂しげな雰囲気を少しも払拭する事が出来ないでいる様子だった。


彼女が座るカウンターテーブル席からは、店内の全てを見渡す事は出来なかったが、それでも恐らく、両手の指の数に満たない程度の人数しか、居ない事だけは間違いなかった。



ジャネットはふと、右手に持ったグラスを、蝋燭ろうそくの光と重なり合うようにしてかざすと、濃密なオレンジ色の中で踊り狂う、黄色い閃光の揺らめきの中にじっと意識を埋没させた。


グラスの中に満たされたブランデーと、そこに積み上げられた氷の結晶が、時折激しく揺らめく蝋燭ろうそくの炎によって、あでやかに照らし出され、チラチラと眩いばかりの閃光を幾つも弾けさせながら、彼女の目の前に、神秘的な光のイルミネーションを浮かび上がらせる。


それはまるで、暗がりの中へと沈んだ彼女の事をおもんばかって、励ましのダンスを披露してくれているかの様でもあり、ほんのりと周囲に漂う甘くとろけるようなブランデーの香りもまた、まどろみ行く彼女の意識を、そっと優しく包み込む様な雰囲気を醸し出していた。


ほとんど人気ひとけの無い寂しい店の中でただ一人、何を考えるでもなく、何をするでもなく、じっと時間が過ぎ去ってくれる事だけを願っていた彼女は、やがて、グラスの中で溶けた氷が、カラン・・・と言う、透き通るような心地良い音色を打ち鳴らしたタイミングに合わせて、一気に残るブランデーを飲み干した。


そして、口の中一杯に広がった濃密な甘味を、じっくりと堪能するかの様に、ゆったりとした長い吐息を鼻から吐き出すと、直ぐに空っぽになったグラスをバーテンダーの方へと差し向けて、フルフルと左右に揺り動かして見せる。


(バーテンダー)

「同じものでよろしいのでしょうか?」


(ジャネット)

「ん?・・・ぅん。」


丁寧な口調でそう問いかけたバーテンダーの言葉に、返事とも取れない様な微かなうなずきを返して見せたジャネットは、ゆっくりと左手で抹茶色の癖毛を掻き揚げると、空いたグラスを彼に引き渡した後で、徐にその身をカウンターテーブルの上へと放り出した。


程良いザラザラとした感触を残したテーブルの上に、そっと両手を重ね合わせ、更にその上に火照った左頬を静かに寝かし付けると、綺麗なオレンジ色の花を咲かせる蝋燭ろうそくの炎が、あでやかなる温和な世界観を持って、彼女の意識を優しく迎え入れてくれる。


しかしこの時、目の前で繰り広げられる妖美なる火影ほかげの舞踏会に、全く新たなる興味心を沸き起こす事が出来なかった彼女は、程なくして目の前へと垂れ落ちて来た髪の毛と共に、次第に重たさを増した両瞼を静かに閉じると、不意に思い付いた全く別なる思考を、脳裏に呟き出した。



今頃、他の皆は、軍事演習の真っ最中か・・・。


いいなぁ・・・。



そしてその直後、ビリヤードの玉が激しくぶつかり合う音を聞いたジャネットは、店の奥の方で時折笑い声を交える男女の話し声に、ちょくちょく意識を奪われながらも、全く何もする事が無い自身の境遇に、多少嫌気が差した様子で大きな溜息を吐き出した。


勿論この時、彼女は本当に全く何もする事が無い程、暇な立場にあった訳ではなく、本来であれば、ネニファイン部隊の待機組として、現在進行形で執り行われているブラックナイツ部隊との軍事演習を、モニタールームから観戦するよう義務付けられた立場にあった。


部隊長であるサルムの計らいにより、待機組のメンバー達は、その行動を半強制的に縛り付ける窮屈な待機命令を免れる事が出来ていた訳だが、だからと言って、こんな場所で暢気のんきに酒をあおっていて良いはずもなかった。


軍事演習開始から三十分も経たない内に、少しぐらいなら良いわよね・・・と、モニタールームを一人抜け出したジャネットは、基地内の喫煙ルームで立て続けに二、三本のタバコを吸った後、直ぐにまたモニタールームへと戻るつもりでいた。


しかし、他人同士の戦いを傍から眺めて、一喜一憂する程の興味心があった訳でも無く、次なる戦いに備えて、勤勉なる自分を引きり出す気力も沸き起こらなかった彼女は、通路脇ですれ違った待機組の一人を捕まえ、少し気分が悪いと適当な理由をこじ付けると、退屈な観戦作業からばっくれて来たのだった。



(バーテンダー)

「お待たせしました。」


やがて、テーブルの上でぐったりと項垂うなだれていた彼女の元に、バーテンダーの機械的な声色が届けられると、彼女は徐に頭をのっそりともたげ、差し出されたブランデーグラスに虚ろいだ視線を据え付けた。


そして、全く取り付く島もない素っ気無さをかもし出して、すぐさま自らの業務へと舞い戻ったバーテンダーの後姿へと視線を切り替え、もう少し愛想良く振舞えないものなのかしら・・・と、接客業務に携わる彼の人間性に疑問符を投げかける様に、多少呆れ気味の溜息を吐き付けてやった。


しかしこの時、彼女は別に、彼に話し相手になってもらいたかった訳ではなく、直ぐにどうでも良い事だと思い直して視線を切り捨てると、テーブルの上に置き放っていたタバコとジッポに手を伸ばした。


左手に持ったタバコケースの端を、右手の人差し指でトントンと軽く小突き、小気味良くせり出した一本のタバコを唇に挟み込むと、手馴れた手つきでジッポに赤々と火を付け灯し、もはや喫煙者として全く違和感を感じさせない振る舞いを奏で出して、白々とタバコの煙を吐き散らして見せる。


そして、カウンターテーブル席の背凭せもたれに、思いっきり身体を預ける様にして天井を見上げ、タバコを口に銜えたまま、静かに両目を閉じた。



ほんと暇ね・・・。ほんとに・・・。


このままモニタールームに戻っても良いけど、なんかもう・・・面倒臭くなっちゃったし、部屋に帰ってシャワーでも浴びて、さっさと寝ちゃおうかしら。


どうせ居残り組みは明日までする事が無いんだし、それに体調がかんばしくないってのは事実なんだしさ。


まあ、体調が良くないって言うよりは、少し気分が優れないって言った方が正しいのかな。


なんかこう、鬱陶うっとうしくモヤモヤとした感じで、何もしたくないって言うか、でも逆に、何かをしていたいって言うか、何もやる気が沸き起こらないのに、何かをしていなければならないって、そんな漠然とした不安感が、常に意識の片隅に居座っている感じ。


何もする事が無いって、こんなにも辛い事だったんだ・・・。知らなかったな。


今までなら・・・。


・・・・・・。


そう、今までなら・・・。



やがて、不意に気持ちの悪い思考の渦へと陥りかけた自らの意識を、強引に引き戻すかの様に体勢を戻したジャネットは、きつく吸い込んだタバコの煙を割と強めの吐息と共に吐き出した。


そして、半分程度吸い終えたタバコの残りカスを、テーブルの上に置いてあった灰皿にグリグリと押し付け、妙に落ち着きを無くした意識の拠り所を求めて、再び店内の様相へと視線を巡らせた。



(ジャネット)

「ん?」


するとそんな時、見渡した視界の片隅に捕らえられた、不思議な人影の存在に気付いたジャネットは、思いもよらず唐突に虚を付かれたと言う感じで、小さく喉元を鳴らした。


それは彼女も良く知る人物の姿であり、上に薄手の半袖Tシャツを二枚羽織り、下はGパンにサンダル履きと言う、全く持ってラフな格好で姿を現した赤毛の少女だった。


この少女は一体いつからそこに居たのだろうか。


カウンターテーブル席に座るジャネットの左手後ろ側に、三歩程離れた位置で、じっと気配を殺して佇んでいた少女は、ジャネットが横目で据え付けた視線に、気付く素振りは見せはしたものの、全く一言も喋り出す様子も無く、ただモジモジと落と視線を床の上に泳がせているだけであった。


ジャネットはふと、そんな少女の歯切れの悪い振る舞いに、面倒臭そうに小さな溜息を吐き出して見せると、何事も無かったかのように視線を切り捨て、カウンターテーブル席へと向き直った。


そして、置き放たれたままになっていたブランデーグラスを手に取り、一口、二口ブランデーを口に含み入れると、完全に消え切っていなかったタバコの火を消す為、灰皿に右手を伸ばした。


しかし、ほとんど無視に近い態度を突き付けてやったにも変わらず、背後にまとわり付いた少女の気配が消える様子は無く、ジャネットは仕方無しとばかりに、あからさまに冷たさを込め入れた口調で、「何か用?」とだけ、短く言葉を発して見せた。


(セニフ)

「あ・・・。えっ・・・と。・・・うん。」


するとセニフは、ジャネットの問い掛けに一瞬だけ反応を見せた後、直ぐに何かを話し出そうとして徐に両手を持ち上げたのだが、じっと見据えたジャネットの後姿に、以前の様な暖かさ、物柔らかさが、少しも感じられなかった事に気が付くと、何処かまごまごと躊躇ちゅうちょする様に言葉を濁しまった。


予め予測出来た反応とは言え、やはり目の前で直にその様な態度をぶつけられると、思い切って会う事を決意した心のたぎりも、何処か急に冷え行くような寒さに震えだしてしまい、これまで彼女に、一体どのように接して来たのかと言う簡単な事さえ、覚束おぼつかない白霧の中へと、思考が迷い込んでしまう。


なまじ優しかったあの頃のジャネットを知っている分、その違和感は更に大きな物となってセニフの前に立ちはだかり、まるで見えない鉄格子によって、その行く手を阻まれている様にも感じてしまった。


今、セニフの目の前に居る人物は、勿論、彼女も良く知るジャネット本人に間違いは無いのだが、酷く怖気おじけ付いた振る舞いを見せるセニフに対し、全く救いの手の一つも差し出そうとせず、無言を突き通すジャネットの態度は、セニフの目から見ても、やはり別人と言わざるを得ない雰囲気を醸し出していた。


しかしやがて、次第に泣き入りそうな表情を浮かべて、項垂うなだれてしまったセニフの姿を、横目でチラリと窺ったジャネットは、再び大きな溜息を吐き出して見せた後で、徐に自分の座る右手側の椅子を静かに引いた。


まあ、どうせ暇を持て余してた訳だし・・・と言うのが、彼女の中での言い訳だったが、情け容赦なく振りかざした邪険なあしらいにも負けず、必死に耐え忍んでいたセニフの姿に、彼女の方が根負けしてしまったのは間違いなかった。


(ジャネット)

「どうしたの?座りなさいよ。セニフ。」


(セニフ)

「えっ?・・・あっ・・・うん。」


セニフはこの時、ようやく自分を受け入れてくれる態度を示した、ジャネットの行動に直ぐには気付かず、しばらくの間、チラチラとジャネットの顔色を窺いながら、じっと下唇を噛んでいたのだが、意外にも温和な喋り口調でそう促したジャネットの言葉に、少し驚いた表情を浮かび上がらせた。


そして、久しぶりに聞いたようにも思える、ジャネットの優しげな声色に、ほのかに小さな笑みを零して見せると、不意に流れ落ちた涙を必死に拭い去りながら、ゆっくりとカウンター席へと歩を進めた。


ジャネットはその後、全く無言なるままに隣の席へと着席したセニフの方を見遣るでもなく、素っ気無い態度で再びタバコを手に取り、静かにジッポで火を付けたのだが、何処か居心地が悪そうに落ち着かないセニフの素振りを感じて取ると、吐き出した白い煙の中に視線を漂わせ、多少罪の意識にさいなまれてしまった。


(セニフ)

「えっと・・・。マスター。私にもヴィーナスをロックで・・・。」


やがてセニフは、テーブルの上に置き放たれていたブランデーグラスを見つけるや、カウンターの奥で静かにグラスを拭いていたバーテンダーを呼び付け、不思議と愛想の良い作り笑いを浮かべながら、ジャネットが飲んでいた物と全く同じ物を注文する。


どんよりとした気まずい雰囲気を無理に誤魔化ごまかして見せようとしたのか、普段通りの明るさを込め入れたその声色には、何処か微かな震えが混じり入ってしまった様で、自分自身それと気付いてしまったセニフは、次第に語尾をすぼませながら下を俯いてしまった。


つい今しがたシャワーを浴びてきたのであろう彼女の赤い髪の毛には、まだほのかに湿り気が残っている様で、テーブルの上で揺らめく蝋燭ろうそくの炎に照らし出されて、キラキラとつややかな光沢を放っていたが、俯いた状態からでも直ぐ解る程の赤さを残した彼女の瞳は、全く生気無く暗い影を落としたままだった。


恐らくはここ数日の間、ろくに睡眠を取る事も出来ずに、ろくに食事を取る事も出来ずに、ただ只管に泣きじゃくっていたのだろうと、そう直ぐに思い至ったジャネットは、特に面白くも無さそうに仏頂面ぶっちょうづらを携えたままに、横目でじっとセニフの姿を見つめていた。


しかし、その気持ち、解るわ・・・と、唐突に痛々しい思いを沸き起こしてしまった彼女は、徐にテーブルの上からグラスを取り上げ、一気に残るブランデーを口の中に流し込むと、むせびく様な甘い吐息を大きく吐き出した後で、静かにこう言った。


(ジャネット)

「マスター。ボトルにして。」


セニフはその言葉に、思わず驚いた様な表情を浮かべて頭を持ち上げ、直ぐにジャネットの方に視線を据え付けたのだが、ジャネットは別段、セニフに何かを言うでもなく、ただ右手に持ったタバコを柔らかな唇に挟み込んで、赤々とした光を口先に輝かせただけだった。


ジャネットが言い放った言葉の真意は、もはや問うまでも無く解り切った事であり、セニフは不意に込み上がった嬉し涙を持って目元を潤ませてしまうと、直ぐにジャネットからソッポを向くように椅子を回した。


そして、やっぱりジャネットはジャネットだと、当たり前の言葉を脳裏に浮かび上がらせながら、しばらくの間、何回も何回も鼻をすする事になってしまった。



やがて、二人の前に一本のブランデーボトルを携えて歩み寄ってきたバーテンダーが、ジャネットの軽いうなずきを見るや、用意した二つのグラスに氷を入れ、手際良く開け放ったボトルの口先を、ゆっくりと交互にグラスへと傾けて行く。


しかしこの時、何処かいぶかしげな表情を色濃く滲ませて、この奇妙な二人組みの女性にチラチラと懐疑的視線を宛がっていたバーテンダーは、左手に座る少女、セニフの首元からぶら下がっている軍団証を確認する事を忘れなかった。


この軍団証は、トゥアム共和国軍在籍の兵士である事を示す身分証明書であり、各軍団別に色分けされた外装に、軍階級、所属部隊、氏名、年齢、生年月日、性別、顔写真など、間違いなく本人である事を示す情報が記載さたものだ。


そしてその他にも、基地内の各通路に設けられたセキュリティ認証や、各個人に与えられた部屋の鍵、基地内での買い物、飲食などの支払いにも使用できる、全く持って便利なカードであったが、その分、紛失してしまった時の後処理が非常に大変で、基地内で暮らす兵士達にとっては、命の次に大事と言える代物の一つだった。


勿論この時、このバーテンダーが一番気にした項目は、見るからに幼いこの少女の年齢が、十六歳以上であるかどうかと言う事であり、男女共に十六歳で成人扱いとなるトゥアム共和国において、彼女にお酒を出して良いものかどうか、疑ってかかっていた訳だ。


喫煙に関しては二十歳以上である事と言う制限が設けられているが、飲酒、結婚、各種免許の取得、選挙権など、成人としてのその他の権利は、全て十六歳の誕生日を迎えたその日から与えられる事になっている。


如何に見た目が子供の様に幼いセニフであっても、この国ではもう、一人の成人女性として見做みなされる身分に達している事になるのだ。


バーテンダーはその後、セニフの軍団証に記載された「16」と言う数字を読み取ると、並々とブランデーを注ぎ入れたグラスを二人の前にスッと差し出し、静かにカウンターテーブルの上にボトルを置き放った。


そして、もう一度だけセニフの方に視線を宛がうと、本当に十六歳なのだろうか・・・と言う拭い切れない疑念を軽い溜息と共に吐き捨て、直ぐにカウンターの奥の方へと姿を消していった。


子供と大人を分け隔てる成人年齢に関しては、今尚、各国で様々な意見が飛び交い、幾度と無く議論を重ねて来てはいるのだが、人によって成長度合いが異なり、更にそれを正確に見計る術が無い以上、一概にこれと言った区切りを見出す事は出来ないのかもしれない。


現に、十六歳を超えた身でありながら、何処の誰が見てもまだ子供と言う幼さを残し、人前でも沸き起こる感情を上手くぎょし得ないセニフの姿は、ジャネットの目から見ても、やはりまだ子供と言わざるを得なかった。


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