01-13:○黒いお抱え衛兵[7]@
※挿入絵は過去に描いた古い絵を使用しています。小説内容と若干細部が異なります。
第一話:「ルーキー」
setion13「黒いお抱え衛兵」
突然、轟音が鳴り響くと共に、細かな振動がメイルマンの体を襲った。
完全に密封されたリベーダー2のコクピット内にまで響き渡るその音は、極至近距離から放たれたパングラードの20mm機関砲を被弾している音である。
その時、メイルマンの意識の中に生じた一瞬の油断を、見逃さなかったセニフは、すでにリベーダー2を射程に捕えていたのだ。
浅瀬に止まるリベーダー2の左手から進入し、横向きドリフト状態でカーネル中心にパングラードを半周させる間、20mm機関砲のトリガーは引きっぱなしだ。
水分を大量に含んだ大地を、ほとんど「水切り」状態で、水飛沫を飛散させながら弾丸をばら撒きまくる。
鈍い金属音が鳴り響き、周囲で光り輝く兆弾の嵐が渦巻く中で、メイルマンはじっと耐えるしかなかった。
リベーダー2の装甲の穴とも言える各関節部分を押さえ、最小限の被害に押さえ込むよう努力する。
ドガン!
しかし、いくら最新鋭の機体とは言え、20mm機関砲の弾丸を至近距離で被弾して、無事にいられるはずも無い。
結果、火花を飛び散らせて爆発発火したのは、後部テスラポット動力チューブ一箇所と、左右太腿裏部分の巡航バーニヤ両翼。
高起動を高らかに掲げ、戦場をかけぬけるべく開発された新鋭機は、この時、天高く舞い上がるための翼を削がれたのであった。
(メイルマン)
「くそっ!!やりやがったな小娘が!!」
無様にもモクモクと噴煙を上げ始めるリベーダー2の中で、一瞬にして過ぎ去った嵐の夜明けと共にメイルマンが怒鳴り散らす。
そして、即座に反転したリベーダー2が、過ぎ去っていくパングラード目掛けて、ResenASR-10rengを構えた。
(セニフ)
「トドメを刺してやる!!」
一方、横滑りの惰性によって、少し相手との距離を離してしまったセニフは、そのままの旋回力を利用して、リベーダー2の方へと機体を向き直すと、すぐさまフットペダルを勢い良く踏み込み、再度攻撃態勢へと移行した。
・・・・・・が、激しく高ぶった気持ちをぶつけ合うべく、再戦を望んだ両者の思いとは裏腹に、戦場エリア55は、嘘の様にシーンと静まり返ったままだった。
(セニフ)
「なに?動け!!動いてよ!!何で!?オーバーヒートォ!?ふざけんな!!」
意識のみを暴走させるかのように、架空の世界で相手を撃破することをイメージしていたセニフが、やっと、その周囲の静寂さに気づき、目の前のコンソールをぶち叩きながら叫ぶ。
セニフのコマンド入力に対して、全く反応を見せなくなったパングラードは、メイルマンとの戦闘において、過剰な負荷をかけ過ぎたために、各神経を繋ぎ止める増幅ビットが吹っ飛び、完全に戦闘不能状態に陥ってしまったのだ。
また、メイルマンの方も、ResenASR-10rengのトリガーを何回も引いているにもかかわらず、彼の望む弾丸は、一発たりとも発射されない。
(メイルマン)
「ちっ!!どっかの回路がやられたな。これだから電磁系ASRは・・・。」
ほとんど使うことの出来なかった「役に立たない試作品」に、舌打ちしながらぼやくメイルマンは、せめて他の火器をもう一つでも装備してくればと、今更ながらに後悔して見せるものの、今となっては後の祭りだ。
如何に機体性能に優れていようとも、相手DQを攻撃するための火器を失ったのであれば、リベーダー2と言えども、ただの木偶の坊である。
両者共に、その機能を満足に果たすことの無い大きなプロテクターの中から、お互いを睨め付ける事しか出来ないという、悲しき戦いに終始するしかなかったのだが、チームTomboyには、まだ最後の希望が残されている事に、セニフは気がついた。
(セニフ)
「アリミアァ!!なにしてんの!?撃ってよ!!」
(アリミア)
「弾切れ。」
全く、しょうもない会話だ。
この時点で、両チームが打てる手立ては、すべて潰えたと言える。
(メイルマン)
「覚えておけ、今度会ったときは3機まとめて始末してやるからな。」
激しい黒煙を噴出しながらも、生き残っているバーニヤが、まだ使えることを確認したメイルマンが、去り際の最後の捨て台詞を吐き出した。
彼としても、こんなチンケな新人チームに、これだけの損傷を負わされたのである。
腸が煮えくり返りそうな思いを抱いていたに違いない。
しかし、すでにこれ以上の戦闘が無意味であることを理解していた彼は、やけにあっさりと後退する意思を見せ始める。
大きな音と、大量の風圧を伴って移動を開始するリベーダー2は、とても損傷を追ったDQであることを感じさせないスピードで、セニフの元を後にした。
(セニフ)
「ちくしょうぉ!!」
彼女に残されたものは、全く動かなくなったパングラードと、最後の嫌がらせたる、メイルマンが旋回時に巻き上げて行った砂煙だけである。
殆ど相手にいいようにあしらわれていた印象しか思い浮かばないセニフは、その怒りと悔しさにより、半分涙目になりつつ顔を強張らせるのだが、ふと、自分はそんなことしている場合じゃない事に気がつく。
そして、急いでパングラードのコクピットハッチを手動で開けると、全速力でジャネットの元へと駆け出すのである。