表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Loyal Tomboy  作者: EN
第七話「光を無くした影達の集い」
133/245

07-01:○闇夜の反抗

第七話:「光を無くした影達の集い」

section1「闇夜の反抗」


EC397年6月16日深夜。


セルブ・クロアート・スロベーヌ帝国の東方地域各地で、大規模な軍事衝突が発生した。


先の戦いにおいて副都心リトバリエジを失陥してしまったトゥアム共和国は、同都市奪還に向けた前段階として、帝国軍東方部隊の補給経路を分断する作戦を発動。


その中継基地である軍事都市オクラホマへの侵攻を開始した。


「オクラホマ攻略作戦」と銘を打たれたその作戦は、極短時間の内にオクラホマ都市を占領すると言う、云わば力押しの突撃作戦とも受け取れる代物だったが、非常に数多くの陽動作戦を各所にまぶす事によって、帝国軍の軍事行動を著しく阻害し続けると、最終的には、ほとんど完璧に近い形でシナリオを完結させる事に成功した。


それはまさに歴史的大勝利と言っても過言ではない戦果であり、各地で苦戦を強いられた帝国軍兵士達の多くは、トゥアム、リバルザイナ両共和国連合軍に対し、何ら成す術も無く敗走に敗走を重ねる結果となった。



トゥアム共和国軍は、オクラホマ攻略作戦を発動させるに先んじて、帝国領東部カルッツァ地方への大規模な陽動作戦を敢行。


帝国軍陸上部隊を北方へと引きり出すと、共和国南西部サルフマルティア基地へと集結させた主力本隊を、帝国領南東部から一気に帝国本土奥深くへと侵攻させた。


当作戦における最大の懸念事項と言われた、秘密基地パレ・ロワイヤルミサイル基地に関しても、諜報部工作員が直前に入手した帝国軍機密情報から、ミサイル発射台の詳細設置位置を特定する事ができ、リバルザイナ共和国空軍の対地爆撃によって、その機能を完全に沈黙させる事に成功した。


パレ・ロワイヤルミサイル基地に対して、トゥアム共和国軍が投じた総兵力は、人型機動歩兵部隊8個小隊と、中軽量戦車部隊2個中隊、支援車両部隊2個中隊、そして、同基地占領を目的とした機械化歩兵部隊1個中隊と言う編成で、陸上兵器総計60機(歩兵部隊、非戦闘車輌を除く)であり、それほど多くの人員を投入した訳ではなかったが、リバルザイナ共和国空軍の戦闘爆撃機1個飛行中隊が、驚異的な対地攻撃能力を発揮すると、パレ・ロワイヤルミサイル基地の防衛守備隊は、全く有効的な反撃を講じる事ができずに、敢え無く基地の陥落を迎える事となってしまった。


パレ・ロワイヤルミサイル基地における帝国軍防衛守備隊の総兵力は、人型機動歩兵部隊3個中隊と、蟲型高速機動部隊2個小隊、戦車部隊5個小隊、対空支援車輌3個中隊、支援車輌2個小隊、その他装甲車輌1個中隊、戦闘装甲ヘリ1個中隊に加え、中距離弾道ミサイル発射台9基、固定対空砲台12基、固定野戦砲台11基と言う編成で、陸上兵器総計102機、航空兵器総計18機(歩兵部隊、固定式兵器、非戦闘車両を除く)と、数字上で比較してみても、共和国連合軍の倍近い兵力を有していた。


しかし、トゥアム共和国の諜報部工作員による破壊工作から、軍事管制システムに壊滅的打撃を被ってしまった帝国軍は、パレ・ロワイヤルミサイル基地の危機的状況を察知する事ができず、同地域に航空部隊を全く派兵する事ができなかった。


その為、パレ・ロワイヤルミサイル基地防衛守備隊は、共和国連合軍に航空優勢権を掌握されたままの戦闘を余儀なくされ、損失率八割を超える壊滅的打撃を被って敗走する事となった。



今回このオクラホマ攻略作戦において、トゥアム共和国の諜報部工作員が成し得た数々の工作任務は、作戦全体の優劣を根底から揺るがす程、重要な戦果を両共和国軍にもたらしたと言えるのだが、その成果が如実に現れ出たのは、やはりオクラホマ都市周辺部での戦闘に関してであろう。


トゥアム共和国軍主力本隊がナルタリア湖周辺部を突っ切り、一気にオクラホマ南方防衛基地へと差し迫った時、オクラホマ南方防衛守備隊は、トゥアム共和国軍の別働隊による奇襲攻撃を受け、著しい混乱に陥っていたのだが、大量の陸上兵器と大量の航空兵器を備えたオクラホマ都市は、まだ共和国連合軍に対抗しうるだけの十分な戦力を有していた。


しかし、トゥアム共和国の諜報部工作員による破壊工作は、軍事管制システムに対する論理的破壊工作だけに止まらず、都市防衛本部や固定対空高射砲、索敵レーダー施設への物理的破壊工作をも完遂させ、同都市の防衛機能を完全に麻痺させる事に成功していた。


勿論それは、同都市内部で勃発した武装決起軍の活躍があってこその戦果とも言えるが、彼等の働きによって、帝国軍は完全に同都市周辺部の状況を把握できなくなってしまい、レイナート山脈を越えて飛来した、トゥアム共和国空軍の爆撃編隊によって、完膚なきまでに駆逐されてしまったのだ。


言うまでも無く、真っ先に爆撃を受ける羽目になったのは、大量の航空兵器を停機したオクラホマ軍事空港であり、この時、トゥアム共和国軍の爆撃編隊の襲来を察知し、緊急スクランブル発進で離陸できた戦闘機は、たったの5機だったと言われている。


その後はもはや語るまでも無く、一方的に虐げられる側へと転落した帝国軍は、やむなくトゥアム共和国側の思惑に乗る形で、オクラホマ都市の一時放棄を決断すると、一路トポリ要塞へと向けて撤退行動を開始した。


やがて、オクラホマ攻略作戦発動から約十六時間が経過した翌6月17日の昼過ぎには、オクラホマ都市周辺部で鳴り響いていた砲声は完全に沈黙し、同日夕刻にはトゥアム共和国軍第二陸将「ロン・ロベルト・ミューラー」が到着、オクラホマ武装決起軍総司令官である「ヒューファレス・プレサリオ」と対面した。



オクラホマ都市周辺部での戦闘に関して、トゥアム共和国軍が投入した総兵力は、高速戦車部隊2個連隊と、重戦車部隊2個連隊、機動歩兵部隊2個小隊、戦闘装甲ヘリ2個中隊、歩兵部隊1個大隊、戦闘機2個飛行中隊、戦闘爆撃機2個飛行中隊と言う編成で、陸上兵器総計330機、航空兵器総計54機(歩兵部隊、非戦闘車輌を除く)であった。


一方、それに対する帝国軍の総兵力は、重戦車部隊3個連隊、支援車輌2個大隊と2個中隊、対空車輌4個中隊、装甲車輌1個中隊、人型機動歩兵部隊3個中隊と1個小隊、蟲型高速機動兵器1個中隊、戦闘機4個飛行中隊、マルチロール機3個飛行中隊、高高度爆撃機1個飛行小隊、ステルス型索敵機1個飛行小隊、戦闘装甲ヘリ1個大隊、固定対空高射砲台8基と言う編成で、陸上兵器総計399機、航空兵器総計143機(歩兵部隊、固定式兵器、非戦闘車輌を除く)であった。


勿論、帝国軍の航空兵器に関しては、そのほとんどが全く戦闘に参加する事ができず、破壊、もしくは捕獲されてしまう結末を迎えた。



このオクラホマ都市を巡る戦いにおいて、何れの陣営が勝利を得たのかは、誰が見ても明らかな事であるが、セルブ・クロアート・スロベーヌ帝国とトゥアム共和国、両陣営が実際に得た物と失った物は、複雑に絡み合う情勢上に照らし合わせて見ると、一概に判断し得ない難物が数多く含まれていた。



トゥアム共和国が得た物、それは言うまでも無く、オクラホマ都市と言う帝国軍東方戦線における、重要な補給中継基地を占領できた点にある。


しかし、それと同時に、オクラホマ都市で武装決起したロイロマール派兵士達と言う、多くの不確定要素をはらんだ集団を抱え込む羽目となり、帝国との間に更なる強い軋轢あつれきを生み出す結果となった。


勿論、トゥアム共和国側は、今回の作戦において、武装決起軍との関連性を表向きには否定して見せたのだが、そこに何か薄ら暗い関係が存在していたのではと言う疑念を、ほとんど払拭ふっしょくする事ができず、ロイロマール公爵に加担する叛徒はんとと言う、帝国が開戦の口実とした言い分を、真っ向から否定できない立場となってしまった。


更にオクラホマ都市を占領したトゥアム共和国にとっては最悪な事に、一番恐れていた帝国国民による暴動が多発。


同都市を占領したその日だけを数えても、合計11箇所で大規模な暴動が発生した。


トゥアム共和国軍内部では、同都市市民に対して、決して手を出さないよう通達があったのだが、市民達の暴動は次第に過激さを増して行き、一時、全く手が付けられない状況まで陥る騒ぎとなってしまった。


その為、同都市占領軍司令官であるロン・ロベルト陸将は、放水攻撃に交えて威嚇射撃と催涙ガスの使用を認め、暴動の鎮圧に乗り出す事になるのだが、この混乱によって帝国国民側に、十数人の死者と数十人の負傷者を出す始末となり、更に帝国国民の反感を買う始末となってしまった。


トゥアム共和国はこれを受け、同都市内に大きな混乱が生じないよう、厳しく統制を敷く一方で、一般的な生活を必要最低限保障する事を宣言。


同都市外への行き来も、審査を受けて認められれば可能とする案を作成し、リトバリエジ都市も含めた一般市民達の取り扱いについて、帝国側と協議する場を設けた。


しかし、完全に侵略者として都市を制圧したトゥアム共和国に対する、帝国国民の反感は根強く、その後もしばらくの間、余談を許さぬ混沌とした情勢にさいなまれる事となった。



セルブ・クロアート・スロベーヌ帝国が得た物、それは表向きに見れば、全く無いと言えるだろうが、唯一得た物として上げるのであれば、トゥアム共和国に対する反感を、帝国国民に植え付ける事ができた事と、大都市内部で戦闘を繰り広げたロイロマール派兵士達への、悪感情をあおり立てる事に成功した点であろう。


帝国軍東方戦線における重要な補給基地オクラホマ軍事都市を失陥し、数多くの要人達をロイロマール派武装決起軍に捕らえられてしまった現状は、帝国側にとっても由々しき事態であったと言わざるを得ないが、帝国内部に存在する幾つかの派閥に取ってみれば、それは思わず頬を緩めてしまう状況にあったかも知れない。


複雑に織り成す人々の思惑全てが、目で見て捉えられる事態に合わせて、悲痛な叫びを上げる訳ではなく、帝国の内情を勘案して考察すれば、中には歓喜の雄叫びに沸く輩も居たと評するのが、一番妥当であると言えるだろう。



そして、今回の軍事衝突が生み出した様々な余波は、セルブ・クロアート・スロベーヌ帝国、トゥアム共和国のみならず、その周辺各国にも多大な影響をもたらす事となる。


トゥアム共和国と同盟条約を締結したリバルザイナ共和国は、戦闘終了後、直ちに南方サンカサロ地方へと全軍を終結させ、メルタリア海周域の防御体制を強化し始める。


そして、メルタリア海を挟んで対岸に位置するトロス王国と連携を取り、帝国国内で不穏な動きを見せ始めたブラシアック軍、ロートアルアン軍に対し、真っ向から対抗する構えを構築した。


一方逆に、トゥアム共和国東部に位置するアブキーラ連邦は、トゥアム共和国に対する軍事物資の支援を約束してはいたが、自国の軍隊を直接戦闘に参加させる事を認めず、敢えて静観を突き通す態度を崩さなかった。


そして今回、一番大きな影響を受けた国が、北方アイスクリストフ周辺部を統治するビナギティア国である。


表向きビナギティア国は、大陸西方軍事大国ロスアニア王国と同様、帝国と非常に良好な関係を保つ帝国派として周囲に認知されていたが、今回オクラホマ都市で勃発した武装決起事件を巡り、混沌とした戦乱への強制参加を余儀なくされる次第となってしまった。


オクラホマ都市で武装決起事件が発生した当初、武装決起軍を率いる影の首謀者が、ビナギティア国の「ヴァラジン・オーム」では無いかと言う憶測が飛び交うと、ビナギティア国内には驚愕を交えた強い緊張が駆け巡る事となった。


しかし、程無くして、武装決起軍の一人がヴァラジン本人を捕らえた事を公表し、ロイロマール公爵との身柄交換を要求する声明を発表すると、その噂自体は一過性に過ぎないものとして終焉を迎える事となる。


その後、オクラホマ・ロイヤルホテルの最上階に監禁されていたヴァラジンは、帝国憲兵隊の迅速な対応により、即座に武装決起軍の手から救出される事となり、撤退する帝国軍と共に、一時トポリ要塞へとその身柄を移送される事になった。


しかし、この武装決起軍を巡る事態の変化は、それだけに止まらず、再びビナギティア国民を驚愕させる事実が、帝国皇后クロフティアによって、公然と示し出される事となる。


それは、この武装決起軍を誘発した真の首謀者が、ビナギティア国政府自体であった事実を公表し、激しく糾弾する内容の声明であった。


この声明に対し、ビナギティア国政府は真っ向から反論、事実無根の言い掛かりだとして、発言の撤回を求めたが、その後直ぐに、ビナギティア国政府高官と密取引をしていた犯人数名が捕らえられ、ビナギティア国政府ぐるみの陰謀であった事が判明した。


それは、ビナギティア国で絶大な支持を集めるヴァラジンを、帝国に対する反逆者として祭り上げる事で、抹殺してしまおうと目論む姑息な陰謀であった。


帝国はオクラホマ都市市民達を巻き込んで騒動を起したビナギティア国の行為を、完全に帝国に仇名す敵対行為と判断、即座に帝国最北端の地、フィリプス地方に軍を集結させた。


一方、ビナギティア国は、お互いの主張の食い違いを、何とか埋め合わせる為の対話を要求し、事態の改善に向けて色々と奔走ほんそうするのだが、軍事的行動をも辞さない帝国軍の動きに対し、完全に無防備なまま事態の解決を待っている訳にはいかなかった。


ビナギティア国政府は、取り合えずフィリプス地方に陸上部隊を派兵する事を決定し、できる限り帝国軍を刺激しないよう防御陣の構築に勤めていたのだが、政府高官達の思いとは裏腹に、その五日後には、帝国軍との最初の砲火が交えられる結果となってしまった。



帝国でも有数の近代都市オクラホマを巡るこの戦いは、ムーンスローブ大陸全体から見れば、極々局所的な戦いに過ぎないものであったが、周辺各国を含め、大陸全土に及ぼした影響は、計り知れないものがあった事は、確かな事実であると言えた。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ