01-12:○黒いお抱え衛兵[6]
第一話:「ルーキー」
section12「黒いお抱え衛兵」
(メイルマン)
「次は、おー前だ。」
サーチゴーグルに翳された照準システムに、パングラードの姿を正面に捕らえたメイルマンは、真正面から撃破してやろうというよりは、気持ち半分、悪戯がてらに遊んでやろうと言う構えで、リベーダー2のバーニヤを始動させると、後ろ向きでホバー移動を開始した。
本来、DQがいくらホバー移動を主流とするからと言って、後ろ向きでの移動には難を残すタイプが多い。
それは、後方への巡航速度を保つために、どうしても前面装甲からはみ出すように、バーニヤを露出して取り付けなければならないためで、軍事用に開発されるDQに関しては、絶対にこの方法を採用することは無い。
しかし、最新鋭DQであるリベーダー2は、両肩が前後に可変することで、バーニヤ部分を後方にも、前方にも向けられるようにしてあり、且つ、両足に取り付けられた複数のバーニヤもまた、前後に可変するように製作されている。
その後方推進力は、後部テスラポット付近に取り付けられている、メインバーニヤが使用できない分、前方時の約80%と落ち込んでしまうが、それでもセニフのパングラードが全速力で追い回しても、なかなか追いつかないほどの速度を出すことは可能なようだ。
(メイルマン)
「スピードだけはなかなかのものだな。だが機動性に乏しいFTPGシリーズでどうするつもりだ。」
メイルマンは、一向に追いつく気配を見せいないパングラードに対して、少し呆れ気味の言葉を投げかけると同時に、3発の弾丸をプレゼントする。
これは、高速巡航におけるパングラードの旋回性能を試すもので、メイルマンにとっては遊び玉である。
セニフは即座に打ち鳴らされた警告音に反応を見せると、強引にパングラード両足のエッジで大地を削り、移動速度を少しも落とすことなく最小の動きでこれをかわす。
高速で移動する両者間で、敵に正確に弾丸を発射する方も凄いが、それを避ける方もまた凄い。
しかし回避の仕方にかなり無理を強いてしまったのか、パングラードの左足内側のエッジが吹き飛ぶと、後方の土煙の中へと消えて行った。
(メイルマン)
「おいおい。大丈夫か?なんか飛んでったぞ?」
貧しく、みすぼらしいものでも見るかのような目つきで、迫りくるパングラードを見つめるメイルマン。
セニフも負けじと20mm機関砲の連射で反撃に移るが、メイルマンは余裕シャクシャクでこれをかわしてみせる。
もはや機体性能の差は埋めようも無い。
リベーダー2のホバー走行はパングラードとは違い、滑るのではなく完全に地上から浮いている状態で走行する。
そのため、空いたその足で、地面をちょっと蹴ってやるだけで、方向転換が簡単に行えるのだ。
同じような回避行動に見えても、実際に機体にかかる負荷の違いは大きい。
このまま持久戦に持ちこまれようものならば、確実に旧式パングラードに搭乗する、セニフに敗北の結末が待っていることは確実である。
たかがルーキーチーム。
どこかに潜んでいるであろうスナイパーも、この速度で移動する2人を捕捉するのは難しいはずだ。
だとしたら、もうお遊びはこれまで。つまらんな・・・。
メイルマンはバカの一つ覚えのように弾丸をばら撒くセニフの攻撃をかわしながら、脳裏に揺れる「かったるさ」を隠し切れなかった。
(メイルマン)
「もう、そろそろいいか?パングラードの弾丸も切れる頃だ。」
メイルマンが少し気を緩め、攻撃に移ろうとしたその時だった。
生い茂る木々達の間隙をかいくぐって、2発の弾丸がリベーダー2を襲う。
弾速はかなり早く、ASR系ロングライフルだと思われる。
この弾丸を放った主は、勿論アリミアであり、彼女は2人の動きが弱まるのをじっと待っていたのだ。
周囲の木々達は、黒砂地帯の影響で木々自体がサーチャーの妨害をし、まるで薄いフィールドが張られた中で戦闘を強いられているような感じさえする。
メイルマンにとってみれば、弾速の速いライフルで、至近距離から狙い撃ちされたのと同じ状況だ。
しかし、メイルマンは、リベーダー2の両足を、強引に地面に突き立てるように踏ん張りを入れると、急激な減速によりこの2発をかわしてみせる。
そして、リベーダー2の直ぐ傍へと着弾したその弾丸は、大きな爆発音を奏でると共に、湿地帯の泥を渦のように巻き上げた。
(アリミア)
「はずした・・・。」
(メイルマン)
「ちっ!!なかなか腕の立つスナイパーだな。いいタイミングで撃ちやがる。」
少しだけ相手に賞賛の言葉を口にしたメイルマンは、すぐさま、リベーダー2の機体被害状況の確認へと移る。
爆風による被害は特に無いが、どうやら少し踏ん張った両足の神経系に、若干の故障を抱えたようだ。
しかし、主に完全なホバー移動を旨とする同機体である。
戦闘に然したる支障が出るわけでもない。
少し安堵した表情を浮かべながら、煩い小雀の所在を、索敵するメイルマンだったが、リベーダー2がかぶった泥によって、コクピット内のTRPスクリーンに、死角が生まれていたことに気づくと表情が一遍した。