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Loyal Tomboy  作者: EN
第六話「死に化粧」
126/245

06-31:○オクラホマ南方防衛基地陽動作戦[2]

第六話:「死に化粧」

section31「パレ・ロワイヤル攻略作戦」


ドドドーーーン!!



(ジルヴァ)

「レアル隊前進!次のターゲットは待機中の戦車部隊!出入り口付近に固まる一団から、徹底的に破壊して行け!」


断続的に放たれるエミーゴ隊のスラインダミサイル攻撃を他所に、管制塔付近に並んだ戦闘装甲ヘリを、粗方壊滅状態へと追い遣ったジルヴァは、すぐさま次なるターゲットを指定し、配下の部隊メンバーに前進を促した。


勿論、帝国軍防衛守備隊が即座に行動を開始できぬよう、出入り口付近の一団から始末していくよう指示する事だけは忘れなかった。


如何に彼女達が完全に不意打ちとなる攻撃の先手番を獲得していたからとは言え、後手番となる帝国軍の兵力は、単純に計算して彼女達の三十倍以上に相当する数にのぼり、その全てと対峙しようものなら、簡単に蒸発してしまう運命をそのまま辿る事になってしまう。


完全に少数派である彼女達にとって、敵の戦力を削ぎ落とすと言う考え方は、決して間違っていないのだが、それでもそれ以上に、当面、目の前に立ちはだかる敵兵力を、出来る限り少なくするようコントロールする事も、より重要な事であったのだ。


やがて、疎林地帯ギリギリのラインまで隊列を押し上げたレアル隊のメンバー達は、オクラホマ南方防衛基地の広場に停車した大量の戦車部隊を見据えると、即座にGRM-89スナイパーライフルによる狙撃攻撃を開始した。


灰色に緑の迷彩を施したアカイナンを、背丈の低い木々達が密集した小島付近に停機させ、片膝を地面に付いた体制で機体の安定化を図ると、細く長いその銃身をターゲットとなる戦車部隊へとかざす。


そして、自動照準システムによる目標ターゲティング処理が完了を指し示したのと同時に、彼等は一斉にトリガーを引き放った。


(ジルヴァ)

「斉射!」


再び通信システム内に響き渡った黄色い声に合わせて、と言うより、今回はそれよりも若干早く、しかも見事なまでに同じタイミングを持ってして、虚空の闇夜に煌びやかな光の筋を形成した。


オクラホマ南方防衛基地の広大な停車場に並んだ大量の戦車部隊は、様々な機種によって構成されているようであり、彼女達が狙いを定めた出入り口付近には、帝国軍で最も良く目にする事が出来る、SHTシリーズの傑作機「レアコンダリス」が停車していた。


それは幾多の戦場において、その高い防御能力から、最前線で活躍する事を期待された突撃重戦車であり、その他にも「MHT-102バミューダ」「GT-05xゲビューラ」と、帝国軍の驚異的突破力を物語る上で、決して除外する事の出来ない良機が軒を連ねていた。


しかし、全く無防備なるままに放置されたこの戦車部隊は、レアル隊の放った鋭い鉄甲榴弾の前に何ら成す術も無く、一番防御力の低い側面側、または背面側を貫かれると、開きっぱなしのハッチ部分から不気味な火花を吐き散らして、敢え無く内部から爆発炎上する事になる。


勿論、運良く積載燃料部への被弾を免れた車輌は、爆発四散と言う悲しき運命をしばし逃れる事が出来たのだが、搭乗者のいない彼等が一人で危機的状況を回避できるはずも無く、最終的には直ぐ傍らで激しい炎を噴き上げた犠牲者達の断末魔だんまつまに巻き込まれ、メラメラと燃え盛る真っ赤な炎の海で焼き殺される始末となってしまった。



この時、まさにやられ放題と称するに相応ふさわしい惨劇を、被る格好となってしまった帝国軍防衛守備隊は、キッカリと同じ射撃間隔を置いて飛来する鉄甲榴弾の雨霰あめあられと、白い雲糸を引いて次々に到来する激しいミサイル攻撃の前に、後手番となる自らの攻撃タイミングすら、中々に見出せない状況が続いていた。


のどかで静かな雰囲気から一転、突如として視界にき付けられた朱色の業火が、帝国軍兵士達の恐怖心をあおり立てると、著しく混乱した思考が重たい足枷となって彼等の身体にへばり付く。


それはまるで重たい甲冑かっちゅうを着込まされて、突然、流れの激しい川底へと叩き込まれたような感じとでも言うのが正しいだろうか。


最前線からは程遠い後方駐留基地で発生した突然の出来事となれば、日々行われている過酷な訓練の成果を発揮出来ずにいる、彼等の心情も解らなくもないが、それでも余りに一方的な展開を甘受し続ける帝国軍の様相に、つぶらな瞳を細くしたアイグリーが思わず呟いた。


(アイグリー)

「なぁ。このままここで全弾を撃ち尽くしたら、そのまま帰ってもいいのか?」


(ジルヴァ)

「馬鹿。余計な心配してんじゃねぇよ。」


しかし、そんなアイグリーの能天気な発言に対し、呆れた様子で溜め息を付いたジルヴァは、彼に短く苦言を呈して見せた後で、直ぐに撃ち切ったGRM-89スナイパーライフルの弾丸換装作業に取り掛かった。


そして、真っ赤な炎を立ち上らせ炎上するオクラホマ南方防衛基地へと視線を投げつけると、サーチシステムを広域モードに切り替え、周囲の状況をつぶさに観察し始めた。


これまで、決して優秀とは評価し得ない、緩慢な動きに終始していた帝国軍だが、数の上で圧倒的に勝る彼等の全てが、混乱の深遠に突き落とされていた訳ではない。


彼等の行動を縛り付ける火力も、見た目ほど足りている状況にはなく、その内こちら側の攻撃の網の目をかい潜って湧き出した帝国軍が、圧倒的兵力差と言う強力な武器を片手に、その恐ろしい鎌首をもたげる事は、もはや時間の問題であると言えた。


(ユァンラオ)

「ふっ。やっと出て来たか。随分と待たせてくれたものだな。」


(フレイアム)

「基地倉庫裏手側から敵DQが六機出現。そのままこっちに向かってくるぞ。」


(ルワシー)

「基地北西部の建物からは、戦車部隊がワラワラとお出ましだぁぜ。地下通用口を防護壁で囲うなんざ、ふてぇ野郎共だ。」


(ランスロット)

「防衛基地として当然あるべき姿でしょルワシー君。君が寝泊りしていたランベルク基地だって、きっと同じ作りになっていたと思うよ。」


それまで、一方的に攻撃する事を許された先手番を、意気揚々(いきようよう)と謳歌おうかし続けたネニファイン部隊メンバー達だが、この時、ようやく新たな動きを見せ始めた帝国軍の行動によって、その権利を剥奪される時が来たのだと言う事を察知した。


基地の四隅に建てられた監視塔最上部から、強い光を放つサーチライトがき出されると、この惨憺さんたんたる有様を生み出した犯人達をあぶり出すべく、一様に東側疎林地帯へと光の筋を押し当ててくる。


そして、ネニファイン部隊の攻撃射線上の死角から姿を現した六機のDQが、その不公正な相手の優位性を早急に断ち切ろうと、猛烈なスピードで東側疎林地帯へと迫ってきたのだ。


基地北西部の建物内から這い出してきた戦車部隊に関しては、直ぐに攻勢に転じる様子も無く、まだ程しばらくの間は、ネニファイン部隊メンバー達の優位性が保ち得そうな雰囲気を感じ取る事が出来たが、それでもそれは、この戦車部隊が迎撃体制を整え終えるまでの時間が、有効期限である事は確かだった。


勿論、彼等が最終的に目指す展開は、帝国軍防衛守備隊をこの基地周辺部から引き摺り出す事にあり、つたない火力を持ってして、みみっちい戦果を上げる事ではない。


寧ろ彼等は、その優位的立場を剥奪される事になろうとも、早々にこの戦車部隊に動き出してもらう必要が有ったのだ。


(アイグリー)

「おっと。南側にも新たな敵影を三つ確認。移動速度は結構速そうだよ。どうするんだい姉ちゃん?」


(ランスロット)

「どうするもこうするもない訳よ青年。勝ち目が有れば戦いを選択。勝ち目が無ければ尻尾を巻いて逃走。」


(アイグリー)

「だからそのどっちだよ。」


(フレイアム)

「俺達の目的は、あくまで帝国軍防衛守備隊の戦力を分断する事にあるんだ。チンケな相手だけを引き連れて逃げ回っても仕方あるまい?」


(ランスロット)

「そそ。そう言うこと。」


(ルワシー)

「おめぇ、本当は逃げ出す準備してたんじゃねぇだろうな。」


そう。彼等は現状において、ただ単純にその場から逃げ出す事など出来なかったのだ。


彼等が最終的に目指す展開は、帝国軍防衛守備隊のある程度の数を、この南方防衛基地から引き摺り出す事にあり、南方より進軍して来るオクラホマ攻略部隊が、当戦域において数的優位を保てるよう、そして帝国軍が直ぐに防御体制とる事が出来ないよう、仕向ける事にこそ、その真意があったのだから。


見たところ、帝国軍の攻撃手番を担うべく派兵された戦力は、オクラホマ南方防衛基地内部から這い出したDQ六機と、突然彼等の南側に姿を現したDQ三機のみであるが、彼等は帝国軍がその強大な兵力を持ってくびり殺すと言う最終手段を選択するまで、迫り来る幾多の障壁を全て帰り討ちにしなければならない状況にあったのだ。


サーチシステムの識別情報によれば、オクラホマ南方防衛基地より姿を現したDQ六機は、「blcarl:バル・レンサカール」と呼ばれる飛行機型の高速機動DQで、最高巡航速度に長け、急襲急撃を最も得意とする機種だけあり、大きな砂漠地帯や平野部の広がるオクラホマ地方においては、余り珍しくない機体である。


しかしその反面、様々な遮蔽物に取り囲まれた戦場においては、取り回しに難を残す機体である事が知られ、ある程度小回りの利く人型兵器アカイナンに取って見れば、疎林地帯での戦闘に、それほど難色を示す相手でもなかった。


そして、そのバル・レンサカールよりも遥かに早い巡航速度で迫り来る三つの機体は、南側の疎林地帯を難なく移動している様子からも、恐らくDQタイプであろう事までは予測できたが、サーチシステムが示したその機体反応については、識別不能を示す黄色い光が宛がわれたままだった。


(ジルヴァ)

「全機攻撃中止!一旦後方ポイント02まで後退する!その間、部隊編成をツーマンセル体制に移行!フレイアム、ルワシーはスラインダによる基地攻撃を続行しろ!攻撃目標は基地前面に停車する敵戦車部隊と定める!出来る限り敵の戦力を削ぎ落とすよう、しっかりと狙いを定めて撃って行け!南方の敵DQ三機については、私とユァンラオで対応する!ランスロットとアイグリーは、フレイアムとルワシーの護衛だ!スラインダを全弾撃ち尽くすまで、レンサカールの動きを牽制しろ!」


ジルヴァはサーチモニターに映し出される、オクラホマ南方防衛基地の周辺情報を一通り確認し終えた後で、すぐさま部隊メンバー達に、一度疎林地帯の奥深くへと後退するよう指示を飛ばした。


それは、直近ネニファイン部隊メンバー達の前に立ちはだかる帝国軍DQ部隊が、細かな動きを不得意とする機種で構成されていたからに他ならなず、自分達の優位性を発揮しうる戦場を相手に強いる意図が有った為だ。


勿論、南側から接近する三機のDQについては、未だその詳細が明らかになってはいないが、それも予めダミーイリュージョンを敷設したエリア内に身を置く事で、ある程度相手の様子を窺うと言う、打算的目論みも含み込まれていた。


(ランスロット)

「ちょっとちょっと。俺のスラインダはどうすんのよ。」


(ジルヴァ)

「スラインダを抱きかかえたまま戦う勇気があるなら、私は別に止めやしないよ。あんたの好きにすりゃいいじゃん。」


(ランスロット)

「えーっ?そりゃまたなんとも冷たい台詞で・・・。それじゃまるで、俺が除装したら格好悪いみたいじゃないか。」


(ジルヴァ)

「あんたってほんっと馬鹿な奴。この馬鹿!二流以下の男が変に格好良い所見せようなんて、色気出してんじゃねぇよ。四の五の言う前にさっさと除装して後退行動に移れ!置いてっちまうぞ!」


(ランスロット)

「おおーう。やっぱ強気に攻めるジルヴァちゃんの言葉は心にジーンと来るなぁ。待ってましたよその言葉。重たい足枷を外したこのランスロットの戦いぶり、とくと期待して頂戴ね。ジルヴァちゃーん。」


(アイグリー)

「この人ほんとウザイ人だね。」


(フレイアム)

「ウザイだけなら何とでも扱えるさ。」


(ルワシー)

「馬鹿とはさみは使いようってかぁ。がははっ。」


周囲に蔓延はびこる圧倒的大多数の殺意の視線に、ぎりぎりと睨みつけられた状況にありながらも、なんとも気の抜けた会話を終始垂れ流す部隊メンバー達の様相に、溜め息を付く事すら躊躇ためらってしまったジルヴァが、眉間に深いしわを寄せた。


本来であればここで、思いっきり怒鳴り散らしてやりたい所であったが、どうせ上から説教染みた怒声を浴びせかけた所で、更にその上から砕けた言葉を被せられる事は解りきった事であり、ジルヴァはそれ以上何も言わなかった。


と言うより、一瞬彼女が言葉を発しようとした時、彼等は既に、彼女の指示に従って迅速に後退行動へと移り進む佳境にあり、彼女は心の中に溜め込んだ怒りを吐き散らすタイミングを逸してしまったのだ。


彼女はここでようやく、大きな溜め息を付いた。


そして、迫り来る九つの敵DQの動きにチラリと視線を宛がうと、自らが発した指示を、一番最後に体現する羽目となってしまった自分の姿に、小さく舌打ちを打ち付けてやった。


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