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Loyal Tomboy  作者: EN
第六話「死に化粧」
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06-27:○パレ・ロワイヤル攻略作戦[9]

第六話:「死に化粧」

section27「パレ・ロワイヤル攻略作戦」


(セラフィ)

「はっはー。はーはー。またまた命中だねー。もしかして僕ってやっぱり、天才って言う奴なんじゃないのかなー。こーんなにも簡単に敵のDQをやっつけちゃうなんてさー。もう美味しくって美味しくって、止められない美味しさだねー。これは。・・・あーあー。アレナちゃんもバルベスも、一緒に着いて来ればよかったのにー。こんな楽しいパーティーをふいにするなんて、二人ともどうかしてるよー。まったくー。・・・?あーっ。そうかー。そう言う事かー。うんうん。解っちゃったよー。二人が僕に着いて来なかった理由ー。二人ともどうせ天才の僕が、獲物を全部持って行くって、解ってたんだねー。やーるなぁー。二人ともー。」


完全に優位的立場にあったはずのネニファイン部隊のメンバー達を、禍々(まがまが)しい悪魔的狙撃術を持って、一瞬にして窮地きゅうちへと追いった一人の男が、気持ちの悪い軟調な言葉遣いで自画自賛を繰り返す。


黄土色おうどいろを基調とした大型DQ「ブロホン・ツィー・ゲルン」に搭乗し、セニフ達が警戒する北東側岩石地帯の更に奥の密林地帯内部に身を隠していた彼は、やがて撃ち終えた「180mmナルセスキャノン砲」から、巨大な薬莢やっきょうを一つ吐き出してみせると、サーチモニター上の手前側に映し出された、三つの光点へと静かに視線を落とした。


(セラフィ)

「さーてー。お次はどれがいっかなー。奥側の一機かなー。それとも手前側の二機かなー。ほらほら、折角次の攻撃まで時間があるんだからさー。今の内に逃げないとだめだよー。君達ー。このままだと、また天才の僕ちゃんにやられちゃうよー。それでもいいのかいー?・・・。まー。逃がさないけどねー。」


全く聞き手となる相手が居ないにも関わらず、薄暗いコクピットの中で一人、ブツブツと意味の無い独り言を呟き出していたセラフィは、じっくりと次なる獲物の品定めをしながら、メインコンソール脇へと置き放っていた菓子袋へと徐に手を伸ばした。


そして、ブロホン・ツィー・ゲルンの胴体腹部を前後に貫通する、巨大な長距離砲に次なる砲弾を装填すると、大量に掴み取ったお菓子を口一杯にほおばりながら、静かにサーチレーダーの反応に意識を集中した。


彼はこの時、自らの陣営が完全に劣勢たる立場に追い込まれていた中で、しばらくの間、たった一人で複数の敵を相手にしなければならない状況下にあったのだが、彼の奏でる能天気な言葉尻からは、不安や恐怖と言った、マイナス的感情は一切感じられなかった。


それは勿論、彼が自身の有する戦闘能力の高さに、絶対の自信を持っていたからであり、セラフィはまるで気軽にゲームでも楽しんでいるかのような素振りで、不敵な笑みを浮かべて見せると、やがてサーチモニター上に光り輝く、一つの光点を指差してみせた。


(セラフィ)

「よぉーしー。こいつこいつ。こいつで決まりー。ちょっと可哀想だけど、仕方ないよねー。って言うかー。たった一人だけ仲間外れって方が、もっと可哀想だよねー。待っててねー。今すぐ仲間達の元へと送り届けてあげるからさー。・・・。んー。・・・あれー?・・・あんらー?・・・あー?あーあー??」


しかし次の瞬間、河川南側高台付近を指差したまま、しばし動きを差し止めたセラフィが、何処か気違いのような甲高いうめき声を上げると、少しばかり顔色を曇らせながら、大げさにサーチモニター画面を覗き込む。


そして、次第に笑みを掻き消して行ったその表情の上に、鋭い殺意をにじませた眼光を並べ揃えると、まだ半分程度中身を残した菓子袋を無造作に置き放って、突然、思いもよらぬ行動へと打って出た敵機の反応へと視線を据え付けた。


現在、彼の機体に備え付けられた最新型サーチシステムは、パレ・ロワイヤルミサイル基地の有線索敵網スパイダネットと、索敵情報をリンクした状態にあり、完全にリアルタイム情報とまでは行かなかったが、それでもほぼ五秒遅れ程度の新鮮な情報を得る事が出来ていた。


勿論それは、DQなどの単独兵器に搭載されるサーチシステムとは、全く比較にならない程の索敵能力を有しており、その有効索敵範囲は、有線索敵網スパイダネットを張り巡らせた範囲と同値である。


言うなれば彼は、セニフ達ネニファン部隊メンバー達が、如何に最新型のサーチシステムを駆使しようとも、到底及びも付かない広範囲の情報を入手する事が出来たと言う訳だ。


(ジョハダル)

「馬鹿野郎!!セニフ!!止めろ!!戻れ!!戻るんだ!!」


(セニフ)

「このままじゃ皆逃げる前に狙い撃ちされちゃうよ!!私が敵の注意を引き付けておくから、その隙にジョハダルは後退して!!」


(ジョハダル)

「何言っているんだ!?お前一人で・・・ザザッ。・・・。ザザザ・・・るまで・・・。ザー。」


しかしこの時、完全に狩られる立場側へと転がり落ちってしまった悲しき獲物達の中にあって、たった一人、この危機的状況を打開しようと試みる人物がいた。


それは、狂乱的猪突猛進を売り物とする無鉄砲な少女、セニフ・ソンロであり、彼女は今だ敵の詳細所在を特定できていない状況にも関わらず、完全に単独での特攻を選択したのだった。


勿論、彼女には、味方が安全な場所まで逃げおおすまでの時間を稼ぐと言う、殊勝しゅしょうな想いを胸に抱いていた訳だが、味方からも馬鹿野郎呼ばわりされる事からも解る通り、その行動は完全に自暴的暴走とも取れる行為であった。


(セラフィ)

「おーっ。やるねー。当たりー。当たりだよー君ー。当たりだけどー。・・・果たしてそれが上手くいくかな?・・・ゲフッ。」


味方を危機的窮地きゅうちから救い出すために、己の身をていして危険な火の海へと飛び込む。


聞けばそれはなんとも涙ぐましい献身的とも言える彼女の行動だが、フットペダルをベタ踏みにして密林地帯を快走するセニフには、己の命を簡単に投げ捨ててしまうような考えは更々(さらさら)無かった。


彼女には彼女なりの考えが有り、彼女が特攻と言う危険な道筋を選び出したのも、完全に彼女達の索敵範囲外から放たれる、敵の驚異的長距離攻撃に関して、少なからず弱点となる点を見出していたからである。


(セニフ)

「敵に撃たせるのは後一発・・・。一発だけだ。」


その一発で敵の所在を完璧に突き止める。


あれだけの長距離をほぼ一直線で駆け抜けた弾道から、使用された武器は固定野戦砲台に匹敵する程の巨大砲のはず。


とすると、先ほどの攻撃からも解る通り、連続して使用するには難があるはずだ。


これだけ視界が悪ければ、敵の狙撃ラインも限られてくるだろうし、常に動き回る相手を狙撃する事は、決して簡単な事じゃない。


敵の次なる攻撃を上手くかわす事さえ出来れば、敵が弾丸換装作業を完了させる前に接近戦を仕掛ける事が出来る。


お互い接近しての戦闘なら、私は絶対に負けない!



やがて、セニフは密林地帯を勢い良く抜け出し、北東方向に広がっていた岩石地帯へと身を乗り出すと、すぐさま北方の密林地帯に向かって、二本のワイヤーロープ付きセンサーを、各々左右三十度の角度へと撃ち放つ。


そして、サーチシステムの感度計を最大限まで引き上げ、前方方向に広げられた索敵範囲に全神経を研ぎ澄ませると、大きな岩山の立ち並ぶ起伏の激しい凸凹でこぼこ道を疾走しながら、次第に高鳴る胸の鼓動に合わせるかのようにして、心の中でひた叫んだ。



撃て!!


撃て!!


撃て!!


撃って来い!!



ドッゴーーーーーーン!!



すると次の瞬間、北の密林地帯内部で産声を上げた眩い曙光しょこうが、猛烈な弾速を有した破壊的殺意の源を吐き出して、強い願いを抱いて身構えていたセニフの元へと巨大な爆発をもたらした。



右足神経損傷5%!!


その他機体、計器共に異常無し!!


いける!!



見据えた視線の先で発せられた瞬間的閃光に、全く遅れる事無く素早い反応を示したセニフは、三重に張り巡らせたサーチシステムの警告音が鳴り響くよりも早く、トゥマルクの機体に急旋回を加えるで、何とかこの攻撃をやり過ごす事に成功した。


この時、彼女がほとんどダメージをこうむらずに済んだのは、その周囲にそびえ立つ岩山が盾となり、爆発の衝撃がある程度緩和されていたからであり、彼女の目論んだ作戦は、まさに最高の形を持って、次なる展開ステージへと続く階段を昇り終えたのだった。


彼女は一度、機体の被害状況へとチラリと視線を宛がうと、すぐさま索敵センサーのワイヤーロープを焼き切り、ようやく特定する事が出来た敵の潜伏地点へと目掛けて、更に思いっきりフットペダルを踏みしめた。



敵の弾丸換装作業は、まだしばらくの間完了しない。


その間、出来る限り敵との距離を詰めるんだ。


あれほどの威力を見せ付けた高火力武器を抱えたまま、敵がこのトゥマルクの足を上回る機動力を有しているもずがない。


もし別の手段を講じて反撃に転じたとしても、所詮はスナイパーがサブウェポンとして保有する程度の予備武器だ。


この私の突進を止める事は出来ないよ!



やがてセニフは、猛烈なスピードを保ったまま一気に岩石地帯を突破すると、素早く北側の密林地帯へとトゥマルクを突っ込ませ、直ぐに新しいワイヤーロープ付きセンサーを準備した。


そして、程無くして目標地点となる周辺周域へと差し掛かると、敵が先ほど砲撃を敢行した場所となる小高い丘の裏側に向かって、索敵センサーを撃ち込んだ。


(セニフ)

「・・・!!いたっ!!」


この時、セニフの投じた索敵センサーに捉えられた敵機の数は一つのみ。


それは恐らく、先ほどセニフ機へと攻撃を仕掛けた張本人にほぼ間違いなく、今だ次なる砲弾の換装作業が終わっていないのか、接近するセニフに対して全く攻撃を仕掛けてくるような素振りを見せなかった。


セニフは敵の反撃に細心の注意を払いながらも、密林地帯への突入口からほぼ一直線となる道筋を疾走し、そのままの勢いを保ったまま一気に小高い丘の裏側へとトゥマルクを滑り込ませる。


そして、鬱蒼うっそうと生い茂る木々達の枝葉を振り払い、目の前に姿を現した敵機に向かって、ASR-RType44の銃口を正確にかざして見せた。


(セニフ)

「・・・え!?・・・・・・ダ、ダミー!!!?・・・何でこんな所に!!」


しかし次の瞬間、彼女は完全に予想を裏切られる不測の事態を突然に突き付けられ、大きく打ち鳴らされた心臓の鼓動と共に、思わず驚きの声を発さざるを得なかった。


彼女は気づいていたであろうか。


先ほどキャリオン隊のメンバー達に放たれた砲弾と、自身に放たれた砲弾の違いを。


彼女が捕らえた敵機の反応は、サーチモニター上、確かにDQタイプである事を示す表示が成されていたが、実際に彼女の目の前に現れた敵兵器は、大型の固定野戦砲台一基のみだった。


しかもそれは、諜報部から入手した情報には、全く記載されていない固定野戦砲台であり、戦術的には意味を成さない密林地帯のど真ん中と言う、摩訶まか不思議な場所に設置されたものである。


彼女が驚くのも当然の事であろう。


それはしくも、パレ・ロワイヤルミサイル基地の総司令官たるナコレアフが、上空から見て配置的に綺麗だからと言う、とんでもない理由で最近設置されたものだった。


(セラフィ)

「はっはー。パレ・ロワイヤル基地の防衛システムとリンクしてるんだー。遠隔操作で野戦砲台を撃ち放つことぐらい、簡単に出来るよー。」


そしてこの時、彼女は気付いていた。


先ほどから狙撃を実行していた敵の本当の正体が、この固定野戦砲台ではない事を。


それは彼女が捕らえたDQ機体反応が、この固定野戦砲台周域から発せられていると言う事実が示唆しさしており、帝国軍がこの固定野戦砲台を主として、相手を殲滅せんめつせしめる算段を目論んでいたならば、態々(わざわざ)相手に見つかるような反応をそこに示すはずも無い。


この固定野戦砲台をDQであると誤認させる意図が有るからには、そこに自らの所在を隠匿いんとくしたい他のDQが存在するからに他ならず、セニフはこの時、完全に敵の罠にめられてしまったのだ。



絶望と恐怖とを身にまとった死神に、黒い影を落とされた思考が取り乱し、何ら成す術を見出せ無い極限状態に、意図せぬ震えに塗れた体が硬直する。


自らの五体の頭の先から足の先までを駆け巡っていた真っ赤な血の流れが、全て逆流するような気持ちの悪い悪寒を背中に感じながら、次第に血の気を失うセニフの表情に、光を見失った漆黒の瞳が挙動不審なうつろいを見せる。


(セラフィ)

「君もさー。結構頑張った方だと思うけどー。これで終わりだゲフッ。」


やがて、罠を仕掛けた固定野戦砲台のほとりで、完全にその足を止めてしまったトゥマルクの反応に、薄気味悪い笑みを浮かべて見せたセラフィが、正確に狙いを定める。


そして彼は、全く何を躊躇ちゅうちょするでも無く、即座にナルセスキャノン砲のトリガーを引き放った。


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