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Loyal Tomboy  作者: EN
第六話「死に化粧」
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06-25:○パレ・ロワイヤル攻略作戦[7]

第六話:「死に化粧」

section25「パレ・ロワイヤル攻略作戦」


起伏の激しい山岳地帯にあって、如何にその川幅が狭いからとは言え、お互いにほとんどリスクを背負わぬまま展開されるその戦闘は、まるで歯痒はがゆ鍔迫つばぜり合いを、延々と演じ続けているかのようにも見える。


直ぐ目と鼻の先に敵の部隊を見据えながらも、両者の間に横たわる谷川の存在により、いきなり相手に接近を許す危険性も皆無であり、ほぼ安定的な戦線を構築するに至った両者は、全く次なる一手を繰り出す事が出来ずに、ただ無駄な時間と無駄な弾丸を浪費するに終始していた。


しかしそんな時、フロルがじっと見据えた視線の先で、断続的に輝き続けていた光を覆い隠すような眩い大きな閃光がほとばしると、周囲を叩き付ける様な強い爆発音を伴って、真っ赤な業火にまみれた鉄屑てつくずが崖下へと転がり落ちた。


(フロル)

「おっ!?」


お互いにそれなりの距離を保ち、相手の射線をさえぎる無数の木々達に囲まれた中で、正確に相手の機体を射抜く事など、そう簡単に成せるわざではなかったが、この時、帝国軍DQを撃破したキャリオン隊のパイロット達は、根気良く相手が攻撃態勢に移行するタイミングを狙う事で、ようやくその苦労を実らせる事に成功したのだった。


ドッドーーーン!!


そして、無残にも崖下へと転落する事になった帝国軍DQは、谷川を囲む険しい岩肌に二、三回激突した後で爆発し、細かい火の粉を周囲にぶち撒きながら勢い良く川の中へと水没する。


(ウララ)

「やったぁー!また当たった!!私ってやっるぅ!」


(マース)

「ウララ!馬鹿みたいに騒いでいる暇があったら、さっさと次を狙え次を!ベルトラン!もう少し下がっとけ!敵の標的にされちまうだろうが!」


(ベルトラン)

「・・・了解。」


細い谷川を挟んで南方高台付近に陣取っていたキャリオン隊のメンバー達は、小隊長である「マース・チュリーズ」の指示により、帝国軍DQ部隊に対してライン陣形を形成すると、自分達の有する最大火力を持って、相手を一機づつ集中攻撃で撃破する戦法を用いていた。


勿論、彼等の相手となる帝国軍DQ部隊が、先ほどフロア隊のメンバー達が戦ったポールポンド型であったならば、こうも簡単に敵DQを撃破する事は出来なかっただろうが、彼等の突き進んだ進行ルートは非常に地形的に不安定な大地上ばかりであり、必然と彼等の前に姿を現した敵DQは、中軽量高機動型の人型汎用タイプが多かったのだ。


彼等はこの戦場において、これで六機目の敵DQを撃破した事になる。


小隊長のマースは、途出してDQ操舵能力に長けている訳ではなかったが、非常に安定的な戦術を展開する事で知られる経験豊富な戦闘屋であり、過去にもトゥアム共和国陸軍所属の兵士として、幾つもの戦場を渡り歩いて来た経歴を有していた。


彼のトレードマークである色濃い口髭と、鋭く跳ね上がった太い眉毛からは、猪突猛進型である荒くれ者のイメージが付きまとうのだが、こう見えて非常に冷静な思考の元で判断を下す人物だ。


とは言え彼は、一度頭に血が上ると周囲が見えなくなると言う欠点が非常に痛いところであり、過去にブラックポイントで開催されたDQA大会において、完全に格下となるチームTomboyを相手に、彼があっさりと敗れ去ってしまったのは、少なからずそう言った彼の暴走に原因が有った事は確かだった。


そして、彼の指揮下で巧みにDQを操る二人の男女は、二人ともが同じDQAチーム上がりのパイロットであり、実は小隊長であるマースよりも格上となる、ハンタークラスのチーム「ダフマリン」に所属していた人物達だ。


今年で二十歳を迎える女性の方は、名前を「ウララ・アクイ」と言い、短めの茶髪にのっぺりとした顔立ちが特徴的な、非常に明るい性格の持ち主だ。


勿論、小隊長であるマースとは違い、実戦経験そのものは皆無であったが、中距離戦闘をもっとも得意とする射撃の名手であり、DQA時代には数多くの相手パイロットを駆逐してきた若きポイントマンでもあった。


一方、若くして禿げ上がった頭髪が特徴的な男性の方は、必要が無ければほとんど言葉を発さないと言う寡黙な人物であり、名前を「ベルトラン・ギュストリア」と言った。


彼もまた、ウララと同様、DQA時代には数多くの功績を挙げてきた、優秀なパイロットの一人であったが、もっぱら自ら率先して、敵陣に切り込むような獰猛どうもうさを持ち合わせておらず、比較的チームメイトに足並みを揃えて行動するタイプの人間だ。


彼はその控えめな性格からも解る通り、自らが敵を撃破するのではなく、味方に敵を撃破させるアシストシュートを非常に得意としており、実際この時、最終的にウララが撃破する事になった帝国軍DQの行動を、事前に上手く抑止していたのは、彼の巧みな銃撃によるものであった。


(ウララ)

「マース!カリッツォが・・・ザザッ。・・・ザーザー。・・・ンサーをもう・・・ザザ。」


(ベルトラン)

「・・・。」


(マース)

「ああ!?何!?何だって!?」


有線通信機装置をお互いの機体近くへと放り投げているにもかかわらず、大気の流れと共に時折荒れ狂う妨害フィールドの渦に、しばし彼等の通信機は不快な雑音を響かせる。


濃密な妨害フィールド粒子に取り囲まれた彼等が、お互いに絶妙の位置取りを奏で出して、帝国軍防衛守備隊に対応できていたのも、膠着こうちゃくした戦線の中で、半有線通信を用いる事が出来ていたからに他ならないが、それでもこの時、戦場に不似合いな程可愛らしい声色を持って、小隊長に要求を投げかけたウララの言葉は、そのほとんどが意味不明な雑音の渦にかき消されてしまった。


現時点において、彼等の周囲に浮かび上がる敵影の数は全部で四つであり、川縁かわべりの高台に布陣した彼等から見て、完全に死角となる崖下に存在する一つの光点は、先ほど打ち上げられた激しい対空砲撃によって、固定式対空砲台であろう事が判明している。


そして、彼等が対岸へと投げ入れたワイヤーロープ付きセンサーによって、捕らえられた他の三つの機影は、その布陣場所となる地形から推測しても、間違いなく全て中軽量高機動タイプであろう事が予想された。


最終的にパレ・ロワイヤルミサイル基地攻略を見据えた場合、彼等もまた、この対岸の高台付近を早期に制圧してしまう事が、最も有効な手段である事を理解していたが、彼等の布陣する南側高台からの進行ルートは、何れも北側高台から狙い撃ちが可能な危険な崖道であり、彼等はこの北側の敵DQ部隊を排除しない限り、一歩も前進する事が出来ないと言う、袋小路ふくろこじへと突き当たってしまっていたのだ。


勿論、対岸に数多く群生した木々達を隠れみのとし、強固な防衛体制を築こうとしていた帝国軍DQ部隊を、簡単に排除する事は出来ないであろうが、彼等はこの時、一度辿り経た道筋を後戻りするより、少しでも目標目掛けて前進する事の方を優先的に選択したのだった。


(ウララ)

「・・・ザザ・・・よ!左!カリッツォが一機左翼方面に流れて行くわ!敵の動きを追跡して!」


(マース)

「そんな事は言われなくたって解ってる!お前はまず目の前の敵にだけ集中してろ!敵の反撃が来たぞ!」


(ベルトラン)

「!」


ガンガンガンガンガンガンガン!!


やがて、再び彼等の通信機能が回復の兆しを見せ始めた頃、しばしお互いに様子を見合うような雰囲気から一転、帝国軍防衛守備隊が崖際ギリギリまで前進を開始すると、まるで撃墜された仲間の仇討ちとばかりに、激しい攻撃を繰り出し始めた。


それまで両者共にリスクを背負う事を嫌い、遠目から無為に弾丸を放つだけと言う退屈な戦いに終始していた訳だが、不思議と何かにあおり立てられるように行動を開始した帝国軍の動きによって、キャリオン隊のメンバー達は、突然、緊迫した慌しさに追われる事となった。


マースはすぐさま途出した二機の帝国軍DQに対し、120mmミドルレンジキャノンの砲弾を見舞ってやると、直ぐに左翼方向へと流れた敵機の行動をケアする為にトゥマルクを駆り立てる。


そして、相手の動きに合わせて谷川を下るように崖沿いを突き進むと、トゥマルクの左肩に装備した発射装置から、もう一本のワイヤーロープ付きセンサーを対岸へと撃ち放った。


(マース)

「ちっ!そう言うことか!」


激しい銃撃戦を繰り広げ始めた二人の部下達の様子を気にかけながらも、対岸へと投じたセンサーが捕らえた情報に視線を宛がったマースは、思わず大きく舌打ちを奏で出してしまった。


帝国軍防衛守備隊側から見れば、当該戦域における最も有利たる地形を占拠した現状において、無為に相手を撃破する為の攻撃に打って出る必要など何処にもない。


戦局全体を見渡せば、帝国軍の方が完全に不利的状況下にあった事は確かで、彼等にしてみれば、小さな戦局での勝利を獲得する事より、出来るだけ自軍の戦力を消耗しない事を念頭に置きつつ、味方の増援を待つと言う戦法の方がより適切な判断であったはずだ。


勿論、防衛拠点を堅持するにあたり、ただ頑なに守勢を保っていれば良いと言うものではなく、時に強い攻撃的意識を匂わせて攻勢に転ずる構えを見せ、「守る為の攻め」を意図した行動も必要になってくるだろう。


しかしこの時、奇妙な形で攻勢に出た帝国軍側に、それを意図して行動を起こす程の余裕があったのかと言えば、全くそうでは無かった。


マースがこの時対岸へと投じたセンサー上に捕らえられた機体反応は全部で三つ。


言うまでも無くその内の一つは、先ほど左翼方向へと移動を開始した帝国軍DQのものに違いなかったが、その敵影へと向けて、猛然と襲い掛かるように突進する二機のDQは、どうやら帝国軍の増援部隊では無かったようだ。


マースが何やら苛立いらだちを隠せない表情をかもし出し、対岸の森の奥深くへと視線を投げかけると、次の瞬間、急激にその距離を縮めつつあった光点同士が、眩い閃光を吐き散らしながら、激しい銃撃戦を繰り広げ始めた。


そう。この時対岸の高台付近へと姿を現した二機のDQの正体は、先ほど二股河川中州付近から一気に緩斜面を駆け上がっていった、フロア隊のセニフとジョハダルである。


彼女達はFTPフィールドを展開する事により、出来るだけ自機の行動を隠匿いんとくして、この高台付近へと突き進んできたつもりだったが、パレ・ロワイヤルミサイル基地周辺に張り巡らせた有線索敵網によって、事前にその存在を検知されてしまっており、完全なる不意打ちを披露ひろうするまでには至らなかったようだ。


しかし、今だ前線付近での戦力が整いきらない帝国軍防衛守備隊側が、この姿をかき消したフロア隊に対応する為に宛がえた兵力は、先ほど左翼方向へと移動を開始したDQ一機のみであり、崖下への進攻を匂わせていたキャリオン隊の存在によって、それ以上南方高台付近への砲撃手を減らす事が出来なかったのだ。


(マース)

「折角の獲物を美味しい所だけ横取りかよ!!汚ぇぞ!!ジョハダル!!」


深い谷川で隔てられた対岸を見据えつつ、相手に届くはずも無い毒付きを吐き散らして見せたマースだったが、それは極めて自軍優勢にある戦場において、戦況の成り行きを遠目から見守る事しか出来ないと言う、自身の歯痒はがゆい立場に対してのものだったのかもしれない。


ドッゴーーーン!!


ドッゴーーーン!!


やがて程無くして、左翼方面へと展開した帝国軍DQが、襲い掛かったフロア隊のメンバー達によって、あっさりと敗れ去った事を示す爆発音が奏で上げられると、その直後、マースが居た場所から直ぐ真下に当たる谷川付近でも同様に大きな爆発が発生する。


これは勿論、二股河川下流部で狙撃体勢を整えていたフロルによって導き出されたものであり、彼女は北側高台付近で銃撃戦が開始されたタイミングに合わせて、十分に狙いを定めた弾丸を発射すると、見事、崖下に存在する固定式対空砲台の本体を一撃で射抜く事に成功したのだった。


そして更に、一機目の敵DQを撃破したフロア隊のメンバー達は、すぐさま北側高台中央部へと躍り出ると、少しも攻撃の手を緩める事無く、崖際に陣取っていた残る二機の帝国軍DQの背後を一気におびやかし始める。


すると、そのフロア隊の放つ攻撃的圧力が呼び水となり、不意に安易な隙を生み出してしまった帝国軍DQの一方が、射撃を得意とするウララの銃撃によって、後部テスラポットを射抜かれる事となってしまった。


ドッゴーーーン!!


(ウララ)

「やったぁー!!もう一機いただきっと!!」


この時、三つ目の爆発の苗床なえどことして朽ち果てる事になった帝国軍DQは、先ほど崖下へと転がり落ちた仲間と同じ末路を辿る事は無かったが、真っ赤に燃え盛る炎の渦を立ち上らて、薄暗い密林を照らし出すその姿は、残された最後の帝国軍兵士の末路を如実に映し出しているかの様にも見えた。


やがて、もはや自らの運命を悟るかの様に、無謀な反撃へと転じた最後の帝国軍DQは、猛然と迫り来るセニフ機の銃撃によってその動きを完全に封じ込まれると、最終的に彼女の背後から追走して来たジョハダルによって、最後の止めとなる一撃を見舞われる事となる。


そして、瞬間的に炸裂した閃光を持って、吐き散らされた断末魔が周囲に木霊すると、ようやく北方崖上高台を巡る一連の戦闘に、終焉を告げたのだった。


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