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Loyal Tomboy  作者: EN
第六話「死に化粧」
118/245

06-23:○パレ・ロワイヤル攻略作戦[5]

ブロホン・ツィー・ゲルンの型番が漏れてました。修正しておきます。

正「SNDf-X01」

誤「SNDf」

第六話:「死に化粧」

section23「パレ・ロワイヤル攻略作戦」


黒塗りの静かな闇夜の中に、大筆で一気に殴り描いたかの様に赤墨あかすみが放たれると、無慈悲な陽光に照らし出された、鬼気白濁ききはくだくとした世界が浮かび上がる。


そして、鬱蒼うっそうと生い茂る木々達を背景に、せわしく躍動する無数の影絵が幾重いくえにも折り重なり、人々の奏で上げる悲痛な慟哭どうこく如実にょじつに映し出すと、そこはまさに煉獄れんごくの淵たる悪夢のような情景をかもし出し始めた。


激しくのた打ち回る地獄の業火にき付けられ、勢い良く吹き荒れる黒煙と白煙とが、朽ち果てるまで止める事を許されない「死の舞ラストダンス」を踊り始めると、周囲で慌てふためく人々の思いが、一つ、また一つと、容赦なく虚空こくうの彼方へと誘われていく。


そう。それはまるで、決してあらがう事の出来ない、神々の咆哮ほうこうによって、儚くも簡単にかき消されて行くかの様だった。


(バニッシュ)

「一体何をしておるのか!!直ちにライパネル隊を展開して応戦させろ!!基地対空砲火塔も全門解放して上空からの爆撃を牽制するんだ!!貴様等が日々過酷な訓練にいそしんで来たのは、何たる為だと思っている!!もっとシャキシャキと行動せんか!!馬鹿者!!」


(通信兵A)

「バニッシュ中佐!!スパイダネット前面部に敵影を確認!!移動速度から判断して、敵DQ部隊と推測されます!!」


(バニッシュ)

「基地内に残る戦車部隊を全て出撃させ、3番、5番ルートに防御陣を構築させろ!!南方エリアを哨戒中のDQ部隊各機には、後続部隊が到着するまでの間、敵DQ部隊の北上を阻止するようにと伝えよ!!」


(通信兵A)

「了解!!」


しかし、そんな殺伐とした砲煙弾雨ほうえんだんうの只中に曝されながらも、必死に自身の運命を切り開こうと、力強い怒声を放って周囲の兵士達を鼓舞こぶする男が一人。


激しい震動とうなるような轟音とが響き渡るパレ・ロワイヤル基地司令室内で、兵士達の焦りや不安と言った悲観的思考を少しでも拭い去ろうと、平常時通りの厳格な態度を持って対応にあたっていた。


カノンズル山南東部麓の強固な岩盤をくり貫いて建築されたパレ・ロワイヤル基地は、上空からの爆撃程度で容易に陥落してしまうものではなかったが、それでも司令室内の戦術モニター上に映し出された外界の様相は、兵士達の意識を恐怖のどん底におとしめるに十分な驚異的凄惨せいさんさを描き出していた。


(バニッシュ)

「オクラホマ基地からの返信はまだ無いのか!?」


(通信兵B)

「駄目です!!現在オクラホマ基地との連絡が全く取れません!!これが敵の通信妨害行為によるものかどうか、容易に判断できませんが、オクラホマ地方に存在する全ての軍事基地において、通信アクセスが拒絶されています!!」


(バニッシュ)

「ちっ!!オクラホマ基地の連中は一体何を考えているんだ!!このままでは1時間も経たない内に、パレ・ロワイヤル基地は陥落してしまうぞ!!ゴエップ!!ランズメアリー基地を経由して、トポリ要塞のエルポドス将軍に連絡を付けろ!!大至急増援を請うとな!!もし通信機器にオクラホマ基地と同様の現象が生じたら、直ぐに緊急連絡用ミサイルを発射しろ。」


(ゴエップ)

「了解しました!!」


(バニッシュ)

「それと、万が一の事態に備えて、いつでも基地の全データを消去できるよう準備を整えておけ!!急げよ!!」


(ゴエップ)

「はい!!」


パレ・ロワイヤル基地司令室内の指揮卓を完全に放り出し、巨大な戦術モニターの目の前に仁王立ちで陣取ったバニッシュは、そう言って信頼の置ける部下の一人に新たなる指示を飛ばすと、苛立いらだちを隠せない様子で、ゆっくりと両腕を組んだ。


そして、目の前に映し出されたナルタリア湖周辺部の惨劇へと再び視線を移すと、彼は脳裏を過ぎった最悪の事態を想定し、自らの豪胆でいて積極性に飛んだその性格を無為に廃してまでも、悲観的指示を付け加えざるを得なかった。


彼の名前は「バニッシュ・イドリー」。


このパレ・ロワイヤルミサイル基地駐留軍地上部隊の総隊長を勤める帝国軍中佐である。


彼はそれほど屈強な体躯を持ち合わせてはおらず、自身の戦闘能力もそれほど秀でたものを有して居なかったが、中の上程の背丈に厳格さをかもしし出す顔付きが特徴的な人物であり、その高い統率能力を買われてこの基地に赴任してきた有能な指揮官であった。


勿論、彼が口先だけの男では無い事は、彼の従える部下達が一番良く知っている事であり、常時投げつけられる荒々しい彼の叱咤しったに対しても、部下達が強い不満を抱き持つような事はほとんど無かった。


(セラフィ)

「バニッシュ。バニッシュー。聞こえるー?ナコレアフ司令官が逃げ出す・・・じゃなかった。後方基地まで後退されるみたいだから、第ニ滑走路周辺の警戒警備よろしくー。僕は適当に交戦したらトポリ要塞に帰るからさー。後は頑張ってくれよなー。」


しかし、それは彼の支配下にあって、彼の良さを知る、彼の部下に限って言えばの話であり、この時、不意にバニッシュが装着するヘッドホンへと直接送り届けられた男の声は、決して彼を尊敬したり、うやまったりするような感情は一切込められてはいなかった。


(バニッシュ)

「セラフィか!?何を言っているんだ!?既にナコレアフ司令官からは、パレ・ロワイヤル基地を絶対死守せよとの厳命が下されたばかりなんだぞ!!直ちにDQ部隊を率いて敵部隊の迎撃に向かわんか!!敵部隊はもう直ぐ目と鼻の先まで迫っているんだぞ!!」


(セラフィ)

「えーっ。それはちょっと中々に面倒くさい要求じゃないかー。僕は単にちょっとだけ、ここにお使いに来ただけだって言うのにさー。お菓子ぐらいゆっくり食べさせてくれたっていいじゃないのー。ねぇー?大体、パレ・ロワイヤル基地防衛任務は、僕の仕事じゃないしねー。君には僕に命令できる権限が無いはずなんだけどなぁー。」


(バニッシュ)

「くっ・・・。」


のらりくらりとした軟調な言葉遣いに加え、帝国軍階級においても、年齢においても目上の立場にあるはずのバニッシュに対し、完全に人を食ったような態度でタメ口を吐き付けるこの男は、「セラフィ・オム」と言う名のストラントーゼ軍麾下きかの兵士である。


勿論、帝国軍所属の兵士たる者、所属する軍団の如何を問わずして、帝国軍階級における上下関係は絶対的なものであるべきなのだが、この時、このセラフィの発した侮蔑的ぶべつてき発言に対して、吐き出そうとした言葉を無理やりじ込んで見せたバニッシュは、あからさまに怒りを押し殺したような表情で、目の前の通信機を思いっきり蹴飛ばした。


と言うのも、このセラフィと言う男の所属する部隊は、非常に秘匿性ひとくせいの高いストラントーゼ公爵家直属の特殊部隊であり、バニッシュはおろか、特に階級の高い将軍クラスの人間であっても、容易にその行動を縛り付ける事が出来ないと噂される特別な集団だったのだ。



ストラントーゼ軍第403部隊「エイリアンホース」。



それは、帝国皇帝陛下を絶対的君主としてあおぐ帝国国内にありながらも、完全に帝国正規軍から逸脱した行動を暗に許された正規的非合法組織であり、ストラントーゼ公爵の命令にのみ付き従う、完全なる私兵集団とまで揶揄やゆされし精鋭部隊である。


本来であれば、彼等のような存在は、完全に隠匿いんとくされた影の組織として、表舞台に立つ事を禁じられているケースが多く、決して無為に公の場に姿を曝け出すような真似はしないのだが、殊更ことさら帝国内において絶大な権力を有する貴族に至っては、その存在自体が帝国中に知れ渡っている例は少なくない。


それは、長年の間、帝国貴族達の間に蔓延はびこる、疑心暗鬼ぎしんあんきの成れの果てとも言え、絶大な影響力を有した第十三代皇帝ソヴェールの力を持ってしても、廃する事の出来なかった悪しき風習の一つであった。


とどのつまり彼等は、帝国貴族達の力の象徴たる存在に成り代わるものであり、非公認ながらも周囲に認められた黒い力を有する事で、自らの持つ権力を高らかに誇示こじしているのだ。


勿論、このエイリアンホースのように、きっちりとした枠組みを持って、黒い集団である事を周囲に指し示す例も珍しいのだが、帝国内においてストラントーゼ公爵家の有する権力の強大さが、如何程のものなのかを窺い知る、良い証例である事は間違いなかった。



ドドーーーン!!


ドーーーン!!



やがて、再び地下司令室内まで響き届けられた大きな爆発音に、小さく舌打ちを吐きつけて見せたバニッシュは、全く不愉快なる感情を強く押し殺しながらも、通信マイクへと向き直り、パレ・ロワイヤル基地防衛部隊長としての責務へと舞い戻る。


(バニッシュ)

「グルーデン隊。スニキオ隊は、即座に南方哨戒部隊の援護に向かってくれ。ゲルティス。シニョール。オリビアの三人は第ニ滑走路の警備だ。セラフィ。せめて戦車部隊が防御陣を構築するまでの間、敵部隊の足止めを手伝ってくれないか?」


(セラフィ)

「しょうがないなぁーもう。わかったよぅー。これ食べ終わったらそのまま出撃してあげるよー。上官が無能だと、部下も大変だよねぇー。めげずに頑張るんだよー。バニッシュー。」


(バニッシュ)

「・・・・・・。済まない。頼んだぞ。」


時折、通信機を通して耳元へと届けられる、何かを食べるような物音が、更にバニッシュの苛立いらだたしさを激しく刺激するのだが、静かに両目を閉じて己の気持ちを落ち着ける様に溜め息を吐き出した彼は、穏やかな口調でセラフィにお礼の言葉を引き渡した。


これほどまでに礼儀知らずで、規律を軽んじる無法者でありながら、帝国内でも一、二を争う精鋭部隊に所属するこの男は、勿論、それなりに高い能力を有しているからなのだろうが、過去にちょっとした顔見知り程度の仲でしかなかったバニッシュには、全くそれが理解できなかった。



完全に覇気を欠いた穏やかな表情に加え、何処か陰気な人柄を匂わせる青み掛かったロングへアーが特徴的な彼の風貌は、その不摂生ふせっせいな生活ぶりを、そのまま体現するかのように、コロコロと良く肥えた脂肪に包まれている。


そして、人の苛立たしさを増長させるように繰り出される軟調な言葉遣いは、面倒臭がり屋な彼の性格そのものを指し示しており、どう贔屓目ひいきめに見ても、彼の姿に有能な軍人たる威風の片鱗を見出す事は出来なかった。


(セラフィ)

「さーてー。食べるもん食べたら出撃するよー。お二人さん。準備は良いかいー?」


リバリザイナ共和国軍戦闘爆撃機による、激しい空襲の惨禍さんかに見舞われながらも、搭乗するDQ「SNDf-X01ブロホン・ツィー・ゲルン」のコクピット内で、呑気のんきにお菓子を頬張ほうばっていたセラフィは、やがて食べ終えた菓子袋をコクピットシート裏へと放り投げると、なんとも無気力でやる気の無い声色を通信機内へと流し込んだ。


彼は今、パレ・ロワイヤル基地の巨大な兵器格納庫内で、新しく受領した新型DQの初期設定作業を行っていた最中であり、直ぐに出撃できるような体勢には無かったのだが、珍しくやる気満々でバイザー稼動式ゴーグルを装着すると、すぐさまシステムの立ち上げ作業へと移行した。


この時既に、彼の取り扱う機器の多くが、先ほどまで彼が食していたお菓子の油でギトギトに塗れ、おろしたてのはずの綺麗なコクピット内部は、完全に不清潔な食べ物の匂いで制圧されてしまっていたが、ズボラな性格を持つ彼の意識は、そんな事を少しも気にする素振りを見せなかった。


(アレナルティカ)

「えーっ!?このままトポリ要塞まで帰るんじゃなかったの!?私、嫌だよそんな面倒臭い事。セラフィの御守おもりなんて疲れるだけだしさ。あんた一人で行ってきなさいよ。あんたなら一人でも大丈夫でしょ。ねぇ。バルベス。」


(バルベス)

「期待した予想が外れて、鬱積うっせきしたフラストレーションを解消したい気持ちも解るが、フェザンからは直ぐ戻って来るように指示があったんだろ?余り好き放題ばかりやらかしていると、幾ら大人しいフェザンでも、頭に角を生やしてしまうぞ。」


しかし、そんなセラフィの珍しくも意気込んだ思いに反し、彼の部下たる二人の男女から返された返答は、初っ端からそれをくじく冷たい叛意はんいを込めた言葉だった。


セラフィが搭乗するブロホン・ツィー・ゲルンの足元付近にたむろしていた二人は、既に受領した三機の新型機の内、自分達が担当すべき機体の初期設定作業を終え、後は小隊長たるセラフィの設定作業完了を待つばかりと言う状態で、のんびりと珈琲コーヒーを飲んでいた。



ボロボロに擦り切れたGパンに、真っ赤なタンクトップ1枚だけと言う、扇情的せんじょうてきな風貌で巨大格納庫内を練り歩くこの女性は、「アレナルティカ・ユーラシ」と言う27歳の綺麗な金髪女性であり、旋毛付近で結え上げた可愛らしいポニーテールが特徴的な人物だ。


彼女は思った事を直ぐに口に出してしまうと言う、始末の悪い性格の持ち主ではあったが、とても明るく元気な雰囲気をかもしし出す陽気な女性で、どちらかと言えば人懐っこいタイプの人間である。


勿論、彼女の持つその雰囲気自体が、帝国軍兵士たらぬ印象を周囲に与えてしまう感は否めず、彼女もまた、セラフィ同様、規律正しい帝国軍内部においては、少し浮いた存在として扱われ気味だった。



一方、大柄でがっしりとした体格の、如何にも軍人らしい威風をまとう人物の方は、「バルベス・ハッシュ」と言う名の野性味溢れる32歳の男性だ。


色濃く門型にたずさえた口髭と、覇気に溢れた太い眉毛が特徴的な彼は、その見た目同様、力作業には何ら不安のない力強い豪力ごうりょくの持ち主であり、特殊歩兵部隊で鍛え上げたと言うその白兵戦能力も、非常に高い技術を有していた。


しかしその反面、彼の性格はとても穏やかで繊細な部分があり、決して戦闘員たる気質に恵まれていたとは言い難いのだが、それでも彼の能力を生かすには、DQパイロットではない方が良いとの風評が一般的であった。


(セラフィ)

「僕もねー。面倒臭い事は嫌いなんだけどさー。バニッシュとは少し付き合いがあってさー。頼むようー。ちょっとだけ手伝いをしてくるだけだからさー。ほーらー。アレナちゃん。帰ったら美味しいチョコパフェおごってあげるからさー。いいだろうー?」


(アレナルティカ)

「この私を甘い物で釣り上げようなんて、ほんっと甘い甘い。私ね。このティーゲルって機体、大っ嫌いなの。私、いーかないっと。」


(セラフィ)

「ええー。・・・うんむぅー。」


(バルベス)

「ちゃんと整備が完了していない機体で出撃するなんて、とても俺にはできないな。俺はセラフィみたいに自分一人で何でも出来る人間じゃないし、整備不良で戦闘中に立ち往生するなんてごめんだしな。今回俺は不参加と言う事にしておくよ。」


(セラフィ)

「ううー。・・・うんむぅー。」


セラフィの提案に全く乗り気でない二人の部下達を目の前にして、まるで駄々をねる子供のようなうなり声を発して見せた彼は、もはや短時間の内に自分専用機へと成り下がってしまった新型機のコクピット内で、少しくれた様な表情をかもし出して、コクピットシートへともたれ掛かった。


彼は地位的に、この二人の上官と言う立場にあるはずなのだが、その幼稚染みた行動や言動から、しばし部下達からは軽く扱われ気味である。


勿論、彼自身が有する技術の高さを良く知っていた二人は、心の底からあからさまにこのセラフィを卑下ひげしようとは思っていないのだが、彼が見せる幼稚な反応にも、少なからずそれを増長させてしまう原因があり、この表層的下克上状態に歯止めが掛かる雰囲気は、ほぼ皆無であると言えた。


やがて、少しだけ「仕方が無いな」と言うような表情で溜め息を吐き出したセラフィは、ブロホン・ツィー・ゲルンのシステム各種設定ウィンドウを複数同時に機動させると、再び通信マイクを通して、パレ・ロワイヤル基地の防衛部隊長を呼び出した。


(セラフィ)

「バニッシュ。バニッシュー。パレ・ロワイヤル基地防衛システムの暗号キーを教えてよー。ティーゲルのメインシステムとリンクさせるからさー。」


(バニッシュ)

「管理者権限レベルEまでなら開放してやる。ただし、高フィールド防壁下だと、五秒ディレイアウトプットしか出ないぞ。それでもいいのか?」


(セラフィ)

「十分。十分だよー。暗号キーの転送よろし・・・ゲフッ。」


その後セニフィは、この基地内において、唯一好意的態度を持って接してくれたバニッシュに対し、汚らしいゲップを添えてそう締めくくって見せると、すぐさまブロホン・ツィー・ゲルンの残りの機体設定作業へと取り掛かった。


彼はまず、コクピット前面に広がるTRPスクリーン全てを目一杯に使用し、代わる代わる凄い勢いで未設定項目を「完了」と言う二文字で埋め尽くしていくと、直ぐにDQの火器管制システムの調整作業へと移行する。


そして、先ほどバニッシュに対して出した注文の品が、軽く奏で上げられた機械音と共に届けられた事を確認すると、直ぐに左右両手に別々の作業を課して、基地防衛システムとのリンク作業をも開始した。


この時、彼が垣間見せた高い情報処理能力は、それを専門として取り扱う技術者達と言えど、容易に到達できる領域レベルにはなく、まさに生けるコンピューターたる正確な振る舞いを見せ付けているかの様でもあった。


(セラフィ)

「あんらー?スパイダネット前面に識別不能機の反応が六つかー。哨戒機は全滅しちゃったのかなぁー?・・・っと、まだちょっとは残ってるかー。えっとー。防衛システムの稼働率は76%でー、フェイタルラインはまだ問題なしとー。ふむふむー。まっ。使い物にならなくなった時点で、僕の仕事は終わりだけどねー。・・・ゲフッ。」


やがて、ブロホン・ツィー・ゲルンの設定作業を続けながらも、逐次送信されてくるパレ・ロワイヤル基地周辺部の戦況に、チラチラと視線を宛がっていたセラフィは、ブツブツと念仏の様に軽快な独り言を奏で出しては、最後に大きなゲップで言葉を締めくくる。


この男。


食後のゲップは一度繰り出すと、しばらくは止まらないと言う得意体質の持ち主だ。


(アレナルティカ)

「やっぱり行くんだね。セラフィ。見かけによらず、あんたも結構物好きなのね。」


(セラフィ)

「えー?それは中々に心外だなぁー。僕だって必死に頑張っている友人の為に、戦ってあげたいと思っているんだよぅー。こんな僕の暖かい思いやりが理解できないなんて、案外二人共冷たい人間なんだねー。」


(アレナルティカ)

「あーあ。明日雨降らなきゃいいわね。この時期の雨って言ったら、鬱陶うっとうしくて嫌んなっちゃうし。」


(バルベス)

「セラフィ。行く行かないは、お前の判断を尊重するが、憂さ晴らしで死ぬ事ほど馬鹿な事はないぞ。俺達は北上してポイントP52-11付近に待機しておくから、なるべく早く追いついて来い。」


(アレナルティカ)

「そうそう。1時間待ってもこなかったら、直ぐに置いてっちゃうからね。忘れないでよ。」


(セラフィ)

「解ったようー。もう冷たいなぁー。」


ふっくらと膨らんだ頬を更に膨らませるようにして、そう不快感をあらわにして見せたセラフィは、程無くして完了を迎えた設定作業から、一気にブロホン・ツィー・ゲルンの機体を戦闘モードに切り替えると、柔らかな足踏み操作で機体をゆっくりと動かし始める。


この巨大格納庫内に色栄えする黄土色おうどいろを基調とした、ブロホン・ツィー・ゲルンの機体は、胴体腹部を完全に貫通するように取り付けられた「180mmナルセスキャノン砲」が特徴的な機体であり、長距離射程からの狙撃戦闘を目的として開発された機体である。


勿論、これだけの巨砲を担ぎ上げて移動するともなれば、最新型の機体と言えど、それなりの機動性しか有していない事は明らかであったが、強固な前面装甲に加えて強力な火力を有するこの新型機に、セラフィは自らの能力の相性の良さを感じていた。


(セラフィ)

「さーてー。それじゃ行ってくるよんー。二人ともちゃんと待っててよねー。・・・ゲフッ。」


やがて、巨大格納庫の分厚い防護シャッターを潜り抜けて、ブロホン・ツィー・ゲルンの機体を薄暗い森の中へと運び出したセラフィは、倉庫内で見送る二人の部下達に向かって、耳障りな出発の挨拶を投げかけると、搭乗する機体の動力部出力を最大限まで引き上げる。


そして、甲高く音階を一気に駆け上がるヒート音を持ってして、後部バーニヤ部に真っ赤な炎の渦をたぎらせると、次の瞬間、強烈な噴射の勢いに後押しされた黄土色のDQは、真っ暗な密林地帯の南側に向かって、姿をかき消して行った。


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