06-22:○パレ・ロワイヤル攻略作戦[4]
第六話:「死に化粧」
section22「パレ・ロワイヤル攻略作戦」
(フロル)
「なんだなんだセニフ?歯切れの悪い返事だな。まだなんか納得いかないのか?」
(セニフ)
「あ・・・。いや。別にそう言う訳じゃ・・・。」
(ジョハダル)
「セニフ。正しい答えがはっきりとしない不安定な世界で、無理やり答えを見出せと言う方が理不尽なのかもしれんが、これでも俺はお前より実戦経験が多いんだ。少しは俺の考えを含み持つ意思を見せても良いと思うんだがな。勿論俺は、結果的に三機の敵DQを撃破するに至ったお前の判断を、頭ごなしに否定するつもりはないし、お前の言う事にも一理あると思っている。ただ、たった一人の狭い視野の中で下された判断と言うのは、時として周囲の状況を見落とす危険性があるし、次も同じように上手く事が運ぶとは限らないんだ。解るよな。」
(セニフ)
「・・・うん。・・・それは解ってる。」
(ジョハダル)
「素直でよろしい。俺もまあ、パレ・ロワイヤルミサイル基地を、出来るだけ早く攻略したいと言う、お前の気持ちが全く解らない訳じゃないし、仲間想いの健気なお前の為に、少しは協力してやりたいと思っているのさ。だからもう少し、俺の事を信用してくれてもいいぞ。」
(セニフ)
「えっ?」
(フロル)
「えっ?じゃないよ全くこの子は。さっき作戦開始前にさ、整備班のサフォークって奴が、お前の暴走を気にかけて、私達に注意するよう忠告してきたんだよ。アリミアの為に戦いたいって思うお前の気持ちも解るが、お前一人でどうこう出来る問題じゃないだろ?私も彼女とはディップ・メイサ作戦の時、同じ小隊メンバーとして一緒に戦った仲だし、彼女の事を心配して、彼女の為に戦いたいって思っているのは、私だって同じなんだ。お前はそんな私や他の皆の思いを完全に無視してまで、自分一人で勝手に突っ走ろうって言うのか?」
(セニフ)
「あ・・・。いや・・・。」
セニフはこの時、完全に返す言葉に窮しながらも、何処か心の奥底に溜まった真っ黒な靄を、一気に吹き飛ばしてしまう程の強い風が吹き荒れたのを感じた。
そっか・・・。そうなんだ・・・。
アリミアの事を心配しているのは、何も私だけじゃない。
それは解っていた。それは解っていたんだけど、でも、誰しもが生き延びる事に必死な戦場の中で、与えられた作戦目標に以外に、パレ・ロワイヤルミサイル基地を攻略すると言う目標以外に、アリミアの事を気にかけながら、戦っている人が居るなんて、思っていなかった・・・。
だから私は、だからこそ私は、たった一人でも、アリミアの為に、出来るだけ早く、このパレ・ロワイヤルミサイル基地を攻略できるよう、頑張って戦って行くつもりだった。
私一人だけでも、頑張れば頑張った分だけ、アリミアの生き延びる可能性が高くなるんだって、・・・そう思って。
セニフは少し、熱くなった目頭を素早い瞬きで誤魔化して見せると、直ぐに二人の優しき思いに答えるよう、必死に言葉を振り絞った。
(セニフ)
「ううん。・・・ごめん。私さ・・・。やっぱ、私一人じゃさ。やっぱ・・・。どうする事も出来ない・・・。出来ないし・・・。えっと、私・・・。二人の力をさ・・・。二人の力を借りたい。お願い!二人の力を貸してっ!」
(フロル)
「おいおい。泣くなよセニフ。これから頑張って戦って行かなきゃならないんだろ?幾ら私とジョハダルが加わったからと言って、直ぐに何とかなるもんでも無いだろうけどさ。出来るだけ私も頑張って戦うからさ。セニフ。ほら、泣いてちゃ駄目だろう?」
(セニフ)
「・・・。・・・うん。」
(ジョハダル)
「セニフ。俺達三人に出来る事は、大局に対して微々たるもんだが、決して無駄な行為なんかじゃない。俺達には俺達にしか出来ない役割があり、それを必死にこなす事で、最終的に得られる成果を、より大きなものへと変える事だって出来る。自分に出来ない役割はそれを出来る仲間達に全部任せて、俺達は俺達にしか出来ない役割を、最大限努力してこなして行こうぜ。」
(セニフ)
「うん。」
確かにジョハダルが言う通り、私に出来る事は、本当に微々たるものなのかもしれない。
でも、それでも、私一人じゃ、どうにもならない事だって、皆の力を合わせれば、きっと・・・。きっと・・・。
セニフは頬を伝い落ちる涙の中に、それまで心の周りを囲っていた、忌まわしき黒い靄を溶け込ませると、すっきりと洗い流された曇りない視野の先に、ようやく見据えるべき暗夜の灯を見つけた。
そして、ゆっくりと涙を拭い去り、優しくそっと胸の内ポケット付近に左手を宛がうと、彼女は再び心の中に強い意志を込めて「うん」と頷いて見せた。
やがて、朽ち果てたポールポンドの機体を苗床に、真っ赤な火柱を立ち昇らせていた炎の光も下火へと回り、セニフ機のFEチャージ処理が完了する頃には、周囲の木々達もようやく普段通りの静けさを取り戻し始めていたが、次第に暗闇の中へと取り込まれようとしていた彼女達の元に、再び新たなる騒乱の呼び水となる続報が届けられたのはそんな時だった。
大量の阻害粒子がばら撒かれた高濃度フィールド防壁下において、その機能を半分程度にまで制限されていた彼女達のサーチレーダー上の辺に、突然、複数の光点が浮かび上がった。
勿論、トゥマルクに搭載されたサーチシステム程度では、即座にこの反応の正体を突き止める事が出来なかったのだが、識別不能を指し示す黄色い光によって示されていたその反応を見つけるや否や、思わず大声を張り上げてしまったフロルには、既にそれが、何れの陣営に属するものなのか、解っていたようだった。
(フロル)
「おおっ!来た!来たぞ!ほらほら!見なよセニフ!頼りになる援軍様のご到着だぞ!」
(セニフ)
「え・・・?えっと・・・、これって友軍機だよね。」
(フロル)
「当たり前だろ。帝国軍の航空部隊が、態々遠回りして私達の背後から飛んで来ると思うか?きっとお前の強い願いに釣られて、皆集まって来てくれたんだぜ。」
(セニフ)
「ええっ?・・・それはちょっと、飛躍しすぎかな・・・。」
(フロル)
「いいのいいの。そう思っときなって。」
それは4つの光点で構成される一つの鏃を、更に一つの頂点と見立てて組み上げられた、綺麗なダイアモンド型を成す集団であり、彼女達にとっては非常に頼もしい援軍の到着を意味するものであった。
不意にサーチレーダー上の最南端付近へと姿を現したその反応は、つい先日トゥアム共和国と同盟条約を正式に締結した、西方隣国リバルザイナ共和国軍所属の航空支援部隊を示すものであり、全く地形的制約を無視した進行速度で北上を開始すると、瞬く間にセニフ達の頭上を飛び越えて行った。
(ジョハダル)
「ほう。凄いな。まさかリバルザイナ共和国軍が、ヘルコンドルを16機も投入してくるとは思わなかったぜ。これは思った以上に楽な展開が期待できるかもしれんな。まあ、更に贅沢を言えば、このまま帝国軍防衛守備隊を、上空から狙い撃ちにでもしてくれれば、何も言う事は無いんだがな。」
綺麗な隊列を組んで飛び去って行く、総数16機もの飛行中隊の動きを見据え、容易にその機種を判別して見せたジョハダルが、少しだけ欲深な展望を吐き出してみせる。
このリバルザイナ共和国の万能型戦闘爆撃機「GR-309bヘルコンドル」は、防空戦闘機並みの対空戦闘能力に加え、精度の高い対地攻撃能力をも兼ね揃えた機種であり、昼夜を問わず高い戦果を期待できることから、まさに戦場における空の支配者たる威風を感じさせるものだ。
勿論、帝国軍防衛守備隊の正確な布陣を特定する事が出来ていない現状に加え、高濃度フィールドに覆われた地表付近に、精度の高い対地攻撃を加える事は決して容易な事では無く、先程彼の発した言葉は、希望的観測による他愛の無い願望にしか過ぎないものだった。
しかしこの時、彼等の頭上を飛び越えて行った飛行中隊が、まるで大空に羽ばたく怪鳥の様に大きく翼を広げて見せると、その内最後尾に位置した4機のヘルコンドルが、自然の摂理に従って急激な降下を開始する。
そして、その奏で出す轟音と共に地表付近目掛けて、鋭い4本の光の雷矢を突き立てると、一斉に蜘蛛の子を散らすように急旋回し、再び綺麗な夜空へと舞い上がって行った。
ズッゴーーーーン!!!!!
すると次の瞬間、セニフ達の目指すカノンズル山麓付近へと舞い降りた光の筋が、猛烈な爆音と地響きを伴う大爆発を呼び覚ますと、ナルタリア湖周辺部一帯を照らし出す程の巨大な火柱を立ち上らせた。
(ジョハダル)
「なっ・・・!!・・・なにっ!?」
(フロル)
「げげっ!!」
(セニフ)
「う・・・。ぁぁ・・・。」
それはまるで天にも昇る勢いで打ち上げられた、巨大火山の噴火を連想させる程の恐ろしい大爆発であり、真っ暗な闇夜に包み込まれていた密林地帯を一気に真昼の世界へと誘う、驚天動地の大魔法の様でもあった。
この時、戦場における優位性を、著しく高めてくれるであろう頼もしき友軍の到着に、心浮き立つ気持ちで歓迎の意を示していた三人だが、突然目の前に曝された強烈な爆撃に対し、多少なりとも強い恐怖心を煽り立てられ、三者三様の驚愕の声色を持ってして、間抜けなアンサンブルを奏で上げてしまった。
(フロル)
「な・・・何だあれっ!?リバルザイナの新兵器なのか!?」
(ジョハダル)
「いや・・・。戦闘爆撃機程度の攻撃で、あれだけの破壊力を生み出すのは不可能だ。これはひょっとして・・・。」
(フロル)
「ああっ!!司令部からの作戦変更指示だ!!作戦プランCに変更!!・・・パレ・ロワイヤルミサイル基地の詳細情報付きだぞ!!」
次の瞬間、彼女達の後方より接近した非攻撃的飛行物体が、乾いた音を周囲に響かせながら一気に頭上を駆け抜けると、彼女達のDQシステムに登録されている作戦プラン情報を、素早く書き換えた事を知らせる注意喚起シグナルを発動させた。
それは予め作成された主要な作戦概要に対し、新たに判明した断片的な情報を塗した大雑把なものであったのだが、高濃度フィールド防壁下と言う、一寸先も見えぬ戦場に投入された彼女達にとっては、十分すぎる程の効果的情報であった事は間違いなかった。
そして、彼女達に新たに与えられる事になったこの作戦プランCとは、当作戦における最も楽観的な展開を見越して作成されたプランであり、パレ・ロワイヤルミサイル基地の詳細情報を入手出来ている事を前提としている他、ナルタリア湖周辺部に設置されたミサイル発射台の詳細位置までを特定できている事が、発動の絶対条件と定められていたものだ。
言うまでも無くそれは、オクラホマ都市へと潜入した諜報部工作員の破壊工作任務が、全て滞りなく成功を収めた時のみ発動される作戦プランであり、勿論、この作戦プランが採用される事を願って作成されたに違いないが、それでも、ほとんど利用される可能性の薄いものとして、軍上層部からは完全に愚弄されてきた代物であった。
(ジョハダル)
「ミサイル発射台への攻撃はヘルコンドルの対地爆撃と、リプトンサムの支援砲撃に一任する・・・か。とすると、さっきの爆発はミサイル貯蔵庫に対する、ピンポイント爆撃だったと言うことだな。ヘルコンドルに搭載できる空対地ミサイル程度で、良く地下弾薬貯蔵庫までの装甲をぶち抜けたもんだ。」
(フロル)
「ミサイル発射台の位置が特定できたにも関わらず、今だ軍上層部がパレ・ロワイヤルミサイル基地占領に固執するのは、もしかして、入手した情報にそれほど大きな信頼を寄せていないって事なのか?」
(ジョハダル)
「その辺の詳しい経緯までは良く解らんが、軍上層部が作戦プランCを選択した事から考えても、入手した情報には、それなりの信憑性が有ったと見て良いだろう。まあ、さすがに敵防衛守備隊の最新情報までは含まれていないようだが、ナルタリア湖周辺部の地雷原敷設場所と、野戦砲台設置位置に加えて、基地有線索敵エリアまで特定してくれたんだ。諜報部にしては出来すぎた成果と言うべきだな。尤も、大幅に負荷が軽減されたとは言え、俺達が帝国軍防衛守備隊を、相手にしなければならない事に変わりは無い。二人とも、攻撃パターンは当初の予定通りで行くぞ。」
(フロル)
「了解。」
(セニフ)
「・・・。」
この時、耳元のヘルメットスピーカーから聞こえ来る仲間達の声色に、何ら少しも反応を示す事の無かったセニフは、森の分厚い枝葉の隙間から見え隠れする、真っ赤な火柱を見上げると、黒い煙を渦巻いて夜空へと溶け込んで行く情景に、しばし意識を囚われてしまっていた。
そして、遥か北の大地で必死に戦っているであろう友人の姿を、やがて浮かび上がった綺麗な星空のスクリーンに薄っすらと描き出しながら、今だ彼女が無事に居る事だけを切に願い、必死に祈りを捧げながら、彼女は静かに、小さく彼女の名前を呟いた。
アリミア・・・。
(フロル)
「ほーら。セニフ。折角アリミアがこれだけの成果を、私達に齎してくれたんだ。今度は私達がその成果に答えてやる番だろ。いつまでもボケッとしてたらダメだぞ。」
(セニフ)
「・・・あっ、うん!そうだね。ごめん。」
(ジョハダル)
「よーし。セニフ。FEチャージ処理は完了してるな。俺達はまず、パレ・ロワイヤル基地本部へと通ずる、進行ルートK02を目指して北上を開始する。道中、友軍の爆撃想定ポイントを迂回する必要が有るが、右辺から先行したキャリオン隊も、恐らくM04付近で地雷原の足止めを食っているはずだ。ここから一気に遅れを挽回するぞ。」
(フロル)
「了解。」
(セニフ)
「了解っ!」
小隊長であるジョハダルが発した新たなる指示に対し、ようやく普段通りの元気の良い返事を返して見せたセニフは、目の前で勢い良く後部バーニヤを吹き上がらせた二人のトゥマルクに続き、軽快な足取りでフットペダルを強く踏みしめた。
彼女の見据える視線の先には、もはや迷いとなる障壁は何も存在しない。
ただ彼女は、真っ直ぐに。自分の気持ちに正直で真っ直ぐに。
出口の見え始めた真っ暗な迷宮を、必死に駆け抜けて行くだけだった。
この時、ナルタリア湖周辺部で燻り続けていた濃密な破壊的呪力が、焚き付けられた1本の巨大な火柱によって一気に解き放たれると、まるで堰を切ったかのような勢いで、一方的な流れを形成し始める。
上空を旋回する狂暴な地獄の怪鳥が、更なる獲物を狙って再び急降下を開始すると、次の瞬間、遥か東方から放たれた十数本の弾道ミサイルが、まるで暴力的死神の鎌の軌跡を描き出すかのように、パレ・ロワイヤルミサイル基地へと降り注いだのだ。
この時点でもはや、パレ・ロワイヤルミサイル基地攻略作戦と命名された、この戦いの大局は決していたのかもしれない。
しかし、密林地帯の暗がりを全速力で突き進む彼女が、その最終的帰着点へと到達するのは、まだ少し先の話だった。